ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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さあ、前半戦開始だ!



ヤンデレ・ドキドキデート大作戦!! 絶望(?)編

「……さーて、がんばりますかー」

 

 自分でも驚く様なこれ以上に無いってくらいに綺麗な棒読みだった。

 

 希望の朝? そんな物は無い。現在時刻は7時。

 

「着替え……ああ、用意してあった奴だ」

 

 季節は現実と同じ春。礼装ではない普通の服に着替える。

 黒のシャツに緑と黒のチェック柄の上着と青いジーパン、無難な格好だと思う。

 

 

 急いで着替えて先ずはエウリュアレの部屋へ走る。睡眠薬の効き目をチェックしないと……

 

「……起きてませんように……」

 

 祈る様にインターフォンを押した。

 同時にドアの向こうで機械音が鳴るが、返事は無い。

 

「…………良し! じゃあ、この紙を貼って!」

 

 ドアに7時に来たが寝ている様なので起こさなかったと書いてある紙を貼ってその場を離れ、食堂へと向かう。

 

 だが、食べる事の多いデートなのであまり食べてはいけない。

 

 コーヒーを飲みつつ、バナナを1人食堂で食べる。

 流石にこの時間は英霊もいない。

 

「……カルデアの食堂とか知ってる自分にすごい違和感を感じる……」

 

 そんな事を言いつつも、俺はスケジュールを確認する。

 

 デオン、牛若丸、式、牛若丸、エウリュアレ、牛若丸、エウリュアレ、ブーディカ、エウリュアレの順番。

 

 清姫に注意と大きく書いてあるが、具体的な対策は何も書いてなかった。

 いや、一応予防線は貼ってあるが。

 

「…………最悪、自害するか……」

 

 食堂からナイフを一本貰う。

 使用は最悪の場合のみだが。死んでも焼かれるのとずっとナイフの痛みを感じるのならば、どちらがより苦痛か……

 

「ええい! 暗い事を考えても仕方ない!」

 

 俺はデオンのデートっぽくしたいと言う提案で決まった待ち合わせ場所へと向かう準備を始めた。

 

 

「財布は……これだな。……って、何で紙幣で財布が畳めなくなってるんだよ!?」

 

 しかも一万円札ばっかり。

 

「……もしかしなくてもQP(ゲーム内通貨)と同じ位あるのか?」

 

 そんな予想が浮かんだが、それよりも俺はデートの準備を済ませる為に多少欲に目を眩ませながら、財布に16万円程残し携帯端末と一緒にポケットに入れて歯を磨く。クレジットカードも見つけたのでそれも財布へ。パスワードはカードに貼られていたので問題ない。

 

「さてさて、どうなる事やら……」

 

 時刻は8時、待ち合わせの時間までまだ1時間と30分はある。駅までなら歩いて10分で着くはずだ。

 

「とりあえず、清姫への対策に……」

 

 俺はお気に入りのインスタントレモンティーの粉末が無くなっている事と他にもいくらかの商品が欲しい事を書いて、近くのスーパーでそれらが半額だとメールを書いておく。

 

「別件で手が放せないので、よろしく頼む、っと……」

 

 その30分後、俺はカルデアを出た。

 

 

 

「本当に街があるな……って言うか、近所のホテルがカルデアに変わってるし……」

 

 不思議過ぎる光景と、それを気にする素振りの無い住人達を不気味に思いつつも足は駅へと歩く。

 

「デオン、もう着いてるかな……」

 

 こういう場合、ヤンデレは待ち合わせ場所に早過ぎる時間からいるなんて事が多々あるシチュエーションだ。

 

 まだ1時間前だが、場合によってはもう待ちくたびれている可能性もある。

 

「……新しい店だからか……? 駅の近くにオープンした新しい服屋なんて探しても見つからないが……」

 

 駅に向かいつつも端末で確認する。不思議な事に、人こそ歩いているが車は1台も通らない。それでも皆が信号を守っているので俺も守るが。

 

「っと、もう着きそうだが……」

 

 駅が見えてきた。

 そしてそこには見覚えのある人影が……

 

「やっぱりもういるよ……」

 

 駅前らしく人の出入りの激しい場所で1人電柱で左右をしきりに確認する可憐な少女、デオンを見つけた。

 今日は白いワンピースに赤のチロリアンハットを被っている。

 

「……っごく」

 

 思わず喉を鳴らしてしまった。急にデートの意味を思い出し、命の危険とは別の意味で緊張してきた。

 

 駅に近づく俺。

 左右を見渡し、やがてこちらに視線を向けたデオンは俺を見つけ、嬉しそうな笑顔を向けてくる。

 

「……ごめん、待った?」

 

