ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
沖田さん? もし仮に万が一にも出たら本編への登場が遅れます。
……あと1回10連回せるけど出る気しないです。
「えーっと、私また変な所に来ちゃったの?」
「俺が呼んだ。このヤンデレ・シャトーにな」
アヴェンジャーの横には青い筒袖……よりも袖の短い和服と黒い足袋にしては長いオーバーニーソックスと、刀の持った武士の姿にしては現代的すぎるファッションに見を包んだ剣豪のサーヴァント、宮本武蔵がそこにいた。
おまけに彼女が履いているのはヒールだ。
「どうだ嬉しいか、貴様の望んだサーヴァントだぞ?」
「冷静に考えたらここに呼ばれても嬉しくない事に気付いたのでチェンジ」
「えっと……帰らせては貰えないのかな?」
武蔵は戸惑っている様だが俺としても彼女の相手は御免である。
宮本武蔵が女だった平行世界からやってきた彼女は強力なサーヴァントだ。
セイバークラスとしての刀での戦いもさる事ながら、二天一流の何でもやると言う戦い方は相手の虚を突く事で対人戦を有利にする。
何よりも俺が恐れているのは――
「残念ながらお前達2人に拒否権など最初からない。さあ、行ってこい!」
「う、うーん……」
気が付けばヤンデレ・シャトーの中に宮本武蔵と共に転移していた。
武蔵は目元を抑えつつ、辺りを確認する。
「……え、ここ何処? 石造りの城……と言うよりも監獄って感じの雰囲気なんだけど?」
「……」
状況説明が面倒なのと単純に武蔵と一緒にいるのが危険だと判断した俺はその場を忍び足で立ち去ろうとする。
「はい、マスター! 逃げないでちゃんと説明してねぇー……?」
捕まってしまった。分かっていたがあっさりとだ。
「……説明って言われてもなぁ……」
本人に貴女はヤンデレになるとか説明しても信じないだろうしと、俺は説明を躊躇する。
「…………3、2、1、ハイ!」
急かされる。仕方が無いので渋々説明する事にした。
「実は……」
「あはははは、私が歪んだ恋!? 無理無理、だって私剣の道一筋だもん!」
「ですよねー」
説明してもやはり信じなかった。まあいいや、ならば正常な内にさっさと退避しよう。
「そう言う訳だから俺は此処らへんで失礼させてもらうよ。他のサーヴァントから逃げないと――」
俺が言い切る前に武蔵は俺の肩を掴んで止めた。
「――待った。私の側にいれば安心よ? 他のサーヴァントなんて追い払ってあげるわ」
ほら、もう病んでる。刀に手を掛けてるし。
「い、いや……大丈夫ですよ。歪んでるって言ってもそんなに酷い訳じゃないですし……」
「私は歪んでない。こんなに貴方と一緒にいても安心できるサーヴァントなんていないわよ?
だから、大人しく、私の側にいなさい」
もうほら、口調が命令に変わってるんですけど。
「……わかりました」
「ふふ、それでいいのよ」
武蔵は俺の手を握った。
「さぁ、止まってるだけじゃつまらないから、さっさと行きましょう」
「えっと……何処に?」
「私の部屋を探しに、よ」
言うが早いか、武蔵は俺の手を引くとさっさと歩き始めた。
「きっとお団子とかうどんとか……この際何でも良いわ。何か美味しい物があればいいんだけど」
食べ物に思いを馳せて……ならいいのだが、武蔵の俺の手を握る力が強くなる。なにか、覚悟している様に見えた。
「……お母さん!」
不安が募りながらも廊下を歩くと目の前にアサシンのサーヴァント、ジャック・ザ・リッパーが現れた。
「何あの子? 君の子なの?」
「俺をお母さんと呼んでるだけです……て言うか俺は男だし」
「ふぅーん、サーヴァントによってはマスターって呼ばない奴もいるのか……」
「お母さん、知らない人とお話してる……」
「子供に刀を向けるほど落ちぶれて無いわ。私達、この先に用があるの。ちょっと通らせてくれないかしら」
