あ、アシ?北上やけど何か文句あるが?   作:ジト民逆脚屋

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やあ、2018年一発目の艦これは土佐上様だよ!

そして、今回で五十嵐船長の会社名が出るよ!

あ、バルバトス第六手に入れたよ!
=レンチメイスのモデルが手に入ったよ!


七日目 交渉

北上には不可思議に思っている事がある。

この体になる以前、所謂前世若しくは記憶にある己が、いまいちはっきりしないのだ。

山で仕事をしていたという事と、今の自分が空想のキャラクターの姿になっているという事は覚えている。

だが、その仕事が何だったのか、何をしていたのか、それらが思い出せない。

それだけでなく、己が女だったのか男だったのか、はたまたその中間だったのか、若かったのか老いていたのか、それすらも思い出せない。

思い出そうとしても、霞がかかったかのようにして、記憶が朧気になり、当たり障りの無さげな風景が浮かぶだけだった。

 

これがどうにも、足元が不安定な気分になり落ち着かなくなる。正直、自分探しの旅でもするかと思いはしたが、そんなものは見付からないと確信があったし、自分は一人ではない。

同じ様に、自分が何者なのか解らない者達と一緒に居る。

自分と同じ様に、気付いたら今の体で、気付いたらそこに居た。

 

そして、今自分達が居る世界は、そんな自分達に容赦はしない世界だった。

人間ではない自分達、人間でもなければ自分達とも違う者達、そして、

 

「いやはや、まさか艦娘と面と向かって話が出来るとはね」

 

ただの人間。名を五十嵐と言った顔半分を覆う傷と、巨大な弾倉を備えた鋼の義腕が特徴の女。

 

「そらええけどよ。話するちなんぜ? アシらにゃ、もう無いが」

「特に決まった話は無いさ。さっきも言ったが、艦娘と話す機会なんざ、早々ないからね」

 

空き家に上がり込み、居間に堂々と座ると、柳瀬という男か女かいまいち解らない者が淹れた茶を啜る。

大和達を背に隠した北上も、目の前の湯飲みを傾けると、薄い白湯に近い茶だった。

 

「柳瀬、薄い」

「茶葉が無かったんですわ。それが限界ですわな」

「けっ、疎開するなら茶葉くらい置いてけっての」

「滅茶苦茶言うにゃあ」

 

北上も負けじと、煙草に火を点ける。

見れば大分少くなり始めている。何処か手に入れられる場所を探さねば、問答無用で望まぬ禁煙生活が始まる。

それを避けたい北上が紫煙を吐き出すと、五十嵐が再度切り出す。

 

「で、だ。あんた達は艦娘で間違いないね?」

「ほうよ。アシらは艦娘よ。何ぞ文句あるがかや?」

「無い無い、ああ無いさ」

 

顔の傷のせいか、引き吊れた笑みを浮かべる五十嵐。

何回か頷いた後、それを見ていた柳瀬が冷や汗を流す。

柳瀬は知っている。この後、五十嵐が言うであろう言葉を、柳瀬は嫌と言う程知っている。

 

「なあ、あんた達。家で働かないかい?」

「あ?」

 

予想通り、スカウトに入った。

 

「ちょい待ち、船長」

「なんだい柳瀬?」

「艦娘雇うて、あんた何考えてんねん?」

 

五十嵐の悪癖。それは、面白そうな奴は一度スカウトしてみるというもの。

今までも、問題はありながらそれでやってきたが、今回ばかりは話が違う。

北上と大和は〝艦娘〟なのだ。

 

「軍から目付けられんで?!」

「いいじゃないか。というか、この二人は自分で艦娘だと言わなきゃ解らんさ」

「いやまあ、ウチも〝北上〟と〝大和〟ゆう艦娘は初めて聞きますけんど」

「お? 他にアシらが()るがか?」

 

指に煙草を挟んだ北上が、いまだに五十嵐達を威嚇している大和の頭を撫でながら、柳瀬に問うた。

 

「あ~、あんたらと同じ艦娘は居らんよ。ウチが言いたいんは、あんたら二人を聞いた事が無いゆう事や」

「ますます解らんわ。もうちっくと解りやすうに話しや」

「仕方ないね。柳瀬の話を簡単にすると、アタシらは数多くの艦娘は知ってるが、あんた達二人の名前を聞いたのは、今日が初めてって事さ」

 

