ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

34 / 162
今回は季節がズレましたが夏っぽい話です!
夏休みが恋しくなるかもしれませんね。




ヤンデレと結構普通なデート

 

「……昨日の悪夢の記憶が無いんだが、何かあったか?」

「いや、何にもなかった」

 

 今朝目が覚めたら顔中の汗で枕を濡らしていたのだが、アベンジャーは何も知らないと首を振った。

 

 どう考えてこの夢の中で何かが起きたんだと思うが……

 

「それよりも、今日はサーヴァントとのデートだ」

「今日……は?」

 

 頭が痛い。何故か知らないがデートという単語が頭の中を疼かせる。

 

「1人が相手だ。まあ、絶対では無いのだがな」

「それはどういう意味だ?」

 

「相手次第、と言う意味だ」

 

 

 

「……此処は、何処……?」

 

 目を擦る。

 起きた場所は街の中では無く、波音聞こえる砂浜だ。見覚えの無いバックが右手に握られている。

 

「ご主人様!」

 

 呼ばれたのでそちら視線を向ける。

 

「初デートが海なんてちょっとどうかなー、とか思ってましたが……

 この開放感、何より人目が全くないフリーダムな感じ! 最高です! 人目がないのが本当に……ぐへへへ……」

 

 この淫乱サーヴァントはキャス狐である。

 

 本来はキャスタークラスのサーヴァントだが、水着仕様の今の姿ではランサーとなり、パラソル振り回す系女子へと変貌を遂げている。

 

 水着に麦わら帽子、パラソル、更にはオイルも持っている様だ。狐耳と尻尾があざとい。

 

「でもでも、やっぱりー? 折角のデートですからお約束はしておきましょう! 全部こなして童心に帰ってから、アダルティな危ない夜の遊び……キャー!」

 

 両手で頬を抑えて叫んでいる狐。周りに誰もいない様だし、本当に2人っきりの様だ。

 

「……どーしよ」

 

 逃げ場らしい逃げ場が、無い。

 

「さぁさぁご主人様、パラソルは刺しましたし、シートも広げて置きました!」

 

「タマモ、パラソルは唯一無二の武器なんじゃ……」

 

「いえいえ何を仰りますか!

 ランサーにクラスチェンジしても私には呪術がございます! 例えライダーが来ようと等倍ダメージを与える謎の御札でどんなエネミーもイチコロしちゃいますのでご安心下さい! そもそも此処に敵は来ない筈ですので!」

 

 そしてタマモは水着の上に来ていた白いシャツを脱いだ。

 

「じゃーん! マスター! 愛しのタマモちゃんの水着でございまーす! ふふふ、どうですかー? 刺激的でしょう?」

 

 これみよがしにポーズを決めるタマモ。ピースしたり、ウィンクしたりと忙しない。

 

「わー、キレイだなー、かわいいなー」

 

「綺麗な棒読み、ありがとうございます! ……マスター、そんなに私の水着姿、イケてませんか?」

「いや、普通に似合ってるよ」

「普通のテンションならちゃんと答えてくれるマスター……! では早速……」

 

 タマモはシートの上にうつ伏せに寝そべった。

 

「オイル、塗って貰えませんか?」

 

「そー言えば俺の水着どこだろー?」

 

 わりと普通のテンションで頼まれたが無視して右手に持っていたバックを開き、中身を確認する。

 

「ま、マスター!?

 そこは承諾するところでは無いですか!?

 男色やら不能疑惑のあるラブコメ難聴主人公ですら、オイルはしっかり塗るのに……!」

「水着が無いから帰って取ってくるねー」

 

 このまま帰宅してしまおう。

 

「夢の中で帰ろうとしないで下さい! マスターの水着なら、ほら! 魔術礼装変更で装着して下さい! 9話くらい前の話で覚醒したアレです!」

 

「……っち」

 

 舌打ちをしながらも水着型の礼装、ブリリアントサマーを装着する。

 

「素敵ですマスター!」

「そりゃどうも」

 

「それではオイル、塗ってもらっても良いですか?」

 

 再び寝そべったタマモ。水着のホックを外してこちらの様子を伺う。

 

「……はぁ」

 

 仕方が無いのでオイルの容器を手に取り、両手を合わせてオイルを人肌でぬるくしてから背中に塗った。

 

「っく……お約束の喘ぎ声の様な悲鳴はあげさせてはくれませんか?」

「いや、それはお約束でも何でもないだろ」

 

