IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~   作:龍使い

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幕間『理想と好奇心と……』

「今日の試合の戦果は上々、ASBLの方も問題なく稼動したし、これなら【あと二つ】の方も問題はないだろうな」

学園で用意された自室にて、データを整理しながら拓海はにやける頬を抑えずに呟く。

自分や蒼羽技研のみんなで作った技術の結晶が実を結び、勝負に勝てたのだ。嬉しくないはずがない。

同時に、エアリオルを苦戦させたセシリアの実力にも感心していた。初見のソニックに喰らい付こうとしたあの気概……並の努力などでは到底身に付かないものだ。

彼女が真にブルー・ティアーズを動かせていれば、勝負はどうなっていたか……正直な所、興味は尽きないといえる。

「修夜や一夏だけじゃなく、彼女の成長も楽しみになるな、この分だと。

 ……と、それはそうと、注意しとかないとなぁ、あの人達に…」

ふと、データを整理する手を止めWCSを起動し、目的の人物へと接続する。

『……あら、拓海君? こんな時間にどうしたの?』

「一応、注意しておこうと思いまして。

 どうせ、WCSの技術を応用したんでしょうけど、技研にハッキングしてASBLの技術を持ち出すのを止めて下さいね?」

『あら、なんのことかしら?』

拓海の言葉に、那美はどこ吹く風と言った感じの表情で返答する。

「惚けても無駄です。試合終了後、技研の仁美さんからハッキングの報告が二件来てるんですよ。

 その内の一件はあなたか武さんでしょうし、もう一件も想像付きますからね」

呆れた表情で拓海は言う。

蒼羽技研は、その技術から世界でも異常とも言える程の鉄壁のハッキング対策が施されている。それは、あの篠ノ之束博士ですら全て突破するのにかなりの時間が掛かると言われる程の代物だ。

それを理解した上で試す者は、拓海が知る限りで、篠ノ之束博士か画面に映っている高天原那美とその夫である高天原武の規格外夫婦くらいである。

『ばればれな訳ね。異常なほどのハッキング対策だとは思ってたけど、まさか世界を超えてのハッキングにすら対応しているなんてね……』

「あなた達にWCSの技術を渡した段階で予想してましたからね……こうなるのは……」

那美の言葉に拓海は、溜め息と共に言葉を吐く。

 

(推奨BGM:引き裂かれしもの(Xenogears))

 

「わかってるんですか? あなたと武さんのIS技術は既に、そちらの軍事バランスを崩壊させかねない程の領域なんです。

 息子さんのISを参考にした、エアリオルと似た換装機能にどんな戦況にも対応出来る装備の豊富さを兼ね揃えたIS……これだけでも各国が量産に対応すれば戦車も戦闘機も要らなくなります。

 その上、ASBLのデータまで持ち出されたら、確実に一人軍隊(ワンマンアーミー)が出来てしまいます。そうなれば、技術を巡って戦争さえ起きかねない。

 あなた達は、世界に戦火を撒き散らしたいのですか?」

『……そうね、仮にそうだと言ったら、どうするのかしら? 拓海君』

拓海の質問に表情を変えた那美は、質問で返す。

「……。もしそうだと言うのなら、あなたと武さんのところにあるWCSとそれに関連するデータの全てをこちらから破壊します」

彼女の言葉に、真正面から反論する拓海。

「ISは兵器やスポーツだけの存在じゃない。【無限の可能性】を秘めた【翼】なんだ。

 その技術は、決して闘争と言う世界の中だけで進歩させて良いものじゃない。だから僕にとって、ISもASBLもそんな世界で収まらせるわけにはいかないんです!」

『だけど、技術の進歩は常に闘争の中で行われてきた事は事実。仮に、私達にASBLの技術が渡らなかったとしても、いずれ技術はさらけ出され、争いの火種を生み、その道具となる。

 拓海君……あなたの言っている事は、同じ技術者から言わせてもらえば、ただの理想論に過ぎないわ』

「……そうでしょうね。ですが、僕は現実だけで技術を開発してるわけじゃない。青臭い理想論を並べて、それを実現するために精一杯足掻いてるんです。

 そんな僕の考えを、修夜や技研のみんなが賛同してくれている……! だからこそ、この技術を醜い闘争の中だけで進歩させるつもりはありません!

