ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
オリジナルサーヴァントも登場しておりますので、苦手な方はご注意下さい。
俺は岸宮切大、最近ヤンデレ・シャトーと言う悪夢のせいで寝ているのに寝た気がしない生活を送っている高校1年生である。
今突然こんな自己紹介をしたのは理由がある。
今日もそのヤンデレ・シャトーに入り込んだのだがアヴェンジャーが説明役をポイコットしたのか、なんの説明も無しに見た事のない場所で立ち尽くしていた。
「……何故俺は此処にいるんだ……?」
っく殺編で女神達に搾り取られた魔獣戦線バビロニアにやって来てしまったのだ。
どうやら現在地はギルガメッシュがキングゥと言葉を交わした例の丘の様だが、辺りを見渡しても誰もいない。
「……? なんか……町が……」
丘の上から街を眺めて漸く気が付いた。
人類悪の被害にあった様子がまるでない。泥も無ければ牙も発動していない。
「……これは、人類悪と戦う前のバビロニア?」
そう結論付けようとしたが、直ぐにそれが間違いだった事を知る事になった。
「あら、こんな所にいたのね」
振り返ると自分の宝具に乗って飛んで来た女神、イシュタルが着陸していた。
「イシュタル……」
「ビーストとの戦いも終わって、ラフ厶と化していた人々も皆、元に戻ってきた。
それを祝う宴はこれからなのに、救世主様は独りこんな所で黄昏てるなんて……」
そんな事になっていたのか。
そもそも人間が皆ラフムから元に戻ったなんて、Fateらしからぬハッピーエンドだな。
「いや、別に……ちょっと考え込んでただけだ。もうなんとも無いよ」
どんな方法で此処までの展開になったかは気になるが、きっと凄い奇跡の連発だったんだろうなぁ、となんとなくで納得する事にした。
「じゃあ、私があそこまで送ってあげるわ」
「うおっ!」
「しっかり抱き着いていなさい」
イシュタルは俺を掴むと自分の弓で空を駆けてウルクの街の中心へと向かう。その速度に振り落とされない様に俺は背中から彼女をしっかり掴む。
「……所でマスターは此処から地上まで自力で降りたり……出来ないわよね?」
「何だ薪から棒に。
生憎、そんな超常的な能力は持ち合わせていない」
俺はその質問に嫌な予感しかしないんだが……
「それじゃあ、高度数百mを飛行中のマアンナに乗っている限り、私の元を離れたりしない訳ね」
そう言ってニヤリと笑うイシュタルはマアンナの速度を上げた。既にウルクで今一番盛り上がっているであろう城前広場を通り過ぎている。
「ま、まさか……?」
「あら、祭りなんて女神の私と契りを結んでからでも良いでしょう? 私と貴方が結婚するなんて知ったらあのギルガメッシュも間抜け面を晒して祝ってくれるわよ、ウルク総出でね」
「いや、冗談キツイんで――んっ!?」
「っん、ふふふ……女神の私が婚約を申し込んでいるのよ。逃げちゃ、ダ・メ」
イシュタルは俺の唇を奪うと愉快そうに微笑んでから前方へと向き直り、ウルクの外、否、俺との未来を見据え始めた様だ。
「旅行は何処が良いかしら? この時代でも良いけどカルデアに行ってマスターにリードされてみたいなぁ……なんて、思わなくも無いんだけど?」
「あははは……(だったらガチャで出てくれ)」
心の中でツッコミを入れている間にも2人を乗せた弓はウルクの外へ外へと飛んでいく。
「先ずは何処が良いかしら? あ、最初はやっぱり柔らかいベッドが良いわよね? それとも、森の中で獣みたいなスタイルが良いのかしら?」
「誰か助けてぇ! この女神様マジで怖い!」
『――って、事でこっちからモニタリングは出来ないんだけど切大君がイシュタルに攫われたのは間違いないね』
「先輩が!?」
「あの駄女神、遂にあのマスターを力づくで奪いに行くか。まあ予想はついてはいたのだがな」
