第二の嵐となりて   作:星月

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村上鋼②

 二日目のランク戦が終了。

 ランク戦に参加していた者を含んだ各隊員が次々とその場を後にしている中。そんな彼らの様子を高い場所から眺めている二人の男性がいた。

 普段は会議室として使用されている部屋を占拠しているのは、ボーダーの中枢を担う幹部の二人。

根付室長と唐沢部長、かつて本部司令である城戸がスカウトした人物達だ。

 メディア対策室長、根付栄蔵。

 外務・営業部長、唐沢克己。

 

「ふーむ。今日のランク戦も中々見所がある試合でしたねぇ」

「そうですね。結果だけ見れば普段よりも順位の上下が少なかったですが、内容はより過密なものであったと思います」

「やはり若いチームが頭角を現すと他のチームによい刺激となる。彼女達のような存在は組織にとっては必要だ。できれば今後もランク戦を盛り上げてもらいたいものですよ」

「まったくです」

 

 今日のランク戦の盛り上がりを嬉しく感じていた。

 特に二人が注目しているのは今シーズンからB級ランク戦に参加している木虎隊の面々だ。

 新規加入したチームは物珍しさもあって観客の注目が増す。新たなライバルの加入に他のチームはより真剣にランク戦に参加する。長くB級に在籍している以上、新人には負けられないという意地もよい方向へ働く事だろう。

 

「そして、彼。嵐山君の弟。彼のような存在がボーダーに加わってくれたというのは私としては特に大きなもの」

 

 そう根付が示したのは副。広報部隊、嵐山隊を率いる隊長の弟の加入。

 この事実は対外的な意味合いで大きなものとなっている。少なくとも根付はそう確信していた。

 

「かつて嵐山君がメディアに始めて顔を出してからはや三年。当時は爆発的にボーダーへの加入が増えたが今はそれも落ち着きを取り戻している。彼の存在が嵐山君のように起爆剤となってくれればボーダーとしては願ってもないことです」

「……と言いますと? 彼も嵐山隊に組み込むか、あるいは嵐山隊と共にメディアに出させる、というお考えでしょうか?」

「いえいえ。確かにそれも手ではありますが。私はさらにもう一つ上の考えを思い描いています」

 

 唐沢の意見に幾分かの賛同を示しつつ、根付は口角を上げて己の本当の狙いを彼に打ち明けた。

 

「彼には新たな広告塔を担ってもらう。嵐山隊に告ぐ、『第二の嵐山隊』を作る」

「もう一つ、広報部隊を」

「ええ。今は話していませんが、他の適任な人材が見つかり次第声をかけようと思います」

「なるほど」

 

 その場では一応頷いた唐沢。彼の賛同を得たとみた根付は上機嫌に笑う。

 しかし唐沢が根付をみる目はどこか一歩退いたようなものだ。

 彼はこの時感じ取っていたのだ。

 ボーダーの顔という大役。あれは嵐山だからこそできたものであり、その役は誰か他の者が務められるような易いものではないのだと。たとえ相手が実の弟であろうと例外ではない。

 それにも関わらず、そのような案を無理に実行に移そうとすれば。

 

(……これは、また流れが大きく変わるな)

 

 唐沢は根付が懐く理想の結末を察して、一人息を吐いた。

 

 

――――

 

 

 時間は少し流れて。

 B級ランク戦Round2から一ヶ月と少しが経過した七月末。

 中学とボーダーという二足の草鞋を履いていた副であったが、そのうちの片方が大きな区切りを迎えていた。

 

「――それでは、これで授業は終了。明日から夏休みとなります。皆、長期休暇だからといって気を抜かずに。また八月に元気な姿で会いましょう!」

 

 先生がそう締め括って生徒達は一斉に沸きあがった。夏休み。ついに迎えた授業から開放される日だ。長期休みに歓喜するのは無理もないことだろう。

 副もようやく二重生活の一時的な終わりに胸を撫で下ろした。正隊員になって二ヶ月ほどが経過。少しずつ慣れてきたとはいえ、まだ育ち盛りの学生だ。この休みは非常にありがたい。

 

「おつかれ、副。今日は陸上部あるの?」

「姉ちゃん。いや、今日は休みだよ。シフトも入ってないから今日は夏休みの宿題を進めるのもかねて、次に向けてのミーティングをボーダー本部(向こう)でやるつもり」

「そうなの? わかった」

 

