ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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また2週間以上掛かってしまいましたが、記念企画の3人目の当選者は 雪桜タワー さんです。当選おめでとうございます。

データが消えたをテーマにしていますので、トラウマ持ちの方は気を付けて下さい。



今も昔もヤンデレだらけ 【2周年記念企画】

 

「――嘘だろ嘘だろ!?」

 

 2017年4月、FGOの1部のラスボスを倒した俺に起こってしまった悲劇。

 

「スマホが……逝ってしまった……」

 

 不慮の事故で俺のスマホはデータをどうこうのレベルではなく物理的に破壊されてしまった。

 

 突然の出来事だった為に、データのバックアップや引き継ぎはしておらず、FGOの引き継ぎナンバーのメモもしてなかった為、初期からやっていた俺のデータは戻って来ない。

 

「う、嘘だろぉ……?」

 

 その場で立ち尽くし、呆然とする俺。

 

 翌日に新しいスマホを買ったが、ショックの余りFGOをもう一度、なんて気分にはなれなかった。

 

 

 

 2018年4月、あの自分史上最悪最低の事件から1年後、テレビで新しいFGOのCMが流れていた。

 

「2部……遂に始まるのか……」

 

 新しいサーヴァントの声や、相変わらずスロー再生で見たい情報の多いCMを見て、FGOに復帰したいと思えてきた。

 

「よし、やろう」

 

 以前よりダウンロードもインストールも早くなったスマホ。

 アイコンをタッチして、早速チュートリアルをクリアして最初のガチャを引いた。

 

「あ、今って星4確定なのか……あ、アサシンだ」

 

 金色のカードから現れたのは、仮面で顔を覆った白髪のサーヴァント。

 

「カーミラか。そういえば、以前はエリザベートが最初に来たんだっけ」

 

 その日は眠くなるまでフレンドの力でオルレアンを突破したのだった。

 

 

 

「……待っていたぞ」

「え、あれ……此処は」

 

 気が付けたば俺がいるのは古いレンガで出来た薄暗い牢獄……あ。

 

「あぁあああ! 忘れてた!!」

「漸く戻ってきたか」

 

「ヤンデレ・シャトーだ! 何で忘れてたんだ!?」

「仕方あるまい。マスターで失くなった者に此処の記憶は残らん」

 

 目の前の復讐者、エドモン・ダンテスの名前を思い出した。そして、この監獄塔での悪夢も。

 

「じゃあ、カーミラとマシュが襲ってくるのか?」

「まあ、そうなるだろうな」

 

 あの2人か……だけど、以前と比べれば人数的には少なくなって生き残り易いかも。

 

「貴様の考えは読めた。

 が、貴様の帰還を心待ちにしていた連中は多いぞ?」

「えっ?」

 

「新たな従者と以前の従者。お前を飲み込まんと、絶望が待ち構えているぞ?」

 

 

 

「もう失ったサーヴァントだ……あ、もう始まってる!」

 

 気付けば首を振っても見当たらないエドモンに文句を言っていたが容赦なくヤンデレ・シャトーが始まっていた。

 

「俺は別に特別ヤンデレが好きな訳じゃないんだが……」

 

 監獄塔の壁に手を付け、取り敢えず落ち着く為に深呼吸をした。

 

「……はぁぁ……考えてみれば、日課みたいな物だったし、これもマスターの責務! やってやろう!」

 

「あ、先輩!」

 

 気合を入れた俺に声を掛けてきたサーヴァント。

 シールダーのサーヴァントにしてFGOのメインヒロイン、マシュ・キリエライト。

 

「良かった、私が一番最初に先輩に会えたんでしょうか?」

「まあ、そうだな」

 

「じゃあ、先輩、一緒に行きましょう! 安全な場所までお連れしますね!」

 

 相変わらず、本人は俺にとって自分自身が危険人物だとは思えないらしい。

 

 以前のシャトーの時、マシュは酷かった。

 全員敵だとばかりに他のサーヴァントに盾で殴りかかり、血塗れの盾を霊体化して何事も無かったかの様に抱き着いてきた。

 

 あの笑顔は一体何処からやってくるんだと恐怖した。

 

「先輩、こっちですよ」

 

 俺の手を引っ張って部屋へと連れ込むマシュ。抵抗したいが、有無を言わせない強引さをその腕から感じる事が出来る。

 

 出来ていたが、突然その力が緩んだ。

 

