IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~ 作:龍使い
真行寺修夜と布仏本音の密会疑惑から、結局は更識簪の現状が割れてしまった。
仕方なく修夜は本音と相談し、織斑一夏らと共に工学棟へ向かった。
そこで一同が目撃したのは、突然の大所帯の登場にビビって物陰で小さくなる簪だった。
(まぁ、予定調和だな)
おおよそ結果が見えていた修夜は呆れ、初対面となる他の一同は、物陰から小動物のように警戒する簪の姿に困惑するほかなかった。
おっかなびっくりする簪だったが、本音に慰めれらながらおずおずと前に出る。
「あ……あの、一年Ⅳ組……更識簪……です……」
俯いて震える膝に力を入れつつ、簪は注目されることに必死に耐えていた。
「ねぇ、この子本当に大丈夫なの?」
「俺が訊きたいわ……」
呆れと心配の感情に襲われた凰鈴音に、修夜も同情を隠そうとはしなかった。
――――
蒼羽技研の事務処理を自室で済ませて工学棟に向かうと、
修夜に訊ねると、どうやら本音の一言で誤解が生じて今回の件がばれたようだった。
渦中の人物は一夏に絡まれている真っ最中で、ぐいぐい押していく一夏におどおどしながら応対している。
普通なら怖がって縮んでしまうのが対人恐怖症というものだけど、どうやら一夏とはおっかなびっくりしつつもちゃんとコミュニケーションが取れているみたいだ。
釣られるように、隣にいるセシリアとも言葉を交わしている。
白夜先生的に言えば「和を作る気質」がある、とでもするかな。一夏はそういう不思議な人間性を、小さいころから持っていた気がする。
そのそばで箒と鈴がヤキモキしながら眺めているのは、なんとも対照的だけど。
「さて、まず最初の仕事に取り掛かりますか」
修夜が更識簪のことを呼ぶ。
はてさて、彼女は僕のプランをどれだけ飲んでくれるかな……。
「はじめまして、蒼羽技研・IS開発部主任の相沢拓海です」
まずはこちらから挨拶。すると彼女も少し口ごもりながら、自己紹介をしてくれた。
今日彼女に直接会いに来たのは、彼女の機体コンセプトを僕なりに分析したものを伝えるためだった。
とりあえずお互いの呼び方を確認し、挨拶もそこそこにさっそく話に入る。
実習室の隅あるテーブルにコンソールを置いて、彼女から前日に貰ったデータとそれを基にした自分のデータを読み込み、説明を始める。
「昨日貰ったデータのほう、色々と見させてもらったよ。なかなか面白かったね」
緊張の面持ちは相変わらずだけど、徐々に慣れてもらうしかない。
「簪さんの考えた、この機体――仮称『
別に彼女批判したい訳じゃないけど、打鉄弐式の構成はかなり偏っている。
一番の特徴はその火力。
高性能誘導八連装ミサイル「
「春雷」の威力で相手と距離を置き、「山嵐」で相手の行動を制限する。これだけでも相手は打鉄弐式に容易には近づけない。
しかしミサイルという武器は、迎撃されて不発に終わるリスクを想定しなければならない武装でもある。圧縮プラズマ砲も、エネルギーの充填を
その穴埋めのためにあるのは、対装甲用超振動薙刀「
「これ、ちょっといろいろと極端な気がしなくもないんだよね……」
せめて機関銃の類がが欲しいとことだ。
「そ、そこは……ミサイルの追尾性を強化して……。あと……私が“直接操作する”つもり、だったから……」
「直接? ミサイルを?」
「あ、その……はい……」
「かんちゃん、全国レベルのプログラミングの大会で、何度も優勝してるもんね~」
なるほど、プログラムコードを直接入力してミサイルを操作する。出来ない訳じゃないけど、相当な高等テクニックだ。全国一位をになった腕前とはいうけど、それを実戦でどの程度活かせるか、率直にいえば心許ない。
それに、だ。
