ハリーポッターと妖精の翼   作:ファルドゥン

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第二十五話 屋敷しもべ妖精

「あれ?戻ってきてどうしたの?」

 

「いえ、少し気になることが」

 

戻った医務室は特に何も変わったところはなかった。まぁすぐ戻ったしね。

う~ん……何かいるとは思うんだけどなぁ。

 

「……なにか忘れ物かい?」

 

「あ~いえ、忘れ物というかなんというか……」

 

「何かこの部屋()()ような気がするんですよねぇ」

 

「……ホグワーツで、しかも医務室だしね。ゴーストがいても不思議じゃあないと思うよ」

 

「それとは違うと思うんですけど…ほら、あの辺りとか……あっ」

 

よく見れば物陰から少しだけ何かの体がはみ出してるんですが……

 

「あの……はみ出してますよ、体」

 

そう声をかけてみると、びくっと反応したそれは、一度体を引っ込ませるとしばらくしていそいそと出てきた。

枕カバーのような何かを体に巻き付けた()()はそのしわしわの顔を大きく伏せて会釈をしてきた。

 

「ドビー!!」

 

ハリーさんがそう告げる。

 

「ドビー……もしかして以前言っていた『屋敷しもべ妖精』の方ですか?」

 

「そう、あいつだよ」

 

思いがけない場面で会う事ができたね。

……出来ればこんな場面じゃない方がよかったけどね。

 

「あぁ、ハリー・ポッター。あなた様は学校に戻ってきてしまった」

 

そう言って伏せられた顔が上がると、そこには一筋の涙が顔を伝っていた。

 

「ドビーめは、なんべんも警告いたしましたのに。なぜドビーの申し上げたことをお聞き入れにならなかったのですか?なぜ、汽車に乗り遅れたときにお戻りになられなかったのですか?」

 

……ん?

 

「―—どうして、えっと、ドビーさんでいいんですかね?」

 

「ドビーと呼び捨てにしてください、ご友人方」

 

「じゃあ、私のこともヨーセイ、と呼んでくださいね……それで、なぜドビーはハリーさんが乗り遅れたことを知ってるんですか?」

 

ドビーの唇が小さく震える……どうやら図星みたいだね。

 

「……もしかして、あれは君だったのか!」

 

「その通りでございます!隠れて待ち構え、そして入り口をふさいだのはドビーめでございます。ですが!これでハリー・ポッターは安全だと思いました。まさか別の方法で学校に行くなんて!」

 

「君のせいで、僕もロンも退学処分になるところだったんだ」

 

「でもそれはあなた方も悪かったと思うんですが……」

 

「ヨーセイ、ちょっと静かにしておいて」

 

あ、釘刺されちゃった。

……結構怒ってるっぽい?

 

「ドビー、僕の腕が治らないうちにここから出ていった方がいい。何をするか分からないよ」

 

「ドビーめは脅しには慣れております。お屋敷では一日五回も、です」

 

そういうと、ドビーは弱々しく微笑んだ。

 

「あなた様はどうしても家に帰らなければいけない、そうドビーめは考えました。ならば、ドビーのブラッジャーでそうさせることが出来ると――」

 

「え、あれやったのドビーなんですか?」

 

「いったいどういう意味?君のブラッジャー?君が僕を殺そうとしたのか!」

 

「殺すなんて、めっそうもない!ドビーめはハリー・ポッターの命をお助けしたいのです!ここに留まるよりは大けがをして家に送り返された方がよいのでございます!」

 

「にしてはかなり危険だったと思うんですが……」

 

「あぁ、ハリー・ポッターがお分かりくださればいいのに!」

 

「『名前を言ってはいけないあの人』にあなた様が打ち勝ってから、私どものような、魔法界のクズのようなものにとって生活は全体によくなったのであります。ハリー・ポッターは希望の道しるべ、ですがホグワーツでは今恐ろしいことが起きようとしている。歴史が繰り返され、またしても『秘密の部屋』が開かれたのですから――」

 

「あら、『秘密の部屋』のことご存じなんですね」

 

その瞬間ドビーははっと顔を恐怖で歪め、近くにあった水差しを頭の上でひっくり返した。

…えっなにこれ。

 

「ドビーは悪い子、とっても悪い子……」

 

うん、とにかく自分を戒めてるってことは分かるよ、ちょっと唐突すぎて引くけど。

 

「あなたは秘密の部屋のことについて知っている、それを私たちに言うことは出来ますか?」

 

「あぁ…ドビーには言えません。ドビーは言ってはならないのです」

 

「ドビー、お願いだ。いったい誰が?」

 

「ハリー・ポッター、どうぞもうお聞きにならないでください。とにかく、家に帰って。危険すぎます……」

 

「……ハリーさん、止めておきましょう。多分、それを言うのはドビーにとってもまずいことなんですよ」

 

「……うん、わかった」

 

凄く顔では聞きたそうにしているけど、ハリーさんはなんとか引き下がってくれた。

 

「では、ほかの事ならいいですか?」

 

「ドビーに応えられることならお答えしましょう」

 

「えっと、『屋敷しもべ妖精』は普段どのようなことをしてるんですか?」

 

まぁせっかくの機会だし、聞きたかったことは大体聞いておきたいね。

前から同じ妖精として興味はあったのです。

 

「ご主人様の身の回りの世話をおこなっております。掃除に洗濯、食事の準備など、ありとあらゆることであります」

 

「では、なぜそんなことをしてるんですか?聞いている限りでは特にメリットなども無さそうですが…」

 

「それは……『屋敷しもべ妖精』にとって、ご主人様のために働くことは名誉な事だからです」

 

「でも君は今、そのご主人様のために働いていないよね?」

 

