IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~   作:龍使い

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幕間『技術者の誇り』

時間は、クラス対抗戦の二日前の夜。拓海は、自室にて白式のデータを纏めていた。

「……とりあえず、この分だと一夏の戦術強化は間に合いそうだね。

 白式の説得には少し難儀したけど、これなら一夏の勝率もぐっと高くなる。問題は、千冬さんの反応って所だけど……」

一夏の姉の反応を想像して、溜息をつく拓海。事実、この二日後に彼女の反応を見て衝突する事になるのだが、この時の彼はまだそれを知らない。

「とりあえず、これで基礎データは完了っと……うん?」

データを纏め終えた拓海の耳に、耳慣れたコール音が響く。

「WCSからの通信? 接続先は……凶鳥世界(Hueckebein)、しかも雪菜さんの研究室からだ」

先月の祐二に続き、また珍しい人からの通信が来たものだ……と拓海は思いつつ、通信を接続する拓海。

『やあ久しぶりだね、相沢拓海君』

「お久しぶりです、相原雪菜さん」

相原雪菜(あいはら ゆきな)――拓海の知り合いの一人であり、彼女の所属する相原技研・開発第一班のチーフメカニックである。

「今日はどうしたんです?

 久々にお互いの技術についての談義に花を咲かせにでも来たんですか?」

『それはそれでちょっと魅力的だけど、今回はちょっと違うかな』

普段の明るい性格と違い、どこか真剣な雰囲気を出している彼女に、拓海は少し嫌な予感を感じた。

「まさかとは思いますが、蒼羽技研(うち)の技術を譲渡して欲しいとか言いませんよね……?」

『そのまさかだよ、拓海君』

拓海の言葉に、しっかりと頷く雪菜。

「……って事はつまり、うちの技術を使わないと行けない事態が発生してるって事ですか」

雪菜の返答に、拓海は頭をおさえる。その行動は、相原技研の技術力を知ってるからこそである。

この技研の技術力は蒼羽技研と同等クラスであり、拓海自身はこの技研を高く評価している。

また、拓海は別世界にいる二人の天才――高天原夫妻の存在を知っており、今目の前で話している雪菜は、それと同じくらいの天才である事も見抜いている。

そんな彼女が何故、蒼羽技研の技術を必要とするのか……拓海はそれが疑問だった。

「雪菜さん、一応言っておきますけど、うちの技術は応用次第では本当に危険な技術もあるんですよ?

