第二の嵐となりて   作:星月

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木虎藍④

 十一月の中旬。ボーダー本部で行われるB級ランク戦の新たなシーズンが開幕してもうすぐ半分に到達しようとしていた頃。

 木虎隊は暫定B級十位と中位をキープし続け、安定した戦いぶりを発揮していた。

 中位ともなればどの隊も皆油断すればすぐに勝敗が引っくり返りかねない実力者が集う、順位の上下が激しい領域。その中でこの順位を保ち続けられるのは一つの自信となるだろう。

 だが、その中で一人だけこの現状に悩みを覚えている者がいた。

 

(駄目。私、このままでは絶対に駄目)

 

 部隊を率いている隊長の木虎だった。

 現状で木虎隊が十位に位置しているのは彼女の指揮の高さは大きいだろう。だが得点という面に限って言えば話は異なる。木虎の悩みはそこにあった。

 

(最近、私だけ単独で得点を取る事ができていない。それどころか狙われる場面も多くなった)

 

 もとより得点源であった絵馬の狙撃は勿論、副もスコーピオンの練度を上げたことにより得点力が大幅に増加した。二人とも年下とは思えないほどの力で得点を重ねていく。

 それが非常に羨ましく思う。

 最近、木虎は二人のように振舞う事ができなくなってきていたのだ。

 元々銃手というポジションの都合上単独で点を上げることは難しい。加えてB級中位ともなれば皆連携の上手さは語るまでもなく、その防御を崩すことは容易に出来ることではない。

 その為木虎は個人(ソロ)ポイントも伸び悩んでいた。絵馬の方が圧倒的にポイントが高いという事も重なって、彼女の自尊心が、年下の前ではいいところを見せたいという思いが彼女を傷つける。

 

(何かつかめればと思って個人(ソロ)ランク戦のブースに足を運んではみたものの……)

 

 様々な挑戦を試みるがこれといった成長は見られない。どういうわけか木虎はトリオン量が平均よりもやや劣る。年下である副の方がわずかに多いほどだ。その為戦術でもやれることは限られており、好転はあまり見られなかった。

 

「おーっ。木虎ちゃんじゃん。おっす!」

「木虎先輩? お疲れ様です。こっちに来るなんて珍しいですね」

「あ、二人ともお疲れ様」

 

 どうすればよいだろうかと頭を悩ませていると、緑川と副の年下二人が気さくに話しかけてきた。

 早くもB級に昇格し、そのままA級の草壁隊に参入した緑川だ。同年代の副とは同じ体育会系ということもあってか気があうらしく、よくランク戦も行うなど交流を深めている。彼を通じて木虎も何度か会話を交わしていた。

 

「二人はランク戦?」

「今丁度終わったとこー」

「……3本しか取れませんでした」

「そうなの?」

「すっかり翻弄されてしまって……」

「ふっふっふ。A級を舐めてもらっては困るぜ」

「一応ボーダーに入ったのは俺が先なんだけどな」

 

 そう緑川は得意げに笑い、副は苦しげに顔を歪める。

 まだ入隊して数ヶ月だというのにすでにA級に所属している緑川は自信に溢れていた。それも唯我のように根拠のない自信ではない。自信に見合った力を持っている。それが余計に羨ましい。

 

「木虎先輩は……何か悩み事ですか?」

「え? いえ、そんなことはないわ」

「そうですか?」

「私は大丈夫。それより明日、次のランク戦の打ち合わせもするから忘れないでね」

「あ、了解です」

「じゃーなー」

 

 本当はその通りなのだが、後輩に見抜かれたのが恥ずかしく相談できるはずもない。

 木虎は口早に告げると早々にその場を去っていく。

 決して逃げようとしたわけではないが、二人の前で弱気な姿を見せないという重いが強かったのだ。今のように心の内を少しでも見透かされてはその場に留まってはいられなかった。

 

(でも、どうしたものかしら)

 

 特に考えもなく歩き始めたため特に行くあてがない。今から戻るというのも気が引けるが、それ以外の場所でこの悩みの解決策を見出す場所が想像できない。

 

「お、木虎か?」

「え? あ、烏丸先輩! お疲れ様です」

 

 悩んでいると、反対側の廊下から烏丸に話しかけられた。

 憧れの人を前に縮こまる木虎。そんな彼女の様子に気づいた素振りはなく、烏丸は変わらぬ調子で彼女へ問いかける。

 