「……なんで、いるんですか?」

 

 緩んだ力を込め直し、部屋の奥にいる存在を注視する。

 俺の後ろからはドアに鍵が掛かった音が聞こえた。

 

「な、なんだ? ……えっ!?」

 

 部屋の中で静かに佇んでいたのは、盾を持った紫色の髪の少女、マシュ・キリエライトだった。

 

 だが、知っての通りマシュ・キリエライトは今俺の手を握っている。

 

「その人は私の先輩です。放して下さい」

「……何を言い出すかと思えば……後から出て来て先輩の事を何も知りもしない貴女が後輩ぶらないで下さい」

 

 過去のサーヴァント、と言っていたがマシュが同時に2人だとは思わなかった。

 どうやら現在俺の手を握っているのはスマホの壊れる前のマシュ、目の前に立っているのは今のマシュの様だ。

 

「いなくなった人が先輩にくっ付いている方がおかしいでしょう。先輩は、今は私の先輩です!」

「――好きでいなくなった訳じゃないっ!」

 

 一瞬だ。

 俺の手を放したマシュは盾を出現させると角で自分と同じ姿のマシュの腹を抉る様に殴打した。

 

「っがは!」

 

 床に倒れ、口から血が出ているがそんな物は一切気にしない過去のマシュは、倒れた自分へと盾を振り下ろした。

 

「先輩との旅を! 戦いを! 経験を! 思い出を! 何にも持っていない貴方が!

 愛に狂ったから私の前に立つだなんてっ! 許す訳、無いじゃないですか!」

 

 やはりというべきか、以前のヤンデレ・シャトー同様、敵に容赦なしだ。 

 

 何度も盾を振り下ろす。普通の人間なら今頃ミンチになっているだろうが、現在のマシュも倒れたまま盾を構えて攻撃を凌いでいる。

 

「っく! ステータスの差がっ!」

「何より許せないのが、今の私が考えている事が出会っただけで理解できた事です! 今、私ではなく先輩に怒っていますよね? 手を握っていた私より、手を握られていた先輩に視線が行ってましたよね?

 シールダーのサーヴァントなのに、先輩を傷付け様だなんて、後輩失格です!」

 

「っ、勝手な事を言わないで下さい!

 先輩の手を握っていいのは私だけです! それなのに、他の女性に触れさせている先輩なんて、見たくないだけです!」

 

 ヤンデレ同士、本人同士の言い争いが続く。このまま続けばどちらかが消滅する。

 それは流石に嫌だし、俺だってずっと一緒に戦っていた後輩同士が殺し合うのは見ていたくない。

 

「仕方ない。概念礼装、【慈愛】!」

 

 俺はどこからともなくレアリティの低い礼装を取り出して、マシュ2人に貼り付けた。

 

「っはぁ、っはぁ……あ……」

「はぁ………」

 

 貼り付けられた2人は攻撃する手を止めた。慈愛の効果で優しさを取り戻したのだろう。

 

「もうやめだ、2人共」

「先輩……」

「……」

 

 盾を下ろしたマシュと、俺を下から睨むマシュ。

 

 さて、これにて一件落着……じゃない。まだ逃げられない。

 

「ごめんなさい、先輩。私、大変な自己否定を……あの私だって、先輩との思い出なのに」

「先輩、なんでその私と最初に出会ったんですか? 私と会うのが当たり前ですよね? なんで私が呼ぶまで待てなかったんですか?」

 

 星1と2の概念礼装は特に使用回数が無い。しかし、同じ礼装と使い続けると効果は薄くなり、しかも使われたサーヴァントの感情が俺に向くようになる、と言われたのを思い出した。

 

「先輩の安全は私が保証しますが、他の女性とイチャイチャするのは絶対に許しません……私、怒ってますからね?」

「フフフ、恥ずかしいですけど、過去の自分を見ていると自分の成長が感じられて嬉しいです」

 

 過去のマシュが過激で、今のマシュは俺への当たりが若干強い気がする。

 俺を求めている過去マシュと、俺の愛情を求めている今マシュの違いだろう。

 

 だが、俺は1人だけなのでこのままだと慈愛の効果が切れた途端に殺し合うのは目に見えている。

 

「マシュ……だと2人いる訳だし、取り敢えず今マシュと過去マシュって呼ぶけど、どっちが扉を閉めたの?」

「私です」

 

 手を上げたのは今マシュだ。

 

「じゃあ、取り敢えず開けてくれないか?」

「開けませんよ?

