IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~ 作:龍使い
内容は過去のものとは変わりませんので、読んだことある人は申し訳ありません
談処之一「人数揃ったらとりあえず鍋で万事解決」
それは4時限目がおわり、食堂へ昼飯を食べに行く手前だった。
「鍋食いたい」
ことの発端は織斑一夏のこの一言だった。
「……いきなりナニ言い出すんだよ、お前は」
俺、真行寺修夜は幼馴染のいきなりの発言に、反射的にツッコミを入れた。
人をその身一つで
寮には
自炊するもよし、食堂を利用するもよし、寄宿生たちにはある程度の“食の自由”が約束されてる。
しかしほとんどの生徒は学食の便利さ、何より食のクォリティの高さに心を奪われ、自炊せずに食堂で済ませてしまうのが多い。
人によっては、キッチンをお湯を沸かす程度にしか使わずに卒業する、というのも珍しいことではないらしい。
「修夜、鍋が食べたいと思わないか!?」
いつもは呑気な一夏が、何故かこの日、この話題に限っては妙に熱くなっていた。
「そもそも、何故鍋なんだ……?」
とりあえず、理由を聞いて訊いてみる。
「鍋だからだ!!」
はい、訊くだけ無駄だった……。
第一、お前はそんなに鍋が好きだったか……?
「のほほんさんから
俺の机に肘をつきながら、猫背気味ににじり寄ってくる一夏。
いやお前、前々から知ってるだろ、そのネタ。……っていうか、何故に取調室風なんだよ。
「第一、お前こそこ中学時代に家事スキル底上げしてたんだろ。自分で作ったらどうなんだよ?」
一夏は自分の姉である織斑千冬と、幼い頃から二人で暮らしてきた。
一夏の両親は、コイツが物心つく前に所在不明となったため、年の離れた千冬さんが生活費を稼ぎ、一夏が家事を全面的に担当するという暮らしを長らく続けてきたのだ。
中学時代には、千冬さんの負担を減らすべくバイトに勤しみ、得意だった剣道も道場が引っ越しすと同時に放り投げている。
ゆえに、鍋どころか家庭料理一般は一通り作れるし、自活力に関してはそこらの生徒よりよっぽど強い。
「いや~、食堂利用することの方が多くってさ。それ以前に、鍋の材料をどこで手に入れればいいか知らないし……」
苦笑いを浮かべながら、頭をかく一夏。
そういえば一夏は、ここ一週間のあいだは先日の『クラス代表決定戦』のための特訓で、寮と校舎を行き来する生活が長かった。
そのせいで、学園の中心施設の周りぐらいしか見て回れていないのだろう。
……と思ったが、俺はある重要なことを思い出す。
「一夏、入学説明会と入寮説明会の内容、憶えてるか?」
なにそれ、と言わんばかりに目が点になっている一夏。
やっぱりか、コイツ……。
「一応言うとな、IS学園は“学園本体”意外にも、色々な都市機能が生徒や職員のために揃っているんだよ」
「え? それマジなの?」
それを聞いた一夏は、聞かされてもいないといった風に目を白黒させる。
IS学園は、本州から大規模橋(いわゆる鉄製の吊り橋)で繋がれた、
学園に立ち入るには、専用のバスか海上列車に乗る必要があり、乗るにも関係者であることを証明する必要がある。
さらに学園地区の正面ゲートでは、入念に関係者の出入りをチェックし、海上には常に監視船の眼が光っている。
余人の立ち入りを一切拒む、まさに『要塞都市』と言い得る厳重な管理体制が敷かれているのだ。
そんな閉鎖区域ではあるが、生徒600人あまりの健全な育成には、それを支える大人たちの努力も要求される。
その大人たちを支えるために、この学園には生活に必要な施設が導入されいる。
スーパーマーケットやコンビニはもちろん、衣料品店や雑貨店、書店に医療関連施設、果ては幼児保育施設やコンサートホールまである。
ただ、世間一般で言う『娯楽施設』というものは少なく、衣料品も流行とは無縁で質素なものがほとんどだ。
ゲームセンターや酒やタバコを扱う店、またいわゆる風俗店という代物は皆無と言っていい。
まぁ、学園という体系を中心とする以上、風紀の乱れみたいなのは極力避けたいのだろう。
一部の施設は生徒も利用できるが、その手の店は学生生活に必要なものに的を絞って品をそろえている。
ざっとこれらを一夏に説明してやると、当の一夏は「へえ~」を連発しながら頷くばかりだった。
なんでこいつは、昔から人の話を聞かないんだ……。
「二人とも、いったい何を話しているんだ?」
そこに黒髪ポニーテールの、凛々しい少女が近づいてきた。
「あぁ、箒か。――鍋食いたくないかっ!?」
俺と一夏の幼なじみ、篠乃之箒は一夏の力強い発言に目を丸くしてしまった。
何故そんな爽やかな笑みで勧誘してんだよ、おい。
「な……なべ…か……」
そして、一夏の勢いに負けて話題に乗せられる箒。
「気にするな箒、多分いつものノリだから」
すばやく牽制に入る俺。下手なことになる前に、先手は打っておかないとな……。
「……そういえば、ここしばらく食べていないな……」
ちょっと箒さん?
お願いだから、そこであっさり話題に乗らないで。いやマジで。
「だが、肝心の材料はどうするつもりだ。第一、鍋と器、それにコンロはどうする?」
箒に痛いところを突かれて、少ししかめっ面になる一夏。
ナイスだ、箒。ここで一夏の勢いを殺してしまえ…!
「あら、3人とも何をお話になっていらっしゃるんですか?」
そこに膝まで届きそうな長さの金髪をなびかせた、一人の美少女が近づいてきた。
「おつかれ、セシリア」
セシリア・オルコット、イギリスの代表候補生で俺たちの仲間。
つい先日までは、クラス代表の座を巡って……という名目で、IS勝負による互いの意地をかけたケンカをやりあった相手だ。
正直、勝負の前日まで心証は最悪だったが、いざ戦ってみると“色々と”凄いヤツだというのがよく分かった。
なので、お互いにケンカのことを水に流し、今じゃこうしてよく一緒にいる。
「セシリア、日本の鍋を食べてみたいと思わないか…!!」
おい一夏、いきなりセシリアを巻き込むな。向こうもいきなりのことで、きょとんとしちまってるじゃねえか。
「あの……、日本の方々は……あんな硬い金属を…お召し上がりに……?!」
ほらみろ、要らん誤解が生まれちまったじゃねぇか……。
少し青い顔をしながら、おそるおそる質問を返すセシリアに、俺はとりあえず正しい知識を教えにかかる。
「正確には『鍋料理』っていって、肉や野菜をざく切りにして一緒に煮込む日本の料理だ。
一つの鍋に入った具材を全員でつつき合うから、日本じゃ宴会料理として人気があるのさ」
それを聞いたセシリアは、自身の変な想像が的中せずにすんだせいか、ちょっとホッとしているようだった。
しかしまたすぐに、彼女の顔に怪訝な表情が浮かんでくる。
「……え、一つのお鍋を……ですか……?」
セシリアの声には、どこか釈然としていない気持ちが表れていた。
「え、そう言うもんだろ、鍋って?」
それが常識だ、と言わんばかりにセシリアの疑問を疑問符で返す一夏。
箒も、セシリアの言わんとするところが分かっていないようだった。
俺もすぐには分からなかったが、二人が顔を見合わせて驚いているのを見ている辺りで、はたと思いだしたことがあった。
外国、特に西洋には鍋文化が無い。
鍋を使った料理そのものはある。むしろ鍋を使った煮込み料理ならば、バリエーションは日本の比ではないだろう。
問題は“配膳の方法”である。
外国の料理は、大皿料理でも必ず料理人が切り分け、小皿に取り分けてから食べる。
たとえそれが鍋料理や煮込み料理であっても、必ず配膳する人がいてあらかじめ小皿に取り分けるのだ。
鍋そのものを器にするにしても、基本は旅館の料理御膳のように、一人前用の小さな鍋で個別に作るのが基本である。
ましてや、個人個人が鍋の中から直接料理を取ってそれを食すなど、食い意地の張った人間のマナー違反だ。
これが日本の家庭料理としての鍋料理と、外国人の感覚の隔たりとなっている。
まぁ、最近はその外国でも野菜をふんだんに食べられる料理法として、健康ブームに乗っかって流行っているらしいが……。
しかしセシリアを、この例とすり合わせるのは間違いだ。
セシリアはイギリスでも有名な『オルコット家』という名門の生まれ、つまり良いところの“お嬢様”である。
さらに名門に生まれた人間として、相応の誇りと気品を兼ね備えており、大衆文化に触れる機会自体も少なかったはずである。
そんなお嬢様育ちの人間が、日本の一民間料理の作法になじみが無くとも、不思議なことではない。
「……もしかして、セシリアって……」
「日本の鍋料理……、食べたこと……ないのか……?」
をゐまてこらてめえら。
さっき“鍋そのものをかじるのか”と聞いてきた段階で、どう考えても知らないだろ?!
お前らの脳みそは、普段どんな風に働いているんだよ!!
そしてなんで、今更ショック受けてるんだ、おいっ!!!
「い…いいえ、そんな……。そんな不作ほ…ではなく、豪快な食事作法があるとは……」
あれ、今ちょっと馬鹿にされた、不作法ってドン引きされた…?
なんか変に言い繕ってません、セシリアさん??
「なんて……ことだ……」
おい一夏、何がそんなにショックだったんだよ、いい加減に……。待て、今左手を握って開いたような……?
