GATE、紫もやしと呼ばないで   作:黒ウサギ

8 / 8
賛否両論色々ありますが、続くぜ


紫もやしとひと騒動

 

 私は荒れに荒れていた。

 どれくらい荒れていたのかと言えばロゥリィに本気で心配される程である。

 つまり暴飲暴食であった。

 

「おかわり」

 

「パチェさん、流石に飲み過ぎじゃ・・・」

 

「おかわり」

 

「もう買って来たものも無いのですが・・・」

 

「おかわりったらおかわりなのぉ!!」

 

「幼児退行してる・・・」

 

 自身の出自に関して少しだけ駄目な感じに考えてしまった結果がこれである。

 現在私達は伊丹の元妻の部屋を訪れている。ここに来るまでに色々と騒ぎがあったが、別に私には大して影響も無いので触れないでおくとする。そもそもが記憶に残るほどの物でも無かったわけで、ぶっちゃけそちらに意識を割いている余裕も無かった。

 日本酒を五本ほど開け、ぼんやりとする脳でもう一度だけ考える。

 冷静とは言えない現状で考えても意味が無いかも知れないが、流石にあの考えが暴論が過ぎたかもしれない。

 今回は偶然門が繋がった先が、私が生存している世界だったのかも知れない。世界と言うのは些細な行動で幾重にも分岐する、まるで木の枝の様に。過去の私が生きていた世界がここで、死んだ世界が別に存在しているのであれば、まだ受け入れられる。

 

(流石に偶像と言うのは、飛躍し過ぎたかも知れない・・・)

 

 ともあれ、あれもこれも考えても結果は出ない。また新たな門がつながる事があれば可能性として過去の私が存在しない世界に辿り着くかもしれない、そうなればこの仮定も確証を得る事が出来るが、そう何度も門が繋がる事は無いだろう。

 一先ず、今は何にせよ酒に溺れるとしよう。仮に私が意識の集合体だとしても今生きている事には変わりない。ならばこそこの生にも何か意味がある、と思う。

 因みにだが、この部屋には様々な結界を施している。周囲の人から意識を逸らす物や音を遮断する物だったり様々。私が騒いでいるのだから、せめてそれぐらいはしておかないといけない。

 更に因みにであるが、ピニャとボーゼスは只管薄いブックを読み続けている。日本文化が異世界に与える影響が割と危ない物となっている気配を感じた。

 

 皆が寝静まった頃に、梨紗と富田が伊丹と何故別れたのか話していた。それを私は寝たふりをしながら耳に入れる。現実逃避は止めよう。伊丹がレレイと腕を組むようにして寝ている。事案発生な気配を感じるのだが・・・。面白いから放っておくとするのだが。

 

 明けて翌日。伊丹の発案により私達は日本を楽しむこととなった。梨紗も物凄く乗り気であるし、栗林もなんだかんだ言って買い物には肯定的だ。レレイもテュカも買い物、と言うか日本に興味を持っていたのでこの機に多くの事を体験し、知ってもらうのも良いだろう。神官の服を着て満足しているロゥリィであるが、いざ日本の所謂ゴシックでロリータな服を見れば満足してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、あれだけ買い物に乗り気でなかったロゥリィであるが、いざ服屋の辿り着けば態度を一転させ年頃の少女の様に楽しんでいる。その様子を私は店の外から眺めている。何故かって?クレープ食べてるからだよ。

 車による移動販売のクレープ屋であるが、中々に面白いラインナップが並んでいた。ドリアンクレープとか誰か買う人がいるのだろうかと疑問に思うが、こうしてメニューに並んでいるのなら売れる事もあるのだろう。

 因みに私は無難にチョコバナナとストロベリーの二つを頼んで食べている。クレープを食べ終えた後は少し離れた所にある全国チェーンの『金たこ』で揚げたこ焼きとクロワッサンたい焼きを食べるつもりだ。お金は伊丹から渡されてあるし、そもそもそれを使わなくても私自身どこかしらで換金して来ればいい話。まぁ使っていいと言われたお金なのだし盛大に使うつもりなのだが。

 

「パチェさんは服に興味が無いの?」

 

 そうして食に溺れていた私に梨紗が声を掛けて来た。部屋の状況から見て察していたが彼女は伊丹と倉田と同じ人種である。私の容姿を見た直後に発狂していたが、今ではその様子も見られずに普通に接してきてくれている。変に気を使われる必要も無いのでありがたい事だ。

 

「私はそもそも服に興味が無いのよね。ロゥリィと違って正装とか言う訳では無いのだけど、如何せんこの服には色々魔法が掛けられているし、新しく服に魔法を掛けなおすのも手間だしね」

 

「なるほどねー」

 

「分かっていないでしょう、貴女」

 

 あははー、と誤魔化すように笑った梨紗にこちらも苦笑を漏らしながら買い物が終わるのを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって指定された旅館に向かった私達である。その旅館には既に幾人かの、隠れたような気配が見られたが要するに日本政府が監視の為に配置した人材だろう。その他にも気配がするが、そちらは政府の方々が何とかしてくれると信じてる。要するに他人任せなのだが。

 部屋に荷物を置いて、早速温泉に向かう事となった。

 源泉かけ流しとなったこちらの旅館なのだが、体を洗わずに飛び込もうとしていた特地の住民が、まぁロゥリィなのだが抱き抱えられている。私は一人桶を手に持ち湯を浴び軽く身体の汚れを洗い流す。

 その様子に栗林も梨紗も驚いていたが、まぁ何故温泉の作法を知っているのかと不思議に思っているのだろう。

 

「気にしたら負けよ、良いわね」

 