 気の利いた言葉が思い浮かばず、お約束のセリフが口から出た。

 

「ううん、ちょっと前に来た所だよ」

 

 結局約束していた50分前にデートは始まる事になった。

 

「店、空いてるのか?」

 

「今は8時42分か……うん、開いている筈だ」

 

「じゃあ、行くか」

「ああ!」

 

 そう言ってデオンは俺の腕に抱きつく。

 

「これでデートっぽいかな?」

 

(そんな小悪魔的な笑顔で言われても困ります)

 

 俺は拒まず、彼女は腕を抱きしめながら歩く。

 いつもの研ぎ澄まされた表情が崩れ、幸せそうな顔を浮かべるデオンに俺も自然と笑顔になる。

 

「そう言えば何処に服屋があるんだ? ネットで探しても地図に表示されないんだ」

 

「ああ、あそこはちょっと特殊だからね」

 

「特殊?」

 

「この道を行って直ぐだよ」

 

 デオンは何も言わずに歩く。やがて俺の前に立ち指を指す。

 

「此処だよ!」

 

「此処って……メイド喫茶!?」

 

 なんと連れてこられた先はメイド喫茶。残念ながら現実ではこんな店は無いので一度も来た事は無いが。

 

「私の目的地はこの二階だよ」

 

 そう言ってデオンはメイド喫茶の入り口のそばにある階段を指差す。

 

「2階は……コスプレ専門店!?」

「さあ、行こうか!」

 

 普段なら恥ずかしがる筈なのに、嬉しそうなテンションのデオンに連れられて、店内へと入っていく。

 

「いらっしゃいませ」

 

 挨拶をする店員を通り過ぎ、服――ではなく衣装の前に立ち、選び始める。

 

「どんな服が似合うかな〜……」

「とりあえず、試着室が有るみたいだし、そこで色々試してみれば? すいません、試着室は何処ですか?」

 

「あちらになります」

 

 店員さんに案内して貰い、試着室に数着の衣装と一緒に入っていくデオン。

 

「着たら呼ぶから、どれが良いか見てくれる?」

 

「お、おう……」

 

 俺は試着室の近くで適当に店内を見つつ、デオンの着替えを待つ。

 

 不思議な事に他の客や店員は一切こちらを見ていない。まるでギャルゲーの様な、背景なだけの人物達だ。

 

「良いよー!」

 

 少し怖い事を考えている内に、カーテンが開けられた。

 

 先までの思考はその一瞬で吹き飛んだ。

 

「……凄い」

 

 最初に目に写ったのは紅色。派手な色だが、その色がデオンの長く美しい金髪をより良く魅せている。

 細みのシルエットを引き締め、ハリのある足を側面から見せつけている。

 

(これが、チャイナ服……!)

 

 普段は水色や白だったりと落ち着いた色のデオンを見ていたが、情熱的な色もまた、デオンの持つ新たな可能性を見せてくれた。

 

「ど、どうだい……?」

 

 自信が無いように小さく笑うその表情もまた、衣装とデオンの美しさに拍車をかけている。

 

「……綺麗だよ」

 

 俺はその言葉を絞り出すのに精一杯だった。

 

「そ、そう、かな……?」

 

 照れるデオンをずっと見ていたい気持ちもあるが、時間は有限。俺は心を鬼にしてデオンに次の服を着るようにと言った。

 

「う、うん……」

 

 再び閉じられるカーテン。これから先の地獄を前に俺は、この幸せを噛み締めようと強く思った。

 

「……どうでしょうか、ご主人様?」

 

 カーテンから現れたのはメイド。カーニバル・ファンタズムとかでアルトリアが着ていたような黒の多いメイド服。

 

 同じ金髪だし被ってるだろうって?

 

 いや、全然違う! 

 首を一周している束ねられ金髪に、白と黒の可愛らしいフリル。

 

 何より凛々しかったアルトリアとは違う、少女的な可憐さがより色濃く現れ、彼女のその動きからは献身的な愛が目に見える様だ。

 

「良いよ! すっごい似合ってる!」

 

「はは、喜んでもらえて嬉しいな。ちょっと恥ずかしいけどね。じゃあ、次に……」

 

 その後、俺はデオンのスク水、セーラー服、巫女服に魔法少女の衣装を堪能してから、店を出た。

 

 

 

「たくさん買ってしまったね」

 

 店を出た俺の手には3着の服が入った紙袋が握られていた。

 

「まあ、別に良いんじゃないか、たまには」

 

「半分もマスターに払わせてしまったし……」

 

 所持金が1万円減ったくらいなら、今の俺には問題無い。

 

「じゃあ、昼飯にしようか」

 

 俺はバイキングの店を選んだ。

 

「食べ放題のお店……!」

「セイバークラスはよく食べるらしいし」

 

 それを聞いてデオンがムッとする。

 

「それは偏見だよ!」

「そうか、それは悪かったな。じゃあ、デートっぽくあっちにするか?」

 

 俺はでかいMが特徴的なファーストフード店を指差す。

 

「バイキング!」

 

(やっぱり、セイバークラスは腹ペコがデフォルトなのか……)

 

「口移しで食べさせてね?」

「ッブ!?」

 

 思わず変な音が口から漏れる。バイキングで口移しとか、拷問か!?