「お姉さん邪魔。お母さんはわたしたちと一緒にいればいい」
ジャックは先手必勝とばかりに手に持ったナイフで切りかかってきた。
「ふーん、攻撃してきたなら反撃しても良いわよね? 私、今だけは小さい娘にも容赦はしないわよ?」
刀を抜いた武蔵は俺の手を離して1歩前に出るとジャックを迎撃する。
その刀でジャックのナイフを受け止めた。
「……拙いわね」
今の攻防だけで2人はお互いの力量を把握し、ジャックは勝負に出る。
「お姉さん、殺しちゃおうか」
――その一言で辺りは霧に包まれる。
夜、女性、霧の3つの条件が揃うとジャック・ザ・リッパーの殺人を再現する対人宝具、マリア・ザ・リッパー。
条件2つはすでに完成しており、残りの条件を自らの魔力で無理矢理達成させた。
唄の様な詠唱の後、ジャックの斬撃が放たれる。
「殺戮を此処に――マリア・ザ・リ――っっきゃぁ!?」
夜霧に紛れて一閃……の筈が、自ら作った霧の中でジャックの悲鳴が木霊した。
「殺人の再現……残念だけど、私はか弱い女の子じゃないからね。
ただの目くらましと急所への斬撃じゃあ、私は倒せないよ」
霧が晴れると、地面に倒れたジャック、そして彼女のナイフは2本とも武蔵のヒールの下にあった。
「でもまあ、子供のおもちゃにしては物騒だから、これは没収ね」
「返してぇ!」
「だーめー! 全く……可愛い顔して物騒な女の子ね……」
武蔵はジャックのナイフを仕舞うと俺へと顔を向けた。
「さぁ、行きましょう。おいたの過ぎる娘は置いて行くのが一番よ」
「お、かぁ、さん……」
「ごめんな……」
大変心苦しいが、武蔵に引っ張られている俺はジャックに謝ってその場を後にした。
「ようやく着いたわ! 此処が私の部屋みたいね」
そう言って指差されたのは見た目は普通なドア。名前が書いている訳では無い。
「なんで分かるんだ?」
「何でって……んー? 何でだろう? でも、私が此処にマスターを連れて来たがってるんだから間違いないわ」
何だ、その野生の勘的な適当さは。
「細かい事はいいの! さあ、入って!」
背中を押されたので、押し込まれる様に入らされた。
「これが私のへ…………」
「……………」
二人共、黙った。
黙らなければならなかった。
足の踏み場も無い程に汚れている――訳でも無い。
寧ろ十分に動けるだろう。
何しろ、部屋が道場なのだから。
「武蔵の女子力、低過ぎ……?」
「ちょ、いや、違っ! そりゃあ、小さい頃は道場で剣を振ってばかりだったけど、修行の旅に出てからは大抵外だし!」
「だから部屋=道場なんじゃないですか?」
「うぐ……ひ、否定出来ない……」
取り敢えず入ってみる。
木製の床、試合をする為の木刀。
「ただの道場、ですね」
「い、いやいやいや! ほら、ここに小さい冷蔵庫が!」
指を指した先にある冷蔵庫らしき物を開ける。すると中からパックに入った団子が冷蔵庫を埋め尽くさんとばかりに溢れていた。
「飲み物すらないのか……」
「細かい事はいいの! さあ、食べましょう!」
そう言って2枚の座布団を床に置いた武蔵は座り込んだ。
俺は冷蔵庫から2パック程取り出すとやけに武蔵までの距離が近い座布団を少し遠ざけて座った。
「で、まだ歪んでないって?」
俺は此処で武蔵の正気度をチェックする。
「んー? 当然でしょう、私は君を気に入ってるけどそれはあくまで君の性格。戦いの中で背中を預けられるってだけで、君自身に大した好意は抱いてないって」
「そーですか」
本人はまだ病んでないと言っているが、先からちょいちょい言動がおかしい事は自覚していないようだ。
団子を食べる。うん、うまい。あまり冷たくなってない。
「おいひー! ふふ、お姉さんと美味しいお団子が食べられて、他のサーヴァントから守られるんだから最高でしょう?
