この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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今回はマイホームの相談回です。
動きはナッシングでございますので、何卒…

次回は、例の、夢のお店が出てきますから…!


三十三話 マイホーム実現に向けて

  地獄の公爵マクスウェルの帰還は、アルダープがひた隠しにしてきた不祥事の数々を、白日の下にさらけ出した。

  アルダープが不正に入手した金銭、財宝。女性を誘拐した際の証拠の隠滅及び女性の記憶改竄。元老院への賄賂、思想の操作。…挙げればきりがない。それでも、これらは長年に渡り領主が情報操作してきた事象の、ほんの一部に過ぎない。今まで叩いてもホコリさえ出てこなかったのは、マクスウェルの桁外れな事象改変力があったからだ。

 

『ほんっとに、やりたいことやってんなぁ…て感じだね!』

「悪徳領主アルダープ。前々から良い噂は聞きませんでしたが、ここまでだったとは驚きです」

 

  アルダープ追悼より数時間。

  すっかり夜の帳が降りたアクセル。酒豪達が活発な活動を始める時分に、球磨川達はギルドで遅い夕飯を摂っていた。

 

  メンバーは球磨川、めぐみん、ダクネス。ついでに、ゲスト出演のタダオさん。

 

  球磨川に続いためぐみんは、ネロイドで喉を潤してから

 

「それはそうと、我が物顔で私たちと相席しているこのオジさんは何方なのですか?」

 

  正体不明の不審人物。球磨川らのパーティーに紛れ込み、数日ぶりのシャワシャワを流し込んで上気する、無精髭の男を指差した。

 

  指をさされたタダオは、めぐみんの風貌から紅魔族と見極めて、尊大で壮大な自己紹介を実行することに。

 

「…コホン。我が名はエンドウ・タダオ!ブレンダン随一の建築家にして、空間を操りし者!」

 

  魔杖モーデュロルで青白い光を放ち、一層派手になるよう演出。

  これには紅魔族も度肝を抜かれた。

  冴えないおっさんが、英雄タディオだったこと。なによりも、素晴らしい自己紹介。神々しい輝きに包まれながらの名乗りは、嫉妬の炎で焼き尽くされそうなくらいに、カッコ良かった。ギルド内の冒険者各位は何事かと身構えたものの、球磨川らのテーブルが発信源だと知り、談笑に戻る。

 

「か、カッコいい…!」

 

  呆然と言葉を漏らしためぐみんの口からシャワシャワが一筋漏れ出るも、当人は気づいておらず。隣のダクネスが「やれやれ」とハンカチで拭いてあげた。

 

「カッコいいだろ?…アレは今から10年とか20年前だったかな。紅魔の里に短期滞在していたことがあるんだ、オレ。その時に会得した名乗りだよ、コレは」

 

  タダオの、殴りたくなる笑顔。勝ち誇ってシャワシャワの入ったグラスを空にさせ、ウェイトレスさんにおかわりを催促した。

 

「ほう?どうりで、中々の名乗りなわけです。本場仕込みでしたか」

「魔杖を使ってまでカッコつける必要はあるのだろうか?」

 

  名乗りに本場も何もあったものではないが。ダクネスはそんなことよりも神器の無駄使いが気にかかる様子。神々に与えられた品を、カッコいい演出に使うとは。減るもんじゃないとはいえ、いいのだろうか。

 

『タダオちゃんの隠された過去は、正直どうだっていいよ。君はこれから僕たちの出す条件を満たしたお家を建ててくれれば、それでオッケーさ!』

 

  グレート・チキンの照り焼きを頬張る球磨川。食事の手を止めることはしない臨時隣人を、タダオは半目で捉える。

 

「歯に衣着せねーな、オメーは。…でも、そういうこった。特別にオレ様が手ずから家を建ててやるんだ。遠慮なく希望を言ってくれ」

 

  冒険者としても建築家としても、【空間の魔術師】の二つ名をもつタダオに依頼すると、普通は何年か待ち。最悪、断られることもある。

  今回球磨川達がすんなりタダオに頼めたのは、何も日本人のよしみだけではない。

  タダオ監禁の際、マクスウェルがブレンダンの住民の記憶を操ったことで、どうしてか裏切り者扱いとなっていたタダオ。そのせいか、おかげか、タダオへの依頼は全てキャンセルがかかっていたのだ。

  久しぶりにアクセルへ来たタダオが、せっかくだしとアクセルの職人達へ挨拶しに行き、発覚した事実。

  タダオもショックを受けたが、マクスの力から解放された依頼主達も、我に返って猛省している頃合いだろう。

 

「うむ。私は自室を防音室にしてもらいたい。防振もあると嬉しいな。希望としてはそれだけだ」

 

  ダクネスからの提示。

 

「…お安い御用だ。オレの習得したスキルに、素材自体に防音機能を付け加えることが可能なやつがある。チョチョイのチョイだ」

『お、便利なスキルだ』

「そうだな。ベニヤ板でもトタンでも、なんでもござれよ」

 

