やはり俺が初音島でラブコメするのはまちがっている。   作:sun-sea-go

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今回は杉並が登場します。


Vol.2

生徒会の手伝い……。

 

つまりそれは、タダ働きって事だ。

 

冗談じゃない。

只でさえ働きたくなくて、将来の希望職種に『専業主夫』と書いたのに、タダ働きの上に絶対厄介な仕事を押し付けてくるに決まってる!

 

タダほど怖いものはない。

ここは逃げるのが得さ……

「お姉ちゃん。手伝って何するの?」

 

結衣は可愛く小首を傾げ、雪姉に聞いていた。

 

ちょっとガハマさん!少しは警戒しなさいって!

ほら今一瞬、雪姉が「ふっ。釣れたわ」みたいなドヤ顔したの見てたからね!

これ絶対厄介な仕事だ!

 

「簡単な事よ。ある二人の男子生徒をクリスマスパーティーの準備期間中、監視していて欲しいの。勿論、パーティー当日もよ」

 

「え?だ、誰を見張るの?」

 

「二年の板橋渉くんと杉並くんの二人よ」

 

雪姉は溜め息混じりに言う。

 

板橋先輩と杉並先輩……。

この学校にいて、この二人の名前を知らない者はいない。

 

風見学園高等部は、昔から何故かイベントの多い学校らしい。

春の新入生歓迎パーティー、体育祭、秋の文化祭、クリスマスパーティー、そして卒業パーティーとイベントが目白押しだ。

 

そのイベント毎に毎回、暗躍しているのが板橋先輩と杉並先輩の二人なのだ。

 

前回の文化祭では、売り上げナンバーワンのクラスには、豪華賞品が生徒会から贈呈されると聞けば、板橋先輩はエレキギターとアンプを持ち出し、他のクラスの催し物の前で、これでもか!ってぐらい馬鹿デカイ音量で演奏したり、杉並先輩は口コミを利用して、他のクラスの評判を軒並み落としにかかり、ちゃっかり自分のクラスに客を招き入れていた。

 

しかも、何が凄かったって杉並先輩たちのクラスの中に入ったら、キャバクラみたいな接待をされたことだ。

超爆乳の人や、銀髪ロリっ娘の先輩方がエロいパジャマで接待していたのだ。

 

ああ……。あれは最高でした!

またやってくんないかなぁ……。

爆乳先輩とロリっ娘先輩に、また挟まれたい!

 

なんて願望をしていると、隣と正面からから突き刺さるような視線を感じた。

 

「ヒッキー?なんか、いけないこと考えてるよね?」

 

「八幡?まさか文化祭の時みたいにノコノコ杉並くんに着いていって、また御相伴に預かろう。なんて考えてないわよね?」

 

え?!何で俺の考えてる事が分かるの?怖ぇよ!

 

二人とも笑顔だった。

笑顔なのに目元は鋭かった。

こういう接待は遠慮させてもらいます。

 

「べ、べべべべ別に何も考えてねーし……」

 

二人の笑顔が怖すぎて、どもっちゃうのは仕方ないよね!

 

プイッと顔を反らす。

 

「はぁ~…。あなた、あのキャバクラ擬きで遊んでいたことを全く反省してないようね?」

 

溜め息を吐いたあと、雪姉は絶対零度の視線を俺に向けてきた。

 

約二ヶ月前の文化祭。

杉並先輩の口車に乗せられた俺は、例のキャバクラ擬きに案内され、爆乳先輩とロリっ娘先輩の二人に接待されていたのだが、突然、教室のドアが勢いよくバーン!と開くと生徒会役員の連中がワラワラ入ってきたのだ。

 

怪しい商売しているクラスがあると生徒会にタレコミがあったらしく、生徒会オールスターで家宅捜査に乗り出したらしい。

 

勿論その中に雪姉もいたわけでして、見つかるとヤバイ事になるのは火を見るより明らかだし、さっさと逃げようと、こっそり気配を消してステルスヒッキーになり教室を出たのだが……。

 

何故か廊下に結衣が仁王立ちしていた。

 

後から聞いた話しでは、杉並先輩に声を掛けられた俺を見ていた結衣は心配して後を付けていたらしい。

余計な事を……。

 

それから家に帰ってからが地獄だった……。

 

