やはり俺が初音島でラブコメするのはまちがっている。   作:sun-sea-go

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亀更新ですみません……。
次回も遅くなると思いますのが、よろしくお願いします。


Vol.4

 

 

生徒会室で俺と結衣、雪姉の3人で昼飯を食べていると、ノックもなしに突然、生徒会室のドアがスパーンと勢いよく開かれる。

それと同時に「会長!」と慌てた声が聞こえた。

 

俺達3人はドアの方に顔を向けると、2年生の女子2人組が息を切らせていた。

 

「落ち着きなさい。どうしたのかしら?」

 

相手に冷静になるよう雪姉が促し、用件を聞いていた。

 

「あ、ごめんなさい。あの、パーティーの催し物に使う大型のセットが、誰かに盗まれたっぽくて……」

 

「でも、あんなの男子が2、3人で運んでも無理な重さだよ?」

 

「いつ盗まれたのかしら?」

 

雪姉は例の考えるポーズをとり思案顔だ。

 

「つい10分ぐらい前です。2、3分ほど目を離した隙に……」

 

「そう……分かったわ。貴女たちは教室へ戻っていてくれるかしら?私も直ぐに行くから」

 

「お願いします!」

 

2人組がドアを閉めて、バタバタと戻って行った。

 

雪姉は「ふぅ……」と、軽く息を吐き出し立ち上がる。

 

「ごめんなさい。私のお弁当は2人で分けて食べて頂戴」

 

雪姉の弁当箱を見ると、半分も減っていなかった。

 

雪姉がドアに手を掛けると同時に俺は呼び止める。

 

「雪姉。ちょっと待っててくれ」

 

俺は右手を出し軽く念じると……あら不思議。

お饅頭が俺の掌に乗っかっていた。

 

「あ……。出してくれたのね?」

 

「只でさえ小さい弁当箱なのに、その半分も食ってないんじゃ持たないぞ?」

 

雪姉は饅頭を俺から受け取ると、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふ。ありがとう八幡」

 

そう言うと雪姉は踵を返して行ってしまった。

 

ま、少しは腹の足しになるだろう。

 

「いいなぁ、あたしもお饅頭たべたいなぁ~」

 

振り返ると、結衣が物欲しそうに見ていた。

 

「お前はしっかり弁当食ってるだろ?」

 

「ひーきだ!お姉ちゃんばっかズルい!甘い物は別腹だもん!」

「わかったわかった、騒ぐな!メシ食ってからな」

 

「うん!あ、栗の入ったどら焼きがいいかも!」

 

「饅頭じゃないのかよ……」

 

席に着いて残りの弁当を食い始めると、結衣が「じー」っと俺の右手を見ていた。

 

「和菓子を出す魔法か……。へへ、何かヒッキーらしくない可愛い魔法だよね?」

 

「悪かったな。可愛くなくて……。ま、そこは俺も認めてるがな」

 

「認めてるんだ……」

 

そう。

実は俺、魔法が使えちゃたりする。

と言っても使える魔法は、和菓子を出すというメルヘンチックな事だけ。

使うエネルギー源は自分のカロリーから消費されるので、自分で自分の使った魔法で和菓子を出して食べても、何の足しにもならない。

他人を喜ばせる為だけにある魔法だ。

どうして、この魔法を覚えたのかは記憶にないんだよなぁ……。

ま、妙な白い生き物に「僕と契約してよ」とか言われてないから大丈夫だろう。

 

「お姉ちゃん喜んでたよね?嬉しそうにしたし」

 

そういえば雪姉に和菓子をあげたのって、いつ以来だったけ?

 

「そうだな。お前みたいに、しょっちゅう出せとか言わないしな」

 

「むっ。それじゃあたしが食いしん坊みたいじゃん!」

 

『みたい』じゃなくて、実際に食いしん坊だろ。

 

それからは結衣と2人で、どうでもいい会話をして昼休みは終わった。

 

 

 

午後の授業もあっという間に終わり、さっさと帰ろうとバッグに教科書やノートを突っ込み教室を出た時だった。

 

「くくく。まさかこんな所で会うとはな驚いたぞ。ーーー待ちわびたぞ!比企谷八幡!!」

 

そいつは何故か俺に背を見せ、肩越しに俺を見ている。

 

真夏でも格好いいからと着込んでいるコート。

小太りな体形に、黒縁メガネと指ぬきグローブの男がそこにいた。

 

「おい材木座。日本語が変だぞ?こんな所て会って驚いたのに、待ちわびたってどういう事だよ?こっちが驚いちまったじゃねーか……」

 

材木座義輝。

隣の1年G組の奴で、体育の時間にぼっち同士よく組んでいるだけの奴である。

杉並先輩と同じ中二病を患っていて、とても面倒臭く暑苦しい奴である。

 

「けぷこんけぷこん、おこぽーん!そんな些末な事どうでもいいわ!」

 

何だよ今の?

