IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~   作:龍使い

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幕間『新たなる世界と苦労性の事務員』

「やれやれ、女子のエネルギーは侮れないね……」

寮の自室に戻った拓海は、少しだけ溜め息を付くように呟く。

時刻は既に八時半過ぎ。今でも行われている、一夏のクラス代表就任パーティーの予想以上の盛り上がりに、流石の拓海も精神的な疲れを感じずにはいられなかったようだ。

自分でこれなのだから、終了した後の修夜や一夏は相当疲れているのは容易に想像できる。

「みんな、明日の学業に影響が出なければいいけどねぇ……」

そんな事を呟きながら、コーヒーを入れつつパソコンを起動する。

多少疲れこそあるものの、蒼羽技研で何日も徹夜したりする日々を過ごしている拓海には何時もの事である。

むしろ、五時間以上の睡眠が取れるだけマシと言うもの。エアリオルの稼動実験の時は、その調整作業で睡眠時間三時間やそれ以下なんて当たり前だったのだから。

「まぁ、それで何があっても彼女達の自業自得ではあると思うけどね」

コーヒーを入れ終えて席に着く拓海は、苦笑しながら呟き、画面に目を向ける。

「……うん?」

画面を見ると、コールメッセージが表示されていた。それも、音声チャットではなくWCSを使ったコールだ。

確認すると、そこに表示された発信者名を見て、拓海は少しだけ驚く。

「随分と珍しい人から連絡が来たなぁ。最後に話したのって、三ヶ月前にテスト通話した時じゃなかったっけ……?」

そう言いつつソフトを起動、通話を開始する。

『お、漸く繋がったな。久しぶりだな、拓海』

「お久しぶりです、祐二さん。珍しいですね、そちらから連絡を入れるなんて」

画面に映った黒髪黒目の男性に対して、そう応える拓海。

長谷川裕二(はせがわ ゆうじ)――高天原夫妻同様、別の平行世界にいる拓海の知り合いの一人である。

数ヶ月ほど前に、極々稀に起きる次元の自然現象に巻き込まれてこちら側の世界に転移した所を、拓海達が保護し、それ以来の付き合いとなっている。

もっとも、彼が自分の世界に帰ってからと言うもの互いに忙しい状況だったのか、連絡を取ったのはそれこそ三ヶ月前のテスト通話が最初で最後と言う有様だったのだが……。

「それで、どういう用件ですか? こちらに来ると言うのなら、僕から白夜さんに連絡を入れておきますけど……」

『いや、今日は君に俺の後輩を紹介したくてな』

「後輩ですか?」

『ああ、今変わるよ』

そう言って祐二は画面を移動させ、優しそうな雰囲気を持った男性を映す。

『えっと、会長……どなたですか、この人は?

 と言うか、何でこんな事のために私を呼んで……』

『良いから自己紹介しろ、蓮』

祐二にそう言われ、若干怯えながらも蓮と呼ばれた青年は拓海に言葉を紡ぐ。

『……えぇっと、初めまして。犬林蓮(いぬばやし れん)と言います。職業はIS学園の事務員をしています』

「ああ、あなたが祐二さんが言ってた後輩さんですか。初めまして。

 僕は相沢拓海、蒼羽技研の主任兼IS学園の外部協力員をしています」

『……へ? 蒼羽技研……? 外部協力員……?』

拓海の自己紹介に首を傾げる蓮。それもその筈、蒼羽技研も外部協力員の立場も、こちら側の事なのだから。

だが、彼の反応を見た拓海にはある予測が立ち、念のためにと問いかけてみる。

「……祐二さん、説明してなかったんですか?」

『その方がこいつの反応が見れて面白そうだと思ったからな』

「……あのねぇ…。事情も知らない人にそう言うことしてどうするんですか…」

祐二の言葉に呆れた表情で返す拓海。少しだけ頭が痛くなったのは内緒である。

『へ? え? あの、どう言う事ですか?』

「とりあえず、落ち着いて聞いてください、蓮さん。あなたが今通話に使っているソフトは、【Would Connect System】と呼ばれる世界と世界を繋いで会話をする、通話ソフトです。

 そして、僕はそちらの世界とは別の世界……分かり易く言えば、平行世界に住む人間なんです」

『………………はい?』

拓海の説明に思わず固まってしまう蓮。それも当然の反応だと、拓海は思う。

幾ら祐二の知り合いだからと言って、何の説明もされてなければ、拓海の言葉は電波と言われても仕方のないことである。

いや、説明されてたとしても、普通の一般人ではこんな事を聞いた時点で、即救急車を呼ばれるのがオチだろう。

「……まぁ、とりあえず順を追って説明しますので、落ち着いて聞いてください。分からないことがあれば、質問していただければ、答えますので」

少しだけ苦笑を浮かべつつ、拓海は相手に分かり易いように説明を開始した。

 

――――

 