 佐補はそれを聞くとうっすらと笑みを浮べた。ボーダーの生活に馴染めていることに安堵したのかもしれない。

 現在もボーダーはB級ランク戦シーズンの真只中。夏休みが終了するまでの期間、ランク戦も並行して続いていく。ゆえにあまり夏休みの宿題を後々まで残しておくということはしておきたくない。同学年の絵馬も考えは同じようで、今日は本部で共に宿題をこなし、わからないところは教えあおうと考えていた。

 

「あー、副! いつの間にかボーダーに入ってたんだって? しかもあんた正隊員になったんでしょ? すごいじゃん。おめでと!」

「え? 夏目、なんで知ってるの?」

 

 陽気な声がボーダーへの入隊を、正隊員への昇格を褒め称える。その声の主は佐補と仲が良く話し仲間である夏目出穂だ。

 ボーダーへの加入は誰にも話していない。何故彼女が知っているのだろうかと副が不思議そうに聞き返すと夏目はスマホを取り出し、ボーダーのネットページを指し示した。

 

「ボーダーの正隊員の名前は広報サイトに全員が記載されているんだって。ほら、あんたの名前」

「……マジじゃん」

 

 たしかに隊員名簿の一覧の中に副の名前がしっかりと刻まれていた。他にも木虎や村上に絵馬、彼がよく知る同僚達の名前が次々と並んでいる。

 

「でもよく見てるね。こういうの、細かく見てないと気づけなさそうだけど」

「私もたまにボーダーのサイトは見てるけど、見つけたのは偶々。サイト閲覧してるときにこの子が私に教えてくれたんだ」

「忍田さん?」

 

 横からひょっこり出てきたのは黒髪ロングの女子生徒、忍田瑠花。

 

「ええ。叔父に少しだけ話を聞いてて知ってたの。そうしたら丁度夏目がボーダーのサイトを見ていたからつい」

「叔父?」

「ボーダーの本部長、といえばわかる?」

「…………え!? 本当!?」

 

 落ち着きを失う副に、忍田はゆっくりと頷いた。

 ボーダーの本部長の忍田と言われればボーダーの隊員ならばすぐに顔が浮かんでくる。副もボーダーへの正式入隊日の日に本部長からの挨拶を目にしていたためによく覚えていた。

 彼女はその姪であるという。すぐにその事実を理解する事ができず、副はしばし時を忘れて硬直した。

 

「私もいつかオペレーターの仕事につこうと思っているから結構ボーダーの話を聞いたりしてる。そうしたら、嵐山君の名前を聞いてびっくりしたけど」

「これはこれは。兄ともどもいつもお世話になっています」

「こちらこそ。いつも熱心に働いているようで」

「……あんた達、ちょっと論点ずれてない?」

「仕事の付き合いみたいな話になってるよ?」

 

 とても中学生同士とは思えない会話に、話に入りきれなかった二人は苦言を呈する。

 もっとも、街の平和を第一に考えている忍田本部長の姪。そしてその忍田本部長の派閥に属している中では最大戦力となっている嵐山隊隊長の弟。中々珍しい組み合わせが生じているのだ。無理もない反応ではあった。

 

「でも瑠花もボーダー目指してんの? 全然知らなかったけど」

「ええ。本当はもう少し経ってからと考えていたけれど、同じ学校の嵐山君が所属しているとなれば事情も変わってくるし。早ければ今度の入隊試験を受けるつもり」

「そうなんだ。あたしも興味あったし今度受けてみようかなー」

「まあ、受けることは自由だ。もし何か入隊について聞きたいこととかあれば相談に乗るよ」

「本当!? 助かるわー」

「ええ。その時はどうぞよろしく」

 

 二人と今後の協力について約束を取り付けたところで。

 周囲にも話が聞こえていたのかボーダーの話題にひきつけられたクラスメイトが集まり始めた。

 さすがにこれ以上長居はできないなと判断した副は早々に撤退を決断。

 話しかけてくる人たちを適当にあしらい、ボーダー本部へと足を運んだ。

 

 

――――

 

 

 木虎隊作戦室。

 隊長である木虎はつい先ほどまで防衛任務に当たっていて現在は戻っている最中だ。

 その為今はオペレーターである三上だけが部屋にいるのだが。

 突如作戦室の扉が開く。

 三桁のパスワードを入力し、トリガー認識を経た副と絵馬が荷物を持って部屋の中へ入ってきた。

 

