あ、アシ?北上やけど何か文句あるが?   作:ジト民逆脚屋

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やあ、こっからが長いんだよ。
あと、土佐上様が装備を剥ぎ取るぞ。
そして、安定の予告詐偽さ。


二十三日目 始まり

丸い。

それが機動殻に対する〝脚付き〟乗員の第一印象だった。

通常、機動殻の装甲は傾斜装甲が採用されていて、海賊等が使用するそれは、大抵が軍等から払い下げられたものになる。

だが、主腕の打撃を避けた機動殻は全体的に丸い。仮に、払い下げられたものならば、改造を施していても、その装甲は箱の様な傾斜装甲からそう離れない筈。

 

ーー新型か?ーー

 

フットペダルとレバーを巧みに手繰り、六脚の〝脚付き〟を荒れた波間に立たせる。

丸い、曲面装甲を主とした機動殻。乗員の知る機動殻よりも、更に装甲を厚くしてあるのが見て解る。

新型ではない。短くない船員生活、機動殻を運んだ事も一度や二度ではない。

 

『これ以上荒れる前にケリつけるぞ』

『分かってるよ、甲板長』

 

無線から聞こえる入野の声に、威勢よく応答する。だが、嵐の海で〝脚付き〟が動ける範囲は狭い。

というより、〝脚付き〟自体が海上での運用を目的としていない。

 

〝脚付き〟は、海上よりも陸上。それも、市街地等の入り組んだ狭い立地で、六脚を用いた三次元機動を得意とする。

五十嵐水運が陸上が得意な〝脚付き〟を採用しているのは、単純に安く操作が容易であり、簡単な重機を操作出来れば、子供でも乗れるからだ。

 

クラッペから波の高さを確認し、前方の機動殻の装備を確認する。見たところ、銃器の類いは装備していなさそうだが、腰に提げた長方形の鉄板。そうとしか言い様の無いそれは、長辺の一辺の両端を残し柄とし、両端の短辺を分厚く、残る長辺を鋭く研いだ刃としていた。

 

暗色の機動殻が振り下ろすそれを避けながら、無線を開き入野を呼び出す。

 

『甲板長、あれに見覚えは?』

『確か、水門についたフジツボやら錆やらをこそげ落とす、機動殻用の〝鉋〟だったな』

『威力は?』

『見ての通りだ』

 

波間を跳ねる様に滑り回避した一撃は、荒れた波を砕き飛沫を代わりに〝脚付き〟の装甲に叩き付ける。

〝脚付き〟の装甲は強固とは言い難い。機動殻の出力で、あの鉄塊を振るえば、〝脚付き〟は良くて大破、悪ければそのまま即死だ。

乗員は一定の距離を保ち、周囲を警戒する。

機動殻は鎧で、荒れ始めた海ではその波に隠れてしまう。ただでさえ、悪天候で視界が暗く、装甲も保護色となって解り辛い。

 

宗谷は大型艦で、ここは港前の内海が近い。母艦が何処に在るのかも不明。

船を回し続けても、いずれは追い詰められ、最悪は暗礁に座礁か、水門に激突するだろう。

 

『マズイぞ!』

『言われてもよ! コイツ・・・!』

 

機動殻が鉋鎚を力任せに圧し込む様にして、〝脚付き〟の主腕を弾き飛ばす。

乗員も腕利きだが、機動殻の海賊も腕利き。

事態は拮抗しており、時間は残り少ない。

海賊も同じなのか、鉋鎚を振るう腕に焦りがある。

 

どうにかして、事態を開きたい。互いが互いに膠着した状態の中、怒声が嵐に響いた。

 

「かったいのう、われぇ!」

『なんだあれは?!』

 

人よりも遥かに重量のある機動殻が、海面を跳ね飛ぶ光景。それに仲間の海賊が驚愕の声をあげる。

 

『北上! 遅いぞ!』

「喧しい! おんしらばあ、乗りもん乗りよって! アシは歩きやぞ!」

 

北上が金棒を振り回し、体勢を立て直し復帰した機動殻と鍔競り合う。

だが、北上の動きが明らかにおかしい。

 

