ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
1月に入ったら親戚やら旅行やらで投稿が遅くなると思います。ご了承下さい。
「クリスマスパーティーの手伝い?」
エドモンが俺の頭を少し下げて頼んで来たのは、クリスマスの1週間前の夜だった。
「ああ、と言うのも、昨日からサーヴァント共にクリスマスのパーティーの準備をする様にと聖女ではない方のジャンヌが伝えたんだが……」
エドモンは溜息を吐く。
「何をどう間違えたか、何人かのサーヴァント共はそれぞれ違う場所、違う時代でクリスマスの準備を初めてしまった……」
「それ、どう考えてもジャンヌが悪いだろ?」
俺の指摘に何処からともなく、ジャンヌが現れた。
「違うわよ!? 私はちゃんと、“聖夜の準備を始めなさい”って言ったわよ!?」
「あー……なるほど」
その言葉に納得がいった。
恐らく、ジャンヌ・オルタは分かっていない、と言うよりも純粋に聖夜と言ったのだろうが、ヤンデレ化したサーヴァントは“そっち”方面に考えたんだろう。
「なので、済まないが緊急事態だ。レイシフトを行い、サーヴァント共を此処に連れて帰ってくれ」
「それはいいけど……どうやって?」
「安心しろ。誤解を解くために堕ちた聖女を連れて行け。リリィの方だがな」
「アヴェンジャーさーん!」
後ろの方から幼い声がする。振り返ると飾り用のベルを持ったジャンヌ・オルタ・サンタ・リリィがツリーを指差していた。
「届きません! 椅子か何かありませんか!」
「む、すまない。忘れていた」
エドモンは指を鳴らしてツリーの側に椅子を出した。
「よいっしょ、っと……あれ!? トナカイさん!」
ベルを飾ったジャンヌ・リリィは俺に気付いてこちらにやってきた。
「トナカイさん! 皆さんを迎えに行くんですね! お供します!」
そう言ってジャンヌ・リリィは俺の手を嬉しそうに握る。
それをジャンヌ・オルタは苦虫を噛み潰した様な……否、恥ずかしいだけだな、アレは。
「と、とっとと行きなさいよ! 聖誕祭なんてどうでも良いけど、私のせいで祭りが出来無いなんてたまったもんじゃないわ!!」
こうして俺の少しおかしなクリスマスが、始まった。
「トナカイさん、最初は此処です!」
レイシフトする前にリリィに連れて来られたのはカルデアの一室、マシュ・キリエライトの部屋だ。
「まずはマシュか……」
「はい! 難易度は低そうですし、チョチョイと連れていきましょう!」
まあ、伝言の訂正をするだけだ。気楽に行こう。
「マシュ、いる?」
『せ、先輩!? 今開けますね!』
ノックして声をかけると直ぐにドアが開き、中から私服姿のマシュが現れた。
「ジャンヌの伝言が正しく届いているか確認に来たんだけど……」
「ジャンヌさんの伝言……聖夜の準備ですね! ですから、先輩と一緒に楽しむ為にこうして準備をしています!」
部屋を見る。
ナイチンゲールがニッコリしそうな程にホコリも塵も無く、カーテンも赤と緑のクリスマスカラーに変わっている。
タンスの上には50cmサイズのクリスマスツリーが置かれており、プレゼントもある。
ベッドのサイズが少し大きい事とその横にある怪しげなお香には目を瞑ろう。
「あー……実はあの伝言、クリスマスパーティーの準備を、って意味で――」
「――はい! ですから、こうして先輩の為にセッティングさせて頂きました!」
駄目だ。マシュの中ではクリスマスは俺と一緒にいるのが当たり前になっている。
「先輩は1年中大勢のサーヴァントに囲まれて大変でした。
一杯迷惑かけられて、トラブルに巻き込まれて……
ですけど、クリスマスは私と、純粋なサーヴァントでは無い私とだけ、一緒に過ごしましょう。 誰にも邪魔はさせませんし、このマシュ・キリエライト、全身全霊で護らせて頂きます!」
マシュは俺の両手を掴んで部屋に引き込もうとするが、それをジャンヌ・リリィが止めに入った。
「ま、マシュさん! クリスマスは皆で楽しむ日ですよ!?」
「ええ、ですから、先輩と私で楽しみます。皆さんもどうぞパーティーでも飲み会でもしていて下さい」
「もちろんトナカイさんもパーティーです!」
ジャンヌ・リリィがそう叫ぶとマシュの動きがピタっと止まった。
「……え? 今、なんて言いました?」
「トナカイさんも一緒にパーティーを楽しむんです! ね? トナカイさん!」
地雷だ……踏まれた地雷は今まさに俺の足元で現在進行形で起動音を立てている。
「せん、ぱい?」
(皆で楽しくやろう!)