「ならば、今日鍋を食わずして、いつ鍋を食うというんだああぁぁっっ!!!」
をゐこらまて、ナニトチ狂ってんだスカタン。
ナニ人の机に足かけて力説してんだ、とっとと降りろ、三枚に下ろすぞ。
「修夜、これは日本人として、セシリアに鍋の何たるかを教えるべきだっ!!」
知らんがな、そんな使命感とか。お前が鍋食いたいだけだろ。
いまの数秒で、おそらく一夏はここぞと思って、鍋を食べるための大義名分を見出したらしい。
こんなときだけ、ホントにお前は判断が早いな。いい加減にしろよ。
「え~、なになに~、どうしたの~~?」
そんなカオス空間に、ただ一人プラチナイオンを振りまきながら、改造制服の長い袖を振りながら近づく女子が一人。
「のほほんさん、鍋食べたいと思わないかっ?!」
はい、本日4度目のご挨拶、いただきました。
「お鍋……?」
のほほんさんこと、布仏本音は俺の寮のルームメイトだ。
この何とも言えない、ぽけぽけとした性格とオーラから、一夏からは“のほほんさん”と呼ばれて……
あ…、しまった。そういえば重大なことを忘れていた?!
おい本音、お願いだからあのことは……
「お鍋なら、この前食べたよね~、しゅうやん~?」
…………のほほんさん?
ちょ……、いま、あなた…なに…。
何を勝手に、しかもあっさりと自供しちゃってんですかあぁっ?!
「なん……だと……!?」
いけない、一夏に付け入る隙を与えてしまった!?
「修夜、これはいったいどういうことだっ?!」
ほら来た、すぐ来た、余計なことになったああぁぁ……!
人の襟首を掴んで揺するな一夏、クラクラするだろっ!
「布仏、それっていつだ?」
おい、箒までナニ釣られて聞きだそうとしてんだよ。
「一昨日だったかなぁ~。たしか、鶏のつくね団子のお鍋だったよ~」
ストップだ、それ以上何も言ってくれるな、頼むのほほんさん!
頼むから、その天使の笑顔で俺を地獄に突き落とさないでくれっ!!
「あの……、それで……お味の方は……?」
待てセシリア、そいつを言った時点で、もう選択肢が、おれの「にげる」コマンドが消えてなくな……!
「すっっっごく、美味しかったんだよ~~っ!」
…………。
おい、待て。
一夏も箒も、何なんだその視線は……。
なんで一斉に振り向いて、俺を見ているんだっ?!
「なぁ、修夜~?」
「いったいどういうことか、説明してもらおうか……?」
オイオイ待て待て、そんなににじり寄るな、ちょっと二人とも怖いって!!
くっ……、ここは大人しく話しておこう。
「……師匠からの餞別で、野菜がどっさりと届いたんだよ」
それが丁度、三日前だった。
俺の師匠にして育ての親、夜都衣白夜は【武神】と呼ばれるほどの武の達人だ。
かつて
そんな超人的な師匠でも何故か家事は壊滅的なようで、師匠に拾われて以降は、家事全般を俺が自然と担当するようになった。
修行のときの師匠は、獄卒の鬼の如く容赦がない。
そのくせ、それ以外のときはやたらべたべたとひっついてくるわ、沿い寝や混浴を試みようとするわ、酒に酔うと「自分の婿になれ」と言い寄ってくるわで、何かと甘々に接してくるから困る。
親バカならぬ、師匠バカである。
特に中学生時代はもう、いろいろと苦労したものだ。いろいろと……。
挙げ句“真行寺後宮計画”なるものを練っているらしく、どうも俺をハーレムの雄ライオンにする気満々らしい。
もう、ホントに規格外で奔放すぎです、勘弁してください……。
その師匠から手紙付きで、白菜・ほうれん草・タマネギ・人参・大根・生姜・キャベツなどなど、段ボール3箱に及び大量の野菜が届いた。
手紙の師匠曰く、いつもの友人から大量に野菜をもらったため、余すのももったいないから処分しろとのこと。
だったら、いい加減に料理ぐらい覚えてください……。
「それで、暖かくなって野菜も“足が早くなってきている”から、その前に食っちまおうと思ってさ。
学校帰りに材料買い足して、その日は鍋にしたんだよ……」
いくら食べ盛りとはいえ、五人ぐらいの家族でも一週間は食い繋げるであろう量の野菜だ。オマケに近頃は気温も上がってきたため、さすがに食いきれないと考え、半分以上は寮の食堂に何かと言い繕って寄付し、残った分を消化中である。
「……野菜って、足が生えてくるものなのか……?」
ぅおいっ!!
さすがにこれを聞いて、俺ばかりでなく箒までズッコケそうになった。
コイツの国語の点数はいったい何点だ、無知なのはISだけにしてくれっ!?
「おりむー、“足が早い”ってくのは~、食べ物が早く腐っちゃう事って意味だよ~……?」
のほほんさんが……、ツッコミを入れた……だとっ……?!
ある意味、とんでもない珍現象を垣間見たかもしれない。
そのくせ、一夏はまたしても「へえ~」と言いながら頷いて終わった。
……お前は一昔前に流行った、教養バラエティ番組の採点ボタンか。
「何にせよ、三日前に布仏さんがお前と鍋を食べている以上、鍋が出来る準備はあったという訳だな……?」
あの、箒さん、何でそんなに怖い顔で笑っていらっしゃるんです?
「そうだよな、何にせよ、これで『みんなで鍋を食べられる』条件が揃ったんだし……」
ちょっと、一夏まで……って、そもそもお前が元凶だろ、少しは責任を取れ!!
いや、それを言うなら本音の余計なひと言が後押しになった訳だから、せめて味方に引きずり……
「修夜さんって、料理がそんなにお上手なんですか?」
「うん! お味噌汁も~、玉子焼も~、お漬物も~、とっても上手なんだよ~~」
もしもしそこのお二人さん、何を別の話題で盛り上がっているんですか?
「修夜っ!!」
「俺たちと一緒に、鍋を食おうぜ!!」
あぁ、もう暑苦しい!
そんなににじり寄って来ても、鍋は出ないぞ?!
「修夜さんのお鍋って、やっぱり美味しかったんですか?」
「うん、特に鶏のつくねは絶品だったよ~」
まずい…まずい、まずいっ!
セシリアと本音まで鍋を食う気満々じゃねぇか?!
どうする、どうする真行寺修夜……!?
今の状態だと、鍋の準備をはじめ、もろもろ全部が俺の負担で終わる……!
あるはずだ、何か……。
この状況を覆し得る、最後の一手…!
逆転のための『布石』がっ…!!
「修夜…!」
「さぁっ!!」
――何か
「あんなにたくさんのお野菜が来たときは、ホントびっくりしちゃったよ~」
「置き場所とか、大変じゃありませんでした……?」
――!!!
コイツだっっ!!!
「……ちょっと待て、二人とも」
望みは薄い、だが今はコイツに賭けるしかないっ!
「何だよ修夜、この期に及んでまだ逃げる気か…!?」
「男が逃げに徹するなど、恥知らずもいいところだろ!?」
いや、わがまま言っているのはそっちだからな?
犯人を追い詰めたみたいに、自分たちに正義があるように言ってんじゃないよ……!
だが、それもこの
「この人数で、どこで鍋会なんてやるっていうんだよ……」
その一言に、一夏と箒が思わず固まった。
寮の部屋は決して広くはない。
二人で小さめのテーブルを囲んで食事をするには、まだ余裕がある。
しかしさすがに五人で、しかも鍋を囲んで食事をするには狭い。
そもそも、そうやって食事をおこなえるテーブルは最初から備わっていない。
「……しょ、食堂の一角借り切るとかっ!?」
一夏が負けじと食い下がってくる。
「笑い物になりに行くようなもんだろ。第一、食堂にケンカ売りに行くつもりか……?」
俺の一言に悔しそうな表情を浮かべ、たじろぐ一夏。
箒もそんな一夏を見て、ヤキモキした顔をしている。
さぁどうする、二人とも。
これ以上ないって言うんだったら、俺はこのままこの話題を打ち切らせてもら――
「それでしたら、わたくしの部屋でどうです?」
……………………ぇ?
「わたくしの部屋でしたら、皆さんをおもてなしするくらいの広さは充分ありますし、テーブルも大きいので大丈夫です。
なにより、こうしてせっかく仲良くなれたんですもの。ささやかなパーティーぐらいは、節度を持てば許されるはずですわ」
とても、とても爽やかな笑顔だった。
セシリアの住む14階以上の階層は、富裕層からの出身者向けに設計されたいわゆる“VIP仕様”である。
よって俺たちの住む、“ちょっと余裕がある”程度の相部屋とは、比較にならない広さなのは容易に想像が付いた。
不覚。
死角。
思わぬ伏兵。
「ホントか、セシリア。やったぜ、前々から上の部屋がどんな感じなのか、気になってたんだよなぁ~っ!!」
「い……、いいのか、私たちのような……勝手の分からない人間が……そんな上等なところに上がって……?」
はしゃぐ一夏に、戸惑う箒、そしてのほほん…………あれ?
「そうかぁ~、今日は上にお呼ばれなのか~……」
……のほほんさん、なんか変に落ち付いてません?
……ってか、ちょっと落ち着きがない感じが……。気のせいか?
何にせよ、決まったことがある。
「修夜~、セシリアから許可も出たんだし……」
「うむ、今夜は親睦会の意味も込め……」
「みんなで鍋パーティーだよ~~!」
「すみません、わたくしまでご一緒させて頂く運びになりまして…」
今日、俺はここにいる一同のため……否、一夏のワガママに付き合わされたがために、鍋を振るまうことが決したのだった。
――……ッッッ、ナンて日だっっ!!!!