結衣には散々、馬鹿だのエロだのキモイだの罵倒を浴びせられ、雪姉に至っては、約三時間も正座させられ、気持ち悪いだのエロ谷だの言われ、挙げ句の果てには本当に通報しようとしていたのだ。

 

「そ、そんな事より杉並先輩と板橋先輩だろ?」

 

身の危険を感じた俺は、強引に話しを戻す。

 

「ヒッキー、怪し過ぎるし……」

 

「強引な話題転換ね。でも、もしもまた同じような手口で、あんな如何わしい場所に行くのなら覚悟なさい?前は三時間程度のお説教だったけど、次は一晩中お説教になるわよ」

 

にっこりしながら『お説教』と言っているが、あれはお説教と言うより拷問だった気がするんだよなぁ……。

あれを一晩中やられたら、もう死んじゃうよね?

 

「は、はい。気を付けま……」

 

「ふあーはっはっはっ!!久しいな、比企谷八幡!」

 

突然、背後から高笑い聞こえてきた。

振り返ると、ニヤッと口の端を吊り上げた杉並先輩が俺を見ていた。

 

「ふふ~ん。相変わらず、その他人を拒むような腐った目は素晴らしいぞ!同士比企谷!」

 

「いや……。俺、先輩の同士になってないですからね?」

 

こんな学校側から目をつけられるような目立つ人とは関わりたくないです。

 

怪しく鋭い目付きに、挑発するような不敵な笑い。

身長は180cmぐらいあり、スラッとしている。

普通にしていればモテそうなのに……。

 

「ふっ。何を言う、同士比企谷!我々は、あの日あの時あの場所で将来を誓った仲ではないか!」

 

「何をワケわかんない事言ってんすか?大袈裟に両手を広げてムダアピールすれば好感度上がればこっちのものとか思ってるなら出直して来て下さい。ごめんなさい」

 

俺は早口で捲し立て、ペコッと頭を下げる。

「うわ……。ヒッキーそれ、いろはさんの真似だよね?似すぎだし……」

 

おい。似てるなら引かないで誉めろよ!

何で若干、可哀想なものを見る目になってんだよ?本気で泣いちゃうだろ?

 

「で?杉並くん。彼に何の用かしら?ろくでもない事に八幡を捲き込もうとしているなら許さないわよ?」

 

雪姉は腕を組ながら、杉並先輩を睨み付ける。

それを軽く受け流すように、杉並先輩は「ふっ」と浅く笑う。

 

「雪ノ下雪乃か。前回の文化祭で貴様にしてやられたが、今回は我が非公式新聞部が貴様ら生徒会を完膚なきまで叩き潰してやるから、首を洗って待っていろ」

 

ニヤリと笑う杉並先輩に、雪姉も不適に笑う。

 

「ええ。返り討ちにてあげるから、いくらでも相手してあげるわ」

 

しばらく二人は火花を散らせながら「ふふ……」と笑いながら睨み合ってた。

 

俺はチャンスと思い、結衣に内緒話しをするように、結衣の耳元に顔を近づける。

「なぁ結衣。もう教室行かね?杉並先輩も特に用もないっぽいしさ」

 

「え?あぁ、そうだね」

 

「よし、早くズラからろう。何かここ、凄く目立って嫌だ……」

 

さっきから登校して来る生徒達がチラチラこっち見てるし。

ぼっちは他人の視線に敏感なんだよ。

 

結衣とこの場をこっそり離れようと、一歩後ろに下がり登校してきている連中に紛れて去ろうした瞬間、誰かが俺の肩を掴んだ。

 

一瞬ビクッとした俺は、肩越しに掴んだ相手を見る。

 

「どこへ行く?比企谷八幡。まだ俺の用は済んでないぞ?」

 

ニヤリと笑う杉並先輩だった。

 

「あ、いや……。雪姉と仲良くやってらっしゃたので、俺たちは邪魔かなぁ……なんて。ははは……」

 

「八幡?いくら私が天使のような優しい存在だからと言っても、その男と仲良くしているだなんて冗談でも言わないでちょうだい。分かったかしら?」

 

雪姉はにっこり笑顔のまま、ゆっくり俺に近付いてきた。

 

てか、誰が天使だぁ?

お前は天使っつーより、鬼とか悪魔って感じだろうが!