「よしんばそれが可能でも、それが出来るのは一対一の真っ向勝負に限られるね」
戦いながらプログラミングをするのは、自動車を運転しながらお箸とお茶碗で食事を摂るぐらい、とんでもない離れ業だ。
普通なら事故になる、普通じゃなくても操作ミスが出る。
それを弾丸飛び交う空中戦でやるとなれば、難易度はさらに跳ね上がる。
「こ、これでも、シミュレーターでテストした時には、ちゃんと避けながら命中させました。三年生設定で……四割一分二厘ほど、ですけど」
ちょっと驚いた。彼女の証言が単なる見栄でないなら、その命中率は侮り難い力を示してくる。
IS訓練用の体感型シミュレーターには、幾つかのレベル設定がある。その強さよ思考パターンは、大まかに一年生から三年生、そして挑戦者向きに実習教員と、アマプロ級の操縦者が用意されている。彼女のいう三年生レベルは、たとえ本気の修夜でも、捕捉に手間取るほどの正確な回避と間合い取りで翻弄してくる。
それに対して四割、しかも本人は不服ときた。
「で、勝てたかい?」
訊くと、言い淀んだ後に俯いてしまった。
「君の技量が人並み外れているのは、よくわかったよ。でもそれを勝利に繋げないと、それは宝の持ち腐れになる」
どれだけ記録を更新しても、実益に出来なければ意味はない。技術と対峙する者にとって、これは常について回る壁だ。
だから――
「それをもっと、現実的な力に変える方法を提案したいんだけど、聞いてくれるかい?」
相手に自分のセールスを成功させるには、自分の商品が相手に如何に有益かを売り込むことが鉄則だ。
やり方は幾つかあるけど、実物があって、それを理解出来る相手なら、実際にじっくり体験して貰えばいい。そういう訳で、今彼女に先日届いたプログラムを実見してもらっている。
「すごい、こんな組み方があったなんて……」
「僕もびっくりしたよ。特にマルチロックオンシステムの演算式とプロセスなんて、ここまで軽量化出来るとは思って見なかったからね」
打鉄弐式用のプログラムは、倉持技研の第二研究所所長・篝火ヒカルノ氏の自信作だ。これを見た時、その斬新かつ合理的なプログラミングに思わず、僕も感嘆してしまった。
「これを打鉄弐式に導入して、マルチロックオンの性能を補強する。ついでに直接入力にかかる時間を短縮できる上に、切り札としての実用性も上がる」
彼女の特異技能は一級の戦力として価値がある。なら活かすための道具として、篝火所長のプログラムを使ってもらうのが落としどころだろう。
「……悔しい」
簪の口からぽつりと零れた。
聞いた本音が少し不安げな顔色に変わった。
「なら、いいお手本が手に入ったんだ。次はもっと性能の良いプログラムを目指せば良いんじゃないかな」
技術は常に凌ぎ合いであり、模倣と革新の繰り返しだ。
少し追い抜かれたぐらいで腐ってはいられない。そんな暇があるなら、いっそ凌いだ相手から技術を盗み、さらに相手の行きつけなかった“その先”に辿り着く努力を選ぶべきだろう。
もっとも、簪にそんな言葉は要らないようだ。もうこのプログラムの利用方法を模索し始めたのか、顔つきは不安と不満が抜けて“思索する技術者”のそれに変わっていた。
「そこで、僕自身からも提案したいことがある」
自分のコンソールの画面を二人に向けて、僕はあるものを見せた。
「これ……打鉄弐式~?」
「でも……『山嵐』が小さくなってる」
「さすが自分の機体だけあって、すぐ見分けたね」
「たくみん、これってなに~?」
「僕なりに打鉄弐式のコンセプトをまとめて、その上で練り直したものだよ」
まず気がかりだったのは「山嵐」の規格だ。
確かに八連装ミサイルなんて代物を六基も搭載するだけで、相手への威圧や牽制には大きな力になる。でも同時に、これだけ機体の大部分を占めるパーツがあるとデメリットも多い。
