IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~   作:龍使い

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本日のIBGM

○英国淑女の意地
The Party Must Go On(戦国BASARA)
http://www.youtube.com/watch?v=9s4H8WYJYJg


第八話『蒼空舞う風獅子の翼・後編』

セシリアがビットを放つのを見ると同時に、修夜はバーニアを目いっぱい噴かして急加速に入る。――その瞬間、火の入ったバーニアは空気を叩きつけるような炸裂音とともに修夜を上空高く押し上げる。

見るみる内に高度を上げる修夜だが、ふと上空1000mも行ったところでしりすぼみに止まった。

「――――っぱあ!!」

《だ……大丈夫、マスター…?》

「やっべ……、ゼファーと同じ感じで思わず飛ばしてみたけど、コイツは上がりすぎだろ……」

先ほどまでゼファーの汎用的な加速で、ブルー・ティアーズの攻撃をギリギリで避けていた修夜は、その感覚をソニックで出してしまった。結果、本来ならあっさりと避けるだけの予定が勢い余って地上1000m上空まで到達してしまったわけである。

「一応…、アリーナの円周からは飛び出てないよな……?」

《飛び上がったときの角度のおかげで、位置的には観客席ギリギリだよ…!》

それを聞いて胸を撫で下ろすとともに、修夜は改めてソニックの加速性に武者振るいを覚える。

「すっげー……、凄すぎるだろ拓海……蒼羽技研のみんなも……!!」

これなら、本当に何処までも飛んでいける気がする。その抑えきれない感動と興奮が、修夜の“夢”への希望を大きく刺激する。

《ま…、マスター、とりあえず試合に戻らないと……!》

明後日の方向に思いを巡らしかけた修夜は、小さな相棒の忠告に我に返る。今はじゃれているような場合じゃない、自分を落ちつかせるよう一度深く呼吸をすると、眼下に小さく見えるアリーナ・ステージを見下ろした。

「……すまない、悪かった。シルフィ、アレを頼む!」

《まかせて! 汎用射程リニアライフル《イーグルハンター》、現出(セットアップ)!!》

戦いへと完全に思考を切り替え、シルフィの呼び出し(コール)によって取りだされた大振りな銃を手に取る。

「もう一度仕切り直しだ、行こうか、シルフィ!!」

《オーケー、いこうマスター!!》

そう言い合うと、俺達は眼下でこちらを見上げているはずのオルコットを目指して垂直に降下していく。

 

――――

 

一方、ピット内のモニターに映し出された光景に、拓海以外の全員が呆然としていた。

拓海はというと、モニターから流れてくる映像を嬉々として取り込みながらデータの収集に入っている。

「なに……あれ……」

真耶は呆気にとられながらも、どうにかまず声を出して現状を問うてみた。

「ISが……変わった……」

「修夜が……凄まじい速度で飛んで行った……」

「なんなんだ……この状況は……」

残る三人も、とりあえず正直な感想を口に出してみるのだった。

とりあえず目の前の不思議現象にどうに納得しようと試みるも、あまりの衝撃に三人ともが思考回路に不備を起こしていた。

「た…拓……じゃないな、相沢主任、さっきのはいったい何なのだ…?」

ここにおいても、やはり思考の復旧が一番早いのは千冬だった。伊達にIS学園という特異な環境で、何年も教師を務めてはいないようだ。

「何時も通りに『拓海』で構いませんよ、千冬さん。……あっ、ここは公式な場だから、その方が良いですよね。すみません」

千冬に言葉を投げかけられた拓海は、依然として画面を見ながら彼女に答える。

「いや、それは別にいい……。それよりも……」

「エアリオルの『変形』についてですよね、アレは【ABSL(アセンブル)システム】と呼ばれるエアリオルの“固有機能”ですよ」

ここに来て拓海は、聞き慣れない“不思議現象の正体”について語りはじめる。

「固有……、『単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)』のことか?」

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)――、それは各ISが操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する能力である。

