ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
今回登場する女性マスターの鼎ですが、2周年記念で生まれたキャラなんだと思うとちょっと驚きます。
敗北しがちなか弱い彼女は今回どうなるのか……
最近、オリジナル小説関連の配信をしています。
FGOやヤンデレ要素は薄いですが興味のある方はTwitter等で告知しますのでよかったら目を通してください。
「……カナエ?」
放課後、久しぶりに見た幼馴染の顔には見慣れないクマがあった。
睡眠第一で生きている俺でも、いや、俺だからそれは見過ごせなくて思わず呼んでしまった。
「……うん? え、あ、陽日君!?」
普段は明るく、俺にはない勢いを持つカエデはワンテンポ遅れて戸惑った様な返事した。
「陽日だけど……どうしたの?」
「別に、元気だよ!」
まだ一言も元気かどうかは聞いてないんだけど……
「珍しいね、私に声かけるなんて。今日は眠くないの? コーヒーでも飲んだ?」
「そういう訳じゃない……やっぱ眠いし……帰る」
雰囲気で話してくれなさそうなのは察したので、これ以上聞いても無駄だと分かったので足先を家へと向き直した。
「うん……またね」
「またぁ……」
欠伸交じりで返事しつつ、ドアノブを掴んで回した。
チラリと見た隣の家に入っていく幼馴染の顔は、やっぱり少し暗かった。
(今年もカナエちゃんからバレンタインチョコ貰えたの!? お返しはちゃんとした!?)
(陽日、お前はカナエちゃんに小さい頃、お世話になったんだからこれからはお前が助けてやるんだぞ!)
(ねぇねぇ! そろそろジューンブランドの題材が必要なんだけど、カナエちゃんにモデルお願いできない!?)
先月に帰って来た両親との会話を思い出した。いや、俺が返す間もなくずっと2人が喋っていた気がするけど。
「……まあ、明日から頑張ろう」
「……ん? カナエ?」
「あ、陽日君!? ど、どうして此処に!?」
つい先まで自分の部屋で寝ていた筈だから……もしかして、此処ってあの夢の中か?
「俺が呼ばせてもらった」
「エドモン!」
眠い目を擦りつつ、現れたエドモン・ダンテスの話を聞く。
「今回はお前達2人でシャトーに入ってもらう」
「えぇぇぇ!? なんで!?」
「理由は各々が知っているだろう。
――片や恐怖で足を止め、壁を作り引きこもる者。
――片や怠惰に身を委ね、常に睡魔に流される者」
「別に俺達は此処に来たくている訳じゃないし」
「だが、このままでは折角の悪夢を楽しめないだろう? 故に今回は2人同時に誘った訳だ。そら、お前達を待っている者共がいるぞ!」
エドモンがマントを翻すと、その後ろに複数の黒い影が蠢いていた。
「……あれは……?」
「っひ! え、エリザ、ちゃん……!」
横にいた幼馴染が聞いた事の無い悲鳴に目をやってから再び正面に向き直すと、エドモンも影達も消えていた。
そして、先までいた黒一色の背景はいつの間にか、石造りの廊下に変わっていた。
「よ、陽日く~ん……!」
震えながらしゃがみ続ける幼馴染の声に、流石に寝てる場合じゃないと頭を書いてから周りを見渡した。
「ふわぁ……誰もいない内に、何処かに入ろう」
「そ、そうだね……!」
手を差し出した手を一生懸命掴んだカナエを見て、今夜は数年ぶりの徹夜を覚悟した。
「はいはいステイステイ」
「きょ、今日は地球が終わりでもするんですか……?」
「お母さん、珍しく起きてる!」
急に2人もやってきて騒がしくなってしまったが、取り合えず片手で頭を撫でて宥めよう。
どっちも白っぽい髪だけど、知ってるのはカーマだけでこっちの顔に傷が付いてる子は初めて会った……と思う。
「じゃ、ジャックちゃん!? よ、陽日君っだ、大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫……カナエ、怖いの?」
見れば分かる位震えているから聞く意味はないけど俺は無事だとアピールしてカナエを安心させる。