「……所でマスター? 正面にも塗りたくありませんか?」

 

「俺も自分に塗らないとな」

 

 タマモを無視して顔にオイルを塗る。日焼け対策を忘れると後で皮膚に火傷による痛みが生じる。しっかり対策しておこう。

 

「ミコーン! 見事なスルースキル! 3作プレイしたのは伊達ではないという事ですかー!?」

 

 何か騒いでいるが知った事か。適当に塗った後に海へと直行した。

 

 

「ご、ご主人さまぁ! お待ち下さーい!」

 

 波は穏やか。そこそこの冷たさ。深さも腰より少し上程度。しばらく泳ぐか。

 

「うう……水かけでキャッキャウフフするイベントより先に水に全身をつけましたか……」

 

 さすがサーヴァント、もう隣にやってきた。

 

「なら、ば!」

「う、ちょ!?」

 

 タマモは俺の背後に素早く飛び掛かり、両腕で肩を掴み両足で体に巻き付いた。

 

「名付けて、だいしゅきホールド健全ヴァージョンでございます!」

 

 と言いつやけに胸を重点的に動かしてくる。

 

「何処が健全だ、発情狐」

「フフフ、マスターも嬉しいくせ――あぶばぶばぶっ!」

 

 肩に置かれた両腕を外す。上半身の支えが無くなったタマモそのまま上半身だけ水中へと落ちた。

 

「あぶ――ぷっは! 海水が鼻に……染みる……マスターの鬼!」

「全く……」

 

 ヤンデレであろうがなかろうがこの狐のテンションは鬱陶しい。誘惑があざと過ぎる。スルーかいなすが安定だ。

 

「さーて、適当に泳いでよ」

「マスター! 大きめなイカダ型の浮き輪がありますよ!

 不安定な浮き輪の上で、手が思わぬ所に触れてしまいそこから燃え上がる恋のほの――」

 

 ――バタフライ泳ぎの練習をしよう。 

 

 

 

「ふーっ……ん?」

「ささ、マスター! 休憩がてら昼食にいたしましょう」

 

 数十分程泳いだ後に海を出て元のシートに戻るとタマモからタオルを手渡された。が、タオルと言うには手触りが良すぎた。

 

「……このタオル」

「タマモの尻尾の毛で編んだモコモコスベスベなタオルでございます!

 因みにー、尻尾の毛は一晩で復活しましたので遠慮なさらないで下さい」

 

 そうは言われたがこのタオルに問題がある。若干獣臭いのと、毛が見事に水を弾いて拭くのにはまるで向いていない事だ。

 

「以上の問題点から、直ぐに俺のタオルと交換して頂きたいのだが?」

 

 俺がそう要求するとタマモはぎこちない動きで後ろのバックからタオルを取り出した。

 

「え、えーっと……ま、マスターのタオル、ですね……えへへ……はい」

 

 差し出されたタオル。しかし、所々濡れている。

 

「……これは?」

 

「ちょ、ちょーっとですよ? ちょーっとだけマスターのバッグを確認したら、マスターの匂いがして思わず手にとってしまいまして…………テヘッ!」

 

 テヘッ! じゃない。どう考えても俺のタオルを濡らした液体はタマモの唾である。

 

「……はぁー。仕方ない。お前のタオルを貸してくれ」

 

「え!? で、でも……」

「流石に唾がついたタオルは不潔だ。お前の水で濡れたタオルで我慢するよ」

 

 そう言われてタマモはいそいそと体に巻いていたタオルを取ると俺にそのタオルを渡し、俺のタオルを体に巻き、匂いを嗅き始める。

 

「……と、所でマスター! 私、手作り弁当をご用意しております。どうぞっ!」

 

 そう言って話題をすり替えようとタマモはおにぎりと華やかなおかずの入った弁当箱を手渡してきた。

 

「……ど、どうぞっ!」

 

「……頂きます」

 

 一瞬だけ頭に薬物の可能性が過ぎったがタマモの弁当を渡す手が小さく揺れているのを見て、それは無いと思い受け取った。

 

「それじゃあ……ん」

 

 俺は箸でおにぎりを掴み、噛んだ。

 

「…………」

 

「……ん、上手い」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 俺の感想にタマモはパーッと笑顔を咲かせる。

 

 おにぎり自体、ご飯が作れれば誰でも作れるが、この自称料理下手はそれすら自信が無かった様だ。

 

「塩加減がちょうどいい」

 

「ふっ、ふふ! そうでしょう、そうでしょう!

