嵐山副①
人口28万人を有する三門市。
この街は突如都市に開いた
特にボーダー隊員の中でも広く知られているのはA級部隊の一つ、嵐山隊だ。
実力や仕事ぶりもさることながら広報役としてテレビ等多数のメディアに出演し『ボーダーの顔役』と周知のものになっている。
その嵐山隊の隊長である嵐山准には二人の弟妹がいた。妹の名前は嵐山佐補。弟の名前は嵐山副。嵐山と双子の二人との仲は決して悪いものではない。嵐山にとっては可愛い弟妹であり二人にとっては誇らしい兄。
しかし、あまりにも世間で有名すぎる嵐山隊の印象は時に彼らにとっては苛立たしく思うこともあり。中学への進学により彼らが感じる煩わしさはますます高まることとなっていた。
「――小学校出身、嵐山副です。よろしくお願いします」
「ピンと来た者もいるだろうが、彼はなんとあの有名なボーダー隊員である嵐山隊長の弟だそうだ! ボーダー隊員のことを知りたい者は色々聞いてみるといいと思うぞ!」
入学した直後のクラスメートに対する最初の自己紹介。
人気が高すぎる兄の存在をあまり大っぴらにしたくなかった副にとって、担任教師の補足は余計なものとしか感じられなかった。
それまでは殆ど興味なさげに彼を見ていた視線が一転。驚愕を含んだものが一斉に向けられる。
ボーダー隊員、それも名の知れたボーダー隊の隊長を身内に持っているという情報以上に興味を引く話が他に現れるはずもない。
休み時間になった途端に副に話しかけるものが続出する。
話の内容は勿論、副の悩みの種とも言える兄・嵐山准のことであった。
「嵐山君! あの嵐山隊長の弟って本当なの!?」
「ねえねえ、ボーダーのお仕事の話とか聞いたことある?」
「ボーダー隊員って休みの人か何しているんだ?」
「お前も兄と一緒にテレビとか出たことあんのか?」
小学校の時にも幾度もあった兄がらみの会話。
しかも中学校に進学したばかりで初対面の相手となればその密度はより濃くなる。
誰も彼もが話しかけてくることは同じだ。
(もううんざりだ!)
皆が副のことを嵐山副という一個人ではなく嵐山准の弟としてみている。
誰もが憧れているボーダー隊員。それを羨ましがるのは当然だろう。
だが当然だと頭で理解していても何度も繰り返されれば嫌気も差すというもの。
副はいつも通りの日常に苛立ちを募らせていた。
そんなある日の事。
「副はボーダーには入らないのか?」
「……え?」
授業と授業の間の休み時間。
時間つぶしであろうが、ふとした疑問を問いかけてきた男子生徒へすぐに即答することはできず、副は目を丸くした。
「俺はボーダーへの入隊の仕方とか知らないけどさ。お兄さんが隊長っていうのならそういう話されたりしないのか?」
「あー。俺も試験のこととか気になる。どうなんだよ実際?」
「俺が? ボーダーに?」
ボーダーの兄がいるから普通なら考えて当然のようなことだが、副は今まで考えたこともなかった。
正直な話、副はボーダーへの入隊のことを想像した事もなかったし兄から誘いを受けたこともなかった。
三門市でボーダーが働いているとはいえ、基地ができてからというもの誘導装置によって
おそらくは仕事が危険であるということを誰よりも知っているからだろう。
嵐山准は弟妹を溺愛している。副も対抗心のような感情を抱いているが『優しい兄』という印象は覆らない。
だから副は今までボーダーに対して詳しい情報を持っていなかった。
「……そんな話をされたんだけどさ。姉ちゃんはどう思う?」
「うーん。どうだろね。私も兄ちゃんのことを聞かれたことは多かったけど、かといってボーダーに入らないのみたいなことは言われなかったからなー」
「ま、女性ボーダー隊員は少ないし、それが当然なんだろうけどさ」
その日の昼休み。副は屋上で姉である佐補と昼食を共にしていた。
母が作ってくれた弁当を口にしながら先ほどの出来事を語る。
話題になりそうな内容だが、意外と今まで話には一度も上がらなかったボーダーへの入隊の話。兄が所属しているためにどうしても気になってしまう。
息を一つ吐いてご飯を平らげる副。