「浮かない顔をしているがどうした? 何があったか?」

「……そんな顔をしていましたか?」

「ああ。迷っているような、そんな顔をしている。少なくともいつもの引き締まった顔とは違っているな」

 

 どうやら烏丸にもすっかり見抜かれていたようだ。

 顔を会わせる機会が多いチームメイトならともかく、他の人物にまで簡単に見抜かれるというのは少し気恥ずかしい。しかし同時に、烏丸が自分の表情までしっかり見てくれていたことに少しの嬉しさを覚えた。

 

「少し、ランク戦のことで悩み事があって。それでどう解決すべきか考えていました」

「悩み事? お前達の隊は最近も安定した成績を残していると聞いていたが」

「隊のことと言うよりも、少し個人のことでして」

「……まあここで長々と立ち話をするのもなんだな。少し場所を変えようか」

 

 そう言って烏丸は先に歩き出す。

 自販機で飲み物を二つ購入すると、一つを木虎へと差出しベンチに腰掛けた。烏丸があまり懐に余裕がないという事を知っている木虎は遠慮したが、好意を無下にするのも忍びないと最終的には受け取り、隣で喉を潤わせた。

 そして徐々に烏丸へと悩みを打ち明けていく。

 先に彼も語っていたように、木虎隊としては順調に活躍が出来ている事。

 しかしその中で自分だけが伸び悩んでいると言うこと。

 チームメイトであり後輩でもある二人以上の働きを見せたいということを。

 

「……成程な」

 

 一通り話を聞いて、烏丸は飲み干した空き缶をゴミ箱へと捨てる。

 そしてしばし考えるような仕草を行って数秒後。

 

「俺としてはお前の悩みはわかる。わかるが別の道を探るのも手だと思う」

 

 木虎の悩みに同調した上でよりよい道を彼女へ提示した。

 

「別の道、ですか?」

「ああ。お前も分かっているようだが銃手というのは本来点が取りにくいポジションだ。連携を組まない限りは攻撃手と渡り合うことも難しい」

「はい」

「しかし、だ。何もチームに貢献したいというのなら銃手というポジションに拘る必要はないんじゃないか?」

 

 ――銃手以外の活躍の場。

 そういわれて木虎は真っ先にチームメイトである副の姿を思い浮かべた。

 彼も元々は銃手だったが影浦の指導の下、スコーピオンも扱うようになってより腕を磨いた。

 ならば、自分も彼のように新たな道を切り開く事ができれば、あるいは。

 

「……一つ言っておくが、別に攻撃手トリガーを操る、というだけの簡単な話ではないぞ」

「えっ」

 

 そこまで考えて、烏丸に釘を刺される。自分の考えをまるで全て見通しているような言葉だった。

 

「その考えは別に間違っていない。間違っていないが、何もそれだけじゃないってことだ」

「と言いますと?」

「お前は自分が絵馬や副に劣っていると考えているようだが、俺はその二人よりもお前の方が隊員として優れていると思っている」

「そ、そんな! ありがたい事ですが……」

 

 このように純粋に評価してもらえるのは非常に嬉しい。気恥ずかしくなって顔を逸らし、表情が固まる木虎。

 

「別に嘘をついているわけでも気をつかっているわけでもない。じゃあお前は俺が何故そう考えたかわかるか?」

「それは――隊長として指示をこなしているから、ですか?」

「ああそうだ」

 

 烏丸が木虎を他のチームメイト以上に評価している理由。それは彼女の隊長としての実力を認めているからだった。

 ただ前線で戦うだけではなく、戦況を見て部隊に指示を出す。その能力を身につけて実際に発揮することは並大抵のことではない。

 

「攻撃手として技を磨くのは勿論、隊長としての務めを果たす。ならば今お前が考えるべきなのは、隊長としてお前が味方をどの様にフォローするか。それが重要なんじゃないか?」

 

 烏丸の言葉を受け、木虎は視界が鮮明になったような錯覚を覚えた。

 

(少し、考えが偏りすぎていたのかも)

 

 今までの自分の甘さを反省せずにはいられない。

 自分のトリオン量の限界を理解し、チームメイトの二人の活躍が眩しく感じて、自分の立ち位置まで見失ってしまうところだった。

 一隊員として戦う前に木虎は木虎隊を率いる隊長なのだ。その役目をまず何よりも優先しなければならない。

 

