あ、アシ?北上やけど何か文句あるが?   作:ジト民逆脚屋

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いやね、違うんすよ。先月半ばに書きあがってたんすよ。でもね、投稿するの忘れてたんすよ。

土佐上様ルプスレクスとか思い付いたんすよ


四日目 接敵

北上達は走った。舗装の剥げた道路、倒壊した家屋とその路地裏を縦横無尽に走り、背後から迫る謎の気配から少しでも離れようと全力で走った。

しかし、背後の気配は離れる様子を見せず、付かず離れず一定の距離を保ち、北上達を追っていた。

 

しわい(しつこい)にゃあ! 何時まで追って来るがな?!」

「母さん! 何が来てるの?!」

「分からん! 分からんが、たいてえらそうな(物凄い)が来ゆうが!」

 

遅れだして脇に抱えた大和が北上に問うが、北上にも何が迫って来ているのか分からない。

分からないが、今の状況で追跡者に追い付かれるのはマズイ。

北上は煙突缶(艤装)を背負い、大和を脇に抱えながら全力で大地を蹴った。

 

「カズ!」

 

『敵影未だ見えず!』

 

煙突缶(艤装)の中央辺りに立つアンテナにも似た物見矢倉に登ったカズが、北上の全力疾走による揺れで振り落とされない様、柵を掴み双眼鏡を覗き報告する。

 

『右方敵影未だ見えず!』

『左方同じく!』

 

続いて、ジロとサブが左右を報告する。敵の影は未だ見えず、その気配だけが五人を追っている。

北上は迫る気配から逃れようと全力で走った。

 

ーーどうもならんにゃぁ、こらぁ!ーー

 

全力疾走を行ってはいるが、今の状況では充分な加速を得られない。右脇に荷物を背負った大和を抱え、左肩には得物の入れた鞄を提げ、金属の塊である煙突缶を背負っている。

幸い、煙突缶も大和も北上の予想よりは軽い。

だがそれでも、北上一人より重量がプラスされている事は確実で、その分の加速が失われているし、北上の体力も確実に失われている。

 

舗装が剥がれ不安定な道路、倒壊した家屋の隙間に路地裏と、人一人に荷物を抱えて縦横無尽に走り回り、背後からの圧力に削られ、北上の無尽蔵とも言える体力も確実に消耗していた。

 

「母さん!」

「あんま喋りな! 舌噛むぞ!」

「前! 道無いよ!」

 

大和がガクガクと揺られながら指差す先には、崩れ半ばから途絶えた橋とその瓦礫が浅い水路を塞いでいた。

北上は大和の声に急速な方向転換を行いながら、崩れ意味を成さなくなった橋を見た。

 

「何ぜこら?!」

 

その橋はまるで『巨大な何かが無理矢理押し通った』かの様に上流目掛けて中央のみが抉れ、左右に瓦礫が押し退けられていた。

一体何が通ったのか?

思わず思案し脚が緩んだ北上だったが、今はそれどころではないと、再び加速を始める。

 

ーーこらぁ、向こう岸に渡るは無理やにゃぁーー

 

水路沿いに走る北上は逃走ルートを脳内で組み上げ、下流へとひた走る。

狙いは海、追跡者が何者なのかは分からないが、一度海に出て、追跡を振り切ろうと北上は考えた。

しかし、その思案は突如降り注いだ轟音によって遮られた。

 

轟音、衝撃。北上達をその二つが打撃し、その衝撃で北上は体勢を崩した。

耳鳴りがする。息が荒い、心臓が早鐘の如く鼓動する。

舞い上げられた瓦礫と土砂が降り注ぎ、視界が塞がれる。

 

「ぐ、ぬ」

 

北上は立ち上がり頭を振る。自分の状況を確認、目眩有り怪我無し、手足は動く。自分に被害は無し。

 

「いたた」

 

『な』

『何が』

『あったです?』

 

大和達にも怪我は無い。拾った斧やナイフが幾つか鞄から飛び出して散乱しているが、すぐ手の届く範囲にある。

北上は即座に体勢を立て直し鎚鉈を構えた。

 

「大和、逃げえ」

「でも、母さんは?」

「ええから、早よう逃げえ!」

 

『北上さん』

『奴は』

『戦艦です!』

 

衝撃で未だ視界が定まらない北上の前に、四つの尾を持つ白い頭の先から足元まで白い女が居た。

 

あれはヤバイ

 

北上の本能が警鐘を鳴らす。この体になる前、記憶にある山での仕事中に熊に出会った時に似た焦燥感。

瓦礫を踏み締め、四つの尾の先にある歪な口が蒸気を吐きながら此方を威嚇している。

あの肌色だけでも人間からはかけ離れているのに、腰から化け物染みた尾を四つ生やしている。

 

北上の鎚鉈を握る手に力が籠る。

目の前の白女は北上を見て、嫌らしくニタリと笑った。

 

「アア、アア、良イワ。貴女本当ニ面白イワ」

「ああ? 何がな?」

「砲デモナク魚雷デモナク鉈、原始ノ闘争ノ匂イガスルワ」

「・・・? 人をいきなり原始人扱いたぁ、ええ度胸しちゅうやないか、このパンツ丸出し白女がぁ!」

 

北上は白女に踊り掛かった。北上の脳内にあるのは先手必勝一撃離脱、兎に角目の前のヤバイ格好のヤバイ女の首でも腹でもどこでもいいから、露出している箇所に鎚鉈で一撃を加えて逃げる。

 

妖精三人組が奴は戦艦とか言っていたが、北上にそんな事が分かる訳がない。

兎に角一撃入れて逃げる当て逃げ戦法を選んだ北上だが、その目論見は脆くも崩れ去る事となる。

 

「何ぜ、そら?」

「フフフ、本当ニ良イワネ。軽イ軽巡洋艦ノ一撃トハ思エナイワ」

「ぐだぐだ喧しいわ! このボケがぁ!」

 

北上が振るった鎚鉈の一撃は平然と白女の腕に阻まれた。

人や生物等、柔らかい物に当てたとは思えぬ硬く重い感触、第一、鉈という硬く鋭利な重量物が当たって、痛みも傷も無いのはおかしい。

北上は即座に空いた左拳を白女の顔面目掛けて叩き込む。

 

「かったいのぅ!」

「・・・ネェ、貴女?」

「あ?」

「私ガコンナ事ヲ今更言ウノハ何ダケド、初対面ノ女ニ鉈デ斬リ掛カッテ顔面ニ拳を入レルナンテ、何考エテイルノ?」

 

これ以上無い正論であった。

それに対し北上は、独自の理論で反撃に出た。

 

「知るかボケ、アシはおんしみたいな白うて(しろくて)尾っぽ四つも生やいちゅう女知らんがじゃ! つかよ、おんしゃ人かや?!」

「エェ・・・?」

 

これには白女、戦艦タ級もこれには参った。

この軽巡洋艦娘はあろうことか、自分を知らないと言うのだ。これでは、先程格好つけた自分が馬鹿みたいではないか。

いやしかし、自分も全ての艦娘を知っている訳ではない。第一、艦娘なんて連中はバーバリアンメンタルでウホウホ言っている様な連中だ。

もしかしたら、自分を知らない艦娘も居るかもしれないと、戦艦タ級は北上に問い掛けた。

 

「・・・ネェ、貴女。深海棲艦ッテ知ッテルカシラ?」

「知らん!!」

 

タ級は思わず自分の額を叩いた。




今回のハイライト
深海棲艦って知ってる?
知らん!!


次回

鉄筋コンクリート柱大回転!!

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