「う……こ、怖いけど……」
「けど、は要らないって。怖いなら取り合えず俺の後ろに――おっと?」
突然振り下ろされたナイフ。咄嗟に手を引っ込めて体を逸らす事で回避できた。
「お母さん、他の子にベタベタしちゃ駄目だよ? なんでそんな事するの?」
「私も流石にイラっと来ます。珍しく寝ないと思ったらやたらその女マスターに触ってますが、もしかして唆されてますか?」
「そういうじゃなくて……カナエが怯えてるだろ? だからちょっと安心させ、って!」
「やっぱり、私達より大事な子がいる!」
言い終わるより先にまたナイフを振り回されて、後ろに倒れそうになる。
「きゃっ!?」
「っと、危ない危ない」
後ろには怖がって動けないカナエがいるので、なんとかぶつからない様に踏ん張った。
「やさぐれた愛の神である私でも、流石に少しイラっとしましたからこの娘が我慢できないのは当然でしょう。起きている事といい、とても嫌な匂わせです。
ちょっと離れたらどうですか?」
「分かった、ごめんねカナエ……っ?」
握っていた手を離そうとしたけど、カナエの方はより強く俺の手を握って離してくれない。
「……?」
「ご、ごめんね陽日君……でも私、本当に怖くって……!」
「うん……そっかぁ」
しょうがない、離すのは諦めよう。
そしてもう一度正面の二人、ジャックとカーマに向き直った。
「ねぇ、離れないのぉ?」
「うん、無理そう」
「じゃあ、わたしたちが解体して上げる」
2本のナイフを振り上げて物騒だ。やっぱり子供はあんまり好きじゃない。
「ストップストップ、待って」
「?」
「ずっと気になってたんだけど、なんで俺が君のお母さん?」
「だって、マスターだもん」
「そうだね、マスターだね。でも、マスターだったら誰でも良いの? こっちのカナエもマスターだけど」
「駄目だよ。お母さんはお母さんだもん」
「うーん、ちょっと良く分からないけど、それなら、そんな簡単にお母さんを解体して良いの?」
「わたしたちはお母さんのナカに還りたいから。駄目?」
「あー、これは説得できない子だ。うん」
なのでカーマを見て助けを求めるけど――ムスッとして怒ったままこっちを見ていて微塵も助けてくれそうにない。
「だから、解体するね!」
普段寝ている間はベッドに入って来る程度の悪戯しかしない良い子なんだけどなぁ……やっぱり、カナエと一緒にいるのは不味いか。
でも、多分カナエを1人にしてしまうと彼女のサーヴァントに襲われてしまう。
どうしたものかと、思いながらなんとかジャックを制止しようと手を前に出して宥める。
「っ!」
そうこうしていると、今度はカーマがカナエに向かって弓を構えた。
「カーマ?」
「後ろですよ、何ボーっとしているんですかっ!」
真剣な声で叫ばれて振り返ると、巨大な槍を持ったピンク色の髪と黒のアイドル衣装、それらを上回る存在感の2本の角と尻尾。
「やっぱり、エリザ、ちゃん……!」
「漸く見つけたわ、私のマネージャー」
「マネージャーじゃなくてマスターよ。私の」
「あ、アビゲイルちゃんまで……!」
黒の……セーター? ドレス? に手を隠した金髪の女の子までやってきた。
見た目だけだと、怖がっているカナエがおかしいみたいだけど、サーヴァントって言う存在は……えーっと?
あれ? 家事をしてくれて、偶に睡眠の邪魔をする位だったような……?
世話好きのカナエにとっては恐ろしい存在……なのか?
「でも、怖がってるならそっとしておいて欲しいな」
「はぁ? 私はアイドルで、その娘はマネージャー。トップアイドル、エリザベート・バートリーの付き人なんて、とても名誉な事なのよ? それと、私のマネージャーの周りに、男はNGなの」
そう言って自称アイドルさんは持っていた槍の先端をこちらに向けて来た。
「駄目だよ? お母さんを解体するのは、私達だよ?」
俺とカナエを挟んだまま互いに武器を構え合うエリザとジャック。今すぐにでも戦いが始まりそうな雰囲気だけど、せめて俺達を此処から出してくれないか?
