ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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なんとか間に合った小話。
書けていなかった今年のサーヴァントを登場させてみました。




小話 クリスマス2021

 

「トナカイさん、メリークリスマス!」

「め、めりーくりすます……」

 

 今年は家で家族水入らずのクリスマスを過ごし、自分の部屋のベッドで眠りに就いた。そんな俺を出迎えたのはアヴェンジャーではなく、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィだった。

 

「急にどうしたんだ?」

「えーっと、確か此処に……」

 

 要件を訪ねると、ポケットから数枚の紙を俺に渡して来た。

 そこにはクレヨンで書かれた拙い字や絵、鉛筆で書かれた簡素な文章、達筆な筆文字等様々な内容だったが総括すると――

 

「――プレゼントにマスターをください?」

「はい! このヤンデレ・シャトーで子供達にサンタへのお手紙を書いて貰ったんです! そしたら皆さん、トナカイさんが欲しいって!」

 

 そりゃあ、ヤンデレ・シャトーで尋ねればそうなるだろう。

 自分で言うのも嫌だけど、俺以外に欲しがるモノが想像できないし。

 

「私も、カルデアに呼ばれてからの数年で成長しました! ですので、今年はしっかり子供達の夢を叶えてあげたいんです!」

 

 そう言ってリリィは空っぽの大きな袋を取り出し、口を大きく開いてこちらに向けた。

 

「さあトナカイさん! 子供達の元に急ぎましょう!」

 

(悪い子じゃないんだけど……多分、サンタの使命に火が付くとヤンデレすら消え去る位にはりきっちゃうんだろうな)

 

 あっという間に袋に入れられ、ソリに詰まれて運ばれていく。

 こうして、子供サーヴァントの部屋を巡る一夜限りのプレゼントになったのだった。

 

 

配布組の部屋

 

「わぁぁ! 本当にマスター君だ! ありがとう、サンタさん!」

「真夜中に入って来るのはどうかと思うけど、献上品に時間なんて関係ないし!」

「いや、普通に犯罪だと思うんだけど……」

「今日はお泊りパーティー?」

 

 ジャンヌ・ダルク・サンタ・リリィが俺を運んだ部屋は配布サーヴァントの部屋だった。

 子供達と言っていた様にどうやら子供の特性を持つサーヴァントしかいない様で、水着姿のダ・ヴィンチ、茶々、エリセ、バニヤンの4人が囲まれている。

 畳の部屋で布団で寝ている皆の中央に降ろされた様だ。ダ・ヴィンチちゃんは感激の余り抱きついている。

 

「うん? 手紙があるよ?」

 

「えーっと、何々?

 “サンタさんから、良い子の皆さんへのプレゼントです! でも、トナカイさんを独り占めしたり、大事にしない悪い子達なら返してもらいます”……だって」

 

「えー! プレゼントなのに没収とかありなの!?」

「なるほど。つまり、この部屋にいる誰か一人が独占したり、マスターを傷付けたりしてはいけないって事だね」

 

 エリセが読んだ手紙の内容に驚く茶々とそれに納得した様な顔で頷くダ・ヴィンチ。

 その視線は俺の背後に移り、巨大化したその手を俺に伸ばそうとするバニヤンに向けられた。

 

「あっ……しょぼん」

 

「まあ、子供と言っても私達は比較的精神年齢は高めだし、マスターくんを悪戯に傷つけたりはしないさ」

「まあ、それはそうだね」

 

「えぇ~? ほんとでござるかぁ?」

 

 他の皆を煽る様な口調の茶々が俺の頭を撫でた。

 

 それを見たバニヤンは等身大のサイズに戻って背中から抱き締めて頭をスリスリとこすりつけて来る。

 

「マスター……」

「まあ、正しい意味で子供なのは彼女位だね」

 

「でもバニヤンがこの中で一番大きくなれるんだよね……」

 

 精神年齢や身長の大小の話はこんがらがるので止めにしたが、今度は俺の扱いの問題が発生する。

 

「そもそも、誰もマスターに固執してないよね?」

 

「おっと、抜け駆けしようたってそうはいかないよ?