咳払いか?おこぽーん!って何だよ?

 

「八幡……。我らが非公式新聞部に入るとは本当か?」

 

材木座は掛けているメガネをクイッと押し上げ聞いてくる。

 

「ああ~。そんな誘いあったなぁ。あれ断るわ」

 

「ぬぁにぃー?!我が主君たる杉並先輩の誘いを直に受けながら断るとは何事だ!八幡!」

 

こいつは何故か杉並先輩を崇拝している。

それはもう神のように。

 

「いや俺は別に興味ねぇし……」

 

「くくく。嘘は良くないぞ八幡。我にはとっくにお見通しだ!何の刺激もない学校生活を送り、無駄な時間を送る日々に嫌気が差しているのであろう?」

 

「いや別に?刺激の無い生活大いに歓迎なんだが?むしろ、こっちから行きたいまである。じゃあ、そうゆうことで」

 

そのまま材木座の脇を通り、昇降口へ向かおうとすると、材木座が俺の肩を掴んだ。

 

「くくく。またそのような虚勢を張りおって。無理は良くないぞ?八幡よ」

 

うっぜぇ~……。

早く帰りてぇのに、何でコイツこんなにしつこいんだよ!

 

「はーっははははは!!よくぞ引き止めておいたな。材木座義輝よ!」

 

高笑いと共に2人組の男子生徒が現れる。

1人は、もちろん杉並先輩。

もう1人は、チャラそうな風貌の板橋先輩だ。

 

成る程、材木座がウザったく絡んできたのはこの為か……。

まぁ、材木座はいつもウザったいんだけど……。

 

「おお。お前が杉並の言っていた比企谷か!確かに目が腐っているなぁ。一目でわかったぞ」

 

板橋先輩は馴れ馴れしく、俺の首に手を回し話し掛けてきた。

この人も結構ウザったいかもしれん。

 

「はあ……。それはどうも……」

 

うわ~…。なんか、校内でも悪い方に目立つ3人に囲まれて、周りの目が痛いんですが……。

 

「ふん。で?同士比企谷、今朝の返事をお前の口から直接聞きたいのだが?」

 

杉並先輩は腕を組んで、口の端を厭らしく吊り上げている。

「ああ。その話なら丁重にお断りします」

 

「ふふふ。雪ノ下雪乃の指示か?残念だったな。あいつの策は俺には効かなかったぞ?」

 

「え?」

 

「なにを思ってかは知らんが、この俺の前に学校のアイドル葉山隼人を送って来ようなど片腹痛いわ!」

 

ああ……。やっぱ葉山先輩じゃ無理だったか……。

ま、全然期待なんかしてなかったけどな。

 

つか、どうするんだ?

このままだと、クリスマスパーティーは杉並先輩によって、ぶち壊されるんじゃ……。

 

「同士比企谷よ。お前の考えている事は分かっているぞ?クリスマスなんぞに、うつつを抜かすリア充どもに正義の鉄槌を下してみたいんだろう?んん~?」

 

「っ……!」

 

や、ヤバイ……。わりと本気でヤバイ。

リア充どもに正義の鉄槌……めっちゃ喰らわせてみたい!

幸せそうなリア充どもが、俺の正義の鉄槌で絶望する姿を是非とも見てみたい!

 

はっ!いかんいかん!杉並先輩達の仲間に入れば、必然的に雪姉の敵になってしまう!

そうなれば、どうなるかは火を見るより明らかだ!

 

いや、でもリア充どもにも……。

 

「ヒッキー!」

 

心の中で葛藤していると、結衣の大きな声が聞こえた。

 

と思ったら急に右腕を掴まれ、そのままスタスタとその場を離れようとする。

 

「まぁ待て、由比ヶ浜結衣」

 

杉並先輩は行ってしまおうとする俺達を止めるために、俺の左腕を掴んだ。

 

「なんですか?あたし、先輩に用なんて無いんですけど」

 

珍しく結衣が敵意を隠しもせずに杉並先輩と対峙していた。

 

「なぁに、貴様とて見ていたのであろう?比企谷が迷っている姿を。だから慌てて比企谷を連れ去ろうとした。違うか?」

 

え?俺、そんなに分かりやすく迷っていたの?