「……ありがとうございます。烏丸先輩」

「気にするな。ランク戦頑張れよ」

「はい! ありがとうございます!」

 

 手を振ってバイト先へと向かう烏丸に、木虎は深々と頭を下げた。

 あれだけ悩んでいたというのに今は清々しささえ感じている。

 今なら、改善策も思い浮かぶかもしれない。よりチームに貢献できるかもしれない。

 

 

 

――――

 

 

 

 そして、次のランク戦が開催される。

 

「ボーダーの皆さんこんにちは! B級ランク戦ROUND11! 中位グループ昼の部、間もなく始まります! 本日の実況は私、綾辻遥が務めます!」

 

 実況の綾辻が話し始めると、歓声も徐々に高まる。

 ランク戦の開始は勿論ボーダー内で非常に人気の高い彼女だ。どんどん人は集まってきた。

 

「本日、解説席には風間隊の歌川隊員、影浦隊の北添隊員にお越し頂いております。よろしくお願いします」

「どうぞよろしく」

「どうぞよろしく」

 

 綾辻の説明を受け、A級隊員の二人は軽く会釈する。

 風間隊万能手 歌川遼

 影浦隊銃手 北添尋

 

「さて、本日の組み合わせ。B級九位の香取隊、B級十位の木虎隊、そしてB級十二位の諏訪隊という組み合わせです。どのような展開が予測されますか?」

「どの部隊も中距離が得意な組み合わせですね。銃手が二人ずついる。如何に上手く連携できるかがポイントになるかもしれません」

「銃手二人という点は同じだけど。諏訪隊はマップ選択権を持っているし、香取隊のエースは元攻撃手。木虎隊には狙撃手がいたりとちょっとした差も結果に現れるかもね」

「なるほど。――おっと。ここでマップ選択権を持つ諏訪隊が選択を終えました。諏訪隊が選択したのは『工業地区』! 狭いエリアに並び立つ工業施設が特徴です」

 

 スクリーンに諏訪隊が選択した『工業地区』のマップが大きく映し出された。活動中であるのだろうか煙が黙々と舞い上がり、複雑な地形が入り組んでいる小さな戦闘エリアとなっている。

 

「これは諏訪隊がお得意の銃撃戦を狙っている、ってことかな」

「連携すれば大物も食えるのが諏訪隊の強み。開けた場所に出られれば銃撃戦を展開できる上に要所要所に聳える建物が狙撃を防いでくれる。良い選択だと思います。やや木虎隊が不利かもしれません」

「そうですね。さあ、諏訪隊の読みどおり中距離戦が命運を分けることとなるか。間もなく試合開始です!」

 

 綾辻の言葉で締め括り、解説は試合開始まで中断される。

 解説席の三人がその間場の繋ぎとして他愛もない会話に花を咲かせ会場を和ませていく中、三部隊の隊員達は各々の作戦の確認をし合っていた。

 

「よっし、お前ら。準備はいいな?」

「こちらは大丈夫です」

「いつでも行けますよ」

「オペレーターは任せろ~」

 

 諏佐の呼び声に、堤をはじめとした三人が変わらぬ調子で答えた。

 諏訪隊攻撃手(アタッカー) 笹森日佐人

 諏訪隊オペレーター 小佐野瑠衣

 

「はじまり次第とにかく合流だ。瞬間火力ならうちの方が勝る。開けた場所で敵を迎え撃つぞ!」

「いつも通り、ですね」

「問題は香取隊長あたりが突っ掛かってこないかですね。大体ランク戦開始序盤から派手に動くタイプですけど」

「そん時は日佐人、お前が弧月で動きを封じろ。俺達が吹っ飛ばす」

「それって俺も吹っ飛ぶやつじゃないですか?」

「ひさとの尊い犠牲でカトリンが落とせるならお釣りが来るよ」

「おサノ、まだ決まったわけじゃないから。敵が突っ込んでくるようなら一歩退いて迎え撃ちましょう。その方が取りやすい」

「向こうから動いてくるならそれだけ状況が読みやすい。全力で対応しろ」

 

 この隊の特徴、と言うべきか。ランク戦開始直前でも少し砕けたような空気が漂っていて、各隊員が各々思うところを率直に述べている。纏まるところは纏まっていて共通意識も固まっている。