ダヴィンチからの通信によりマスターの現状を理解したマシュ、ギルガメッシュ、そしてエレシュキガル。
「な、何ですって!? マスターを攫った!?」
「ほぅ……どうやら助けに行く手間が省けそうだ」
エレシュキガルの反応を見てギルガメッシュは街へと足を向けた。
「ぎ、ギルガメッシュさん!?」
「エレシュキガルがやる気になったのだ、あの駄女神も直ぐに捕まるだろう。そんな事よりも我は疲れた。宴が盛り上がる夜までに寝る。
……そうだな、お前達の寝ていた宿に案内しろ。城の方は空砲やら楽器やらで寝られたものでは無い」
マシュはそんな呑気な事を言うギルガメッシュに唖然とするが渋々案内を遂行する。
その場に1人残されたエレシュキガルはイシュタルの追跡を開始した。
「必ず捕まえてやるわ! 待ってなさい、イシュタル!」
『位置は把握しているが今も高速で移動中だよ。どうやって捕まえる気だい?』
「私は冥界の女神。この間は地上をぶち抜いてこっちまで来たから、今度はこっちが引きずり下ろしてやるんだわ!」
「……さてと、此処でいいかしら?」
イシュタルはアマンナでの飛行を止め、森の中に降り立った。
「ま、マジかよ……」
着陸した地点には湖があり、イシュタルは元々そんなに無かった布面積を脱ぎ捨てて、湖に浸かり始めた。
「あんまり見ちゃ駄目よ? 私の水浴びの間に1人で果てちゃったら許さないんだから」
イタズラっぽく笑いつつ、その肢体を水に沈める。行為前の余裕ある女性の表情だ。
「……逃げるのも駄目よ?」
もう遅い。忠告や行動を起こされる前に瞬間強化でこの場を離れようと全力で疾走した。
「あらら、そう言う態度を取るの? なら――!?」
「おわぁ!?」
イシュタルが何か仕掛けたか。
俺はそう思ったが人間が入れそうな程の大きさの穴に落ちている様を見て、イシュタルは驚いている。
「――させるか!」
穴に落ちそうな俺目掛けて弓を放ったイシュタル。その一発で俺の礼装だけを貫き、その衝撃で俺は穴から弾かれる様に地面に吹き飛ばされた。
「ぐふっ!?」
「咄嗟だったからやり過ぎたわね……って、それよりもこの陰険な落とし穴はまさか……」
「誰が陰険よ!」
たった今落ちそうになった穴から金髪のイシュタル、もといエレシュキガルが現れた。
「私のマスターを何処に連れて行く気よ!」
「何時から貴方の物になったのかしら。日陰の女には人理の守護者なんて眩し過ぎる肩書きを持った彼は似合わないわよ」
「こんな真似しているアンタが一番相応しく無いでしょう!」
髪の毛の色以外全く同じ姿の女神2人が争いを始めているのでこの隙に逃げさせて貰おう。幸い、先の瞬間強化はまだ生きてる。
「兎に角、ウルクに戻らないとな……!」
森の中をジグザグに移動しつつ、俺は2人が追ってこない事を確認すると、一旦木の陰で身を隠した。
「はぁ……あの飛行速度で結構離れたもんな……このままのペースで今日中に着くか怪し……ん?」
息を整えつつ辺りを見渡すと、木々の間に赤黒い、まるでヘドロの様な液状物が大きな水溜りを作っていた。
「……ま、まさかケイオスタイドじゃないだろうな!? 冗談じゃない!
ヤンデレ女神大集合的な感じでティアマト復活とか笑えないぞ!?」
俺がそんな最悪を想像していると、頭上から僅かな輝きが目に映り込んだ。
「っ――!」
回避。上空から放たれた矢を紙一重で、回避させられた。
「見つけたわよマスター? 駄目じゃない、女神の私から逃げるなんて?」
「逃げないで、貴方は私が守るから……」
空中からイシュタル、地下からはエレシュキガルが現れ、後ろは木で包囲されてしまった。
「ま、待て! 実はそこにケイオスタイドらしき物が!」
慌てて俺は先の黒い水溜りを指差す。
「……無いわよ、何処にも」
「え? あ……」
無い。いつの間に消えたのか?