能力の発現には、まずISが第二次移行(セカンドシフト)、つまり操縦者とISの一体化が一段階促進された状態になる必要がある。次に第二形態(セカンド・フォーム)になる、要するにISそのものが一段階進化した形態へと変化することである。これら二つの条件を満たした状態でのみ、ISは自分を扱うその操縦者の能力をより強く発揮させるために、新たな力を発現させるのである。それが『単一仕様特殊能力(ワンオフ・アビリティー)』と呼ばれるものである。

無論、その力を得るには並ではない苦労と経験が必要となる。そのISを理解し、そのISに愛された者だけが見いだせる、新たな可能性の境地なのである。

「あ~、確かに言葉は似てますけど、それとは全然違いますね。そもそもエアリオルの『単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)』はもっと別のものを“考えて”いますし……」

千冬の回答に対し、まるでクイズに外れたかのような言い方をする拓海。そんな受け答え中でも、拓海は修夜のカッ飛んで行った映像を何度も見直して何かの計算を打ち出している。

「じゃあ、あれはただの『第二形態(セカンド・フォーム)』なんですか?」

ここに来て真耶をはじめ、残りの三人が落ち着きを取り戻す。

「それもハズレですね。……というか、エアリオルはそもそも『第二形態(セカンド・フォーム)』にすら行き着いてはいないんですから」

自分の知ることを淡々と語る拓海。

「簡単にいえば、アレは拡張領域(バススロット)による後付装備(イコライザ)の換装の応用のようなものです」

「…なんだと……?」

ISには、物体を量子化して電脳空間に保管する機能が存在する。ただの装身具が厳めしい金属パーツを発生させ、人にそのパーツを装着させるのもこの超技術の賜物である。量子化とは、もろもろ噛み砕いて言えば物体を電算データに変化することだ。SF作品で人がコンピュータ世界に侵入したり、物体をデータ化して転送している、あれと同じ感じというぐらいの認識で構わないはずだ。

この技術を応用して、ISにはあらかじめ予備の装備をしまっておける収納スペースがあり、これを『拡張領域(バススロット)』と呼んでいる。そしてこの拡張領域にしまってある予備装備のことを『後付装備(イコライザ)』と呼んでいる。なお、これとは別にそのISに元から配備してある武装を『基本装備(プリセット)』という。

「え? えーっと、アレだ…ってなんだ? なぁ、俺にも分かるように説明してくれよ…!!」

どうやら一夏は再び脳機能の停止に入りそうである。

「落ちつけ一夏、あとで私が説明してやる…!」

箒がテンパる一夏に対し、すかさずなだめにかかった。それを受けて、一夏も釈然としない顔をしつつ落ち着きを取り戻す。その箒も、一夏をなだめ終えると、妙に得意顔になっていた。

「アレだよ一夏、特撮変身ヒーローの“フォームチェンジ”ってあるでしょ。アレとおんなじみたいなものさ」

「あぁ、なるほど!!」

珍妙な顔をして悩んでいた一夏が、拓海の一言で目から鱗が落ちたかのようなリアクションを返す。男の子限定の“鶴の一声”である。対して箒はというと、自分のお株を取られてしかめ面を浮かべていた。

「え~っと、つまり真行寺君のあの姿は、基本的に『後付装備(イコライザ)』で一気に武装を変えた姿ってことですか?」

なんとなく合点が行ったような、そうでないような微妙な顔で真耶が自分の考えを声に出してみる。

「当たらずしも遠からず、ってところですね」

真耶の問いに答えつつ、拓海も説明を続ける。

「正確には『拡張領域(バススロット)』とは違う、改良領域(カスタマイズ・スロット)換装領域(シルエット・スロット)という固有の登録領域を持っているんです。武器は改良領域(カスタマイズ・スロット)に、IS本体の機能装備は換装領域(シルエット・スロット)に格納しておき、それらの戦況に合わせて瞬時に換装することができるんですよ。それこそ、変身ヒーローの形態変化みたいにです」

