GATE、紫もやしと呼ばないで   作:黒ウサギ

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続いた・・・?(困惑
評価にブクマまで頂き感謝です


紫もやしと自衛隊

 

 帝国の侵略が失敗に終わる。

 帝国の侵略軍の若干名が門を抜けて国に戻り報告をする。僅かな間に日本は門の向こう側、私達が言う『アルヌス』に陣を敷いた。要するに、帝国もしくは他の国家の連盟軍が攻めてくる可能性があるので迎え撃って日本の激おこパワーを見せてやるつもりなのだろうと私は思っている。まぁその予想が当たろうが外れようが私には関係ない。

 懐かしき場所への、日本への門が開いたのであれば生前の様過ごしてみるのも良いかもしれない。まぁその前に和食が食べたい、おいしいご飯をお腹一杯食べたい。如何せん私には必要最低限のそれこそ煮る焼くと言った簡素な料理を作る事しか出来ない。つまり食べ歩きしたい。

 

「随分早いお目覚めね」

 

 ぽつりと呟いたその声は、本来であれば後50程年が終わってから目覚める筈だった強大な存在に対する言葉。確か・・・100年周期だったか、誰かに起こされたのかもしれないが、誰がやったにせよいい迷惑であることは変わりない。

 意識を集中してその存在の居場所を辿ってみれば、既にこちらに向かって来ている。つまり目的は腹ごしらえだ。

 

「今は、森の中に誰か住んでいるのかしら」

 

 深い深い森の中に住み込んでからどれくらいの月日が経過したか、500年程前にエルフと言う種族を名乗る集団が押し寄せてきたが私の存在に気が付く事無く日々を過ごしている。まぁ気付かれないように家全体、そこからある範囲までを結界で覆っているのだが・・・。そんな昔の記憶の中で、そういえば50年程前に一人のエルフが迷い込んできた事を思い出す。確か名前は・・・

 

「テュカ、だったか」

 

 何故か結界の中に迷い込んできていたエルフの子供、私を見るなり抱き着いてきた若干危険な感じがする女の子。ただそれでも、彼女と過ごした一日は日頃人と関わることが少なかった私からすれば楽しい時間を過ごすことが出来た。可能性からすれば、既にもう手遅れかも知れないが向かうだけ向かって見る事に。

 幸いと言えば良いのか、私がいる森からテュカのいる森まではそう遠くは無い。だけど念のために、転移で向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コアンの森は火に包まれていた、木々が激しく燃え動物たちは逃げ回り、エルフ達は立ち向かい殺される。一方的な虐殺と言っても良いだろう。

 目覚めた炎龍の空腹を満たすために狙われたエルフ達、叶わないと知っていても抗って、炎龍のブレスで燃やされ、その牙で噛み砕かれ、その爪で切り裂かれる。心が折れた者達は走り逃げ回る。炎龍はその様子を楽しそうに見ていた。

 その炎龍の視界に、二人のエルフが映る。少し年老いた男性とまだ若々しい女性のエルフだ。女性の、それも若い肉は上手い。先程から食べている中で気が付いた事であり、炎龍は自身の赴くままにその二人を追った。

 威嚇のつもりでブレスを吐き出し、当たるか当たらないかのギリギリでブレスを止めて煽る。

 そうして、逃げる事を諦めたのか二人は井戸の手前で動きを止めた。嫌な予感がした炎龍は翼をはためかせて食らいつかんと口を広げて襲い掛かる。

 

「トカゲ風情が、止まりなさい」

 

 普通であれば、そのエルフを食べて終わりとなる筈だった。

 だが、エルフを食う事は叶わずに、寧ろ何故か自分は動きを止めている。

 

「無事かしら、二人とも」

 

「貴女は・・・?」

 

「パチュリーさん・・・?どうしてここに・・・」

 

「あら、友達を助けに来ることは可笑しな事かしら?」

 

「助けに・・・」

 

 驚愕したまま動かないテュカと、もう一人の男性を背後に回し。私は炎龍を睨みつけた。

 炎龍は望んだ結果が起こらなかった事に激怒し、灼熱のブレスを吐き出す。

 

「先程からブレスだけなのは、知恵が無いのかそれしか出来ないのか。所詮はデカいだけのトカゲね」

 

--私の相手になりやしない。

 

 吐き出されたブレスを悠々と受け止めた私は、お返しと言わんばかりに大量の水を生み出して森の消火を同時に行いながら炎龍の動きを止める。

 