一番の問題は機動力の低下、そして戦術の露見だ。いくらISに
よって「山嵐」そのものを二連装減らして六連装に変更し、少しでも機体をコンパクトにまとめてみた。ついでに小型化によって、攻撃判定の縮小化も狙えて一挙両得になる。
「それにミサイル六基四十八門を一度に操作出来たとしても、限界数まで稼働させちゃISの演算処理に負担が掛かるよ」
実際本当にそんなことを実行する場面なんてそうないけど、ギリギリ四十八発を捌くよりも、余裕を持って三十六発を操作する方が余裕が生まれる。
「それと、間合いを埋めるのに、これを載せようと思うんだ」
モニターを操作して、別の画面資料を投影する。
「これは……」
「
「7.62mm大口径アサルトライフル
煌器は5.56mmアサルトライフル「焔備」をモデルに、より威力に傾倒させた発展型の小銃だ。焔備より一発の威力で勝り、また射程も長い。反面、弾数は焔備より少なく、反動の強さゆえ
一応は三点バースト射撃——三発区切りの自動制御連射も可能で、無駄弾を撃ち過ぎないよう工夫はされている。
焔備でなく煌器を選んだのは、プラズマキャノン「春雷」を本当の意味で“必殺兵装”に仕立てるためだ。
「春雷の火力は確かに必殺技になるけど、それを当てるにも必ず一工夫が必要になってくる。特に撃ったあとの間を繋ぐには、それなりに取り回しが効いて、かつ有効射程を保っておくことが必須だ」
よって射程がそこそこ長く一発が痛い煌器は、春雷の次発装填までの繋ぎに向いていると言える。焔備でも構わないけど、一撃の重さはそれだけで一つの“精神攻撃”に転じ得る有効な戦術だ。
同時に間合いが開くなら、山嵐でのミサイルの雨も使いやすさが増してくれる。
ついでに煌器自体は単発射撃の制度は優良だから、
「へ~、ライフル一挺でも、こんなに変わってくるんだ~……」
「性能を活かすも殺すも、兵装と操縦者次第だよ」
ついでに「春雷」も出力調整機能を付加し、エネルギーの消費を抑えられるように設定する。常時フルチャージでは取り回しに困る場面も出てくるし、エネルギーを小分けにして連射も可能に出来る。
この副産物としてスラスターやPICに回せるエネルギーが増加し、火力と機動性の両立がより安定して実現出来るようになる。
「すご~い、コンパクトにまとまっちゃった……」
「あとは徹甲刀『芙蓉』で非常時の格闘戦に備えておけば、埋めるべき射程はこれで全て揃うって訳さ」
「射程を……埋める」
「特技だけで勝つことには限界がある。でも特技を活かすための選択肢が多ければ、それだけ自分の本気をぶつけるチャンスが増やせる」
自分を試す機会を多く掴むことが出来る。
それだけ自分の可能性は広がっていく。
目標への道は一本に見えて、その実幾つもの可能性の筋道が収束して出来ている。道幅を広げるも、道のりを険しくするも、道を選ぶ人間の判断一つだ。
「これが僕の提案する、打鉄弐式の再設計プランの全体像だ」
あとは簪が受け入れてくれるか否か、それだけだ。
じっとコンソールの画面を、簪は思案げな顔で見つめる。
「本当、悔しい……」
また簪から「悔しい」の一ことが出た。
「丸ひと月、ずっと自分なりに、弐式のこと考えてたつもりなのに……」
「かんちゃん……?」
「私、何も見えてなかった……。弐式をどう強くしたいのか、弐式で戦えばどうなるのか、そんな基本的なことを、自分の戦い方ばっかり気にして、見ようとしてなかった……」
彼女の悔しさの根元にあるもの、それは“自分への苛立ち”だろう。
自分のやりたいことに気を取られ、本当に考えるべき足元を疎かにしていた未熟さへの、どうしようもない怒りと恥の気持ちだ。
だからこそ―—
「さっきも言ったでしょ。いいお手本があったと思えば、それを真似して、さらに上を目指す踏み台にすればいいって」