 

「……」

 

「え? そこはほら、冗談だよ、とかいう場面だよね!?」

 

 そんなツッコミを入れる俺へ近づき、デオンは耳元で囁いた。

 

「じゃあ、メイド服を着てあげるから」

 

 

 ――遠き理想郷は此処にあったのか……

 

ファーストフード店(あっち)行くぞ!」

 

 俺は天使の誘惑を振り切る為に、デオンを引っ張り、店へと入っていった。

 

「じゃあ、せめて――」

 

 

「……デオン、そろそろ帰ろっか?」

 

「どうして? まだ1時30分だよ?」

 

 色々ありつつも昼飯を食べて適当に街を散歩していた俺の携帯にメールが届く。ドクターに頼んでおいたメールだ。内容は、急遽マスターとしての定期検査を行うと書かれている。

 

「ドクターは無粋だね」

 

「しょうがないさ。デオンはどうする?」

「んー…… そうだね、僕も一緒に帰るよ」

 

 此処からなら15分でカルデアに着く。公園までもそう遠くないのでなんとでもなるだろう。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 再び腕に抱きつくデオンに、俺は罪悪感を感じながらカルデアへと歩いた。

 

「楽しかったね」

「ああ」

 

 腕に抱きついたまま、デオンは俺の頬にキスをした。

 

「っん! 今度はカルデアでデートしようよ。メイド服で、ね?」

 

 そんな不意打ちに、また照れてしまった。

 

 

 

 カルデアに着いてデオンと別れた俺は大急ぎで服を脱いでマイルームのシャワー室へ向かう。

 

(嗅覚対策だ!)

 

 牛若丸にデオンと一緒にいた事を悟られない様に別の服を着て、香水をつけるのも忘れない。

 

「行ってきま――」

 

「ま・す・たぁ? どちらに行かれるのですか?」

 

 が、部屋を出た俺を待ち受けていたのは清姫だった。

 

「清姫か……びっくりした。……牛若丸と映画を見に行くんだ」

 

「……それが、私を買い物に行かせた理由ではなさそうですね。何故、私を買い物に行かせたのですか?」

 

 牛若丸の名前で清姫がピクリと動いた気がする。

 

「……デオンと買い物に行ってたんだよ」

 

 デオンの名前に再びピクリと動く。

 

「……マスター、ただの買い物に私を露払いするなんて、何かあると私が勘違いしても仕方ありませんよ?」

 

 扇子を構える清姫。

 怖い。

 これは、下手な事を言えば燃やされる。

 

「……そうだね。俺は清姫を侮っていた。今更、2人きりでの買い物程度で嫉妬に駆られる訳が無かったよな。ごめんね」

 

「……ええ、大目に見て差し上げます。今回だけは、ですが」

 

「悪いな。その、埋め合わせは絶対するから」

 

「……楽しみにしています」

 

 その場から去っていく清姫。俺は既に数分は遅刻確定なので急いで牛若丸の持つ公園へと急いだ。

 

 

「あーるーじーどーのー!」

「悪い、っはぁ……遅れた」

 

 カルデアから全力疾走で走って来たが、間に合わなかった様だ。

 辿り着いた公園では既に白い長袖のシャツと黒いデニムショートパンツを着た牛若丸が頬を膨らませて立っていた。

 

「仕方ありませんね。牛若は寛大ですから、肩車で許します! さあ、映画館まで運んで下さい、主どの!」

 

 そう言って軽い身のこなしで俺の背中に飛び移る。

 

「おっとっと……分かったよ」

 

「さぁ、行きましょう!」

 

 映画館のあるデパートまで15分、楽しそうに笑う牛若丸を背中に背負いつつ、映画館へと走る。

 

 到着した時は14時26分。流石にデパートの前で肩車を止めてもらった。

 

「はい、前売り券」

「確かに!」

 

 上映開始は14時45分、俺はポップコーンLサイズとコーラのLとSの2つを頼むと、牛若丸と共に劇場に入っていた。

 

「予告をやってるな」

 

 アメコミや伝記物の予告が流れ、ホラー映画の予告にビビる牛若丸を弄っている間に映画が始まる。

 

