この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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ラブコメの波動を感じる!


二十五話 シングルベッド

  めぐみん、ダクネスの両名は比較的街の入り口近くの宿屋を選んでおり、球磨川とアクアもすぐに見つけられた。

  それなりに大きな宿屋で、他の客も多く。

  コンクリートがむき出しの外観はやや寂しさを感じさせるが、はめ殺しの窓からは内部の灯りが漏れ、中々幻想的だ。敷地内には沢山の緑が植えられていて、 良くも悪くも街の景観にマッチした建物である。

 

「立派な宿屋ね。ひょっとしてお高いんじゃないかしら。見て見て、球磨川さん!あの絵とか絶対高いわよ」

  ロビー内では先に予約に来ていた二人が、これまた高級そうなソファに座って待機していた。

  アクアがロビーに飾られた壺や絵画を見ながら貧乏人と思われてしまいそうな言葉を述べる。

 

「ミソギ!アクア!こっちだ。どうにか当日で部屋を確保出来たぞ」

 

  ガラスのテーブルに、サービスで提供されたコーヒーが4つほど湯気をたたせている。あらかじめ頼んでおいてくれたのだろう。

『ありがとね、二人共。にしても職人の街にこれだけ立派な宿屋があるとは意外だよ』

「ふふん。この私が疲れを癒すに相応しいじゃないの!…あの、つかぬことを聞きますが、私の料金的なものはどうなるんでしょうか?」

  球磨川とアクアも二人と向き合う形でソファにお尻を沈め、コーヒーに口をつける。

『ははは。そんなこと気にしないでよ。アクアちゃんの料金は、ちゃんとカズマちゃんに請求しておくから!』

「デスヨネー。わかってたわ…」

 

  目のハイライトをなくした女神様は浄化されたコーヒー(お湯)を数口のんで、今晩の宿が何日分の労働で賄えるかを計算し、心でカズマに謝罪。

  そもそもカズマの安否は気にならないのか。…頭がキレ、やる時はやる男なカズマさんなら大丈夫だと、アクアは考えていた。

「ひとつ!重大なことがあります」

 

 カチャッ。

 

  甲高い音を奏でコーヒーカップを置いためぐみんが。

  ダクネスはコーヒーの中で渦巻くクリームに視線を落としたまま微動だにしない。

 

『なに?改まって』

「部屋はとれました。」

『聞いたよ』

「…とれましたが、二部屋しかとれなかったのです」

 

  ここの宿屋は基本的に一人部屋か、二人部屋しか用意していない。予約に来たのが遅く、既に空いている部屋が少なくなっていた。人数分の部屋をとれなくても、まあ仕方あるまい。

 

「ふーん。そゆこと」

『そんなに重大なことかい?確かに、誰かが僕と相部屋なのは同情するけどさ、ベッドだって人数分あるんだろ?』

  アクアと球磨川が、大したことじゃないじゃんとコーヒーを飲み干した。

 

「いえ。とれた部屋は、両方一人部屋です。つまり!…そういうことかと」

『!』

  球磨川の顔をチョイチョイ見るめぐみんの顔が、ほんのり赤い。

  一人部屋にはベッドが一つ。球磨川は、『(これはドキドキイベントを発生させたのでは?)』と、心躍らせる。

 

『なにーっ!?それはそれは、非常によろしくないね!若い(約一名除外)男女が同じ布団で、だなんて。ひと昔前の少年ジャンプなら規制されかねない由々しき事態じゃないか!』

  ソファから立ち上がって手と足をワタワタ動かし、わざとらしく慌てる。

「さりげなく、私が除外されたような気がするんだけど!私も若いんだけど!」

  球磨川の括弧に括弧を重ねた本音を女神パワーで感じ取ったアクアが喚く。

「どうする、ミソギ。お前が構わないなら、私が相部屋になっても良いぞ。お前には命を救われたわけだし。まさかめぐみんやアクアに可哀想な事をさせられないだろう。…これは!仕方なく言ってるだけだぞ!勘違いするなよ」