「荒れ狂え、タイダルウェーブ」

 

 炎龍の周りに出現した大量の水は渦を巻く。渦を巻きながら森へと水しぶきを撒き散らし、森の火災は沈下されていく。

 私は流れるように手を空に掲げ、指を鳴らす。

 森林火災と言う巨大な火災が起き、空には雲が集まってきている。私は少しだけその雲に魔力を向けて動きを定め、積乱雲を作り上げる。やがてその積乱雲からは雨が降り、風が吹き、雷が鳴り響く。

 準備が出来た事を見計らい、唱える。

 

「死にはしないけど、叶わないと理解しなさい。逃げなさい、今なら命は取らないわ」

 

--インディグネイション

 

 いくら魔法の力でも、これは起こせるモノなのか。テュカはその光景を見て開いた口が塞がらないでいた。天から未だ降り注いだままの雷が炎龍の鱗を剥がし肉を焼く。

 その雷の中から炎龍は命からがら逃げだして行った。炎龍の姿が遠のいて行くのを見届けて私は改めて背後の二人に目を向けた。

 

「さて、改めまして無事かしら」

 

「ありがとうこざいます、パチュリーさん!お陰でお父さんも私も生き延びる事が出来て・・・」

 

「ちょっと、待て、テュカ・・・」

 

 何故か動きが固まっているテュカの父親、一先ず私は一息つくために以前の様に紅茶を取り出す。二人にも飲むかと訪ねれば驚きながらも頷いていた。

 

「先程からパチュリーさんと呼ばれている貴女様は・・・、もしや賢者パチュリー様で・・・?」

 

 賢者と呼ばれるのは大分久し振りである。誰が言いだしたのかは分からないが、特に否定する必要も無かったので放っておいたのだが定着してしまった。最後に呼ばれたのは・・・そうだジゼルが遊びにやって来た時だ。あの子だけは何時まで経っても私の事を賢者と呼んでいる。

 一先ずその言葉に肯定し、紅茶を一口。そしてホドリューの驚愕の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、賢者パチュリーです(ドヤァ

 やめておこう、確実に恥ずかしい。他人がそう呼ぶのであればまだ平気かも知れないが、自称してしまうと確実に黒歴史だ。

 で、現実を見ようか。周りを確認してみれば火災は治まっており炭化している木々が彼方此方に存在している。その中には人の骨が混ざっておりそれが今回の被害を物語っていると言っても良いだろう。

 で、当然これだけの被害を出したという事は遠くからも一目見て分かるほどの災害だったらしく。

 

「陸上自衛隊二等陸尉、伊丹耀司です!」

 

 目の前にいる自衛隊の人がこちらに敬礼してきた。しかも鼻息が荒い、後ろにいるもう一人の男性も鼻息が荒い。

 

(やばいぞ、まじもんのパチュリーだ!姿格好頭から爪先に至るまで完璧なまでにパチュリーだ!)

 

(どうします二尉!?本物の紫もやしなら魔法使えるってことですよね!?)

 

「そこの、今小声で紫もやしと言ったお前」

 

 私が言われたくない言葉トップを言ったそいつの首に魔法で作った剣を突きつける。私の突然の行動に他の自衛隊の人々がそれぞれ手に持った銃を向けてくるが気にしない。

 

「お前がどういう意図をもってその言葉を発したのかは知らないが、私はその言葉が大っ嫌いなんだ。だから、ね」

 

 暗に死にたくなければそれ以上その名で呼ぶなと言う話だ。男は無言で何度も首を縦に振り軽く涙目になっている。その様子に満足し展開していた剣を消す。

 

「二尉、俺死ぬかと思いました・・・」

 

「安心しろ倉田、俺も巻き込まれるかと思って今にも漏らしそうだったっ・・・」

 

 出来れば聞きたくなかったその話に耳を塞ぐ。未だに女性の隊員はこちらに敵意を向けているのだが

 

「そこの女性二人、仮に貴女達が自分の言われたくない事を言われたら、どうする?」

 

 その言葉に二人して成程と納得してしまった。まぁ少しだけ魔法を行使して考える力を落としているのだが納得してもらえて何よりだ。

 これからどうしたものかと考えながら歩いていると

 

「テュカ」

 

 彼女がいたので声を掛ける。するとテュカは驚いたように座っていたから飛び跳ね、こちらに向かって何故か頭を下げて来た。

 