「まあ、そういう事なんだけど……マシュはパーティー……嫌か?」
もう1つの選択肢は心に仕舞い、マシュに遠慮気味に尋ねる。こう言われればヤンデレでも断るのは難しい筈だ。
「……嫌です」
「え……?」
予想外の返答。
「イヤです! 先輩、クリスマスは! いえ、これからはずーっと! 私とだけ一緒です!」
狂気に飲まれたマシュはこちらに襲い掛かってきた。
《パーティを選択して下さい》
「……せん、ぱい……一緒、に……」
「よっと……」
戦闘の末、倒れ込んだマシュを受け止める。
やれやれ……
ターゲット集中スキルでチャージが貯まるのがやたら早いし、バーサーカーでも弱点が突けない上に防御バフがあるからダメージ稼げないし、2ターンに1回は無敵付加するしで敵に回ると倒しにくい事この上ないなこの娘……
ジャックの情報抹消からの防御無視女性特攻付加宝具が無かったら大変だった……
「悪いけど、クリスマスパーティーの手伝い、ちゃんとしてもらうからな?」
マシュを運ぼうとする俺にジャンヌ・リリィは待ったをかけた。
「トナカイさん! 回収は未来の私が致しますので、私達は次に行きましょう!」
「分かった」
「先輩……一緒に……」
「悪いな……また今度、な?」
「さっさと次の回収に行きなさい」
ジャンヌ・オルタにマシュを任せると、俺とリリィはレイシフトを開始した。
……所で、マシュがドロップしたサンタフォウ君人形は幾つ集めて何処で交換すれば良いんだ?
「……此処は……」
俺達がやってきたのはカボチャやお菓子がそこら中に置かれた街広場の様だ。
「ハロウィン、でしょうか? まだ飾り付けられてますけど、もうとっくに終わっていますよね?」
「って……此処って事はつまり……!」
「あら、仔ブタじゃない!」
「来てくれたのね!?」
登場サーヴァントに気付いた俺の後ろから声をかけて来たのは、キャスタークラスのエリザベート〔ハロウィン〕とセイバークラスのエリザベート〔ブレイブ〕だ。
「……何をしてる?」
「見れば分かるでしょう? 聖夜の準備よ!」
誇らしげに言うハロエリ、ブレエリもそれに続く。
「聖夜と言えばライブ! ライブと言えばこの私達!」
「あの、聖夜とはクリスマスの事ですよ? それにハロウィンはもう終わってますし……」
「シャラップ! 此処は私達の国! 私がハロウィンと言ったら365日、24時間ハロウィンなの!!」
これは黙っていられない。何か言ってやらないと……
(ヴラド叔父様ぁ!)