――――
――夕刻。
俺は段ボール箱に鍋の材料と道具一式を携え、セシリアの待つ最上階へと向かった。
いつもの三人も、自室から意気揚々とエレベーターホールに向かい、一緒に乗り込む。
ただ、VIP階層が初体験で浮足立つ俺と1026号室の二人とは対照的に、本音はなぜか変に落ち着かない雰囲気だった。
なにかVIP階層に気まずい思い出でもあるのだろうか?
あらかじめ、寮長である千冬さんや管理室の職員さんには話を通し、承諾を得た。
ただ千冬さんの、寮の内線越しにでも分かる不機嫌な態度には、ちょっと釈然としていない。
いったいどんな世界が広がっているのか、和気あいあいと想像をふくらます隣室組の話題を切るように、エレベーターは最上階に辿り着き、目の前の扉が開け放たれたのだった。
最初に目についたのは、いわゆるオートロック付きマンションの入り口を想起させる自動ドアだった。
しかもご丁寧なことに、入り口には警備員が彫像の如く立っているうえに、近くには小さな警備室まで完備されている。
恐るおそるエレベーターを降りてみて、俺たちは“恐るべき片鱗”を垣間見ることとなった。
ガラス越しに見えたのは、赤絨毯の廊下に、オレンジの淡い光を放つクリスタルガラスの照明、廊下の壁や柱は大理石調。よくよく見れば、エレベータと自動ドアのあいだは渡り廊下となっており、14階までを見下ろせる吹き抜けが空き、その14階には屋内用の小型の噴水と観葉植物が見えた。そして渡り廊下から見える向かいの壁には、天馬で空を翔る戦乙女を描いた精巧なモザイクアートが飾られている。
全員が硬直し、呆気にとられ、思った。
「「俺の(私の)知っている寮と違う……」」
自分が鍋セットの入った段ボール箱を抱えていることに、盛大な場違い感が漂っているようで、気まずくなってきた……。
そんな中、俺たちと違って真っ先に動き出したのが、――まさかの本音だった。
「お……おい、本音……!?」
思わず声をかけるが、本音は至ってマイペースに歩き続ける。
「すみませ~ん、代表候補生のセシリア・オルコットさんとお会いする約束をしているのですが~……?」
そしていきなり警備員に声をかけ、自分たちの目的を伝え始めたのだ。
いつもののんびりした口調ことは違う、少しはきはきとした物言いだった。
「すみませんが、氏名と学生書をお願いできますか?」
本音の発言に、やんわりとした態度で応じる警備員。
それに対し、本音は慣れた感じで素直に学生証を提示して名前を名乗る。いつの間に用意していたのだろうか……。
警備員も本音の学生証を受け取り、腰のホルスターに下げた機械を取り出して学生証のバーコードを読み取ると、学生証を本音に返して俺たちに学生証の提示を求めてきた。
両手の塞がった俺はその場で鍋セットを下ろし、胸の内ポケットから学生証を出す。
一夏はズボンのポケットから、箒はブレザーの前ポケットから、それぞれ取り出した。
すると警備員は手に持った機械でバーコードを次々と読み取り、さらに機械の画面で何かを照合しはじめる。
そして機械を引っ込めると、納得したのか小さく頷いた。
「済みませんが、その箱の中のお荷物の方、拝見させていただいてよろしいでしょうか?」
今度は荷物チェック、空港の関税張りに厳重だな。
あまり気分は良くないが、催促されるまま、俺はその場に段ボール箱を開ける。
中身の是非を問うこともなく、黙々と指差ししながらチェックを済ませていく警備員。所帯じみた荷物で、マジすいません……。
確認し終わると、小さく「良し」と言って再び頷いた。
「お手数をおかけしました。セシリア・オルコット代表候補生から、事情を伺っております。
どうぞ、中へとお進みください」
そういって、自動ドアの前のパネルで暗証番号らしきものを打ち込むと、ドアが開き、手を掲げて進むように促すのだった。
そのしぐさに従い、俺たちも自動ドアをくぐる。
「すごいよな~…、さすがVIPって感じだぜ~……!」
「なんというか……、世界が違うと言おうか……」
一夏も箒も、落ち着きなく周りを見渡しながら歩を進める。
俺も内心圧倒されながら、セシリアの居る16001号室へと向かった。
それにして、さっきの本音の手際の良さ……。
コイツは、一体何を知っているというのだろうか――?
――――
廊下の突き当たりまで辿り着くと、セシリアの居る16001号室へとたどり着いた。
ドアは高級感あふれる木彫、しかも俺たちの部屋のものよりも一回り以上も大きい。そのドアノブも、触りがたいほどに輝かしい金色の輝きを放ち、ノブのグリップにはさり気なく彫りものが施されていた。
壁にはカメラ付きのインターホンが設置され、なんというか、もう高級マンションに訪れたような感じだった。
意を決したかのように、一夏がインターホンを押す。
すると鐘を鳴らしかのような上品な電子音が響き、しばらくしてマイクが繋がったようなノイズが俺たちの耳に入った。
『ようこそいらっしゃいませ、みなさん。少々お待ちになっていただけますか?』
マイク越しのセシリアの声が聞こえたかと思うと、トタトタと小走りする音がドアの前まで近づいてくる。
そして外開きのドアが静かに開くと、セシリアがそこから顔を覗かせた。
「改めまして、ようこそわたくしのお部屋へ。さぁ、みなさん遠慮なさらずに、中にお入りくださいまし」
笑顔でそう答えるセシリアだったが、すでに俺たちは玄関のインパクトにやられていた。
――広い。
下駄箱は木製の重厚感あふれる、とてもいいお値段をすると分かる調度品。
来賓用スリッパは真っ白な毛皮で覆われた、いかにも履き心地の良さそうな雰囲気。
そのスリッパの乗るカーペットは、どう見たってペルシャ絨毯のような体裁の代物。
おまけに胡蝶蘭の植木鉢まである。蘭の花は非常に世話がかかると、師匠から聞いたことがあったし、実際イイお値段をする。
そして下駄箱の上の壁には、小さいが立派な絵画が飾られていた。
俺たちの相部屋の玄関では、どれか一つが置かれた時点で邪魔にしかならない代物である。
「……あの……、どうぞ、お上がりになって下さい……」
呆然とする俺たちは、心配して声をかけたセシリアに正気を取り戻し、おずおずと中へと進んでいった。
すると、そこにはテレビ画面か電器街の一角でしか見かけたことのないような格好の女性が佇んでいた。
「ようこそ皆さま、お嬢様のお部屋へ」
そう言って俺たちへ慇懃にお辞儀をしたのは、――メイドさんだった。
「こちらは、わたくしの幼馴染で専属メイドをしてくださっている、チェルシー・ブランケットさんですわ」
「はじめまして、皆さま。わたくし、セシリアお嬢様のお世話をさせて頂いています、メイドのチェルシー・ブランケットです。
今日は皆さまが楽しいひとときをお過ごしいただけるよう、お力添えをさせていただきたいと思っております」
丁寧に挨拶したメイドさん――チェルシーさんはそう言うと、もう一度深くお辞儀をするのだった。
明るい栗色のショートヘア、目はハシバミ色、メイド服は袖が黒く中が白いツートーンカラーの半袖で、その上にある赤い小さなネクタイが目を引く。頭のヘッドドレスは小振りで、丈の長いスカートの腰には太いベルトが三重に巻き付けられている。背丈はセシリアより頭半分ほど高いように見え、顔付も端正、どこなく師匠と同じような“大人の女”としての雰囲気も持ち合わせていた。
「……ほ、本物のメイドさんだ……!」
一夏がやや興奮気味に、チェルシーさんに見入っていた。それを箒が不機嫌そうに睨んでいる。
「こちらが、真行寺修夜さん。今日は彼が“お鍋”というものをごちそうしてくださるそうなんです」
聞くや否や、チェルシーさんは俺の方へとずいと近寄り、じっと見つめてきた。
「そうですか……、この方がお嬢様を……」
そう呟いたかと思うと、チェルシーさんは姿勢を正し、真剣な顔を笑顔に戻す。
「先日は、お嬢様が何かとお世話になりました。ご無礼もあったかとは思われまずが、なにとぞご容赦のほどをお願いいたします」
謝辞とともに、頭を軽く下げるチェルシーさん。
「あ…、いえ、こちらこそ、いろいろと…良い経験をさせて……いただきました……?」
その笑顔に何故か気押されてしまい、語気が弱まってしまった。やっぱり、どことなく師匠と雰囲気が似ている……。
「そして、こちらが織斑一夏さん。そちらが篠乃之箒さんと、布仏本音さんですわ」
続けてセシリアが、後の三人の紹介をした。
それに対して三人も軽い挨拶と会釈をし、チェルシーさんもそれに笑顔で応じる。
「さぁさぁ、こんなところで立ち話も何でしょうし、どうぞお上がりになって下さいませ」
そう言われ、寮内用の上履きをスリッパに履き替え、奥へと進む俺たち。そのスリッパも、見た目を裏切らないフカフカとした素晴らしい履き心地で、本当にこんなものを履かせてもらって良いのだろうかと、申し訳なってくる。
割と庶民精神が染み込んでいるな、俺……。
変な感慨に耽りそうになりつつ、チェルシーさんが目の前にある内開きのドアを解放し、俺たちを中へと導く。
開かれたドアから中へと進むと、俺たちはまたしても目を丸くすることになった。
広い――。
ざっと見積もっても、俺たちのすごしている相部屋が丸々二つ分、上品な家具と調度品で埋め尽くされていた。
半分はキッチンスペース、もう半分はリビングスペース。
キッチンは最新式と思しきシステムキッチン。テーブルには清潔な白がまぶしいテーブルクロスが敷かれ、付属の椅子も黒光りする木製の背もたれ付き、しかもそれが前後左右合わせて8脚も並んでいた。食器棚にも、どれもが一目で一級品と分かる優雅なデザインのもので埋め尽くされていた。
そしてリビングスペースには大型テレビに、光沢のあるロイヤルブルーの高級そうな生地のソファー、敷かれたカーペットはやはりペルシャ絨毯と思しき高級品、壁には年季の入った柱時計が立てかけられ、ガラスサッシの奥には広々としたベランダが見えた。右手の壁にはドアが2つあり、おそらくはセシリアとチェルシーさんの私室であろう……。
なにより、部屋の隅と言う隅まで完璧に掃除が行き届いていた。
俺を含めて四人、全員呆然と立ち付くばかりだった。
「さぁ、みなさん。あちらのソファーでお寛ぎになって下さいな」
セシリアに導かれ、落ち着かない様子で歩き出す俺たち。
「あっ、真行寺様はお荷物の方をこちらに……」
チェルシーさんが、俺の段ボール箱を持とうと手を差し出してくる。
「いや、いいですよ。場所さえ指定してもらえれば、そこに置きますし。
それに、呼び方も“修夜”で構いませんから。変に他人行事なのもアレですし、様付けされるほどの人間でもないですから」
「いえいえ、せっかくのお嬢様のおも……お客様なのですから、お気持ちだけ頂戴しておきます」
……今、『おも』って言ってなかったか?