 先輩、外には他のサーヴァントがいます。そこに態々愛しの先輩を行かせる訳ないじゃないですか」

 

 礼装を使ってぶち壊すなんて芸当は出来ないし、この2人が許さない。

 

(仕方ない……じゃあ、ちょっと相手をしよう)

 

 

 

 他のサーヴァントが来るまで、2人のマシュと同じ部屋で自分の貞操や身の安全を守りながら過ごす事になった。

 

 なので俺は取り敢えず、安全で尚かつ健全な方法で2人をぶつける事にした。

 

 料理、洗濯、マッサージ……

 

 物覚えがいいマシュなので、経験豊富な過去マシュは勿論、今マシュも負けじと……

 

「せ・ん・ぱ・い……なんで、先のマッサージより叫んでいるんですか?」

「痛たたたた……い、いや、痛いからだぁぁ……! いっ!」

 

「まだ完全にほぐれていないだけです。あの私よりもっと体にいいマッサージですよ……!!」

「力が入ってるだけぇ……! あ、痛い痛い!」

 

「先輩に八つ当たりだなんて……許せません!」

「【慈愛】! 痛い痛い痛い痛い痛い!」

 

 盾を取り出した過去マシュを抑えるも、今マシュの力の籠もったマッサージは続行された。

 

「先輩……」

「痛いけど……大丈夫だから」

 

 まだ盾を握りしめようとするマシュをなんとか留めながら、15分に渡る激痛マッサージを耐え切った。

 

「先輩、今痛みがなくなる様に揉んであげますね?」

「私の先輩に触れないで下さい! アフターケアは私がやります!」

 

 慈愛の力があっても、ヤンデレである以上きっかけがあれば抑えが効かなくなるので、命懸けのコミュニケーションだ。

 

「どうどう……取り敢えず、肩の方と足の方で手分けしてくれるか?」

 

「わかりました、先輩。私が肩をやりますね?」

「先輩っ! も、もう……!」

 

 文句を言いながらも2人のマシュの気遣い溢れるマッサージを受けながら、早く他のサーヴァントの登場を待ち続ける。

 

「「――!」」

「いっ!?」

 

 同時に2人のマシュは力を込めた。

 この部屋のドアの先で物音がしたからだろう。

 

「……サーヴァントが相手だと、ドアごとぶち壊す可能性があります」

「防音機能を無視して聞こえる程の音です。もしかしたらもう壊そうとしているかもしれません。先輩へのリスクを考え、先にドアを開いて対象を叩きます」

 

 過去マシュは右手にドアの開閉スイッチらしき物を取り出した。

 

「1、2、3――!?」

 

 開いたドアへ2人のマシュは走り出したが、同時に2人は吹き飛ばされ、開いたドアから出る音に俺は耳を塞いだ。

 

「マシュ!?」

 

「ちょっと、もういいわよ!」

「――……ふぅぅ……カンペキね!」

 

 ドアの先から2種類の声が聞こえてきた。音の原因はどうやらその内の、弾む様に軽い声のサーヴァントらしい。

 

(あー……思い出した。このドラゴンの咆哮の如き歌声は間違いないかも……)

 

 懐かしい声にちょっと涙がホロリ。いや、懐かしさよりも今も鼓膜が震えているのが原因だとは思うけど。

 

「来てあげたわよ、仔イヌ!」

「やっぱりエリザベートか……」

 

 アイドルを志す最凶の音響兵器、ランサークラスのエリザベート=バートリー。

 今日も龍の尻尾は機嫌が良さそうに上を向いている。

 

「で……一緒にいるのが、カーミラ?」

「何よ。数少ない今のあなたのサーヴァント、私はその1人よ」

 

 エリザベートの未来の姿であり、龍のイメージではなく少女の血を文字通り浴び続け、吸血鬼と成ったカーミラ。

 

 が、過去と未来の姿であるこの2人は本来、一緒の場所に立っていられる程仲は良くない。

 

「まあ、あなたが私をよく知っているのであれば、確かにこの小娘と一緒にいるのは不可解でしょうね」

 

 なお、カーミラの話が始まっているが、エリザベートは俺に抱き着いて嬉しそうに手を握っている。

 

「でも、同一の人物である以上、目的が一致しているなら協力するって私から持ちかけたわ。その娘から頼まれる事はないでしょうからね」

 

