あ、アシ?北上やけど何か文句あるが?   作:ジト民逆脚屋

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やあ、私です。
前回、出てきた〝脚付き〟ですが、イメージとしては鉄血のモビルワーカー(鉄華団仕様)をベースに、攻殻機動隊のタチコマを合わせた見た目をしてます。
基本的に2~3人乗り。指揮席一人、操縦席2~3人

ヘルムウィーゲ・リンカーのプラモ買ったので、土佐上様があの大剣を振り回す事が決定しました!
つーか、あの剣でけえよ。

残るは、バルバトス第六か。レンチメイス・・・


七日目 

腰に鎚鉈を提げた作業服姿の女が、煙突が付いた奇妙な機械を背負って無人の町を歩く。

口の端にはしわくちゃに曲がった煙草が挟まれ、紫煙が風に乗って漂っている。

 

「あいたら、何処へ行ったがな」

 

紫煙を燻らし、欠伸混じりに天気の良い町を歩く。

どうにも、疲れというか気怠さが抜けない。

真夏の昼寝直後の様な倦怠感が纏わり付いて離れない。

 

たいそい(しんどい)のう。こういう日は、酒呑んで寝よりたいわ」

 

しかし、その肝心の酒が手元には無い。

欠伸を噛み殺し、新しい煙草に火を着ける。

酒も欲しいが、今は飯も欲しい。魚、缶詰缶詰では、どうにも腹の座りが悪い。

兎に角、白飯を掻き込みたい。

 

「腹、減ったのう」

 

空を見上げて、北上は呟いた。

見上げた空は何処までも青く、雲の合間に紫煙が流れていった。

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

「いやぁ~、久々の地面だよ」

「船長。つい最近、港下りとったやないですか」

「言葉の綾に決まってるだろう? 柳瀬」

 

左の義腕を空に翳して、五十嵐が笑みを浮かべる。

船の上では眩しく照り付けてくる太陽だが、地上だとそれに加えて暑く感じる。

義腕が作る影の下で、五十嵐は残った左目を細めた。

 

「船長、無理はせんでくださいよ?」

「分かってるよ」

「〝シオマネキ〟の修理が弾倉交換だけで済んだいうて、無理したらまた壊れますわ」

 

柳瀬が苦言を呈すると、五十嵐は自分の左腕を見る。

自分の上半身よりも大きい機械の腕、その前腕部は肘が大きく突き出し、半ばには六発装填の輪胴弾倉が内蔵されている。

片腕だけが異様に大きく見える事から、蟹の〝シオマネキ〟と同じ呼び名で呼ばれる義腕。普段使っている義腕も同じ系列だが、この〝シオマネキ〟は軍用だ。

出力も強度も段違い、負荷も強いが軽巡級なら装甲を抜ける。

 

「こないだみたいに寝込んで、入野さんに怒られても、ウチは知りまへんで」

 

相も変わらず、胡散臭い喋り方をするものだ。五十嵐は柳瀬が何処の出身か知らない。それは柳瀬本人もだ。

何処かの港町で船員が拾ってきた戦災孤児の生き残りが、この柳瀬だ。

 

「入野に叱られるのは勘弁願いたいねぇ」

 

五十嵐の船員にまともな出身の者はほぼ居ない。海に陸に空に、訳の解らない化け物がわんさと湧いてくる御時世の海で、海運業に就いている人間だ。

その脛には、大なり小なり多かれ少なかれ傷がある。

そんな連中を拾い集め、港から港へ物資を送り、深海棲艦や同業者、軍人崩れの海賊に傭兵共とやり合いを繰り返し、気づけば随分な大所帯になった。

 

「先に町に下りた連中からは、何かあったかい?」

「今んところ、何もありませんわな。でも、あの柱があった場所には砲撃跡があったらしいですわ」

 

なんだかんだと色々あったが、艦娘とはやり合った事は無い。やり合う事になれば、国と戦争する事になる。

いくら、この国が疲弊し形を保っているだけで精一杯とは言え、国は国だ。一介の海運業者が歯向かうには大きすぎる。

 

「船長、〝脚付き〟出しますよ!」

 