そんな双子の弟を気がかりに思ったのか、佐補は問いかけた。
「ボーダーになりたいの?」
箸が止まる。
視線だけを向けると佐補はそれ以上は語らずじっと見つめていた。
「……わからない。考えたこともなかった。だから自分がどう思っているのかもわからない、ってのか現状かな」
「そっか」
「でもだからこそボーダーへのなり方とか、どんな感じなのかを知っておきたいとも思っている。結局俺、詳しい事は何も知らないから」
偽りのない本心だ。副は今迷っている。自分がどう考えているのか思考がまとまらない。
だからこそボーダーという兄の仕事を知っておきたいと考えている。
そうすれば自分の悩みも解決するのではないかと思い、そしてボーダーになりたいと思っているのかどうか白黒つくと。
元々試験が受験不可能だというのならば諦めがつく。
自分に向いていないというのならば考えも変わる。
その判断をキッチリしたい。このまま有耶無耶にすることだけはしたくなかった。
「じゃあ、聞いてみる?」
「聞くって誰に?」
「それは当然現職の人に。……と言ってもおそらく兄ちゃんは断固反対するだろうから」
弟妹思いの兄の事だ。
ボーダーになれる方法なんて聞いたら心配して説明どころか反対の説得ばかりすることだろう。
そうなればまともな討論もできるわけがない。
真っ先に相談するべき相手であるはずの兄を除外すると、佐補は過去の記憶を辿り始める。
「桐絵さんや他の嵐山隊の人達。この前兄ちゃんが会わせてくれた時、連絡先を教えてもらっていたから聞いてみる?」
付き合いの長い従姉と兄の同僚達。
正に理想的な答えだ。
姉の誘いを副は二つ返事で受け入れた。
――――
そしてその日の夕方。
放課後になると副と佐補の二人はボーダー本部の近くに位置する喫茶店にやってきていた。
待つこと十分ほど。
三人の高校生が店内に入り、二人に気づいて席に歩み寄ってくる。
「ごめんなさい。お待たせしてしまって」
「久しぶりだね、二人とも」
「合流してたら遅くなっちゃったんだ。許してね」
茶髪のショートヘアーが映える容姿端麗な女性。嵐山隊オペレーター綾辻遥。
頬の辺りで揃えられたボブカットと特徴的な眠そうな目をした男性。嵐山隊
両脇に振り分けた髪、軽い調子が印象的な男性。嵐山隊
兄、嵐山准が率いる嵐山隊に所属する隊員三名である。
「いえ。こちらが突然連絡したのに、お時間をとっていただきありがとうございます」
「桐絵さんは学校が遠く、防衛任務もあって来れないということだったので。綾辻先輩と時枝先輩。ああ、佐鳥先輩も来ていただいて本当に助かります」
「あれ? 佐補ちゃん、俺だけなんかついでみたいな感じが強いんだけど? 何で?」
従姉の小南にも連絡を取ったが事情があって今日この場にはこられない。しかし嵐山隊の三人とは無事に連絡が取れ、相談に乗ってくれるということだった。
改めて綾辻と時枝、ついでに佐鳥にも礼を言う二人。佐鳥から不満が漏れるが時枝が気にする素振りもなく話を続ける。
「今嵐山さんは同じ隊の柿崎さんと大学の講義に受けているからね。嵐山隊は防衛任務が入ってないし、何でも気軽に話してくれればいいよ」
「たしか副君がボーダーの事を知りたいと聞いたけれど」
綾辻が副に視線を向けると、小さく頷いた。
用件はすでに伝えて有るので今日の休み時間の出来事を簡潔に説明する。
「……そっか。嵐山さんのことで」
「今まで自分でボーダーになろうとか考えたことなかったの?」
「ええ。兄から薦められることがなかったし、俺も実際に戦っているところを見たこともなかったので」
「まあそれはそうだよなー。嵐山さんは君たちを溺愛しているし」
「そうね。嵐山さんは家族にボーダーの事を話そうとはしないはずだもの」
嵐山の性格を理解しているのだろう。
家族ほど長い時間共にしているわけではないが、仕事上のやり取りで得る信頼は家族のそれにも匹敵するもの。A級という精鋭部隊まで上り詰めたのだから今さら考えるまでもない。
「だけど副君自身はボーダーになりたいと考えた、と」
「……そこまではっきりと意思表示ができているわけではないです」