クールにポーカーフェイス決めてると思ってたのに!

 

「し、知りません!そんな事。行こうヒッキー」

 

そう言うと結衣はグイッと強めに俺の右腕を引っ張ると、左腕を掴んでいる杉並先輩の力も強くなった。

 

いや、あんたら地味に痛いんですが……。

 

「ふふ。そうはさせんぞ?由比ヶ浜結衣」

 

「先輩こそ何を考えてるんですか?ヒッキーを捲き込まないで下さい!」

 

俺の両腕に更に引っ張る力が増してきた。

 

「ちょっ!お前ら、痛い痛い!マジで痛いから離せ!」

 

「そこまでよ!杉並くん」

 

冷たく澄んだ声が廊下に響いた。

 

杉並先輩の背後に現れたのは雪姉だった。

雪姉の両隣には、葉山先輩と風紀委員長の高坂まゆき先輩が立っていて、その後ろには生徒会の面々が揃っている。

 

「ふん。生徒会役員勢揃いとは、そんなに俺が怖いのか?雪ノ下雪乃」

 

杉並先輩は俺の左腕を掴んだまま、雪姉に挑発的な事を言う。

杉並先輩の表情は俺の角度からは分からないが、おそらく余裕の笑みを見せているのだろう。

 

「怖い?何を言っているのかしら?貴方が私の可愛い弟分と妹分の八幡と結衣にちょっかいかけているから止めにきただけよ?怖いなんて感情は皆無よ」

 

可愛いとか思ってるなら、もう少し俺に対して優しくしてくれてもいいんじゃないんですかね?

 

「ふふ。そんな私的な事で生徒会を動かすとは言語道断だな」

 

「あら?私的も確かに入っているけど、八幡と結衣は立派な風見学園の生徒よ?その学園の生徒達が悪の根源である貴方達に絡まれているのを見たら、普通は止めないかしら?」

 

「ふん。モノは言いようだな」

 

杉並先輩は10人近くいる生徒会役員や風紀委員を見る。

 

「しかし流石の俺でも、この人数相手に事を構えても敵わん。今回はこれで退散してやるが、俺はまだ諦めんぞ?」

 

「ええ、それでこそ張り合いがあるって物よ。どこからでもかかってきなさい?返り討ちにしてあげるわ」

 

「……」

「……」

 

数秒間2人は今朝と同じように睨みあった後、杉並先輩は俺の腕を離した。

 

一瞬、杉並先輩は俺の方をチラッと一瞥すると、そのまま俺と結衣のわきを通り過ぎて行ってしまった。

 

「なぁ~んだ。比企谷は俺達と組まねぇのかよ?」

 

板橋先輩が膨れっ面で俺を見ていた。

 

「え、ええ。まぁ、そんな感じっす……」

 

「そっか……。材木座ぁ、話が違うんですけど?確か『我に任せて頂けるなら八幡なんぞ赤子も同然』とか何とか言ってなかったけ?」

 

雪姉が来てからずっと地蔵タイムだった材木座は、板橋先輩の声にビクッと反応する。

冷や汗が凄い事になっていて、その風貌といい、ガマの油状態である。

 

「あ、いや、その……。すみませんでした……」

 

悪の根源である一人の板橋先輩の前では、材木座もひれ伏すしか無いらしい。

 

「板橋くん。あなたも、あんな男からは手を切ってはどうかしら?」

雪姉は板橋先輩に近付き、杉並先輩と手を切ることを促した。

 

「う~ん。今回はスポンサーも付いてるし、大規模な計画を立ててるからパスで」

 

「スポンサー……ですって?」

 

怪訝な表情をみせる雪姉に、板橋先輩は何でもないように言う。

 

「そ。雪ノ下さんも知ってる、雪ノ下グループ次期当主様がスポンサー♪」

 

板橋先輩に言われた瞬間、雪姉はもちろん俺と結衣も固まってしまった。

 

い、今なんて言った?

雪ノ下グループの次期当主?

 

まさか……。

まさか、あの魔王が降臨するってのか?!

