第二の嵐となりて   作:星月

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本当は昨日投稿したかった。
影浦さん誕生日おめでとうございます。


影浦雅人①

 その後、副は先を歩く村上に促されるままに一軒のお好み焼き屋に足を運んでいた。

 店内に入ってみると、驚いたことに荒船隊の隊長である荒船の姿があった。お好み焼きが好きだと語る彼はこの店の常連客であるらしい。防衛任務の帰りや学校帰りに寄るとのことだ。

 

(ひょっとして荒船先輩が? いや、でも武器が違うし)

 

 荒船の姿を見て、まさか彼がスコーピオンを教えてくれるのだろうかとも考えたが、先のランク戦でも弧月しか使っていなかった。攻撃手(アタッカー)であるとはいえ違う武器の扱いは専門外であるようだ。

 ならば何故。

 そう首を傾げる副の悩みを他所に、村上は荒船が座っていたテーブルに合流するとメニュー表を眺め始める。どうやら店員は村上のこともよく知っている様子だった。彼もこの店を何度か訪れているということが想像できる。同学年であるしひょっとしたら荒船と一緒に来たことがあるのかもしれない。

 いまだ疑問は晴れないが、副も村上に続いて彼の横へと腰掛けた。

 

「さて、今日は何を頼もうかな。副、お前も好きなものを頼めよ」

「はい。それは良いのですが、村上先輩」

「どうした?」

「その、先ほど話したスコーピオンの師匠についてのお話の方は……」

「スコーピオン? なんだ、お前師匠を探しているのか?」

「ええ。そろそろ攻撃手(アタッカー)の方でも個人(ソロ)ポイントを稼ぎたいと思いまして」

「なるほど。……それでここにつれてきた、というわけか」

「ああ。そういうことだ」

 

 荒船は事情を聞くと村上の行動の意図を即座に理解したようだ。村上に視線を向けると、彼は肯定するように大きく頷く。

 どうやら荒船もこの店に来るということがスコーピオンの師匠探しにつながると考えているようだ。

 ならばこの店には他にもボーダー関係者がいるのだろうか。

 副が答えの浮かばない問題を考え続けると、それを察したのだろうか村上は諭すように肩を叩いた。

 

「詳しく説明してないせいで混乱しているだろう。悪いが、こういう話は本人がいる前で話した方がいいと思ったんだ」

「そうですか。村上先輩の方が話を知っているようなので、その辺りの判断はお任せします」

「助かる。まあまずは腹ごしらえだ。せっかく来たんだ。この店の味を楽しんでくれ」

「そうだぜテメェら!」

 

 村上がやんわりと説明を加えると、話が聞こえてきたのか店員らしき男が張り上げるような声と共に彼らが座るテーブルに向かってきた。

 一足先に注文を済ませていた荒船の品を机にソッと置くと、彼は鋭い歯を見せびらかすように笑みを浮べる。

 

「話なんて後でいくらでも出来る。さっさとうちの品を堪能しな!」

「カゲ」

「よう、鋼。こっちで会うのは久々じゃねえか」

「ああ。今日はお前に会わせたいやつがいて寄ったんだ。……副、こいつは影浦。この店の店主の息子で、ボーダーA級部隊の隊長だ」

 

 カゲと村上に呼ばれた店員、影浦が上機嫌に話しかける。

 A級影浦隊攻撃手(アタッカー) 影浦雅人

 ボーダーの精鋭中の精鋭、A級部隊を率いる隊の隊長であった。

 

「そうでしたか。はじめまして、影浦先輩。嵐山副といいます」

「嵐山? ああ、柿崎(ザキ)さん達が言ってた新入りの方か」

「ザキさん?」

「嵐山隊の柿崎さんのことだよ」

「なるほど」

 

 柿崎を通じて影浦も副の存在を知っていた。どうやらここでも副が持つ人脈の広さが活きていたようだ。影浦も嵐山隊と同じA級部隊。それなりに交流があって話に出てきたこともあるのだろう。

 このようなところでも色々な人に助けてもらってありがたい気持ちでいっぱいだった。

 

「ってことは、お前ら揃いも揃ってこのガキにランク戦で痛い目に会ったのか? おもしれー! 後で記録(ログ)見直すぜ!」

「見るなよ」

「俺は負けていない」

 