 確かに私は内面的にはお姉さんキャラだけど、可愛い弟が好き勝手されるのを見過ごしたりしないよ?」

 

「茶々も、マスターの事は孫の様に可愛がってるし!」

「やっぱり誰もマスターに恋愛感情を抱いてない……」

 

 内面的年長組の言葉に若干呆れた様子のエリセだが、こちらとしてはその方が助かる。

 取り合えず皆の布団が俺を囲うように敷かれているこの場所から脱出しよう。

 

「じゃあ、俺はちょっとあっちの椅子に――」

「はいはい、マスターの布団もすぐ敷いちゃうよ!」

 

 茶々がすぐそばに別の布団を敷き、先まで壁に近い位置で寝ていた他の皆も部屋の中央に寄って来た。

 

「あ、マスター君は寒くないかい?」

「茶々が温まる物を用意してやろうぞ!」

 

 立ち上がった彼女は部屋の奥へと消えて行く。

 邪魔者が一人減ったのを好機と見たか、バニヤンは俺の真横に立つと嬉しそうに手を握って来た。

 

「えへへ。寒い夜でもマスターの手を握ってると、幸せで胸がポカポカするよ」

「そ、そんな訳ないでしょ……私も握って確かめる……」

 

 エリセも隣にやって来ると同じ様に手を握った。恥ずかしさで頬を赤く染めている。

 

「ほぉ……」

 

「うーん……」

 

「だ、ダ・ヴィンチちゃん……?」

 

 そんな俺を嘗め回す様に監視しているダ・ヴィンチちゃんを不気味に思い、名前を呼ぶと彼女はこちらの恐怖を見透かしたかの様に笑みを浮かべる。

 

「いや、両手を盗られてしまったからね。私は何処に入ろうかなって」

 

 そして彼女は立ち上がると真っ直ぐあぐらで座っていた俺の前に立って、組んでいた足の間に座った。

 

「全く、どこの誰が恋愛感情がないだって?」

「だ、ダ・ヴィンチだって……!」

 

「いやいや、私のこれは姉弟のスキンシップの範疇だろう?」

「むぅ……マスターの事が一番好きなのは私だよ」

 

 いがみ合いを始める3人だったが、部屋の奥に向かった茶々がお盆を持って帰って来た。その上には茶碗が置かれており、少し湯気が出ている。

 

「もうマスターは食べた事あるよね? 茶々特製の『日輪汁粉』! これを食べて、体を温かくしてから眠れば快眠間違いなしじゃな!」

 

 そう言って皆に1つずつ茶碗を配ってくれた。

 甘い餡子の匂いが食欲を注ぐ……けど。

 

(これ、一服盛られてたりは……)

 

「さあ、召し上がれ!」

「私は遠慮しようかな。別に、今はお腹減ってないし」

 

 エリセはそう言って茶碗を少し離れた場所に下ろした。

 多分、彼女はリアル中学生だから体重とかも気にしての事なんだろう。槍か魔弾が飛んでくるから、口には出さないけど。

 

「餡子……甘ーい!」

 

 逆にバニヤンは子供らしく、何も警戒せずに口に入れて飲み干した。

 

「おかわり!」

「はいはい、まだ沢山あるけど後でちゃんと歯を磨く事!」

 

 そしてダ・ヴィンチちゃんは指でちょんと付けて舐めた。

 

「ふむふむ……うん、普通に美味しいお汁粉だね」

「そっか……」

 

 じゃあ食べようかな……そう思った時には既に視界がぼやけ始めていた。

 

(あ……これ、匂いだけで……)

 

「……アウトな、奴……」

 

 誰かが俺の手から茶碗を奪ったけど、眠りに落ちた俺にはどうでもいい事だった。

 

 

 

「茶々の作戦勝ちじゃな!」

「って、マスターに何をしてるんですか!」

 

 異常が起きたのを見てエリセは直ぐに警戒して立ち上がったが、それをダ・ヴィンチが制止した。

 

「まあ、こうなるのは想定内だったよ。だから私も効果が現れるまで時間を稼いであげたしね」

「お汁粉、おかわり!」

「そろそろ食べ過ぎだし! バニヤンはもうおかわり禁止です!」

「ふーん……じゃあ、マスターは私が貰うね!」

 

 眠ってしまったマスターに手を伸ばすバニヤンだが、その手は茶々が前に出した空の茶碗に阻まれた。

 

「だーめ! マスターはこれからわらわと一緒に夜を過ごすの! 子供は寝る時間!」

「やっぱり変な事企んでるんじゃないですか!」

 

「でも、私は此処から退かないよ?」

 

 ダ・ヴィンチは自分の肩に頭を預ける形で眠ったマスターをそっと撫でた。その顔には、愛しの我が子を見つめる様な母性を含んでいた。

 

「なななっ! それ茶々の役目なのにぃ!」

「落ち着いて。独占したら没収なんだから、例え不本意でなくとも添い寝をするなら皆でだ」

 

「二人っきりが良いけど、いなくなるのはもっと嫌」

「むぅ……でも、マスターの頭を茶々の膝に乗せる事!」

「自重して下さいよ」

 

 3人それぞれがマスターに触れようと手を伸ばし――全員の指が弾かれた。

 

「っ!?」

「ビリビリ……?」

「ひゃっ!?」

 

「どうしたんだい?」

 

 そんな中ダ・ヴィンチは一人平然とマスターの頭を撫でていた。

 

「あっ! なんかバリアみたいなの張ってるし!」

「独り占めしてるのは貴方じゃないですか!」

 

「独り占めはしてないよ? 直接触れなくても、マスターから少しは離れて寝ればいい」

 

「もうあったまきた! 必殺のスーパー茶々モードで丸焦げにしてやる!