 

「うそ……。は、陽乃さんが?」

 

結衣は震えていた。

無理もない……。俺達3人は雪ノ下陽乃から子供の頃、大きなトラウマを植え付けられているのだ。

 

雪ノ下陽乃。

この風見学園OBで、某有名国立大学の理工学部に進学し、現在は大学2年生だ。

 

陽乃さんは雪姉の実の姉で、陽乃さんが中3になる春まで由比ヶ浜の家によく遊びに来ていたが、それっきり会っていない。

 

たまに雪姉の電話に連絡が来て近況を報告してくるぐらいだ。

 

雪ノ下グループとは、元々は雪姉の親父さんが建設会社の社長やら県議会議員など勤めていたらしく議員を辞職した後、経営危機の真っ只中にいた大手の工務店や家電メーカーなどを買収し、日本でも五本の指に入る程の大会社になった。

 

陽乃さんは大学生でありながら、実はグループ傘下の会社の社長もやっているらしい。

なんの会社かまでは知らんが……。

 

「ね、姉さんが……杉並くん達のスポンサー……ですって?」

 

雪姉は顔を真っ青にしている。

 

気持ちは分かる。

ガキの頃、只でさえ厄介な存在だったのに、今度は頭脳+カネを手にしている。

 

間違いなくパワーアップしているに違いない。

 

最早、魔王なんて生易しいものじゃない。

 

大魔王はるのん!

…………なんか、全然怖そうに思えない上に締まらんな……。

 

「ま、そんなにビビること無いと思うぞ?大掛かりな悪戯ってだけで、死人や怪我人が出ないように配慮するらしいからさ」

 

板橋先輩はあっけらかんとそう言うが、相手はあの陽乃さんだ。

 

「あ、あはは。そ、そうだよね。いくら陽乃さんでも……」

 

結衣は空気が重くなったのを感じてか、無理に明るく振る舞おうとしていたが、段々声が萎んでいってしまう。

 

「確かに死人や怪我人が出ないように配慮はするかもしれないけど、あの姉さんよ?器物破損ぐらいは有り得るわ……」

 

「キブ……ハソン?外国の人?」

 

………………………………………………。

 

唐突な結衣のアホ発言に、ここにいる全員がポカーンとしてしまう。

 

「……ぷっ。クスクス」

 

ホケーとしていると、雪姉が口を押さえ肩を揺らして吹き出していた。

 

「え?あ、あたし何か変なこと言った?!」

 

こういう天然でボケる結衣に、俺と雪姉は何度も救われていた。

 

「ああ……。ホント結衣はアホの子だなぁ」

「むがーっ!!ヒッキーどういう意味だ!」

 

つい俺が口に出してしまった本音を聞いた結衣は、俺の耳元で騒ぎ出した。

 

「うるせぇな……。本当の事だろ?大体、キブ・ハソンって誰だよ?器物破損な、他人の物や公共の物を無断で壊す事だぞ?外国人じゃないからな?」

 

「し、知ってたし!なんか空気が重くなっちゃってたから、わざと言ってみただけだしっ!」

 

「そっかぁ。結衣はいい子だもんなぁ。言ったあとテンパってたのも、わざとだもんなぁ」

 

「なんか言い方が優しくてムカつく!」

 

俺と結衣が、ギャーギャー喚いていると板橋先輩と材木座も騒ぎ出しす。

 

「八幡!貴様、我を裏切ったな!この中途半端イケメン!」

 

何だよ?その、中途半端イケメンて……。

 

「そうだー!俺は、お前がぼっちで童貞だと聞いたから仲間に入れようとしたのに!彼女がいるなんて、俺は聞いてねーぞ!!」

 

材木座は悔し涙を滲ませ、板橋先輩は両手を頭にして膝を床につけ叫んでいる。

 

「ちょっ!ち、中二も板橋先輩も、あたしとヒッキーが……その……つ、つつつつつ付き合ってるとかじゃないから!」

 

結衣は顔を真っ赤にして反論しているが、材木座や板橋先輩は構わず騒ぎ出す。

 

「そんな真っ赤な顔で、反論されても説得力皆無!我の目は誤魔化されんぞ!」

 

「そうだー!付き合ってなくてもヒッキーラブなんだろぉ!!ちくしょお!」

板橋先輩は頭を掻きむしり始めてしまった。

「な、ななななななな……!ち、違うし!そんなんじゃないんだから!二人ともキモイ!」

 

あー……。

これ、そろそろ結衣に助け船出した方がいいな。

 

俺が口を開けて声を出そうとした瞬間、雪姉が俺の前に出てピシャリといい放つ。

 

「貴方達、黙りなさい」

 

雪姉が一言発しただけで、それまで喧しかった結衣、材木座、板橋先輩は黙ってしまった。

 

すげーな……。この3人をたった一言で黙らせちゃったよ……。

マジ、雪乃お姉ちゃん超怖ぇ……。

 

「板橋くん。聞かせてくれないかしら?姉さんが何故、貴方達のスポンサーになったのか」

 

雪姉は、いつになく真剣な顔で板橋先輩に聞いていた。

 

