あ、アシ?北上やけど何か文句あるが?   作:ジト民逆脚屋

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やあ、最近は土佐上様ラッシュだよ?
コメントとか、ズルッと来るとうれしいよね?

土佐上様に鉄血ニッパー持たせたいね?


十日目 補給と

「なぁにやってやがる?! 小娘!」

 

晴天直下の青い海に、嗄れた怒声が鳴り響く。

白地に油汚れの黒を斑に染め付けたツナギを着た老人が、低い水柱へ紙で作ったメガホンを向ける。

 

「テメェ、何度言ったら解りやがんだ?! あァ?!」

 

ボートから怒声を飛ばせば、海面に空気の泡が幾つも浮かんでは割れる。

次第に泡が勢いを増し、一本の腕が海面から飛び出し老人が乗るボートの縁を掴む。

そして、浮かび上がった人物は〝海面に立つ〟と、垂れてきた前髪を、含んだ海水と共に後ろへ掻き上げる。

 

「やっかましいわ! 人が馴れんもん使いゆうに、横からギャンギャン騒ぎよって!」

「儂の作品を使う奴が、細けえこと言うな!」

「やったら説明せえや! 大体なんなあれ?! 何が悲しゅうて、アシが海で独楽みたいに回らないかんがな?!」

 

北上は上着のポケットを探り、煙草の箱を取り出すが、中までしっかりと湿気ており、しかもビニールフィルムが海水の排水を拒んでいる。

北上はこめかみの辺りに太い血管を浮かせると、海水漬けの煙草を海面に叩き付けた。

 

「はぁ、ほれ」

「おう、で? 幸蔵(こうぞう)爺、これはなんながな?」

 

北上は幸蔵から受け取った煙草を吹かしながら、己の両腰横に取り付けられた、縦長の楕円状の機具を指差す。

その機具の最下部は、四角く切り取られた様になっており、突き出した翼状のパーツに挟まれ、噴出口の様になっていた。

 

勇奈(いさな)からな、オメエから艦娘っぽさを少しでも減らせねえかって言われてな。ガス燃料式推進器を取っつけてみた」

「馬鹿かおんしゃあ!」

 

北上が叫び、背に背負った艤装から水浸しの妖精達が飛び出す。

 

『こ、この人間、この野郎!』

『なんてもの、いきなり取っつけてる?!』

『死ぬかと思った!』

 

「左右の出力バランスが悪かったからな。馬鹿力の北上が面白い様に振り回されたんだ。中心から少し外れたお前ら凄かったろうな」

 

『この人間、反省の色がねえ!』

 

妖精達が工具片手に叫べば、ボートの縁に片肘をついた幸蔵が、悪びれもせず艤装内の予測を口にし、紫煙を吐き出す。

サブがスパナを振り回して抗議をするが、今はそれよりも、

 

「いいのか? 浸水してんだろ?」

 

海中に沈んだ北上の艤装から、海水を掻き出すのが先だ。

 

『この人間!』

『後で覚えてやがれ!』

 

「へいへい、覚えとくから、お前らも推進器のレポート忘れるなよ」

 

幸蔵が手で追い払う仕草をしていると、艤装下部の排水弁が開き、内部に貯まった海水が排出されていく。

だが、他の細かい部分にも海水は貯まっているらしく、妖精達がバケツを使って海水を海に戻していく。

 

「しかし、北上よ」

「なんな?」

「オメエさんも変わった奴だな。儂が知る限りだと、艦娘一人に憑いてる妖精は一人だけだってのに、オメエは喧しいのが三人。どうなってんだ?」

「アシが知るかや」

 

過去に軍に所属していて、艦娘の艤装整備に関わっていた事もあった幸蔵。彼が知る限りではあるが、艦娘一人に憑いてる妖精は一人だけであり、幸蔵の言う通りなら三人も妖精が憑いてる北上はおかしいのだ。

そして、それを言えば、

 

「あの嬢ちゃんもだ。艦娘だってのに艤装は無し、妖精も憑いてねえ」

「そら、建造やらで生まれた連中の話やろ? アシらは建造されちゃあせんし」

「建造されずに生まれた艦娘なんざ聞いた事ねえよ」

「そらアシらよ」

 