「どうやら今まで考えたことも無かったようなので複雑な心境なんだと思います。だから皆さんに、ボーダーの入り方など話を聞きたいということになって」
「そっか。仕事だしいきなり決断するのは無理だよな」
「それならまずはボーダーの入隊試験のことを話すべきかしら?」
「お願いします」
二人の説明で佐鳥達も納得してくれたのか頷きを返す。
綾辻の補足を受けて副は頭を下げると時枝が彼の望む答えを語り始める。
「じゃあ概要を説明しよう。知っての通り、ボーダーになる為には試験を受けなければいけない。テスト内容は大きく三種類。基礎体力テスト・基礎学力テスト・面接の三つだ」
「試験、か。やはり試験で落ちる人もいるんですよね?」
「そりゃテストだから。落ちる人は落ちる。でもこの試験で落ちる人はいないだろうな」
「……は?」
「どういうことですか?」
何故か三つの試験が無駄であるかのような口ぶりで笑う佐鳥。それでは試験の意味はないのかと二人は理解できずに問い返す。
話題が飛びすぎだろうと時枝は一つ息を吐いて説明を続けた。
「疑問は最もだよ。でも実はボーダーの入隊試験で問われるのはそこではない」
「二人はボーダー隊員になるにあたって、必要とされるものはなんだと思う?」
意図がよくわからない綾辻の質問。
数秒考えて佐補が、続いて副も考えを吐き出す。
「性格ですか? 正隊員になれば給料ももらえる職業であることに加えてチームも組むので」
「健康な身体。身体能力がトリオン体で向上するとはいえ戦う職業なわけだから……」
「どちらも重要だよ。まあ正解を言えば、トリオン量。その人が持つ生体エネルギー、と考えてくれればいいかな? トリオン能力の才能と言ってもいい」
「……トリオン量」
答えは才能という努力ではどうしようもないもの。ボーダー隊員がトリガーを操るために必要とするエネルギーだ。この高い低いは隊員の戦いを左右するという。
「性格はリーダーの素質とか必要とされることは多いけど、その性格によって向き不向きがある。また生身の身体の感覚がトリオン体の動きの元になるから重要だけど、身体能力そのものは関係ないんだ」
「現に普段は体が弱いけど、トリオン体になったら敵をどんどん蜂の巣にするような女性隊長もいるぜ?」
「……その隊長、実は性格がそういう人なんじゃないですか?」
想像ができず副は頬をひくつかせた。しかもまさかその隊長が彼の従姉のクラスメートとは予想できるわけがなかった。
「ただトリオン量はすぐに測定できるものではない。専門的な機材がいる。もし副君がボーダーになりたいならば来週の日曜に入隊試験があるから受けてみるといいと思うよ」
「ハァッ!?」
「時枝先輩、何を!? 今週って早すぎます!」
「試験だってあるんですよね? いくらなんでも」
「先ほども言っただろう。必要とされるのはトリオン量だと」
時枝の突然すぎる提案。
今日は火曜日。まだ十日ほど猶予があるとはいえ、今からではあまりにも無謀だろうと副と佐補は揃って口にする。
だが時枝は相変わらず表情を崩すことなく冷静に説明を続けた。
「二人は口外しないと信じて話すけど、先ほど話した三つの試験は重要視されていない。試験の間に測定されるトリオン量、そしてこれまでの犯罪歴を試験官は見ているんだ」
「……え?」
「逆を言えば、その二つを通ってしまえば落ちることはないということになるの」
綾辻がそう付け加えると、副は表情を固くする。
「それは、つまり――」
三人の話が真実だとするならば。
「入隊試験の合否が、そのままボーダーの素質の有無に直結する、と?」
副の悩みの最も簡単な解決策が入隊試験を受けることになる。
試験は受けられる。この試験で自分がボーダーに向いているのかどうか試される。
三人は揃って頷き副の意見を肯定した。
結論に至り、副は考えを纏める。
ボーダーへのなる道は示された。しかし自分の心が完全に整理されたわけではない。
可能性があるということははっきりした。同時に試験を受けて明暗をハッキリつけたいという思いも出てきた。
では、自分は本当にボーダーになりたいのか? なってどうしたいのか?
