第二の嵐となりて   作:星月

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B級ランク戦①
嵐山副②


『ボーダーの皆さんこんにちは! 今日の実況を務めます海老名隊オペレーターの武富桜子です!』

 

 ランク戦に参加する隊員達がそれぞれの作戦室で準備を進めている中。

 B級ランク戦用の観覧室では実況の武富が進行を始めていた。

 B級海老名隊オペレーター 武富桜子

 

「本日よりB級ランク戦は新シーズン開幕です。初日・昼の部を実況していきます。本日、解説席には嵐山隊の嵐山隊長、そして太刀川隊に新たに加わった唯我隊員にお越し頂きました。本日はよろしくお願いします!」

「どうぞよろしく」

「はっはっは。よろしくお願いするよ!」

 

 武富の紹介を受け、嵐山と唯我がマイク越しに挨拶する。唯我も合同訓練を経て無事に太刀川隊への配属が叶っていた。

 嵐山は慣れた調子で淡々と、唯我は自己の調子を崩さず得意げな様子だ。唯我はともかく嵐山の解説ということもあって初日から観客が多い。また、この昼の部に登場するチームが新参チームということもあって観客の話題は新チームの話で持ちきりだった。

 

「初戦ということで嵐山先輩。簡単にB級ランク戦について説明お願いします!」

「了解した。B級ランク戦は上位・中位・下位の三グループに分かれ、三つ巴あるいは四つ巴のチーム戦が行われる。他の隊員を一人倒すごとに一ポイントもらえ、さらに最後まで生き残れば生存点のボーナス二点がもらえるんだ。点を取るほど順位が上がる。そしてB級一位と二位には俺達A級への挑戦権がもらえる。A級目指して頑張ってほしい」

「説明ありがとうございます。また、開幕にあたり、前シーズンでの順位に応じ初期ボーナスが上位チームに加算されています。その分のアドバンテージがありますね」

「その通り。だからシーズン毎に全力で結果を出すことが問われるだろう」

 

 B級ランク戦の解説が終わり、時間も頃合となった。

 作戦室で一番順位が低いチームである木虎隊が戦闘ステージの決定権を持つのだが――戦いの場がようやく決定する。

 

「さあ木虎隊がステージ選択を終了。選ばれたのは……『市街地B』!」

「高い建物、低い建物が混在するステージですね。場所によっては斜線が通りにくいですが逆も然り。どのポジションの隊員も場所により得意不得意が出るマップです」

「木虎隊はランク戦初戦ということで無難なマップを選んだといえるでしょう」

 

 初戦の部隊は市街地B。高低差があるマップだが市街地Cのようにポジションの優劣は特に出にくい場所だ。

 木虎は初陣においてギャンブル戦法を嫌い、堅実なマップを取ったと考えられる。

 

「そして何とこの昼の部なんですが、十八位の鈴鳴第一ならびに一九位の木虎隊は今シーズンから結成された新チームとのこと。鈴鳴第一は二人構成、木虎隊も先月ボーダーに入隊したばかりの三人の編成とのことですが――同期であるという唯我隊員。新隊員のことは良くご存知でしょうが……」

「ああ、勿論。皆僕と競い正隊員になっただけあって優れている。特に戦闘における動きは見事なものだ。きっとこのランク戦でも結果を見せてくれるはずだろう」

「なるほど、ありがとうございます。さあその新加入の二チームを迎え撃つのはB級十六位の間宮隊。勢いある新鋭を止め、中位へと上がることができるか? さあ、スタートまであとわずかです!」

 

 開戦を目前にして観覧室はヒートアップ。

 各作戦室でも最後の確認、戦いへ向けての最終準備を行っていた。

 B級暫定十六位、間宮隊。

 

「まずは合流を優先だな」

「うちの得意戦法の為にもその方が良いだろうね。数的優位を取れたら二対一でも仕掛けようか」

「ああ。誰を倒しても一点だ。取れるところで取っていくぞ」

 