君の方が私を好きになったんじゃない?」
ドヤ顔がウザ可愛い。
「はいはい……ん?」
もう1つ団子を口に入れようとしたが、部屋のドアが開けっ放しになってる事に気付いた。
「なあ、ドアが開いているんだけど?」
「んー? そもそも閉めたっけ?」
不用心だなと思ったが俺が再びドアへ視線を向けた瞬間、自然に刀の柄に手を掛けたのは横目で見逃さなかった。
「ーーっふ!」
武蔵は天井から振り下ろされられる刀を受け止めた。
「天狗の仕業、かな?」
「っち、仕留め損なったか」
突然の強襲者は牛若丸だった。天狗の技で天井に張り付いて襲い掛かってきた様だ。
「幾ら何でもタイミングが悪いよ? 私が刀に手を掛けた時には襲ってくればそりゃ防がれるでしょう?」
「ふん、余計なお世話だ」
牛若丸は高所恐怖症だ。天井に張り付いているのが怖くて仕方なかったのだろう。
「牛若丸、推して参る!」
「え、うっそ!? 牛若丸!? ちょっと、女の子が有名な侍とかこっちの世界本当におかしいんじゃない!?」
お前が言うな。そう言いたかったが既に両者の攻防は始まっている。
武蔵は魔力以外のステータスがB、対して牛若丸は筋力と耐久が武蔵よりも劣るが敏捷はA+。
その速さに対応する為に武蔵は2本目を抜かざるを得なかった。
「っは――!」
「――っく!」
牛若丸が有利な様だ。燕の早業のスキルが二刀を持った武蔵に防戦を強いらせている。
だが、武蔵の二天一流は凌げてさえいればその強さが発揮される。
刻一刻と武蔵が牛若丸打倒の策を練り始める。
その瞳は、牛若丸を見つめ輝き始める。
「っ……!」
牛若丸もその異様さに気付いて攻撃の手を激しくするが、武蔵はそれすら捌く。
「っこの!」
「ー―っ!」
致命的。
焦りの募った牛若丸が放った力の籠もった一撃は武蔵が刀身で受け流したせいで対象の横を通過し、戻ってくるのに数コンマ遅れる。
それだけあれば――
「っ!?」
――切り裂けると確信した武蔵だったが、牛若丸は突き出した刀を引き戻すのでは無く自らの体を前進させ、武蔵の体に蹴りを浴びせたのだ。
「っぐ!」
牛若丸は直ぐに刀の間合いから離れた。
幸い、ステータスの差で武蔵は対したダメージは無い。
「……取れたと思ったんだけど」
「流石に、倒すのは手間が掛かる……」
両者共に互いの力量に舌を巻く。だが、闘志は衰えていない様だ。
「……?」
2人から視線を外した俺は袖を引っ張る小さな存在に気が付いた。
「一緒に、出ていきませんか?」
……2人とも忙しそうなので、席を外す事にした。
「えへへ、トナカイさんお久しぶりですね!」
俺を連れ出したのはジャンヌ・オルタ・サンタ・リリィである。
「大変でしたよ! 廊下歩いてたらジャックちゃんが泣いてるし、物音が聞こえたのでお部屋に入ってみたらサムライさんが勝負してますし……」
「まあ、そりゃ驚くよな……」
彼女と手を繋いで廊下を歩いている。後ろから徐々に小さくではあるが絶えず剣戟が聞こえているのでまだあの2人は死合中だろう。
「さあ、私のお部屋に着きましたよ!」
そう言ってジャンヌ・オルタ・サンタ・リリィは部屋を開けた。
「ジャックちゃーん! ただいま!」
「……」
部屋の中から声が返って来ない。
「ジャックちゃん!」
部屋に入ると端の方で蹲っている者を見つけた。
ジャック・ザ・リッパーだ。体育座りで膝に顔を埋めて、どこからどう見ても落ち込んでいる。
「ジャックちゃんに、プレゼントを持ってきましたよー」
「プレゼント……? っ!?」
落ち込んでいても子供だ。プレゼントと言う言葉に反応して顔を上げ、俺の顔を見て驚いた。
「……お母さん?」
「はい、トナカイさんです!」
ジャンヌは胸を張って肯定した。
「……お母さん、おかぁ、さん……お母さんお母さんお母さんお母さんお母さん!!」
ジャックは文字通り、俺の胸に飛び込んで来た。
「お母さん!!」
「よっと……はいはい、お母さんですよー」
流石にこんな状態の子供から逃げる程臆病ではない。俺はジャックの体を抱きしめて頭を撫でる。
「お母さん! ごめんなさい! 弱いジャックで、ごめんなさい!」
「俺は怒ってないからな」
「……ごめんなさい、ごめんなさい……」
「許すから。っていうかジャックは何も悪くないから……」
泣き止むジャックの頭を軽く叩いて、俺は床に下ろす為に屈んだ。
「…………」
無言のまま、俺に抱き着いたまま離れない。
流石に泣いていた子供に下りなさいとはいえないので少し待ってみる。
「…………」
「……ジャック? 寝ちゃったか?」
俺は首を横に倒して彼女の顔を覗き込んだ。
ジャックの涙は止まっているが、その腕はギュッと俺の服を掴んでいる。
「……ん」
顔を起こしたジャックは素早く俺の唇にキスをした。
「な!」
すぐに離れた。ジャックは嬉しそうに笑った。
「お母さん、わたしたち頑張る。もっともっと、強くなる」
「……ははは、頑張れよ」
「そこまでです!