「そんな小賢しい嘘まで吐いちゃって、マスターったら可愛いわね。
もっと頂きたくなったわぁ……」
「嘘は駄目よ、マスター。私の世界、冥界では真実だけで生活させるだわ」
万事休す。こうなったら一番近いエレシュキガルをガンドで――
「――!? っく!?」
一瞬で、俺の視界にフードを深く被った誰かが映り込んで来た。
「…………へ?」
俺の前で槍を構えるエレシュキガル、そこに入り込んだのはマントとフードで顔何処か体すら包み隠した、刃も柄も全て同じ黒で統一された剣を持つ謎の男。
「何者よ、貴方」
「ゼア、だ」
ゼア、そう名乗った男は剣をその場でイシュタルとエレシュキガルの前で素振りする。
「
呟きと共に素振りした剣はドス黒い泥となり2人襲い掛かった。
「っちょ!?」
「っな!?」
ケイオスタイドに触れれば強制的に黒化する。それを知っている2人は慌てて魔力で防御するが咄嗟だったので数滴程付着した。
「っぐぅ……!? 体が……!」
「ま、マアンナ!?」
エレシュキガルはその場に倒れ込み、イシュタルの宝具は何故か停止し、落下を始めた。
「……行くぞ」
「お、おわ!? ど、何処にだよ!?」
謎の男は俺を引っ張るとウルクの方向へと走っていった。
「此処で良いか……」
「だ、誰なんだアンタ一体……?」
「俺は……」
俺が自己紹介を求めると、その男はフードを脱いでゴルゴーンやアナを思い出させる紫色の髪を見せた。
「え……?」
「サーヴァント、アサシン。名前はゼアだ。短い間だが、宜しく頼む」
髪の毛の色こそ珍しいが、その顔はぐだ男、つまり今の俺にそっくりだった。
「ケイオスタイドに呑まれたゴルゴーンが生み出した、ラフム……?」
「ああ……だが、それと名前、そして……何故かマスターを助けなければと言う思いだけが、俺にある全てだ」
遂にホモォ……路線に変更したのかと思ったが、どうやら違う様だ。まあ、ホモだったら自害させる自信があるけど。
「まあ、お前については追々だな、兎に角ウルクを目指そう」
「分かった」
俺はゼアと共に歩き出した。
「っ!」
が、1分も経たない内にゼアの動きが止まった。
「……来る!」
慌てて上を見上げる。だがイシュタルは見えない。
「なら下か!?」
「いや、後ろだ!」
ゼアの声で振り返ると大量のゴーストがこちらに襲い掛かってきた。
「っは!」
ケイオスタイドを鎌に変え、ゴーストを切り裂く。
切り裂いたゴーストの体にはケイオスタイドが残り、蠢く。
「
ゼアがそう呟くと蠢いていた泥は激しく動いてゴーストを侵食、黒く染めた。
「足止めを頼む」
黒いゴーストが数秒前の自分と同じ姿のゴーストヘ襲い掛かり、更に自身の数を泥から生成し増やしていく。
「これ環境汚染とか、そう言うのは大丈夫なのか!?」
逃げながら俺はゼアに聞く。
「安心しろ、そこら中の物を見境無く侵食できる訳じゃない。アレは女神ティアマトではなくラフムである俺の魔力で出来ている、世界に喧嘩を売れる程強い影響力はない」
それは本当の様で、ゴーストから零れたケイオスタイドは地面に落ちるとスーっと消えていく。
「それよりも、あの女神2騎は厄介だ。空と地下、どちらも人間が普段気にも止めない空間、警戒が難しい」
「そうは言うが、常に動き回るぐらいしか対処法が無いだろ!
