只今、五十嵐さん家の船名と団体名を決めようアンケートを、活動報告にて実施中です。
「んが・・・ 朝か」
朝陽が差し込む居間で、眠りっぱなしの北上が目を覚ました。体を起こしバリバリと頭からフケを掻き出し、ゴキゴキと派手な音を首から鳴らす。
体に痛みは僅かに有るが、思ったより影響は無さそうだ。
北上は欠伸を一つして、枕元に畳まれ置かれていた上着から、煙草を取り出し火を着けた。
「お~、
行儀悪く紫煙を吐き出し、周囲を確認する。
見覚えの無い天井に居間、状況はよく解らない。
近くの卓袱台にあった灰皿に、短くなった煙草を押し付ける。
「んあ?」
腹の虫が鳴る。腹が減った。周囲を見渡す。
何も無い。
思い出せば、あの白女との戦いで殆んどの物資が吹き飛んだ。
ーーあの白女が、次は容赦せんーー
そう決めるが、今は空腹を満たす方が大事だ。
北上は布団から出て、食料を探し始める。
「アシのズボンは何処行ったがな?」
肌着にパンツ一枚という、何とも言い難い格好。背中が痒いのか、台所にあった鍋の蓋を開けながら乱暴に掻いている。
暫く台所を捜索するも、何も無いと分かり二本目の煙草に火を着けた。
「大和、カズ、ジロ、サブ」
連れ合いの四人の名を呼ぶが、返事は無い。
さて、どうするか。
先ずは、ズボンだ。
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「〝脚付き〟の準備はいいか?」
「ああ、船長。出せて三台だな、こりゃ」
「・・・あれかい?」
「ああ、〝あれ〟。この間の〝夜明けの水平線〟だかなんだかのせい」
貨物船の格納庫の中、五十嵐と機関長の前には、正方形を前後に段差を付けて、二つ組み合わせた下に蟹の脚を六本取り付けた鉄塊が鎮座していた。
「あの、テロリスト共が・・・! 追い返すだけじゃなくて、叩き潰しておくべきだったか」
〝多脚型戦闘装甲車輌〟通称〝脚付き〟
今現在の軍での主力の一つであり、艦娘以前から使われている兵器でもある。
簡単な換装であらゆる局面に対応する事が出来、専用の換装を行えば海上戦闘も可能となる。
「それやっちまったら、奴等と戦争でしょうよ。ただの運び屋風情にゃ、テロリスト相手はしんどいですぜ」
「まったく、面倒な話だよ」
五十嵐達が保有するものは型遅れの払い下げ品を独自に改修したものを使っていおり、五十嵐達では整備性と生存性を重視している。
「船長、ほんまに行くんです?」
「柳瀬、アタシの楽しみを邪魔する気かい?」
「いやいや、そんなつもりは無いですわ~。やけど、何でそんなに行きたいんで?」
柳瀬の問いに五十嵐は、懐から煙草を取り出すが、格納庫は禁煙だと思い出し、口の端にくわえるだけにした。
そして、紫煙を吐く代わりに顎を撫でながら、五十嵐は柳瀬の問いに答える。
「ん~、何て言えばいいのかねえ。何となく、行かなきゃいけない気がするのさ」
「ははぁ、左様で」
柳瀬も五十嵐に付き従って長い。彼女の勘はよく当たり、それで全滅を免れた事も一度や二度ではない。
船員は皆、彼女を信じており、彼女が行かなきゃいけない気がすると言うなら、黙って準備を進める。
「入野、アタシの〝シオマネキ〟出しときな!」
「いや、あの、船長?」
「なんだい?」
「〝シオマネキ〟、壊れてます」
「・・・予備があったろ、予備が」
「予備はまだ船長用に調整中ですよ」
なのでと、入野は続けて
「〝脚付き〟の指揮席で大人しくしててください」
入野の言われて義腕ではない右腕で、五十嵐は少しだけ雑に頭を掻いた。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
寂れた、傷だらけの町を一人の小さな影がコソコソと動いていた。
まだ午前中、隠密には向かない時間帯だが、その小さな影にはあまり意識はしていなさそうだ。
「なにか、ないかな?」
その小さな影は、民家や商店に入っては出てを繰り返していた。
後ろに結んだ髪を揺らし、入った民家を物色する。犯罪だが、もうこの民家には誰も帰って来ないという事は解っている。
『大和さん』
『もうすぐ、お昼です』
『一度、帰るです』
「うん」
反応から察するに、あまり収穫は無かった様だ。
もう既に、全部持ち去られた後なのかもしれない。
「皆、なにかあった?」
『いやはや』
『こっちは』
『缶詰一個です』
大和はやって来た自分より小さな三人を背負ったリュックに乗せて、民家を後にする。
あの白い女に追われてから、三日目。ホームセンターから持ち出した食料は底を尽き、今は隠れている民家の近所から探し出した缶詰等の保存食で食い繋いでいる。
一度ホームセンターに戻ろうと思いはしたが、北上と一緒に滅茶苦茶に逃げ回った為に、今自分達が何処に居て、ホームセンターが何処に在るのかが分からなくなっていた。
「母さん、大丈夫かな」
大和が母と呼ぶ北上は、あの戦いから三日間目を覚まさない。息もしているし、口に何かを持っていったら食べるから生きている。
『大和さん』
『北上さんなら』
『きっと大丈夫です』
リュックから顔を出した三人が、肩を落として歩く大和を励ます。
しかし、一抹の不安もあるのは事実だ。自分達の中で戦えるのは北上だけ、今の状況でまた襲われたら一堪りもない。
「うん、そうだよね。じゃあ、早く帰ろう」
リュックを背負い直し、前を向いて歩き出した大和に、三人は胸を撫で下ろして、辺りの警戒を続ける。
『あ、大和さん。そっちの道がいいです』
「こっち?」
『そっちです』
サブが指し示す道は、民家と民家の間にあり多少狭く入り組んでいるが、大和なら問題なく通れる道だ。
北上は敵の艦載機とも戦闘をしていた。なら、出来る限り空からこちらが見えない様に移動するべきだ。
そして、狭い裏路地を抜けて、広い通りに出ようかという時、ジロがカズに聞いてきた。
『カズ、カズ』
『なんです? ジロ』
『何か、変な音しなかったで・・・す?』
「もう、ジロちゃんやめてよ、え・・・?」
聞いてきたジロが固まり、大和が恐る恐るジロや他二人が見ている方向に振り向くと
「えぇ・・・?」
なんだか四角い、脚の生えた何かに乗った人間が、半身を乗り出し驚いた顔で固まっていた。
「逃げるよ皆!」
大和は即座に回れ右で裏路地へと戻っていった。
後ろから待って待ってと聞こえるが、今までの新聞やテレビのニュースでは、艦娘が人間に係わると録な事にならないと偏った学び方をした大和達は止まらない。
兎に角、今は逃げて北上と合流を目指し、大和は裏路地を縦横無尽に走った。
「よし、ズボンあったぞー!」