 先のB級ランク戦で副が所属する木虎隊が鈴鳴第一を撃破し、荒船隊とも互角以上に競っていた。その話を思い出して影浦はさらに機嫌を良くした。そんな彼に苦言を呈する村上と荒船。副も目の前にその相手がいるために反応に困ってしまい、口を閉ざして傍観に務めることにした。

 

「で? 俺に会わせるってことはトリガーの事か? 大体想像はつくけどよ」

「話が早くて助かる」

「だがまずは食っていけ! うちに来たんだ。話だけは許さねえぞ!」

 

 ようやく本題に入ろうとして、しかしここは飲食店。しかも影浦が働いている店だ。

 話の前に食事が先。その意見は最もだ。

 影浦に急かされて村上と副も注文を頼んでお好み焼きを堪能する。

 

(あ、美味しい)

 

 影浦が持つ鋭い歯や厳しい眼光の為に第一印象は少し怖い人、という印象があったのだが。話してみれば意外と気さくなようだし提供されるお好み焼きも満足のいくもの。十分に熱したお好み焼きは絶品の一言に尽きる。

 良い人なのかも、と副はチラリと影浦を見る。すると何故か背後を向いていて視線が会っていないはずなのに影浦が笑みを浮べて副へと近づいてきた。

 

「おう、どうだ。結構いけるだろ?」

「え。あ、はい。とても美味しいです」

 

 このタイミングは偶然なのだろうか。

 突然の出来事に困惑しながらも箸を伸ばす手は止まらない。次々とお好み焼きを平らげていった。

 

 

――――

 

 

「――で? 一体今日は何のようだったんだよ?」

 

 食事を終えて影浦が片づけを済ませたあと。

副と村上はようやく本来の目的を果たそうとしていた。ちなみに荒船は先に帰宅したのでこの場にはいない。

 

「そうだな。お前に頼みがあるんだが……」

 

まずどこから話そうか。そう村上が悩んでいると、その前に副が単刀直入に影浦に頼み始めた。

 

「実は、俺は今スコーピオンの師匠を探しているんです。影浦先輩、俺にスコーピオンの戦いを教えてくれませんか?」

「あ?」

 

 余計な説明は不用。長く話すよりもキッパリと要件を伝えたほうが良い。そう考えたのだろう。

 手短に告げられた副の頼みを前に、影浦は。

 

「やなこった」

 

 こちらも、一言で拒絶の意志を表示した。

 

「なんで俺が初対面のやつの師匠にならなきゃならねんだよ。大体俺はそんな師匠とかそういう役割は嫌いなんだ。バカ正直に練習に手伝うなんて面倒だしな」

「……おい。カゲ」

「どうしても強くなりたいってんなら、勝手に練習してろ。個人(ソロ)ランク戦とかしてればそのうちそれなりに強いスコーピオン使いとも当たるだろうよ」

 

 これ以上説得しても無駄だ。一歩も譲る姿勢を見せず拒絶の言葉を並べていく。

 確かにランク戦を通していけばいつかは強くなれるかもしれない。

 しかしその確信はないしどうしても師匠がいるいないによって戦い方というものは変わってくるだろう。

 

「そこを何とかお願いします。俺は、影浦先輩に教えていただきたい」

 

 深々と頭を下げる副。

 

「やなこった」

 

 だがやはり、影浦の返答は変わらない。淡々と彼の依頼を撥ね付けてしまう。

 少しも考える素振りはない。おそらく影浦の意志は決まっているのだろう。

 これ以上は無駄であると村上は副の肩を叩いた。

 

「仕方がないさ。忙しい中悪いなカゲ。今日はここで帰る。また今度な」

「……はい。影浦先輩、わざわざありがとうございました」

 

 頭を上げて、副は店を後にした。

 影浦に対する嫌気などはない。師匠に向いている向いていないは確かに存在するだろう。そうでなくても影浦とは初対面だ。このようなことを無理強いするのはよくない。格上で年上ともなればなおさらだ。

 店を後にする二人。

 帰り道は途中までは同じであった為にその後も共に歩いていた二人。

 その中で村上は先ほどの会話で一つ疑問に感じたことを副に問いかけた。

 

「どうしてカゲにこだわったんだ?」

「え?」

「さっき『カゲに教わりたい』とそう言っていただろう。カゲがそこに反応していなかったということはあれは紛れもなくお前の本心だ。どうしてそこまでこだわっていたんだ?」

 

 副は影浦の戦い方さえ知らないはずだ。それなのにどうしてあそこまで影浦を師匠に仰ぐことに一心になっていたのか。

 その問いに、副は少し恥ずかしげ笑みを浮べて答えた。

 