「あれ? 二人ともお疲れ様」

「お疲れ様です、三上先輩」

「木虎ちゃんはまだ戻ってないよ。ラウンジで夏休みの宿題をやってるって聞いていたけど。一段落ついた?」

「いや、そのことなんだけど」

 

 絵馬は言葉を詰まらせ、ゆっくりと視線を副に向ける。

 

「……太一先輩、絶対に許さない!」

 

 その副は今にも怒りで爆発しそうな状態であった。普段からあまり苛立ちを見せることは少ない彼らしからぬ言動だ。

 事情を知る絵馬は静かにため息を一つ吐き。

状況を飲み込めない三上は困惑して首を傾げるしかなかった。

 

「えっと、何があったの?」

 

 とりあえず三上は何があったのかを平然としている絵馬へと尋ねる。だが意外にも彼女の疑問に答えたのは副であった。

 

「三上先輩も知ってる通り、木虎先輩が戻るまではラウンジで勉強しようと思ったんですよ。あそこ自販機とかもあるから都合がいいし」

「うん。それは知ってるけど」

「で、宿題をしているところに太一先輩が来ました」

「鈴鳴の狙撃手(スナイパー)ね」

「はい。『頑張ってるじゃん』と差し入れとかいって炭酸飲料をくれたんですけど」

「うん」

「その炭酸飲料を、宿題の山へとぶちまけてくれました」

「副がやっていた宿題の山にね」

「うわー……」

 

 真面目に課題に取り組んでいた副に襲い掛かったのは真の悪だった。

 その上副が語ることによると、炭酸飲料がかかったというのは丁度彼がやっていたものだけだという。つまり、彼の努力が水の泡になったということだ。まさに炭酸飲料。

 また、三上は知らないが副は炭酸飲料を嫌っている。陸上というスポーツをやっているために元々できる限り飲まないようにと指導を受けているのだ。

 

「しかも、謝りながら雑巾でふこうとして、慌てていたのか動きは滅茶苦茶。ページがもうズタズタになってましたよ」

(被害は広がるばかり!)

 

 つまり普段はあまり好んで飲まない飲み物を、作業していた宿題の山に投げ込まれ、作業全てを無駄にさせられたという。彼が怒るのは無理もないことだった。

 

「別役先輩は絶対に許さない。ランク戦で戦うことがあったらたとえ刺し違えてでも落としてやる!」

「まあ、そんなことがあってちょっと苛立っているんだよ」

「……うん。仕方がない事ね」

「あれ? 皆、何しているの?」

「あ、木虎ちゃん。お疲れ様」

「おかえり」

「何か、副君が荒れているようだけど」

「実は……」

 

 副が苛立ちを通り越して殺意にも似たような感情を吐き出している。

 絵馬や三上が今はソッとして忘れさせてあげようと考えると、直後防衛任務を終えた木虎が帰還した。

 何故か一人ソファで怪しげな笑みを浮かべ、小言を呟く副。彼の姿を見て疑問を懐いた木虎に、二人は先ほどあったことを順に説明しはじめた。

 

「……酷い話ね」

「多分、悪気はないと思うけど」

「悪気があったらもはや苛めの類よ」

「悪気がないというのも、余計に酷いと思うけどね?」

 

 一通りの話を聞いて木虎は納得し、そして同情を覚えた。

 別役太一。鈴鳴支部での出来事は軽く村上から耳にしていたとはいえ、まさか本当だとは思わず彼の行動については半信半疑の状態だった。

 だがここまで天然でやるということはもはや治せない病気のようなものなのだろう。そちらはどうしようもない。今はとりあえず副のメンタルケアに務めようと木虎は副の隣りへと腰掛ける。

 

「副君。あんまり深く考えないで」

「あ、木虎先輩。お疲れ様です。次のランク戦の話ですよね?」

「ええそうよ。太一先輩のことが気になるかもしれないけれど、そんなに気にしすぎないで」

「大丈夫です。でも、さっきユズルには言いましたが、もし今度ランク戦で鈴鳴第一と戦うときは俺に太一先輩と戦わせてください。絶対に落としますから」

「……あなた、結構根に持つタイプね」

「根に持っているんじゃありません。けじめはしっかりつけたいだけです」

「そう。まあ、わかったわ」

 