 私、気付いたのです! 私はあくまで良妻系サーヴァント! 恋人なんて初々しい感じの設定でマスターに迫ったのが間違いだったのです!」

 

 おにぎり褒めただけで調子乗り始めたぞこの狐。

 

「俺のタオルを唾だらけにした時点で良妻じゃなくてストーカーなんだが」

「ミコーン!? 

 そ、それは……狐の性と申しますか……あ、アレです! 狐だと手で掴めないので口で掴んだー、みたいな……」

 

「それは狐ではなく犬の所業だな」

 

「ミコーン!?」

 

 

 

「スイカ割りか……」

「海といえばこれでございましょう?    

 シートも敷きましたし、割れても汚れません!」

 

 目隠しした俺は棒切れを持ってキャス狐の指示を待つ。

 

「前ですよ、マスター!」

 

 言われたとおり前へと歩く。

 

「右に行ってください!」

「右だな……」

 

 支持の通り右へと移動した。

 

「……タマモ次の指――おわ!?」

「ッヘブ!?」

 

 指示が遅いので声の位置からして後方にいたタマモへと振り返ったが、棒切れに何かが当たった衝撃に驚き、何とか踏ん張り倒れず、目隠しを取った。

 

「な、何だ!? あ……」

「ふ、不覚……」

 

 俺の前で地面に額を抑えつつ倒れ込んだタマモを見て悟った。

 

「お前、目隠しした俺を背後から襲おうとして振り返りざまの棒に額をぶつけたな?」

 

「み、みこー……ん」

 

 その後、シートの上にタマモを運び、額の上に適当な濡れたタオルを置いた後、1人海で遊び尽くした。

 

 

 

「部屋は何処ですか?」

「203号室です」

 

 日も暮れてきたので2人で近くの2階建ての旅館へとやってきた。

 

「うう……まだ痛いです」

「やれやれ……」

 

 未だに頭を抑えているタマモに呆れつつ部屋へとやって来た。

 

「て言うか同室なのか……」

「おや? マスター、期待してます?」

 

「いや、これっぽ――」

 

 俺の言葉を遮る様に部屋の扉が閉められた。

 

「フフフ……海では全然見せ場がありませんでしたが……此処はまさに私の独壇場です!」

 

 そう言うとタマモは俺を押し倒した。

 

「……なんのつもりだ」

「マスターってば警戒してる割にはガードが緩いんですから……ふふふ、どんなにあしらわれてもベッドの上では私が勝ちますよ?」

 

 タマモは先程のおちゃらけた雰囲気から一転、狂気を顕にした。 

 

「今までのは全部マスターを此処に連れ込む為のお芝居です。良妻な私ですが、やはり夫婦の営みはしたいのです!」

「要するにただの淫乱、だろ!」

 

 【緊急回避】で拘束を抜け出した急いで俺は部屋を脱出した。

 

「ふふふ、逃げられないですよ……何せここはただの旅館では無く……タマモ旅館なのですから」

 

 

「全く……!」

 

 部屋を出た俺は旅館から出ようと一階への階段に走る。

 

「って、何だこの氷の壁!?」

 

 が、階段への道を塞ぐように氷の壁があった。中心に御札があるので恐らくタマモの仕掛けたモノだろう。

 

「っく……っ!?」

 

 後ろを向いて部屋を睨みつけた俺だが、同時に部屋の奥の鏡に映る、不気味な自分を目撃した。

 

 

「ご・しゅ・じ・ん・さ・ま……」

 

 

 俺へと虚ろな視線を向ける俺が、鏡から現れる。

 鏡から出たと同時にその姿はタマモへと変化した。

 

「っく!」

 

「逃しませんよぉ……」

 

 迫ってくる虚ろなタマモを見て急いで横にあった部屋、201号室に入った。

 

「隠れないと……!」

 

 休む暇は無いと隠れる場所を探して視線を動かす。

 

(押入れか、タンスか……)

 

 どれもダメだと視線を動かし続ける。

 

「……イチかバチかだ……!」

 

 

「マスター……何処ですかー?」

 

 タマモがやって来た。声の雰囲気からして、未だに不気味だ。

 

「ふふふ……どこに隠れても無駄ですよ……匂いで分かりますから」

 

