ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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今回は本当にお待たして、すいません。
6月中、まさかの更新無し。
執筆を止めるつもりはありませんので、次の更新も気長にお待ちして頂けたら幸いです。

今回の当選者は 第二仮面ライダー さんです。


サーヴァントの眼前で手を繋ぐ

手を繋ぐ(ユウ、リカ)

 

「漸くです。もう私達以外のサーヴァントはいませんね」

「これでマスターは私達の物だね!」

 

 おかしな夢に閉じ込められる様になってから3日目。

 沢山の女達に私を愛せ、私を愛せと迫られるのを掻い潜っていたら今日まで続いてしまった。

 

「……」

 

 そして、今現在俺にアピールを超えて強制してくるのが戦乙女、ワルキューレの三姉妹達。

 

「私、スルーズがマスターをヴァルハラにお連れします」

「あ、ズルいよ! 連れて行くのは私! ねぇ、マスターもヒルドが良いよね?」

「個体名オルトリンデ。マスターにとって、私こそが最良のワルキューレだとご提案します」

 

 どうやら俺を何処かに連れて行こうとしている様だ。

 勘弁してほしい。先まで師匠を名乗る天狗や馬に乗った騎士王に攫われたりで体力が限界だ。

 

 だから、此処は1つ穏便に済ます為の賄賂を差し出す事にしよう。

 

「聖杯よ――」

 

 持っていたお助けアイテム、万能の願望器とも呼ばれている聖杯を取り出して俺は願った。

 

 しかし、これで叶う願いは1つだけで、規模も小さくなければならない。

 回数制限と言うよりも、余りに大きな事を頼むと寧ろ状況を悪化しかねない不安定な物だからだ。

 

「聖杯!」

「マスターから最高級の信頼の証!」

「一体何を!」

 

「――齎せ」

 

 俺の願いは届いたようで、ゲームソフトが俺の手にやって来た。

 

「ほらよ」

 

 彼女達に手渡したのは、アキバの特異点でお小遣いに困って1つしか買えなかった恋愛アドベンチャー、所謂乙女ゲームの内の1つ。

 

「……こ」

「これは……!?」

 

 彼女達の視線はソフトに釘付けになり、恐る恐る手を伸ばして大事にそうに手に持った。

 

「これで良かったか?」

 

「い、頂いて宜しいんですか!」

「ありがとう、ありがとうマスター!」

「大変嬉しいです!」

 

 どうやらあのタイトルで良かった様だ。

 

(やっぱり、リカと一緒だな)

 

 心の中で現実世界の彼女の顔を思い浮かべた。

 

 プレゼントなら何でもいい訳ではなく、自分の事をどれ程理解してくれているのかが伝わるのが嬉しいと言っていた。

 

(でもリカにあげたアレ、妹の助言だったような――)

 

「――マスター?」

 

 そこで俺は彼女達がこちらを訝しげな表情を向けている事に気付いた。

 そう言えば彼女も、妙に他の女の気配に敏感だった覚えがある。

 

「あ、なんだったけ?」

 

「そりゃあ、私達もマスターからこんなプレゼントが貰えたら嬉しいけど」

「他の女性の事を目の前で考えていられるなら」

「不快にならざらるを得ないかと」

 

 綺麗に地雷を踏んでしまった――そう思ったが、突然周りの景色が大きく揺れ出した。

 

「この揺れは――!?」

 

 するとすぐにワルキューレ達の姿も光の粒子になって消えていく。

 

「マスターっ!」

「いずれ、必ず――」

 

 

 

 

 

 ――アレから数ヵ月後。

 ヤンデレ・シャトーを生き延びた俺は何故かあの手の夢を数日おきに見る日々を送っていた。

 

 それからは毎度毎度、シチュエーションやメンバーを変えて俺に迫ってくるサーヴァント達をなんとかやり過ごして乗り切っている。

 

 FGOは2年前に始めていたんだが、どうも監獄塔のクエストがキッカケだったらしくレアプリズムで購入してクリアしてしまった結果こんな可笑しな夢を見てしまった様だ。

 

「ユウ君!」

 

 後ろから聞こえて来た声に、スマホから目を離して顔を向けた。

 

 こちらに嬉しそうに走って駆け寄ってくるのはリカ、俺の彼女だった。

 

「……遅いぞ」

「おはようございます!」

 

「……おはよう」

「もう、いっつも元気ないね!」

「誰かさんがもう数分早く来てくれれば笑顔になれるんだがぁ」

 

「うん! 今日も嫌味っぽくて素敵!」

「そんなキラッキラに返してくるお前のがすげーよ」

 

 低血圧な俺と違って何時も元気で週に4回も俺と同じ時間帯に講義を受けているのがリカだ。

 そんな彼女を大学の近くの公園で待つのが俺の習慣になっている訳だ。

 

「今日のお弁当は凄いんだよ!」

「期待してる」

「あー、一ミリも期待してなさそう!」

 

 講義まであまり時間が無いので、リカの話を聞きつつベンチから立ち上がって歩き始めた。

 