分かったような分からないような、それでいてなんとなく納得できたのか、真耶はなるほどと頷く。

だが、千冬と箒は再び拓海の告げた事実に驚嘆の色を見せていた。

特に千冬は、久方に再会した拓海の成長に一種の“怖さ”すら感じていた。

(この才能、この発想力、まるでアイツとおんなじではないか……)

千冬は、今はどこかで奔放に過ごしているであろう“親友”に思いを馳せ、その面影を拓海に重ねる。

(拓海、お前は……)

箒もまた、千冬ほどISには通じてはいないものの、いまも自分の記憶に居座り続ける、千冬の親友たる“姉”の姿を思い起こす。

「さて、こうしているうちに修夜が上から戻ってきたみたいだよ」

拓海の言葉に、一同は再びピット内のモニターに目を移した。

 

――――

 

アリーナ・スタジアムの戦い――。

 

セシリア・オルコットは焦っていた。

さっきまで手心を加えていたぐらいの相手が、もはや自分の理解の範疇を超えた存在と化していたのだ。

自分は野良犬か野良猫を追い払っているぐらいだったはず。それがいつの間にか、“風そのものに化けるモンスター”と対峙しているようなそんな気さえ起こしていた。

(なんて……なんて迅さ(はやさ)ですの……!?)

『迅い』。英語にどれぐらいの速さの概念があるかは分からない。だか平素は“速い”とするところを、セシリアの気分を拾えばもはやその文字は当てはまっていないのである。

ときに凄まじく速いことを“疾風迅雷”と言い表すが、学園新入生でも最高のIS操縦者と目されるこの少女を以ってして、エアリオル・ソニックの速度は尋常ではないのである。

たしか小さい頃に、本で『マンティコア』とかいう風のように速く飛べるライオンの怪物のことを読んだことがあると、彼女の脳裏に遠く朧げな記憶が甦る。

修夜が上空から復帰して以降、その戦況は完全に逆転した。

初撃は修夜のイーグルハンターによる垂直降下での強襲射撃、それを直感でセシリアは回避するも、そこから完全に修夜のペースに呑まれていった。

スターライトのレーザーは、発射と同時に射線から修夜が消えるため当たらない。ブルー・ティアーズのビット攻撃も、取り囲んだ瞬間に上空へとすぐさま抜けられてしまう。

絶えず攻撃を繰り出し、持ち前の機動力で撹乱することで、どうにかイーグルハンターの有効射程には捉えられてはいないものの、それでも修夜は隙をついて接近してセシリアのシールドエネルギーを着実に削っていった。

セシリアの現在のシールドエネルギー、現在234ポイント。

中距離での機動戦を得意とするものは、常に動きながら一撃離脱やヒットアンドアウェーで翻弄するのが定石である。特にブルー・ティアーズのようなビット兵器を搭載したものは、ビットによる包囲攻撃で相手を封殺し、その隙をついて高火力の砲撃を見舞うのが一番効率が良い戦術だ。セシリアの今の兵装は、まさにこの攻撃を理想として構成されている。

しかしこれは同時に致命的だった。

修夜が見抜いたセシリアの弱点――『ブルー・ティアーズのビットはセシリアの命令がなければ動かない』、『セシリアも制御に意識を集中するためそれ以外の攻撃が出来ない』、この二つの欠点が驚異的な速度を誇るエアリオル=ソニックを捉えることに対して、完全に足枷となっていた。まして風のように動き回る修夜を捉えようとすることは、相当な精神集中を必要とする。

セシリアはシールドエネルギーが示す数値以上に、精神的な疲労に襲われていた。

(ブルー・ティアーズとスターライトを、せめて同時に使えれば……!!)