項垂れて湿っぽくなっている簪に、少し語りかけてみる。
「君のやり方を貫いてもいい、僕の提案を叩き台にして上を目指すのもいい。やり方は君次第だよ」
それでも、これだけは言いたい。
「その上で、自分の“最初に感じた真っ直ぐな気持ち”だけは、無視しないで欲しい」
それが、迷った心の
「大丈夫、間違えた時は許される限り、またやり直せばいんだよ」
それが僕と修夜の進む“道”への考え方だ。
「どうする、簪さん?」
尋ねられてもしばらく黙り込む簪。
そして何分にも思えた十数秒の沈黙ののち、簪はおもむろに言葉を発した。
「……私は、私が最初に考えた通りにやりたい。でも……」
「でも……?」
「多分それだと、姉さんには届かない……気がする……」
簪が自分の心から探り当てたものは、学園最強の姉の存在だった。
「届くには、届かせるには、今の私じゃ駄目だって思った」
「なら、君はどうする?」
問いに対してまた少し黙り込んだ後、意を決したように簪は声を出した。
「情け無いけど、悔しいけど……。私、一人だけじゃ、間に合わない。だから、だから……て、つ……、手伝って、もらえませんか……!?」
「かんちゃん……」
簪は拳を握りしめて、涙していた。
彼女は本気で、本当に一生懸命に、この打鉄弐式を独力で完成させようと足掻いていたんだね……。
その決意を折るっていうことは、とても“痛い”ことだ。そこで夢を諦めてしまう人も出るほどに。
……これは、生半可じゃ駄目だね。
「分かった。君のその情熱、蒼羽技研の看板と、相沢拓海の名前に誓ってかたちにしてみせるよ」
賭けよう僕の誇りを、君の痛みが次の一歩になるために。
「組み上げよう、君と僕たちで、君のための“翼”をね」
俯いていた簪だったけど、涙でくしゃくしゃな顔を上げると小さく頷いてくれた。
横にいた本音も、それを見て彼女の腕を抱いて「一緒に頑張ろう」と声をかけた。
簪もそれに小さく頷いた。
「では、新たな出発に差し当たって、打鉄弐式に名前をつけようと思うんだけど」
僕の発言にキョトンとする二人。
この機体『打鉄弐式』の名は、あくまで便宜上の名前であって、正式な命名ではない。
なら、たとえデータ上呼称されなくても、自分で名前を付けてやった方が、機体への愛着はより一層強くなるのが人情だ。
実際、修夜のエアリオルも、修夜が完成予想図から直感で命名したものだからね。
そこまで説明すると、簪は整備台に固定された打鉄弐式を見つめ始める。
でもさすがに、パッと浮かぶものじゃないのか、また思案し始めた。
「弐式のイメージカラーは?」
「え……えっと……、ぎ……“銀色”……かな?」
「なるほど、打鉄を継ぐ銀の翼か」
僕の一言がヒントになったのか、そこから簪はブツブツと小声で何かぼやき出す。
そして――
「銀……羽……、
「羽と銀で、
決まったようだ。
「良いね、その強引な読み方。それに“鉄”から“銀”に変わっていて、世代交代っていう意味も出せそうだよ」
言われた簪は、また打鉄弐式改め『羽銀』を見つめる。
「羽銀……、この子は今日から……羽銀……!」
羽銀を見上げる簪に、もう悔しさも涙も顔にはなかった。
羽銀、簪の翼として、僕は君を必ず
――――
さて……。
状況を整理しよう。
僕は現在、簪と交渉を終えて実習室の外にいるみんなに声をかけに来た。
それで、何故千冬さ……もとい織斑先生が、廊下で正座するみんなを仁王立ちで睨んでいるのだろう。
「私は、真行寺と相沢主任の介添えは認めた。……が、見覚えのある顔がまたぞろで並んでいるとは、どういう用件だ」
どうやら虫の居所はすこぶる悪いらしい。
警備員から確認の一報を受けた織斑先生は、現在進行中の仕事を中座してまで工学棟に直行して来たとのこと。