船から出したボートに積み込んであった〝脚付き〟のハッチから髭面の入野が顔を覗かせて、五十嵐と柳瀬に声を飛ばす。

重々しいエンジン音を響かせ、〝脚付き〟がゆっくりとボート内の格納庫から歩み出す。

 

「入野さん、どうです調子は?」

「ん? ああ、脚部モーターを新品に入れ換えたばっかだからな。少しばかり、動きが固い気がする以外は問題無しだ」

 

言うと入野は、操縦席にてレバーで操作し、モーターを新品に入れ換えた脚を掲げて見せた。

蜘蛛や蟹を思わせる機械の脚、その先端は姿勢保持用の爪と移動用のホイールが太陽光を鈍く反射している。

 

「入野、杭打ち銛は積んだのかい?」

「替えの銛と装薬含めで五発ですがね」

「ま、そんだけあれば上等かね」

 

五十嵐は言うと、義腕で〝脚付き〟の縁を掴み、そのまま出力任せに体を持ち上げ後部の指揮席へと乗り込んだ。

 

「船長、無理しとるとまた肩の継ぎ目が痛い言うて、夜中に唸る事になりまんで?」

「そんときゃ、また痛み止の出番だねえ」

 

五十嵐に続き、副操縦席に乗り込む柳瀬が忠告すると、五十嵐は何処吹く風と痛み止を飲むと言う。

柳瀬は中性的な顔を僅かに歪めて嘆息する。

五十嵐は快楽主義で刹那主義な面もあるが、経営者に必要なセンスやカリスマも持ち合わせている。まあ、そうでなければこの御時世に片腕の無い女が率いる海運業者に、人が集まる訳が無いのだが。

 

「船長、その痛み止って、酒でしょう」

「ったりまえじゃあないか、入野。海の上じゃ、酒と飯しか娯楽が無いんだ」

 

五十嵐の部下の中でも最古参の入野が、慣れた様子で笑いながら五十嵐に言えば、彼女も笑いながらそれに返す。

 

「まあ、そりゃそうですがね。飲み過ぎんでくださいよ」

「深海棲艦の上位個体が出た海で、操舵任せられるの船長だけなんやから。と、入野さん。出せますで」

 

信頼する部下の中でも最も信頼する二人に含められ、五十嵐は苦笑するしかなかった。

 

「よっしゃ。入野、出しな」

「アイアイマム」

 

五十嵐は脚付きの後部ハッチから半身を乗り出し、車体と共に加速する風を楽しみながら受けた。

この面子となら、何をするにも楽しくて仕方がない。

まるで子供の様な笑みを浮かべて、五十嵐はふと思った。

 

「艦娘、雇うってのも面白いかもね」

「んあ~? 船長、何や言うた?」

「なんもないよ」

 

海を自由自在に走り、深海棲艦と真っ向から立ち向かえる存在。海を仕事場とする五十嵐達にしてみれば、喉から手が出る程の逸材だ。

五十嵐の場合は、ただ単純に面白がって雇おうとしているだけだが、一人でも居れば仕事は更に面白くなるだろうと考えている。

 

ーー酒が呑めれば、更に面白いだろうねーー

 

もし、この町にあの柱をへし折って振り回した奴がまだ居て、そいつが艦娘なら雇ってみるか。

深海棲艦ならさっさとトンズラだが、話が解って酒が呑めて細かい事を気にしない艦娘が居れば雇う。

仮に人間だとしても雇う。

海沿いを走る脚付きの上で風を受けながら、五十嵐はまだ見ぬ出会いに胸を踊らせた。

 

「船長、先行してた奴等から、子供が居たって報告があった!」

「子供? 何だって、子供がこんな所に居るんだい」

「どないします?」

「連中と合流するよ」

 

そして、この先に待ち受ける出会いが、五十嵐達を奇妙な運命と世界の命運的な何かを賭けた大騒ぎに巻き込んでいくのは、また別のお話。

 




次回

「あ?」
「あア?」

目と目が合う瞬間、いきなり始まるメンチ切り

「あんた、艦娘かい?」
「いたら、どういたがな?」
「あんた、ウチで働かないか?」

五十嵐船長、運命の出会い。

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