あの2人をケイオスタイドで侵食してなんとか出来ないのか?」
「難しいだろうな。女神をオルタ化するには令呪が10画有っても十数分程の時間が必要だろう」
「くそぉ……敵だと途方も無いほど厄介なのに、味方だとそこまで弱体化するか!」
「酷い言われ様だな……だが足止めならば数滴当てるだけで出来る。まあ、先の1回でもう警戒されているだろうがな」
「やっぱりだめじゃねぇか!」
「見つけたわよ!」
上空から聞こえる声、女神の影が俺へと迫る。
「っはぁ!」
だがそれより早くゼアがケイオスタイドの槍を投げる。投げられた槍は形状を維持出来ずに泥になるが、逆にそれが回避を困難にする。
「……! っく!」
ケイオスタイドを警戒していたイシュタルは更に上空に飛んで回避した。
「っち、やはり当たらないか」
「マスターの姿をしたサーヴァント、いえ、この感じはラフムね。
全く……妙な者にばかり好かれるわね、マスター」
当然ながらイシュタルもその妙な者の1人だ。
「だけどマスターを守るのは私の役目よ? 勝利の女神ですもの、彼の側には私が相応しいでしょう?」
「いいえ、私よ!」
イシュタルの言葉に反論しながらも、地下からエレシュキガルは姿を表した。
「冥界での戦いで全てを許して、全てを与えた私以上にマスターの妻に相応しい女はいないわ!
……大丈夫、週に1回、1時間だけ地上に帰る時間をあげるわ」
「……本当に、面倒な奴らだな」
ゼアは再び泥を生み出すと、その形を自分自身と同じ姿にした。
「足止めだ」
「了解」
武器を持った分身はイシュタルとエレシュキガルへと襲いかかり、ゼアは俺を掴むとその場から全速力で離れる。
「あ、アレで足止め出来るのか!?」
「ティアマトと違って成長する事は無いが俺と同じ強さだ。数分保てば――」
「逃さないわよ!」
「――良い方だったなぁ」
「はえぇよ! 弱すぎるだろ!」
イシュタルは直ぐに俺達を追ってきていた。
「遠距離攻撃が槍の投擲しかない時点で上空にいる女神は無理なんだよ」
文句を言ってもイシュタルは止まらない。
「良し、ウルクの外壁だ!」
それでも漸くウルクの壁が近くまで見えて来た。
「だが、そもそもウルクに入っても奴らの追跡は止まるのか?」
「そこは聞かないでくれぇ……ええい、最悪ギルガメッシュ王に匿ってもらうしかない!」
「そこまでよ!」
突然、目の前の地面からエレシュキガルが現れた。
咄嗟に方向転換しようとするが、足が動かなかった。
「しまった、ゴーストが!」
見れば足をゴーストに掴まれ俺とゼアは動けなくなっていた。
「ふふふ、もう逃げられないだわ。大人しく冥界に来てもらうだわ! ……ああ、連れて行ったらどんな事をしようかしら……」
「っち、させないわよ!」
エレシュキガルに俺達が攫われると見てイシュタルはエレシュキガルに狙いを定め始める。
「【ガンド】!」
「っは!」
俺とゼアは直ぐにゴーストを退かして、イシュタルの攻撃から逃れる。
「っは!」
ゼアは俺を掴むとウルクの入り口を探す為に壁に沿って走る。
「おわぁあぁ!」
「口を閉じろ、噛むぞ!」
お決まりのセリフと共に徐々に速度を上げていく。女神達はどうやら追ってきて無い様だ。
「た、助かったぁ……」
「先輩!」
ストーリーで世話になった宿屋に入ったらマシュに抱き着かれた。
「ご無事で何よりです…………ごほん、ど、どちら様でしょうか?」
恥ずかしがりながらもゼアへと向き直って自己紹介を求めた。
街中で混乱を避ける為に被ったフードを取って、マシュを見る。
「初めまして、マシュ・キリエライト。アサシンのサーヴァント、ゼアと言う」
「え……? 先輩、そっくり……!?」
「何でも、ラフムだそうだ」