「手繋いでいこう?」

「元気吸われそうだから駄目です」

「失礼な!」

「冗談だ」

 

 直ぐに顔を膨らませて怒るのに、手を差し出せば笑顔になる。

 テンションと姿勢は低めな人生を送っている俺とは正反対な表情豊かなリカを見ていると、俺も自然な笑みが零れて来る。

 

「あ、今笑ってる?」

「笑ってない」

 

「もう、逸らさないでよー!」

「はい、もう笑ってません」

「やっぱり笑ってたじゃん! ほら、ニコッとして!」

 

 そろそろ本当に急がないといけないので、俺達は少しだけ駆け足で学校へと向かった。

 

 大学は同じだが、受ける講義は異なる俺達は当然キャンパス内で別れる事になる。すると何時ものアレが始まった。

 

「私以外の女とあんまり話しちゃダメだよ!」

「はいはい」

「昼食は一緒に食べる事!」

「お前が弁当持ってるからいないと食えん」

「あ、そうだった! あはは……じゃなくて! 他の人に誘われても断ってね!?」

「分かってるって」

 

 他の奴が言うには独占が強く、束縛が強いらしい。俺もそう思うが、もう慣れてしまったので適当に返事しつつ別れた。

 

 隣の席に女子がいれば挨拶するし、講師が女性なら数回言葉を交わすのも当たり前だ。

 そして、リカみたいな面倒な彼女と付き合っている事なんて周りには十分知れ渡っているので、態々俺を誘うような女はいない。

 

(どんだけ心配性なんだよ、全く……)

 

 そして昼飯の時間。

 

「ねぇ、誰とも喋ってない!?」

「挨拶だけ」

「なんで喋っちゃうの!」

「そりゃ挨拶無しは無礼だからな」

「無礼でも駄目!」

 

「お前は彼氏に社会不適合者になれと……?」

「う……で、でも」

 

「今日の玉子、ちゃんと巻けたな」

「っ! うん、それ自信作なの!」

 

 怒りっぽいし、良く分からない地雷を持っているかもしれないがやっぱりリカの笑顔を見ると俺の心は温かくなる。

 何時まで続くか分からないが、せめて俺はこのままいられる様に努めよう。

 

「あ、今日も家に行くね! 妹ちゃんとずっと一緒なんて、許さないから!」

「お前、あいつの事一番警戒してるよな……」

 

 自分が余り良い性格をしていないのは自覚しているが、そんな俺よりもリカを玩具にして弄り倒している奴がいる。それが俺の妹だ。

 

 リカの束縛が強くなった理由はアイツにあるかもしれないが、妹が余計な事を吹き込む時は大抵俺に隠れているのでそれを阻止できた事はない。

 

「まあ料理を教えて貰ってるみたいだし、お前が大丈夫ならいいだけど……」

「あの子は何時か絶対この手で倒すからね!」

 

 妹と彼女が血みどろの戦いをしないか、目を光らせておくべきかもしれない……いや無いな。

 

 

 

「――来たか」

「またですか」

 

 夢の中、再びエドモン・ダンテスと言う男が俺の前に立っていた。

 

「安心しろ、今日は唯の予告だ」

「予告?」

 

「近々、お前の住む世界にサーヴァントがやってくる」

「マジですか……」

 

 そんな簡単に夢と現実の境界を飛び越えないでくれ。

 

「勿論それは容易い事ではない。幾つかのルールがある。まず第一にサーヴァントが見えるのは貴様だけだ。そしてお前の所有物にのみ触る事が出来る。破壊と殺傷は許されない」

「俺にちょっかいをかける為のルールか」

 

 此処まで様々な場所で散々殺されかけて来た。現実が舞台でも驚きはしない。

 

「……でも、今日じゃないって事は明日か?」

「言っておくが、貴様の都合は考えないぞ」

 

 明日の講義は午後で、いつも通りならリカが大学に一緒に向かう為にやって来る筈だ。バイトのシフトも入ってないし……

 

「何時もより数段ヤバいかもな、これ」

「精々足掻く事だ。他のカルデアのマスターにもサーヴァントは見えるが」

「その心配はないな。FGOは家では俺しかやってない」

 

 FGOは俺の趣味だし、リカの奴は難しいゲームはしないと言う理由でインストールもしてないし、俺の一人暮らしに付いて来た妹はアイドルオタクでFateには詳しくない。

 

「貴様の元に邪魔するのは神の使いであり、戦乙女の三姉妹だ」

「ワルキューレのオルトリンデ、ヒルド、スルーズかぁ……あの日が最後だったな」

 

 ワルキューレ達に出会ったの最初の3日間の最終日。あの日、あの時にワルキューレに刺されていればこの悪夢は続かなかった筈だった。

 

 だが、あの日妹に弁当の作り方を教わる約束をしていたリカが家にやってきて、妹が家に入れると直ぐに俺の部屋に飛び込んで来たらしい。

 