『おも』ってなんなんだよ……?
そんな疑問を持つや否や、セシリアが猛スピードでチェルシーさんを流しに引っ張っていき、何かの密談をはじめ出した。
なにやらもめているらしく、仕方ないので自分でキッチンに運ぶことにした。
「あ…、申し訳ございません。お見苦しいところをお見せしてしまいまして……」
「み……見苦しいも何も、チェルシーさんが……、よ…余計なことを……!」
余計なこと……?
余計って、さっきの『おも』か?
一体全体何を言い合っていたんだ、この二人は……???
「いいですよ、全然。それより、こっちは鍋の仕込みに入りたいんで、ここ使わせてもらって構いませんか?」
何をしようにも、まずは部屋の主に許可をもらわなくては。
「えぇ、どうぞご自由にお使いになって下さい。何でしたら、お道具などもこちらのものを使って頂いても構いませんが……」
何事もなかったように、返答するチェルシーさん。やはりこの人、師匠を同じニオイがする……。
「構いませんよ、使い慣れた道具の方がやりやすいので。……あ、まな板と布巾とバットは貸して頂けます?」
「わかりました、少々お待ち下さい」
そういうとチェルシーさんは、流しの下からバットを数枚、流しの横から立て懸けてあるまな板を、俺から右手にあるコンロの横の戸棚から布巾を何枚か出してきてくれた。
「ありがとうございます、チェルシーさん……で、良いですよね……?」
「はい、お好きに呼んで頂いて構いませんよ」
思わず気軽に名前を呼んでしまったが、チェルシーさんは俺の無礼も気にせず笑って受け答えしてくれた。
ホント、いくつなんだろうなこの人……。見た目からして、セシリアとは大差ない感じもするけど……?
まぁ、疑問は尽きないが、今は自分の仕事に取り掛かるとしますか。
一旦その場を離れ、上着を脱いでエアリオルのグローブを外す。グローブは念のために、上着の内ポケットに折り畳んで仕舞っておいた。
そして上着を一旦、椅子の背もたれに掛け、ブラウスの袖を腕いっぱいまで捲りあげる。
「あの……、上着の方は、あちらのハンガーに掛けておきますね……?」
腕をまくりあげ終えると、そばで様子を見ていたセシリアが俺の上着を持っていた。
「あ、悪ぃな……」
「あらあらお嬢様、そのぐらいのことはわたくしめが……」
「いいえ、この部屋の主として、お料理をふるまって頂く修夜さんのお役に、微力ながらでも立てれば、と……」
そういってほほ笑むセシリアを見て、チェルシーさんは少し困ったような笑顔を浮かべながらも、それ以上追及はしなかった。
セシリアがリビング側のコート掛けに向かうのを見送り、俺は改めて調理台に向き合う。
「さてと……、んじゃ、調理開始と行きますか…!」
――――
野菜を切り終え、鶏のつくねの準備にかかる俺。
ちなみに今日の野菜は、白菜、人参、ほうれん草、タマネギ、シメジ茸の五つ。
白菜は縦2cm・横4cm程度に切りそろえ、人参とほうれん草は軽く下茹で、タマネギは5mm幅に輪切りに、シメジ茸は適度にちぎってばらしておいた。なお人参は短冊切りにしてある。
長ネギや春菊、シイタケなどの定番の具材もアリだが、鍋初心者のセシリアにクセの強い野菜はまずいを考え、候補からは外した。
俺は段ボール箱からすり鉢とすりこぎを取り出し、濡れ布巾で軽く拭いてその上に据え、鶏の胸肉のミンチをすり鉢に投入する。
続いて卵、すりおろした山芋、おろした生姜、醤油、日本酒、みりんを少量加える。
さて、ここからが一仕事だ……。
投入したものを、満遍なく混ざり合うまですり鉢ですり続ける。
普段から鍛えている身だが、コイツをやる時の筋肉はどうやら別ものらしく、結構骨が折れる。
「すみませんチェルシーさん、少し小さめのボールお願いできますか?」
俺の横で、調理の過程を興味深々で見ていたチェルシーさんに、ある工夫のためにボール出してもらえないか頼む。
すると彼女は、はいはいと小気味のいい返事の後、シンク下の収納から
「それにしましても、珍しいお道具ですねぇ~……」
どうやらチェルシーさんは、調理の過程以上にすり鉢とすりこぎに興味があるらしい。
「日本に昔からある調理器具ですよ。最近じゃ、フードプロセッサーの普及で、とんと見なくなりましたけど……」
正直にいえば、そっちの方が楽である。
だがフードプロセッサーだと、今みたいに大容量の材料を混ぜるのには向いていないし、そもそも“風情”がない。
……風情とか言っている時点で、俺もだいぶ師匠に感化されているよな……。
そうこう考えながらだいぶ馴染んできたところで、すり鉢の中身を半分ボールに移し替える。
そして残した半分に、刻んだ“鶏の軟骨”を投入し、さらにすり鉢で混ぜ合わせる。
軟骨が砕け、小さくなったところで最後に万能ネギを刻み、軽く混ぜ合わせていく。
こうして、二種の団子の準備が整った。
次に追加で買ってきた
続いて蒸しかまぼこを3mmほどに切りそろえ、コイツは匂いが薄いので野菜のバットの隅にセット。
これらが終了し、つくね作りの前後で昆布出汁を取った土鍋の湯に、手抜きで申し訳ないがインスタントのカツオ出汁を加える。
あとは生姜のスライスを1枚、動物性たんぱくの臭み消しに入れておく。
さぁ、本格的な具材の投入だ。
まず野菜を投入し、蓋をしてひと煮立ち。
しばらくして、ある程度に野菜が煮えてきたら、パックから取り出した豆腐と“結びしらたき”を投入する。
ちなみに豆腐は舌触りのいい“絹ごし豆腐”。木綿もアリだが、やはりここはセシリアのことを考え、敢えて絹にした。
結びしらたきは、数本のしらたきを束ねて結んだもので、これが結構クセになる食感なのだ。
豆腐としらたきの投入で、温度の下がった鍋が再び熱を取り戻すのを見計らい、今度はつくねと鱈を投入。
つくねは食感が落ちることを避ける意味で、しらたきから離して入れる。
そして、つくねに火が通るの待って再び蓋を閉じる。
さぁて、良い方に転がってくれよ……?
