また少しずつ更新していこうと思います。
(来たか。ならばここで迎え撃つ!)
屋根伝いに接近する香取を確認した副はそこで足を止め、迎撃を決意した。
すかさずアサルトライフルの先端を香取に向けると銃口が火を噴く。無数の
「そんなヒョロヒョロ弾で止まると思ってんの?」
被弾の直前、香取はギリギリまで弾を引き付けるとグラスホッパーを起動。体勢を低くした急加速で攻撃をかわすとそのまま副に迫る。
「ッ!」
(速い。この距離は!)
「くそっ」
あっという間に距離を詰められた。ここから先はアサルトライフルでは不利になると悟った副はスコーピオンに武器を切り替える。同じくスコーピオンを手にする香取との斬り合いが始まった。
「ランク戦開始直後、まず戦いが始まったのは香取隊長と嵐山隊員。スコーピオンを武器とする両者の近接戦が繰り広げられています!」
「うーん。ランク戦の序盤は部隊の合流を優先するケースが多いんだけど、香取ちゃんが迷うことなく突進していったね」
「そうですね。まあ転送場所がエリアの端に近いので間違った選択肢ではありません。こうなると一見、近くに
綾辻の解説を聞いて観客席も活気が湧く。
部隊が揃ってない中の仕掛けは良くも悪くも戦況が大きく変わりかねない。北添が苦笑しながらそう呟くと、歌川は同意をしながらも冷静に戦況を見渡して。
「他の隊員との位置関係が悪い。サポートは難しいでしょう」
木虎隊が危機に迫りつつあると警鐘を鳴らした。
「ちっ!」
こうしている間にも二人の切り合いは続いている。
副がスコーピオンを横一閃に振るうと香取は右手のスコーピオンで受け止める。そして反撃と言わんばかりに左手の拳銃を真横に撃った。
少し経つと銃弾はその軌道を変えて副を横から襲い掛かる。
(ぐっ!
わかっていても切り合いの最中では対応が後手に回ってしまった。
辛うじてシールドを張るも完全には防ぎきれず、一発の銃弾が副の右肩に被弾する。
「うわわっ」
(マズイ、手数が違う! このままでは俺が先に削られる!)
《ユズル! フォロー頼めるか!?》
《ごめん。狙撃ポイントにはついているんだけど。今は難しそうだ》
《どうして!?》
このままでは先に消耗するのは自分だ。副はすぐに絵馬に支援を要請するも、絵馬の冷静な声はその提案を拒絶した。
《南西から堤さんが来てるのが確認できた。多分合流を狙っていると思うけど、今撃てば俺の場所がばれてここで二人揃ってやられかねない》
《——了解!》
中央で待つ笹森との合流を急ぐ堤の進路近くの建物の屋上に絵馬がいる。ここで撃って居場所がばれれば笹森との挟撃を受けかねない状況だった。
本来ならばこれを防ぐために副が先に中央へと移動したかったのだが、今さらそれを嘆いても仕方がない。
《なら、三上先輩!》
『何?』
《一つお願いがあります!》
こうなったら善後策を講じるのみ。副は続いて三上と通信を繋ぎ、彼女にある事を依頼した。
「葉子ちゃん!」
「あいつ! また勝手に飛び出しやがったな!」
「こうなったら仕方ないわ。二人とも、急いで援護を」
『了解!』
一方、香取隊はすぐに三浦と若村が香取の元に向かう。染井の指示がある前に動いていたおかげで初動は速かった。若村はすぐに追いつけるよう直進し、三浦は中央にいる敵を警戒してカメレオンを起動する。
「香取隊長と嵐山がぶつかりました。それと東から二人こっちに来てますね」
『やっぱり香取が仕掛けやがったか!』
『東から来てるのは若村・三浦・木虎の誰かだよね? 絵馬どこにいんだろ』