「アッセイ、アッセイ!」
「っひぃ! 筋肉ダルマはやめて!」
流石にこの脅しは効いたらしい。
Extraの方の叔父様を呼んでも良かったんだが、またやり直しを食らうのはゴメンだ。
「こ、こうなったら! アンタ達を倒すまでよ!」
「クリスマスは滅びて子ブタも手に入る! 一石二鳥ね!」
何か無茶苦茶言い出した。
「子ブタには逆らった分だけ優しぃーく拷問した上で」
「ライブを特等席で聞かせて」
「「私達のディナーをタップリ食べさせてあげるから、覚悟しなさい!」」
(拷問しかない!?)
「拷問しかない!?」
「ハロウィンなんて悪い文明、ここで滅ぼしてあげましょう!
あと、トナカイさんに七面鳥をあーん、してあげるのは私です!」
《アーチャーとライダーがオススメです》
「や、やっぱり、竜とか爬虫類は……」
「冬が、苦手よ……」
倒れる2人を抱える。鎧の方が重いが黙っておこう。
「暖房があるから暖かい部屋でパーティーの準備してくれよ」
やってきたジャンヌ・オルタに2人を預ける。
「全く、何で私が……ブツブツ」
「これでハロウィン撃破! このままバレンタインとかも倒してしまいましょう!」
「いや、それはきっとアルテラさんの仕事だから……」
ドロップ品の回収は済ませたけど、何だこの赤い鼻と角の付いたカボチャは……?
「レイシフト完了、っと」
「此処は、不思議な場所ですね……なんだか私に特攻が付加される予感がします!」
着いた場所は平原。
見渡すと方角ごとにお菓子の国や海、氷の城や墓地が見える。
記憶が正しければ此処は……
「魔法少女の国か」
「魔法少女、ですか?」
「その通りよ」
声ともに現れたのは黒いマント赤い服装、褐色肌のサーヴァント。
アーチャークラス、クロエだ。
「お兄さん、随分早くやってきたわね? まだ性夜の準備、出来てないんだけど?」
「……直球で間違えてきやがったな……」
「……あの娘、あんなに露出して寒くないんでしょうか?」
ジャンヌ・リリィ、君がそれを言うのか?
(ジャンヌは寒くない?)
「2人共、上着いる?」
「寒くはありませんが……トナカイさんのだったら、欲しいです!」
「私にも頂戴♡」
魔術協会礼装の上着を2人に渡した。
「クンカクンカ……うぇ、薬品の匂い……」
「魔術協会の礼装だからなぁ」
それでも大事に畳んで仕舞ったクロエは小悪魔的な笑みを浮かべる。
「それじゃあお兄さん、何処でシタい? お菓子の家で甘々? 船の上で激しく? 図書館で静かにも良いし、お城のキングサイズベッドの上なんか、極上よ?」
ジャンヌはそれを聞いて顔が真っ赤だ。
「ふ、不潔です!
聖誕祭をなんだと思ってるんですか!?」
「え? 恋人と過ごす日でしょう? ホワイトに、ね?」
「……トナカイさん……この娘へプレゼントは純粋な子供になれる様、素敵な絵本がいいと思います」
(赤ずきんとか?)
「浦島太郎とか?」
それを聞いたクロエは妖しく笑う。
「浦島太郎ぅ? 亀に跨がる話?」
「一先ず、この娘を黙らせます!」
「あ、お兄さん。負けたらこの娘も手錠で縛って仲良く監禁ね!」
「……え?」
《静謐とか連れてくとゆりゆりだよ》
「こ、この娘怖いです! 戦闘中に何度も何度もキスしようしてきました!」
負けたクロエではなく泣き付いてきたジャンヌを抱きしめる。
「ぐふぅ……その娘、ライダーじゃなくて、ランサーなのね…………相性最悪……」
「それじゃあ、カルデアでクリスマスパーティーの準備、よろしく」
「うぅ……魔力足りないから、お兄さん、キスしよう?」
クロエは抱き着こうとするがジャンヌ・リリィが首を掴んでそれを許さない。
「さっさと持ってちゃって下さい!!」
「はいはい……」
今回のドロップ品は、赤と緑の魔法のステッキか。もしかして、周回とかしないといけないのか?