――――
鍋の完成を聞いた4人は、それまでセシリアの提案で暇つぶしにプレイしていたポーカーを中断し、待ちかねていたように足取り軽くキッチンスペースへと向かった。
上下の椅子を抜いた6脚の椅子で、机を挟むように並ぶ6人。
リビング側に上から箒、一夏、修夜、キッチン側に上から本音、セシリア、チェルシーの順に並んだ。
幸いにも、卓上コンロの方をチェルシーがあらかじめ用意しておいてくれたため、修夜の荷物がかさばらずに済んだ。
そのコンロは丁度、一夏とセシリアを挟んだ位置に鎮座し、五徳の上に煮える土鍋を載せている。
白い肌と釉薬による光沢が眩しい、修夜に愛顧されて久しい土鍋。
蓋こそ照明を反射して美しく輝いているが、鍋本体は使い込まれた証に、茶色く焦げた跡を鍋底にいくつも付いている。
誰もが、その宝石箱の開く瞬間を、今や遅しと待ち構えていた。
「なぁ、修夜、早く食べようぜ~…!!」
待ちきれないのか、一夏はすでに端と取り皿を手に構えてそわそわしている。
「その前に……、ちょっと今日の『鍋のルール』について説明しておきたい」
鍋のルールという、聞き慣れない単語に、一同は思わず修夜の方に注目した。
「おい、修夜……、まさか鍋奉行でも始めるつもりなのか……?」
「似て非なるものだな、一夏」
不安そうな様子で、一夏は修夜に疑問をぶつける。
「……というか、これは鍋初心者であるセシリアに、出来るだけ鍋を楽しんでもらうためのものだ」
少し勿体ぶった言い方をしたあと、修夜は説明に入るため、鍋の中身が煮えすぎないよう、コンロの火をトロ火に落とす。
それから、自分の脇に置いてある箸と玉杓子を箒に、トングと同じく玉杓子をチェルシーに渡した。
「とりあえず、今回は俺と一夏、箒と本音、セシリアとチェルシーさんってかたちでペアを組む。
そして、いま道具を渡した方“だけ”で、鍋の中身を道具を使って掬っていいことにする……!!」
「な……、なにぃぃいっ?!」
少し動揺する一同の中で、これに異議ありと大きく声を上げたのは、他ならぬ一夏であった。
「ちょっと待てよ、セシリアはまだ分かるとして、何で俺と箒とのほほんさんまで巻き添え……」
「お前がいるからだ、一夏」
言われてきょとんとする一夏と、注視する対象を修夜から一夏に移す一同。
「俺の経験上、お前が鍋を仕切っているときは『名奉行』として、みんなに気配りが出来ているのは見て知っている。
だ が し か し 、俺が鍋を主催した際にお前が無遠慮にがっつく確率――99.98%!!」
痛いところを突かれ、一夏は思わず苦い顔を浮かべて押し黙った。
織斑一夏という少年は、周囲と和をもつことを一番に考える温和な人間である。
しかしそんな少年も、やはり年頃の食べ盛りであり、目の前のごちそうにはブレーキが利かないことも多い。
ことそれが、修夜の主催する鍋の席となると、一夏はその味を知るが故に、我先にと箸を伸ばすことが度々あったのだ。
もっともこれは、一夏のみならず箒と一夏の姉である千冬にも言えたことで、特に織斑姉弟の鍋競争は、白夜からの叱責プラスアルファもセットで、修夜の鍋には昔からの名物だった。
「よって、お前が無遠慮に鍋の中を荒らし回るのを防ぐために、ついでに
修夜はそう言いきると、少し眉を寄せて一同を牽制しにかかる。
「そ……、それならっ、お前が布仏の世話をしてやればいいではないのか…!?」
それに屈するかと、箒が修夜に食い下がった。
「お前が一夏に、鍋の具を『貢ぐ』のが、“容易に”想像できたからな」
これに対して、修夜は容赦なく箒の意の急所に言葉の矢を射かけ、反論の勢いを失墜させた。
急所を射られた箒は、自分の思惑が見透かされていたことに、思わず苦い顔で沈黙するほかなかった。
「……とまぁ、色々とややこしいことは言ったが、今日の鍋はこんな感じで楽しんでほしい」
ほかからの異議はないと感じ取ると、修夜は鍋が煮えすぎる前にと、状況を進行させる。
「では長らくお待たせしました……、いざ、ご開帳~!!」
そういうと修夜は、濡れ布巾で蓋を掴んで一気に取り去り、その中身を観衆の前にさらした。
勢い良く昇り立つ湯気の後、現れ出でたのは――――食欲中枢を直撃する、目にも鮮やかな宝石箱だった。
白菜とほうれん草が織り成す鮮やかな緑、ニンジンの
豆腐は煮える出しに押されて小気味よく身体を揺らし、鶏のつくねや結びしらたきもそれに釣られたいるかのように踊っている。
「まぁ……、なんて……」
セシリアがなにを言おうとしかけるも、そこで言葉を止めて感動のため息をついた。
セシリアばかりでなく、そこに居合わせた者たちが、揃って鍋の全容に心を奪われ、魅入られていた。
「これぞ本日の鍋、“鶏のつくねの水炊き・豪快具だくさん仕立て”だ……!」
修夜も、見た目からの鍋の出来にまずは得心し、さっそく中身をよそっていく。
全員に鍋の具が行き届くと、修夜も一旦席に付いた。
「それじゃあ、まぁここは日本式に乗っ取って……」
それを聞いて、日本人側は一斉に胸の前で合掌し、姿勢を正す。
方や英国淑女たちはというと、突然のことに戸惑い、顔を見合わせる。
「セシリアとチェルシーさんは、とりあえず教会での礼拝のときみたいに手を組み感じで……」
修夜に促され、ふたりはとりあえず胸の前で手を組み合わせ、半眼で待ってみた。
「いただきます」
修夜がそう言葉を発すると、一同も倣って同じ言葉を口にする。
少し呆気にとられる英国淑女二人だが、とりあえずこれが日本の作法なのだと納得し、遅れて同じ言葉を発する。
いよいよ実食と相成ったところで、箒があることに気が付いた。
「……あれ、修夜、タレのようなものは無いのか?」
「あ~、そういえばそうだったな……。ちょっと待ってろ」
鍋の具に箸をつけようとした箒に気付かされ、修夜は言ったん席を離れて段ボール箱に向かう。そして箱の中から、何やら赤黒い液体の入った小振りな瓶を取りだしてきた。
「あの、何ですか……それは?」
修夜の手にする正体不明の液体に、チェルシーは思わず警戒心を抱いた。
「修夜……、まさか……それこっちにも持ってきたのか……?!」
瓶の中身が分かるのか、一夏は少し驚きながら修夜に問いただす。
「俺はコイツじゃないとしっくりこないんでね」
「……マジで『自家ポン』持ち込んだのかよ……」
返ってきた答えに、一夏は呆れ気味に反応するのであった。
「それで、その中身は一体……」
「ポン酢だよ~、セッシー~」
セシリアの疑問に、本音が横からと答えを返す。
「ぽん……?」
本音からの聞き慣れない解答に、セシリアはさらに眉を寄せてしまった。
「あぁ、これがポン酢ですのね~」
ここで、チェルシーがポン酢を知っていたらしく、知ってはいたが実物を見るのは初めてなようで、感心していた。
すると――
「たしか……正式には『ポン酢醤油』と呼ばれる日本食の調味料の一種で、
醤油をベースに柚・かぼす・すだち等の柑橘の果汁、そこに
主に出来上がった料理にアクセントを加えるための、いわばテーブル調味料として使われるもの。
……でしたよね?」
「あ……はい……」
にっこりと微笑み、ポン酢を知る日本人一同に答え合わせを求めるチェルシー。
一方、日本人たちはというと、百科事典から丸々引っぱり出されたかのようなチェルシーの知識と、それを立て板に水で語るさまに、呆然とするばかりだった。唯一、チェルシーと視線の合った修夜が、微笑みに対して反射的に相づちを打っていた。
「……そういえば『自家』といったが、まさかそれは――」
「あぁ、俺の手作りだけど?」
箒の疑念に、修夜はそれがどうしたと言いたげに返す。
「やり方さえ覚えちまえば、割と簡単に作れるぜ?
醤油とお酢とみりんを混ぜて、鰹節と昆布と、柚のぶつ切りを突っ込んで半月ぐらい漬け込むだけだしな」
淡々と説明する修夜だが、箒の方は『ポン酢が個人で作れる』という事実の方が衝撃だったらしく、そちらの方にただただ驚いていた。
なお製法については個人によって違うが、一般的には醤油・お酢・みりんを加熱し、そこに鰹節や昆布を投入して煮出す。冷めたら好みで柑橘類の果汁を搾り、数日寝かせるというのが簡単な方法である。
「まぁ、ものは試しってヤツだ。一回しかけて食ってみな」
そういうと、修夜は自家製ポン酢を醤油注しに入れ、セシリアの前に差し出した。
「…………」
おっかなびっくりしながらも、セシリアは勇気を出してつつつっとポン酢を鍋の具に掛けてみる。
箸の扱いに慣れないため、セシリアはいつもの銀のフォークで鶏のつくねを刺す。
しばし見つめたかと思うと、彼女は意を決したように、えいっそれを口に放り込んだ。
少し顔をしかめながら、確かめるように咀嚼を繰り返す英国令嬢。従者は心配そうに、その様子を伺う。
その緊張が伝わったのか、他に面々もセシリアに固唾を注視し、コンロのガスの音と鍋の煮える音だけが部屋に響く。
ふと、セシリアの顔から緊張の色が抜けた。
……かと思うと、彼女は残りをあっさりと口内の団子を噛み終え、呑み込み――
「……
そう小さくこぼした。
それを聞き、自然と日本人側は顔を見合わせ笑顔になった。
「なんて不思議なお味……。
鶏の旨味も詰まっていながら、動物のお肉独特の臭みも抑えてあって、それでいてあっさりしていて……。
この“ポンズ”の、何とも言えない
とりあえず自分の感じた味を、自分の感性のままに言葉にするセシリア。
「な、イケるだろ?」
少し得意げに、料理長は令嬢へと問うた。
「はい、とっても!」
令嬢は満足の笑みを浮かべ、料理長に感服したのだった。
「さぁ、みんなも冷めないうちにどんどん食べようぜ……?!」
「お前が進行するな」
待ちきれなかったのか、一夏が状況を進めようと声を上げ、すかさず修夜がツッコミを入れるのだった。
誰からともなく、自然と笑い声が上がった。
それからは、各々ルールにのっとりながら存分に鍋を楽しんでいた。
「この軟骨つくね、コリコリの食感がクセになりそうだな~!」