『わからないけど、嵐山君をフォローする為に近くまで来る可能性が高い。日佐人、お前は一応警戒の為バッグワームをつけて待機だ』
「了解です」
『間違っても姿を晒すなよ。俺達が合流したらこっちも一挙に仕掛ける!』
対する諏訪隊は戦況を見渡せる笹森がバッグワームを起動し、マップ上から姿を消す事を選択した。相手から狙われるのを避けるのと同時にプレッシャーをかける狙いである。
『皆、さらに誰か一人がバッグワームを起動した。注意して』
「笹森先輩がバッグワームをつけた。でも移動はしないみたい。多分敵の襲撃を警戒している。俺が見てるから副はそっちに専念して」
『わかった! 抑えは頼む!』
これにより香取隊はさらに警戒度を高める事となった。しかし木虎隊は高所を抑えている絵馬が笹森を発見していたおかげでその影響を最低限にする事が出来ている。
「香取隊長、嵐山隊員の衝突を機に各隊員の動きも慌ただしくなりました。三浦隊員はカメレオンを使って若村隊員と別々のルートで香取隊長の下へ。一方諏訪隊はバッグワームを使用中の笹森隊員に諏訪、堤両隊員が合流する様子。対して木虎隊は二部隊とは対照的に大きな動きは見せません」
「皆狙撃を警戒しての行動ですね。移動中は狙われやすいから仕方ないし、合流も出来ていない状況なので当然かと」
「絵馬君がまだ偵察に徹しているみたいだから、これは香取ちゃんと副君の戦いが他隊員との合流前に決着つくかがポイントになるかな」
木虎と絵馬に続いて笹森がマップ上から姿を消し、若村もカメレオンで直視は不可能という隠密行動が目立つ戦況。合流の動きが多い為、北添は現在衝突している二人の戦いがどう決着を迎えるかで戦局を大きく左右するだろうと予見した。
「……ちょこまかと。五月蠅い奴らね!」
次々と変動する戦況を見て時間をつぶすのはまずいと判断したのか、香取は両手にスコーピオンを起動した。フルアタックの構えで副に襲い掛かる。
(来た! 今なら!)
これを好機と見た副も新たな動きに出た。
香取の刃が迫る寸前でテレポーターを使用。香取の背後を取った副が左手を後ろに引き、彼女と同じく両手でスコーピオンを起動。しかし彼はその両手を合わせて一筋の槍と化す。
すると彼の手から高速の刃が放たれた。
「だから?」
死角からの攻撃。だが、この一撃は香取の両手が張ったシールドにぶつかり四散した。
「なっ!」
(防がれた!)
「テレポーターって自分が見てる方向にしか飛べないんでしょ? その攻撃だって集中してシールドを張れば止められる。あんたみたいな新入り、倒そうと思えばいつでも倒せるのよ!」
必殺技が止められ、呆然とする副。
対する香取は再び攻勢に転じた。グラスホッパーで急加速し、勢いそのままに副を蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
『副君、今!』
「っ!」
屋上から地面へ落とされる形となってしまった。何とか態勢を整えようとした瞬間、三上から好機を告げる通信が入る。
「わかり、ました!」
すると副はもう一度スコーピオンを伸ばし、矢のように打ち出した。
「ッ!」
落ちながらの反撃にはさすがの香取も目を丸くする。
だが彼の攻撃は香取の上空を通過し、彼女を襲う事はなかった。
「はっ。なにそれ。そんな苦し紛れの攻撃で私を倒せるとでも——」
攻撃を外した相手を得意檄に笑う香取。だがその直後、彼女の後ろから鈍い金属音が響く。
何事かと振り向くや、備えてあった鉄柱の山が香取に向かって降り注いだ。
「えっ!?」
(まさか、あいつが狙っていたのは!)