 『それを根に持っているというのだけれど』とは口にせず、木虎は頷いた。あまり固執しすぎるのはよくないが、点を取る事に積極的になることは構わないだろう。

 そう考えて木虎はこれ以上太一の話題について触れることを止めにした。

 そしてここから三十分。次の土曜日に戦うチームの加古の記録から対策を考え、全員で議論をかわす。有る程度形になったところで今日のところはこれでいいだろうと、解散となった。

 

「それじゃ、ミーティングは今日はここまでね」

「了解」

「皆はこの後どうする?」

「私は防衛任務の報告書を書いていくけど。二人は?」

「俺は宿題の続きに取り掛かろうと思います」

「同じく。まだ途中で抜け出しちゃったし」

「そう? わかったわ」

 

 対策会議を終えると三上と木虎は事務処理。副と絵馬は宿題の続きを其々の作業にとりかかる。

 開始から五分ほど。程よく時間が経過したところで副が全員に聞こえるような大きさで話し始めた。

 

「そういえば、皆に聞いておこうと思ったんですけど」

「どうしたの?」

「夏休みの予定とか?」

「ああ、いや。そういうことじゃなくて。……誰かスコーピオンで強い人、知りませんか?」

「スコーピオン?」

 

 副は全員へ向けて質問を投げかけた。

 彼がサブトリガーとしてよく使用している攻撃手(アタッカー)用トリガー、スコーピオン。それを使用している隊員で強い人に誰か心当たりがないかと。

 

「どうしたのいきなり」

「最近ランク戦で戦っていて思うんですけど、どうもテレポーターを読まれているのか点を取りにくくなったと感じるんです。木虎先輩と連携しての銃撃戦でたまには落としてますけど」

「でもそれだけだと火力不足、ということ?」

「うん。それに攻撃手(アタッカー)の人に距離つめられると殆ど何も出来ないときがある。前から攻撃手(アタッカー)としても個人(ソロ)ポイントを稼ぎたいと思っていたし、そろそろ誰か師匠として指示を仰ぎたいなって思ったんだ」

 

 

 現在木虎隊はB級十四位。副達の戦い方への対策もあらかた固まっているのか、中位グループとの戦いでは勝ち負けを繰り返しており、伸び悩んでいる。彼もこの状況を打破したいと思っているはずだ。

 だがきっとそれだけではない。さらに上の段階に昇りたい。そういう気持ちが根強いのだろう。

 現在副は銃手(ガンナー)トリガーで五千点を越す個人(ソロ)ポイントを得ている。点が高くなるにつれて個人(ソロ)ポイントを稼ぐことはより難しくなるが、もう少しで彼が目標としている六千点に到達するのだ。その為スコーピオンの扱いもより正確にしていこうと考えている。

 

「なるほどね。でも、誰だろ? スコーピオンで強い人というと、やっぱり風間さんとか?」

「俺も第一にそう考えたんですが、今風間さんは遠征中。少なくとも今シーズン中に戻ってくることはなさそうです」

「じゃあ迅さんとかは? あなた、確か玉狛と接点があるのよね?」

「ええ。でも駄目です。この前偶々本部のラウンジであったときにお願いしたんですけど」

「断られたの?」

「はい。熊谷先輩のお尻を触りながら『悪いが俺にはやらなきゃならないことがあるんだ。弟君だけに時間を割く事ができない。本当にすまない』って、断られました」

「いい加減あの人は警察に通報されるべきね」

 

 木虎の意見に全員が頷いた。迅は通報されない隊員のみ触っているという噂を聞いたことがあるが、さすがに節度と限度というものがある。特に木虎のような厳しい女性は見過ごすことは難しいものだった。

 

「でもそうすると、後はちょっと戦法が変わるけど、万能手(オールラウンダー)の人とかかな?」

「んー。でも万能手(オールラウンダー)の先輩方はスコーピオンをサブトリガーとして使う人が多いんですよね。できればもっと専門的に習いたいので、メイントリガーとして戦っている人に聞きたい」

 

 できるだけ専門の隊員に指示を仰ぎたい。万能手(オールラウンダー)という意見も却下となった。だがそうなると攻撃手(アタッカー)は元々弧月を使う人が多いポジションだ。早々名の知れた隊員は出てこない。

 皆が誰かの名前を挙げることが出来ずに頭を悩ませていると、絵馬が悩みを解決へ導く一言を投じた。

 