セシリアは内心で歯がみした。

それは今まで力を隠して自分を翻弄している修夜に対してではなく、スターライトmkⅢとブルー・ティアーズを同時に扱えない自分の不甲斐なさに対してである。

重ね重ね言うが、セシリアは学園新入生の中でも特に秀でたIS操縦者である。決して自分の才能に慢心して己を磨くことを怠った温室育ちではない、確かな努力の積み重ねを経て「今」に至っている。

その彼女にとって、エアリオル・ソニックを操縦する修夜は、今までの自分では通用しえない『規格外の相手』なのだ。

(早く……、早く、向こうが自分の『迅さ』に慣れてしまう前に――!!)

 

――――

 

上空1000mの愉悦から帰還した俺は、相手の弾幕に続き別の難敵と対峙していた。

「シルフィ、どうだ?」

《う~~ん、もうちょっとかかるかも……》

エアリオル=ソニックは、俺の求める『勝利の確信』を確かにもたらした。

もたらしたは良いが、肝心の迅さが“足り過ぎ”ているのだ。

「まったく、本当ならもう決着をつけておきたかったんだけど……」

《だからそれは、ごめん……ってマスター、左舷前方からブルー・ティアーズのビット攻撃がっ?!》

シルフィからの警告を受け、俺はすかさず回避の態勢に入る。

セシリアからの攻撃を回避するうちに、加速の緩急自体には徐々に慣れてきた。だがどういうことか、ときおり加速が急激に上がって急停止が効かずに飛び過ぎてしまう。

シルフィ曰く、量子転換(インストール)急いだ代償として、試合には急いで必要のないであろうデータをいくつか圧縮したままにしたらしく、その中によりもよって『PIC』とバーニアの連携に係わるデータも混ぜてしまったのだという。

PICとは『パッシブ・イナーシャル・キャンセラー』というISの機能の一つである。

拓海曰く、この宇宙に生きている以上は自由な動きが制限されるらしい。それは電車に立ち乗りすると、ブレーキやカーブで体が振り回されることと関係しているのだとか。手っ取り早く言えば、『PIS』は世の中に作用しているこの力――“慣性”を極限まで抑え込み、操縦者の負担の軽減とISの自由な動きを実現する装置だ。

そんな大事なものを、何故雑多なデータと混ぜたと問いただすと、シルフィはバツが悪そうに「なんとなく」とぼそりと返した。

当然ながら、それを聞いた俺は言葉を失い、シルフィはあっさり終わるものだと思っていたと言い訳しつつ、盛大に謝罪しながらデータの解答作業を開始して、現在に至る。

迅さを武器に、オルコットの死角へイーグルハンターを撃ち込むことはできる。だがこれが通用したのもはじめのうちだけで、今さっき打ち込んだ弾丸は寸前で回避され、空を切っていった。

(オルコットのヤツも、ここに来てギリギリで俺の攻撃をかわすようになってきやがった……!)

そう思っていると、スターライトからの光線がこちらに飛んできたので、これを旋回しつつ回避する。

シールドエネルギーの残量は291、ほとんど避けているとはいえ、オルコットの方も意地で食い下がってきやがる。

試合をはじめて50分近くが過ぎた。こちらが反撃に回っているとはいえ、ライフルの弾数も余裕がなくなってきている。

俺は改めて、セシリア・オルコットと言う少女の実力を見せつけられた気がしていた――。

名目上だが五分にまでもつれ込んだ。

俺はいい加減、この辺りで決着をつけたいと思う。向こうはなおさらだろうに。

だがオルコットには俺へ決定打を与える手段が無い。そして俺も、ソニックの行き過ぎるスピードを制御し損ねている……。

それでもPICの調整が終われば勝てる、しかも確実に。

なら今は、出来る限りのことをすればいい!!