「ら、ラフム!? この方がですか?」
「まあ、俺のコピー……みたいな感じだろうな」
ラフムと聞いて警戒しているようだが、マシュはその姿を観察している。
「女神が攫いに来るかもしれないが、此処は安全だろうか?」
『そこは安心して欲しい。何で女神の2人が切大君を襲うかは分からないけど、ウルクにいる間は手出し出来ないようにマシュの宝具を介して特殊な魔術を施した』
「特殊な魔術?」
『マシュから半径200m以内にマスターがいなければ自動でマスターをマシュの元に転移させる魔術だ。多少魔力を喰うのが欠点だけど、3回までならマシュの元にマスターを連れ戻せる。物理的に冥界と現世が繋がっているから、エレシュキガルが攫おうとしても回避可能だ』
「そうか、なら安全だな」
「先輩、私と離れずに宴を楽しみましょう!」
マシュは若干顔が赤いが、俺にそう言った。ヤンデレではなさそうなので俺はその言葉に従う事にした。
「頼むよ、俺のシールダー」
「……! はい!」
こうして、俺はマシュと夕方のウルクへと繰り出した。
「この豆、美味しいですね。お酒のおつまみとして人気の様ですけど、未成年ですので飲めませんね」
「ああ、そうだな……始めたの俺達なんだよなぁ」
コップ状の入れ物に入っている豆を摘みながら辺りを見渡した。宴と言っても祝うのはこの街の無事、そして人々の帰還だ。
戻らぬ人々への悲しみもあるが、今は誰もが祝っている。本当に強い人類だと、ウルク人には感心してばかりだ。
「ほら、切大! 魚を焼いてんだ、食ってきな!」
「羊肉も上手いぞ! 持ってけ!」
「果実のジュースは如何かしら?」
「デザートにケーキはどうだい!」
本当に、あの戦いの後とは思えないほど活気づいている。
「大人気ですね、先輩!
……すいません、先輩。少々、お花を摘みに行っても……?」
マシュは恥ずかしそうに耳打ちしたので俺は頷いた。
「行こうか」
余り離れる事が出来ないので俺はマシュと一緒にトイレに向かった。
「ん、っちゅ……ん」
「ちょ、た、タイっんんー!」
「……ぷはぁ……女神から逃げられると思わないで。マシュと何らかの魔術で繋がっているのは知っているわ」
トイレの前でマシュを待っていた俺を見つけたイシュタルは、男性トイレに俺を連れ込むと唇を貪った。
「後輩とのデートは楽しいかしら? でもね、女神の私は遠慮なんてしないわよ? もっともっと……刻み込んであげるわ」
『せんぱーい……何処でしょうか?』
マシュの声が聞こえると、イシュタルはそっと俺から離れた。
「……ふふ、私の事は何も言わずに、デートを続けて来なさい。もし言ったら……ふふ」
あっさりとイシュタルは俺を解放した。嫌な汗をかいたまま、慌てて男性トイレから出た。
「ごめん、急に用を足したくなってな」
「いえ、全然構いません! それで、次はあちらに行きましょう!」
視線を感じたまま、俺はマシュと共に歩くがどうしても罪悪感が押し寄せてくる。自然とマシュとの距離は半歩程遠のいた。
「効いてる効いてる♪ このままマシュに愛想尽かされた所を、私が骨抜きしてあげるわ……」
イシュタルが微笑んでいる気がする。
そんな顔が浮かんで来ると逆にどうにかしてやろうと思えてきた。
「……マシュ」
「? なんでしょうか先ぱ――ひゃ!?」
イシュタルにお返しだ。そう思って俺はマシュをお姫様抱っこすると走り出した。
「せ、先輩!?」
「祭りだからな、思いっ切り行こう!」
「急にどうか致しましたか!? は、恥ずかしいです!」
ウルク中から視線が集まって来ている気もするがそんな事は関係ないと俺は後輩を両手に抱えて城前広場に走り続けた。