 

などと雪姉に言える筈もなく、俺は「は、はい……」としか返事ができないのである。

 

「ふむ。ところで比企谷。俺の用だが……」

 

杉並先輩はそこで言葉を切ると、また大袈裟に両手を広げて言い放つ。

その表情は、いつになく真剣そのものだ。

 

 

「俺は、心の底からお前が欲しい!!」

 

 

「……は?」

「……え?」

「……へ?」

 

俺、結衣、そして雪姉も全員ポカーンとアホ面を晒していた。

 

い、今なんつった?

俺を……欲しい……だと?

 

「…………」

 

いやいやいやいやいやいや!!

いきなり何言っちゃってんのこの先輩!馬鹿なの?死ぬの?

俺が男と付き合うわけないっつーの!

 

他の二人の反応も同じだろうとチラッと結衣を見ると、何やら雪姉とブツブツ言い合ってる。

 

「成る程……それは盲点ね……」

 

「いやいや!お姉ちゃん、駄目に決まってるし!」

 

「結衣。よく考えてみてちょうだい?」

 

「…………。あ、いいかも……」

 

おい、そこの阿保姉妹!聞こえてるぞ!

つか、結衣!お前は頬を染めながら「あ、いいかも」とか言ってんじゃねーよ!

 

まさか、この二人は既に手遅れなのか!?

腐女子の姉妹と幼馴染みなんて嫌だ!

今後、付き合いを考えようかしら?

 

「ふふん。さぁ返事はどうした?比企谷八幡!!」

 

何故か自信たっぷりの表情で俺の返事を待つ杉並先輩。

 

いや、返事も何も決まってんじゃねぇか。

 

「丁重にお断りさ……」

 

「いいわよ」

 

俺が断りの返事をしていると、雪姉がそれを遮ってきた。

 

「って、おいいい!!雪姉ぇ!俺にそんな趣味ねぇーよ!分かれよ!なんなら俺の部屋のスピーカーの中とか、ベッドのマットレスの下とか、リビングのソファーの背もたれの裏とか調べてみろよ!ホモな本やビデオなんて一切ないハズだ!」

 

テンパってしまった俺は、勢いに任せて一気に捲し立てた。

俺はノンケだから!

他人にどう思われても構わないが、これに関しては断固否定させてもらう!

 

「……ふ~ん。ヒッキーそんな所にエッチな本とか隠してたんだ?」

 

「……え?」

 

結衣がジト目で俺を睨みながら、繋いでる手をギューッと力を込められている。

 

ちょっとガハマさん?地味に痛いんですけど……。

 

「どうりで男子高校生の部屋のわりにエロ本がないわけね。定番のベッドの下とか本棚の裏とかいくら探しても無いわけね。さすが小賢しい事に関してはプロ並みね?」

 

「……へ?」

 

雪姉は雪姉で、ハイライトを消した瞳でにっこりしながら近寄ってくる。

 

あ、あれ?

俺、勢いに任せてとんでもないこと言っちゃった?

 

てか、雪乃お姉さま。人の部屋を勝手に入って家探ししてたの?

 

「ふふん。同士比企谷よ。焦っていたとは言え、冷静に対処しなければな。しかし、リビングのソファーの背もたれの裏……か。なかなか大胆な発想をするじゃないか!ふあーはっはっはっ!!俺でも思い付かんぞ!益々ほしくなった!」

 

「「うるさい!」」

 

「むぐっ……」

 

高笑いした杉並先輩に、雪姉と結衣はシロクマもビビって海にダイブしちゃうくらい冷たい視線を喰らい、口を紡いでしまった。

さすがに杉並先輩といえど、美少女二人には勝てなかったらし。

 

そして二人の美少女は俺に向き直る。

冷たい視線のまま……。

 

やばい……。

 

そう感じた瞬間。

神は俺を見捨てていなかった!

 

キーンコーンカーンコーン

 

ナイスタイミングで学校のチャイムが鳴ったのだ。

 

「ほ、ほら!結衣も雪姉も遅刻しちまってもいいのか?早く行くぞ!」

 

思いのほか強く握られていた結衣の手が、少し弱くなったのを見計らってスルッと手を離す。

 

それから俺は一目散に自分の教室へ向かった。

 

「あっ、コラ!ヒッキー!」

 

「八幡!待ちなさい!」

 

「同士比企谷!お前の気持ち、しかと受け取ったぞ!」

 

走り出した俺の後ろが何やら騒いでいたが、俺は無視して冬晴れの青空の下、全力で昇降口へ向かうのであった。

 

 

3へ続く。


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