これが訳も知らずに、警備の目を逃れたどこか別の生徒なら、後から呼び出して注意喚起で済んだ話だった。ところがそれが自分の担当クラスの生徒を含んだ七人もの大所帯となれば、頭が痛いで済むどころではない。織斑先生の監督責任が問われ、ただでさえ多忙なところに始末書という嬉しくないオマケが増える事態になる。
「でもさ、俺たちはただちょっと、見学しに来ただけなんだけど……」
その一夏の言葉に対し、鋭く睨みを効かせる織斑先生。一夏もそれにビビって、すぐ口を閉じて縮こまってしまった。
「この工学棟はな、我がIS学園でも重要な位置を占める施設だ。本来なら教師でも、責任者である“工学棟主任”への連絡なく、棟内に立ち入ることは出来ない」
言われてみれば、当然の話だ。
工学棟には、学園中の量産型ISのデータとパーツが集積されている。施設内の備品も常に最新型が導入され、世界でも屈指のIS整備工場と言えるのがこの工学棟だ。
そこへ不審者の侵入を許してしまえば、学園の損害と責任は軽いものでは済まされない。まして、つい半月前に襲撃に遭ったばかりの状況なら、学園側も工学棟への警備にさらに神経を向けざるを得ない。
織斑先生が、簪の作業を他言せずにいたのは、単に簪の性格を察しただけでなく、この工学棟に人集りが出来るのを避けるためでもあったのだろう。
「あれ、どうしたんすか、こんなところで?」
織斑先生の説教空間の外から、聞き覚えのない声が響いてきた。
見ると、そこには短く髪を刈り揃えた男性職員がいた。
灰色のツナギの上から、ナイロン製のジャケットを羽織っている。顎には剃り損ねたと思しき無精髭が、下顎にチラついていた。
実に男クサい風体だ。
この学園にも、人数こそ少ないけれど男性職員はいる。女性職員では不利な力仕事や、高所での長時間の肉体労働は、やはり女尊男卑と謳われる現代でも、男性の残された活路として残されている。
「
織斑先生が、男性職員に気づいて声をかける。
オオカネ……、珍しい名前だなぁ。僕の良く知る人も、オオカネ姓だけど……。
「私のところの生徒が、勝手に上がり込んでしまったもので……。申し訳ございません」
「あぁ、いいってイイって。別にモノ盗んだり、IS勝手に弄った訳じゃないでしょ」
「しかし、規則に基づいて行動させるべきでしたし、その監督を怠ったのは……」
「まぁまぁ、そこは今度から、ね。今日のことで懲りないおバカさんは、先生の生徒さんにはいないでしょう?」
驚いた。
不謹慎だけど、織斑先生が頭を下げて主任さんに謝罪していることに、だ。
強硬な態度で佇むいつもの織斑先生が目につくだけに、こんなに折り目正しく人に接する姿は、白夜先生に対しても早々は見せない。
みんなもそのやり取りに、目を丸くしている様子だ。
「あれ、そこに居るのって、もしかして噂の男子君たち?」
「えぇ、真行寺修夜と織斑一夏ですが」
「で、そこにいる眼鏡のインテリっぽい君は……」
主任さんの指摘で、ここで織斑先生も、僕と簪が話を終えて出てきたことに気がついた。
「どうもはじめまして、蒼羽技研・技術主任の相沢拓海です」
「蒼羽……。あぁ、もしかして親父が話してた“小生意気な腕っこき”って、君かぁ!!」
……はい?
「親父……さん、ですか……?」
「え、ほら、俺の苗字。大鉦って、そっちにもいるでしょ?」
……え。
「……え、
「の、息子・『
…………。
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッッ!!!??
ちょ、えっ、ナニ、えっ、えっ、マジで、ウソ、ホントにッ?!
「……拓海、今のは聞き間違いか何かか?」
「ごめん修夜、僕も突然過ぎて脳内処理が追いついてない……!」
いやいや待って、世間狭すぎでしょうに!?
