ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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残酷描写注意!


 新たな短編集、【ヤンデレの無いカルデア……? 短編集】 を投稿しました。
 未だ1話しか投稿していませんが、これからアンケートで寄せられた話を書いていくので、よかったらどうぞ!


ヤンデレ・ドキドキデート大作戦! 絶望編 (残酷描写注意)

「急がないと!」

 

 夢の中で目が覚めて直ぐに走り出した。

 今日は昨日のデートの続きだ。牛若丸のいる映画館へ急がないと……!

 

「……と、その前に……」

 

 デパートのトイレに入って口を濯ぐ。式の匂いについて追求されればデパートで会って世話になったと言って誤魔化そう。

 

 急いで階段を駆け上がり、3階に辿り着く頃にはそこそこいい汗をかいた。

 

 息を整えた俺はチケットを取り出して係員に見せて劇場に再入場した。

 

「……ごめん、遅くなった……」

 

 小声で牛若丸にそう言った。

 

「いえ……体の方は?」

 

「ああ、だいぶ良くなった……」

 

 映画は中盤、悪役らしき人物達が集まって悪巧みしているみたいだ。

 

「すいません、牛若が――」

「――デートに誘われたのは偶々だし、調子が悪くなったのも偶々だ。間が悪かった。それだけだよ」

 

 謝られれば自分の中の罪悪感が増してしまう。

 そう思った俺は早々に何処かで聞いた良い台詞を言って(少なくとも俺はそのつもり)牛若丸の言葉を遮った。

 

「だから、牛若丸が謝る事なんて無いよ」

「……はい!」

 

 映画は続き、悪役らしき人物達は1人の侍に成敗される。

 

 だがその中の1人だけが生き残り、更に大きな悪行を働く組織に侍の情報を与えて侍を襲わせる。

 

 襲い来る敵を撃退し親玉を目指して旅を続ける主人公だが、町中でも狙われ続ける主人公は他の村人達に疫病神扱いされ、主人公が人助けしてもろくな感謝もせず、主人公も特に何も求めずに旅をし、刺客を送り続けてきた親玉の城へ1人乗り込む。

 

 100人、300人、遂に無敵の様な強さを誇った主人公はその数の前に片膝を着く。

 そして親玉が直々に首を刎ねようとした時、主人公を助けに今まで主人公を疫病神扱いしていた旅の道中に出会った全ての村の住人達が加勢する。

 

 それに元気付けられ勝機を見出した主人公は再び刀を手にその一閃を持って、親玉を斬り捨てた。

 その後は見事大団円でめでたし、めでたし。

 

「どうだった? 俺はあの殺陣は迫力も見せ方も素晴らしかったと思ったけど」

 

 決してエウリュアレの事を忘れた訳ではないが、牛若丸への謝罪の意味も込めて結局映画の最後まで付き合ってしまった。

 

「そうですね! ストーリーも斬り合いも、牛若は大変満足致しました!」

 

 牛若丸は本当に嬉しそうにそう言った。

 

 多くを語らず周囲から疫病神だと呼ばれ続けられた主人公。彼を最後の最後で理解して村人が助けに入る。

 

 それはきっと生前に牛若丸が自分の兄に求めた物だろう。

 天才だった牛若丸は戦場ですら恐れを知らず、それ故に兄である源頼朝の殺意に気付かずに、自刃で生涯を終えてしまった。

 

 牛若丸にも源頼朝にも足りなかった物が、理解だった。

 

「主どのがその、万全の状態でしたらなお良かったのですが……」

 

「ハハハ……悪いな。これからドクターの所でお世話にならないと……」

 

「そうですね……良ければ、牛若がお送りしましょうか?」

 

「いや、いいよ。1人で帰れる」

「じゃあ、付き添わせて頂きます!」

 

「別に、何処か寄りたければ寄っていいんだぞ?」

「牛若は買い物より、主どのとデートがしたいのです!」

 

 俺を気遣ってか、牛若丸は抱き着かずに俺の手を握った。

 

「さあ、しっかり治してまた今度、デートに行きましょう!」

 

「……ああ、そうだな」

 

 俺は牛若丸と喋りながら、カルデアに帰っていた。相変わらず罪悪感が凄まじい。

 

 

 

「では主どの! 牛若はこの辺りで……」

「ああ、ありがとうな」

 