ただボーダーになるだけでは入隊試験に合格すればゴールだ。しかしそれはおそらく望んでいることではない。ならば何故そこまでボーダーにこだわっている?
「ただ、入隊すると生活も変わってくるから気をつけた方がいい。それなりの理由や覚悟が必要になると思う。――副君。君がボーダーになるとしたらそれは何のためだい? 何か目標があるかい?」
悩みを見抜いたのか、佐鳥が真面目な顔で虚を突いてくる。
完全に心を見透かされていると副は思った。
何の為に、何を目標としてボーダーを目指すのか。興味本位でなっていいわけがない。
副はここに至るまでの過程を思い出す。
兄の存在。そしてその兄を知りたくて近づいてくる人々。
そして今日、ボーダーにならないのかと聞かれた時のこと。あの時、副の脳裏をよぎったのは――間違いなく兄である嵐山准の姿だった。
(兄ちゃんのようになりたいのか? ……いや!)
それは違う。
「俺は」
最初に考え付いた思いを否定して、副は自分の目的を、目標を明確に口にする。
「嵐山准の弟ではなく嵐山副として、兄ちゃんを越えたい」
『俺の存在は俺の活躍で示す』。そう自分の答えを結びつけた。有名な兄の弟として接してくる他人にその認識を覆させると。
ようやく自分の意見を持てたことに安堵したのか、綾辻達は笑みを零した。
「嵐山さんを越えるとなると、私達の隊を超えることになるんだけどなー」
「え゛っ?」
「基本的にA級は
「あっ、いや、その。違うんです!」
「まあまあ。別に隊員には
「そう、そうですよね。さすが佐鳥さん。偶には良いこと言う!」
「あれ? 今俺褒められた? 貶された?」
冗談半分で笑う嵐山隊の面々に、副は必死に弁明を続ける。
「……副」
すると、決断するまでは隣で沈黙を貫いていた佐補が口を開いた。
「副が自分で決めたのならそれでいいと思う。でも……帰ったら父さん達には勿論、兄ちゃんにも説明しないとね」
「ッ! それは」
当然だろう。今も働いている兄がいるのだから、自分も働きたいとなればどうせ後々明らかになる。相談は避けられない選択だ。
だがやはりあの溺愛している兄が危険な仕事だと猛反対することは目に見えている。
いや違う。これは甘えだ。
本当に言いたくない理由は別にある。
「……わかったよ」
渋々と、副は首を縦に振った。
佐補はニッコリと笑みを浮べる。
その後さらに詳しくボーダーの仕事やトリオンの仕組みについて話を聞き、日が暮れる前にその日は別れた。
帰路に帰る途中、副は改めて兄である准と話したくない理由を考える。
『目の前に対抗心を抱く相手がいる』。結局は
――――
そしてその日の夜。
「何っ!?」
夕飯を終えた嵐山宅に驚き声が響く。
「副がボーダーに入る!? 駄目だ! 兄ちゃんは絶対に反対だ!」
予想通り、副のボーダー入隊に対する反対の声。
前髪を後ろに流した鳥の羽のような髪型と整った容姿を持つ男。嵐山隊隊長
「でも時枝先輩達は応援してくれたよ」
「充達が? どうしてそんなことを。というか、どうしてそんな話を俺がいないところでするんだ!」
「こういう猛反対が来るとわかっていたからだって」
「わかっているならそんな無茶を言うんじゃない!」
やはりと言うべきか。准は愛する弟をどうしてもボーダーに入れる気はないらしい。戦闘時は自身の体とトリオン体が入れ替わるために危険はそう大きくないが万が一の可能性もある。よほど心配なのだろう。