 例えその結果、世界中を……全てを敵に回したとしても……」

そこで拓海は一度言葉を区切り、那美を見据える。

「僕は、自分の信じる道を貫きます! それが、僕がかつてあの人に誓った決意なんですから!」

拓海のその言葉には、深い決意と同時に、何かに対する怒りと悲しみの感情が混じっているのを那美は感じていた。

『……ふふ、ごめんなさい、拓海君。試すような言い方をして。

 心配しなくても、私達もそんなつもりでISを作ってるつもりはないから安心して。

 今回はただ、好奇心に勝てなかっただけなのよ。君の技術は、応用次第で様々な分野に影響を与えるって、気づいちゃったからね』

微笑んで言葉を紡ぐ彼女の言葉に、拓海は再び呆れた表情になる。

「なら、ハッキングなんてせずに堂々と連絡をくださいよ……」

『あら、ばれなければ問題なんて発覚しないでしょ?』

拓海の言葉に、笑顔でとんでもない反論を返す那美。

「やっぱり破壊しますか、そちらにあるデータ全部……」

『嘘嘘、冗談よ。本気にしない♪』

「……まったく、あなたと話してると白夜さんと話してる気分ですよ」

頭を抑えながら呟く拓海。その精神的疲労は、かなりのものだろう。

 

(推奨BGM:Shape Memory Alloys(アーマードコア))

 

「とりあえず言っておきますけど、そちらのISであってもASBLそのものは対応できませんよ」

『あら、どうしてかしら?』

拓海の言葉に、那美は少しだけ表情を変える。

「元々エアリオルにしか使えないようにしている上、技術構想が独特なんですよ。

 ですから、システムそのものをそのまま、そっちのISに使うのは僕やあなた達でも不可能です」

そう断言して、拓海はデータ画面を開く。

「元々、バックパックの換装に対応しているそっちのISと違って、こっちはISそのものを変更させてますからね。

 換装領域(シルエット・スロット)を応用すればバックパックに対応できるでしょうが、それでも限界があります。

 そもそも、そちらの豊富な装備に対応できるように作ってませんからね、このシステムは」

『それでも、応用が出来れば使えるんでしょ?』

「時間は掛かりますが、基本データと稼動データさえあれば……」

そこまで言って、何度目かになる溜め息をつく。

 

(推奨BGM:大空と雲ときみと(Xenogears))

 

「……要するに、諦める気は無いって事ですね? 那美さん……」

『もちろん。使える技術は全て使う……それが高天原家の信条よ♪』

「はぁ~……」

拓海は片手で頭を抑える。白夜さん同様、口論じゃこの人には絶対勝てないな……そんな思いが脳裏に過ぎるほどだ。

「わかりました。こちらの技術の一部を提供しましょう」

『あら、いいのかしら?』

「またハッキングされて、万一外部に情報が漏れたりするよりマシです。今からデータの一部を纏めて、そちらに送りますよ。

 ただし、こちらの条件をのんでもらいますからね」

そう言って、拓海はデータを纏めながら、その条件を口にする。

「1.WCSを渡した時と同様、こちらからの技術は決して外部に流出させないこと。

 2.技術使用対象は確実に信用できる人物にしかしようしないこと。

 3.使用した技術はブラックボックス化し、解析できないようにすること。

 4.技術の詳細を誰かに教える場合は必ず僕に連絡を入れること。相手が息子さんである凪君やそちらの束博士であっても、この項目に準じます。

 以上の条件を厳守してくれるのなら、こちらの技術を提供します」

『随分と条件が多いわねぇ』

「僕達、蒼羽技研の技術は応用次第では未来への翼にもなりますが、殺戮兵器にもなりえる可能性がありますからね。確実に信頼できる人だと判断出来ない人に教える訳にはいきません。

