第二の嵐となりて   作:星月

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木虎隊①

《こちら絵馬。狙撃ポイントに着いたよ》

「オッケー。そのまま絵馬君は待機。下手に撃ったら駄目よ?」

《絵馬了解》

《現在、村上先輩と来馬先輩がこちらに接近中。二人ともバッグワームはつけてないみたい。村上先輩を先頭に、来馬先輩が続いている》

「三上先輩、ありがとうございます。……さて、私達も行きましょう」

「はい」

 

 連絡を取り合った後、制止を決め込んでいた木虎と副が動き出した。すでに鈴鳴の二人はこちらに向かって動いている。

 

「鋼! 木虎さんたちが動き始めた!」

「はい。こちらのレーダーでも見えています」

「絵馬君はバッグワームで隠れてこちらを狙っているはずだ。狙撃には警戒してね」

「わかっています。来馬先輩も十分警戒を」

 

 残っているチームは木虎隊と鈴鳴第一のみ。この勝負の行方がそのまま勝敗へとつながる。負けられない戦いの火蓋が、切って落とされる。

 

「さあ来馬隊に続き、木虎隊も動き出しました。狙撃手(スナイパー)である絵馬隊員は狙撃ポイントにすでについている模様。マップ中央に来馬隊員、村上隊員、木虎隊員、嵐山隊員。残った隊員が集結しようとしております!」

 

 マップ上のレーダーが中央付近に集まり、最後の戦いが始まろうとしていた。

 いよいよB級ランク戦の初戦も終盤。終わりが近いということもあって観客席の熱意も増している。

 

「人数的には木虎隊が三人と数的有利です。果たしてどう動くのでしょうか?」

「木虎隊の二人は銃手(ガンナー)だ。定石どおりに距離を置き、アタッカーの射程外から削っていくのが望まれる」

「ですが、相手は村上先輩だ。そう上手くはいかないでしょう」

「ああ。村上隊員の武器はレイガスト。耐久力が高く防御特化の(シールド)モードを持っている。加えて加速するスラスターも持っているだろうから、そう簡単に撃ちあいで勝つことは難しいかもな」

「なるほど。木虎隊が有利な銃撃戦に持ち込めるか。あるいは村上隊員が距離をつめて攻撃手の間合いに詰めるのか。ここがキーポイントになりそうです!」

 

 解説が続く中、戦況は動く。

 ついに大きな十字路となる交差点で、丁度直角になるような位置取りで両者の顔が揃う。

 

「鋼。木虎隊はすぐそこだ。どうする?」

《このまま正直に交差点に出れば撃ち合いになります。そこの塀を壊し、建物の中に侵入しましょう》

 

 銃撃戦を嫌った村上の進言により鈴鳴第一は前進を停止。

 壁沿いに足を止めて目の前の民家へと視線を移す。

 この民家のすぐ傍に木虎隊が迫っている。そう時間を費やしていられない。

 すぐに壊してしまおうと村上は弧月を握り締める拳に力を込めた。

 

《警戒!!》

「ッ!?」

 

 刃を奮おうとしたまさにその瞬間。

 オペレーターである今の警告が耳元に響いた。

 何事かと考える暇もなく、目の前の民家が塀ごと爆発、四散した。

 

「ぐっ!?」

「うわぁっ!」

 

 慌てて退避行動を取る二人。

 直撃を免れたが、先ほどまで二人が侵入しようと考えていた民家は跡形もなくなっていた。

 

「爆発!?」

「今のは木虎隊員、あるいは嵐山隊員のメテオラですね。いや、威力から考えて二人とも撃ったのか」

「こ、これはまた派手な……!」

 

 嵐山の考えたとおり、今のは木虎と副、二人が同時に放ったメテオラによるものだった。

 戦局の変化を起こそうと考えた木虎隊によって、鈴鳴第一は引きずり出される形となった。

 

「今のは、木虎隊がやったのか?」

「来馬先輩!」

「えっ?」

 

 驚く暇も無かった。

 呆然とする来馬を村上が強引に押し出した。

 一瞬送れて村上の近くに爆発が生じる。

 先ほどと同じメテオラだ。視線を撃った方角へと移せば、そこには銃を構えた木虎と副の姿がある。

 さらに攻撃は続く。木虎が接近しながらハンドガンを連射。再び放たれたメテオラが来馬を襲う。

 

「うわっ!」

「来馬先輩!」

(まずい、分断される!)