「このっ!」
副の目的は香取の背後にあった工事現場の作業道具だったのだ。ここは工業現場。その為こういった器具もあらかじめ設置されている。
これにいち早く目をつけていた副は三上に自分と香取、そしてこの鉄柱群が直線状に並ぶタイミングを立体的なモニタリングで分析してもらうように頼んでいたのである。
突然の崩壊を逃れるべく香取は屋上から飛び降りながらシールドを張った。
「狙い通り。そして、もう一発!」
「ッ!」
これによりできた隙を見逃す手はない。
先に着地していた副がスコーピオンの二度目の投擲を行った。香取は反対の手でもう一枚シールドを張るも、防御するには薄い。スコーピオンがシールドを突き破り、香取の右腹部を撃ちぬいた。
「こいつっ!」
顔をしかめるも反撃には至らない。香取はそのまま崩落に飲み込まれ、地面に落下した。
「よしっ。一時撤退!」
「戦局に大きな変化が出ました。嵐山隊員のスコーピオンが香取隊長を直撃。香取隊長が障害物により身動きできない間にバッグワームを起動し、戦線離脱する模様です」
「うわー。今のはよく見てる。オペレーターの指示かな? きちんと追撃もするあたり狙ってたよね」
「フィールドの構造を上手く利用しましたね。香取隊長は少し油断があったか対応が後手に回ってしまった」
「このまま襲撃すれば一点を狙えたかもしれませんが、嵐山隊員は深追いしませんね」
「ええ。他隊員の動きからこれ以上の継戦は危険と判断したのでしょう。堤隊員の移動により空いた南へ抜けました」
「香取ちゃんを生かす事で、彼女を二部隊が次に動く起点としたって感じかな?」
副と香取の最初の交戦はこれで一先ずの終わりを迎える。上手く香取を迎撃し、しかも彼女を残す事で香取隊、諏訪隊の目標をそのまま継続させて時間も稼ぐ事が可能だ。
攻防を評価しながらも歌川や北添はすでに次の戦いがすぐに始まるであろうと感じ取っていた。
「――ああっ! このっ!」
そして置き去りにされた香取は自力で鉄柱を振り払い脱出に成功する。
「下敷きにした上に逃走とか舐めた真似してくれるじゃない! よくも!」
『葉子! すぐにそこから移動して!』
「はあっ? なんでよ?」
「諏訪隊が接近してる!」
「えっ」
怒りを爆発させる香取だったが時間は残されていなかった。
染井の指示を耳にした直後、すぐさま諏訪の姿が彼女の視界に映る。
「よう! 後輩いじめは楽しかったかよ香取!」
「——次から次へと!」
諏訪が両手で散弾銃を放ちながら突進した。香取もすぐに右手でアステロイド、左手にシールドを起動して反撃を試みる。
だが近距離戦での火力は諏訪が勝る状況では厳しいものがあった。瞬く間にシールドが削られ、追い込まれていく。
すると追い打ちと言わんばかりに彼女の真横にそびえる建物から飛び降りる人影が一つ。笹森が弧月を手に切り込んできた。
(新手!)
「葉子!」
振り下ろされた刃は援護に来た若村のフルシールドの前に止められる。
「くっ!」
(防がれた。もう一度!)
《ストップ、日佐人! もう一人右にカメレオンで消えてるのいるよ!》
「えっ?」
先制点を取ろうと返し刀を狙った笹森を小佐野が制止した。言われるがまま弧月を右に振るえばカメレオンを解除した三浦の弧月と鍔迫り合いとなる。
(香取隊も全員集結してたのか!)
「葉子ちゃん一度退こう!」
「——させねえよ!」
笹森とぶつかりつつ撤退を促す三浦。
その彼の背後から今度は堤が突撃した。
「ッ!」
(堤さん!)
「これで決める!」
諏訪に続く堤の集中砲火。さすがにこれを防ぐことは敵わず、標的となった三浦が一瞬で蜂の巣と化す。
「遅かった……」
離脱までの短い時間。三浦は判断の遅れを悔やんだ。
すると彼の視線の先では自分を撃ちぬいた堤の頭部が大きく横に揺れる光景が目に入る。
「なっ」
「えっ」
「堤!?」
得点を決めたすぐの出来事により諏訪隊に衝撃が走った。堤の頭部を撃ちぬいた狙撃、こんな事が出来るのはこの戦場ではただ一人のみである。諏訪隊の面々はすぐに射線の元を目で追った。
「がら空きだよ、堤さん」
「……見事」
(突撃の際、一瞬射線が通ってしまったのか)
『戦闘体活動限界。
屋上には絵馬が一人佇んでいる。狙撃は十分警戒していたはずだったが、得点に意識を先過ぎた一瞬の隙を狙われてしまった。
三浦と堤がタイミングを同じくして戦線離脱する。
「ここで初めての脱落者が出ました。三浦隊員と堤隊員の二名が同時に
「諏訪隊の強みである集中砲火が効きましたね。三浦隊員を落とすところまでは良かったのですが」
「攻撃直後で隙となりやすいタイミングを絵馬君が見逃さなかった。しかも何気にこれ、さっき副君が設置されていた鉄柱を壊したことで出来た射線だよ。諏訪隊はマップを知っていたからこそ気づくのが遅れたかも」
「隙と呼ぶにはあまりにも小さく、短いタイミングでした。これは絵馬隊員の狙撃能力を褒めるべきでしょう」
「本当にね。うちの隊に欲しいくらい」
短い間の攻防は諏訪隊の思惑通りだった。火力の強さを活かした襲撃、防ぐことは難しかっただろう。
それを絵馬が上手く利用した。彼の狙撃はもうすでにボーダー界でも上位に入るだろうと北添はその技術に感心し、解説らしからぬ言葉をもらした。
(やられた!)