「それは村上先輩からの提案でしたから。俺よりも攻撃手(アタッカー)の事をよく知る実力者の意見。どうして他の選択肢を選べます?」

「……参った。そう来たか」

 

 これはカゲも反応できないわけだ。

 村上は後輩の馬鹿正直さに感心半分呆れ半分の状態になって、一つ息を吐く。

 副と別れた後。自分からも後でもう一度進言しておこうとそう村上が考えたのと彼の携帯端末が振動を始めたのは殆ど同じタイミングであった。

 

 

――――

 

 

 その頃。影浦の自室。

 影浦はパソコン上に流れている映像をじっと眺めていた。

 画面には先日のランク戦の記録(ログ)、木虎隊の戦いが映っている。

 特に影浦が見ていたのは木虎隊の一員である副の動き。

 アサルトライフルで銃撃戦を繰り広げ、時にはスコーピオンで先陣を斬り、村上や那須といったエース級の相手とも渡り合っている。

 無言で映像を見続けること十分ほど。画面が途切れると影浦は携帯端末へと手を伸ばして、一人の友人へと通話を繋げた。

 

「……おう、鋼か。さっきぶりだな。一つ聞きてえんだが。」

 

電話の相手は村上。つい先ほどまで彼が話していた相手だ。

影浦は村上に有ることを聞き出すと、満足げに笑みを浮べてすぐさま通話を切る。

 

「さて、久々にポイント稼ぎに出るか」

 

 

――――

 

 

 翌日の昼。

 陸上部の朝練を終えた後、副はボーダー本部へと向かっていた。

 防衛任務は今日の夜から組まれている。まだまだ時間はあるのだが、その前に個人(ソロ)ランク戦をやっておこうと考えたのだ。

 

(影浦先輩も桐絵さんも言っていたけど、実戦で学べることも多い。特にスコーピオン使いの相手との戦いなら学べることも多いはずだ。少しでも扱いに慣れておかないと)

 

 攻撃手(アタッカー)である二人の先輩からの意見だ。これに従わないという選択肢はない。

 ブースに入ってランク戦の手続きを手短に済ませるとランク戦に参加中の隊員が表示される。

 やはり弧月が人気であるためかスコーピオンの表示は中々見つからない。

 何とか見つけてランク戦を挑んだものの、相手はB級単独(ソロ)の隊員だった。

 二人の相手と二十戦を繰り広げたが戦績は13勝7敗と勝ち越し。

 先日戦った各部隊のエース級の隊員と比べると圧力が別物だった。

 

「やっぱりそう簡単には見つからないか。……うん?」

 

 一度戻って記録(ログ)を見返した方がいいのだろうか。

 そう副が引き返そうとすると、副に挑戦する隊員が現れたと表示される。

 しかも相手はスコーピオン。これは珍しいと考えて、相手の個人(ソロ)ポイントを見て絶句する。

 

「い、一万越え!?」

 

 脅威の五桁を記録する数字の持ち主だった。

 この実力、A級であることは間違いないだろう。これほどの相手との対戦など滅多に出来るものではない。副は喜んで挑戦を受け入れた。

 転送が始まった。ゆっくりと目を見開けば見慣れた市街地の風景と共に――昨日初対面を果たした、男性隊員の姿が目に映る。

 ボサボサの黒髪をかき上げ、相手は満足げに口角を上げた。

 

「よう、副」

「影浦先輩!? 何で!?」

 

 昨日、誘いを断られた影浦の姿があった。

 まさかこんなタイミングが良すぎる偶然がありえるのだろうか。

 副が首を傾げると様子に気づいた影浦が語り始める。

 

「だから昨日言っただろうが」

「へ? 言うって、何をです?」

「勝手に練習でもやってろってよ。そうすればランク戦でそのうち強いやつと当たるって言っただろ」

「勝手にって、え!? そういう意味だったんですか!?」

 

 つまり一般的な師匠の様な指導は出来ないが、勝手にランク戦をやっていればランク戦の相手として教えてはくれる。そういうことなのだろうか。

 何ともわかりにくいことをしてくれたものだ。

 ひょっとしなくても影浦先輩ってやはり良い人なのかも。副が影浦の株を上げていると、何を考えたのか突如影浦が言葉を荒げる。

 

「おおい! 何ぼさっとしてんだテメエ。まさか実は良い人なのかもとか考えてるんじゃねえだろうな!?」

「え!?」

(心を読まれた!?)