 大体、これでも那美さん達を信頼して少なくしたくらいなんですよ?」

『…………』

拓海の言葉に、彼女は小さく微笑む。自分と同じ、もしかしたらそれ以上の技術を持っている小さな技術者が信頼していると言うのだ。同じ技術者として、嬉しく思ってしまう。

『わかったわ、約束しましょう。

 けど、私達ばかりが貰っていては、フェアではないわ。こちらからも出来うる限りの技術を提供をしましょう。

 そうすれば、そちらの技術の幅も広がるはずだわ』

「今のところは間に合っているので、問題ないです」

『つれないわねぇ……』

残念そうに呟く那美。そんな彼女に拓海は言う。

「過ぎた力は己の身を滅ぼすって言いますからね。ただ、本当に必要になったその時は、連絡を入れますよ」

そう言って、拓海は厳重にハッキング等の対策を施したデータの一部を転送する。

「とりあえず、ASBLの基本データの一部と今回こちらで行われた試合映像、ゼファーとソニックの基本データを送りました。

 残りのデータは、纏め終え次第送ります。再三言いますが、条件は守ってくださいよ?

 万一にも裏切ったりしたら、こちらから乗り込んでデータを破壊しますからね」

『わかってるって♪』

(……本当にわかってるのかな…)

それこそ何度目になるかもわからない溜め息をつきながら、拓海は思う。

『それじゃ、無事届いたみたいだし、早速解析してみるわね』

「……届いてすぐにですか。と言うか、気になってたんですが、ASBLやエアリオルを解析して、何に使うつもりですか?」

『そうね……。現状だと、『アウト』から『ゲイル』への高速変換に対応させるくらいかしらね。

 前にも話したと思うけど、あの子はコア一つで二機のISを使う予定だし、そっちの考えは大切にしたいしね』

それを聞いた拓海は思わず頭を抱えた。

(その為だけに、あの技研の高度なセキュリティに挑むとは、どれだけ好奇心旺盛ですか、この人は……)

この人の規格外度は、ひょっとすると自分の想定以上なのでは……とさえ思っている拓海。

「……一応言っておきますけど、データは完全ではないので即応用しないでくださいよ?

 変なエラーが出ても、こっちは責任取れないんですから」

『大丈夫よ。応用するとしても、そっちのデータが完全に揃ってからの方が、こちらとしても都合が良いしね。

 でも、こちらなりにデータを纏めた後に、目を通してもらっても構わないかしら?』

「その程度でしたら何時でも」

『約束よ。それじゃ、何かあったらまたね。

 後、こちらからの技術提供の件、考えておいてね♪』

「検討しておきます、それでは」

そう言って、拓海は通話を切る。

「……まったく、あの人の研究熱心さには僕の【師匠(せんせい)】を連想させるよ…。

 案外、全部のデータを渡したら、向こうのISにASBLの進化データとかを組み込みそうだ……」

溜め息を付きながらも、少しだけ楽しそうな表情をする拓海。

「けど、久しぶりだよ。本当に……」

 

――技術関係でこうも振り回されながらも、楽しいと感じるこの感覚は……ね。

 

――――

 

因みに、この技術提供の件は思いの他早く行われる事になるのだが、この時の拓海はそれを知る筈もなく……。

「さぁ、拓海君から連絡が来ても良いように、頑張って解析するわよ~♪」

解析した別世界の技術の高さに感心しつつ、その応用理論、果てはASBLの強化理論や新システム理論まで、しっかりと纏めている人妻技術者の実力に驚く事になるのだが、それはまた別の話……。

 




赤い変態さんのところで立てられたフラグに少しでも繋げるために書き上げた間幕です。
因みにこれは、随分前に書き上げましたが、相方の手は入ってません。この辺りの領分は、相方じゃ少し厳しいらしいので。直す場合は頼るしかないですが……(汗
そして、深夜のテンションで書き上げた原文を、赤い変態さんの意見を元にある程度改定しましたが……これで問題ないだろうか?(汗
少しだけ不安です(汗

さて、今回は拓海と凪ママの問答を中心に、こちらの技術の一部を向こうに提供するという形で話を進めてみました。
そして、その技術を一部だけとはいえしっかりと解析して応用すると言う、凪ママの規格外度に拍車をかけてみました。
多分、これくらいなら、あの凪ママは絶対する……そんな確信がありますので(汗

ご意見などがありましたら、感想かメッセージにて連絡ください。
ではでは

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