どうでもよさそうに、北上は煙草を右手に嵌めた海水に濡れた手袋で揉み消す。

僅かに熱が伝わってくるが、海水を多量に含んだ手袋はその熱をすぐに冷却する。

 

「目が覚めたら見ず知らずの小島に居て、訳も分からず母親に、か」

「文句あるがか?」

「文句もなにも、謎が多すぎて文句のつけようがねえよ」

「さよか」

 

幸蔵が腕時計を見ると同時に、アラームが鳴り響く。

北上がボートに乗り込み、艤装を下ろす。幸蔵はそれを確認すると、ボートのエンジンを掛けて、その海域から離れる。

 

「不便やにゃあ」

「仕方ねえよ、民間が艦娘雇ってるなんざ、面倒だからな」

「やけど、他にも居るがやろ?」

「まあな。軍から逃げ出した奴、鎮守府も信用出来なかった奴、捨て駒にされても生き残ってはぐれた奴。数は多くないが、そんな話は数えたらキリがねえ」

「世知辛いもんじゃのうし」

 

二人が乗るボートは岩場を抜けて、大型船舶が停泊する港へと近付いていく。軍艦めいた船や、旅客船の様な豪奢な船もある。

それらから少し離れた港に、巨大な貨物船が停まっていた。

クレーンが忙しなく動き、貨物のコンテナを船内へと積み込み、人々が慌ただしく動いている。

 

「補給も、もう少しで済みそうだな」

「やっぱ、ようけ物が要るにゃあ」

「家みたいな大所帯になりゃあな。水だけでも、とんでもない量になる」

 

ボートはその貨物船を避け、すぐ側にある船着き場へと向かい、十分に近付いた時、ロープを持った北上がボートを降りて、陸へと引き寄せる。

 

「よいっと」

「小型でも人と荷物乗せたボートを、片腕で軽くか」

 

ボラードへロープを巻き付け、ボートを固定し終えた北上が、背から艤装を降ろし上着を絞っていると、船の方が何やら騒がしくなっていた。

 

「ん? おい、どうした?」

「幸蔵爺、あらなにしゆうがな?」

「なにって、なにやってんだあいつら」

 

幸蔵が煙草の火を揉み消しながら見る先には、五十嵐水運が所有する装甲貨物船〝宗谷〟の前で、言い争っている船員達が居た。

 

「なにしてんだ? お前ら」

「あ、幸蔵爺。いやさ、こいつらが急に値上げするって言い出してさ」

「値上げぇ?」

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「それはまた、いきなりな話だねぇ」

 

〝宗谷〟船長室にて、片腕義腕の女が書類を片手に溜め息を吐く。

本当にいきなりな話だと、書類から視線を外し正面を見る。

 

「・・・五十嵐さんには、本当に世話になっている。だが、今のままだとこっちが干上がっちまう」

 

禿頭の中年が申し訳なさそうに言えば、五十嵐の隣に座っていた柳瀬が帳簿と睨み合う。

 

「あかんわ、船長」

「ダメかい? 出来る限りは、なんとかしてやりたいんだが」

「まるっきり無理やないけど、港湾組合の希望額は無理や。家が破綻するわ」

「そうか。幾ら払える?」

 

五十嵐が問うと、

 

「よくて三割増し、今後の事を考えると二割が限界ですわな」

「という事だ、組合長」

「感謝します」

「言うても、毎回は無理やで? 今回みたいに余裕があるならなんとかなんねん。けど、次回もとは限らんわ」

「それでも助かる。正直、組合員達の給料も怪しかった」

 

本当に感謝する。組合長が再度頭を下げる。

五十嵐は、書類にサインしつつぼやいた。

 

「しかし、海賊か。厄介な話だね」

 

まったくと、二人が同意し、柳瀬が支払いを済ませる為に金庫へ向かう。

五十嵐と組合長の間のテーブルには、海賊による被害額が記載された書類が数枚あった。




次回

入野の大和の授業?

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