「あの、俺言葉に出ていましたか?」

「気配でわかるんだよ。舐めたこと考えてるんじゃねえぞ!」

 

「どこの殺し屋ですかあなたは」とは言えなかった。

 

「ここから先切り裂かれることになるんだ。一瞬とも気を抜くんじゃねえ」

「……はい。ただでやられるつもりもありませんけど」

『対戦ステージ、「市街地A」。個人ランク戦十本勝負、開始』

 

 二人とも好戦的な笑みを浮かべて、ランク戦はスタートした。

 

 

――――

 

 

「ッ!」

(強い、早い! 押し切られる!)

「オラオラ、どうした!」

 

 影浦の両刀スコーピオンに対して副は右腕にシールド、左手にスコーピオンを展開して切り合いを繰り広げている。

 致命傷はシールドで避けているものの、手数の差が大きすぎた。

 副のトリオン体には時間の経過と共に傷口が次々と増えていく。シールドも損傷が激しくこれ以上大きなダメージが入ればすぐに割れてしまいそうな状態だった。

 

「こんのっ!」

 

 形成逆転を狙い、副はテレポーターを使用。

 影浦の背後の屋根へと乗り移り、奇襲を狙って屋根を蹴った。

 

「甘ぇんだよ」

「ッ!?」

 

 だが読まれていたのか影浦は副へ目掛けて一本のスコーピオンを投擲。

 勢いがついている状況ではかわしきれない。右腕に鋭い刃が突き刺さった。

 

(スコーピオンを飛び道具に!?)

「やべっ!」

 

 奇襲は失敗。態勢を崩してスコーピオンの間合いに入ってしまった。即座に落下地点を蹴って後方に下がる。

 影浦の追い打ちに備えてスコーピオンを構え、迎撃態勢を整えた。

 

「それじゃあ防げねえよ」

 

 影浦の手元から、刃が鞭のように伸び副を襲った。

 首から胴体にかけて大きく傷が走る。

 これはもはや取り返しようのない致命傷だった。

 

「……なっ」

『トリオン体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 何が起こったのかもわからないまま、副は緊急脱出(ベイルアウト)

 影浦に手も足も出ず彼の一本目を許してしまった。

 

(スコーピオンが伸びた? スコーピオンの射程では届かないはずの距離なのに)

「ほら、どうした。どんどん行くぜ」

「……よろしくお願いします!」

 

 影浦の攻撃のトリックは掴めていない。あの無尽に振るわれる刃を凌ぐ事は難しい。

 しかしこれほどのスコーピオン使いは見たことがない。今まで戦ってきた相手の中でも間違いなく別格の存在だ。

 そんな相手と競い合える。

 副は闘志が消えるどころかさらに気迫を込めてランク戦へと臨んでいった。

 

 

――――

 

 その日の夜。

 防衛任務に当たっている副は同じシフト時間の担当である烏丸、柿崎と共に本部の外へと出ていた。警戒区域の限界となる境界線付近の巡回。その途中、話題は昼に行われていたランク戦の話へと移った。

 

「それで、ボロボロにやられたのか」

「……今日の影浦先輩との戦績。トータルで0勝30敗です」

「これはまた手ひどくやられたわけだ」

「あいつは手加減を知らないからな。小南といい、厄介な人物と組んでいるな。よくついていってるよ」

 

 話を聞くだけでもどれだけ一方的な蹂躙が繰り広げられたのかを想像することは容易い。

 烏丸も柿崎も揃って息を吐いた。小南も影浦も指導に当たっても全力で挑むような隊員だ。それについていくことは中々できることではない。

 二人は呆れと感心の両方を懐いて副を見る。

 しかし肝心の副はといえばそう気落ちしている素振りは見られない。

 

「でも本当参考になります。俺では考え付かないようなスコーピオンの使い方をしていますし、何より格上との戦いとなると緊張感が全然違う」

 

 戦いで懐く負の感情よりも得られるものの方が大きいのだろう。

 特に未知の戦いを示してもらうという点は非常に大きなものだ。まだ経験の浅い副にとっては新しい世界が開けていくような感覚。無邪気に、楽しそうに副は語っている。

 

「本当に、恵まれていると実感します」

「……やれやれ。困った後輩だ」

「師匠側にとっては良いんじゃないですか? 小南先輩も影浦先輩も初めての弟子のようですし」

「それはそうだけどな」

 