 危機的状況にあった俺はリカに起こされる形でシャトーから脱出し、こうして今もボーナスステージ的な悪夢を見続けているのだ。

 

「臆する事はない。恋人であれ従者であれ、御すれば良いだけの話だ」

「俺を苦しめるだけなのに本当に軽く言ってくれるよな……まあ他の奴らに見えないだけマシか」

 

 自分への慰めを最後に、俺の意識は通常の睡眠に戻った。

 

 

 

「……」

 

 珍しく何事もなく目が覚めた……もっとも、この後が普段通りとは程遠い展開なんだろうけど。

 

「……エドモンの言い方だと、俺にしか見えない幻覚みたいなモンなんだろうな」

 

 眠い目を擦りながらトイレで顔を洗う。時刻は午前9時半。

 妹は学校に行ったのだろう。リカもまだ来る時間じゃない。なのにキッチンから珈琲の香りが漂って来ているのは――

 

「――おはようございます、マスター!」

「オルトリンデ……もういるのか」

 

 黒い髪を白いフードに隠したオルトリンデが、机の上にコーヒーカップや朝食の乗った皿を置いている。

 

「今日は私が一日中マスターのお世話をしますので!」

「そうか……他の2人は?」

「……今はいません」

 

 もしかして、もう始末したのか……と少し戸惑っていると玄関のチャイムが響いた。

 

「ん?」

「あ、大丈夫ですマスター、私が出迎えます」

 

 そう言われて朝で頭が回っていなかった俺は席に座った。

 

 だけど、よく考えたら俺以外には見えないオルトリンデが出て行っても対応なんて出来る筈が無――

 

「――いたぁぁぁ!!」

「っ!?」

 

 突然の大声に驚き、顔を上げて声の元に視線を向けるとピンクの髪と金色の髪のワルキューレ達が侵入していた。

 

「見つけましたマスター」

「おはっよう、マスター!」

 

 何時もより騒がしい朝が始まった。

 

「抜け駆けするなんて、許さないよオルトリンデ!」

「二人が道を間違えただけですよ」

「貴方が差し出した端末のGPSが狂っていたのですが?」

 

 どうやら、俺の家に来る前に彼女達の間に一悶着あった様だ。

 

「なんでもいいけど、俺は今日午後から大学だ。それまでに家事をするから邪魔はしないでくれ」

「家事、するんですか?」

「ああ」

 

「なら私達にお任せを」

「それ位直ぐに終わらせちゃうから!」

 

 そりゃありがたい。

 俺は早速洗濯機から服を取り出そうとして、中に何もない事に気付いた。

 

「ん……? あれ?」

 

 普段なら妹が学校を出る前に回して置いてくれている筈だが、横の籠を見ても布の一切れすら入っていなかった。

 

「洗濯なら、私が先にやっておきました」

 

 オルトリンデが小さく手を上げて答えた。

 

「いひゃいっ! いひゃいれふぅー!」

 

 それを聞いてヒルドがすぐさま彼女のほっぺを両手で抓り始めたのを横目に、スルーズは一歩出て他にする事はあるかと聞いてきた。

 

「じゃあ、風呂掃除でもするか」

 

 しかし、風呂場に入ったスルーズは数秒程周りを見渡して……

 

「……綺麗ですね」

「そうだな……」

 

 そして、リビングでヒルドに抓られているオルトリンデの元に向かうと彼女の腹を指でつっつき始めた。

 

「あひゃ、あはひゃひゃはははっ!? ふわめひぇ!?」

 

「うーん……となると自由時間だな」

 

 俺はゲームに目を向ける。

 生憎この家にはコントローラーが2つしかないが、誰かに観戦してもらうか。

 

「パズルゲーで良いか?」

「へへへ、じゃあマスターに勝てたら私、マスターの膝に座りたい!」

「別に良いけど……」

 

 いきなり言い渡された条件になんの気なしに頷いてしまったが、ワルキューレは確か神に造られた機械みたいな存在だし本気でやらないと勝てないかもしれない。

 

「早っ」

「へへへ、これで消えるね! で、これで消して!」

 

「よし、連鎖」

「マスター上手いね! でもこっちも結構連続で……あれ?」

 

 ……あ、これは。

 

「うぇぇぇ!? なんか一気に落ちて来て負けた!?」

「やっぱり……」

 

 消すだけじゃダメな事、わかってないんだな。

 改めてルールを教えてヒルドに再挑戦して貰おうと思ったが、スルーズがそれより先にコントローラーを手にした。

 

「今度は私が相手です」

 

 サーヴァントだからだろうか。勝負に挑むその眼差しは鋭い。

 鋭いんだけど……

 

「何故ですか!?」

「だから説明しようとしたのに……」

 

 その後、俺はオルトリンデにコントローラーを渡しつつ3人にやり方を教えた。

 先まで最短で消し続けていたが、直ぐに積む事を覚え2戦後には連鎖を覚えていた。

 

「連鎖!」

「なんの、更に連鎖です!」

「なら全消し!」

「全消し!」

 