「――よ、陽日君!! 助けっ――!?」
突然、上からカナエの大きな声が聞こえて来た。
「もう、折角口を塞いでいたのに……」
「カナエ……!」
いつの間にか先の金髪の女の子、アビゲイルが触手の様な物で天井に張り付き、カナエもその無数の触手に絡めて持ち上げていた。
(……あの触手、冷たそうだけどもしかして冷たいハンモックみたいな感じで寝れるのでは?)
ふとそんな事を考えていたら、槍に乗ったエリザが天井に突っ込むのと同時にアビゲイルが躱してその場を去って行った。
「――待ちなさい! 私のマネージャーを返しなさーい!」
踵を返してアビゲイルを追うエリザベート。
「っと……俺も行かないと――あっ」
突然後ろから体を押され、そのままうつ伏せの体勢で地面に倒れた。
「これでもう誰も守らなくて良いよね、お母さん。
わたしたち、解体していい?」
「……」
「お母さん?」
(床……硬いけど、冷たくて……なんか、丁度いい……)
「んー? 観念したのかな?」
「いえ、恐らく寝ようとしてますね」
………………zz……って、寝たらダメだぁ……早く、カナエを追わなぁ……
「なら、今の内に解体しちゃおう! そーれ――」
「――私がそれを許すとお思いですか?」
何とか重い瞼を開いてみると、俺の横にジャックが眠っていた。
羨ましい位、気持ち良さそうに。
「ふわぁ……」
「……ふわぁ――」
「ちょっと、貴方は起きて下さい!」
俺も一緒にと思ったのに、カーマに突然首裏を掴まれ持ち上げられて強制的に目が覚めてしまった。
「って、この子の背中から矢が生えてる……」
「私の愛の矢ですよ。愛の神の矢に撃たれればそこに愛が芽生える。
ですが、芽生える愛の形は私がある程度コントロールできるんですよ」
ドヤ顔で説明してくれるけど、先に首から手を離してくれないかな……
「今のジャックさんが貴方に好意を抱く理由を“同じ趣味嗜好を持つ存在だから”としました。これで、ジャックさんは普段のマスター同様、年中無休の御寝坊さんになってます」
「それは分かったけど、そろそろ離して……」
「駄目です。こうしていないと、寝ちゃうじゃないですか」
いや、普段の俺ならともかくカナエが危ないこの状況で……寝ちゃう所だった。
「珍しく起きているんです。あの人を助けたいなら私が協力しますから、しっかりして下さい」
「ん……ありがとう」
(……ついでに、あのカナエさんについて調べておきましょう。眠り姫より眠っているマスターさんが起きている理由、それが分かれば私に堕落させる手掛かりになる筈。
勿論その後はなんの耐性も有してなさそうな小娘一人、どうとでも出来ます。愛の矢は決して、成就させるだけの矢ではないんですから……ね)
部屋に連れ込まれ、椅子に座らされていても私の手は恐怖に怯えて少し動きを止めなかった。
「――マスター、ずっと震えているのね」
「……」
「そうね。最初に会った時、悪い私が驚かし過ぎてしまったから」
アビゲイルちゃんに最初に会った時、私は2人のアビゲイルちゃんを見た。
おでこに鍵穴を持つ別の側面の彼女は、その後もこの塔で会う度に私を苦しめる様な事をして来た。
今のアビゲイルちゃんは良い子だ。
だけど、彼女が悪い子にならないとは限らない。
「ねぇマスター」
「……」
「もし、私がずっと良い子でいたら貴方は私を愛してくれますか?」
「……うん」
「そう。なら私、ずっと良い子でいるわ」
頭を撫でられても全然安心できないけど、肌に感じる服の感触は彼女がまだ第一再臨の状態だと教えている。
「でも、マスターが悪い人なら話は別よ?」
「――っ!?」
一瞬で、椅子に座ったままの私は何処か黒しかない場所にいた。
輝いて見えるのはアビゲイルちゃんの金髪だけ。
「ねぇ、先の男の人は誰なのかしら?
