やはり俺が初音島でラブコメするのはまちがっている。   作:sun-sea-go

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Vol.5

 

杉並先輩達や生徒会の連中と色々あったが、まぁとりあえずやっと校舎を出て校門まで来た。

 

後ろからは結衣がトテトテ着いてくる。

 

今朝みたいに手を繋ぐなんて事もなく、付かず離れずの距離だ。

 

「はぁ~…。何か午前中ずっと寝ていた筈なのに、スゲー疲れてんのは何でだろうな?」

 

黙って歩くのもなんたがなぁと思い、一人言のようにボソッと呟く。

 

「うん……。あたしも、ちょっと疲れちゃったかも……」

 

2、3歩後ろを歩く結衣をチラッと見ると、確かに少し疲れが出ているようだった。

 

「そういやぁお前、杉並先輩が嫌いなの?」

 

普段の結衣だったら、あんなに敵意剥き出しの表情は見られないから気になっていた。

 

「え?う~ん。まぁ、好きではない……かな?」

 

なんとも歯切れの悪い答えが返ってきた。

 

性格が優しいし結衣らしい答え方だ。

 

「ま、雪姉を苦しめてる張本人だからな。お姉ちゃん大好きな結衣からしたら敵だわな……」

 

「えへへ。うん、お姉ちゃん大好きだよ♪真面目で優しくて可愛いし、従姉だけど本当の姉妹って感じかな?」

 

嬉しそうに微笑む結衣。

そんな雪姉に心底憧れてるんだろうな。

 

ふと、顔を上げると、夕陽に照らされた桜の花びらが綺麗に舞っていた。

 

12月の日照時間は年間で最も短く、夕方4時前だというのに辺りは暗くなりつつあった。

 

「ヒッキー。ちょっと寄り道してかない?」

 

「あ?コンビニか?」

 

「違う違う。桜公園に行きたいなぁ……って」

 

「このクソ寒いのに?」

 

今歩いている桜の並木道を真っ直ぐ行けば一色家と由比ヶ浜家に着くのだが、並木道の途中に桜公園の方に向かう道がある。

そこを行けば、すぐに桜公園に着くのだが、あそこって海が近いから風が強いんだよな……。

 

「うん。なんか、公園の広場に新しく屋台のクレープ屋さんができたんだって!ヒッキー甘いの好きでしょ?」

 

「だからって、寒いのに無理して食いに行くほどじゃないんだが?」

 

「い、いいじゃん!行こうよ!暗くなる前に!」

 

結衣が駄々をこねてるいと、T字路が現れた。

 

このまま真っ直ぐ歩けば、暖房の効いたあったかい我が家がある。

 

右に歩けば、極寒の桜公園に行く道だ。

 

俺は迷わずスタスタと我が家に向かって歩いていると、襟首を結衣に引っ張られた。

 

「ぐはっ!ちょっ!く、苦しい……」

 

結衣はすぐ襟首から手を離すと、すかさず俺の腕を取って公園の方に歩き出してしまった。

 

「一人で食べるより、誰かと一緒に食べた方が絶対においしいもん!だからヒッキーも行くの!」

 

「なら雪姉とか友達と行けばいいじゃねぇか」

 

「あ、あたし今食べたいの!今はヒッキーしかいないから!」

 

顔を赤く染めながら、結衣は抗議してくる。

 

「俺は早く帰えりたいんだけどな……」

 

「帰っても、どうせゲームとか漫画とかでしょ?いいから行こう!」

 

今日の結衣は何だか強引だった。

今朝見た夢が原因なのかもしれない。

 

後悔したくない……か。

 

あれは、どういう意味で言ったのだろう?

 

俺の手を取る結衣を見ながら思っていると、ハッと気付いてしまう。

 

「分かった分かった!行くから手を離せ!」

 

やっぱり手を繋ぎながら公園に行くなんて、恥ずかしすぎて死ぬ!