五十嵐と柳瀬の言葉に、北上は頭に巻いていたタオルを解き、頭を乱暴に掻いた。

細かい事はどうにも苦手であり、二人が言っている事もよく理解出来ないが、今の自分達が奇妙な立場に立っている事は理解出来た。

そしてそれらを、この世界で手に入れた情報と示し合わせれば、嫌でも答えは見えてくる。

 

「言うたらあれかや? 誰っちゃあ聞いた事の無い、見た事の無い、アシらを欲しがる連中が居るがやな?」

 

北上の言葉に、彼女に抱き着いていた大和が身を固くした。

大和は、北上が眠っている間も情報を集めていた。その中には、艦娘を集めるだけ集めて使い捨てる人間が居るというものもあり、大和達は人間を信用出来なくなっている。

その人間が、自分達を聞いた事の無い珍しい艦娘だと言った。それが何を意味するのか、解らない大和達ではなかった。

 

「落ち着き、大和」

「でも、母さん」

「こいたらが何ぞする気やったら、もうしちゅうわ」

 

煙草を灰皿に押し付け、北上が紫煙を吐き捨てる。

 

「まあ、こっからする気やとしても、アシが全員はりまわすだけよ」

 

言うと、五十嵐が笑みを深め柳瀬が上着に手を入れる。

北上が新しい煙草に火を点ければ、背後に置いていた艤装を妖精三人が動かし、大和がそのベルトを北上に渡した。

 

「出来るのかい?」

 

五十嵐が笑みを浮かべたまま、細巻き煙草を口に噛む。

 

「出来る出来んやないわ、やるがじゃ。アシらが生きるのを邪魔する奴等は、残らずはりまわす」

 

五十嵐が俯き、紫煙が空中を漂う。

次第に、その体が揺れ始め、くぐもった笑い声が聞こえてくる。

北上がその笑い声に怪訝な顔をすれば、上着に手を入れていた柳瀬が溜め息を吐いた。

 

「あ~、北上はん?」

「なんな?」

「家は軍と取り引きする事はありますけど、軍とべったりいうわけやないんで、そこら辺は安心しといてや」

「あァ?」

「まあ、あれですわ。ウチんとこの船長、こうなったら梃子でもうごかへんのです」

 

柳瀬が指差す五十嵐はまだ笑っていたが、勢いよく顔を跳ね上げ、北上達に改めて高らかに言った。

 

「いいじゃないか! 生きるのを邪魔する奴等はぶっ飛ばす! その生き方、アタシは大好きさ!」

「お、おう?」

「じゃあ、改めてだ。あんたら、アタシの船で働かないか? 対偶は応相談、なんだったら読み書き算盤をそこの嬢ちゃんに教えてやる」

「え?」

 

大和達が呆気に取られると、柳瀬が外に声を飛ばす。

 

「入野さん〝脚付き〟準備、船帰るで」

「あいよ」

 

額の広くなった中年男が、気の抜けた返事を返す。

 

「おい、アシはまだ・・・!」

「ここに居たって、何時かは軍に追われる。だったら、アタシらと来なよ。あんたらみたいな面白い奴等を、軍にくれてやるのは惜しい」

 

それに

 

「生きるんだろう? なら、あんたらだけじゃなく、アタシらとも生きてみないかい?」

 

五十嵐が義腕ではない右手を差し出す。

北上と五十嵐を、大和と妖精三人が交互に見る。北上は一度目を伏せ、半分程残った煙草を一息に吸いきり、濃密は紫煙を大量に吐いた。

そして、据わった三白眼で五十嵐を見据え、その手を取った。

 

「酒と煙草と金に飯、出し渋ったら容赦せん。あと、大和に読み書き算盤をちゃんと教ええや。何処に出いても恥かかんばあにの」

「任せな。それじゃ、アタシ五十嵐勇奈(いさな)率いる〝五十嵐水運〟へようこそだ」

 

この日、この世界で、後の世に名を残す二人が出会った。

それが何を意味するのか、今はまだ解らない。




次回

「はっ! シメジにエノキが偉そう言うたにゃあ? せめて、エリンギばあになって出直せや」

歓迎会で土佐上様、ぶちかます?

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