 

 シールドを展開しながら距離を取る来馬。

 打ち返し、反撃をこなしているが、副の足止めを食らっている村上との距離が開いてしまう。

 数的不利な来馬達が分断されるのは得策ではない。

 そう判断した村上はシールドモードを展開したまま、銃撃の中副の元へと突撃する。

 

「すみません。村上先輩。合流はさせません!」

 

 直後、副の姿が視界から消える。

 

「ッ!?」

 

 わずかに視界の下に移った姿と、己の防衛本能に従い、村上はその場で跳躍。

 間一髪のところで村上を狙ったスコーピオンの猛威から逃げ切る事に成功した。

 

(テレポーターか!)

「っ、さすが。でも!」

 

 ギリギリのところでかわしたために体制が悪かった。

 膝を着いてしまった村上は攻勢に出ることができず、シールドモードで副のアステロイドを受けきるしかなかった。

 

「これは、木虎隊が鈴鳴第一を分断! 一対一の勝負に持ち込んだようです」

「一対一の状態を作り、取れるほうから取っていく、という方針のようですね。絵馬隊員も丁度二人とも狙えるところに陣取っている」

「し、しかし、村上先輩に一対一とはまた無謀な!」

「たしかに。しかし副、いえ嵐山隊員はテレポーターを使って上手く立ち回りをみせていますね。こちらはどちらかというと村上隊員の足止め、といったところでしょうか」

「言われて見れば。嵐山隊員が村上隊員を釘付けにしている一方、来馬隊員と木虎隊員の撃ち合いはヒートアップ! 激しい争いが繰り広げられております!」

 

 副と村上がにらみ合う中。

 木虎と来馬の銃撃戦はより厳しさを増していった。

 

《来馬先輩! 鋼くんは足止めを受けています。合流は簡単ではありません》

「わかってるよ今ちゃん。でもこっちも余裕はなさそうだ!」

 

 曲がり角を曲がり、爆発した建物には目もくれず走る来馬。

 村上と合流するため元いた場所に戻るように、気づかれないよう一周する形で走る。

 だが走りながら銃撃戦を繰り広げるのは容易ではない。シールドで木虎のアステロイドを今は防いで入るものの、時折放たれるメテオラが次々と建物を壊し、射線を通すようにしている。

 

「不味いわね。やはり中々シールドを削りきれない。絵馬君、そこから来馬先輩を狙えそう?」

《時々姿が見えているけど、ちょっと塀が邪魔かも。確実に決めるには遮蔽物が多い》

「そう。ならまだ待機していて。確実な機会を待って!」

《了解》

 

 銃手では日々性能を上げているシールドを突破する事は難しい。

 わかっていたことだが、やはり実戦で痛感すると落ち込みそうになってしまう。

 ここで合流を許せば折角の分断策も無駄となる。

 そうなる前に急いでどちらかを仕留めなければと考え、木虎は副へ通信を繋げた。

 

「副君。そちらはどう?」

《木虎先輩ですか? 正直、手一杯ですよ!》

 

 用件だけ短く告げる副。

 声だけでも彼が中々厳しい状況に置かれていることが感じ取れる。

 現に副は今村上と一対一の中、精一杯村上の足止めをしようと踏ん張っていた。

 

「ふっ!」

「うぁっ!」

 

 横一線に振るわれる弧月。

 受身に入った副のスコーピオンが音を立てて砕け散った。

 返す刀をシールドで受けるが、シールドも耐え切れず、副の左腕の手先が飛んだ。

 

「ちぃっ!」

 

 消え去った左腕にはやすようにスコーピオンを展開。

 副が村上に斬りかかる。

 対して村上はレイガストのシールドを変形させ、溝を作る。スコーピオンはレイガストの溝に引っかかり、村上が引き寄せるとバランスを失い、地面に横たわった。

 

「あっ、のっ!」

 

 倒れてこちらを見上げる副に弧月を突き刺す。

 だが、貫いた感覚を覚えるより先に副の姿が目の前から消えた。

 

「上かっ!」

「うあっ!」

 

 レイガストを乱暴に振るうと空中にいた副を弾き返した。

 テレポーターを使って瞬間移動していたのだ。

 吹き飛ばされた副は受身を取って再びアサルトライフルを村上へ向ける。

 アステロイドが一斉に放たれた。

 またしても決定打を与えることができないまま、村上は時間を費やす事となった。

 