 

「ダメ!ヒッキー絶対逃げるもん」

 

強引に手を引っ張られながら、それでも何度か抗ってみるが、抵抗しても無駄だと気付いた俺は、諦めて大人しくクレープ屋に着いていくしかなかった。

 

公園に着くと、すぐに噴水のある広場にでる。

その広場の端っこの街灯の下に1Boxの車を改造した、クレープの屋台があった。

 

1Boxカーは、派手に赤と白のストライプカラーで、車の後部座席の窓がある辺りから店員が顔を覗かせ、中で注文を受けつつクレープを作っていた。

 

客足は上々のようで、学校帰りの女子高生が10人ぐらい列を作り順番待ちしている。

 

「……なぁ、俺もあの中に混ざらないとダメなの?」

 

女子高生の集団の中に一人ぽつんと俺という異物がいると思うと、正直スッゲー居心地が悪い……。

しかも、結衣と手を繋いだままとか……。

どこのリア充だ!って話しだ。

 

「え?あ、そうだね……」

 

結衣も、あの列が女子しかいない事が分かったのか、少し考えてから俺の顔を見た。

 

「じゃあ、あたし買ってくる。ヒッキーは何がいい?」

 

「別になんでもいい……。俺、あそこのベンチで待ってるわ」

 

そう言って公園の入口付近にあるベンチを指差す。

 

「うん、分かった!ヒッキー逃げちゃダメだからね!」

 

「ここまで来て逃げねぇよ……」

 

結衣は念を押すように言って、タタタタ……と軽い足取りでクレープ屋に向かって行った。

 

俺はベンチに向かい腰を降ろすと「ふぅ~……」と一息を吐く。

 

結衣がクレープ屋の列に並ぶのを眺めながら、クリスマスパーティーの事を考える。

 

雪姉はどうするつもりだろ?

杉並先輩や板橋先輩だけでも厄介なのに、陽乃さんまで気を回さなきゃいけない。

 

そもそも、杉並先輩達はクリスマスパーティーで何をやらかそうとしているんだ?

 

リア充どもに正義の鉄槌を喰らわす!なんて言っていたが、具体的にどうするかまでは知らない。

それは雪姉も同じで、だから俺に杉並先輩のスパイを頼んだ訳だし……。

 

今までの事を考えると、間違いなく何かとんでもない悪戯するに決まっている。

 

今度は

 

あー、そういや、人形劇の主役もやるんだったけ……。

 

ベンチの背もたれに腕を回して空を見上げる。

夕焼けの空には、何匹かのカラスが公園の上空をグルグル旋回していた。

 

ぼーっとカラスを眺めていると、また眠気が襲ってきた。

 

「やばい……。こんな寒い所で寝ちまったら、確実に風邪ひくな」

 

頭を振って無理矢理に眠気を追い払い、公園の広場全体を見渡すことにする。

 

結衣はクレープ屋の前でチラチラこちらを気にしながら列に並んでいる。

あれは、もう少し時間がかかるな。

つか、こっち見んなよ。逃げねぇよ。

 

目を噴水の方に向けると、小学生数名がサッカーボールで遊んでいる。

こっちの方にボール飛ばすんじゃねーぞ、と念じながら視線を公園の入口の方に向けると、何だか見覚えのある人が公園に入ってきた。

 

亜麻色にショートボブの髪、中学生と言われれば本気で信じてしまいそうな体型。

 

我が風見学園高等部の校長にして俺の保護者である、一色いろはさんが神妙な顔で園内に入ってきた。

 

いろはさん?クレープでも買いにきたのか?

でも、あの雰囲気はクレープを買いに来たって感じでもなさそうだよな……。

 

いろはさんは俺や結衣に気付かないまま、公園の奥の方へ行ってしまった。

 

あっちの方って、確か『枯れない桜』がある方だよな?

あんな所に一人で行って何を?

 

気になって声を掛けようと立ち上がる。

 

「あーっ!!ヒッキー逃げちゃダメって言ってるのにっ!!」

 

クレープを両手に持って叫ぶ結衣は、慌てた様子でこちらに向かってくる。

 

「ば、馬鹿!大声出すな!恥ずかしいだろうが!」

 

ほら、サッカーしてたガキも、今もクレープ屋の前で並んでる女子高生も、散歩しているお爺ちゃんお婆ちゃんも、皆こっち見てるじゃねぇか!