「あー、その様子だと、俺のこと全然話題に出してないっぽいね。さすが親父……」
全くです……。
“鉄次のおやっさん”こと、蒼羽技研が誇る大ベテラン技師・大鉦鉄次技術監督という人は、基本的に仕事の話以外を全く降らない、昔気質の硬派で寡黙な職人だ。
仕事場にプライベートを持ち込むこと自体、あの人の流儀に反すると、蒼羽の面々は日頃から聞かされ肝に銘じている。
「なに、拓海の知り合いの人?」
「いいや、僕の仕事場の同僚で人生の先輩と言える人の息子さん、らしいよ……」
一夏の質問に、頭の中を整理しながら答える。
しかし、あのおやっさんの息子さんか……。
「ところで、ここに大勢で集まってるのは……」
「あ、それは、更識簪のISの構築を、倉持技研の主任の許可を貰って……」
「あぁ、あぁ。その件ね。織斑先生から、話は通っているよ」
なるほど、先んじて織斑先生が話をしておいてくれたのか。さすが先生、抜かりはないね。
そうだ、びっくりし過ぎて忘れていたけど、この人に頼みたいことがあったんだった。
「すみませんが、実はパーツ自体を加工したいので、出来れば溶接機器の方をお借りしたいと思っていまして……」
「あぁ、お安いご用意だよ。あのガンコ親父が珍しく人を褒めてたから、それだけで信用は充分足りるよ」
なんというか、ちょっとこそばゆい感じがするなぁ……。
「なんなら、俺にもやらせてくれないかな。君の専門って、基本はプログラミングとプランニングでしょ。なら肉体労働は、本職に任せろってことで」
「大丈夫なんですか?」
「訓練機の整備のついでだよ。あと久しぶりにガチの仕事ってのも、魅力的でね」
おやっさんの息子さん……。IS学園の機体管理を取り締まる人物に抜擢されているだけに、おそらくその腕前も相応であるのは察しがつく。
心強い味方にはなってくれそうだけど……。
「それに、だ。いざという時、いつもみたい親父の職場には頼れないでしょ。だから学校の技師が手を貸したってなら、当たり障りないじゃない?」
これは一本取られた。
この発想と風向きを看る勘の良さ、間違いなくおやっさんの血筋だね。
「すみません、ではお言葉に甘えちゃいましょうかね」
「よっしゃ、任されました!」
ウキウキとした様子で、僕からの返答に反応する銀次郎さん。
こういうところは、おやっさんにはない性質だね。
「じゃあ、話がまとまったところで、……まずみんな足を楽にしよっか」
ふと見ると、修夜と箒以外の全員が、苦悶の表情で正座地獄を続行中だった。
……ごめん、みんな。
はい、また半年近くもお待たせして申し訳ございませんでした!(土下座
毎度の事ながらそれぞれのリアル事情や、モチベの低下などが理由で執筆状況が芳しくないのが原因です!
本当に申し訳ございません!
さて、今回は原作の簪の専用機である【打鉄弐式】がこの作品において、真の意味で簪の専用機となる話となっています
打鉄弐式のコンセプトを残しつつも、簪の能力をフルに活かせるように設計し直しています
また、打鉄弐式が【羽銀】となった理由は、打鉄の後継としてでなく、簪の機体と言う意味を持たせるために相方が考えた結果、このようになりました。
因みに、この機体のイメージは名前以外が初期設定通りなら、「フルバースト」の付いてないだけの●リーダム・ミーティアだそうです、相方曰く
そして、うちのオリジナルキャラにしてIS学園・工学棟主任の男性職員、大鉦銀次郎。
IS学園は女子学園ではありますが、教師やそれ以外のところで男性職員がいても不思議じゃないので、相方が学園の整備士という立場も考えて、こういうキャラを作ったそうです。
因みに、キャライメージは髪が黒くなったハ●ック少尉(ICV:松本保典さん)だそうでーす
あと、鉄次のおっさんはセッシー編の幕間で出てきた当時考えた俺のオリジナルキャラです。
ぶっちゃけ、硬派な職人のおっさんは大好きなので、幕間ではちょっとだっただけに、何時か本格登場させたいですね!
ではでは、これにて