一夏は新ネタ『軟骨つくね』が気に入ったらしく、修夜に拝み倒しながら多めに入れてもらっていた。
「出汁がシンプルな分、食材の味が引き立って最高だな……!」
「あはは~、ほうきんよく食べるね~」
久方の修夜の鍋に、箒も本音の相手をしつつ思わず箸を進める。
後半になると、本来は配膳係の箒の方が食べることに集中し、本音と立場が逆転していた。
「この“しらたき”ですか、これも不思議な食感ですわねぇ」
「どのお野菜も、素材とスープの味が引き立っていて、美味しゅうございますね」
意外にもセシリアは、結びしらたきが気に入ったらしく、チェルシーもそれを察してよく入れていた。
チェルシーの方は、修夜がもらってきた野菜をいたく気に入ったようで、あとで分けてもらえないかと修夜に相談を持ちかけるのだった。
「おい一夏、直箸で勝手に取るなよ……!」
「いやだって、その大振りの鱈が俺を呼んでいるもんだから……!」
「ほうきん、お豆腐とタマネギが良い感じに煮えてるよ~」
「あっ、そこの白菜も頼んでいいか?」
「これは……なんでしょうか?」
「お嬢様、それは“かまぼこ”と申しまして……」
そんな会話を弾ませながら、第二陣、第三陣と具の追加も順調に平らげていき、宴もたけなわの内に、鍋による懇親会は団らんの空気の中で幕を閉じたのだった。
――――
「あぁ~、食べた食べた~!」
鍋もひと段落つき、一夏はリビングスペースのソファーで反り返っていた。
「結局お前が一番食ってやがったな……」
俺の見ていた限り、四分の一近くは一夏の胃袋に収まっていた感じだった。
オマケに鶏肉と鱈も、大半をコイツが攫っていたような気がする。
「いや、だって久しぶりのお前の鍋だからさぁ。もう、箸が止まらないっていうか……」
一応は省みているようだったが、昔の鍋競争のクセが抜けていないのはあまり意識にないらしい。
「なんというか、ちょっと体重計に乗るのが怖いな……」
「ほうきんも、よく食べてたもんね~」
箒と本音もソファーにもたれかかりながら、リラックスした雰囲気で一服していた。
「そんなもん、明日からまたISの操縦だのなんだので消費しちまうだろう?」
「むぅ……」
正直な話、箒に余計な贅肉が付いた姿は一度も見たことは無い。
まぁ、今では“ごく一部を除いて”と付けるべきなんだろうが……、いかんいかん、これじゃセクハラだ……。
「それにしても、最後に出てきたシメが、まさかの“焼きそばの麺”だもんなぁ」
「なかなかイケただろ?」
一夏たちからは意外だという声が上がったが、焼きそばの麺は何気に便利なものだ。
市販の二十円未満の安い小袋の麺だが、麺の水分が普通の中華そばの生麺と比べると少ない分、伸びすぎずにしっかりと出汁の旨味を吸ってくれる。その場で残っても、そのまま後日焼きそばとして使えばいいし、鍋と同じ要領でラーメンにも代用できる。
「さてと……、そらデザートだ」
ちなみに、俺はさっきまで鍋会の片づけを粗方済ませ、チェルシーさんに食器を借りてコイツを盛り付けていた。
「おぉ、それってもしかして……?!」
「察しが良いな、一夏。“柚シャーベット”だよ」
小型のクーラーボックスに仕舞っておいた、デザート用の一品だ。
作るのは少し手間だが、材料は簡単に揃うし、冷凍保存が利くから一度に少し多めに作っておけば、何度かに分けて食べることもできる。
ちなみにこのクーラーボックスは、俺の相棒で幼なじみのメカニック・相沢拓海が、趣味が高じて俺の誕生日プレゼントにと作ってくれた一品である。
重箱2段ほどの大きさながら、バッテリー式で最長3時間ぐらいはキンキンに冷やしてくれるスグレものだ。
まったく、ISの調整が本業のはずなんだが、こういう代物もポンポン作っちまう辺り、ホント器用だよなぁ……。
「これも、修夜さんの手作り……なのですか……?」
「本当に器用なお方ですねぇ~……」
……俺も人のことは言えんか。
セシリアとチェルシーさんに感心されながら、スプーンとシャーベットののった皿をみんなに回していく。
「それじゃあ、さっそく……」
そう言って一夏が一口、それにつられて全員も一口ずつシャーベットを口に運ぶ。
「うんっ、やっぱこの味、最高~っ!!」
確かめるようにして、嬉しそうな声を上げる一夏。
デザート類は途中の味見が難しいから不安になるが、コイツのこの反応なら、今回は当たりだったようだ。
「うんっ、うまい……!」
「本当、あれほどお鍋を頂いたのに、まるで気になりませんわ…!」
「すっきりさっぱりでおいしい~~」
女子陣にも好評のようで、ひと安心だな。
「本当に、氷のとクリームのバランスも丁度ですし、この口を吹き抜けていくような爽快な風味、美味にございますわねぇ……。
わたくしも、今度試してみましょうかね……」
何気にプロ(?)にもウケたらしく、なかなかに良いお言葉を頂くことが出来た。
「修夜、おかわりは?」
「あるか、少しは自重しろ……!」
調子に乗って食いついてきた一夏を一蹴し、俺は笑い声の起こるリビングスペースを後にして、流し台に向かった。
――――
鍋のいいところは、余計な食器が増えないことだ。
調理道具は、材料を載せていたバットやボールを除けば同時進行で洗っておいたから、ほぼ片し終えている。
残るはそのボールとバット、あとは鍋と食器一式だ。
「お手伝いさせていただきますね?」
そんな声とともに、横からチェルシーさんがひょっこりと姿を現した。
「俺は大丈夫ですから、みんなとゆっくりしていて下さいよ」
「いえいえ、本来ならばわたくしの方がおもてなしさせて頂く側ですから、このくらいは御一緒させてくださいな」
一応、断ってはみるものの、丁寧に参加表明したチェルシーさんは、俺が洗剤で洗い終えた食器をキレイに濯ぎ、水切りかごに丁寧に並べていく。
俺も、このまま追い払うというのは失礼だと思い、彼女の申し入れをそのまま受け入れ、黙々と食器を洗っていく。
向こうでは、大型モニターで字幕付きの海外ドラマをみんなで視聴しているらしく、軽快な英会話と音楽が聞こえてくる。
「このたびは、本当に色々とありがとうございました……」
不意に、チェルシーがそう俺に声をかけてきた。
「いえいえ、みんなが喜んでくれるなら、料理を振る舞うぐらい……」
少しチェルシーさんの方を見ながら返事を返すが、彼女は俺の返事に対してかぶりを振った。
「お料理のこともそうですが、なによりお嬢様の……“セシリアさん”のことで、お礼を申し上げたいんです」
それまでとは一転し、彼女はまるで親しい友人のことを語るように、セシリアの呼び方を敢えて変えてきた。
それでも手を止めることなく、チェルシーさんは食器を片していく。
「この数年、特に代表候補生としてこの学園に来るまでのセシリアさんは、本当に見ていてい辛くなるくらい、自分に厳しく頑張り続けてきました。
そもそもわたくしは、セシリアさんとは気心の知れた幼馴染でしたから。セシリアさんからお聞きしているとは思いますが……」
俺は思わず、汚れものを洗う手を止めそうになった。
セシリアに、両親はもういない。
今から数年前、セシリアの故郷であるイギリスの北部・スコットランド地方で起きた列車の大事故で、彼女の両親は帰らぬ人となってしまったのだ。
そしてそれをきっかけに、彼女の親類は遺産を巡る醜い後継者を展開し、セシリアもその渦中へと巻き込まれることになった。
俺はあることがきっかけで、彼女から事の顛末を聞く機会を得ていた。
そこまで思い出して、同時に合点もいった。
チェルシーさんのセシリアに対する接し方は、従者が主人にかしずくのとは違う、言うなれば保護者のような雰囲気に近かった。
年の差ははっきり分からないが、彼女の方が年上なのは大体予想がついた。
「あの頃のセシリアさんに、味方と言える方はほとんどおりませんでした。
名家のご令嬢として箱入りでお育ちになったこともあって、ご友人も数えるばかりで……。
まして“あの親類ども”などは、とてもではありませんが、頼るに頼れない者たちばかりでしたし……」
一瞬、彼女の語気とそこに込める感情が強く、そして“黒く燻るようなもの”に変化した。
セシリアの親類たちは、ISによって変革した世界の影響を受けて稼業の不振に見舞われ、当主であったセシリアの母親は残した莫大な遺産と当主の椅子を巡って骨肉の争いを演じたという。
そしてその最大の鍵を握ったのが、他ならぬセシリアであった。
彼女の母親は、専属の弁護士に託した遺書に「セシリアの認めた人間を次期当主とする」としたためていた。その意図は良く分からないが、これによって親類間でセシリアの親権争いが勃発し、欲にまみれた誘惑合戦が展開されたのだという。中には彼女を自らの家に軟禁して、無理矢理に自分を認めさせるよう詰め寄った“クズ”までいたらしい。
「チェルシーさんが、セシリアの専属メイドになったのって……」
俺はそこまで思い出して、何気なく聞いてみた。
「……セシリアさんが、長期外泊されたことがあって、それから……ですわね……」
ビンゴだった。
当時は中学生ぐらいの年頃であったであろうチェルシーさんでも、幼馴染の置かれている異常事態ははっきりと分かったようだ。
「正確に申し上げるならば、それからしばらくして、セシリアさんがご自分が当主となることを決意された後でしょうか……」
思春期真っ盛りの揺れる心の少女は、その総身に重圧を受ける覚悟をした。
最終的に、セシリアは親類縁者の誘惑をすべて払いのけ、自らが当主となる道を選んだ。
彼女がISを操縦し、代表候補生の一人としてイギリスという国家を背負うのは、一重に“親が遺してくれた自分の居場所”を欲深な親類達から守るために、そして“母親が誇りとしたオルコットの家”を守るためなのだ。
この気骨は、そこらの年頃の少女たちでは持ち得ない、芯のある強さだと、最初に聞いたときに俺は感じた。
「私より三つも歳下ですのに、セシリアさんはわたくしなどには決して真似のできない、重い決断を自分に課しました。