「これで…、どうだっ――!!」

イーグルハンターの引鉄を引き、オルコットの死角を目がけて数発撃ちこむ。

一瞬気づくの遅かったらしい、オルコットは今の攻撃に被弾し、衝撃で後ろへと飛んでいく。

《着弾確認、もうすぐだよマスター!》

あぁ、もうひと押しだ――

 

しかし――

 

「……ない」

ふと、セシリアの口から心が漏れる。

「……けない」

それは、次には確かな気持ちへと変わる。

「……負けるわけには……」

そして、気持ちは勝負に対する執念へと変貌し、彼女の体を突き動かす。

「……インターセプター」

その呼び出し(コール)に応じて、細身のレーザーブレードが彼女の手に現れ、握られる。

「…………勝つのは、わたくし……!」

そう呟くと、セシリアはその場から一息の合い間に居なくなっていた。

 

――――

 

《マスター!!》

シルフィはセシリアの異常にすぐさま気が付き、修夜に警告を告げようとする。

「分かっている!!」

だが、この手の感覚に関しては修夜の方がより早く感じ取っていた。

気配の方へと振り向くと、その主は(ほむら)立つような殺気を纏って修夜に猛然と迫ってきた。

「シルフィ、格闘戦武器だ!!」

《りょ、了解!! 格闘専用レーザーブレード【スラッシュネイル】、現出(セットアップ)!!》

セシリアがインターセプターの刃を構える間際、直刀のようなレーザーブレードが修夜の手に握られる。

そして両者は、そのまま真っ向からからぶつかった。

「――…くっ!」

レーザーブレード同士が鍔迫り合いときにみせる、独特の青白い火花と電流が弾けるような音が二人のあいだに広がる。

時間にしてわずか数秒、だが修夜がセシリアの顔を見るには充分過ぎる時間だった。

(なんて目付きだよ、コイツっ……!!)

セシリアの目は、猛獣が獲物を狩るときに見せるそれであった。

修夜自身、“これをはるかに上回る『殺意』というのを直に体験した経験がある”ため、この程度では怖気づきはしない。だがその迫力は、そのときに感じたものに通じるものを含んでいた。

修夜はすぐさま腕力で押し返し、セシリアと距離を取る。

(コイツ、マジで俺を“叩きのめし”に来やがったか――!?)

修夜も、追い詰めればセシリアが本気で来ることぐらいは百も承知である。だが修夜が驚いるのは、その本気の出し方だった。

修夜の感覚としてのセシリアは、あくまで射撃とビットでの遠隔攻撃で相手を手玉に取る戦術家タイプであった。そして自分がエアリオル・ソニックを得てもなお、その戦法に拘り続けたことから格闘戦には持ちこませたくないものだと、つまり接近戦は得意ではないのだと算段を付けていた。

だが現実問題、セシリアは自分の前でレーザーブレードを展開して攻撃してきたばかりである。そして【武神】と呼ばれる白夜から地獄のシゴキを受けてきた修夜だからこそ、その一太刀が語ったところを知るに至った。

(そうか、そうだよな……。代表生候補ってことは、自分の十八番が通用しない相手もねじ伏せてきたってことだよな……!)

強い――。

率直に、修夜はそう感じた。

直後、セシリアは再びこちらに突進を仕掛けてくる。

当然のように避けようと考える瞬間、修夜はとっさに彼女の一太刀を受ける態勢に切り替えた。

再び散る鍔迫り合いの閃光、そしてすぐさま押し返す修夜。だがセシリアは今度は食らいつき、猛然と修夜に斬りかかる。

《マスター、どうしで避けなかったんだよ!?》

非難めいた声で、シルフィは修夜に当然の疑問を投げかける。

「そんなことしたら、ブルー・ティアーズの餌食だろうがバカっ!!」

そう、あの一瞬。セシリアは超至近距離で、ブルー・ティアーズのビットを自分の背後で起動させ、修夜の動きを止めに入っていた。

そのまま避ければ、ブルー・ティアーズのビットは飛ばずとも固定砲台と化して修夜を撃ち抜いていた。そうなれば至近距離から4発動時のビームをまともに食らい、即敗北もありえたのだ。そしてそうでなくとも、下手な下がり方をすればミサイルビットの洗礼によってやはり敗北か、済んでもシールドエネルギー切れ寸前の痛打。それを凌いでも、やはり固定砲台と化したビットでのビームか、レーザーブレードでの攻撃が待っている