「……ふーん、あっそう。私が見てるって知ってる上でそんな事をするのね」
それを見ていたイシュタルの不機嫌は有頂天だった。
「良いわ、ならもっともっと愛してあげ――!?」
「――御相手は俺がしよう」
マアンナを動かす寸前に飛んできた泥をイシュタルは素早く回避する。その方向には愛し人と同じ顔の奇妙なサーヴァント。
「残念だけど、紛い者には興味無いのよ」
「それは残念。だが、嫌でも付き合ってもらおうか」
「アンタほどアイツが積極的だったら、幸せなのに、ねっ!!」
怒りをぶつける為に弓は引かれ、矢が飛来する。
同じサーヴァントであっても方や無銘、方や女神。何を取っても勝つ事など出来ない。
「っがぁ……!」
正確にゼアの眉間を貫いた矢。しかし、屍は泥となって消えた。
「アンタを相手にするには役不足だからな。悪いが時間を稼がせて貰うぞ」
湧き上がり続けるゼアの分身体。イシュタルは不敵に笑う。
「出来の悪い分身で時間を稼ごうって訳ね。小賢しいわね!」
再び引かれる弓。放たれた矢が全ての分身体を貫き穿った。
それでも直ぐに崩れた形を修復していく。
「面倒ね……」
イシュタルは再び放った。そして、一向に減らないそれを見て、今度はその場を離れようとするが分身体が一斉に槍を放ち始める。
「危ないわね! 全く……当たればまた面倒なバッドステータスを受けると考えると、当たる訳には行かない……」
「逃げ切れると思うなよ!」
イシュタルの後ろを追うゼア。空中に留まる事は出来ないが、泥となって屋根へ屋根へと飛び続けてイシュタルを追う。
「しつこいわね……だけど」
イシュタルは未だに余裕だった。
「時間を稼いでるのは、こっちもなのよ………」
「むーぅ……」
「ははは……いい加減、機嫌直してくれよ」
頬を膨らませるマシュに俺は飲み物を差し出した。マシュは受け取るが依然として怒っている。
「急にあんな事されて、驚いただけです。決して! 怒っている訳ではありません!」
明らかに怒っているのに怒ってないと言い張る面倒な女の子モードになったマシュに苦笑いしつつ、任せておけと言ったゼアを思い浮かべる。
(俺と同じ顔なんだ、頼むから死んでくれるなよ……)
そんな事を思いつつも既に広場では祝いの儀式と呼ばれる物が行われていた。
「今回の戦いで人間に力を貸した全ての神々へ捧げ物をしているそうですよ」
「へぇ……」
その女神に先まで襲われていた身として複雑な心境である。
「……ですから、私も先輩から、何かご褒美が貰えたら……なんて」
「マシュ?」
「……先輩! どうか……私に――」
「――良し、捉えたぞ!」
『!?』
マシュのヤンデレが覚醒しつつある瞬間、地面が無くなり奈落へと落とされた。否、引っ張られたと言うのが正しいのだった。
「魔術が……邪魔だ」
発動しようとしていたダヴィンチちゃんの魔術もあっさり取り払われて、何も出来ないまま地中へ攫われた。
「ふぅ……頼まれた通り、持ってきたぞ」
「ありがとうだわ。こっちも連れてきただわ」
俺は地上から引っ張られ、冥界まで連れて来られた俺の前には、巨大な姿のゴルゴーンがいた。
「ご、ゴルゴーン……!」
「マスター……すまないが、今回の妾の望みはお前ではなく、我が息子だ」
「息子……? あ……」
「はぁい、コチラで良いかしら?」
冥界へと降りてきたイシュタルの弓には縛られたゼアがいた。
その顔は酷く青ざめている。
「っひぃ! は、母上!?」
「ああ、愛しい我が息子よ……母に断りもなくケイオスタイドの混同意識から抜け出すとは……悪い子だ」
ゴルゴーンは蛇の如き目を光らせてゼアを見た。
「さぁ……母の中へお帰り。今日も思う存分愛してやるぞ……」
「嫌だぁ! 帰りたくなーい! 牛若丸の姉上にも会いたくなーい!」
