あ、アシ?北上やけど何か文句あるが?   作:ジト民逆脚屋

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久し振りです。今回は謎が増える回かな?

少し前にHGリヴァイブのグフを買ったのですが、グフカスタムがマッシヴ過ぎて、グフが薄っぺらく見える……




三十日目

風切り音を響かせ、北上が金棒を振り抜く。装甲貨物船〝宗谷〟甲板で、北上の剛力で振り抜かれた金棒は、内部の振り子の移動により、更に威力を増して、飛来物に打撃を浴びせる。

 

「かぁーっ、いかんのう!」

「いやいや、満塁ホームラン飛ばしといて、何言ってんだか」

あっこ(あそこ)の岩場まで、飛ばすつもりやったがやけど、いかんにゃあ」

 

入野が古びたグローブを外し、薄くなり始めた頭を掻く。海賊の襲撃から数日、五十嵐水運は海岸と旧軍港を改造した港町に停泊している。

補給、船の整備、仕事の依頼と航路の設定、すぐには出港とはいかず、非番の者はこうして暇を持て余していた。

 

「暇じゃあ、町行って酒呑もうや」

「北上、今日は非番だが、一応は船に居ろよ」

「分かっちょらあや。しかし、何がどういて、軍がのう」

 

草臥れた煙草を口に挟み、紫煙を吐き出す。行儀悪く吐き出された煙は、僅かに吹いていた海風に巻かれて、千々に千切れて融けていく。

この町と町を守る水門は、軍が嘗て放棄し払い下げた施設を流用して作られている。そして、この町の住人はあまり軍人を好いてはいない。

 

「昨日も、何ぞやらかしよったがやろ?」

「ん? ああ、調子に乗った軍人ってのは、始末におえねえな。若いのが、他の船の船員と殴り合いの喧嘩になったらしいな」

「かはは、アシも見たかったのう」

 

笑う北上が、金棒を肩に担ぐ。重い音を出しながら、己の肩を叩く。もし、北上がその場に居合わせたなら、間違いなく喧嘩に加わっていただろう。

約一ヶ月の付き合いで、はっきりとそれが解る。

 

「……しかし、この軍人嫌いの町で、何をしてんのかねえ」

「さあのう」

 

二人揃って、紫煙を吐き出す。自分達に町と施設を置いて、さっさと逃げた軍人。この町では、軍人は卑怯者と臆病者の代名詞となっている。

その軍人が、態々この町に来た理由。

 

「面倒事でなけりゃ、いいんだがな」

 

入野が呟き、短くなった煙草を煙缶に押し付ける。北上と大和の二人の艦娘を抱えている今、出来るだけ軍に関わる仕事は避けたい。

今より幾分下がるが、都市間の物資輸送でも、充分な収入源になる。柳瀬も苦い顔をしていたが、帳簿と睨み合いを続け、同意している。

 

「すまんの」

「何がだ?」

「アシらのせいで、稼ぎ減りそうながやろ」

 

何気無く発したのだろう。北上は入野を眇で見る。その目は、こちらの出方を窺っている獣の様だった。仮に、入野が対応を誤れば、北上は大和達を連れて、この船を飛び出すのだろう。

入野は煙草の箱を懐から取り出すと、軽く振り器用に二本の煙草を飛び出させる。そして、一本を己に、一本を北上に、火を点け紫煙を燻らせる。

 

「気にすんな。軍の仕事は一発はデカイが、一回で終わる事が多い。都市間輸送依頼なら、都市が交易を続ける限りは、依頼が続く」

「ほうかよ」

「それにな、お前は俺の部下で仲間だ。いいねぇ、艦娘の部下。こき使ってやるから覚悟しとけ」

 

入野がふざけた顔と声でそう言えば、北上は口の端を吊り上げ笑う。

 

「いたら、アシらはその分好きにしようかの」

「やってみな。つか、幸蔵爺がお前の艤装、弄くり倒してるがいいのか?」

「かまんろ。幸蔵爺もアホやないき」

 

笑う北上が、短くなった煙草を握り潰し、盛大に紫煙を吐き出した。

空は青く、〝宗谷〟から見える町の様子は、平和そのものだった。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「なんだこりゃ?」

 

幸蔵が〝宗谷〟船内ドックにて整備していた、北上の艤装の背部接地面を見ながら、そんな声を上げた。

 

『あ?』

『どうしたです?』

 

「おう、お前ら、これ知ってるか?」

 

幾らか改装された北上の艤装、その背部を指差す。そこには、三つの穴と三つの端子に似た何かがあった。

 

『なんですそれ?』

 

「解らん。よし、装甲開くか。お前ら中から調べてくれ」

 

『仕方ねえです。サブ、頼む』

『りょーかい』

 

幸蔵が工具を手に、装甲の接続を弛め、見覚えの無い端子を引き出す。端子は鋭く針の様に尖り、それに繋がるコードは短く他とは色が違い、艤装本体内へと続いている。

幸蔵はパイプとコード、ネジと歯車のジャングルの奥に、声を飛ばす。

 

「おーい、そっちはどうなってる?」

 

『今、辿ってるとこ。っと、おえぃ!』

『サブ、どうしたです?』

『ちょっと来るです!』

 

サブが声を張り上げ、艤装本体内で全員を呼ぶ。カズとジロはサブの声を辿り、サブの元に駆け付けるが、幸蔵は装甲カバーを開いて、声がしたであろう位置を覗き込む。

そしてそこは、艤装の最重要区画である機関部だった。

 

「何か見付けたのか?」

 

『これです』

 

サブが持ち上げるコードは、謎の端子に繋がるコードと同色で、幸蔵が端子側のコードを僅かに引くと、サブが持ち上げるコードにも動きがあった。

謎のコードはこの機関部に繋がっていた。

 

「おいおい、何だってこれに、誰も気付けなかったんだろうな?」

 

『意識してなかった、という話です』

『というか、このコード何処に繋がってるです?』

 

カズとジロの言葉に、サブは幸蔵を見ると、幸蔵もそれに頷く。艤装内での作業は三人、特にサブに一任してある。

この三人、カズは全体指揮、ジロは火器管制、サブは整備と、大体の役割が決まっている。

幸蔵はサブが掴み辿るコードの先を見ながら、端子を弄る。

分厚い作業用の手袋越しでも、はっきりと伝わる鋭さ。装備としてならともかく、背部接地面、生身である北上の背中に触れる部分に、これは有っていいものではない。

 

「どうだ?」

 

『サブ?』

『どうしたです?』

 

返事が無い。一体どうしたのかと、幸蔵が角度を変えて覗き込むと、件の有り得ない二つ目の動力炉の前で、サブが止まっていた。

 

『これってまさか……』

 

「お前ら、背面に蓋をするぞ。これはよくないもんだ」

 

謎の動力炉に繋がるコードを辿り、幸蔵は三つの端子を見る。端子は背部接地面の中央に、縦に真っ直ぐ配置されていた。

そしてその位置は、北上の背骨がある位置だった。


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