両親には前もって説明し『副が自分からそう望むなら』と納得してくれて外堀は埋めておいたのだが。
やはり本丸はそう簡単に屈しない。
最大の難関は聞く耳を持たずにずっと反対の意見を出し続けている。
「兄ちゃん」
「佐補も説得してくれ。お前も心配だろう?」
「私は副の意志を尊重しようと思う」
「なっ、佐補?」
妹の同意を得ようと准が呼びかけるが、佐補は元々准の背中を押そうとしていた立場だ。
双子の弟が吹っ切れるかもしれない機会を得たのだ。姉が応援せずにどうする。
「副は学校でも窮屈だったみたいだよ。兄ちゃんが有名すぎて、その話ばっかり。私もそうだったけど、男子の方がもっと聞けると思ったんじゃないかな? 私よりもそういう事が多かったみたい」
「……だから自分もそうなりたい、というのか?」
「そうじゃないよ兄ちゃん」
少し観点がずれている兄。佐補が指摘しようとすると副が手で制する。
これ以上は、本当の理由は自分で告げたいということなのか。
「俺は、嵐山准の弟と何時までも呼ばれるのは嫌だ。でもそれは嵐山准になりたいってことじゃない」
「じゃあ、どうしてだ?」
「……俺は、俺のやり方で兄ちゃんを越えたいんだよ!」
ようやく副は目標の目の前で本音を口にする。
「何時までも兄ちゃんに守られるだけの弱い自分は嫌だ!」
兄を越えたい。兄に守られるだけは嫌だ。今の自分を脱却したい。世間を見返したい。
色々な考えを言葉に込めて兄へと発した。
「副……」
弟のあまり聞けない心の内を知って、准は複雑な表情を浮かべる。
「俺の名前は、邪魔だったか?」
「そんなことはない。誇りにも思っていた。でもそれだけじゃ嫌だ」
我が侭な願いだ。それは承知している。
でも一歩踏み出さなければ何も変わらない。
現状に甘んじることは我慢できない。
「頼むよ兄ちゃん。俺も兄ちゃんの事を誇りに思っている。だから兄ちゃんも信じてくれ。兄ちゃんが誇れる俺でいさせてくれ」
絶対に無茶はしない。そう明言して副は頭を下げた。
「ハァッ……。弟がここまで必死になって頭を下げているのに、兄ちゃんが意固地になって引き止めるのも我が侭か」
今日初めて准が副に対して退く姿勢を見せた。
副が顔を上げると、准が苦笑して見つめている。
つまり、准がようやく折れたのだ。
「ただし無茶は絶対に許さないぞ。後、万が一副がピンチに陥ったら俺は真っ先に助けに行く。文句を言ったって俺は助けに行く。それでもいいなら、俺は副のボーダーへの入隊を認める」
どうやら宣戦布告を受けようとも准にとって副は守るべき弟に変わりはないらしい。
変わらぬ姿勢に佐補と副は揃って大きなため息を吐いた。
だが、頑固な兄が認めてくれたのだ。これで副は入隊試験を受けることが出来た。
「ああ。……ありがとな、兄ちゃん」
だから今までの感謝も込めて副は礼を言った。
「じゃ、あとは試験に合格するだけだね。……兄ちゃんが認めてくれたのに、試験で落ちたら元も子もないけど」
「心配するな佐補。俺達の弟だぞ? 受かるに決まっている」
「……まあ、頑張るよ」
こうして嵐山副がボーダー入隊試験を受験することが決定する。
そして月日は流れて翌週の日曜日。
准の予想通り、副の受験番号は見事合格者一覧に掲載され、晴れてボーダー隊員への道のりを歩き始めるのであった。