 17時35分にカルデアに到着し、牛若丸と別れた俺はその足でエウリュアレの部屋へと向かった。

 

「あれ、誰もいない……?」

 

 エウリュアレのインターフォンを押すが、留守だと言うお知らせが来る。

 誰もいない事におかしいと思いつつも、俺は一旦ドクターの部屋に行こうとして――

 

「――ぁスター!!」

 

 誰かが高速で走って俺へと飛び込んで来た。

 俺は尻餅をつき、その人物は倒れた俺に覆いかぶさる。

 

「ああ、マスターよ、マスター、マスターね!? 会いたかった、逢いたかった、合いたかった! 触れるわ、愛せるわ、愛されるわ! さあ、愛して! 私を、私だけを愛して頂戴!」

 

(な、なんだこのエウリュアレは!?)

 

「寂しかった、寂しかったわ! (ステンノ)駄妹(メドゥーサ)もいないし、貴方もいなかった! 1人であまりの寂しさに死にそうだったわ……でも、貴方だけはちゃんとここに居るわ! さあ、私を愛して! 愛して! アイシテ!」

 

「ちょ、落ち着いてエウリュアレ! 一体何が……?」

 

「帰ってましたか、マスター」

 

 そこにやって来たのは男性だが、腰に届きそうな程の長い黒髪を持つパラケルスス、例の睡眠薬を作らせたキャスターのサーヴァントだ。

 

「な、何かしたのかパラケルスス!?」

 

「はい。……私は、マスターを愛し子と想い、言われるがまま睡眠薬を作ろうとしました。

 ですがそれでは彼女が報われぬと思ったのです。

 裏切りは大逆ですので、マスターの望んだ睡眠薬に起きた彼女が愛に満ちる様にと、副作用として悪夢を見せる様に致しました」

 

「マスター、ああ、マスター……!」

 

 不意打ちの様なパラケルススの言葉が真実なのは俺に覆いかぶさるエウリュアレを見れば一目瞭然だ。

 

「では、マスター。ごゆっくり……」

「助けろ!」

 

 だが、俺の叫びを無視してパラケルススは去って行った。

 

「っはぁ、はぁっはぁ……!」

「エウリュアレ……す、少し落ち着いて、な?」

 

 目が完全に常軌を逸している。ハイライトが消えている上に目の中にハートマークが見えた気がする。

 

「部屋に行こうか? まずは、な?」

「ええ、マスター! 部屋で愛してあげる!」

 

 魅了を使うという考えが頭に浮かばない程混乱しているのは助かった。使われてたら収拾がつかなかった。

 

(いや、果たしてこの真・ヤンデレモードと化したエウリュアレから逃れられるのか?)

 

「さあ、入って!」

 

 押されるがまま、引っ張られるまま部屋まで連れてこられた。

 

「一緒に今日を過ごす約束してたのに、寝ちゃってごめんなさい」

「いや、あまりに寝過ぎでちょっと心配だったけど、起こさなくてごめん」

 

 若干驚く。あのエウリュアレが素直なのだ。

 

「でも今からその遅れを取り戻すわ」

 

 そう言ってエウリュアレはトランプを取り出した。

 

「これで遊びましょう」

「トランプか……2人だからババ抜き?」

 

 俺のその言葉にエウリュアレは首を振る。

 

「いえ、メドゥーサ抜きよ」

 

 見せられたジョーカーらしきカードにはデフォルメされたメドゥーサのイラストが書かれていた。

 

(こんな時でも妹を徹底的にディスってる!?)

 

「負けた方が勝った方の言う事に1度だけ何でも従う罰ゲームよ」

「お手柔らかに……」

 

(やばっ、神霊の幸運パラメーターって基本的に高いじゃねえか!)