「諏訪さん、絵馬を抑えます。今なら追えます!」
「おい!」
狙撃後、移動を開始する絵馬を見た笹森が追跡を始める。ここで追わなければ彼を撃破するのは難しくなると考えたのだろう。
「馬鹿、追うな! 木虎隊の二人がまだ潜伏してるんだぞ!」
だがそれは悪手だと諏訪が叫んだ。
姿を消していたのは絵馬だけではない。木虎、そして先ほどまで戦闘していた副もマップ上に表示されていない。
そしてその危惧が的中する事となった。
笹森が移動してすぐの横道に一人の隊員がバッグワームを解除して突如出現する。
「ッ!?」
(木虎隊!)
すぐに笹森はその場で立ち止まり、弧月の刃先を新手に向けた。その敵を視界に捉えた瞬間、相手の姿が消える。笹森は目を丸くすると、直後彼の視界が回転した。
「えっ。——え?」
『戦闘体活動限界。
笹森は副に自分の首が斬り落とされた事に気づく事もなく脱出する事になる。
これで木虎隊が二得点目。先制点を挙げた諏訪隊があっという間に一人となってしまった。
「ここでさらに嵐山隊員の奇襲が成功。笹森隊員も脱落となりました!」
「いやらしい動きだね。今まで消えていた相手がいきなり現れて。と思ったらテレポータ―でまた消えて。いつの間にか背後に回られる。戦闘慣れしてるなー。これは反応難しい」
「ええ。よほど対策を取るか奇襲に対応できる能力がない限り反応するのは厳しいでしょう。特に今のように
「これで木虎隊は全員残っている上に得点も最多。一気に優位となりました。さあここからどう動くでしょうか」
「まだ木虎ちゃんが潜伏してるのが不気味だなあ」
「普段は嵐山隊員と連携して点を取る彼女ですからね。他の隊員も疑問に感じているでしょう。まあ彼女の思惑はわかりませんが、他の二部隊が木虎隊を放置するとは思えません」
木虎隊は現在得点がトップである上に未だに姿を見せぬ木虎の存在もあり、放置は出来ない相手だ。しかも今ならまだ絵馬の位置取りがわかっている。
ゆえに諏訪、香取隊はおそらく木虎隊に狙いを定めるだろうと解説先の隊員たちは予感していた。
「この野郎!」
(諏訪さん!)
「吹っ飛べ!」
するとその予想通りまず仕掛けたのは諏訪だ。奇襲を仕掛けた副目がけてフルアタックを仕掛ける。テレポータ―を使用した直後で連続使用は不可能だ。これは防げない一撃。
ならばと副は左手にも再度スコーピオンを起動した。近くの建物の屋上付近に突き刺し、素早く伸縮。その反動で跳躍し屋上へと瞬時に移動する。諏訪の一撃を回避した。
「マジか!」
(ここで足止めする!)
「簡単には通させない!」
副が必殺の一撃を回避したら今度はアサルトライフルで諏訪を牽制する。この距離ならば散弾銃よりも射程が長い副の方が有利だ。
諏訪は打ち合いを避け、建物の陰に隠れ難を逃れた。
『副君、気を付けて! 香取隊が動いてる!』
「ッ!」
だが諏訪にばかり意識を向いてはいられない。
この間に香取隊は諏訪の射程から離れ移動を開始していたのだ。三上の指示に従って視線を向けると、香取隊の二名が東から回り込み、建物付近にまで迫っている事がレーダー上で確認できた。
(——挟まれた!)
屋上からでは角度から考えるに狙うのは難しい。何とか狙えないものかと標準を定め――そして若村がどこを探しても見つからない事に気づく。
(えっ? 若村先輩がいない!? どこに――)
もう一度レーダーを見る。するといつの間にか若村は香取と別れ、逃げる絵馬を追跡していた。
(まさか!)