「村上隊員、嵐山隊員を削っていく! これはやはり攻撃手の間合いか! しかし、致命傷を与える事ができない!」

「テレポーターは距離が近いほど連続で使用する為に必要となる時間は短くなり、数秒もたてばすぐに使えます。トリオンは当然消費しますが、嵐山隊員はこの村上隊員を止めることに専念しているようですね」

 

 村上優勢だが、副が致命傷をさけるように戦っている為に倒すまでには至らない。

 おかげで来馬と合流することも出来ず倒す事もできず、村上は副との戦いで時間を使わされてしまっていた。

 

「ただ来馬隊員、遅れて木虎隊員もこの中央へと向かってくるのでは?」

「ええ。お互い遮蔽物の為に中々シールドを破れない銃撃戦は決着着かず。移動していた来馬隊員、木虎隊員もこの戦いに合流しそうです!」

 

 ここで唯我の指摘通り、この場を離れていた二人の隊長が中央に戻ってこようとしていた。

 木虎隊の分断により動いた戦況。ここで再び新たな試合展開を迎えることとなる。

 

《木虎ちゃん。このままだと来馬先輩が合流するほうが早いかも》

「はい。……副君。ごめん、来馬先輩は落とせないわ!」

《そのようですね。この後はどうしますか?》

「村上先輩と距離をとって。村上先輩と来馬先輩は合流させても構わない。その代わり二方向から挟み撃ちにして銃撃戦に挑みましょう」

《副、了解》

 

 直線状に村上と副の姿を捉えた木虎は次の戦略を立てた。

 銃撃戦ならばこちらが有利なのは変わりない。

 ならば今度こそ、しかも二方向から撃てば必ず敵の防御には隙が生じるはず。

 そう考えて木虎は口早に指示を飛ばした。

 

「悪いな、副」

「え?」

「ここまでだ。いつまでもお前に時間をとっているわけにはいかない」

 

 レイガストの(シールド)モードで副を突き飛ばす。

 副は慌てて反撃に移ろうとするが、その時、村上は彼に背を向けて走り出していた。

 

(合流するつもりか! でも!)

「アステロイド!」

「スラスター、ON(オン)

 

 アサルトライフルが火を噴く中、村上は振り向きもせずスラスターを起動。

 急加速のついた突撃によってアステロイドの猛攻から緊急離脱した。

 

(レイガストの加速オプション? まさか!)

「木虎先輩! 村上先輩がそっちに行きました!」

《見えているわよ!》

 

 木虎はシールドを展開したまま銃口だけを村上へと向けなおす。

 アステロイドを掃射。しかしレイガストの(シールド)モードに防がれる。

 さらに、村上は距離を詰めるとレイガストを(シールド)モードのまま木虎へ向けて投げつける。

 

「ッ!?」

(レイガストを捨てた!?)

「ぐっ!」

 

 形が歪に変形していた(シールド)が木虎を塀に縫い付けるように拘束する。

 木虎が身動きできない事を見て村上はさらに前進。一気にケリをつけようと弧月に力を込めた。

 

(そんな。でも、今なら(シールド)モードは使えない!)

 

 このままではやられてしまう。だがレイガストがなく弧月を展開している今なら村上の防御はない。

 木虎が動かせる右腕で照準を村上に定めて即座に発射。

 アステロイドは、村上の顔面の直前、突如現れたシールドに防がれた。

 

「ッ!?」

《シールド!!》

(これは来馬先輩の、シールド!? そんな!)

 

 命中する直前、来馬が展開したシールドが村上を守った。

 木虎の抵抗は村上に届く事無く、村上の弧月が振り上がる。

 

《テレポーター!》

 

 同じ頃。副がテレポーターを起動した。

 そして村上の弧月が振り下ろされる。真っ直ぐに木虎に向かう弧月。シールドを張るが防ぎきれないということはすでに副は証明済みだ。

 

「終わりだ」

 

 村上が終戦を宣告する。

 そして彼の弧月は標的の木虎を仕留めることはなく。その弧月を手にしていた右腕が切られて地面に落ちる。

 

「ッ!?」

「なっ!」

 

 驚く村上の目の前には副が現れていた。

 彼の左腕にはスコーピオンが展開されており、村上の右腕は突如現れたスコーピオンの上を通過。結果その刃に刈り取られる形で地面に転がっているのだ。

 

「副!」

(今なら!)