 

「さあ、始まりよ」

 

 

「これで2連勝、私の勝ちね?」

 

「すごいなー、あこがれちゃうなー」

 

「うふふふ……」

 

 ゲーム中、普段の調子に戻ってきたエウリュアレ。1度目は最初からエウリュアレは手札は0、俺の手札にメドゥーサしかない状態でゲームは始まり終わった。流石に納得行かなかったので2戦目を要求。

 2度目は俺の手にあったメドゥーサを一度も引かずにエウリュアレが上がった。

 

「じゃあ、マスターは私の命令に絶対服従、ね?」

 

「へーい」

 

 チートを使われて負けた位に納得行かないが、約束は約束である。

 

「じゃあ……そうね。マスター……私に魔力供給してちょうだい? 勿論、性的な方法で」

 

「はい、アウト!」

 

「敗者は勝者に服従、拒否権なんて無いわよ」

 

 そう言って服を脱ぎ始めるエウリュアレ。

 

「ストップ! なあ、エウリュアレ……その、ほら! ムードって大事だろ? ゲームで貞操捨てるって、ムードもヘッタクレも無いだろ?」

 

「……確かにそうね。じゃあ、悪ふざけ程度がいいのかしら?」

「そうしてくれ……」

 

 ようやく服から手を放した。

 

「……じゃあ、これならどうかしら?」

 

 何処からか取り出される丸細い、カプセルのような薬。

 

「……何、その手に握ってる怪しい薬は?」

「これを飲みなさい」

 

(え?なんか嫌な予感がする。媚薬? 性転換? 睡眠薬?)

 

「あーん」

 

 俺は有無を言わさないエウリュアレに覚悟を決め、口を開いた。

 

「……あ、あーん…………ぅぐ!」

 

 飲み込んだ。

 

「……あ、あれ?」

 

 視線が下がる。袖が伸びる。

 な、なんか変だぞ。服がダブダブだし……

 

「可愛いわよ、マスター」

 

「え、お姉ちゃん? な、何したの!?」

 

「体が幼くなる薬よ」

 

 体を見れば服のサイズが全く合っていない。

 

(えぇ!? どうしよう!? この後別のお姉ちゃんとデートの約束してるのに!?)

 

 どうしようと僕は頭を抱える。後45分くらいで19時、デートにこのまま行くことになっちゃう。

 

「さあマスターこっちにおいで……」

 

「……うん……」

 

 お姉ちゃんに誘われるまま、お姉ちゃんの膝に乗る。

 

「可愛いわ、マスター」

 

 僕の頭を撫でながら、お姉ちゃんは服の袖に手を伸ばして握りしめた。

 

「……はい、これで良いわね」

「え!?  今のどうやったの!?」

 

 驚いた。気が付けば服のサイズが縮んだ僕と全部同じサイズになった。

 

「ふふっ、本当に可愛い。見上げてばかりだったけれど、マスターを見下ろすのも良いものね」

 

 答えは返っては来ない。お姉ちゃんは微笑みながら僕の頭を撫でるだけ。

 

「もう! あんまり撫でないでよ!」

 

 子供扱いが嫌な僕はそう怒鳴った。

 

「ごめんなさいね。じゃあ、大人扱いしてあげる……っん」

 

 そう言ってお姉ちゃんは僕の口に、キスをした。

 

「な、ななな……!?」

「あーら、キスだけで真っ赤になってテンパっちゃうなんて、やっぱり可愛いわ」

 

 そう言ってお姉ちゃんは僕を抱きしめた。

 

「っひゃ!?」

 

 首を甜められた。

 

「可愛い声……今の内にたっぷり調教してあげないと……」

 

「や、やめてよ! そんな所舐めても汚い、っんー!?」

 

 今度は舌が首から上へと上っていき、耳まで甜められる。

 

「逃げちゃダメよマスター?」

 

「く、くすぐったいよ!」

 

 僕がそう言うと体が急に光り出した。

 

「うわ!?」

「あら?」

 

 エウリュアレが急いで服を掴んだ。

 

 光が止むと、俺の体も服も元のサイズに戻っていた。

 

「良かった、元に戻った……」

 

「流石に遊び半分で用意した薬じゃあこの程度の様ね」

「あんまり変な薬飲まさないでくれ、エウリュアレ」

 

 体全体の無事を確認する。ズボンもパンツも大丈夫のようだ。

 

「幼いマスターも可愛かったわね。今度はどんな薬を飲ませようかしら?」

 

「いや、もう飲まないからな!」

 

「まあ、1度に遊び続けるのも面白味が無くなってしまうわね。じゃあ、何か別の事をしましょうか?」

 

 そう言ってうエウリュアレはジェンガやらボードゲームを取り出し始める。

 

(やっぱり、ゲーム内で使ってあげないと暇なんだろうな……)