 

「ヒッキーが逃げようとするからだし!」

 

「違うっつーの。今、いろはさんが公園の奥の方に行くの見掛けたから、声かけようと思っただけだよ」

 

「え?いろはさん?」

 

結衣は振り返って広場を見渡すが、既にいろはさんは公園の奥に行ってしまっていた。

 

「……いないじゃん」

 

ムスッとした顔で俺の顔を見る結衣。

 

「いや、ホントにいたんだよ。枯れない桜の方に行ったみたいだけど……」

 

「もう!いろはさんが一人で、あんな淋しい所にいくわけないし!ヒッキー嘘ついたから、罰としてクレープなしね!」

 

「いや、嘘じゃねぇから……。てか、そのクレープ、二つともお前が食べるの?」

 

結衣が持っているクレープを見ると、よく見かけるサイズより一回り大きいサイズで、生地の中の生クリームは生地から溢れんばかりの量だった。

 

さすがの甘党である俺でも、あの量の生クリームが入ってるクレープ二つ食うのは無理な気がする……。

つか、普通に胸焼けする。

 

「これくらい余裕だもん」

 

何の躊躇いもなく、平然と言ってのける結衣。

 

女の子って不思議だね……。

 

ま、いろはさんの事は帰ってから聞けばいいか。

 

仕方なしに、またベンチに腰を降ろすと結衣も俺の右側に座ってくる。

結衣がベンチに腰を降ろすと、フワッと柑橘系の良い香りが鼻腔をかすめる。

 

…………………………………ち、近い。

 

お互いの肩と肩がぶつかりそうな距離に結衣が座っている。

 

いかん、結衣ごときにドキドキしてきた……だと?

気のせいだ!うん、気のせい!

 

俺は、さりげなく数センチほど横にズレる。

しかし結衣も、俺がズレた分だけこっちに寄ってきた。

 

「ちょっ、お前何やってるんだよ?そんな近づくな!か、勘違いしちゃうだろ!?」

 

「う、うるさい。ヒッキーは、あたしが美味しそうにクレープを食べてる所を見てればいいの。それが罰なんだから」

 

ムスッと少し赤い顔で言う結衣だが、それって俺がここにいる意味ないよね?

何が楽しくて、お前がクレープ食ってるところを見てなくちゃいけねぇんだよ……。

 

頭の中でブツブツ文句を言ってる間に、結衣は左手(俺側)のクレープをパクッと食べ始めた。

 

「う~ん美味しいぃ~」

 

幸せそうな顔でクレープを頬張る結衣をジト目で見ていると、ふと純一さんの声が思い出される。

 

『甘いお菓子には人を幸せにする力があるんだよ』

 

いつだったか覚えてないが、確かに純一さんに言われた気がする。

 

結衣は、あっという間にクレープを一つ平らげてしまっていた。

 

「ん~。ブルーベリー美味しかったぁ。よし、次はストロベリー!」

 

「お前、夕飯大丈夫なのか?そんなに食って……」

 

ストロベリー味のクレープを口にしながら、結衣は俺に顔をむける。

 

「大丈夫。甘い物は別腹だし」

 

「……太るぞ?」

 

俺がボソッと呟くと、結衣はクレープをかじったままピタッと停止してしまう。

 

「だ、だだ大丈夫だし!あたし太らない体質駄し!」

 

汗をダラダラ流しながら、ギギギ……と、あさっての方向を見る結衣。

 

「めっちゃ動揺してんじゃねぇか……」

 

結衣は「むぅ~」と唸り声をあげながら上目遣いで睨んでいる。

 

「……やっぱヒッキーにあげる」

 

そう言って結衣は、自分の口をつけたストロベリー味のクレープを俺の顔の前にズイッと持ってくる。

 

「いや、いらねぇし……」

 

そんなの食べたら味がわからなくなるだろ。

 

「いいから食べる!せっかく買ったのに、勿体無いじゃん!」

 

「だから、そういう問題じゃなく……あぐっ!?」

 

このアマ、喋っている途中で無理矢理クレープを口に入れてきやがった!