「ユズル! 若村先輩がカメレオンを使ってそっちに向かってる! 気を付けて!」
《本当に? わかった》
レーダーで確認できても姿が見えない。つまりカメレオンを使っている。これでは狙撃を狙うのも難しいだろう。木虎隊の所在が判明している二人が追い詰められる事となった。
「ここで若村隊員がカメレオンを使用して単独で絵馬隊員を追跡! 残った諏訪、香取両隊長が嵐山隊員を挟撃する形となりました」
「居場所がわかった狙撃手を放置するわけにはいかないからね。しかもカメレオンを使えるなら相手に警戒をさせつつ近づける。上手くいけば木虎ちゃんもおびき出せるし良い手だと思うよ」
「とにかく今は絵馬隊員を抑えるのと同時に、ランク戦で一度も姿を見せていない木虎隊長をあぶり出す事がポイントです。となると二名残っている香取隊が動くのが一番手っ取り早い」
「さすがに両隊員がピンチとなれば木虎隊長も動くでしょう。さあどう対応するのか」
接近されれば絵馬でも対処は厳しい。隊長が動かざるをえない戦局となったと解説は語る。
「これでいいのね、華?」
《ええ。これで木虎隊が対応に回る番になった。諏訪隊だってこのまま木虎隊を放置するわけにはいかないはず。きっとこっちの手に乗ってくる。若村君はこのまま半潜伏状態で絵馬君を追って》
《了解!》
これは染井の打った手であった。バッグワームを使った方が絵馬を落としやすいかもしれないがそうなると木虎隊の動きが読めなくなる。ならば木虎隊を誘き寄せる方が効率が良い。諏訪隊も意図を理解して呼応するはずだ。
そして彼女の考え通り、諏訪はこの策に乗っかる形となった。
「若村が絵馬を追ってる?」
《そうみたい。さすがに狙撃手放置はまずいでしょ》
《これでまだ潜伏中の木虎隊長も釣れそうですね》
「あー。てか最初から消えてたの結局木虎だったのかよ? マジか」
小佐野からの通信で諏訪は若村が絵馬を追っているという事を知った。情報の整理も行い、これでようやく最初の状況が見えてきたのだが。
「じゃあまさか木虎のやつ、最初は副だけ前線に出して自分は高見の見物してやがったのか!? 大丈夫か、あいつ。いじめられてんじゃねえだろうな!?」
つまり、木虎隊はここまでずっと副だけが最前線に立たされていたというわけで。普段は連携して戦う隊員が孤独の戦いを強いられていたという事となる。
諏訪の脳内に『あんた嵐山さんの弟だからって調子に乗りすぎじゃないの?』『ごめんなさい木虎隊長。ごめんなさい』と木虎が隊長の権限を利用して圧力をかける姿が浮かび上がった。
《木虎は後輩には甘いって聞くから、さすがに同学以外にはそんな手は使わないでしょ》
《おサノ。その言い方は誤解を呼ぶ》
それではまるで同じ年齢の相手には使いかねないではないかと堤のツッコミ。だが、彼は知らない事だが、彼女が同年代の相手には強気に出るという点は小佐野の言う通りなのであった。
《でもこれで逆転の芽が出ましたね》
「ああ。木虎が隠れてたのはよくわからねえが、カメレオン使ってるなら奇襲は難しいだろう。このまま副を挟撃しつつ追い詰めてくぞ」
散弾銃を構え、諏訪も動き始める。目の前の標的を追い詰めながらその動向を探るために。
(やばっ。諏訪さんまで詰めて来てる!)
一方の副は対応に追われていた。
時間を稼ぐために距離を取りたかったのだが、さすがに二部隊の隊長を相手にするのは難しい。加えて香取はグラスホッパーも持っている為機動力が高い。これ以上この距離を保ち続けるのは難しかった。
(どうする。後ろに引くか。というかユズルの援護に向かった方がいいのか?)
考えられる手は三つ。
このままこの場で迎え撃ち時間を稼ぐか。あるいは後退して立て直すか。絵馬を狙う若村を撃退しに行くか。
いずれにせよ単独では成功が難しいだろうと気づいていた。
ならば玉砕覚悟で突撃しようかと考えた瞬間。
《副君、ありがとう。私が今から言う所まで退がって!》
「えっ?」
彼の思考をクリアにする声、木虎の指示が入る。
《準備は全部終わったわ。ここからは私も出る》
「お! 了解!」
活路を見出す命令に副に笑顔が戻った。
これで再び形成は逆転できる。木虎の参戦により、戦局は再び動きだろうとしていた。
次話で決着。そしてシーズン終了の予定です。少しずつ新展開を描いていくつもりです。