「すすすすすみませんパチュリー様!知らなかったとはいえ今までご無礼を・・・」

 

 段々と声が萎んでいき、終いには泣き声に代わってしまったのでこちらが困ってしまう。

 

「気にすることは無いわ。むしろ今まで通りに接してくれた方が私は嬉しいのだけど・・・」

 

「で、ですが。賢者様であられるパチュリー様に今まで通りとなると・・・」

 

「じゃあ賢者として命令させてもらおうかしら。今まで通り、接しなさい」

 

 そう告げるとテュカは肩の荷が下りたかのように笑顔になってくれた。その様子を見て私もつられて笑顔になる。一先ずそれを確認し、私は彼女の父であるホドリューに声を掛ける。

 

「貴方達、これからどうするつもりなの」

 

「これはパチュリー様。そうですね、他のエルフの集落に行く事を考えましたが距離も遠くそれまでは野宿して夜を明かすしかありません。私はそれでもいいのですが、テュカをその様な目に合わせていいものかと・・・」

 

「なら、あそこにいる自衛隊を頼りなさい。彼らならきっと貴方達を悪いようにしないから」

 

「パチュリー様は、あの緑の服を着た者達をご存じなので?」

 

「伊達に賢者を名乗っている訳では無いわ」

 

 前世の知識ですと言えるわけも無く、ネームバリューで誤魔化しておくことに。ホドリューは私の言葉なら問題ないと思ったのか、早速自衛隊の、確か伊丹と言ったか。伊丹に声を掛けて交渉を始めていた。

 とはいえ、当然言葉が通じる訳も無く、私はその様子を見て溜息を溢しながら通訳を名乗り出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名乗り出ると言っても、彼らとこの先ずっと同行するわけでは無い。そもそも通訳程度なら伊丹に魔法を使えば良いだけであるし、何かしらの魔道具を見繕い渡すだけで良い。では何故私が車に乗って本を読んでいるのだろうか、テュカが寂しがって服を離してくれなかったからだ。

 自衛隊+エルフ二人が向かう先はコダ村と言う森から少し離れた位置にある小さな村だ。まぁ私は別に用事があってついてきているわけでも無いし、たまにはこうして外に出るのも健康的で良いだろう。

 コダ村の村長と伊丹が話をしているのを横目に、私はコダ村を散策する。とは言え先も述べたが小さな村であるし、何か特筆するような珍しいものがあるわけでも無い。これならば車の中に乗って本を読んでいた方が良いだろう。

 そう判断した私は踵を返して車に戻る。擦れ違いざまにコダ村の人々が荷物を荷馬車に纏めている様子が見られた。成程炎龍がまた襲ってくる可能性を考慮しているのか。まぁ多少痛めつけておいたのですぐさま元気に飛び回るという事は出来ないはずだが、気にしていても仕方が無いだろう。

 それよりも今はこの近づいて来ている魔力を持っている人が誰なのかが気になる所。凄まじく綺麗な魔力を感じ取り、私はそちらに視線を向ける。そこには銀髪のショートカットにくりっとした目が可愛らしいその少女がその魔力の持ち主と当たりを付けて、声を掛ける。

 

「初めまして、これは浮遊の魔法かしら」

 

「初めまして、貴女の言う通り浮遊の魔法です」

 

 ふむ、ここまで乱れの無い魔法を使う人は久し振りに見た。誰しも声を掛けられれば僅かながらに魔力に乱れが現れたりするのだが、彼女にはそう言った気配は感じられない。良い師を持ったのだろう。

 

「パチュリー様!?何故このような場所に!?」

 

 声を掛けられ、ん?とそちらを見ればだいぶ前に見た事がある顔がそこにいた。

 

「誰かしら・・・?ごめんなさい私あまり記憶力が無いものだから・・・」

 

「嘘を仰りますな。動く大図書館とも呼ばれていた貴女様が記憶力など無いと申すならばワシ等はどういう扱いになってしまうのやら」

 

「師匠はこちらの人と知り合いなのか?」

 

「知り合いも何も、ワシに魔法を教えてくださったのがこのパチュリー様じゃ。まぁ本人にはその事すら覚えて貰えて無かったようだがの・・・」

 

 あぁ、思い出した。5,60年程前に私の所に一人で辿り着いてきたから気まぐれで魔法を教えてやった・・・

 

「サトーね、久し振り」

 

「カトーです、パチュリー様」

 