 ……しかし、終わらない。攻撃の開始も威力も同じタイミングだから全然終わる気配がしない。

 

「ヒルド、オルトリンデ。同期したままでは一生終わりませんよ」

「あ、そうだった!」

 

 姉妹でありながら同一存在であるワルキューレは記憶を共有出来る。

 だから人間離れしたスピードで成長した訳だが、同期したままだと動きまで完全に同じになってしまう。

 

「って、同期切っても展開が変わらない……」

「ですね。私達の性能面では優劣は発生しませんので」

 

 どうやらパズルゲームは良くなかったらしい。

 せめて運の要素が絡まないと一生決着がつきそうにない。

 

 だが、俺は大学生で妹は高校生。

 バイトはしてるし両親からの仕送りもあるが、ゲームソフトはそこまで多くない。何だったら一人で遊ぶ奴の方が多い。

 

(しょうがない。トランプでも引っ張り出してくるか)

 

 そう思い立ち上がろうとしたが、スルーズが俺のすぐ後ろに立った。

 

「マスターは其処に居て下さい」

「え?」

 

 俺が何か言う前に、彼女はそのまま座って両手で俺を抱き締めた。

 

「ふふふ……マスターが、こんなに近くに」

 

 彼女は幻覚みたいなモノの筈なのに、しっかりと掴まれ際に人肌の温度と首元を通り過ぎた吐息に思わず体を強張らせた。

 

「……? マスター?」

「な、なんでもない……」

 

 俺が少し力を込めて立ち上がると、スルーズはあっさりと俺を放してくれたのでそのままトイレへと逃げ込んだ。

 

「……はぁ」

 

 鍵を閉めてから、俺は一息吐いた。

 

 ヤンデレ・シャトーは悪夢。夢の中の出来事だ。

 だから、サーヴァントとの接触についても特に何も思わなかったんだけど……

 

(流石に、リカがいるのに他の女とあそこまで近付くのは不味いよなぁ……)

 

 別に夢の中でサーヴァント達と必要以上に仲良くしていた訳ではないけど(そもそも出来る状況の方が珍しい)、ちゃんと意識がある今は幻覚相手でも自重する必要があるだろう。

 

 男として、不義理は働きたくない。

 

「……よーし、いつも通り行こう。そんでもって何時もより距離感を持とう」

 

 リカの事はヤンデレ・シャトーでも口には出さない様にしていたが、こうして家に現れた以上何時までも隠し通す事は出来ないだろう。

 

 考えが纏まった俺はトイレから出てリビングに戻った。

 

「オルトリンデ、ヒルド、いい加減決着――?」

 

 しかし、そこには誰もいなかった。テレビは消され、コントローラーは取り出す前の位置に戻っている。

 

「……もう、帰ったのか?」

 

 そんな都合の良い考えを口に出したと同時に後ろから圧力を感じて振り返ると――

 

『マスター!? この女性は誰ですか!?』

 

 ――それぞれが写真を1枚ずつ手に持って問い詰めに来た三姉妹に、頭を悩ませたかったが悩む時間すら満足になかった。

 

「そこで見つけました!」

 

 オルトリンデが見せて来たのは妹の写真。

 妹が自分の部屋の扉に名札代わりに掛けていた写真だ。

 

「ではこの女性は誰ですか?」

 

 スルーズが突き出しのは玄関前に置いてあった電話帳の中に挟まっていた母親の写真。

 大事な番号が書いてあるからと母親から貰ったのだが、どうやらそのままだったらしい。

 

「じゃあこれは!?」

 

 ヒルドが持ってきた写真立ては……初デートの時に撮影し、現像までしたリカの写真。

 

「……俺の彼女の写真だ」

 

 その説明を聞いた瞬間、彼女達の表情は明らかに曇った。

 ヒルド、スルーズの頭上にある羽の様な髪は垂れ下がり、フードに隠れて見えないがオルトリンデも同じ様な動きをしているのが布越しに見えた。

 

「……そう、ですか……」

 

 だが、今の彼女達は破壊も殺傷も出来ない。

 

「そっか……」

 

 写真をそっと机に置いたヒルドは俯かせたままこちらに一歩迫って来た。

 それが不気味で俺は逆に一歩下がった。

 

「でも、全然いいよ」

「うん?」

「ええ、私達は世界とマスターの平穏を取り戻す為に呼ばれた英霊ですので、マスターが幸せになるなら本望です」

 

「……」

 

 ……こういう時にこんなセリフが出る時は大体油断させる為か、何らかのセカンドプランがある時なんだよな……

 

「でも、私達は――」

 

『――』

 

 彼女達の話を遮る様に、玄関の方でチャイムが鳴った。

 時計を見ると時間は11時10分。

 

「リカが来るにはまだ早い筈なんだけど……」

 

 出迎えに行くと噂をすればなんとやら、名前を呟いたせいかやはりリカがそこにいた。

 

「ユウ君! 来たよ!」

「おう、今日は随分早くないか?」

「ごめんね? でも、ユウ君が全然返信してくれないんだもん」

 