ブルー・ティアーズの弱点を考えれば、普通は考えない戦い方である。だがセシリアは、ごく短時間、しかも自分から距離を離さない方法でビットを活用できる術を、勝利への執念からひねり出したのである。

ビットを遠隔操作で飛ばそうするから、集中力が偏って他の武器が使えない。なら“自分の近くで”ビーム砲として使えばいい。ブルー・ティアーズの弱点を逆手に取った、恐るべき発想の転換である。

迫りくる太刀筋の嵐を裁きながら、修夜はセシリアの『底力』に驚きを隠せずにいた。

 

――――

 

(アレも通じませんでしたか……)

セシリアは猛然と攻めながら、次の一手を模索していた。

身体は勝利への執念で燃えたぎっている、なのに頭脳はいつになく冷えて冴えわたっていた。

(こんな感覚、本国で代表生候補の選抜のとき以来ですわ……)

そんな思いに駆られるも、すぐに倒すべき標的に意識を切り替える。

避けられれば、避けた方へと一閃。弾き返されれば、その勢いを利用してすばやくもう一閃。

イギリス本国で死ぬほど叩き込まれた剣術が、セシリアの動きを機敏に運ばせている。

(剣術はあまり好みではありませんが、もうこれ以上の手もありませんわ…!!)

そう思うや否や、セシリアは腕の構えをすばやく切り替える。

「……っ?!」

とっさに修夜は、次に何が来るのを察知して身構える。

「はああぁぁぁあっ!!!」

気合いとともセシリアのに繰り出しもの、それは驟雨(しゅうう)のような乱れ突きだった。

西洋剣術の基本は『突き』である。

潤沢な鉄資源を利用して鉄板で覆われた鎧が発達した西洋において、敵の致命傷を与えるには鎧の隙間を縫う刺突か、鎧すらへこませる打撃かのどちらかであった。ゆえに西洋では、剣のでの攻撃は鎧の下の鎖帷子(くさりかたびら)さえ貫く鋭い『突き』が一般化していった。

突き専門の刀剣であるレイピアや、フェンシングの動作は、こうした西洋剣術の在り方をよく示したものである。

一閃でも多くダメージを――。的確で鋭い突きの雨を、セシリアは修夜に目がけて降らせ続ける。

 

――――

 

怒涛の突きを紙一重でかわしつつ、修夜は反撃の糸口を探っていた。

修夜がその気になれば、セシリアの突きの嵐を止めることは可能である。それどころか、その一瞬を突いて勝負を決めることもできるであろう。

それが出来ないのは、それをさせてくれる隙や緩みを、セシリアから見ることができないからである。

(ったく、どういう気迫と精神力だよ、コイツ……!?)

ここで言う隙とは、技量的なものではなく『気合い』や『迫力』といったものである。

修夜は認めたくないと思いつつも、自分が現時点ではセシリアに『気迫負け』していることを実感していた。

思い切って切り込み、一気に勝負を決めるか。

そう思ったが、次の瞬間に修夜の脳裏によぎったのは、“ビーム及びミサイルビットによる近距離制圧”だった。

普通は斬り合うほどの至近距離なら、そんな暴挙に出ると自分もダメージを追う。最悪の場合は自爆して終了だ。

だが今のセシリアを見ていると、そんな自爆の危険など躊躇せずに勝ちを拾いに来るのではと、修夜は警戒せざるを得なかった。

だからと言って、このまま至近距離で張り付かれていては身動きもとれない。

修夜のシールドエネルギーの残量は、セシリアの突きの雨で195まで削られてしまった。

再びの手詰まり。

そのときだった――。

《マスター、ソニックのデータの量子転換(インストール)、今度こそ全部終わったよぉっ!!》

瞬間、修夜は脊髄反射でバーニアを吹かしてその場を一気に離脱する。

急激な加速の余波に、さすがのセシリアも仰け反って攻撃の手を止めてしまった。

 