「え?ああ~……。詳しくは知らないけど、ハルさん先輩から杉並の方に連絡してきたらしい……て、事ぐらいしか……」

 

どうやら板橋先輩も、詳しくは知らないようだった。

 

「……そう。わかったわ」

 

雪姉はそう言って、ポケットからスマホを取り出すと何処かへ電話をかけた。

 

このタイミングで電話をする相手は……まぁ、決まってますよねぇ。

 

「あ、姉さん?ちょっと聞きたいことが……え?!ちょっと待って……」

 

相手が電話に出て、一方的に切られた感じだった。

 

「ふぅ。あの女狐、出たと思ったら『雪乃ちゃん?あ、今すっごく忙しいからぁ~、まったねぇ~♪』と言われて切ってしまったわ……」

 

陽乃さんに直接問いただそうとしたのだろうが、上手くはいかなかったらしい。

 

てか、陽乃さんのモノマネ無駄に上手いな……。

さすが姉妹なだけはある。

 

「あの……。雪ノ下さん?俺と材木座は帰ってもよろしいでしょうか?」

 

さっきの雪姉にビビってしまったのか、板橋先輩は腰が引けていた。

 

「ええ、構わないわ」

 

雪姉が答えると、板橋先輩と材木座は「へへ……どうも~」なんて言いながら去って行った。

 

「比企谷、ちょっと話がしたいんだがいいか?」

 

材木座達を見送っていると、葉山先輩が俺に話し掛けてきた。

 

「…………なんすか?」

 

「はは……。そんな、あからさまに嫌そうな顔しないでくれよ」

 

いや、俺あんたの事が嫌いなんだけどね……。

 

「元々こんな顔なんですよ……。で?話ってなんすか?」

 

「君は今回の件、どうするつもりだい?」

 

「どうもこうも、まだノープランですよ。陽乃さんが絡んでる事、今さっき知ったばかりですしね……」

 

正直、杉並先輩の仲間入りしなくて良かったわ……。

仲間に入っていたら、陽乃さんに弱味を握られかねないし、とんでもない命令されるかもしれなかったもんな……。

 

結衣と雪姉に感謝だな。うん。

 

「そうか。比企谷とは中学からの後輩で今まであまり接点がなかったが、雪ノ下さん……会長から君の事を聞いている。勿論、噂の真相も……」

 

そう言うと、葉山先輩は何故か悔しそうに歯をくいしばり俯いてしまった。

 

噂……というのは、小学校、中学校時代に結衣や雪姉を庇って、俺が学校中に悪い噂が立った事だろう。

 

葉山先輩は、おそらく今回も同じように結衣や雪姉を庇う為に、俺が悪者になることを危惧しているのかもしれないが……。

 

「葉山先輩が雪姉に何を聞いたのかは知りませんが、噂は事実なんで真相も何も無いですから」

 

気だるそうに俺が言うと、葉山先輩は顔を上げ納得がいってない顔をしていた。

 

「……君は本当に、それでいいのか?周りに誤解されたままで……」

 

「さあ?誤解ってのが何の事か知りませんが……俺は、解って貰えてる人に解って貰えれば、それでいいんだと思いますよ?」

「え?」

 

「あ、いや……。ま、まぁ誤解もひとつの『解』なんだし、他人がどう思おうと知った事じゃないって事っすよ」

 

喋っているうちに何だか余計な事を言ってしまった。

 

そっぽ向いて頭をポリポリしていると、結衣と雪姉が視界に入る。

 

二人とも、ちょっと嬉しそうに微笑んでいた。

 

なんか無性に恥ずかしくなってきたので、俺はクルッと反転して「じゃ、帰ります」と言って歩き出した。

 

「ちょっ!ヒッキー待って、一緒に帰るって言ったじゃん!」

 

慌てて結衣が追いかけてくる。

 

「うるせぇな。嫌だって言っただろ?」

 

「むぅ~。いいもん!勝手に着いていくし!それなら文句ないでしょ?あたしの勝手だし」

 

「…………勝手しろ」

 

「うん。勝手にする!」

 

嬉しそうに笑って着いてくる結衣の後ろの方で、雪姉とまゆき先輩が話している。

 

「あれは素直じゃないねぇ、さすが雪乃の弟って感じ?」

 

「高坂さん?それは、どういう意味かしら?」

 

「どういうって……。てか、その笑顔ホント止めて。ね?すごく怖いから……」

 

怖いもの知らずの風紀委員長をもビビらす雪姉の笑顔に周りも凍り付いていたが、既に戦線離脱している俺と結衣は足早に帰宅して行くのであった。

 

 


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