 

 これで村上の武器はなくなった。

 この好機を逃せば駄目だと判断して副はスコーピオンを村上へと向けた。

 一歩踏み込み、スコーピオンを振るう。村上はバックステップを踏んで直撃は避けたが彼の左腕までもが胴体から離れた。

 

「鋼!」

 

 戦局の変化を見ていたのは来馬も同じだ。

 村上が危機に陥ったのを見て来馬はアステロイドを連射。

 追撃に移ろうとしていた副の側面を突き、彼の体を貫いた。

 

「あっ!?」

(油断、した、でも!)

 

 来馬の手痛い反撃を受け、副のトリオン体に皹が入る。

 それでも、せめての置き土産に副もアサルトライフルを来馬に向け発射。

 来馬には当たらなかったものの、メテオラが彼の側面に建っていた建造物を一掃した。

 

「後は、任せ……」

『戦闘体、活動限界。ベイルアウト』

 

 ついに副のトリオン体が限界を迎えた。

 ランク戦の最後の瞬間までステージに立つことはできなかったが、この副の働きで戦局は大きく変化した。

 

「大丈夫だよ。今なら撃てる」

 

 射線が通った来馬の頭部を絵馬が狙撃。

 

「任されたわ!」

 

 両腕を失った村上を、木虎がトドメを刺した。

 

「ッ!」

『戦闘体、活動限界。ベイルアウト』

「してやられたか」

『戦闘体、活動限界。ベイルアウト』

 

 殆ど同時に来馬と村上はベイルアウト。

 木虎隊の二人だけが戦場に残り、このランク戦は終わりを迎えた。

 

「嵐山隊員に続き、来馬隊長、村上隊員も緊急脱出(ベイルアウト)! ここで試合終了! 決着です! 最終スコア、6対2対0。木虎隊の勝利です!」

 

       得点   生存点   合計

木虎隊     4     2     6

鈴鳴第一    2           2

間宮隊     0           0

 

 木虎隊、鈴鳴第一にとって初陣となったこの試合。

 生存点も含めて六得点を挙げた木虎隊が勝利を収めた。

 

「デビュー初戦で脅威の六得点! 木虎隊の実力は本物か!」

「副……」

 

 嵐山は弟のベイルアウトに一人肩を落としているが、初戦からルーキーとは思えない戦いぶりを目にして観客席は沸きあがっている。

 その頃、各隊の作戦室では最後まで生き残っていた木虎・絵馬の両名も戻って各々の健闘を讃えあっていた。

 

「すまない。鈴鳴の二人に捉まった」

「仕方ないよ。こっちだって木虎隊に撃破されちゃったもんね」

「次のランク戦で取り返そう」

 

 間宮隊は無得点という苦しいスタートとなってしまった。

 何としても二日目で立て直そうと三人は決意を新たにする。

 

「来馬先輩。すみません。詰めを誤りました」

「仕方ないよ。今回は殆ど知らない相手だったんだから」

「相手の手の打ち様を見れて鋼くんとしてはよかったんじゃない?」

「うん。まだランク戦初戦だ。二戦目以降、この反省を活かそう」

「はい」

 

 鈴鳴第一は謝罪する村上を来馬と今が宥めている。

 来馬達も木虎隊と同様にこれが初めてのランク戦となった。次は初の白星を挙げようと一致団結し、最後は笑みを浮べて解説を待った。

 

「ふぅ。一段落ね」

「木虎ちゃん、絵馬君お疲れ様」

「すみません。俺だけベイルアウトしちゃって。今なら村上先輩を落とせると思って突っ込んでしまいました」

「謝らないでよ。副のおかげで鈴鳴第一の守りを崩すことができたんだ。むしろ助かったよ」

「そうね。私も村上先輩にやられる寸前だったし。良いタイミングだったわ」

「……落ちたのに褒められるとかえって複雑です」

「まあまあ。皆初戦で得点を取れたし良い結果だったじゃない」

 

 木虎隊では唯一ベイルアウトする結果になってしまった副が頭を下げる。

 しかし彼の行動で戦局が大きく動いた事は間違いないのだ。木虎にいたっては彼のテレポーターによって助けられている。

 だから責めることはないと皆で励まし、三上の説得でこの話は締め括られた。

 