 大体、そっちの技術者達はあなたも含めて相当の実力の持ち主でしょう?」

『とりあえずはその点も含めて、今から話すわ。それを聞いた後の判断は、あなたに任せるけどね』

拓海の態度に、雪菜は苦笑を浮かべながらそう言う。お互いの技術に機密が多い事は彼女も知っている。

だが、そこを踏まえて尚、今は目の前の小さな天才の協力が必要なのだと彼女は実感しているのだ。

『相原技研の開発第二班は覚えてるわよね?』

「ええ、直人さんの所属する所ですよね。

 あそこの機体は少し尖ってますが、良い機体が多いので、またお邪魔したいと思っていますが……」

『その暁さんの所の機体が、先日負けたのよ』

「……なんですって?」

雪菜の言葉に、拓海は露骨に表情を変える。

『しかも、その負けた機体は……アルトアイゼンよ』

「まさか!? あの機体の近接攻撃力はそっちの第二世代最強レベルで、並の第三世代では歯が立たない筈でしょう!?」

拓海が信じられないと言ったように叫ぶ。彼が技術譲渡を渋った理由はここにある。

蒼羽技研の技術の結晶であるエアリオルは、その機能から分類上は第三世代に分類される。しかし、相原技研はそれと同等の能力を第二世代で確立していた。

また、状況によって『構想』を瞬時に変えるエアリオルに対し、相原技研・開発第二班の機体は、コンセプトに特化している分、互いに戦術を補う機体となっている。

つまり、操縦者の技量だけでエアリオルと互角以上の戦いが出来る可能性を秘めた機体が多いと言う事。

その機体が負けた事実が、拓海には信じられないのだ。

「一体誰に負けたんですか、雪菜さん!?」

『落ち着いて、拓海君。君らしくないよ』

取り乱す拓海に対して、雪名は静かに落ち着かせる。

「……っ!? そうですね……取り乱しました」

少しだけ頭を振って、気持ちを落ち着かせる拓海。だが、納得は出来ていない。

自分が知る限り、第二世代最強の攻撃力を有すると謳われた後付武装(イコライザ)である灰色の鱗殻(グレースケール)、それを遥かに凌ぐ高スペックを保持するアルトアイゼンが敗北したのだ。到底信じる事は出来ない。

ましてや、あれを超えるISは並の技術で開発できるものじゃない。その事実が尚更、拓海の頭を混乱させているのだ。

「とりあえず、聞かせてください。誰に負けたんですか……?」

『詳しくは私も知らないけど、ドイツの第三世代って聞いているわ。1対1の戦いだったらしいけど……』

雪菜のその台詞に、拓海はすぐ得心を得た。

「ドイツの第三世代の切り札、【AIC】か……!」

AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)――PICを発展させた慣性停止結界と呼ばれるドイツの第三世代の切り札である。

様々な欠点はあるものの、1対1における戦闘においては絶大な威力を発揮する兵装であり、格闘戦に特化したアルトアイゼンが負ける理由としても納得できる。

「確かに、実弾兵装が多く突撃力に特化したアルトがあの兵装で無効化されれば、攻撃力が激減する……そこを叩かれたわけか…!」

『……凄いわね。たったこれだけの情報で、直ぐにそこまで予想できるなんて…』

拓海の的確な予想に、雪菜は驚きを隠せない。

「曲がりなりにも主任を任されている身……各国のIS情報は随時収集しているんですよ」

【敵を知り、己を知れば、百戦危うからず】……修夜の師である白夜の金言(きんげん)である。

それは技術者である拓海にとっても重要な意味を成しており、彼自身、各国のIS情報は普段から欠かさず収集しているのだ。

「しかし、ただそれだけであなたが僕を頼るのもおかしな話ですね……。

 負けた理由としては納得できましたけど、そもそも慣性を停止されたら、幾らアルトでも攻撃手段が無くなるのは自明の理でしょう?

 というか、コンセプトがほぼ極限にまで高められているあの機体を更に強化するには、理由が弱すぎます」

『そうね。けど、クリス――アルトの専属パイロットなんだけど――が言うには、負けたと言う理由で強化申請をしたわけじゃないのよ』

「と言いますと?」

拓海の台詞に、雪菜は少し苦い表情を浮かべる。

『彼女が言うには、相手がアルトを屑鉄呼ばわりした挙句、最弱と言い放ったそうなのよ。

 そして、それを作った暁さんを侮辱した……だから、叩き潰すために強化して欲しいって』

「…………」

『……拓海君?』

彼女の言葉を聴いて、急に黙った拓海に対して、雪菜は呼びかける。

「……けるな…」

『えっ……?』

「ふざけるなよ……あの機体が、最弱だって……? 屑鉄だって……!?