 

「もうB級上位入りは目前だ! 勝って一気に上り詰めるぞ!」

『おう!!』

 

 目標としているB級上位への仲間入りが近いということも彼らの背中を押していた。

 意気揚々と彼らはランク戦開始の時を待つ。

 隊員達の深い絆が感じ取れる諏佐隊。

 その一方で、同じランク戦に挑む香取隊では。

 

「諏訪隊とやるのは久しぶりだね」

「向こうも順位変動が激しいからな。それより初対戦となる木虎隊をどうするかだ」

 

 サポートに周る事が多い三浦と若村が対戦相手のデータに目を通していた。

 香取隊攻撃手(アタッカー) 三浦雄太

 香取隊銃手(ガンナー) 若村麓郎

 B級上位にいたこともあるチームを影で補佐する隊員達である。

 

「マップが工業地区なら、銃撃戦になるのは間違いねえ。木虎隊も銃手(ガンナー)二人構成だから三チームが入り乱れる可能性もあるが、……おい葉子! お前もまともに作戦会議に参加しろよ!」

 

 敵チームへの対策を立てようとして、一人ソファで端末をいじっている隊長へ向けて若村が声を荒げた。

 

「うるさいわね。どうせアタシがいなきゃ勝てないんだから、あんたらは私が自由に動けるようにフォローする。それでいいじゃない。そんな風に予め立てていた作戦がまともに機能したことなんて殆どないんだし」

「てめえ……!」

 

 苛立ちを募らせる彼を、香取は適当にあしらいまともに相手にしない。

 香取隊隊長 銃手(ガンナー) 香取葉子

 そんな香取を目にした若村の中で彼女への怒りが余計に高まっていく。

 

銃手(ガンナー)ランクで伸び悩んでいるからって気抜けてるんじゃねえよ」

「……は? 何それ?」

「そうだろうが。攻撃手(アタッカー)から銃手に転向しても銃手のソロランクで伸び悩んで、その間に木虎や嵐山さんの弟達とか最近入ってきたやつらばかりがどんどん順位を上げていく。そういったやつらに嫉妬してるんじゃねえのかよ?」

 

 ピクリと香取の眉が動いた。

 今日の対戦相手である同ポジションの隊員達を決して意識していない、というわけではない。同時に別に格段強い敵対心を持っているわけでもなかった。

 が、ここまで指摘されては彼女の自尊心がその言葉を無視できるはずも無い。

 

「そんな風に項垂れている暇があったら、少しでも――がっ!?」

 

 さらに本音をぶちまけようとする若村の顔に、香取が投げつけた機械が直撃する。

 

「黙りなさいよ。――一人で点が取れないやつや兄の七光りで入隊したようなやつに、私が負けるわけ無いでしょ」

「てめえ!」

「ふ、二人とも落ち着いて!」

 

 お互い一歩も譲らず、調子を崩さない。

 何とか三浦が二人の間に入って場を取り持とうとするが決して上手く行かない。

 

「……三人とも」

 

 そんな険悪な空気を静かな声が一蹴した。

 凛とした顔つきの女性隊員、香取隊の参謀役であるオペレーターの染井だ。

 香取隊 オペレーター 染井華

 

「時間よ。準備して」

 

 彼女の呼びかけには三人とも素直に応じ、それ以上の討論は中止となった。

 あまり良くない雰囲気の中、それでも染井の言葉で最低限のまとまりを取り戻した香取隊。

 この苛立ちは相手にぶつけようと開始の時を待つ。

 

 

 同時刻。木虎隊の作戦室では。

 

「それで木虎先輩。俺はどれくらい時間を稼げばいいんですか?」

 

 諏訪隊のマップ選択が完了し、十分に策が通用すると判断した後。

 副は隊長である木虎にそう問いかけた。

 今回彼女が立てた作戦を実行するにはしばし時間がかかる。その為策をしこむようにどうにかして時間を稼ぐ必要があった。

 その役割は狙撃手である絵馬には頼れない。ゆえに副が受け持つしかないのだが。

 

「……二分間。ランク戦が始まってから二分は稼いで欲しいわ。できれば三分」

「結構かかりますね」

「念入りに仕掛けておきたいから。逆に言えば、そこまで稼いでくれれば後のことは保証できる」

 

