IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~ 作:龍使い
???『壊れた記憶』
これより紡がれるのは、ある世界の壊れた記録。
誰も知らず、誰も気付かない、とある世界の不確かな歴史。
悪鬼羅刹に身を落とし、修羅と化した少年の――狂った物語の一片である。
――――
ぴちゃっ……ぴちゃっ……。
薄暗い建物の中で、水音が響く。
「はぁ……はぁ……!」
その音を聞きながら、懸命に走る男が一人いた。
まるで何かから逃げるように……いや、実際に逃げていた。
「何なんだ、何なんだよ、ど畜生……!」
出血する肩を手で抑えながら、男は懸命に逃れるように走る。
始まりは何てことない、ただの日常だった。
男が所属する組織は、政府からの裏の仕事を遂行する、暗部とも公認のテロ組織とも言われる集団であり、政府から出される依頼をこなし、金を得る……ただそれだけの日常だった
それが、たった一人の『少年』によって、全てが滅ぼされた。
所属していた仲間たちは、見るも無残に殺された。
ある者は胴を切断され、ある者は頭を吹き飛ばされ、ある者は頭から一刀両断され、ある者に至っては四肢すらも切断されて尚、切り刻まれていた。
命乞いをする者すらも無慈悲に殺した。泣き叫ぶ者を、何の感情もなく殺害した。
まるで機械のように淡々と……数十名はいたであろう人間を、完膚なきまでに殺したのだ。それも、『生身』で。
銃を持つ者、パワードスーツを着る者、ひいては現在では世界最強と言われた兵器すら使用する者がいたにも関わらず、その少年はただの刀一本だけで、自分以外の全てを殺したのだ。
今の自分がいる場所は地獄……そう実感するに相応しいほどの、惨劇の空間だった。
「畜生、なんでこんな……こんな事に……!」
「外道が知る必要は無いさ……」
「ひっ……!?」
愚痴っていた男の背後から、冷徹な声が聞こえてくる。
振り向けば、血がこびり付き、真っ赤になった刀を片手に、ゆっくりとした足取りで近づいてくる『少年』がいた。
「何だ、何なんだよ、お前……!? 俺たちが何をしたって言うんだ!?」
「何をした、か……。く、くくく……」
男の言葉に、『少年』はくぐもった声で笑う。
「はははは!! これは驚いたな。
目的のためなら幾千、幾万の人の命を奪う暗部の人間が、『何をした』だと? 笑わせてくれるねぇ……?」
うっすらと、その表情の無い顔に笑みが浮かんで行く。光の無い目が、男を冷徹に突き刺して行く。
「お前たちは、目的のために関係ない奴を、夢見る者達を殺し続けてきたじゃないか……?
それを棚上げして、何をしたって……ほんと、外道は救いがいないねぇ……」
「ふ、ふざけるな! それをお前が言えた事か!?」
男は震える声で、そう反論する。目の前の『少年』は、自分達がやっているであろう以上の事をしている。
この『少年』――
その数はおよそ数千以上にも上り、中には政府要人や軍の上層部までいたと言う。
自分たち暗部を外道と言うのであれば、目の前の『少年』は一体なんだと言うのだろうか……。
「ああ、俺か? ……生憎、俺は外道じゃないんだよ」
そう言った『少年』は、無造作に刀を振るう。それだけで、男の『片腕』が飛んだ。
「い、ぎゃあああぁぁ!?」
突然の痛みに、男が叫ぶ。
「って言うかさぁ……俺をお前らみたいな外道と一緒にしないで欲しいよな?」
言いながら、再び刀を振るう。今度は男の『片足』が切り裂かれる。
「あ、がぁ……!?」
「俺はな、お前らみたいな外道が産んだ『鬼』なんだよ。
お前らみたいな外道を殺し、餌にする……そんな鬼なんだよ」
倒れこんだ男を見下しながら、『少年』は近づいて行く。先ほどまでの出来事は、数メートル離れた距離で行なわれていた。
「そう、数年前にお前らみたいな外道が、夢ある者たちを殺したときから……俺は生まれたのさ。
だから、殺すのさ。『ただそれだけの存在なんだからな』、俺は……」
「た、助け……」
あまりの痛みと恐怖に、男は懇願する。僅かな可能性に掛けて、頼み込む。
しかし……。
「……残念だったな」
『少年』は狂気すら思わせるような笑みを浮かべ……。
「鬼が、外道の命乞いなんざ聞きはしないのさ」
――男の命を、無残に散らせていった。
――――
積み上げられるは死の山。流れゆくは血の河。
全てが無残に、そして凄惨に広がったその場所を、『少年』はゆっくりと歩いて行く。
「まだ、足りないよなぁ……みんな…」
『少年』は、誰に言うまでもなく、呟く。
「ああ、まだだ……まだ消えないよな。まだ、苦しいよなぁ……」
地獄と化したその場所を、『鬼』が歩く。
「こんなふざけた世界に生きる外道を、全て殺さないと駄目だよなぁ……?」
狂気の笑みを浮かべ、『修羅』が笑う。
「く、くく……ははははは……あーはっはっはっはっはっ!!」
地獄の中で、『悪鬼』の声がこだまする……外道を憎む、『羅刹』の狂気の声が……。
――――
これが、世界に刻まれた狂気の記録。
誰も知りえない……誰も気付かない『少年』の生きた歴史。
この『少年』が後にどうなったか、それはまだ、語るべき時ではない……。
――今はまだ……静かにこの記録を閉じよう……。
なんとな~く、アストレイの一夏とかに触発されて作ってしまいました。突貫工事ですが(汗
やってみて思った事は、狂気って表現が難しいなぁ……って感じですね。やれる人は凄いです、マジで。
とりあえず、この話については本編でも後に語る予定のものです。ここまでやりませんがね……。
因みに、この『少年』が誰かは現時点で語るつもりは無いです。
てか、予測しても黙っててください。
感想にも予測をかかんでください、出来れば(汗
ではでは