 伯母上の本能寺より炎上するから覚悟するし!」

 

「いや、此処でそんな事したらマスターまで巻き込みますよ!」

 

 怒りに任せて宝具を発動させようと茶々と、それを止めるエリセ。

 

「……」

 

 バニヤンはそんな彼女達を尻目に両手をすっと口の所に持ってくると――

 

「――サンタさーん!!」

 

「はーい!」

 

 バニヤンの大声で呼ばれたジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィが何処からともなくやって来た。

 

「ダ・ヴィンチがマスターを独り占めしてる!」

「……本当ですね! プレゼントと一緒に書いておきましたよね? 独り占めは駄目ですって! なので、プレゼントのトナカイさんは没収です!」

 

「えー!? やだやだ、マスター君は私のマスター君!」

「今更そんな子供みたいな我が儘を言っても許しません! トナカイさんは返してもらいます!」

 

 触ったらビリビリ痺れるので、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィは宝具の槍を使ってマスターを引っかけて持ち上げた。

 

「あ、わらわは良い子だったのでマスターをプレゼントしたりは……」

「駄目です! これはもっと良い子達に渡します!」

「もっと良い子達って……?」

 

「えーっと……カーマちゃんと……(あ、この漢字はまだ習ってません)……の所ですね!」

 

 

 

カーマ&阿国部屋

 

「どうして私と貴方が同室なのか、最初は疑問でしたがマスターが届いたなら些細な事です」

 

「ええ、その疑問には私も同意ではありましたがこうして契約を結んだマスター様と顔合わせが出来るなら僥倖ですね」

 

 またしてもリリィに運ばれてやって来たのは少し広い和室。

 広く感じるのは住人の数のせいかとも思ったが、部屋の奥にはまるで舞台の様な一段高いスペースもある。

 

「水着のカーマと、阿国さん?」

 

 カーマは愛の神。今は小さな銀髪赤目の女の子だが、マスターである俺を堕落させる為なら更に成長した大人の姿になる事も出来る。通常はアサシンだが、目の前の彼女は水着姿のアヴェンジャークラスだ。

 

(まあ、アサシンの方は召喚出来てないからな……)

 

 もう一人は日本出身のキャスターのサーヴァント。

 模様も色もバラバラな和服の姿で、部屋の隅には青い甲冑の絡繰り武者の斬ザブローが正座の姿勢で座っている。

 

 歌舞伎役者でありながら封印の巫女であり、妖ハンターを自称している。

 とある特異点では、その結界術と舞で邪神退治に大きく貢献してくれていた。

 

「ふふふ、自らクリスマスプレゼントになるだなんて、堕落ポイントが良い感じに貯まって来たんじゃないんですか? ……む、まだ程遠いですね……」

 

「なんでも、カーマ様はマスター様と恋仲だそうですね。

 それならば、この阿国さんと斬ザブローが1つ余興をして差し上げましょう!」

 

「あら、気が利くじゃありませんか」

 

「ええ、お任せあれ!」

 

 阿国さんが自信満々に床を叩くと、部屋の電気が消えて数秒後、部屋の奥の舞台の中央に明かりが点き、阿国さんと絡繰り武者の斬ザブローが現れた。

 

 俺が驚いている間にカーマは俺の隣に座り同じく突然始まった阿国さんの舞台を観る。

 

 歌舞伎なんて俺も彼女も見慣れないモノではあったが、台詞回しの癖や役者の動きに合わせた独特な効果音(ツケと言うらしい)に慣れてくると太閤殿下すらお抱えしたかった程の彼女の魅せる世界に、最後は拍手すらしていた。

 

「ありがとうございました! では、此処で一度休みを入れましょう」

 

「あ、でしたら今度は私の出番ですね」

 

 舞台も終わり明かりが戻ると、立ち上がったカーマが夜食を持ってきた。

 その口振りから手料理だと思っていたが、彼女が持ってきたのはカップ麺とお湯だった。

 