「ぬ? うお!」

『北上?!』

 

鍔競り合いを嫌った機動殻が退くと、そのままの動きで前につんのめり、顔から海に突っ込みそうになる。

なんとか踏ん張り、海に沈むのは避けたが、反応が遅れ機動殻に押し込まれる。

 

『なんだお前、艦娘か?』

「蛙面が喋ったわ。中身は人かや」

『・・・殺す』

 

北上の言葉が海賊の何かに触れたのか、脚部推進機の出力を高め、武器の重量と機体の出力任せに北上を押し潰そうとする。

北上からしてみれば、機動殻の頭部装甲が蛙に見えただけで、中身の海賊の顔が見えたという訳ではない上に、突如殺意をみなぎらせて襲い掛かってきた危険人物に他ならない。

なので、北上は僅か一ヶ月足らずで学んだ、この世界での危険人物への対処法を実行した。

 

即ち、暴力(万国共通言語)で解決である。

 

「ぬう・・・!」

『ちっ・・・!』

 

圧し負けた機動殻が舌打ちを一つ漏らし、海面を滑り退くと、北上は海面を踏み締め、飛沫を散らし追撃を叩き込む。

 

『やはり、艦娘か!』

「見て解れや、ボケェ!」

 

海面に浮き滑る様に滑走する機動殻に対し、北上は海面を踏み締め、一歩一歩加速する様に滑走する。

そう、艦娘は海面を踏む。

二足だろうが六脚だろうが、歩行するものは面に立ち、面を踏まねば存分な力は発揮出来ない。

だが、今居るのは海面。普通は踏めず抜ける面だが、艦娘である北上は海面を踏める。

それはそのまま、艦の膂力を人型として振るえるという事になる。

 

荒波を踏み鳴らし、波涛を蹴散らす。海上に於ける力の権化、北上は本能からか、その力を存分に発揮していた。

 

『ちっ、時間だ。退くぞ!』

 

ぶつかり離れを繰り返し、その強固な装甲に損傷が増え始め、嵐を止み始めた時、海賊が撤退を始めるが、

 

「誰が逃がす言うたぁ!」

 

猛る北上が海面を蹴りつけ、一気に加速。追撃を加えようと金棒を振り抜く。

だが、北上の一撃は、突如うねった波に体勢を崩され、十分な威力は発揮出来ず、殿を勤めていた機動殻の鉋鎚を弾き飛ばすに留まった。

 

「ぬう、くそが!」

「北上、やめとけ」

 

弾き飛ばした鉋鎚を空中で掴み取り、海賊を追おうとするが、〝脚付き〟の搭乗口から身を乗り出した入野に制止され、金棒を肩に担う。

 

「連中、やけに手慣れてやがる」

「どういう事な?」

「海と港を繋ぐ水門、その近くの海域で襲ってきたつう事は、馬鹿か逃げ切れる自信がある奴だけだ」

 

入野が煙草を差し出し、北上が火を点ける。

既に雨足は止み、厚い雲にも穴が開き始めていた。

北上は紫煙を苛立たしげに吐き出し、金棒を艤装に追加したウェポンラックに引っ掛け、先程手に入れた鉋鎚を軽く振る。

 

「使いよいにゃあ。貰お」

「聞いてるか?」

「聞きゆう聞きゆう。ここらで吹っ掛けてくるがは、馬鹿で逃げ足の早い奴らだけながやろ」

「微妙に違うが、まあいいか」

 

言うと入野は、無線で待機していた他の〝脚付き〟に指示を出し、周囲を警戒しつつ宗谷へと戻っていく。

 

「んお?」

「どうした? 北上」

 

それに倣い、北上も宗谷に戻ろうと踵を返した時、何かの気配を感じ振り返るが、そこには嵐が過ぎた海しかない。

 

「なんもない」

 

首を左右に鳴らし、背後への警戒を強めながら、北上は宗谷へと戻っていった。




今回剥ぎ取った装備

ガルム・ロディが使ってたアレ。

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