 

仕方なく、俺はモグモグとクレープを咀嚼する。

 

なんだか顔が熱い……。

 

「あ、ごめん。苦しかった?」

 

「い、いや……。そういうんじゃねぇし……」

 

「?でもヒッキー、顔が赤いよ?」

 

結衣は分かっていないのだろう。

可愛く小首を傾げながら赤くなっている俺の顔を見ている。

 

「あーーーっ!!不純異性交遊しる!!」

 

「「え?」」

 

突然、大声を上げてズダダダダー!と突っ走ってくる人影が見えた。

俺と結衣は同時に声のした方に目を向けると、いろはさんが物凄い形相で突っ走って来た。

 

「い、いろはさん!?」

 

「枯れない桜の方に行ったんじゃ……」

 

俺と結衣は驚き戸惑っていたが、いろはさんはスルーして俺に食って掛かる。

 

「ハチくんは、何で結衣ちゃんとラブラブ間接チューしてるの?こんなに可愛い保護者がいるのに!不純異性交遊ならわたしが教えて……」

 

「おい、ちょっと待て。そこの合法中学生の保護者」

 

俺は顔を左手で押さえながら、右手で制止のポーズを取る。

 

この人、何を結衣の前で言おうとした?

 

「ごーほー中学生?」

 

結衣が解らない顔をしている。

仕方がない、教えてやろう。

 

「乳臭い中学生(ガキ)にしか見えない大人の事だ」

 

「が、ガキじゃないもん!わたしは、ハチくん達よりずぅ~っと大人なんだからね!」

 

顔の前で両手をグーにして、上目遣いでプンプンしているいろはさん。

 

「いや、俺いろはさんが大人っぽいことしてるとこ、仕事意外見たこと無いんですけど?」

 

学校ではしっかり校長先生していると思うが、私生活では基本グータラなんだよな……この人。

煎餅かじりながら時代劇見て、飽きたら昼寝。稀にキッチンでお菓子なんかを作ってる。

そして、何かある度に俺に絡んでくるのだ。

 

「ぶー。ハチくんが見てない所でちゃんとしてるもん。ハチくんの目が節穴なの!」

 

ホントにこの人は、いちいちあざといんだよな……。

今も自分が相手に一番可愛く見える位置で上目遣いしながらプンプンしているし……。

 

「はいはい。で?ちゃんとしている筈のいろはさんは、仕事サボって桜公園で何をしてるんですかね?」

 

「むっ。サボってなんかないもん。見廻りだよ!放課後の公園で未成年の男女が、イチャイチャしてたり間接チューしてたりしないように見廻ってるの」

 

「あ……。か、間接ちゅー……」

 

結衣が小さく、ぽしょっと呟く声が聞こえた。

 

ガハマさん、今頃気づいたんすか……。

 

顔を真っ赤にしてうつ向きながら、空いている手でシクシク自分のお団子頭を弄っていた。

 

「いや、イチャイチャしてねぇし、クレープは結衣が無理矢理俺の口に突っ込んだだけっすよ?」

 

「ふ~ん。結衣ちゃんの名前を寝ながら言ってるハチくんに、そのセリフは説得力ないと思うなぁ~」

 

いろはさんはジト目で今朝の事を言ってきた。

 

「さ、さぁ?なんの事っすかねぇ~」

 

いろはさんから顔を反らし、とぼける事にした。

 

「ひ、ヒッキー……あ、あたしの夢……見てたの?」

 

結衣は恥ずかしそうな、困ったような顔で俺に聞いてくる。

 

「ば、ばっか。何で俺がお前とイチャイチャする夢見なきゃなんねぇんだよ」

 

必死に動揺している事を隠しながら、俺はムスッとした顔で答えると、いろはさんが雪姉と同等の冷たい声音で呟いた。

 

「へぇー。結衣ちゃんとイチャイチャしてる夢見てたんだ?ふ~ん……」

 

「あ、あーーー!!ヒッキー、早く帰ろうよ!」

 

結衣が突然、大声を上げ立ち上がり俺の腕を掴むと、勢いよく引っ張られた。

 

「ちょっ、結衣ちゃん!まだ話し終わってないよ!」

 

「ご、ごめんなさい!今日あたしが夕食の準備するんで、先に帰ります!」

 

「「……え?!」」

 

いろはさんと俺の声が重なる。

 

いろはさんは絶句したまま立ち尽くし、俺は結衣に引っ張られるまま言葉を失っていた。

 

あー……。そういえば、昼休みにそんな話しがあったけ……。

 

俺と結衣が公園の出口に差し掛かると、後ろの方から「き、聞いてないよぉ~!」と、いろはさんの叫び声が聞こえてきた。

 


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