「分かっていますよマスター。現在は深夜。

 貴方が欲しいのは不健康で余分なカロリーに満ちた食の堕落、カップラーメンですね」

「ほほう、これが噂のインスタントラーメン……! 深夜に食すと罪深くも甘美な幸福を与えると聞いていますよ!」

 

 ドヤ顔でカップにお湯を注ぐカーマと、それをキラキラとした瞳で見つめる阿国さん。

 

「さあ、どうぞ」

「い、頂きます……」

 

 目の前に突き付けられ、香ばしい香りに抗えず麺を啜ると……美味しい。

 この後やる事と言えば寝る事位。こんな物食べても体は一切動かさない。

 

 そんな罪悪感が手軽でジャンキーなスープのうま味を更に上へと導いていく。

 

「ふぅ、ご馳走様でした。

 ……ではでは、私は今一度舞台に戻りカップラーメンに負けない満足感をご提供しましょう!」

 

 再び始まる阿国さんと斬ザブローによる2人……正しくは、阿国さんの一人芝居。

 以心伝心のコンビネーションは敵同士であっても完璧なタイミングで話し、向き合い、戦いを見せる。

 

「やっぱりすげぇ…………っ?」

 

 しかし、突然舞台を観ていた俺の意識は指先に走った奇妙な感触に奪い取られる。

 

「……マスター、確かに素晴らしい見世物ですが、私と言う愛の神を蔑ろにしては駄目でしょう? ん……」

 

 子供の姿のままのカーマはこちらを見ながら、両手で掴んだ俺の左手、その中指に舌先を走らせた。

 

 指先を転がし、何度も舐めて。

 

 こちらの反応が薄くなると軽く歯を当てて甘噛みしてきた。

 

「例え映画館や水族館でのデートでも、意識は常に私に向けて……あむっ……全てでなくても良いですけど、大半の時間、思考は私の事を想って……っぁん……いなくてはいけませんよ――」

 

 ――しかし、そんなカーマのスキンシップも何だか段々気にならなくなってきた。

 

「っは!」

「ッダ!」

 

「我、名を国丸ともぉすぅ!!」

 

 目の前で繰り広げられているのは歌舞伎。

 否、歌舞伎だけがこの場にあった。

 

(劇に合わせて、封神の結界の舞を踊る……中々にハードでしたが、マスターに集中されていたので気付かれていませんね)

 

 カーマがいない。

 光を奪われた瞳は、歌舞伎の世界を照らす照明の下だけを追って映し出している。

 

(そうです。マスター、今は私の、阿国さんの舞台をだけをどうぞ。

 どうぞご堪能下さい。

 そして私だけに、万雷の拍手喝采を――)

 

――そして、舞台も消え去った。

 

 俺は突然、闇の世界に放り出された。

 

「……え?」

 

 最初に思ったのは「阿国さんは何処に消えた?」だ。

 今、別に誰かが消えたり、舞台が終わる様なタイミングではなかった筈だ。

 

 なので次はカーマを探した。

 先は急にいなくなったが、左隣に座っていた筈だ。

 

 しかし、幾ら左手を伸ばしても左隣りには誰もいない。

 

 体はその場から動けない。真っ直ぐ、先まで歌舞伎があった場所をじっと見つめたままだが、誰もいない。

 

「何で……?」

 

 愛の神に魅入られた。

 

 だからカーマに触れ続け、彼女以外を視界に入れてはならなくなった。

 

 歌舞伎の世界に見入っていた。

 

 だからあの世界に囚われ、唯一無二の観客となった。

 

 しかしこれには矛盾が生じる。

 

 封神の結界で消え去ったカーマは瞳に映らない。

 

 カーマに支配された視界では、歌舞伎に見入ってはならない。

 

 その結果がこの暗黒だった。

 

「さあ、これでぇ――おしめぇだぁ!」

 

「この後、私達は同じ布団で一夜を過ごすんです。そしたらきっと、貴方も私の愛に堕落せずにはいられないですよ?」

 

 皮肉にも、俺の視界に映らない世界では彼女達が俺の異常に気付く事も無かった。

 

 暗闇に閉ざされた俺の様に、彼女達の世界もまた自身の中に潜む偏愛の黒に覆われていたのだ。

 




メリークリスマス!

今回の話はなんとか25日に間に合わせようと突貫工事になってしまいましたので、その内暇を見つけて加筆や修正を行うかもしれません。

レイドイベント、自分はそこそこのスルトを倒して3体目に挑む感じです。皆様のご健闘と良い年末をお祈りいたします。
そしてこれが年内最後の投稿です、皆様今年もヤンデレ・シャトーを愛読して下さってありがとうございます。来年も色々しつつ投稿して行きますので、よろしくお願いします。

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