「それでは、この試合を振り返っていかがでしたか?」

 

 武富に話を振られ、嵐山がこのランク戦の総評を含む感想を語り始めた。

 

「今回のランク戦で大きなポイントは二つ。ランク戦開始直後に東西で起こった戦い。そして最後、村上隊員が木虎隊長を狙いに動いたところですね」

「木虎隊、そして鈴鳴第一が其々合流し、間宮隊と戦った点ですね」

「ええ。真っ先に狙われた嵐山隊員が凌ぎきり、村上隊員が連携して秦隊員を仕留めた。あそこで嵐山隊員が落とされるか、あるいは秦隊員が逃げ切れればその後の展開も大きく変わったでしょう」

「ランク戦開始してすぐに仕掛けるのは悪くないと思うがね。まあ、ルーキーとはいえ僕と競っていた彼らの実力は並大抵のものではない、ということだろう」

 

 嵐山が言うこの緒戦の重要ポイント。

 その一つ、西で起こった木虎隊と間宮・鯉沼の戦い。そして東で繰り広げられた鈴鳴第一と秦の戦いだ。

 ランク戦開始してすぐということでどのチームもまだ隊員が揃っていない段階。

 ここで強襲を仕掛けた間宮隊の判断は間違っていない。この時間帯を制した木虎隊と鈴鳴第一が序盤の流れを制したというだけだ。

 

「そしてもう一つは最後、木虎隊と鈴鳴第一の一騎打ちとなった場面。ここで村上隊員が嵐山隊員を放って木虎隊長を狙ったところだ」

「嵐山隊員と村上隊員の対決では村上隊員が優勢に見えましたが、木虎隊長へと狙いを変えたことで戦局は変わりました。村上隊員の行動が、この勝敗に結びついた、ということでしょうか?」

「いや、それはあくまでも結果論だ」

 

 武富が村上の行動に少し厳しい意見を示すと、嵐山は即座に彼女の発言を否定する。

 

「あのままだと鈴鳴第一は南北から挟み撃ちにあうところだった。早い遅いの違いこそあれ、各個撃破しようとした作戦は合理的だ。作戦で言えば鈴鳴第一が勝ってもおかしくなかった。ただその作戦が外れた中、嵐山隊員が独断で動いて戦局を変えた。土壇場で引っくり返された、ということだろう」

「事実、村上先輩は木虎隊長を完全に封じ込めていましたからね。来馬先輩のフォローがあったとはいえ、あのままでは鈴鳴第一が木虎隊長を落とし、そして残った二人を仕留めていく可能性すらあった」

「ですが今回は嵐山隊員が最終的に落とされてしまったものの、残った絵馬隊員、木虎隊長がそれぞれ一点を捥ぎ取りました。不意をつかれたあとの立て直しが功を制したと言えるでしょう」

 

 どちらのチームにも勝機はあった。

 ただ鈴鳴第一が作戦の裏をかき、あるいは先に一人を落とした後で不意をついた中。

 動揺を少なく、すぐに立ち直った木虎隊が勝利を収めた。

 今回の作戦の良し悪しを結果だけで語るのではない。どちらも上手く立ち振る舞う中、木虎隊が上手だったというだけのことだ。

 

「この試合が初のランク戦であった木虎隊、鈴鳴第一にとっては特に大きな戦いであったでしょう。次はより白熱した戦いが見られるかもしれませんね」

「ああ。一戦交えれば心持も変わる。次戦以降、さらによい動きを見せてくれると期待している」

「さて、今回六得点を挙げた木虎隊は夜の部の試合結果にもよりますが、B級中位グループ入りの可能性が高いでしょう。部隊ごとの戦術が統率されているチームとの戦い。次の試合にも期待がかかります。それでは嵐山さん、唯我さん。解説ありがとうございました」

「ありがとうございました」

「ああ。次も呼んでくれても構わないよ?」

 

 武富の言葉で締め括られ、B級ランク戦初日昼の部は終了した。

 初のランク戦で六得点を上げた木虎隊。翌日のランク戦でB級中位グループと当たる事が予想される。

 どのチームも各々の戦力に適した戦術で戦っているチーム。そんなチームと戦うときにこそ真価が問われるだろう。

 B級に参戦した新生チーム。果たして何処まで勝ちあがれるのか。周囲の期待は高まっていく。


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