 

 

「あ、エウリュアレ悪いな。ちょっとだけ席を外すぞ」

 

「あら、何処に行く気かしら?」

 

「ちょっとドクターに呼ばれたから言ってくる」

 

 本編と違い、ドクター大活躍である。まだ本人は登場してないけど。

 

「なるべく早く戻ってくるから!」

 

 そう言って俺はダッシュでその場を離れた。

 

(……さて残るは、ブーディカのみ! 既にドクターに頼んで用意してもらったオレンジで作ったジュースに、例の睡眠薬を投入しておいた! レイシフトして星の見える夜空を堪能し始めた所で飲ませ、一気に形を着ける!)

 

 一度部屋に行き、適当に顔を洗い服を着替え、いろいろ入っているバッグを手に取る。香水を付けるのも忘れない。

 

 その後は直ぐにレイシフトを行うメインルームに到着した。

 

 既にブーディカは待っていた様だ。手にはランチボックスが握られている。

 

「来たね。じゃあ、行こっか?」

 

 ドクターがやって来た。直ぐに機械のコントロールを始めた。

 

「準備が出来たようだね。それじゃあレイシフトを行うよ。今回君達を送るのは、この前と同じ時代のローマ。特に異常は無いから、ゆっくりすると良いよ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて! 行こう、マスター!」

 

 頷いたと同時に、俺は青い次元の渦へと飲まれていく。

 

 

 

 着いたのは丘。映画に行ったりで時間感覚がすっかりズレていたが、辺りは暗く、もうすっかり夜だ。

 

「うん、いい天気だね」

 

「ブルーシートは持ってきたよ」

 

 背負っていたバッグからシートを出してそれを地面に敷いた。

 

「準備が良いね」

「楽しみだったからね」

 

 そう言うとはブーディカは嬉しそうに笑った。

 

「ランタンも」

「おしゃれだね」

 

 ブルーシートで2人座る。そのまま夜空を見上げた。

 

「綺麗だな」

「そうだね。この時代は君の時代と違って大気が汚染せれてないし、科学文明が進んでないから星の光を邪魔する光が無いだよ」

 

「でも、やっぱり現代技術が進んで良かったと思ってるよ。

 こんな状況だけどブーディカと一緒に、星が見られるんだから」

 

「もう……そんなにお姉さんを口説きたいの?」

 

「ハハハ、いや、不倫も浮気もさせるつもりは無いよ」

 

「……マスター。別に昨日言った新しい繋がりって言うのは冗談じゃないよ? マスターが私と真剣に結婚したいなら、私もこの現界だけだって割り切ってあげてもいいと思ってるよ?」

 

「それは……駄目だと、おもう。俺は、まだそんな覚悟は……」

 

 考える事もしない。俺に彼女が釣り合ってるとは思えないし、仮に彼女がそう思ってなくても彼女は夫を裏切るべきではない。

 

(半分洗脳されてる様な物だしな……)

 

「……はい! サンドイッチ! 変な話してごめんね?」

 

「……そうですね。じゃあ、はいオレンジジュースです」

 

 サンドイッチを差し出されたので俺も水筒の中身を紙コップに注いで渡した。

 

「ありがとう!」

 

 俺はサンドイッチを見る。白いパンに、ハム、トマト、レタス。更にクリームチーズが塗ってあるようだ。

 

「んっ! んー、旨い!」

 

「でしょ?」

 

 って、アレ? 視界がボヤケて……

 

「……まさか、ま、た……懲りずに……?」

 

「ごめんね……お姉さんが、その分気持ちよくしてあげるから」

 

 そう言ったブーディカ。俺が睡魔に飲まれる前に見たのは、コップに口をつけるブーディカだった。

 

 

 

「た、大変だ! 急いで2人をこちらに……!」

 

 ドクターは慌てて操作を始め、数分足らずで何とかローマで寝始めた2人をメインルームまで連れ戻した。

 

「ふーう……しっかし、どうしようか? このままだと、彼の計画に支障が……」

 

「あらあら、計画とは?」

 

「んー? 彼の考えた複数のサーヴァントとのドキドキデート大作戦だよ。ああ、これからあと1人が――!?」

 

 戦慄。口が軽いドクターが何も気付かずべらべら喋る様はまるでコントの様な失態だが、彼は真面目に恐れ慄いていた。

 