正直、自分の耳を疑いました。あの頃のセシリアさんは少し引っ込み思案で、自分の意見を通されることも珍しい、聞きわけが良すぎるぐらいの方でしたから……。」
入学初日の高飛車なセシリアからなら、おそらく想像しえない過去だ。
「ですから、せめてわたくしが……。いえ、“わたくしだけでも”彼女の味方で在ろうと、そう決心したんです。ですが……」
そこで彼女は言葉を詰まらせた。
「両親に無理を言って、ハイスクールではなくメイド学校にも通いましたし、オルコット家に出入りできるように、厳しい訓練や条件もクリアしてきました。
それで彼女が救えるのならと、彼女の力になれるのならと……。
ですが、結局わたくしは……、彼女の背中を見守ることしかできていませんでした……。
自分を追い詰めて、それがいつしかねじ曲がって高慢になっていったセシリアさんに、わたくしは……なにも言えませんでした」
洗いものをする手が少し止まったが、すぐさま作業を再開するチェルシーさん。ただその一瞬だけ、表情が曇ったように見えた。
誰かの力になろうと、自分が慕う年下の幼馴染の茨の道を支えようとした彼女にとって、それはとても歯がゆくて、自身の情けなさを恨めしく思った瞬間だったろう。
叱咤すれば済むだろう、と指摘するのは楽だ。だが彼女は、セシリアの苦しみを知ってしまっていた。
それゆえに、咎めるべき心の歪みを咎められず、その先を超えてしまった後にあるかもしれない“終焉”を、誰よりも恐れた。
理解者になろうとした先にあった、思わぬ壁。
互いをぶつけ合うことをためらった結果が招いた、幼馴染の高慢。
ふと気がつけば、俺の目の前のその人は、姉妹にも等しい幼馴染を案ずる一人の女性になっていた。
「だから、お礼を申し上げたいんです。
セシリアさんを、元の明るく素敵な彼女にしてくださったことを……。
わたくしには成し得なかった、彼女の“本当の心”を見つけ出してくださったことに……」
そう言って、チェルシーさんは俺に微笑みかけた。
優しくも、どこかさびしそうな笑顔だった。
「……そんな大層なこと、やった覚えはありませんよ……」
俺はそう言った。
「ですが……」
「俺にそれが出来たのだとしたら、それはきっと、チェルシーさんの努力があった結果なんだと思います。
チェルシーさんが、セシリアを一生懸命支えてくれていたから、セシリアの苦しいときに一緒にいてあげられたから……。
たとえその結果として、彼女が道を途中で踏む外してしまったのだとしても、誰もチェルシーさんを安易に責める資格なんて、きっと持っていないはずです……」
食い下がろうとした彼女に、俺は少し前のめりに言葉をかぶせる。
彼女がいなければ、きっとセシリアはもっと早く摩耗していたに違いない。
そうなれば、今日という日はきっとなかった。
「セシリアが俺たちと笑っていられるのは、間違いなくチェルシーさんのおかげですよ」
俺に拓海や一夏、そして白夜師匠がいたからここまでこれたように、セシリアもきっとチェルシーさんがいなければ、彼女とIS学園で出会うことも、そこで意地に張り合いの末に絆を結ぶことも、今日の鍋会も、この今のひとときも、決して実現しなかった。
「だから、俺からも言わせてください。
【セシリアに会わせてくれてありがとう】、チェルシーさん」
……思わず、俺はそんなことを彼女に言っていた。
自分でも、この言葉が出た理由は分からない。
でも、こういうべきなんだろうと、そう思えた。
多分、これでいい、そういうものなんだろうな。
「…………ふふっ、どういたしまして……!」
僅かばかりの沈黙ののち、そう言ってにっこりと彼女は微笑んだ。
気がつけば洗いものも終わり、濡れた食器や鍋の水滴が切れるのを待つだけになっていた。
「さて、洗いものも終わりましたし、修夜様も皆さんとお寛ぎになって下さい」
そういうと、彼女はその場を後にする。
「チェルシーさんは、どうするんです?」
「わたくしは、少し用事を思い出しましたので、自分の部屋で作業を……」
少し足早に去ろうとする彼女を呼び止めるが、彼女は俺に微笑みながら振り向くと、そのまま振り返り、正面にある部屋へと消えていった。
――――
それから小一時間ほど、俺たちはテレビを見たり、少しトランプで遊んだりしながら寛いだ。
気がつけば消灯時間と入浴時間が差し迫っていたため、俺たちは自分たちの部屋に帰ることにした。
見送りの頃になって、チェルシーさんも部屋から出て玄関まで見送りに来てくれていた。
「今日はとても楽しかったですわ」
にこやかに見送り立つセシリアに、俺たちも自然と笑顔になる。
「こっちも良い体験させてもらったよ」
「うむ、こっちの階には来れると思ってみなかったからな」
自分たちの場違いな感覚に、最初こそ戸惑ったものの、こうして見ると何だかんだで楽しめていたことに驚きだ。
「よろしければ、いつでもいらして下さいね。わたくしもお茶とお菓子をご用意して、お待ちしておりますので」
「ありがとうございます、チェルシーさん」
玄関先に立つチェルシーさんの顔は、さっきと比べてどことなく明るい感じに見えた。
「なぁ、今度はいつ鍋食おうか?」
「おい待てよ、さっき食ったばっかだろうが。もう次の話かよ……」
一夏がまた素っ頓狂なことを言いはじめる。
「いやまぁ、こうやってみんなと楽しく出来たのって、結構久しぶりだったからさ。
たまにはこうやって、みんなで料理囲んで騒ぐのも良いかなって……」
そう言われて、俺も師匠や拓海たちに一夏と箒と千冬さんを加えて、たまに食卓を囲んで騒がしくやっていたことを思い出した。
それが千冬さんの仕事の忙しさと、箒の引っ越しで規模が小さくなって、一夏や拓海も自分ことで忙しくなっていって……。
気がつけば、こんな人数での食事も久しぶりだったような気がする。
「じゃあ、今度は言いだしっぺのお前が幹事だな」
「え、マジで?」
「おりむー、君に決めた~~!」
良いことを言ってくれたが、やっぱりここは少し意地悪しておいてやろう。
「そうだな、今度は『
「マジかよっ、めっちゃ面倒じゃんアレ?!」
俺の一言に、思わず渋い顔をする一夏。
「あらそれも美味しそうですわねぇ。ぜひ一度拝見して見たいものですわ」
「ちょっとチェルシーさんまで……」
チェルシーさんの横槍に思わずたじろぐ一夏を見て、思わず笑いが巻き起こった。一夏も困った顔をしながら、しばらくして笑いだした。
この和やかな雰囲気のまま、俺たちは改めて二人に挨拶し、16階の天上世界を後にしたのだった。
――――
祭りの余韻が残るセシリアの寮室。
客人たちが去ったあとの玄関で、部屋の宿主たちはそれを惜しむかのように、少しばかりのあいだ立っていた。
「大丈夫ですか、チェルシーさん……?」
前を向いたまま、セシリアは従者に問いかける。
「何のことです、お嬢様?」
チェルシーも前を向いたまま、彼女に質問の意図を伺った。
「目、少し腫れてますよ?」
「あらあら、わたくしとしたことが、ごまかし損ねましたか……」
動揺するでもなく、チェルシーはセシリアからの指摘を甘んじて受けとめた。
「あなたとわたくしですもの。傍目にはごまかせても、なんとなく分かってしまいますわ」
言いながら、セシリアはチェルシーに顔を向ける。
穏やかな笑みを向けてくる主人に、従者は苦笑したように一息つくと、そのまま心の内を言葉に表しはじめる。
「報われた気がしたんです。
今日までの努力は、決して無駄に終わっていったわけではないのだと……」
その一言に、セシリアの顔は少しばかり困惑の色を見せた。
「あなたを支えるために、わたくしは“今までのチェルシー・ブランケット”を捨てる覚悟でここまで来ました。
メイドとしての嗜み、その御身を守るための所作、人間観察術に、情報修技能……。
あなたの役に立つための、あらゆる技能を備え、少しでもそのお心を軽く出来ればと……」
少し俯いたチェルシーは、それまでの日々を閉じた
「でもわたくしには、あなたのそのお心に踏み入る勇気がありませんでした。
メイドとして……いいえ、あなたの苦労を身近で見続けてきた“幼馴染”ゆえに、傷付けまいと二の足を踏んでしまった。
どこかで見て見ぬふりを覚えていたのかもしれませんね、『自分が踏み込むのは野暮なこと』だって……」
自分などには及びもつかない、過酷な運命を背負って生きることを選んだ幼馴染を、チェルシーはどこかで“触れ得ざるもの”のように感じるようになっていた。
果たして自分などに、この少女の“孤独と痛み”を分かってあげられるのだろうか。そもそも、そんな心さえ自分の傲慢でしかないのではなかろうか。そんな自分に、彼女を理解する資格などあるのだろうか――。
疑念という沼に足を取られ、踏み込むための決意はさらに鈍り、そのあいだにも幼馴染は前へとがむしゃらに進み続ける。
出来ることは、日々の生活に“メイドとして”寄り添うことだけ。
「だから最初、あなたが修夜さんについていろいろお話してくださったとき、なんとなく“諦めて”しまったんです。
『あぁ、自分でも出来ないことをする人がいたなんて、やっぱり私では役者として不足していたんだな』と……。
だからいっそ今日、修夜さんにお嬢様のことを、全部丸投げしてしまおうかとも思っていたんです」
自分に価値が無いのなら、いっそただの“そば仕えの小間使い”になり果ててしまえれば、どれほど楽だろうか。そんな甘美な堕落への誘惑に、心を奪われかけていた。
でも――
「ですけど、言われてしまったんです、【セシリアさんに会わせてくれてありがとう】って。
そう微笑みながら言われて、気付かされたんです。お嬢様の恩人に対してしようとしたことの、自分の考えの浅ましさに。
そして……ようやく分かった気がしたんです、わたくしとあなたの“本当の距離”に――」
言い切り、チェルシーはセシリアに向き直り、真っ鈴にその眼を見据える。