 そう言われてワルキューレ達を警戒して朝からスマホを部屋に置きっぱなしだった事に気付いた。

 

「……ああ、起きた時に充電器が外れてたから充電しっぱなしだったわ」

「そうなんだ。時間あるし、今日の昼食は私が作るね」

 

 そう言ってリカは靴を脱いで家に上がってキッチンに向かった。

 当然俺は今も少し離れた場所から見えるワルキューレ達の存在に肝を冷やしているのだが、本当にリカには見えていない様で感情の消えた彼女達が怖いが、リカの相手を優先した。

 

「あれ、ナニコレ?」

 

 リカの声に少し驚きながらも視線をやった。

 

「クリームスープ?」

「ああ……この前、講義の中でなんか北欧の料理の話題が出て来たから少し作ってみた」

 

 嘘である。その料理が本当に北欧のモノかも分からないが、彼女は納得してくれた様だ。

 

「その料理はシエニケイットと呼ばれるキノコのスープなんですよ。簡単に作れて美味しいので、ちゃんと味わって下さいね」

 

 その後ろでオルトリンデが解説したが、やはりリカには届いておらず炊飯器の中身を確認している。

 

「スープだけじゃ足りないね。直ぐにメインディッシュを作るから待ってて!」

「おう、俺もぼちぼち支度してくる」

 

 なるべくこの彼女と3人の女性が同じ空間にいるあり得ない場所から離れたかった俺は、普段通りを装いつつ逃げる様に部屋へと退散した。

 

 しかし、ワルキューレ達はそれが当然の様にこちらについて来る。

 

「あの方がマスターの」

「明るくて元気そうな子だね!」

 

 自分の部屋と言ってもマンションの1室、喋れば声は外に漏れる。

 なので俺はワルキューレ達の声を無視しつつさっと準備を終わらせる。

 

「わっ、わわ……!」

「ちょ、スルーズ直視し過ぎじゃない!?」

「何を今更。マスターの着替えなんて別に」

 

「スルーズ、鼻血!」

 

 何時もの数倍うるさい着替えも手短に終わらせてキッチンへ戻った。

 

「手伝うよ」

「大丈夫、簡単な物だから」

 

 見るとレタスを水洗いしながら鶏肉をフライパンで焼いており、確かに忙しくはなさそうだ。

 

「じゃあ、皿並べとくわ」

「うん」

 

 食器棚から皿を並べ、机に座り出来上がった料理をリカと一緒に食べる。

 

「美味しいね、このスープ」

「うん、美味いな。また作ってみるわ」

 

 勿論、その行為は全てワルキューレ達に見られたまま行われるのだからとても気まずい。

 

 料理を褒められたオルトリンデは嬉しそうだが、スルーズとヒルドは余り表情を変えずにこちらを見ている。偶にヒルドと視線が合うと手を小さく振って笑うけれど、本心からの笑みとは思えず少し汗が流れた。

 

「どうかした?」

「いや、別に」

 

「食欲ないの? 食べる手の動きが変だけど」

 

 リカに悟られかけているので、俺は大丈夫だと告げて少し早めに完食した。

 

「無理しないでね? 風邪なら今日は休んだ方が良いんじゃない?」

「いや、別に風邪じゃないから」

 

 身支度も済んだと言うのにこちらを心配するリカの優しさが身に染みるが、体調は問題ないし大学はサボれない。

 

「じゃあ、私の事ちゃんと見て?」

「……」

 

 その言葉に無言になって動きを止めたが、観念して彼女へと顔を向けて視線を合わせた。

 

「っん!」

 

 唇と唇が触れるだけのキス。

 彼女曰く、俺に対して怒りたくないからその代わりにキスを強請るそうだ。

 

「……で、良いか?」

「途中で倒れてもおぶったりしないからね?」

「その場合はタクシーでも呼んでくれ」

 

「呼ぶなら救急車!」

 

 大袈裟に返されてしまったがまだ少し怒ったまま玄関に向かった彼女は家から出る事を許してくれた様だ。

 

 当然の様について来るワルキューレ達には悪いが、やはり俺はリカとの会話を優先する事にした。

 

 

 

「……ふーん、キスまでは済ませたんだ」

 

「――でねー、そこから大盛り上がりで!」

「なんでだよ、脱線し過ぎだろ」

 

「まだ初々しい恋人同士、と言った所でしょうか」

 

「でもね、その後他の女子も入っていて!」

「だろうな」

 

「お姉様とシグルドを思い出します。とても……不愉快です」

 

「っ」

「あー、私ずっと笑うの堪えて大変だった!」

 

「駄目だよ、オルトリンデ」

「今の私達では宝具を手に持っても誰かを刺す事は叶いません」

 

 そう言いながら全員片手に槍を持っているのはどうにかならないのかと、動揺を顔に出さない様に必死に努めた。

 

「ねぇねぇー」

「どうした?」

「手、繋いでいい?」

「ほら」

 

 こんなテレビ番組でドッキリを仕掛けられる芸人みたいな目に自分が合うとは全く想像していなかった。

 

