あ、アシ?北上やけど何か文句あるが?   作:ジト民逆脚屋

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やあ、土佐上様の新型装備だよ?

あ、『ウチの提督がすみません』も宜しくお願い致します。


二十三日目 

この世界には、機動殻と呼ばれる兵器がある。

簡単に言ってしまえば、機械の鎧だ。

並の攻撃では傷付かぬ装甲、人間では到達出来ぬ力、それらを纏う事の出来る、人間が深海棲艦に対抗する為に生み出した技術の一つ。

それが機動殻である。

 

 

 

 

 

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「荒れてきたね」

 

五十嵐が舵輪を取り、窓に打ち付ける雨粒を見ながら言った。

大型船である宗谷を揺らす程ではないが、窓に打ち付ける雨粒の勢いが増している。入野からの報告にもあったが、外洋で季節外れの冷え込みと悪天候。

恐らくだが、深海棲艦が近場に居る可能性が高い。

 

「柳瀬、キタはどうしてる?」

『今は、幸蔵爺と一緒に格納庫で装備点検やな。なんでも、新装備を作ったとか』

「はっ、出番が近いかもと伝えときな。お前は嬢ちゃんと船室に待機」

『はいはい』

 

無線を切り、左の義腕で舵輪を掴み、空いた右手で海図に印を付けていく。

 

「ナオ、以前の海図はどうだい?」

「以前は勢力圏外ですな。・・・連中の縄張りが広くなった、ですかね?」

「さあ、そりゃ解らん。だが、奴等が出てくる時は、大体前日に海が荒れる」

 

次第に波の揺れを感じながら、五十嵐は舵を面舵に切る。

目的の港まではそう遠くないが、この海では港に入る事は出来ない。

 

「停泊はしたくないし、回るとするか」

 

溜め息と共に、五十嵐は舵を回した。

 

 

 

 

 

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「嵐になるの?」

「せやなぁ。船長の予想より早いみたいや」

 

宗谷船内中央船室にて、柳瀬と大和が荷物の固定を行っていた。

船室の外もにわかに騒がしさが増しており、嵐が来るという事を否応なく伝えてくる。

 

「大和ちゃんは寝台に掴まっとき。いざ、なにか起きたら、船長は中の人間の事考えへんから」

「母さんは?」

「入野さんらと格納庫。嵐に紛れて、邪魔もんが来るかもしれへんから」

 

備え付けのテーブルをゴムロープで固定し、柳瀬は猫の様な細目を更に細めて、大和を見る。

 

ーー不安やろねーー

 

柳瀬達が聞く限りではあるが、北上と大和達には己を支える背骨となるものが無いに等しい。

気付けば、人一人居ない小島に居て、訳も分からず駆け抜けてきた。

艦娘の事は柳瀬には解らない。だが、柳瀬が知る限り、艦娘は人間が成るものであって、何も無いところから湧いて出るものではない。

 

「ま、なんとかなるやろ」

 

呟き、天井を見上げれば、先程よりも強く証明が揺れていた。

今、自分達に出来る事は、この嵐が過ぎるのを待つだけだと、柳瀬は息を吐いた。

 

 

 

 

 

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「貨物固定急げ!」

 

入野の指示に慌ただしく動く船員達を他所に、隅の方で動く者達が居た。

 

「んで、北上。もう一回、確認するぞ」

「おう」

 

艦娘の北上と機関長の幸蔵だ。二人は艤装を囲み、幾つかの確認を取っていく。

 

「艤装の防水性は上げてあるが、完全に水没したら長くは保たん」

「保って、どれっぱあな?」

「ダメージ無しで最長で十分、ダメージ有りだと、中の三人組次第だな」

 

幸蔵が軽く艤装の煙突を小突くと、妖精三人組が顔を出す。その手には工具と資材があり、艤装内部の改装も順次完了に向かっている様だ。

 

『大穴開けられない限り』

『大丈夫です』

『それより、本当に敵来るです?』

 

煤と油に汚れたサブが疑問するが、幸蔵ははっきりと答えられる情報が無い。なので、今までの経験則からの答えを出す。

 

「季節外れに冷え込んで、海も荒れ出した。長く海に関わっちゃいるが、こういう時は大抵なんかあるんだよ」

 

『勘です?』

 

「経験則による対策だ」

 

サブの疑問に幸蔵が答え、大男が補足する。

 

「入野、向こうはえいがか?」

「貨物の固定は済んだ。〝脚付き〟には〝アメンボ〟も履かせたし、後は何も起きん事を祈るだけだ」

 

入野が薄くなり始めた頭を掻く。

彼の背後には、見慣れた機械の蜘蛛に似た蟹が、脚部に足鰭の様なものを着けていた。

 

「あれで浮くがか?」

「今より荒れない内はな。これ以上荒れるなら、〝脚付き〟じゃ無理だ」

「だから言ったろ? 高くても、新型の〝アメンボ〟買った方がよかったてな」

「そりゃ、家の主計長(柳瀬)に言ってくれ」

 

入野が上層階を指差す。

 

「金勘定で柳瀬に勝てるかよ」

「結果出せば、頷くぜ?」

「結果出せればの」

 

北上が艤装を背負い、壁に掛けてあった装備の柄を掴む。

両手持ちの柄は太く、ちょっとやそっとでは歪みそうにない。

北上はそれを持ち上げると、見た目に反し軽量であるという事に気づき、幸蔵を見る。

 

「中身は空洞だが、仕込みがあってな。振れば解るさ」

「おん?」

 

北上が軽く振ると、装備の重心がズレた。

手の中で、柄が前に持っていかれる感覚に北上が握力を強める。

 

「横流しで手に入れた重巡級の装甲材で組んであるから、強度に関しちゃ問題無し。スイングの速度で威力が上がるからな。その馬鹿力でぶん回せ」

 

北上が肩にその金棒を担った時、格納庫にサイレンがけたたましく鳴り響いた。

 

 

 

 

 

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嵐の海、上下どころではなく揺れうねる海面を、暗色の鎧が駆けていた。

通常、人間が纏う鎧であるならば、足首がある筈のそれには、代わりに足首ではなく二股に分かれたフロートユニットがあった。

 

不規則にうねる海面を、スケートの様に滑り、赤いカメラアイが巨大な船影を捉える。

 

『獲物だ』

 

先頭を行く鎧が呟くと、後に続く者達が各々に得物を構える。

 

『嵐がひどくなる前に仕留める』

 

海面を駆ける鎧、機動殻に身を包み、宗谷に近付くのは、海賊の先見隊。

強襲し、貨物を強奪。あわよくば、船を強奪しよう。

宗谷に近付く海賊達は、装甲の下で下卑た笑みを浮かべ、波間に隠れる様にして、宗谷に接近し

 

「よう」

 

六脚の打撃を受けた。




次回

『やっちまえ! キタァ!』

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