「まぁパチェさんなら知ってても可笑しく無いのかもねぇ」

 

 梨紗が何処か諦めたかのように声を出すが、実際考えても意味が無いと思っているのだろう。一先ず栗林や梨紗を真似て皆が体を洗ってから温泉に浸かり始める。

 浴槽に浸かったと同時に声が漏れてしまうが、それも醍醐味の様な物だ。何も無いのも寂しいのでお猪口とお酒を転移させる。温泉と言えば風景を見ながらお酒を飲むのが基本。ただその風景がお湯に浮く桃だったり自然だったりと様々だが気にしないで貰いたい。

 さてさて、富田の悲痛な叫び声も聞こえてきたがそれは敢えてスルーする事があったが触れないでおこう。

 と言うか先程から地味に外が騒がしい。気が付いているのは私とロゥリィだけ。伊丹が何かしら知っているかもしれないが、一般人である梨紗に心配を掛けないようにしているのだろう。流石は元夫と言うべきか、そもそも彼に恋愛感情があったのかすら疑問であるが、今は置いておこう。

 女性陣は部屋で酒盛りをしていたのだが、酔っぱらった栗林とロゥリィが男性二人を拉致してきた。ご愁傷さまとしか言えない。当然の様に二人も酒を飲まされ酔いつぶれ、気が付けば皆が寝る支度を終え横になっていた。

 そんな中、私は一人外に出て体を冷ます。空に浮かぶ月は雲に隠れる事無く光を届け、そこらかしらを照らしている。

 少しだけ酔いが冷めてしまったので、部屋の中に置いてあった缶ビールを手元に転移させる。

 

「ま~だ飲んでいるのかしらぁ」

 

「ロゥリィ、貴女も人の事言えないでしょう。グラス片手なんだから」

 

 部屋からロゥリィが私の隣まで歩み寄ってきて、私達は静かに飲み続ける。

 

「パチュリー、何かあったのぉ?」

 

「何かあったかと問われれば、あったと返すしかないわね」

 

「そぉ・・・」

 

 それ以上ロゥリィは何か聞いて来ることは無かった。私が何時かその話を言ってくれることを待ってくれているのだろうか。

 月明りに照らされるロゥリィは妖艶であった、異性の目を惹き付けるその様は同姓の私から見ても凄まじい色気を放っている。その証拠に部屋の中から伊丹がこちらを窺っている。その視線はロゥリィの肌蹴ている浴衣の中に視線が向けられていた。

 

「ロゥリィ」

 

「別に良いわよぉ、減る物でも無いし、隠す程自分に自信が無いわけじゃないものぉ」

 

 流石ロゥリィ、私には出来ない事を平然とやってのける。ロゥリィは伊丹の様子に不敵な笑みを浮かべ部屋に戻っていく。色々と溜まっている物を晴らしに行くのだろうが、如何せん隣で寝ている人達がいるのだから騒がしくしない事を願う。まぁ面白そうだから見に行くんだけどね。

 ふわりと浮かび、部屋の外から中の様子を見る。押し倒された伊丹の上にロゥリィが跨り、見ようによっては既にドッキング状態に見える。えっちぃです。

 しかし伊丹、目の前に美少女・・・少女?まぁ美女がいるのだから据え膳食わぬは男の恥であろう。見た目通りの年齢ではないのだし、法律なんて関係ないと思うのだが・・・。

 少しだけ意地悪をしてやるとする。未だ踏ん切りのつかない伊丹の手を糸で操りロゥリィの胸元に接触させる。

 

「あんっ」

 

 先端に触れたからなのか、ロゥリィが艶っぽい声をあげ少しだけ震える。それでも伊丹は鋼の意思で我慢していた。日本男児って凄い。

 ピリリリと音が響く、伊丹の所持する携帯から発せられた甲高い音に、ロゥリィは興ざめしたのか、立ち上がりハルバードを片手に外に飛び出した。

 何人かの物騒な考えをした人達がこちらに向かって来ている。それに気が付いたのだろう。庭に置いてある岩の上に立ちながら来るのを待つロゥリィ。その様子からして、邪魔されたことにご立腹な様子であった。

 各国の皆さまご愁傷さまとしか言えない。何せ顔を合わせた瞬間にロゥリィが動き出しそのハルバードを振り回し舞う様に動き出した。

 

「血飛沫!」

 

 眼前に飛んで来た誰かしらの腕を平手でたたき落とす。

 

「ロゥリィ、服が汚れるからこっちに飛ばさないで欲しいのだけれど」

 

「アハハハ!」

 

 聞いてくださいお嬢さん。ともあれ、お迎えと言う名目で拉致しようと考えていたのかは分からないが、各国の皆さまが素敵に不気味なオブジェクトに成り果てている。

 お酒を飲む前から人の命が消えていくのを感じ取っていたからなのか、今のロゥリィは軽くハイテンションである。私の声も聞こえていないようなので大分溜まっていたのだろう。何がとは言えないが。

 ロゥリィの相手の人達は殺されてなる物かと銃で応戦している。ロゥリィはその全てを完全に回避する事が出来ずに被弾しそうになるが、彼女に当たる前に何かにぶつかりその場に落ちる。 

 まぁ何かと言っても私の障壁なのだけど、あっても無くても彼女にはそこまで被害は及ばない。現にハルバードで銃弾を弾いている訳だし、余計なお世話だったのかも知れない。

 さてさて、死屍累々の惨状となった庭なのだが、これ誰が掃除するのだろうか・・・。この旅館を所持している人がやるのか、果たして日本政府がやるのか・・・。

ともあれ、誰も居なくなった。な状態になったので私達は場所を移動する事にした。

 


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