(はー……いっその事、リカにだけバラシて……いや、本当に救急車を呼ばれるか面倒な怒り方をするかのどちらかだな)

 

 手を繋いで嬉しそうなリカとそのまま歩いていく。

 ワルキューレ達の視線がより鋭さを増している様な気がするが、そんな事を知らないリカは繋いだ手の中で俺の手をなぞったり、突いたりして自分の近況を話し続けている。

 

(こういう日に限って何時もよりおしゃべりなんだよなぁ)

 

 更に来週のデートの予定まで話始めてそろそろ本気で身の危険を覚えた所でキャンパスに到着した。

 

「……と、着いたな」

「……そうだね」

 

 寂し気にこちらを見るリカを見てまた何時ものアレか……と思っていたが、リカは何も言わずに手を離した。

 

「じゃあ、また後でね」

「おう」

 

 そこまで時間は押していない筈だったが、足早にその場を去って行った。

 

「なんだ……トイレか?」

 

 とは言えこのままぼーっと突っ立っている訳にもいかない。少し悩んでから、教室へと向かうのだった。

 

 

 

 自分の主の平和な日常に立ち会える日だと思っていたワルキューレ達は、余り心穏やかではいられる状況でなかった。

 

 理由は明白で、主の恋人の存在である。

 

 夢の中で主であるユウはその存在を秘匿していた為、彼女達からしたら自分達が勇士と認め慕う主の周りを突然現れて踏み荒らす邪魔な女だ。

 

『でも、今の私達はどうしようもないよねー』

『触れる事も出来ません……これでは手の出しようが』

『慌てる必要はありません』

 

 ユウの教室にやって来た彼女達はユウ以外の誰にも見えず触れられない為壁に集まって会議をしていた。

 

 もっとも、ユウに聞かれると不都合も多い為、ワルキューレの能力で思考を同期しての脳内会議だが。

 

『魂――既――達の手の中、ヴァ……にお向かいすれっそれで』

『ねぇ……スルーズ?』

『ノイズが多いのですが、もしかして緊張を……?』

 

『してません。緊張などありません』

 

 言うまでもなく、三姉妹の中で人間の感情からもっとも遠い(と本人は思っている)スルーズすらこの状況に動揺していた。

 

『マスターは普段こんな所で勉強しているんだよねー』

『そうですね。あ、今あの女性、マスターに話しかけました――』

『オルトリンデ、怒ると同期が乱れます』

 

 講義が始まる前はユウや周りの人間の行動に一喜一憂していた3人だったが、動きがなくなったのを見て大学を探索する事にした。

 一応、自分達のマスターに見張りを付けようとオルトリンデが残る事になった。

 

『あの娘は何処だろうね?』

『マスターの前では可愛らしく振る舞っていましたが、他の方達の前でも同じとは限りません』

 

 自分達の主を守る為――と言った名目で、彼女の粗探しに躍起になるスルーズ。

 

 サーヴァントとしての能力が制限されている為、虱潰しに廊下を歩いて漸くリカの教室を見つけた。

 

『いましたね』

『こっちもやっぱり勉強中だね』

 

 他の生徒や壁をすり抜けてリカの隣に立った2人は彼女をすぐ傍で観察を始めた。

 

『ふーん』

『……』

 

『スルーズ、外見情報を保存して上書きする気なの?』

『…………最終手段です』

 

 自分達の間で隠し事が無駄だと分かっていたスルーズは、ヒルドの問いに少し遅れて返事をした。姿形の問題なら、それを真似れば良いと考えたのだ。人間と異なる価値観を持つワルキューレ達ならそう言った思考に辿り着くのも自然な流れだった。 

 

『後で私にも頂戴ね?』

『許可しましょう。ですが、それよりも彼女の弱みとなり得る情報が欲しいですね』

 

『と言っても、真面目に……うん?』

 

 改めて机を見直して、リカが講義の為のノートとは別に小さいな手帳を開いて何か書き込んでいる事に気付いたヒルドはその内容に目を通した。

 

『今日のユウ君が作ったスープがとても美味しかったけど、北欧の話を聞いたなんて私に話してくれていなかった……?』

『日記でしょうか? ですがこれは……』

 

 ヒルドの読み込んだ情報が気になり、彼女を正面から見ていたスルーズも手帳の内容に目を通した。

 

『何時もの通り道で、ユウ君が私から目を離した回数が異常に多かった。

 私の後ろを何度も見ていた気がするけど、何もなかった……

 ……って、この娘! 見えない筈の私達の存在に気が付いてない!?』

『でしょうね。マスターの傍にいる者であれば当然かと』

 

『いやいや、普通の人間でこれはおかしいよ』

 

 ヒルドが念の為にと彼女の前で手を振ってみるがリカは何の反応も見せない。

 スルーズも手を伸ばしてみるが、当然触れずに通り過ぎていく。

 

『それ以外のノーㇳは変わりなし』

『この手帳が異常だけどね……』

 