「海です! 海ですよ、マスター!! こんなに早く海が見れるなんて!」
(楽しそうだね)
「嬉しそうだね」
「はい! ……ゴホンゴホン! いえ、今はお仕事中です! 早速此処にいるサーヴァントさんを見つけましょう!」
ジャンヌ・リリィはそう張り切って辺りを見渡した。
「無人島、でしょうか?」
どう見ても以前遭難したウリ坊の住む島だが、家が立っている。
鉄でも無ければ木でもない。現代の家、と言った感じだ。
「すごい違和感ですね。森の中に普通の家が立ってますよ。あ、あんな所に電波塔らしきものが!?」
(あっちには畑もある)
「こっちには牧場が……」
俺達が辺りを見渡していると、家から誰か出てきた。
誰かと思って目を凝らしているうちに、跳躍しながらこちらに凄い速さで近付いてきた。
「ん……なんだ、マスターか」
「えーっと……水着を着た、スカサハさん?」
やはりというべきか、この無人島に家を建てて暮らしているのはスカサハだった。
「性夜、つまり夫婦が営みを行う夜だろう? まだ結婚もしていなかったのを思い出してな。教会を建てるついでに色々住みやすく整えておこうと思ってな」
「一夜どころか今後の人生の準備まで始めてしまってますよ!? 聖夜は聖なる夜、聖誕祭の事です! 何でパーティーの準備をしてくれないんですか!?」
リリィがそう言うと、スカサハはこちらを見てから、考え始めた。
「……多妻……霊基……私が3人……」
(そっちのパーティーじゃないから!)
「ジャンヌはカルデアの皆でクリスマスを祝いたいんだ」
「む? マスターは私とだけ夜を共にすれば良いだろう? 他の者は好きにすればいい」
「駄目です! トナカイさん、マスターさんも一緒じゃないと駄目なんです!」
リリィは槍を構えた。
「子供のワガママを叱るのは大人の役目か……」
「マスターさん! あの人にクリスマスがなんたるか、しっかり教えてあげましょう! セクシーじゃなくてハッピーこそが聖誕祭です!」
《アサシンってチャージ短いから面倒》
「勝ちました! さあ、帰ってクリスマスの準備をしてもらいますよ!」
リリィは勝利を素直に喜んだ。誇らしげだ。
「仕方あるまい……
所でマスター、サンタ姿のキャスターは要らないか?」
スカサハの言葉の意味を直ぐに理解した。この人ならまた霊基を弄りかねない。
(若いし、イケる)
「間に合ってます」
「そうか……短すぎるミニスカートに挑戦しようと思ったのだが」
「クリスマスは健全に!」
問題発言が続くがリリィに引っ張られジャンヌ・オルタまで連行されたスカサハはカルデアへと帰って行った。
「皆さん、おかしいです! クリスマスはそんな不潔な行事じゃないですよ!」
昨日は似たような事をジャンヌ・リリィにされそうになったのだが、本人は覚えていないのだろうか?
「……き、昨日のあれは……その……み、未来の私が悪いんです!
あんな破廉恥な真似、マスターさんと結婚するまでは絶対にしません!」
微笑を膨らませて怒るジャンヌ・リリィ。恥ずかしいのか顔をそらしたが、すぐにこちらに戻した。
「……だから、今はこれだけで、良いんです!」
そう言ってジャンヌ・リリィは俺の手を握った。
「……海、あっさり来ちゃいましたね」
握ったまま、海を見つめる。それに習って、俺も海を見た。
(そうだね)
「ジャックとナーサリーには内緒だ」
「……! はい! 今度はちゃんと、2人も連れていきましょう!」
リリィが笑うと、スカサハのドロップしたスイカ柄のベルが小さく鳴った。
イベント配布サーヴァント勢揃い。(金時とアイリと式は除く)
アルトリア・オルタ・サンタも裏方ですので出番なしでした。