『…可哀想?』

  ダクネスは焙煎前のコーヒー豆くらい真っ赤な顔を上げた。言ってることは仲間を思ってカッコいいものの…。下心が透けて見える。肝心の球磨川にはバレていないようだが。

「なっ!?待って欲しいのです。時折世間知らずな一面を見せるダクネスには、まだ早いと思います。ここは同じ爆裂を愛する者として!私が犠牲になるべきかと!」

  予想外のダクネスの発言に慌てためぐみんは、立ち上がって自分の胸元に手を当てた。

『可哀想…。犠牲…。』

  球磨川があまりの言われように傷つき、ヨロヨロとソファに腰を戻す。

  女子二人は照れ隠しで思わずキツい言い方になってしまったことに気がつき、焦った表情になる。

「そんなに嫌なら、私が球磨川さんと相部屋でいいわよ?宿代も出してもらうわけだし」

「「それはダメ!!」」

「な、なんでよー!」

  せっかく、アクアが空気を読んだつもりで出した案を、口を揃えて却下する二人。

  可愛い女の子三人の内、誰と相部屋になるか悩んでいる。他の利用客は球磨川をとんだリア充野郎だと認識して、怨念や怨嗟の込もった視線を送る。

『…アクアちゃん。一緒の部屋でもいいかい?』

  自慢じゃないが、球磨川さんは女の子にモテたことは無い。どこかの難聴系な男子高校生と違い、好意を寄せてくる女の子への対応には慣れていないし、女の子が自分なんかを好きになる筈がない。そうした大前提が彼の中には存在している。めぐみんとダクネスの発言が照れ隠しだと完璧には見抜けなかった球磨川は、女神と相部屋になるのが無難だと判断した。

  これからの冒険を経てプラスになるにつれ、自己評価の低さを改善していくのも大切だ。プラスになれるのかは甚だ疑わしいが。

 

  更に言うなら。言葉の上で、アクアだけが球磨川との相部屋に好意的な発言をしてくれた。

  自己犠牲的な発言をした女子二人よりは、相部屋を頼みやすかったのだ。

 

「いいわよ。さ、部屋決めも終わったし、ご飯にしましょう!」

『ありがとう、アクアちゃん』

  宿屋には宿泊客以外でも利用出来るレストランが入っている。

「「くっ…」」

  球磨川をアクアに取られ面白くない二人が、悔しそうに後に続いた。この嫉妬が恋愛感情からなのかは、本人達にもよくわかってはいない。

 

 ……………

 ………

 

  レストランで空腹を満たし、その後大浴場で疲れを癒した球磨川。

  めぐみんから受け取った部屋のキーを片手に、階段を上る。部屋の前では髪を湿らせたアクアが既に待っていた。

『あれ?アクアちゃんのほうが早かったんだ。僕って長風呂なのかな』

「ううん、私もさっきあがったばかりだから気にしないで。それより、今日の部屋を早く見たいわ!球磨川さん、鍵をあけてちょうだい!」

『はいはーい』

 

  ドアの鍵をあけて、中に入る。

  部屋の床にはカーペットが敷かれ、ふかふかのベッドと、デスクがポツンと置いてある。日本のビジネスホテルと比べるのは酷というもの。普通に一夜を明かすだけなら申し分ない。

「ベッド!ベッドだわ!藁じゃないのって、こんなに素晴らしいのねっ!」

  シングルベッドにルパンダイブを決め込んだ女神様は、枕に顔を埋めてご満悦。

『いやいや、案外良い部屋じゃないか。これなら僕は床でもいいや』

「え、いいの?身体痛くなっちゃうわよ?ベッド、半分使ってもいいのに」

『男子高校生を、あまり挑発するものじゃないよ。いいから、アクアちゃんはベッドで寝てよ。』

  女神のありがたい申し出ではあったが、カズマのことを考えると添い寝であっても遠慮しておくべきだ。エリスや安心院さんが逐一監視してるとは限らないが、自重するのも大事である。

 

  自分の学ランを丸めて枕にし、球磨川は眠りに落ちていく。

  馬車での移動は楽しい反面、乗り心地は悪く。身体に疲れが残っていたらしい。五分もせずに意識を手放せた。

 

 ー数分後ー

 

「な、なな!何をやっているんだお前たちは!!」

 

『…ん!?』

 

  眠りについた直後。部屋のドアからダクネスとめぐみんが乱入してきた。そしてなんでか怒っている。

 

「ミソギには幻滅しました」

  パジャマに着替えためぐみんは、眉をヒクヒクさせて球磨川を見下す。

 

『あれー?』

「ぐー…。ぐー…」

 

  二人が怒っている理由はすぐにわかった。ベッドに寝てたはずのアクアが、寝相の悪さで上から落ち、球磨川に軽く被さるような体勢で寝ていたからだ。どれだけ眠りが深いのか。

 

「だから私がミソギと相部屋になると言ったんだ!」

「ぶっちゃけ、状況は把握しましたが。…それでも許せませんね。私達ではなくてアクアを選んだところが特に」

 

『これ、噂に聞くラッキーなんとか?なんにしても。めぐみんちゃん、ダクネスちゃんにこれだけは言っとくよ』

 

「なんでしょう。辞世の句ですか?」

 

『僕は悪くない!!!』

 

  本当に、悪くない。が、無情にもめぐみんとダクネスに憂さ晴らしされるのは避けられなかった。

  布団を被せられ、その上から何度も軽く叩かれたりくすぐられたり、余計に疲れる結果になってしまった。

 




『え?なんだって?』

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