 三人全員が防護用のゴーグルをかけ、意識をそろえている。

 他の二隊と違い何度もランク戦を経験しているだけあり最も落ち着き戦術を確固たるものとしている。

 

「あ、鋼。もう大丈夫?」

「いつもの復習は完璧?」

 

 一方、同時刻。

 B級暫定十八位、鈴鳴第一。別名来馬隊。

 静かに目を伏せていた村上がゆっくり立ち上がったことを確認し、隊長の来馬とオペレーターの今が声をかけた。

 

「はい。準備は完了しました」

「そう。ならよかった」

「この初戦、うちだけ二人と数的不利な状況です。しかも他の隊は中距離に強い隊員が揃っています。くれぐれも一対多数にはならないように」

「ああ。……太一も間に合っていればよかったけどな」

「太一のことは仕方ないよ。まだこのランク戦は先が長いんだから」

 

 今ここにはいないもう一人の隊員を考え、場には軽い笑みが飛び交った。

 村上は訓練やC級ランク戦でB級昇格を果たしたものの太一は狙撃手(スナイパー)に与えられた『三週連続上位十五%以内に入る』という条件を達することができず、今もC級隊員のままだ。

 

「今のうちに勝って、太一が戦いやすい環境を作っておこう」

「……はい」

「サポートは任せてください」

 

 今は観覧室で戦いを見守っているはず。その太一のためにも勝とうと、三人の士気は高い。

 

「最終確認よ。マップは『市街地B』。訓練でも何度か戦ったことがあるだろうけど、高い建物と低い建物が混在しているから注意ね」

 

 そして、もう一つの新加入チーム。

 B級暫定一九位、木虎隊。

 隊長となった木虎の指揮に従い、四人は作戦を立てていた。

 

「転送はランダム。試合が始まったら合流を優先。絵馬君は狙撃ポイントの確保と他隊員の補足」

「はい。ユズル、援護頼むよ」

「……うん。今回狙撃手(スナイパー)は俺だけだから、狙撃はあまり警戒しなくていい」

「間宮隊も集団戦法が得意なので合流を優先するかな。合流する前に当たると厳しいから、皆周囲には注意してね」

「三上先輩、了解です」

 

 緊張の色は見られない。年が近い四人ということで他の隊ほど付き合いは長くないが気を使う素振りもみられなかった。

 大事な初戦。ここからB級隊員として新たな一歩が始まる。

 

「練習通りやれば良い結果は自然とついて来るわ。皆、いつも通りに」

『了解!』

 

 皆訓練を積んできた。戦闘になれば経験だけが全てではない。

 新進気鋭の木虎隊。今こそその力を見せるとき。

 

「……では、ここで全部隊(チーム)、仮想ステージへ、転送完了!」

 

 そして各々の思いが錯綜する中、B級ランク戦昼の部の開始が宣言される。

 

「一日目昼の部三つ巴! 戦闘開始です!」

 

 B級暫定十六位 間宮隊。

 B級暫定十八位 鈴鳴第一(来馬隊)。

 B級暫定十九位 木虎隊。

 三部隊の隊員達が一斉に仮想ステージに転送され、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「各隊員は一定以上の距離をおき、ランダムに転送された地点からスタートとなります」

 

 解説の武富の言葉通り、隊員はすぐに合流ができないよう平等に離れた位置から行動を開始する。北西には中央から遠い位置から木虎と間宮、南西は鯉沼、来馬、副が転送され、東では北から秦、村上、絵馬とチームはバラバラに配置された。

 

《よしっ。はじまった。行くぞ》

《まずは合流するわよ。副君、急いで!》

 

 間宮と木虎、二人の隊長が内部通信で指示を飛ばす。

 お互い合流を最優先に考え、部隊での戦闘を考えている両名だ。

 

「了解です。……ん? 三上先輩、レーダーの数が少ないようですけど?」

《うん。どうやら鈴鳴第一の来馬先輩がバッグワームを使っているみたい》

「来馬先輩が?」

《そのようだよ。村上先輩、あと秦先輩の姿は俺が確認している。間宮隊の二人も使っていないだろうから、間違いないと思う》

《了解。二人のタグつけとくね》

「そうか。ユズルは引き続き見張ってて。鈴鳴もデータが無いから行動が読みづらいんだよな……」

《近くに潜んでいるかもしれないわ。警戒を怠らないで》

 