 どうやら本当らしく、足音が俺の隠れている押し入れへと近づいてくる。

 

「これでっ!!」

 

 壁に背中を預けた体制で両足を思いっきり前へと突き出し、予め外しておいた押し入れのドアを蹴った。

 

 カルデア戦闘服の魔術礼装に変更したのも合わさって、かなりの威力だ。

 

「ミコーン!?」

 

「逃げる!」

 

 ホラーゲームの常識だが、こう言う敵は倒す事は出来ない。足止めが精々だ。

 

 なので敵が下敷きになっている今の内に逃げる。

 

「ま、マスター……! こうなればこちらも遠慮しません! 難易度ハードからディザスターに引き上げます!」

 

 

「っげ!? 氷の壁が!」

 

 部屋から出た俺だが、氷の壁が廊下の壁に広がる。すぐ側の201号室と202号室の扉は氷漬けにされ開かなくなった。

 

「マスター……逃がしませんよ……」

 

 その開かないはずの201号室をすり抜けて、

 

「もうヤンデレっていうか唯の悪霊だろ!?」

 

「何とでも仰ってください! マスターを手中に収める為なら、どんな汚名も被りましょう」

 

 逃げ場は既に203号室と204号室に限られている。因みに、204号室は先まで無かったので入るのは危険過ぎる。

 

「――って言うか、この感じ飽きました。

 マスターと早くニャンニャン、狐的にコンコンしたいので――」

 

「――捕まえちゃいます」

 

 言うが早いかタマモが全ての部屋から出現する。

 

「ゲームオーバー、て言うかクリア出来ないクソゲーみたいな物です」

 

「クレームは受け付けませんし、修正パッチも配布しません」

 

「何回もコンテニューする必要もありません」

 

「エンディングもCGも1つだけです」

 

 ジリジリ近付く4人のタマモ。

 逃げ場は無く、抵抗する間も無く優しい手が頬を撫でる。

 

「まあ、ラブリーな雰囲気を壊すような台詞回しもここまでにして……」

 

 タマモ1人を残して3人の幻影は消えた。

 

「私の得意分野にして一番良妻力の高い所をお見せしましょう。

 いっぱい鳴かせて下さいね、ご主人様?」

 

 

 

「はい! ご飯大盛りです、ご主人様!」

 

 タマモに茶碗を渡され、俺はそれを受け取った。

 

 鎖に繋がられた腕で。

 

「全く、マスターったら観念したと思ったら何度も何度も逃げ出そうとして……良妻の私もそろそろ我慢の限界です」

 

 いかにも怒ってます、みたいに手に腰を当てつつタマモは俺の体に御札を貼った。

 

「マスター、私がいれば足なんか要りませんよねぇ?」

 

 タマモが不気味な笑みを浮かべつつ足を睨むと、一瞬にして足が凍りついた。

 

「……! ……!」

 

「何を言っているんでしょうか? 悪いマスターには私への愛の言葉以外喋る事は許していませんよ?」

 

「タマモ、愛してるから……!」

 

 言葉が途切れ、続かない。

 

「嬉しいです! ではやはり足は要りませんね」

 

「………!!」

 

 叫べない言葉は届かず、氷漬けされた足はあっさりと砕け散った。

 

「これでもう、何処にも行けませんね? 大丈夫です。痛みは感じませんよね?」

 

 最初の逃走で喋る言葉を奪われた。

 

 2度目の逃走で、感覚すらタマモに上書きされた。

 

 3度目には拘束され、今、足を奪われた。

 

「もう逃げ出せませんよね?

 マスターの諦めが悪い事は知ってますが、流石にここまですれば何も出来ませんよね?」

 

 月の記憶が思い出させる。

 

 どんな絶望も進み続けた月の勝者の隣には、常に目の前の彼女がいた事を。

 

「逃げないで下さい。

 貴方は私がいないと、ただの凡人です。

 で・も! 私にとってはこれ以上にないイケ魂の持ち主です! これからも一生、いえ、これからは唯一無二のなくてはならない妻として、旦那様をお支えします!」

 

 絶望を這って進み続けた魂は、希望から迫る絶望を前に、遂にその歩みを止めた。

 

 




前半は普通にタマモっぽい感じにしましたが上手く書けたでしょうか?

次回もデートだけど、季節を考えて秋っぽい感じにしたいなー

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。