でもエリス教に入団してるので浮気になってしまうこのジレンマ。
このままではまずいと判断したのか、何故かロゥリィを含めレレイとテュカの三人は自衛隊が仕留めた翼龍の鱗を売って資金源として活用するつもりらしい。大方そこにロゥリィが混ざっているのは面白そうだから何だろうけど
「第3偵察隊がイタリカに、ねぇ・・・」
「パチュリーも来るぅ?きっと楽しい事になるわぁ」
ロゥリィが私も誘ってくるのだが、別に私はイタリカに向かう必要なんて無いわけで、無駄な厄介ごとの匂いがするために行きたくも無い。
であれば、現在避難民の指揮を執っている形になっているカトーに魔法を教えたり、通訳として勉強を始めているテュカの父であるホドリューに日本語を教える方が今後を考えればよっぽど良いだろう。
一度は伊丹達に此方の言葉を教えようか考えたのだが、保護してもらう立場の言語を覚えるよりも此方側が日本語を覚えるのが筋だろう。
「まぁ私も色々とやることがあるし、イタリカに行く事は無いわね」
「え~、つまんないのぉ~」
ぶぅぶぅと頬を膨らませるロゥリィの頬を突いて空気を噴出させる。相変わらずこの子は子供っぽいと言えば良いのか、もう少し真面目になってほしい物である。が、今更どうのこうの言った所で改善されることは無いだろう。
「パチュリーさんは、ついてこないのですか?」
隣に座っているテュカが少し寂しそうに聞いて来るが、今回は私は辞退しておく。
「パチュリー、通訳に就いてだが、イタリカに行く自衛隊にも通訳が必要だと思うのだが」
それを言われると否定できないのが辛い。レレイも頑張って日本語を習得しているのだが、まだ日常会話が覚束ないところがある。それを考えればイタリカに行く自衛隊に通訳が着いて行く方が良いのだろうが・・・。通訳出来る人現状私しかいないんだよなぁ・・・。
ぴちょんと水滴が落ちる音が響き、浴場は静寂に支配される。
そう、何を隠そう現在私達は自衛隊が設置してくれたお風呂に入っている。私は元日本人の習慣だったからなのか家にお風呂は作ってあるが、巡礼の旅を続けるロゥリィ、流浪の民であったレレイ、そしてエルフのテュカは風呂に浸かるというのは経験したことが無かったらしい。
皆思い思いに浴槽で寛いでいる。
私?魔法でジャグジー再現したり、電気風呂をやったりと楽しんでます。レレイに魔法の無駄遣いと突っ込まれたが同じ様にジャグジーを味合わせてあげたら現在も満喫している。
さて、話を戻すとしよう。
レレイ一人では不足してしまう通訳の仕事であるが、私が同行すれば問題は無くなる。その場合に今度は此方の通訳がいなくなってしまうので、避難民とのコミュニケーションを取れる人がいなくなってしまう。ホドリューも頑張ってはいるのだが・・・。
ちらりと横を見ればテュカが期待したようにこちらを見てきており、レレイにロゥリィも此方を見てきている。
これは、諦めるしかないなと溜息を溢し。私はイタリカに同行する事に決めた。
◆
さて、イタリカに同行するにあたって、私は『猿にもわかる日本語講座』を作り上げた。解説だけでは無く絵もしっかりと記載してあるので子供でも理解出来ると思っている。それを一先ずホドリューに預け、これで駐屯地の通訳問題は解消されたと思う。思いたい・・・。
で、現在は翼龍の鱗を積んだ自衛隊の車の中になっている。向かうメンバーは先程浴場で一緒したロゥリィ、レレイ、テュカに第3偵察隊の面々となっている。かなり大勢になってしまったが、イタリカの現状を見るにこれでも足りなかったかも知れないと溜息を溢す。
最近溜息をする頻度が高くなった気がするのだが、これも全てロゥリィのせいだと思う事にしよう。
正式名称イタリカ城塞都市。巨大な城壁に囲われた活気のある都市だったが、現在は活気など見られずに陥落寸前となっている。
未だ幼い当主のフォルマル伯爵令嬢ミュイに代わり指揮を執っていた・・・ぴにゃこら太?に話を聞かせて貰ったが、これは連合諸王国軍の敗残兵が攻めてきているらしい。
連合諸王国軍って何だという顔をしていた伊丹に、簡単に説明しておく。
「門が出来たアルヌス。そこに貴方達が現れて直ぐに襲われた事があったでしょう?襲ってきたのがその連合諸王国軍」
つまり広く考えればこのイタリカの惨状の原因は自衛隊にもあると考えられる。まぁこれは最早屁理屈と言っても良いかも知れないが・・・。
それを聞いて伊丹が何を思ったかは私には分からない。ただ、伊丹はピニャに頼まれた結果、盗賊の撃退に力を貸す事になった。
「私は手を貸さないわよ?」
「な、何故です!?賢者であられるパチュリー様が手を貸してくれるのであれば、被害は最小に留まります!貴女も帝国の民を思うのであれば、力を貸していただけないでしょうか!」
現在、私はピニャに呼ばれて一人彼女と対面する形で話をしている。と言っても、彼女が一方的に自分の要望を述べるだけなのでこれは会話しているとは言えないだろう。
「まず一つ訂正するわね、別に私は帝国がどうなろうと、民がどうなろうと知った事ないわ」
「な、それでも貴方は人間か!?」
「人間じゃなくて魔女よ。まず、仮に私が力を貸したとして貴女達は対価として私に何をくれるの?まさか何も考えて無かったとは言わないわよね?」