 一文字間違えた程度でそんな冷たい目で見るなんて、師匠に対する敬意が微塵も感じられない。

 

「パチュリーと言うと『月の満ち欠け』の著者であられるあのパチュリーだろうか」

 

「確かにそんな名前の本を書いた記憶があるが、大分前に書いた筈。よく知ってるわね」

 

 何時までも続いている人生の中で、何冊か気まぐれに本を出したことがあるがまさか覚えている人がいるとは思わなかった。

 

「こんな所で先生に会えるなんて、私は運が良い。後でサインを貰えないだろうか」

 

「サインくらいなら好きなだけしてあげるわ、一先ず貴方達も避難するために来たのでしょう?紅茶でも飲んで喉を潤していなさい」

 

 皆おなじみ紅茶の時間である。格言の一言でも言えれば絵になるのだろうが、残念ながらこの世界の格言は全く興味が無いので覚えていない。それを考えるとすらすらと答える事の出来る田尻さんって結構凄い。

 

「何もないところから紅茶が現れた・・・。時空間に干渉する術が既に有ったとは・・・」

 

「レレイ、パチュリー様にそれぐらいで驚いていたらこの先苦労するぞぃ・・・」

 

 カトーも酷い事を言うものだ、その言い方だとまるで私がビックリ箱みたいではないか。

 一先ず、本を山の様に積んである荷車を私が引き継ぎ列を目指す。ここまで歩いてきた馬にも治癒を掛けて体力を回復させてあげるのも忘れない。

 

「所でパチュリー様、パチュリー様は何故この村に?」

 

「成り行きで助けたエルフを自衛隊に預けようとしたのは良いけど、通訳が間にいないと会話にならないし、何よりテュカが離してくれなかったから」

 

「エ、エルフと申しますとまさかパチュリー様炎龍を退けたのは」

 

「そ、私。別に仕留めても良かったけど、別に炎龍が何しようと関係ないし放っておいたわ。次は無いけど」

 

 そのまま他愛のない話をしながら飛んでいると、どうやら出遅れたらしく皆並んでいた。

 その中で、レレイが急に走り出してしまった。どうやら自衛隊の存在に興味を惹かれてしまったようで確か黒川と言ったか?女性隊員と倒れこんでいる人の所に向かって言った。

 

「黒川、治療が必要なら言いなさい」

 

「っ、パチュリーさんお願いできますか?」

 

「お安い御用よ、それとレレイ貴女は然りと見ていなさい。これが賢者と呼ばれる者の魔法よ」

 

 魔導書を片手に倒れこんだ女性の上をなぞる様に手を動かす。するとどうだろうか、なぞった軌跡を辿る様に彼女の傷は巻き戻しの様に、何事も無かったかのように動いて行く。そしてその効果は傷を戻す事だけで無く、彼女の衣類さえも元通りにしていった。

 

「・・・・・・パチュリーは、私の手が決して届かない位置に存在するのだな」

 

「レレイも何時かは辿り着くわ。それが何年何十年先になるかは分からないけど」

 

 さて、と立ち上がり興奮した様子の馬に手を当て沈静していく。こうしておけば誰かに怪我を負わすことは無くなるだろう。

 

「伊丹、これからどうするつもりなのかしら」

 

「一先ず皆さん他の村にいる親戚を頼ることになっていますので、そこまでは護送して行く予定です」

 

「そう、では別の質問。貴方は私が『パチュリー・ノーレッジ』であると知っているのは何故?」

 

「それは、その・・・」

 

 言いよどむ伊丹の考えを読み取り、向こうでの私は創作の産物であると理解する。つまり東方があるという事。その知識すらも読み取り、私は未だ彼女に届いていない事を理解してしまう。

 

「大体理解出来たわ、ごめんなさいこの様な質問をして。お詫び代わりに私も道中付き添う事にするわ」

 

「それは、ありがたいのですが・・・」

 

「安心なさい、例え炎龍が来ても一蹴してあげるから」

 

 その言葉に伊丹は苦笑を返し、私は笑みを返す。

 一先ずはカトーがどれほど成長したのか確かめるのと、レレイの成長を観察する事を楽しみにしようと思う。

 ただ、まさかあんなに早く再会するとは思っても居なかった・・・。

 




長い。
そしてレレイのキャラが掴めない、でも可愛い。まじ可愛い。伊丹に頭撫でられて恥ずかしそうに頬を染めるところとか最かわ。

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