 どれくらい時間を稼げるか、計算する事は難しい。しかしそれさえ乗り越えられれば勝算は高い。彼の振る舞いに期待するしかない。

 

「敵の配置次第では俺も十分に援護できる。副はとにかく生き残る事に専念してくれればいいよ」

「了解。そういう事なら頑張ります」

「多分諏訪隊は堤さんと諏訪さんが合流するまでは仕掛けてこないと思う。逆に香取隊はカメレオンやバッグワームを使った奇襲も仕掛ける事があるから気をつけてね」

「はい。フォローは頼みますよ」

 

 絵馬や三上のフォローもある。

 生存する事に専念する、ということならば十分可能だろう。特に試合開始直後は部隊の合流を目指すケースが多く早々脱落する事は無いはず。

 ならば十分に働いて見せよう。

 

「じゃあ、行きましょう」

 

 木虎の真価が問われる大事な一戦だ。しくじるわけにはいかない。

 普段よりも幾分か気迫の篭った顔つきで四人はランク戦へ向けて集中力を高めていた。

 

 

「――さあ、ここで全部隊(チーム)、仮想ステージへ転送完了!

 九日目昼の部三つ巴! 戦闘開始です!」

 

 いよいよランク戦が開始。

 隊員達が工業地区に飛ばされ、すぐさま多くの隊員達が動き出した。

 

「よっしゃ! 始まったぞ!」

「はい。日佐人、お前は周囲を警戒しろ。諏訪さんと一緒にそっちへ向かう!」

「了解しました」

「くれぐれも狙撃に掴まんなよ。絵馬に見つかると厄介だ」

 

 諏訪隊は諏訪と堤の両名がマップ中央に近い笹森の元へと向かう。

 銃手二人の火力がメインの諏訪隊にとっては一人で敵隊員と当たるよりも部隊が揃って動いた方が点が取りやすい。中距離優位のマップとなればなおのこと。彼らの動きに迷いは無い。

 

「さて、他の連中は――あ?」

 

 走りながらレーダーで他の隊員の動きと居場所を探る諏訪。

 しかしレーダー上に映し出されている光点に違和感を感じ取り、小佐野へと声を張った。

 

「おい! レーダーの数足りねえぞ! 誰だ消えてんの!?」

『多分絵馬じゃない? もう一人は三浦か若村あたり?』

「ちっ。まあいい。日佐人、周囲の警戒怠るな。止まってると面倒だ」

『了解です』

 

 本来なら九人の位置取りを確認できるはずなのに、七人しか映し出されていない。

 二人がバッグワームを使っているということだが、狙撃手の絵馬はわかるがもう一人は誰なのか、何の目的で使っているのか検討がつかない。

 奇襲か動揺を誘うことが目的か。どちらかだろうが合流前に奇襲を受けると厄介だ。

 諏訪は笹森にもう一度注意を促し、急いで彼の元へと向かった。

 

『じゃあ副君、お願いね』

 

 そんな事が起こっているとは知らず、ランク戦開始直後から姿を消している当の隊員、木虎は短く副にそう命令し潜伏していた。

 

「了解です」

 

 指示を受けた副はマップの中央へと走る。

 木虎のいる方角にも一致するが、そこまでは行かずに中心部で敵の注目を集める事が目的だった。

 

「それじゃあユズル、始めるよ。俺が敵の目を引くからサポートよろしく」

『了解。もう狙撃ポイントについてる』

「わかった。じゃあ俺もそっちに――」

『副君! 警戒!』

「へ?」

『来るよ!』

 

 同じく自由に動ける絵馬と連絡を取り、目的を果たそうとすると、三上が警鐘を鳴らした。

 何事かと副がレーダーに目を向けようとして。それよりも先に自分に高速で迫ろうとする一人の女性の存在に気がついた。

 

「私が負けるわけないでしょ。とっと終わらせてやる」

「……あら。囮になる必要なかったな」

 

 香取が副を落とそうと急接近していた。

 まさか囮になる前に敵から寄ってくるとは思ってもいなかった。副は苦笑して迎撃の態勢を取る。

 開始早々の一騎打ち。予想外の危機を乗り越えられるか。




初期転送位置

             若村
      香取    
    副     笹森       
                諏訪
       絵馬    三浦
     堤
               木虎



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