無様だが切実な叫びを上げる自分の姿に、思わず涙を禁じ得なかった。
だが、無情にもゼアはゴルゴーンに抱きしめられ、2人はその場で光の粒子となって消え去った。
「ふぅ……ケイオスタイドに呑まれた女神の復活……感謝の儀式があったお陰でなんとか出来たわ」
「こ・れ・で……間違い無く貴方は私達の物ね」
「令呪をも――」
「転移禁止! 女神への命令禁止!」
頼りの綱の令呪はエレシュキガルの権限により跡形も無く消し去られた。
「逃走禁止! 勝手な移動も禁止なのだわ!」
「ちょ、ちょっと……!」
冥界の壁から鎖が飛び出し、俺の体を雁字搦めにした。
「……はぁ、貴女……やり過ぎよエレシュキガル。こんなに縛る必要ないじゃない」
「で、でも……居なくなったら、嫌なの!」
エレシュキガルは鎖の巻かれた俺に抱き着いて、ギューッと強く抱き締める。
「まあいいわ。それにもしかして……」
イシュタルは俺に近付くとその手の平を頬に添えて撫でてきた。
「……ふふ、マスターもこんなに縛られて期待してるかもしれないしね?」
イシュタルは俺の姿を面白そうに眺めて笑う。
「えへへ……マスター……これからはずっと一緒……寝る時も、起きる時も、冥界を見回る時も、ずっと独りだった時も……これからはずっと一緒にいるの……」
「ええ、そうね。だけど、だったらこんな鎖で縛ったままでは駄目ね」
イシュタルはそっと自分の衣装に手を掛けた。
「今から女神の私が目の前で脱衣してあげるわ。
だから、ちゃんと興奮してね?」
「わ、私も脱ぐ! マスターの望む所、全て見せてあげる! だ、だから…イシュタルばかり、見ちゃ駄目ぇ……」
双子の様な瓜二つの女神が同時にその衣を剥いでいく。その姿に俺の劣情は煽られ、2人のペースに飲まれていく。
「うう……見られてる……マスターに、こんなにしっかり……」
「エレシュキガル、照れ過ぎよ? 仮にも女神なんだから、裸くらい堂々と見せたらどう?」
対象的な2人の会話が、余計に男心を刺激する。
「……しっかり大きくなっちゃったわね……ふふ、そんな物欲しそうにしなくても」
「直ぐに……してあげる、わ。
……き、気持ち良く……なってね?」
「お帰りなさい、ゼア」
「お帰りなさい、ゼア」
「お帰りなさい、ゼア」
肌の黒い姉上に囲まれた。
「姉は寂しかったです」
「姉は心にぽっかりと穴が空いた気持ちでした」
「姉の元を去るなんていけない弟です」
耳元で3人の姉上が囁く。
「お仕置きさせてください、母上」
「早く放して下さい、義母上」
「………………ダメ。
マダ、ダメ」
義母上は俺をギューッと抱きしめたまま、一向に放す気がないらしい。
「なら分体で構いません」
「…………ゼア、フエテ。ハハモ、ヨロコブ」
その言葉に母上はピクリと眉間を動かした。
「おい……ゼアの母親は私だぞ、例え本物の女神だろうとその立場は譲らん」
「やめてくれぇ……無限姉上と義母上監獄は嫌だぁ……母上の這いずる抱擁も嫌だぁ…………」
「イヤガッテモ……カワイイダケ」
「姉上には愛してる以外の言葉は聞こえませんよ?」
「躾が足りないか……また鳴かせてやろう。膝の上に来い」
「ぎゃああぁぁぁああぁぁぁ!!」
俺は、とてつもなく嫌な自分自身の悲鳴で目覚めた気がした。
「……女神の奉仕の前で目覚めて良かった気がして来た」
果たして、あのラフムとして生まれた俺は無事だろうか。
心の中でそっと、俺はヤツの無事を祈った。
次回で1周年企画は最後です。
CCCコラボの為に石を130個程貯めた上に、呼符も10枚近くあります。BBちゃんは配布らしいので他のアルターエゴが実装されれば全部使い切るつもりです。