――――

 

300m上空まで一気に駆け上がった修夜は、とりあえず一息ついた。

そして深呼吸の後、眼下に待ち構えるセシリアに目を向けた。

とんでもないヤツにケンカを売ったものだと、改めて修夜は自分の血の気の多さを悔いた。

同時に、今までどこかで舐めてかかっていた、セシリア・オルコットという少女への評価を改めようと決めた。

「コイツが初戦でよかった――」

そう、自分に呟いてみせた。

思えば、逆境とトラブルだらけのデビュー戦である。

すべての発端は互いの意地の張り合い、とどのつまりただのケンカである。

それが今こうして、お互いの意地と実力を全力でぶつけ合う“決闘”と化している。

「…癪な話だけど、コイツはオルコットに“感謝”しなきゃな……」

またそうこぼすと、修夜は顔を引き締めて態勢を整える。

「シルフィ、今さらだけど、イーグルハンターとスラッシュネイル以外に間に合っている武装は?」

《ミサイルランチャー……だけかな、小型で追尾性は高くないけどそこそこ威力はあるよ》

本当に今さらである。

事前にソニックのコンセプトと武装は拓海から聞いていたため、武装一式は把握しているつもりだった。

しかしながら、いざ実戦となると緊張とセシリアの気迫に押されて、思った以上に頭の回転は鈍くなっていた。

「イーグルハンターの残弾は?」

《え~っと、あと……20発…だね…》

不安そうに返答するシルフィに対して、修夜は何かを決めたかのよう、よしと言って頷いた。

「じゃあ、スラッシュネイルをイーグルハンターに換装してくれ」

《了か……ぃ、いいぃぃぃいーっ?!》

しれっとそう言った修夜に対して、シルフィは素っ頓狂な声を上げて驚いた。

《ちょっとちょっと、マスター! さっきまで50発以上撃って、カス当たりを含めて命中率が32.6%だったんだよ!?》

「あぁ、たしかにそんな感じだったな」

撃っても弾が足りないと暗に忠告するシルフィに対し、修夜はそれがどうしたと言わんばかりに平然としている。

《も~~ぅ、何か作戦でもあるワケ…!?》

そうぶつくさともらしながら、シルフィはスラッシュネイルをイーグルハンターに換装する。

それに対して修夜は、

「ない」

きっぱりそう言って、イーグルハンターの銃把を握り締めた。

それを聞いたシルフィは、無いはずの総身の力から抜けるような感じを覚えるのであった。

「作戦は無いけど、やりようはある」

そう言いきると同時に、下から突き上げるようにエネルギーの閃光が飛んでくる。

「さぁ、最終ラウンドだ……!!」

そう言って、修夜は光の発信源へと突っ込んでいった。




ごめんなさい、決着は次回に持ち越し決定です……(土下座
そして、読み難さ全開で、ほんっとーに申し訳ない!(焼き土下座

まさか戦闘描写を相方と考えてるだけで、ここまで厚みが増すとは思いませんでした……。本当なら、エアリオル展開後に即決着の予定だったんですが……。
まぁ、原作そのものは、用語の説明や駆け引きが極端に少ないので、どうしても独自描写として描きますし……セシリアは原作一巻だと本当にちょろいさんになるので、そのまま終わらせるにはもったいないんですよね……(汗
……正直、叩かれてもしょうがないレベルだと思ってます。ええ、冗談抜きで……orz

とりあえず、お気に入り登録してくださっている方々、先に進まず本当に申し訳ありません(土下座
次からの戦闘関係はもう少し短く纏められるように、精進いたします……。
と言うか、きっちり読んでくれてる人がいるのかすら不安になってきた……orz

それでは、また次回に……。

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