 そこから先は、柿崎は続けることができなかった。

 今はそれでもいい。強くなることに夢中になる。悪い事ではない。だがしかし、彼がこの先強さの壁に当たってしまったのならば。自分の強さに限界を感じてしまったならば。

 その時、彼は今と同じ感情を懐き続けることができるのだろうか。目標を見続けることが出来るのだろうか。

 答えは出ない。

 副が目指している目標。それは柿崎にとってはあまりにも眩しいものである為に。直視することが出来なかった。

 

「でも影浦先輩に勝てるビジョンが見えないんですよね。テレポーターで奇襲しようとしても、死角に回り込んだはずなのに何故か完全に見抜かれているし」

「あー、それは影浦先輩のサイドエフェクトだな」

「サイドエフェクト? 影浦先輩も持ってるんですか?」

「ああ。確か感情受信体質と呼ばれてる。自分に向けられている感情や意識、敵意といったものを肌で感じ取るそうだ」

「……奇襲が奇襲になっていない。そういうわけでしたか」

 

 ランク戦で真上に転位したのに、動きを読まれて頭から映えたスコーピオンに串刺しになった光景が思い返される。

 影浦のサイドエフェクト。相手の意識を感じ取ってしまうという体質はテレポーターの天敵だ。どんな位置に、距離に転位しようとも動きや攻撃を読まれてしまう。

 

「これは師匠から一本取る事はやっぱり難しそうだ」

 

 未だに小南からも白星を掴めていない副。

 一体師匠から初勝利を掴み取れるのは何時の日になることやら。

 そう副がため息をついていると。

 

「ッ!?」

「来た!」

「構えろ!」

 

 近界民(ネイバー)の襲来を告げるボーダー基地の警報が鳴り響いた。

 

「近い!」

(ゲート)発生、(ゲート)発生。座標誘導誤差3.34。近隣の皆様はご注意ください』

「モールモッド、二匹確認」

「こちら柿崎。現着した。戦闘開始する!」

 

 門から現れたのは自動車ほどの大きさを誇る近界民(ネイバー)、モールモッド二匹だった。

 

「柿崎さん。左の一匹は俺が受け持ちます。二人で右の一匹をお願いします」

「了解した。副、行くぞ!」

「わかってます!」

 

 敵の存在を視認して、三人は二手に別れた。

 副は柿崎と共に右のモールモッドに向かうと、こちらに気づいていない相手の足元にメテオラを打ち込んだ。

 片足側の地面が沈み、バランスを崩す。

 攻撃に気づいたモールモッドが振り返る。同時に逆側の足で副を切り裂こうとするが、柿崎の銃撃が足を打ち抜いた。二人目の攻撃によってモールモッドの動きが停止する。

 

「副!」

「お任せを!」

 

 呼び声だけで相手の意図は理解できる。

 ――突撃だ。

 副は走りながらテレポーターを起動。

 モールモッドの目前に転位し、動きが止まった相手をすれ違い様に切り裂いた。

 

「桐絵さん達に比べれば、近界民(ネイバー)なんてかわいいものだ!」

 

 スコーピオンが急所である目を一刀両断。

 横一線に傷跡が入り、モールモッドは重厚な音を立てて地面に沈んでいく。

 

「よしっ」

「よくやった。烏丸!」

「はい。こっちも掃討終了です」

 

 もう一体へと視線を向ければ、烏丸の弧月に切り捨てられた残骸が目に映った。

 流石はA級隊員。単独でもモールモッド一体を倒す事など造作もない。汗一つ浮かべる事なく烏丸は二人と合流した。

 しかし、副も徐々に戦闘に慣れてきたという実感を持っていた。

 相手が近界民(ネイバー)であろうとも迷わず突っ込むことができるくらいに。

 

「沈黙を確認。。一先ずは討伐完了だ。後は回収班を回してもらう。俺達は引き続き巡回と行くぞ!」

「はい」

「了解です」

 

 柿崎の指示の元、再び防衛任務に戻る三人。

 ランク戦だけではない。本業である防衛任務でも、副は徐々に自分の力が高まっていることを感じ取っていた。

 そして、影浦を師匠と仰ぎ。

 副は新たな自分の戦い方を身につけることとなる。




この後。
「小南先輩。副が『小南先輩より近界民(ネイバー)の方が可愛い』って言ってましたよ」
「ハッ……!? ホントに!?」
「すいません。本当です」
「……ッ!? なっ……」

個人ランク戦で負けが続いて感覚がおかしくなっているんですよ(適当

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