  なんで防音室にしたいのか。そんな野暮なことを聞くほど、ここにいるメンバーは馬鹿じゃない。ダクネスと初対面に等しいタダオでも、アルダープ邸の牢屋で興奮しきっていた姿を見せられては把握するしかなく。

  理由を教えられても気まずくなるだけだと判断し、スルーしたのだが…

 

『んで、ダクネスちゃんはどうして防音室にしたいの?』

 

  【空気を読めない選手権】なんてものがあったならば、ダントツで優勝するだろう球磨川君は、知識欲を満たしたいが為、ズバッと切り込んだ。

 

「え!?そ、それはその。アレだ!女の子には色々あるんだ!」

 

  ボッ。と、ライターで着火されたかと思うくらい一瞬で顔を紅潮させたダクネス。防音にしたい理由など、ダクネスの性癖から考えれば予想できそうなもの。あえて答えさせようとした球磨川は、果たして天然なのか意地悪なのか。これにはめぐみんも同情して、フォローする。

 

「そう、そうなのです!色々あるんですよ女の子にはっ!ミソギには、もっと紳士になってもらいたいものです」

 

『そうなんだ。それならそうと、先に言ってくれよ!でないと、僕みたいな知りたがりは、失礼に当たるとはわからずに、ついつい失礼な質問をしちゃうんだから』

 

  先に説明しなかったダクネスに非があるような言い方。悪びれない球磨川に、めぐみんが謝罪の一つもさせようとしたところで。

 

『待てよ…?そうなると、めぐみんちゃんの部屋も防音にすべきじゃない?ボーイッシュとはいえ女の子にカテゴライズされるわけだし。防音室にする理由の、【色々ある】の【色々】がなんなのかはイマイチわからなかったけれど、めぐみんちゃんも【色々】とやらを防音室でやるんでしょ?女の子なんだからさっ』

「なっ!?」

 

  ダクネスを助けたことで、とばっちりを受けためぐみん。このままだとダクネス同様、防音室でしか出来ない【色々】をやっていることにされてしまう。球磨川が肝心の内容を察してない以上、気にしなければいいだけなのだが…どうにも受け入れ難い。

 

『女の子がする、防音室でしか出来ないことってなんなんだろう?やれやれ、気になって夜も眠れなさそうだ』

 

「普通に、楽器とか言えばいいのに…」

「「あー…」」

 

  タダオの助言は目から鱗。無難な答えでも、パニクると案外浮かばないもので。それでも、初手でダクネスが不用意な発言をしなければ、めぐみんなら思いついていたはずだ。

 

『そっかそっか。楽器なら防音が必須だね。ふーん、へぇー』

「そうなのだ!日中忙しければ、夜でも練習したいからな。ほら、同じ屋根の下で暮らすんだ。うるさくして、二人に迷惑はかけられないだろう?」

 

  楽器は、成る程お嬢様ならば嗜みかもしれない。球磨川はそれで納得してくれた。

 

『優しいな、ダクネスちゃんは。にしても、楽器やってたんだね。よければ、今度聞かせてちょうだい!』

「…ああ、もちろんだ!」

 

  なんとか誤魔化せた。機会があれば、幼い頃から習っている弦楽器でも聞かせてやればいい。

  ダクネスが安堵すると…

 

『…ん?あらら?』

「なんだ、まだなにかあるのか?」

『んーとさ、楽器の練習なら、何も防振まではいらないんじゃないかな?なーんて!』

 

  球磨川の追撃が。油断しきっていたダクネスは、考えもせずとっさに答えてしまう。

 

「えー…そうだ。楽器は楽器でも、打楽器だからなっ!!?……うん、打楽器だ!!」

『打楽器なんだ!?』

 

  自分の首を絞める結果となったダクネスさん。来たる演奏お披露目に備えて、これから少しずつ打楽器の練習をしていかなければ。めぐみんとタダオの生暖かい視線がとどめとなり、ダクネスは机に突っ伏してしまった。

 

「ふっふっふ。満を持して、我のターンですね」

 

  ダクネスの自爆劇場が終了すると、今度はめぐみんが希望を述べる。

 

「マイホームに求めるのは、ただ一つ。…屋内で爆裂魔法を放てるスペース、それだけですっ!!」

「ぶっ!?」

 

  クワッと目を開く爆裂娘。斜め上の条件に、タダオがネロイドを吹き出す。

 

『いやーん!タダオちゃん汚〜い!』

「だって!この、紅魔の子がっ!」

 

  家に求める条件ではない。

  せめて、庭だろう。屋内で放つ必要性が、タダオにはわからなかった。

 

「むう?我が望みを叶えられないと?金ならありますよ…?」

 

  右手でハットを摘んで、目が隠れるくらいまで下げためぐみんは、ゲスな笑顔を浮かべた。

 