 開始早々、敵が一人レーダーから姿を消していることに副が気づいた。

 他の状況から考えていないのは来馬で間違いないだろう。つまりこの試合、狙撃手(スナイパー)の絵馬、そして来馬がバッグワームで姿を消しているということだ。

 そう結論付けると木虎は周囲への注意を払いながら、合流ポイントへと足を早めた。

 

「嵐山、了解。……ん?」

 

 方針は確認した。後は急いで木虎と合流しよう。

 そう考えて、副は自らに迫る危機に勘付いた。

 

「……あ、木虎先輩」

《どうしたの?》

「ヤバイですよ。これ、多分合流する前に俺が間宮隊と鉢合わせする可能性があります」

《え? ……あ!》

《その危険性が高いかも。おそらく間宮隊と思われる二名が副君に近づいている!》

 

 たしかにレーダーを見ると間宮隊と思われる反応の二つの方が距離が短く、しかも向かう先には木虎と合流しようと動いていた副がいる。このままでは間違いなく副が標的とされるだろう。

 

「よしっ、敵が合流する前に一人叩けそうだ。先にこいつを倒していこう」

《鯉沼、了解!》

 

 そして副の考えたとおりだった。

 間宮と鯉沼は三人で合流するのは一端諦め、先に二人で落とせそうな単独の隊員を倒そうと副に急接近していた。

 

「鋼! こっちで動きがありそうだ。今確認できたけど、このままなら木虎隊の副君と間宮隊の二人がぶつかることになる!」

《わかりました。配置を見る限りおそらく絵馬もこちら側にいるでしょう。来馬先輩は副をやり過ごしてからこちらへ向かってください。警戒は怠らず。俺は手始めに後方の憂いを絶ちます》

 

 一方、鈴鳴第一も他の部隊の始動に呼応して動きを見せていた。

 バッグワームを使用している来馬は壁に張り付いて狙撃を警戒しながら周囲の様子を窺っていた。

 二人である以上、一人が落ちてしまえば取り戻す事は難しくなる。

 そう考えて来馬にはこのまま周囲に注意するよう促しながら、村上は残った間宮隊の一人、秦へと狙いを定める。

 ――まず自分がすべき事は、災いの種を処理する事。

 

「私も急ぐけど間に合わないわ。絵馬君! 副君の近くを狙える狙撃ポイントへ至急移動して」

《そうするとこっち側の動向は読めなくなくなるけど……》

「構わない。それよりも副君が落とされれば各個撃破される可能性があるの。まずはそれを防ぐことを優先して!」

《絵馬、了解》

「副君は私と絵馬君が到着するまで時間を稼いで。無理に点を取ろうとする必要はないから」

《……いやー、木虎先輩。少し遅かったです》

「え?」

 

 口早に指示を飛ばす木虎。

 副にもどうか生き延びてくれと声を張ると。

 ――副がいる地点に無数の弾が打ち込まれ、土煙を上げる光景が目に映った。

 

 

――――

 

 

「一斉に動き出した各隊! 間宮隊、木虎隊が合流を選択しましたが、木虎隊の嵐山隊員、合流地点にたどり着く前に襲撃を受けました。間宮隊員と鯉沼隊員の追尾弾(ハウンド)が無情にも襲い掛かる!」

「副ー! 逃げろー!」

「……そういえば、木虎隊の嵐山隊員は嵐山隊長の弟と聞きましたが」

「ええ。自慢の弟です。だからこそこんなところでやられていいわけがない!」

「なるほど。信頼しているんですね。では、この試合は木虎隊に集中してお届けしましょう」

 

 観覧室。

 弟のピンチを前にして声を荒げる嵐山。解説役であるということを瞬間的に忘れているようだった。

 武富はその様子を見てただ事ではないことを察し、木虎隊のことに触れながら嵐山を落ち着かせようと宥めた。

 