ジャックちゃん! トナカイさんにくっつき過ぎです!」
どうやらリリィの我慢は限界のようだ。
「わたしたちのプレゼントだよ? サンタさんは、子供へあげたプレゼント、取っちゃうの?」
「うっ……そ、それは……!」
「……ジャック、意地悪しない」
「はーい……じゃあ、左手だけ」
そう言ってジャックは俺の左手を持ち上げるとリリィに差し出した。
「……あ、ありがとうございま」
「手だけ、左腕は触っちゃ駄目」
「ジャックー?」
「……じゃあ、左……半分」
俺の声に唇を尖らせながらもジャックはリリィに譲った。
「……! わぁー! トナカイさーん!」
俺は抱き着いてきたリリィとジャックの頭をそっと撫でた。
(勝った、ヤンデレ体験・武蔵、完!!)
「終わらせるか!」
俺の古くから伝わるフラグに反応したかの様にドアが斬り倒された。
「さ、先のサムライさん!」
「何私の話を幼女で終わらせようとしてるのかしら?」
ジャックは武蔵を見ると俺から離れて、武蔵を睨む。
武蔵はそれを面白くなさそうに輝きを放つ瞳で見る。
「今度は、負けない!」
「……今度は情けは掛けないよ?」
武蔵は刀を抜かずにジャックに近付く。
ジャックも自身の高い敏捷で間合いに入ろうとするが――
「遅いよ!」
「っあ!?」
先の牛若丸の戦いで慣れてしまった武蔵には届かない。カウンターで蹴りが入った。
武蔵は倒れたジャックに近付き持ち上げた。
「……女の子に手を上げるのは好きじゃないけど――」
「ジャックちゃんを放――」
槍を持ったジャンヌ・オルタ・サンタ・リリィが武蔵へ迫る。
「――遅いわ、よ!」
「っきゃぁ!?」
だが、掴んでいたジャックをリリィに投げて二人まとめてリタイヤさせる。
(てっきり、覚醒したジャックの無双シーンだと思ってたんですけど……)
俺は彼女の目を見る。
(やっぱり、あの眼は……)
武蔵の持つAランクの魔眼、その名は天眼。
1つの目的へと必ず至る力。その力こそ俺が彼女を恐れていた理由だ。
自分の存在全てをその目標の達成に向けさせるこの魔眼は、
「全く……私の側にいなさいって言ったでしょう? 何で離れるの?」
「い、いや……流石にあの決闘場にいるのはちょっと……」
「だから何? 私があの戦いの中、君の事を見ていないとでも思った? 知ってるのよ、君が自分からあの娘に着いて行ったの!」
「わ、悪かったよ……」
「へぇ……悪かった、そう思ってるんだ?」
武蔵の口調が含みのある物に変わる。
「あ、あ……」
「じゃあ、これから埋め合わせだって言ったら、一緒に来てくれるよね?」
「も、勿論!」
有無を言わせない武蔵の雰囲気に飲まれ、俺は頷いた。
「じゃあ、ついて来てよ」
そう言って武蔵は俺の手に書類を渡してきた。
「これから、一生私の剣の道に、ね?」
「やっぱり歪んでるだ――!?」
頬を剣が掠める。
僅かに刀に付いた血を、武蔵は舐め取った。
「余計な事は言わないの。それに
最初から、ちゃーんと、私の純粋な愛情よ?」
次回もヤンデレ体験! 果たして作者は持ってないキャラの特徴を捉えて書く事が出来ているのか!?
めっちゃ不安です……