『……驚きですね。まさか、会長にそういう知り合いがいたなんて……』

「その割には、随分と冷静な気もしますけど……」

『いやまぁ、会長ならありえるかもなぁ……って思ってましたし』

『ほぉ……それはどういう意味だ、蓮?』

『いえ、特に深い意味はないです!』

状況や経緯の説明も終わり、何気ないやり取りをする二人に、拓海は思わず笑ってしまう。

「それにしても、そっちは大変みたいですね。千冬さんや一夏の周囲関係を聞く限りだと……」

『そうなんですよ……。織斑君の周囲は問題起こすし、当の本人は気づかないし、織斑先生は織斑先生で理不尽な事を言いつけて来るし……!』

拓海の言葉に、蓮は本当に辛そうに言葉を紡ぐ。

説明の合間に、向こうの世界の状況も交えて話していたことと、平行世界とは言え自分の知り合いの行動であるので、彼の辛さをなんとなく察せてしまう拓海。

(白夜さんや修夜がいない場合、こうまで唯我独尊なんだなぁ、千冬さん……)

彼女や一夏、そして周囲の行動を聞いているだけで頭が痛くなってくるのは気のせいだと思いたい。だが、目の前の人物が零す愚痴は間違いなく起こった事実。

少しは苦労を軽くしてあげないと、何時か壊れるのは目に見えている気がした拓海は、ひとつの提案をする。

「じゃあ、手伝いに行きましょうか、今度?」

『……っ! 本当ですか!?』

拓海の言葉に食いつくように言葉を発する蓮。その勢いに、少しだけ驚いてしまう。

「ええ、まぁ……。こう見えて、あの人や一夏とは幼馴染みなので、性格のパターンはある程度読めてますし、問題の対処くらいならどうにでも出来ます。

 そちらがご迷惑でなければ……ですけど」

『迷惑だなんてとんでもないですよ! 直ぐにでも来て欲しいくらいで……ぎゃあああああ!』

『落ち着け、蓮。……で、良いのか、拓海?』

蓮にアイアンクローを炸裂させながら、祐二は問いかける。

「まぁ、流石に行き過ぎてますからね、そっちの千冬さん達は。白夜さんと一緒に行って、可能なら少しお灸を据えても罰は当たらないかと。

 時期を考えるとすぐって訳にも行きませんが、早ければ学年別トーナメントの前後辺りだったら少しは暇が取れるでしょうし」

『そ、それでもありがたいですよ。いたたた……』

アイアンクローから解放された蓮が、拓海にそう返す。

『でも、本当に良いんですか? 聞く限り、君は15歳……学業とかだってあるでしょう?』

「別に問題はないですよ。そもそも、主任となった段階で学業の過程はすっ飛ばしてますからね」

あっさりと返答する拓海に絶句する蓮。

『兼業じゃなくて、専門だったんですか……』

「まぁ、色々と理由がありまして……。

 とりあえず、行ける時期が決まりましたら連絡を入れますので」

『あ、分かりました……って、どうやって連絡を入れるんですか?』

蓮はWCSを持っていないので、当然そう聞いてくる。

「とりあえず暫定で携帯を通じて、こちらから連絡を入れます。その後、正式に蓮さんにもWCSを渡しますので、以降の連絡はそちらからお願いします」

『えぇ!? 良いんですか……?』

「ええ、蓮さんも祐二さんと同じように信頼できそうですからね。渡しても問題はないと判断したんです」

『まぁ、それ以前に俺がしっかり口止めしておくけどな』

拓海の言葉に笑みを浮かべて頷く祐二。

『く、口止めって一体……?』

「祐二さんにも言ってあるんですが、こちらの技術は応用次第では悪用も出来る可能性があるので、外部に流出させたくないんですよ。

 特に、束博士のような人の手に渡ったら、どんな事になるか……」

『あぁ、なるほど……』

束博士の名を聞いた途端、妙に納得したかのように頷く蓮。

『分かりました、そういうことなら誰にも話しません。約束します』

「お願いします。それじゃ、そろそろ時間も時間なのでここでお開きとしましょう」

『え……って、もうこんな時間!? しゅ、終電が!?

 そ、それじゃ相沢君、そっちの都合が決まったときにまた!』

拓海の言葉に時間を確認した蓮は、大慌てで部屋を飛び出して言ったようだ。

『やれやれ……慌しく出ていったな』

「それを見越して何も言わずにいたあなたに言われたくはないと思いますよ、祐二さん」

苦笑を浮かべて言葉を紡ぐ拓海に対して、祐二もまた笑みを浮かべて拓海を見る。

その後、お互いに近状を報告して祐二との通信を切った拓海は、スケジュールを確認しつつ、白夜に連絡を取るのだった。

 




アリアンさんの作、【IS-事務員ですが、何か?-】の世界とのコラボ小説です。
前々から作ってはいたのですが、セシリア編が予想以上に長く掛かってしまったため、遅くなってしまいました。
アリアンさん、お待たせして申し訳ありませんでした。

とりあえず、今回の更新はここまでとします。
次からもう少し早く更新したいところですね……せめて、8巻が出る前に2巻に行きたいかな…。

ではでは

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