 一致しているらしいですよ。撫でて撫でてと頼んでいるエリザベートと。

 

「だから私がその娘の一番まともな服装を――マスター! なんでその娘の頭を撫でているのよ! 私の話ちゃんと聞いているの!?」

 

 昔からだが、性的な知識のないエリザベートは興味と恐怖、アイドルとしての矜持があるのかあまりそれを欲したりしないので、一般的なスキンシップで収まってくれる。

 

 が、カーミラはどうやらご立腹の様だ。

 

「え、えーっと……カーミラさんも撫でて欲しい?」

「う、は、はぁ? ……そ、そうね。どうしてもって言うなら……」

 

 攻撃準備をやめ、恥ずかしさで顔を赤く染めつつ俺へと近付くカーミラ。

 撫でて貰う為に屈んで俺の手へ高さを合わせ、俺も彼女の頭の上に手を置こうとしたが。

 

「仔イヌ! 次は両手でお願いね!」

「ちょ、ちょっと!」

 

 エリザベートが急に俺の正面に移動し、カーミラとの間に入ってきた。

 

「何かしら? もしかして、大人の、普段からクールで冷静沈着なカーミラが、まさか永遠の美少女であるアタシみたいに、頭を撫でて欲しいなんて、そんな訳ないわよね?」

 

 なんともまあイラッとくる顔で挑発的なセリフを言っているのだろうかこの娘は。

 カーミラは図星を突かれてぐぬぬと唸っているし。

 

「仔イヌ、分かっているわよね? あんたはアタシのADなんだから、アタシを優先して可愛がるのよ?」

 

 うむ、FGOで大人しくなったはずがもっと我儘になっている。

 

 仕方なしに俺は彼女を撫でつつも、カーミラに何かして怒りを抑えてもらおうと考える。

 

「……せん、ぱい……」

 

 が、後ろで倒れていた過去のマシュが起き上がった様だ。壁に激突して血も出ているが、そんな事を気にせずに盾を構えている。

 

「エリザベート、さんの……音波攻撃は強力ですね……」

「うーた! 攻撃じゃなくて歌よ!」

 

「ですが、倒します!」

 

 盾を支えに何とか立ち上がったマシュだが、傍から見てもダメージが大きいのが理解できる。

 

「マシュ、ちょっと落ち着いてくれ」

「任せなさい」

 

 カーミラは近付くと、盾を動かす事も出来ないマシュに向かって香水の様な物を掛けた。

 

「あ……」

 

 そして、マシュの体は突然、全身の力が抜けたかの様に倒れ込んだ。

 

「……おやすみなさい」

 

 どうやら眠り薬の様だ。

 

「生前に、娘を攫うのに使っていた薬よ」

 

「これでマシュも大人しくなって……ふわぁ…………ぐぅ……」

 

 薬がこちらにも飛んできたのか、俺に寄りかかる様にエリザベートは寝てしまった。

 

「マスターには効かない様ね」

「まあ、毒の類には耐性が……」

 

(なんか、どっかの誰かは都合の良い感じに耐性貫通されてる気がする……一体、なんの事だろうか)

 

「好都合ね。これで起きているのは私と貴方の2人だけ。騒がしい小娘はもういない」

 

 カーミラは指を鳴らして俺の後ろにアイアン・メイデンを出現させた。

 

「さあ、行きましょうマスター。一応聞くけれど……断ったりはしないわよね?」

「脅しながら聞く事じゃないだろ?」

 

「そうね」

 

 俺の手を握ったカーミラは、アイアンメイデンを消して歩き出し、俺も抵抗は諦めて歩いていった。

 

 

「…………トナカイさん……」

 

 

 

「どうかしら、私の料理は」

 

 意外にも、カーミラさんの行動は俺の望む大人らしい落ち着いたそれだった。

 初めて恋人を自分の家に招き入れた女性みたいな対応で、俺をもてなしてくれる。

 

(まあ、リアルでそんな事を体験した訳じゃないけど)

 

「美味しいよ、ナポリタン」

「! そう、かしら…………まあ、当然よね」

 

 何というか、見た目とは裏腹に初心な反応だ。

 赤い料理だったから何か妙な混入物があるかもと疑ったが、血が入ってない限りは特になさそうだ。指などの見える範囲で怪我をした跡も無さそうだし。

 