「嵐山隊員が狙われたことを察し、木虎隊長と絵馬隊員も合流を急ぐ模様。一方、その間に来馬隊長は迂回して村上隊員の下へと向かう。村上隊員は秦隊員に的を絞っている様子。まずはこの二つの戦いがこの試合の展開を左右するか!?」

「副――嵐山隊員と秦隊員、一人のところを襲われた二人がどう立ち振る舞うかがポイントですね」

「村上先輩も一人だが、しかしあの人は一対一に関しては圧倒的な強さを誇る。秦隊員が不利な点には変わらないだろうね」

「なるほど。さあ試合の立ち上がり、ここを取ればそのまま優位に立てる。逆に凌げば逆転の芽につながる。三つ巴の戦い、どのような結果を迎えるのか見ものです!」

 

 二対一となった副対間宮・鯉沼。

 タイマンで無類の強さを誇る村上と秦の戦い。

 開幕戦最初の鍵を握るのは、この二つの局地戦であった。

 

 

――――

 

 

 尋常ではない量の土煙が舞う中から副が飛び出す。

 フルガードで何とか最初の襲撃は防ぎきったものの、危機はそう簡単に収まらない。

 休む間もなくハウンドの嵐が降り注いだ。

 

「ちぃっ!」

 

 アサルトライフルを横に薙ぐように掃射。

 得意のアステロイドの連射で牽制兼防御を行おうとしたが、二人がかりのハウンドを防ぎきることは不可能だ。

 

(ああ、やっぱり狙撃手(スナイパー)みたいに弾を全部打ち落とすのは無理か!)

 

 わかっていたことだが、かつて一度だけ記録で目にしていた一部の狙撃手のようには上手く物事が運ばない。

 落としきれなかった弾が副に襲い掛かる。

 シールドで防ぎきれなかった弾が副の体を削っていく。

 

「よしっ。このまま一気に叩くぞ」

《おう。まずは確実に一点だ》

 

 優勢な状況に変わりない。

 間宮の指示で鯉沼は逃げる副の進路方向へと先回り。間宮と二人で一気にしとめようと仕上げに入ろうとしていた。

 

《副君。鯉沼さんが別れて待ち構えている。二人の到着までもう少し。ここを凌げば反撃できるよ!》

「気休めありがとうございます三上先輩。でも、挟み撃ちとなると……」

 

 後ろから迫る間宮を射撃で牽制しながら三上と応答する。

 確かにこの二人をかわすことができれば部隊が完全に揃う木虎隊が有利だろう。

 だが二対一で、相手が先回りしているとなると。

 

「こうなるんですよね」

 

 前後から、上空から逃げ場のないハウンドの嵐が降り注ぐ。

 逃げようにも自動で追ってくる追尾弾だ。逃げ切ることは不可能。

 

《これで!》

《終わりだ!》

「終わったか、俺」

 

 これが間宮隊の得意戦術、追尾弾嵐(ハウンドストーム)

 多方向から一斉に襲い掛かるハウンドは相手が手も足も出ないまま撃破する強力な連携だ。

 決着を予感し間宮隊の二人は笑みを浮かべ。

 副でさえ諦めの言葉を吐き、事の結果を察した。

 

「なんちゃって」

 

 そして敵と同様に不敵な笑みを浮べる。

 呟きの直後、副の姿がその場から一瞬で消えた。

 

「なっ!?」

「はっ!? おわっ!」

 

 目にも止まらぬ速さでその場から姿を消した副に間宮は驚く。

 そして鯉沼が突如目の前に現れた副に驚き、声を上げると同時に、副のスコーピオンが彼の体を切り裂いた。

 

「ぐはっ!?」

「なっ。鯉沼!」

「さて、お返ししますよ! 倍にしてね!」

 