「へぇ……興味深い話だね」

 

「主どのの身柄を要求します」

 

「ふーん、どれ、お仕置きしてやるか」

 

「ええ、たっぷりと、ねぇ?」

 

「ドクターさん。ホーエンハイムさん共々、ご同行お願いします、ね?」

 

「っひぃい!?」

 

(……しばらく寝ててくれ、俺の体)

 

 夢の中で体は寝ているが、意識は起きている俺はこれから起こる事態にひたすら恐怖していた。

 

 

 

「マスター……ドクターに定期検査で呼ばれた筈なのに、何で牛若丸と14時に公園で一緒にいたの?」

 

「主どのー。具合が悪い、と言った筈なのに何故式どのとご一緒に氷菓子を食べているのですか?」

 

「バーサーカーとトレーニング、じゃなかったか? 何で映画館にいるんだ? 牛若丸と一緒に」

 

「このお香タイプの睡眠薬は何かしら? それに、一日中私といる約束でしょう? なぜ他の女と一緒に休日を過ごしていたのかしら?」

 

「お姉さん、せっかく君と過ごす時間を楽しみにしてたのになぁ。何で睡眠薬を入れたのかしら?」

 

「大目に見るのは今回限り、と言ったはずですよね?」

 

「「「「「「ねぇ、マスター?」」」」」」

 

「……俺が悪かった。殺せ」

 

 6人のサーヴァントに囲まれ、椅子にグルグルに巻かれ、縛られた俺。もはや此処から抜け出す手立ては無い。

 

「……質問に答えていただけますか? ま・す・た・ぁ?」

 

 しかし、人間、追い詰められればやはり最後はヤケクソになる以外の選択肢が無くなる訳で……

 

「だぁー! 皆可愛くて、大好きで、嬉しくて、誰も断われなかったんだよー! ちくしょー!!」

 

 みっともなく、泣くしかなかった。

 

 

 

 

 

 木霊していた叫び声が止むと、最初に右腕を切られた。デオンはそれを拾い上げると血で汚れるのも構わずに嬉しそうに抱きかかえた。

 

「マスター……♪」

 

 血が吹き出し、切られた先から幻痛覚が発せられ、気絶しそうになる。

 

「あっはは!」

 

 今度は左腕を切られた。牛若丸は落ちた腕の手の平を自分の頭に押し当て、零れた血を指で掬い、舐める。

 

 意識は飛ばないがこの痛みに頭がイカれそうなほどの電気信号が発せられている。

 

「ーーーーーーっ!!!」

 

 先程からずっと叫んでいる。しかし、口を塞ぐ布によってその言葉は遮られる。

 

「じゃあ、貰おうかな」

 

 軽い、弾む様な声。

 

 だが、体を解体され、そこから俺にとって大事な温度の源を、命の鼓動を奪われた。

 

(イタイタイ! 寒い寒い寒い! ヤメロ、サワルナ!)

 

 しかし、これは悪夢。心臓を切られた体から徐々に失われる温度も、式に大事そうに握られている心臓の触覚も、デオンに抱えられた腕も、牛若丸が自分の頭を撫でらせている腕も正常に感知できている。

 

「体が欲しかったのよね?」

 

「うん、頭は君が持っていって良いよ」

 

 首を、切断された。

 

(あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)

 

 叫ばずにはいられなかった。

 切られた首の痛み以上に、動かされた視界が、バラバラになった自分の体をしっかりと視覚したからだ。

 

「可愛いわ……マスター」

 

「ふふっ、これからは何時でも抱いてあげられるね?」

 

 そこで漸く意識が薄れ始める。漸く現実世界の自分が起きた様だ。

 

 

「安珍様……次は嘘を吐かないで下さいね?」

 

 

 

「うあああああぁぁぁぁぁ!?」

 

 叫びながら目が覚めた。

 

 今までも悪夢は見た事があるが、叫んだのはこれが初めてだ。

 

「な、何だったんだ……?」

 

 しかし、叫ぶ程恐ろしい物を見た筈なのに、俺は何一つ、その悪夢の内容を思い出せなかった。

 






   ヤンデレってね、怖いんだよ。


 皆さんも、嘘なく、清く、ヤンデレと付き合っていきましょう。

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