 開発した人の気持ちを、機体に込められた想いを何だと思っていやがる……!!」

拓海が発した言葉に、雪菜は少しぞっとした。言葉使いが違うのもあるが、彼のその言葉に、確かな怒りを感じ取ったからだ。

まるで、自分か自分の大切な人を馬鹿にされている……そんな怒り方だったから。

「雪菜さん……その技術提供の件、承諾しましょう」

『本当?』

「ええ、ただし……こちらからの条件を承諾してもらいます」

拓海は、データを纏めながら言い始める。

「……僕が協力する以上、必ず勝ってもらいます。無様に負ける事すら許しません」

『それは約束できると思うわ。彼女も、勝つ気でいるみたいだから』

「わかりました。では、必要なデータを言ってください。

 恐らくですが、アルトの件とは別件でもあるんでしょう?」

『そうね。むしろそっちの方が本命かしら』

そう言って、雪菜は必要なものを拓海に伝えて行く。

「なるほどね……。確かに、ヴァイスの機動力を上げるのであればソニックの技術は応用出来るでしょうね。

 ただ、元々極限にまで高められてるヴァイスに、ソニックの技術を使うには少々の無茶があるな。

 となると……」

言いながら、データを纏め上げる拓海。

「大体こんなところでしょうね。基礎的な部分と、応用理論を纏めておいたので、後はそちらなりに改修していただければ、直ぐに確立できると思います」

『ありがとうね、拓海君。……あら、何か違うデータも混じっているみたいだけど……?』

疑問を言ってくる雪菜に対して、拓海は言う。

「それは僕からの餞別です。アルトの強化に役立ててください」

拓海がソニックのデータ以外に送ったもの……それは、エアリオルの構成に使われている武装データの一部だった。

「直人さんなら、そのデータでアルトやヴァイスの強化の幅を広げられると思います。

 それに、ヴァイスだけうちの技術の応用を使って、アルトはそうじゃないのは不公平ですしね」

『なるほどね、拓海君らしいわ』

拓海の言葉に、雪菜は笑いながら頷く。

「それと、これも送っておきます。もし、僕以外の助力が必要になったのなら、頼ってみるのもありでしょう」

そう言いながら、拓海は送ったものとはまた違うデータを雪菜に送信する。

『これは……?』

「こことは違う世界に所属する『天才』の連絡先です。

 彼女たちもまた、そちらに興味を示すでしょうし、何かあれば協力してくれるはずです」

『随分とコネがあるわね……君は…』

送られてきた連絡先を保存しつつ、雪菜は呆れながら言葉を紡ぐ。

「まぁ、あの人と付き合っていると、自然にね」

その言葉に、拓海も苦笑を浮かべながらそう返す。

「とりあえず、予めこっちから紹介しておきますので、後日挨拶に行って下さいね」

『わかったわ。それじゃ、今日はありがとうね、拓海君』

そう笑いながら言った後、雪菜は通信を切るのだった。

「……ふぅ」

その様子を見た拓海は、溜息を吐く。

「まったく、僕も甘くなったものだよね……」

本来であれば向こうの技術は、蒼羽技研の技術は必要ないと判断できるレベルだった。

だが、それを考慮に入れて尚、拓海にとって今回の件は見過ごせなかった。

アルトアイゼンは別世界の機体なのは承知している。だが、魂を込めて作られたものに、世界は関係ない。

単純に悔しかったのだ。技術者が魂を込めて作ったものを、何も考えずに馬鹿にされた事が。

人と言う存在が、その技術の粋を集めて作り上げたものを、どうして馬鹿にする事が出来ようか。

それが別人のものであれ、拓海に取っては敬意を表せる人が作ったものなのだから……。

だからこそ、拓海は協力した。自分の支援で、雪菜たち技術者陣が、相手を見返すと信じて。

「……僕が今出来るのはアレで精一杯。後は、あなた達の仕事ですよ。雪菜さん、直人さん……」

遠くを見つめるように呟く拓海。

出来る限りの支援はした。後は、自分の技術を正しく使ってくれる事を祈るだけだ。

「さてと、後は那美さんのところに連絡を入れておかないとね。

 あの人の事だから、嬉々として自分から協力に行きそうな気もするけど……」

そう言って、自分が知るもう一人の天才の行動を思い浮かべながら、苦笑を浮かべつつ、通信の準備を始める拓海。

 

――技術者達の夜は、まだまだ続くのだった……。

 




と言うわけで、アリアンさんのIS二次【IS〜凶鳥を駆る転生者〜】とのコラボ話です。
突貫工事気味なので、文章としては荒いですが(汗
また、アリアンさんのご要望もあり、赤い変体さんの【IS~転生者は頑張って生きるそうです~】とのコラボフラグもこちらで立ててみました。
赤い変態さんのほうには予め許可を得ているので、誤解なきよう願います。

詳しい経緯は、アリアンさんの作品を見れば分かると思いますので割愛とさせていただきます。
しかし、蒼羽技研の技術を使ったアルトとヴァイスか……うん、燃えるな。

ではでは

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