「わたくしチェルシー・ブランケットは、これからもお嬢様のお世話役としておそばに仕えさせていただきたく思います。
ですが、それ以前に……“あなたを知る幼馴染”として、あなたのことをもっとしっかりと、理解していきたいと思っています」
その声は穏やかで、しかし揺るぎない決意に満ちたものであった。
「修夜さんには及ばないかもしれませんが、お困り事が在れば、ぜひともわたくしに相談してくださいな」
会心の笑みを、セシリアに向けた。
少し呆然としていたセシリアだが、やがてすべて得心したらしく、釣られて微笑み返す。
「でしたら、わたくしも一言よろしいですか?」
不意を突いた申し出に面食らうチェルシーだが、すぐさま「なんでしょう」と返し、聞く態勢になる。
それを見て、セシリアは少し呼吸を整えたかと思うと、チェルシーに向かって唐突に頭を下げた。
「今までわたくしのために、色々とお世話して頂いてありがとうございます。
そしてなにより、自分のことしか考えず、あなたのことを見ずにいたこと、本当に申し訳ありませんでした……!」
セシリアからの突然の謝罪だった。
「せせ……セシリアさん、ちょっと……お顔をお上げになって……?!」
「いいえ、謝らせて下さい……。
今まであなたに支えてもらいながら、あなたを顧みない所業の数々、主として以前に“幼馴染”としてあるまじき悪態です。
自分のことだけで盲目的になっていたなど、そんな言い訳の通じる話ではないんです……!」
決然と言い放つと、セシリアは頭を上げ、チェルシーをまっすぐに見つめた。
「だからわたくしからも、もう一度、やり直させてください……。
今日まで一緒に歩いてきた主従として、王国の地からともに時間を過ごした“幼馴染”として……!」
その力強い言葉は、オルコット家当主・セシリアとしてでも、今までのチェルシーの幼馴染としてのセシリアでもない、本当の絆を掴もうと一歩踏み出した“ただのセシリアという少女”からのものだった。
同時に返答を聞くことの不安にかられ、顔は俯かせながら思わず目を瞑る。目尻には少しばかり、涙が滲んでいた。
気迫に押されたチェルシーだったが、寸の間の沈黙ののちに顔に微笑みを取り戻し――
「顔を上げて、セシリア……」
言葉をかけたのは従者ではなく、『チェルシー・ブランケット』だった。
発せられた声に、セシリアは弾かれたように顔を上げる。
「これで、おあいこさまね」
セシリアにもはっきりと分かった、そこにいるのが“本当に幼馴染だった頃”のチェルシーだということが。
「“私”はあなたを支えるのをどこかで諦めかけたし、あなたも自分のことしか見てなかった。
これじゃあ、分かりあおうとしても分かりあえるワケは無いわよね……。
だから、これからはお互いに話し合って、一緒に前を向いて歩いていきましょう。
お互いに謝りあったし、胸の内も見せあったから、もう『ごめんなさい』は終わりにしない……?」
穏やかに微笑むチェルシーに、セシリアは在りし日の風景を思い起こす。
いつの間にか、互いに敬語で話すことに慣れ、やがて主従であることに違和感を失い、ついには心を通わせる時間さえ見失っていた。
しかし自分と彼女は、それまでは共に遊び、時間が来るまでおしゃべりを楽しみ、ときに寝食を共にして笑い合い、稀にケンカして仲直りの機会を探りあい、年の差も家柄の差も気にせず、ただ日々の喜怒哀楽を共有し続けてきた。
――やっと、ここに戻って来れた気がする
互いにの胸に、そんな思いが去来する。
「そうですね、もう後ろ向きなのは、やめに致しましょう……」
セシリアは目尻の涙を拭い、改めてチェルシーに顔を向ける。
「わたくしのやるべきことはまだまだ多くございます。
ですから、これから“は”一緒に、わたくしと歩んでくださいませんか?」
微笑みながら、少女は年上の幼馴染に問いかけた。
「もちろんよ」
年下の幼馴染に、笑顔で返事を返す。
「それじゃあ、改めてよろしくお願いね、“シシー”」
チェルシーは右手を前に差し出し、かつて幼き日々に呼びあった愛称で幼馴染に呼び掛ける。
そしてセシリアも――
「こちらこそお願いしますわ、“ルーシー”」
差し出された見手を、両手でしかと包むように握った。
チェルシーもそこに左手を添え、セシリアの右手を包んだ。
気がつけば、またどちらともなく微笑みあっていた。
かつての、今は遠きブリテンの地のオルコット家の庭で戯れる、二人の少女の面影がそこにはあった。
「これも、修夜さんのお陰になるのですかね」
「ふふふっ、そうなるのかしらねぇ」
セシリアの言葉に、チェルシーも共感せずにはいられずクスリと微笑み、同意する。
修夜は二人が踏む込めなかった一線に、他人だったからこそ踏みこんで見せた。
何年もこじらせ続けたわだかまりを、わずか数時間で解いてしまった一人の少年に、二人はこれ以上にない感謝の念を抱いていた。
本当に不思議な人――
自然とセシリアは、強気な笑みを自分に向けてくる修夜を想い浮かべていた。
「ところで……、修夜さんとは“どこまでいかれた”んですか?」
藪から棒に、チェルシーはいつもの調子でセシリアに無遠慮な質問をぶつけた。
「えっ……!?」
それを聞いたセシリアは、言葉を詰まらせ、顔を真っ赤にして慌てはじめる。
「えっ、お嬢様と修夜さんってもうお付き……」
「ちちちちっ、違いますっ、断っっっじて、そんな『ふしだらな』関係なんて……!!!」
従者モードに戻ったチェルシーだが、そこには今までにない“別の顔”を覗かせていた。
「え……、ふしだら……って、まさか……もうそんなご関係に……」
口を手で覆いながら恥ずかしがる態度をチェルシーだが、表情はあからさまに面白がっている。
「ちがいますぅっ!! だだ……大体……、わたくしはそんな…はしたない尻軽女などでは……」
もじもじしながら俯くセシリアの顔は、今にも火を噴きそうなほどにますます赤くなっていた。
耳なぞは、暗闇でも光って見えそうな勢いである。
「そうでしたか? 修夜様とのことを語られるときのお嬢様のお顔は、今までにないほど愉しそうでしたが……」
はてさて、といった風に訝しがるチェルシー。
もう完全に、セシリアをからかって遊ぶ楽しさを“再発見”していた。
「それでしたら……、わたくしちょっと狙ってみましょうかね~~?」
「え――」
従者の発した突拍子もないに、思わず目を丸くする主人。
「御顔立ちも凛々しいですし、お体の方も逞しくて武芸のほどはお嬢様以上、お料理などもあの腕前でございますしぃ~。
何より人の心の機微に細やかなところなど…………ぽっ」
わざとらしく両手を頬に添え、腰をくねらせるチェルシー。
「なななななっ……、何をおっっしゃってっ……?!」
もう、これまでにないぐらいの勢いで焦りまくるセシリア。
「あらあら、もうこんなお時間。お風呂のご用意をさせて頂きますわね~~」
「ちょっ……とっ、お待ちなさいルーシーっ!?」
軽快なステップで逃げるメイドを、当主は真っ赤に火照った顔で追いかける。
天上世界の一等室は、かつてないほど賑やかなやり取りがこだましていた。
瀟洒で軽快な姉と、真面目で乙女な妹の仲の良い鬼ごっこは、二人の就寝前まで続いたという。
※2013年4月18日当時の後書きです
〓 後書き 〓
初、完全自筆!
……にしては、半月以上かかってこの様です。(汗)
色々と独自設定も出てきましたが、これは龍使いさんと話し合った結果、原作の世界観の“足場”を固めるための設定が、あまりにも穴だらけだったことに対する応急処置です。
『可能性の翼』のIS学園は、いわゆる「学園都市」に近しい存在で、学校を中心に職員が暮らすのに必要な施設と、生徒も利用可能な健全な遊び場(公園やプールなど)、あとは外部からの来客が滞在できるビジネスホテル的な施設ぐらいは、学園内で“一式”揃っている想定です。
あと寮についても、そんな理由で適当な構造を構想してあります。
全部出し来ることは無いだろうと思いますが、こういった“床下や天井裏”も重要な要素なので。
>本編について<
もうちょっとギャグとグルメで押す予定でしたが、気がつけばセシリアとチェルシーさんの回になっていました。(汗)
自分の文章は二元論になりやすいクセがあるので、これは今後の課題ですね……。
セシリアが原作以上に「お淑やかなお嬢様」化しているのですが、やたらツンケンしているよりは……と、考えた結果こうなってます。
なので、終盤のあっぷあっぷしているセシリアのほうが、むしろ原作には近いかも……。
そしてチェルシーさんもウチではこんなお方です。(笑)
普段は瀟洒ですが、セシリアの修夜への想いを姉心で見守りつつ、愉しくからかってます。
単にからかっているだけやら、なかば本気なのやら。(ヲイ
何にせよ、今後はもっとドタバタコメディに傾かせようかと思っております。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
GHOST=大博
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どーも、龍使いです。
そんなわけで、本編の更新合間に相方がちまちま作られた番外小説、『IS学園徒然草』となります。
先に断っておきますが、相方は原作を情報ででしか知りません。
故に、二次SSやWikiなどで調べたり、自分と相談しながら相方なりに執筆したものが本作となりますので、原作とは差異が出てくることをご了承ください。
因みに時系列ですが、本編の十四話のクラス代表決定以降の物語となります。
とりあえず、こちらの想定では鈴が転入してくる前辺りですね。
また、この番外編の設定などは本編にも繋がっています
上記での後書きでも言っていますが、原作は細かい設定部分が穴だらけのため、こうして独自に組み立てたり、組み替えたりすることで、『可能性の翼』の世界観を構築しております。
そういった部分も含めて、今後も本編やこの番外編を楽しんでいただければと思います。
ではでは