「お水、取ってくるわね」

 

 気が利く。粉チーズとタバスコも最初から用意してくれたし、その辛さを顔に出さ無い様にした俺を察してくれたみたいだし。

 

「飲みなさい」

 

 これでヤンデレじゃなければ……いや、もしかしたらヤンデレだから気立てが良くなっているかもしれない。

 うん、なんか今まで一番怖くないサーヴァントかもしれない。

 

「……ねぇ」

「ん?」

 

「デザートはいるかしら? プリンなんだけど」

「下さい」

 

 エリザベートの欠点である家庭的な面がすべて改善されているのにも驚きだが、それ以上にギャップを感じさせるのは先程水を取りに行った時に見えた、彼女の席の後ろにある大量のレシピ本と家事のやり方と書かれた本の山だ。

 

 此処ではないカルデアにいる彼女は冷たいが、シャトーの中では健気な努力が見え隠れしている。

 

 うん、そろそろマジで嫁に欲しくなりそうだ。

 

 そんな事を考えていると、唐突に部屋の扉が開いた。

 

「……トナカイさん」

 

 変わった呼び方をする小さな女の子、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィだ。

 クリスマスの配布サーヴァントなので今のデータではなく、過去のサーヴァントだろう。

 

 どうやって部屋のドアを……

 

「あ、鍵を閉めるのを忘れていたわ」

 

 カーミラのうっかりだったらしい。いや、ピッキングとかじゃなくて良かった。

 

「トナカイさん、随分幸せそうでしたね」

「え……そうか、な……?」

 

 カーミラとジャンヌ・リリィに挟まれ、曖昧な返事をする。

 

「い、良いんです! トナカイさんが選ぶなら、私は、それで良いんです……」

 

 そう言ってリリィは自分の服の内側をごそごそと手で弄り始めた。

 

「これ、返しますね」

 

 渡されたのは紫色の服を着た目の大きな男、ジル・ド・レェの人形だ。

 すると、ジャンヌ・リリィの体から僅かに光が放たれる。

 

「全部、お返ししますね」

 

 そう言って渡される4つの人形、ジャンヌの体から更に大きな光が出ていった。

 

「これも全部、です」

 

 プレゼント袋が床に落とされ、中身が溢れた。

 槍の印がある青、赤、黄色の石に貝殻や木の実。

 

「思い出があると、辛いですから……」

 

 そう言って無理に笑うジャンヌ・リリィの体は、段々と透けていて――

 

「ま、待てぇ!!」

 

 俺は渡された人形を無理やり彼女に押し付ける。

 

「は、離してくださいトナカイさん! 

 良いんです! 私以外の誰かと幸せそうにしているトナカイさんなんて見ていたくないんです!」

 

「いや、此処で消えたらもう会えないだろ! ナーサリーやジャックはどうする!?」

「それでもトナカイさんと他の人が手を繋いでいたりするのは嫌です!」

 

 何とか人形を押し付けて消滅させない様に留めているが、暴れられると手の付けようが無い。

 

「――ファントムメイデン!」

 

 先程まで静かにしていたカーミラが突然、彼女の宝具を発動し、ジャンヌ・リリィの後ろから開いたままの拷問器具が迫る。

 

「リリィ、後ろ!」

「へ――きゃぁぁぁ!?」

 

 反射的にジャンヌ・リリィは棘の側面を蹴って俺ごとファントム・メイデンから遠のいた。

 

「あら、捕まえられなかったわ」

「な、何をするんですか!? もう少しで私もトナカイさんも死んじゃう所だったんですよ!」

 

「消えたかったのでしょう? ならせめてマスターと一緒にと思ったのだけど」

「あ、貴女はトナカイさんと一緒にいたいんじゃないんですか!?」

 

「そうよ。でもそんな事、他人である貴女にどうこう言われたくないわ。勝手に捧げられる命なんて、こっちから願い下げよ」

 

「別に貴女をどうこうしようなんて思ってないですよ!」

「……苛つくわね。小娘の癖に、大人のつもりなのかしら」

 

 カーミラが再び杖を振ってなにかしようとしたその時、部屋に誰かが入ってきた。

 

「勇者エリザベート、参上よ! 魔王から私の仔イヌを返しに貰いに来たわ!!」

 

『…………』

 

 やって来た突然のビキニアーマーに俺達は揃って沈黙した。

 