 リカが手帳に書き続けているの見て暫くそのまま見ていたが、マスターの挙動をずっと監視している事以外は分からない。

 

 その後オルトリンデの待つマスターの教室へと戻った彼女達だったが、ノートの隅に文字を書き合う形でユウとの会話を楽しんでいたオルトリンデに怒り、唯一人にしか聞こえない姉妹喧嘩を繰り広げる事になったのであった。

 

 

 

 何時もよりも騒がしかった講義も終わり、玄関に向かうとリカが待っていた。

 

「お疲れ様」

「おう……別に俺を待たなくても良いんだぞ?」

「いーや! 恋人同士なんだから一緒に帰るの!」

 

「分かった分かった……」

 

 なんやかんやで今日もあと数時間だ。早めに寝て、ワルキューレ達ともオサラバしよう。

 

「ねぇ、ユウ君」

「どうした?」

 

「私、今日はユウ君の家に泊まっても良いかな?」

 

 そう言って頬を赤らめる彼女を見て、俺は少し悩んでから――

 

「――泊まるのは駄目だな。いつも言ってるけど、妹がいるしさ」

「そう……だよね……」

 

 普段ならもっと粘ってくるんだけど……しおらしくされると逆に困る。

 

「まあ、夕飯位食べてけよ。帰りは送っていくしさ」

「うん、そうする」

 

 俺達は手を繋いだまま、行きと逆に口数少なく家へと帰った。

 

「ただいまー」

「ただいま!」

 

 

 

 リカとユウ、その妹と何気ない会話を交わしながら3人で夕食を済ませると、ゲームで遊ぶ事になった。

 最もゲームの得意な妹に負けて、一度席を外したリカはユウの部屋に入っていた。

 

「来ました」

「予想通りですね」

 

 そこには彼女には見えないがワルキューレ達が待ち構えていた。

 

 リカは軽く部屋を見渡してから彼のスマホが普段通り充電器に繋がれているのを確認し、それを手に取った。

 慣れた手つきで本人確認用のパスワードを入力し、ロックを解除した。

 

「まあ、当然それ位出来るよね」

 

 開いた先でリカの目に飛び込んで来たのは……ホーム画面だった。

 

「……これ、は……!?」

 

 しかし、日常的に彼のスマホを見ていた彼女は見知らぬ画像が背景として使われているのに気が付き震え始めた。

 

「な、なんで私の写真じゃなくて、女の子のキャラクターになってるの……?」

 

「私達が設定したからだよーって、聞こえてないんだよね」

「これでマスターの嫁は私達です」

 

 勝ち誇ったかの様な顔を浮かべるワルキューレ達、リカは焦りながらも自分の知っている画像に直そうとギャラリーを開いたが――

 

「――全部消えてる!? なんで!?」

 

「勿論、ちゃんと消去しましたよ」

「マスターは私達の物ですので、これでどうか離れて下さい」

 

 目の前の事実に耐えれなくなり、リカはユウのベッドに顔をうずくめる。

 

「……嫌だぁ……ユウ君……私、嫌だよぉ……」

 

「まあこれで少しはすっきりしたかな?」

「マスターの事ですから、後でしっかり慰めてしまうと思います」

 

 満足げなヒルドとオルトリンデだったが、やはり多少の罪悪感が有った様で大事に至らない事を少しだけ祈っていた。

 

「いずれ消えてしまう私達とは違って、この方はずっとマスターの傍を歩めるのです。これ位の試練はあって るべきでしょう」

 

 涙を流すリカを見て溜飲が下りたスルーズは彼女を見る。

 まるで親と離れるのを嫌がる子供だが、スルーズは目聡くその動きの変化に気が付いた。

 

「……何か、弄ってますね?」

「え? あれ、自分の端末でマスターの端末の写真を撮ってる」

「一体何を……?」

 

「……見つけた」

 

 リカは自分のスマホを見て、己の獲物を見つけた様に笑っていた。

 

「ワルキューレ、Fate/Grand Orderね。あっちから顔を見せてくれたお陰で、簡単に検索出来た」

 

「……っ!? これは不味いのでは!?」

「スマホを!」

 

 スルーズがスマホへと手を伸ばすが、彼女の手はスッと通り抜けてしまう。

 マスター以外の人物に干渉できないルールのせいで、彼女はリカの前では所有物に触れる事すら出来ない。

 

「ユウ君のスマホに……あった。このアプリだ……! これさえ消せば……!」

 

「おーい、リカ」

 

 

 

 リカがなかなかリビングに戻ってこないので、扉が開いた自分の部屋に行くと俺のベッドでスマホを弄っている姿を目撃した。

 周りにいるワルキューレ達は酷く焦って表情をしているのを見て、何かは分からないがヤバい状況なのを察した。

 

「何してんの?」

「ユウ君を私から奪おうとする悪い奴を、ユウ君のスマホから追い出すの」

 

「スマホから……って!?」

 

 リカがFGOをゴミ箱へ送ろうとしているのが見えたけれど、止める間もなくゲームがアンインストールされた。

 