「いやいや、金の問題っつーか…」

『めぐみんちゃんのお金、ヒヒイロカネで結構消し飛んだと思ったんだけども!』

「ミソギ!?どうしてバラしてしまうのです!ここは、タディオ氏を共に説得してくれるところですよ!?」

 

  微妙に涙を溜めるめぐみん。

  紅魔族にも縁があるタダオは、めぐみんに情がわいたらしい。

 

「しゃーない…お嬢ちゃん、任せときな。なにせ、オレ様は世界一の建築家だからな。どんな家でも建ててやんよ」

 

  世界中に名を馳せた、冒険者の愛杖。まごうことなくチートな装備を掲げたオジさんは、とても頼もしく見える。

 

「や、やりました…!これで、いつでも爆裂出来ます…!」

『うん、やったね!めぐみんちゃん』

 

  今しがためぐみんが涙目だったのは、望みが叶わないかもしれなかったから。決して、ネロイドのグラスに付着した水滴を、目元につけたからではない。…と願う。

 

『残るは僕だけだね』

 

  照り焼きグレート・チキンを完食し、ナプキンで上品に口を拭く風先輩。

  その途中、タダオが嫌そうな顔になったのに気づいた。

 

『あははっ、不安がらないでくれよ。何も、変な要求をするつもりは無いんだから』

「…ほんとかよ」

『もとより、僕に御大層な夢や希望なんてあるわけがないんだしさぁ。…まあ、仮に変な要求だったとしても、【どんな家でも建ててやんよ】と豪語したタダオちゃんなら大丈夫でしょ』

 

  …確かに、モーデュロルがあれば、そうなのだが。とはいえ、球磨川のサイコな一面を知るタダオは、えも言われぬ不安を感じた。めぐみん以上にぶっ飛んだ条件はそうそう無いはずでも。

 

『家は目立つに限る。これが僕の持論でね。ほら、特徴が無い家だと、友達とか招待した時に迷わせちゃうかもしれないでしょ?』

「あー、まあ外観も重要だよな」

『この街の景観にマッチして、かつオリジナリティ溢れる目立つ家がいいね』

 

  予想外にまとも。今日日、家を建てるのに外観を気にしない人はいない。外観にも拘りたいのは、むしろタダオの方。球磨川から話を開始してくれて、逆に助かった。

 

「どうする。いっそ、和風にしてみるか?日本ならともかく、アクセルだと目立つだろ?景観にはマッチしないが」

 

  瓦屋根の平屋建てとか、異世界では目立ち過ぎる。

 

『あー、それもいいっちゃいいけど。ここだけの話、僕の琴線にふれた家があってさ。丸パクリしたい程に』

「へえ?実際、そういうお客様も多いよ。オシャレな外観を真似たいって感じの。特徴を教えてくれたら、イメージ図を何パターンか描いてみるぞ?」

『平気平気!タダオちゃんも知ってるはずだぜ!えー…なんだっけ。かなり有名なヤツ。えーと…』

 

  タダオも知るはず。となると、やはり日本の建物か?

  もしかしたら、転生以来初めての和風家屋になるかもしれない。

  そう思い、タダオが気持ちを高ぶらせて球磨川の言葉に耳を傾けた。

 

『あ!思い出した!』

 

「おお!なんて名前だ?…大阪城とか、そういうのは流石に…」

 

  土壇場で球磨川が良いそうなセリフを思いつき、先手をうつタダオ。けれど、大阪城はかすりもしなかった。

 

『サグラダなんちゃら…。そう!サグラダファ◯リアだ!』

 

「…ん?」

 

『聞こえなかった?サグラダの、ファミリア的なヤツだよ!超、カッコいいよねアレ!!是非、住んでみたいなぁ…』

 

  ヴェルサイユ宮殿に憧れる少女の如く。球磨川が腰をクネクネさせて、サグラダファミ◯アに住む自分を想像する。転生前から夢見ていたお家で生活出来たなら、きっと毎日が楽しくなるはず。

 

「……えー、うん」

『…あれ?なんか、ダメかい??』

 

  タダオの返事が芳しくない。

 

『あー、まだちょっと地味かな?』

 

  恐る恐る、球磨川が尋ねる。タダオは、これでもまだ、友達が迷う可能性があると言いたいのだろうか。ただ、これ以上派手にしろと言われても、球磨川には良い案が思いつかない。どうしたものかと考え込んでみる。

 

  …しかし。驚くことに、タダオが気にしていたのはそこじゃなかった。

 

「…派手か地味か以前にさ」

 

『以前に?』

 

「…それ。【家】じゃねーからっ!!!」

 

  タダオの雄叫び。

 

『なにーっ!?』

 

  結論。タダオが外観を数パターン考えて、そこから選ぶこととなりました。

 




そりゃ、打楽器ですよね。
常識的に考えて。普通は。

私はノイシュヴァンシュタイン城で!

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