(小娘ならこの娘みたいに……って思ったけど、これはやり過ぎよね……ああ、他人のふり他人のふりよ)

 

「な、なによ!? 勇者よ! アイドルよ!? お嫁さんよ!! なんとか言いなさいよ!?」

 

「空気を読んで下さい」

「せめて元に戻ってください」

 

「ダメ出し!? 折角の衣装替えを――ぎゃぁぁぁ!?」

 

 唐突にファントム・メイデンが俺達の視界を遮り、エリザベートを挟んだ。

 

「っち、外したわ」

「当たってる! 尻尾挟まってるから! あ、鱗取れた! 仔イヌ、仔イヌ、助けてぇ!」

 

「……兎に角。ジャンヌ、俺は君に消えて欲しくないし、この強化素材は君の物だ」

 

 そう言って袋を押し付けたが、ジャンヌは受け取らない

 

「……う……」

「ん?」

 

「う、噓、ですよ……」

 

 ジャンヌ・リリィは顔を袋に押し付けながら呟いた。

 

「噓?」

「ねえ、私まだ挟まったままなんだけど、ねぇ!?」

「はい……私が、トナカイさんを忘れる為にと言う面目で返すフリをする為にこっそり持ち出した素材と、ヴラドおじさんから貰った人形です……」

 

 先程、消える様に見えたのは霊体化を使用した演出だったらしい。

 

「トナカイさん、私と1年近くも会わなかったのに、先程漸く目にした時にはあの女性と仲良さそうに手を繋いで、料理までご馳走になって……見ていて心が痛かったんです」

「ジャンヌ・リリィ……」

 

「だって、此処から出て行ってしまえば……もうトナカイさんには会えないんですよね? 新しいサーヴァントと一緒に、世界を救いに旅をして、きっと私達の事は忘れてしまうんですよね?」

 

「それは……」

 

 残酷な事だが、彼女達は俺にとっては失ってしまったデータであり復元は出来ない。なので当然、俺は忘れていくだけだろう。

 

「だったらせめて、トナカイさんの前で消えさせて下さい!」

「終わったら私を助けてよね! 絶対よ!?」

 

「忘れたくても忘れられない様に、トナカイさんの目の前で……」

「ジャンヌ・リリィさん、それは違います」

 

 唐突に、ファントム・メイデンが消えた。それと同時にマシュの声が聞こえた。

 

「消えるのは私達ではありません。後から出てきたこの人達です」

「マシュさん……?」

 

「先輩も、今から始めるよりも私達との思い出の方が良いですよね?」

 

 マシュがそう言うと、シャトーの全てが消え始めた。

 目覚めの時間らしい。

 

「先輩……またいなくなるんですか?」

 

「マシュ……でも、君達は」

 

「消えませんよ。ずっとずっと、一緒です。だって、まだ私達の旅は続くんですから」

 

「マシュ……」

 

 

 

 

『おはようございます、先輩。

 また会えましたね』

 

 スマホに表示されたそのメッセージを見た瞬間、震える手でFGOを起動し、嫌な汗を流しながらローディング画面を見つめ続けた。

 

 強化のボタンを押して、サーヴァントを覗いた瞬間、俺の嫌な悪夢は現実となった。

 

「マシュ……エリザベート……ジャンヌ・リリィ」

 

 全員、いる。昨日始めたばかりの俺のカルデアに、イベント配布や限定サーヴァントがいるのだ。全て、見覚えのあるステータスで。

 

 これを幸運と思うプレイヤーはきっといるんだろうけど、考えて見てほしい。

 

 これから、毎日の様に襲い来るヤンデレ達、1年以上会えなかった何をしでかすか分からないサーヴァント達は、俺には堪らなく恐ろしい者に見えた。

 

 何より、絶対にあり得ない光景があった。

 

「……星3と、今は使用不可能な星4のマシュが……いる」

 

 公式に報告して直して貰おうか。

 

 それをして更に恐ろしい事態になってしまうかもしれないので、俺はスマホの画面を切って一度、考えるのを止めた。





最近、カードゲームの方がまた自分の中で熱くなりました。
日本の方とSkype越しで遊んだりしています。
トリプルモンスターズと言うアプリも始めました。

ですが、小説をやめるつもりはありませんしなるべくペースを戻して行こうと思いますのでまだ書かれていない当選者の方々、もう暫くお待ち下さい。

次回はツイッター側の当選者です。

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