「これでおしまい」

 

「マス――」

「そんな――」

「きえ――」

 

 俺の視界からワルキューレ達が消えて行く。だがリカは満足した様な顔をこちらに見せて笑った。

 

「これで良いよね! 私、今日ずっと不安だったんだ」

 

「私が話しててもずっと、誰もいない場所に目を向けてたから」

「お前幽霊とか苦手だもんな」

 

 リカの頭を撫でて少し茶化しながら彼女の手の中のスマホを取り返した。

 

「心配させて悪かったな」

「うん、怖かったよ! ユウ君、幽霊にも好かれちゃったのかと思って!」

 

 まあ幽霊みたいなもんだよな、サーヴァント。

 PCと連携してリカの写真をダウンロードし直した。

 

「ほら、待ち受けも戻した。これで良いよな?」

 

「んー……あっさりしてる。ねぇ、もしかしてまたインストールするの?」

「そりゃするけど」

 

「えぇ! もうやめてよ!」

「ほら、我が妹を待たせてるしもう行くぞ」

 

 俺がリカの手を握ってやっても、珍しくリカは抵抗してその場に留まろうとする。

 

「やだ、しちゃ駄目」

「そんなにか?」

 

 俺の言葉にリカは目を閉じてこちらに唇を向けた。

 

「……んっ!」

 

 怒っている、と暗に俺に知らせているらしい。

 いつもより押しの強い口づけを交わした後、リカを連れてリビングに向かった。

 

「ねぇ、分かった?」

「分かった分かった。インストールしたら、もっとキスしてくれるって事だろ?」

 

「ち、違う! しないから!」

「ちぇー、してくれないのかー」

 

「あ、そうじゃなくて!」

「もう倦怠期かぁ、早かったなぁ」

 

「ユウ君!」

 

 その後俺の挑発に乗ってくれた結果、FGOを賭けてリカとゲームで勝負する事になり、無事に勝利してFGOをインストールし直した。

 

 引継ぎコードは以前から保存していたので直ぐに復元出来たし、リカも機嫌は悪そうだが渋々許してくれたので、これで一先ずは安心だろう。

 

 ……勿論、夢の中は全然安全ではないんだが。

 

 退路を断つように飛んでくる槍、槍、槍。

 

 そして俺を抱擁しようと一糸纏わぬ姿でこちらに向かってくるワルキューレの群れ。

 

 一度俺との繋がりが切れた事で全力で束縛しようと迫って来るサーヴァント達の猛攻から逃げるのはとても難しく、やがて俺は捕まってしまう。

 

 こちらに向かってくるオルトリンデ、ヒルド、スルーズを見ながらこんな美人達を嫉妬させる自分の彼女をちょっと誇らしく思い、思わず笑みを零すと遂に怒りが爆発したのか心臓を狙って槍を放たれた。

 

 悔いはない。

 

 これからもきっと俺はこんな感じなんだろう。

 リカの存在がカルデア中に知れ渡り、全サーヴァントが俺を浮気者として攻撃してくる。ヤンデレ・シャトーじゃなくて唯のスプラッターになってしまったか。

 

 ……まあ、この後ガッツで復活して逃げ延びてやるとしよう。

  

 

 

 

 

 

 

「……ユウ君?」

 

「リカ……? もう朝か?」

 

 夢から目覚めて顔を上げ、周りを見ようとしたが窓から余り光が射していない事に気付いた。恐らくまだ5時前だ。

 

「ユウ君……大丈夫?」

「全然大丈夫だが、お前が此処にいる方がおかしい」

 

 妹が一緒に住んでいるし、リカには合鍵を渡していなかった筈だ。寝る前に家まで付き添いで送ったし。

 

「ごめんね、妹ちゃんが合鍵を作ってくれたの」

「あいつ……」

「それでね、ユウ君に何か起きてないかなって不安になって起こしちゃったの」

 

「はぁ……バイトは朝なんだし、もう少し寝かせてくれよ」

「うん、ごめんね」

「怒ってないって」

 

 そう言って俺は布団をかけ直した。

 

「…………一緒に寝ていい?」

「…………」

 

「ユウ君……?」

「……」

 

「そう、だね。まだだよね。うん。私一人で帰るから」

 

「…………はら、減った。だから、一緒に行ってやるよ」

「ありがとう。大好きだよ、ユウ君」

 

 まさか夢の中で命を助けられたとは言えず、毎回毎回夜遅くに家に来られても困るから合鍵は没収した。

 

 代わりに、俺達は深夜に散歩デートをした。

 

「夜も綺麗だね。私、またしたいなぁ」

 

 笑みを浮かべてそう言ったリカに、反省しろよとため息交じりの笑みを浮かべるしかなかった。




次回は そこら辺のだれか さんです。

更新の間に2部の6章が配信され、ネロ祭が始まりました。BOX周回、頑張りましょう。
執筆の合間に回していきたいと思います。

新サーヴァントは召喚出来ませんでしたので、切大ではなく山本辺りと一緒に登場させようと思います。

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