 副はスコーピオンをしまうと、鯉沼の体を間宮の方向へと投げつける。

 それは同時に副がいた方向でもあり。

 彼を追っていたハウンドの嵐は鯉沼を容赦なく襲い掛かる。

 さらに追い打ちと言わんばかりに副もアステロイドを連射。

 防御が間に合うわけもなく、鯉沼は一瞬で蜂の巣となり、トリオン体が限界を迎えた。

 

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 鯉沼は呆気なく戦闘から離脱。

 試合開始から最初の一点が副に記録された。

 

「なっ! なんと! 最初の得点は嵐山隊員! 一瞬の判断で死地を好機へと変えた!」

「よっし!」

「ふむ。まあまあだね」

「嵐山隊長。今のは一体……」

「ああ。あれはテレポーターですね」

「テレポーター!? 嵐山隊長達が使っているトリガーですか?」

「ええ。といっても俺は回避から攻撃に繋げることが多いですが、嵐山隊員は回避だけでなく接近も含めて使ったようですね」

「奇襲向きのスコーピオンと相性の良い使い方ですね。これで木虎隊が一歩リードです!」

 

 試合が動き、観覧室が湧く。

 兄である嵐山も例外ではなく、早々の活躍に満足げな表情だ。

 唯我も同僚の活躍は自分も心をくすぐられるようで深い笑みを浮べている。

 

「さて、それじゃあ失礼します」

 

 一方、副は残った間宮に続いてアステロイドを打ち込み、その場で足止めする。

 弾を発射しながら後ろへ下がり、交差点に達すると射撃を止めて一目散に走り去った。

 一人で一点を稼いだから十分ということだろう。

 

「この、野郎! よくも!」

 

 勿論間宮も黙って見逃すわけにはいかない。再び両手でハウンドを起動。副に攻撃しようと試みて。

 その両腕が、上空から放たれた銃弾によって撃ち飛ばされる。

 

「なっ!?」

 

 驚き、頭を上げればそこには拳銃を構える木虎の姿が。

 

「終わりよ」

「ぐっ!」

(あいつを追っている間に追いつかれていたのか!)

 

 驚き、後悔してももう遅い。

 まだ別の方向から狙っている存在に気づく事ができない以上、彼の命運は決まっていた。

 絵馬の長距離狙撃が、間宮の後頭部を打ち抜いた。

 

「がっ!」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 鯉沼に続き、間宮までも緊急脱出(ベイルアウト)

 絵馬も一点を挙げてこれで木虎隊が二得点。ピンチから一転、好調なスタートを切る事に成功した。

 

命中(ヒット)! 絵馬君、お見事!》

「……別に」

 

 三上からの内部通信に素っ気無く返す絵馬。

 目前の危機が去り、木虎隊は一息つくことができた。

 

《いやー、本当助かりました。おかげで命拾いしましたよ》

「木虎先輩の策が当たったね。副が背を向ければ、目の前でチームメイトを失った間宮先輩は必ず全攻撃(フルアタック)に入るはず。おかげで木虎先輩の射撃と俺の狙撃、敵は無警戒だった」

《そんな事ないわ。副君がよく凌いでくれた。これで後は間宮隊の秦隊員、そして鈴鳴の二人よ。絵馬君は相手を狙える狙撃ポイントに移って警戒を》

 

 二人の褒め言葉に木虎は気をよくし、上機嫌で先のことを語りだす。

 こちらの戦局は一先ず終結したと言って良い。あとは村上達が争っているもう一つの戦いだ。

そちらの結果次第で木虎隊の動き方も変わる大事な戦い。

 くれぐれも気を抜かないでと、改めて三人に呼びかけると。

 彼らから離れたその地で、また一人隊員が緊急脱出(ベイルアウト)を迎えた。

 

 

――――

 

 

「さあ西側で木虎隊が勝利をつかみ取り、今東側でも一つの戦いが決着を迎えようとしています! ハウンドで圧力をかける秦隊員。対する村上隊員は弧月とレイガストの二刀流。容赦なく切り込んでシールドを削っていきます。これは秦隊員がやや不利か!?」