「う……」

 

「? どうしました、主どの?」

 

「すまん、腹が痛くなってきたからトイレ行ってくる……」

 

「そうですか……お気を付けて」

 

「おう……なるべく早く戻る……」

 

 気分が悪いフリをしつつ劇場から出る。

 行き先は当然、式の待つデパート近くの喫茶店だが。

 

 

 デパートの3階から階段で降りて外に出て、喫茶店に入り、店の奥に座る式を見つけた。式は普段通りの服装だった。

 

「ん、時間丁度だな」

「ははは、ちょっと危なかったけどね」

 

 それじゃあ早速と式は店員を呼び、カップル限定のパフェを注文した。

 

「すいませーん。このカップル限定、恋の赤とピンクのストロベリーパフェ1つ」

 

「はーい、恋の赤とピンクのストロベリーパフェですね。以上ですか?」

 

「あ、じゃあこのカップル限定のLサイズコーラ1つ」

 

「かしこまりました」

 

 店員は厨房の方へと去っていく。

 

「なんでもかんでもカップル限定なんだな」

 

「そういう商品を物珍しさだけで注文する奴や、恋人がいるって事を見せ付けたい客が頼むんだろ。ちょっと値段が高いのもご愛嬌だ。

 まあ、オレも後者だから人の事言えないが」

 

「……えーっと、カップルのフリ……だよね?」

「なんだ、オレが彼女じゃやっぱり不満か?」

 

「不満はないけど……」

 

「お待たせしました。カップル限定、Lサイズのコーラです」

 

 大きめなコップに500ml程のコップに氷と一緒に注がれたコーラ。2本のストローがハート形にまかれている。

 

「うわー、こんなのアニメとかでしか見た事ないわー」

「もう口移しだってした仲だろ? 今更恥ずかしがる事も無いよな」

 

 普通に飲み始める式は、目で俺に飲めと訴えている。

 

「わ、分かったよ」

 

 直ぐに何が恥ずかしいかが分かった。

 飲んでいる間は同じ物を飲んでいる相手を見つめながら、見つめられている。これが本当に恥ずかしい。

 

「――」

 

「……」

 

 しかも、自分でも顔がどうなっているか分かる程に照れている俺を、式は楽しそうな表情で見つめてくるので、もう顔が燃え出しそうな程に真っ赤に染まっているだろう。

 

「…………」

 

「――やっぱり面白いな」

 

(そうかい! どういたしまして!)

 

 皮肉に1つも言ってやろうかと思ったが、それが出来ない程に俺はテンパっている。

 

「お待たせしました、カップル限定、恋の赤とピンクのストロベリーパフェです」

 

 店員が持ってきたのは、本当に真っ赤なパフェだった。

 

 ピンク色のアイスの上に無数の、半分に切られたいちごが刺さっている。

 

「上にかかってるのもストロベリーソースだし……」

 

 そして当然の様にスプーンは1本だけ。

 自然な動作でスプーンを取った式は流れる様にイチゴを掬い上げ、口に挟み、イチゴの先端をこちらに差し出す。

 

「えーっと……? 式さん……?」

 

「……」

 

 イチゴを食べろ――喋れないが視線がそう伝えている。

 

(イチゴ版ポッキーゲーム……いや、これキス確定なんですけど!?)

 

「……」

「わ、分かったよ……」

 

 厳しさを増した視線に、俺は観念してイチゴを口にした。

 

「ん!」

 

 と同時に待ちくたびれていた式は強引に進行し、俺の唇に触れた。

 

「……っ。全く、あんまりノロノロするなよ、結構恥ずかしいんだぞ?」

 

(なら、もっと恥じらって下さい)

 

「じゃあ次」

「ちょ、ちょっと待って! 先に、お手洗いに行ってくるよ」

 

 俺は席を立ち、トイレに向かう。

 

 個室に入ると、俺は端末を取り出す。上映中は使わないのがマナーだが、俺からのメールなら牛若丸も見るだろう。

 

「ちょっと、気分が優れないから、薬を買って来ます……なるべく早く戻るから、映画、楽しんで、下さい……と」

 

 現在時刻は15時半、あと30分位で式別れて牛若丸の元に戻って、次はエウリュアレにかまってやらないといけない。

 

「……良し、頑張ろう」

 

 その後、あーん、口移しのコンボで式に弄くり倒されたのは、割愛させてもらう。

 

 

 

『ふん、今日は危な気無く……と言えるかは微妙だが、無事生き残ったようだな。明日は今日の続き、式と別れた後から再開される。簡単にくたばらない事を願っているぞ』

 




次回、多分本当の絶望編!

さてまずは8の短編をなんとかしないと……

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