「それは・・・、私から父に話して領地を融通してもらい、貴族として帝国に迎え入れ・・・」
「論外ね、領地何て私には要らないし貴族になって得するのは何?私にはそれは得では無く損に思えるのだけど」
「・・・・・・では、パチュリー様が望むものを教えていただけないだろうか」
「和食、貴女達の敵である緑の人。つまり自衛隊が存在する日本の料理ね。用意できるのかしら?」
「・・・・・・」
遂に黙り込んでしまったピニャを放置し、私は紅茶を一口飲む。少し意地悪だっただろうか。だけどこうして話を聞く限り、彼女は政治的な話をするのに向いていない。何と言うか民の為に動く騎士に憧れを抱いている節がある。
お前王女何だからそこんところ頑張れよと思わないでもないが、帝国現国王が何時までも王位を譲るつもりが無いし、彼女の上には何人か兄がいるはずなので彼女は放任されていたのだろう。まぁ全部想像だけどね。実際どう育って来ていようが私には関係ない。
「それに貴女、何で伊丹達を南に置いたのかしら。逃げ帰った兵士から彼らがどんな戦いをするのか聞いていないの?」
「自分の目で、確かめろと・・・」
まぁ自衛隊の戦いは自分の目で見ないと伝わりにくいだろう。しかしその教えてくれた奴も少しくらい情報を出しても良かっただろうと思う。
さて、どうしたものかと紅茶を一口。あんなことを言ったが別に手を貸すのが嫌と言う訳では無い。だけど私が帝国の為に力を使ったと勝手に判断され、それが誇張され私が帝国に所属しているなんて事になったらただ只管に面倒になる。そんな事したら帝国滅ぼすけど。
未だ悩み続けるピニャを見て、今回だけ助けてあげる事にする。一つ条件を付けたしておいたが。
簡単な事である、私が手助けしたことを言いふらさなければ良い。それだけ、仮にこれで帝国に有利な噂が流れたら二度と帝国の利になる真似はしない。
「まぁ私も南に向かうとするわ。それで良いでしょう」
「ありがとうございます!」
もう用は無いと私は部屋を後にし、南門に転移する。
突然私が現れた事に誰も驚かない辺り、完全にこの世界に毒されてきているのかも知れない。要するに慣れてしまったのだろう。一先ず近くにあった椅子に座り、本を取り出す。時間的にまだ日は落ちて来ていない、盗賊が来るまで暇なのだ。
「伊丹、面白い話してちょうだい」
「無いっすよパチュリーさん」
「じゃあ倉田、そこから飛んで見て」
「死ぬっす」
「黒川と栗林、空飛んでみたくない?ヘリを使ってじゃなく生身で」
「飛んでみたい!」
「では、私も一緒に」
男性陣から差別反対とブーイングを頂くが気にしない。後でちゃんと同じようにしてあげるから。
黒川と栗林を近くに来させ、彼女達の額をトンと叩く。すると彼女達の頭上から魔法陣が二人を包むように落下し、準備は完了。
「難しい事では無いわ、自分が思った通りに飛ぶ、それだけ。思い浮かべて見なさい、空中を自由に飛ぶ自分の姿を」
二人は目を瞑り、思い浮かべる。
するとまず先に黒川が、次いで栗林が地面から離れ空に浮かぶ。二人が混乱しないように私も並ぶように空に浮かび、念の為レレイも呼び寄せる。
「レレイ、申し訳ないけど栗林をお願い。さて、二人とも目を開きなさい、何かあれば私とレレイが対処するから落ち着いて」
「栗林、不安なら私の手を掴んで。私が先導するから」
黒川は手助け無く、栗林は最初こそレレイに手を引かれて飛んでいたが暫くすると一人で飛び始め
「ヒャッホーゥ!」
猛スピードで空中を飛び回っていた。
「新鮮な体験でした、自分で空を飛ぶなんて普通に生きていれば経験できませんでした」
「何事も経験しておいて損は無いわ、とは言え私がいないと空を飛ぶなんて向こうでは無理でしょうけどね」
そうして栗林が飛び回り満足するまで暫くの間、私と黒川、羨ましそうに混ざって来たテュカの三人でのんびりと過ごした。
◆
夜間、時刻的にはそろそろ朝日が昇ろうとする頃だろうか。それはやってきた。
なんて仰々しく行ってみたが盗賊が来ただけである。東門に。
ねぇピニャ今どんな気持ち?囮として手薄な南に自衛隊置いたのに実際は東門攻められてどんな気持ち?
「駄目っ、我慢できなくなっちゃう・・・」
ロゥリィが悶えているが、東門で戦闘が始まったのだろう。つまり死者が多数出ているという事。こういった戦場にロゥリィがいると、死んで行った者の魂は彼女を経由してエムロイに還元される。その際に大変情操教育によろしくない声を出すのだが、今欲情するバカはいないだろう。
さて、東門の様子を遠見してみる。あらまぁ阿鼻叫喚、正規兵は頑張っているが、民兵は流石に錬度が足りてないからか狙われ始めている。これは早いところ向かわないと壊滅も時間の問題だろう。
伊丹達自衛隊と言えば暗視機能が付いている何かで向こうの様子を確認していた。念の為に伊丹が救援要請を出し、その直後にロゥリィが駆けだした。
「我慢が嫌いだものねあの子」
「いやパチュリーさん何そんな悠長に!?あぁもう栗林、富田!車に乗れ!残りは念のためここで待機!」
伊丹を含む三人は車に乗り込み、ロゥリィを追うようにして走り出す。
それを見届けた私は一人手早く東門に転移した。