「徐々に村上隊員の剣速が増していますね。防御が間に合わなくなっている」

「それにもはや間宮隊は他の二人が緊急脱出(ベイルアウト)している。援護がない以上、村上先輩の勝利は揺るがないよ」

 

 観客の目から見ても村上が優位であるということは明白だった。

 左手のレイガストをシールドモードで展開してハウンドを防ぎ、弧月で次々と襲い掛かる。

 徐所にハウンドの動きにも慣れてきたのか村上の剣筋は鋭くなる一方だ。

 加えて唯我が指摘するように、もはや秦はチームメイトの援護を望めない。

 対して鈴鳴第一はまだ余裕がある。

 鈴鳴第一の隊長である来馬が、合流を果たしたのだから。

 

「ここで来馬隊長、バッグワームを外しました! 村上隊員の援護射撃を行います!」

「村上隊員と合流する為のバッグワームの展開だったようですね。合流した以上必要ないと判断したのでしょう」

「これで二対一。秦隊員、成す術なしか!?」

 

 解説の声も厳しいものだった。

 来馬のアサルトライフルも秦に狙いを定めた今、鈴鳴の優勢は覆すことができない。

 現に村上の弧月、来馬のアステロイドが次々と装甲を削っていき、秦はついに反撃することができないまま防戦一方となってしまった。

 

《鋼! ここで決めよう!》

《了解しました。そちらにあわせます》

 

 内部通信で決着を迎えるべく合図を送る来馬。

 村上が小さく頷くと、来馬はアサルトライフルをアステロイドから弾を切り替え、ハウンドにセット。上空へとハウンドを放った。

 

「スラスター、ON(オン)

 

 敵が最後の余力を振り絞ってシールドを張る中。

 村上は冷静にレイガストを手にスラスターを起動。

 シールドを展開したまま急加速のついた体当たりを仕掛けた。

 

「ぐっ!?」

 

 体当たりの衝撃でシールドが割れ、地面に叩きつけられる形で秦は倒れこんだ。

 そして横たわる秦の身に、上空から来馬の放ったハウンドが降り注ぐ。

 

「これで終わりだ」

「くっ、そっ」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 村上の言葉通り、秦の体が許容限界を迎える。

 鯉沼、間宮に続き秦も緊急脱出(ベイルアウト)。これで間宮隊は全滅。

 来馬が得点を上げ、鈴鳴第一も一点を獲得した。

 

「こちらも戦闘が終了。来馬隊長、村上隊員の連携で秦隊員を撃破!」

攻撃手(アタッカー)の村上隊員が敵を攻め立てるエースで来馬隊長がそれを援護する。村上隊員が防御を崩して来馬隊長に決めさせることもできる。良いチームワークですね」

「しかし、これで二チームに絞られた……!」

「その通り。何とこれで鈴鳴第一と木虎隊。新鋭同士の一騎打ちとなりました!」

「これは中々見られない珍しい展開ですよ。どちらも隊員が全員生き残っているし、部隊が揃っている。ここからは両チームの総合力が試される場面です」

 

 驚くことに、鈴鳴第一と木虎隊。新加入同士のチームが生存し、ぶつかり合うこととなったB級ランク戦初戦。

 現状は木虎隊が二得点、鈴鳴第一が一得点と木虎隊がリード。数の面でも木虎隊が有利な状況だ。だが、鈴鳴第一は来馬という経験が長い隊長がいることに加え、村上も戦闘に関しては木虎達にも一歩も遅れを取らない。

 

「B級ランク戦、開幕戦。どちらも余力が残っています。鈴鳴が逆転するか、このまま木虎隊が逃げ切るのか!?」

 

 差は一点。まだ戦いの行方はわからない。

 

「行くわよ。この初戦、必ずモノにするわ」

「鋼、行こう。勝って太一にも報告するんだ」

 

 態勢を立て直した二チーム。

 覚悟を決めて、決着を着けるべく彼らは再び動き出した。




ランク戦 初期転送位置

    木虎               秦
          間宮
                  村上
    
    鯉沼             絵馬
        来馬
             副

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