そうハリーさんが言ったとたん、ドビーは壁に頭を打ち付け始めた。

…あー、またなのね。

 

「あの、ドビーさん?」

 

「ドビーは悪い子です!ご主人様に反することをまさに今しています!ですのでドビーは自分で自分にお仕置きをしなければいけないのです!」

 

「その……大変なお仕事なのですね」

 

なんというか……うーん、なんて言っていいのか……

やっぱり引きます。

 

「ドビーめは奴隷なのです。一生ご主人様とそのご家族に使えていく運命なのであります。今身に着けているこれこそ奴隷の証、ご主人様から衣服を贈られない限り、自由にはなれないのです……」

 

確かにみすぼらしい服を着てるな……と、よく見れば枕カバーだった。

服ですらないのね……

 

「じゃあ最後に一つ。私は妖精のイメージとして、自由奔放で楽しく遊んでいるようなものを抱いていたのですが、そういうことに憧れはありませんか?」

 

「『屋敷しもべ妖精』はご主人様に仕えることこそ名誉であるとみな思っています。ただ、ドビーめは――」

 

ドビーは何かを言いかけたのを寸前で食い止めて、おもむろに水差しを握ると今度はそれを頭に振り下ろし打ち倒れた。

……あっ、さすがに慣れてきたよ、不本意だけど。

 

「ドビーめは家族の悪口を言いかけてしまいました……」

 

「えっと、頑張ってくださいね」

 

とりあえず応援しておこう……適当な言葉が見つからないだけなんだけどね。

そうかー、ここまで私たち『妖精』と違うんじゃあもうほとんど別種族みたいだね。

ちょっとだけ思っていたのとは違うけど、これはこれでアリ……なのかなぁ、どうなんだろ。

 

「もう私が聞きたいことは聞けましたので、帰っていただいてもいいですよ。ありがとうございます」

 

「それではわたくしが納得できません!ハリー・ポッター、どうか家に帰ると約束してください!」

 

「それは出来ない。『秘密の部屋』のことだって気になるし、何より僕の親友の一人はマグル生まれだ。本当に『部屋』が開かれたのなら彼女が真っ先にやられる――」

 

「ハリー・ポッターは親友のために自分の命を危険にさらす!なんと気高く勇敢な!でも、ハリー・ポッターはまず自分を助けないといけない。そうしなければ……」

 

突如ドビーの顔が凍り付いた。今度はなんですかー。

……っと、足音が聞こえる、これか。

 

「ドビーは行かなければ!」

 

そういってバチっと音がしたとたん、ドビーは私たちの前からいなくなってしまった。

瞬間移動みたいな魔法かな、実は魔力とか高かったりするのかな?

 

「……あなたは!早く出て行けとさっきも言ったでしょう!!」

 

あちゃー、マダム・ポンフリーでしたか……

 

「あの…その、忘れ物をですね……」

 

「早く取って!出ていきなさい!」

 

「あぁ、はい…すいませんでした、出ます。ハリーさん、それではまた明日」

 

「うん、またねヨーセイ」

 

部屋から出て、一息ついてから寮に向かって歩き出す。

とにかく、ずっと気になっていた『屋敷しもべ妖精』と話すことが出来たのはかなり嬉しいね。

ドビーが言うには、部屋が開かれたのは少なくとも複数回のようだね。『歴史は繰り返され』なんて言ってたし。

ということは歴史資料的な何かから当時の記録を探し出せるかもしれないね、これはアリスさんに報告しておかないとだ。

……そんなところかな、帰って報告ですわ。

 

 

 

 

『その情報はこっちとしても助かるわね。だいぶ調べる範囲が絞れると思う』

 

「歴史資料となると一気に楽になりそうですよね」

 

『というか、ほとんど正解にたどり着いたも同然よ。勿論、当時の状況が綺麗に残っているかは分からないし、そのあたりは探してみないと分からないけどね』

 

「お役に立てたようで何よりです」

 

『あぁそうそう。その情報をくれたの『屋敷しもべ妖精』なのよね。よかったじゃない、話せて』

 

「そうですね、相当変な種族でしたね、『屋敷しもべ妖精』って」

 

『例えば?』

 

「なんか、自分が主人に対してなにか悪いことをしてしまうとすぐに自分を痛めつけていました。壁に頭ぶつけたりとか」

 

『……それ、その子が変わり者なだけだと思う』

 

「えっそうなんですか?」

 

『私もほとんどあったことがないけど、そこまで変な種族ではなかったと思うわ』

 

「それは……安心しました、で合ってるんでしょうか……」

 

『性格なわけだし、どうしようもないでしょう?』

 

「ですよねー……あら、もうこんな時間ですか」

 

『あ、最後に一つ。大妖精、早く前に言ってたマルフォイだっけ?と話しなさい』

 

「……」

 

『もともと仲は悪くなかったんでしょう?仲直りも兼ねて、『秘密の部屋』について聞いてきなさい。じゃあ切るわね』

 

通信が切れた。

……そうだよね、『屋敷しもべ妖精』のこともスッキリしたし、やらなきゃいけないことはこの際、まとめて片付けるようかな。

ドビーのことがあって流されていたけど、まあタイミング的にもクィディッチの試合が終わって、発端になった事件が一旦終わったところだからいい感じだね。

明日あたり、話をつけてみようかな……

 




26話でした。

ここ何話かは謎の8日投稿が続いております。新感覚。

ついにドビーと大ちゃんの絡みを書くことが出来ました。
お待ちいただいていた皆様が満足いただける文章になっていればいいのですが…

本当はこの回でマルフォイもやるつもりで構想してたんですが、意外と伸びましたね。
次回に持ち越しです。


感想などなど、待っています!
誤字がいくら注意して打ち込んでいても無くなりません……いつもありがとうございます。


ではこのあたりで

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