「それならその業界の人に聞くのが一番かもね」

「え?」

「俺達はポジションが違うからどうしても情報の偏りがあると思う。だから、攻撃手(アタッカー)の人に聞くのが一番じゃないかな」

「そっか。……そうすると誰がいいかな。よく考えたらあまり攻撃手(アタッカー)の知り合いがいないんだよな」

 

 攻撃手(アタッカー)の知り合いと聞いて副が真っ先に思い浮かぶのは小南だが、彼女は玉狛支部所属だ。本部の隊員についてはあまり情報が通っていないだろう。

 そうなると副の知り合いは嵐山隊やその周囲の隊員がメインとなるのだが、その中に攻撃手(アタッカー)の隊員は見つからない。やはり、この考えもそう上手くはいかないか。

 

「いるよ。俺達の同期に、攻撃手(アタッカー)業界で人気になってる人がさ」

 

 いや。一人いる。

 同期でもある頼もしい攻撃手(アタッカー)の先輩が。

 絵馬の説明で応えにたどり着いた副。善は急げと、副はすぐさま一人の隊員と連絡を取った。

 

 

――――

 

 

 それからさらに三十分後。

 副は荷物を纏めて作戦室を後にすると、個人(ソロ)ランク戦が行われているブースの近く、ラウンジに来ていた。

 相談相手との待合場所だ。待つこと数分。ブースの中から彼にとっては頼もしい存在、村上が姿を現した。

 

「待たせてすまない」

「いえ。お疲れ様です、村上先輩」

「話は少し聞いた。どうやら太一がお前に迷惑をかけたようだな。後できつく言っておく」

「……それならば伝言をお願いします。B級昇格おめでとうございます。ランク戦で戦う日を楽しみに待っています、と」

「引き受けた。お手柔らかにな」

 

 それは難しいですねと副は小さく笑みを作った。

 このランク戦の開催期間の間に太一も正隊員への昇格を果たしていた。これで鈴鳴第一は狙撃手(スナイパー)が加わって防衛隊員が三人と本来の形となっている。

 次戦うときは必ずや落としてみせると遠まわしに語る副。村上もそれを感じ取り、苦笑いを浮べて同僚の身を案じた。

 

「それで。攻撃手(アタッカー)で強い人を知りたい、という話らしいが?」

「はい。俺もスコーピオンの戦いをより学びたいと思って、誰かスコーピオン使いで強い人を知らないかと。村上先輩も攻撃手(アタッカー)。こういうことは村上先輩の方が詳しいという話になりました」

「なるほど。そういうことならば確かにお前達の期待に応えられそうだ」

 

 そういって村上はうっすらと笑ってみせる。

 

「同期の頼みだ。断ることもできない。そういうことなら一人、適任を知っている」

「本当ですか!?」

「ああ。何なら今から紹介してもいいぞ。時間は大丈夫か?」

「はい! お願いします!」

 

 やはり頼んでみて正解だった。快い返事をもらって副は満面の笑みを浮べる。

 元々こういったことに努力を惜しまない性格の彼だ。すぐに話をさせてもらえるということならばこれ以上良い話はない。

 

「なら行こうか。……ああ、ただその前に。お前に一つ聞いておきたいことがある」

「何でしょうか?」

 

 何でも聞いてくださいと身構える彼に、村上は一つの疑問を投げかけた。

 

「お前、お好み焼きに好き嫌いはあるか?」

「いえありません。…………ん? え、何の質問ですかこれ!?」

「そうか。よかったよ」

「いやだからどういう趣旨の質問なんですか!?」

「行けばわかるさ。行くぞ」

「行くって、何処に?」

「お前も腹が減っているだろう? 飯を食べにだよ」

「あの、村上先輩! スコーピオンの方の話は何処へ!?」

 

 とても関係あるとは思えない質問に戸惑う副を他所に、村上は颯爽と歩き始めた。

 遅れるわけにはいかないと副も荷物を手にして彼の後を追う。

 だが何度問いかけても村上ははぐらかして中々副の疑問を解消することはなく。

 ようやく理解したのは、二人がお好み焼き屋に入ってからのことだった。




本物の悪、健在。

忍田瑠花は本当は高校生くらいの設定で出したかったけれどそもそも忍田本部長が若すぎて中学生が限度だった。(原作時点で33歳、現時点で32歳)

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