なんだか嬉しそうにしていましたけど、もしかして恋人なのかしら?」
「あ、そ、そんなんじゃ――」
「――嘘は駄目よ、マスター」
慌てて返事をした私の顔に触れた彼女は、こちらをじっと覗き込んで、同時に額に鍵穴が現れた。
「嘘を吐く様な悪い人なら、私も悪い子になってしまうわ」
「……陽日君は、ご近所さんで、幼馴染……」
「羨ましいわ。マスターの近くに住んでいて、ずっと一緒にいるのね?」
続きを催促しているのか、触れていた筈の袖の布が別れて下に落ちていく。彼女の服が少しづつ変化しているみたいだ。
「……好きか、分からないけど……先、私を助けようとしてくれて……ちょっと、驚いちゃった」
「へぇ……」
アビゲイルちゃんの手が私を離れ、同時に服は1つに束ねられて元に戻っていく。
「……そうだ! 幼馴染で思い出したわ!」
「?」
手を叩いた彼女の足元から、1冊の本が湧き出て来た。
「私の過去も、マスターさんに知って欲しいわ! だから、このアルバムを見せてあげる!」
「あ、アルバム?」
「はい! どうぞ!」
「……」
有無を言わせずこちらにアルバムを手渡すアビゲイルちゃん。
なんとなく、開きたくなかった私は彼女の方を見るけれど、彼女は何も言わずににっこりと笑うだけ。
「……」
その圧に観念した私は、アルバムの端を指で抓んだ。
――けど、ページを開くより先に私の手から誰かがそれを強引に引っ張って、黒しかなかった空間は弾ける様に消滅した。
奪われた本を目で追うと、そこには私を睨む様な瞳で見下ろすエリザちゃんがいた。
「え……エリザ、ちゃん」
「マネージャー……いいえ、私のメイド。
こんな古臭い本を読む必要なんてないわ。血の匂いはするけど、全然私の好みじゃないし」
そう言って彼女が床に投げ捨てたアルバムを見ると、先までとは全く違う表紙に古いアルファベットで書かれたタイトルがあった。
「ね、ネクロノ……?」
「魔術の本ね。常人が見たら発狂して、運が悪ければ記憶がトんじゃうかもね?」
「え!?」
エリザちゃんは不敵に笑って横にいたアビゲイルちゃんの方を見た。
「イロモノアイドル吸血鬼……邪魔しないで」
「誰がイロモノアイドルよ。
良くも私の可愛いメイドに物騒な物を読ませようとしたわね!」
「マスターをメイドにして私物化しようだなんて、悪いサーヴァントはどちらかしら?」
「私物化なんてしようとしてないわ。
だってマスターは私の物だもの。そんな工程は必要ないの」
そう言ってエリザちゃんは私の目の前に紙を突き付けた。以前、彼女が私と結んだBBちゃん製の専属メイド仮契約書だ。
「これでマスターは私のメイドよ」
「……」
だけど、私の服装は変わらない。普段なら彼女の好みのピンク色のフリルなメイド衣装が出て来る筈なんだけど……
「あら?」
「無駄よ。貴方との契約は以前BBさんと会った時に切って頂いたわ」
アビゲイルちゃんの言葉と同時に、契約書は破裂し紙吹雪を起こした。
それを見たエリザちゃんは、槍をその場に置いた。
「マスター、耳を塞いで」
普段ならどんな歌でも聞いてと言う筈の彼女が出した合図が何を意味するか、彼女の表情が見えた私は直ぐに理解して慌てて耳に手を当てた。
「すぅ――――……」
「……――――!!!!」
とても、重くて、長い一曲。
自分の槍をマイクとして、唯々叫び続ける彼女の声はシャウトはリズムも無ければ音程も無視している。
何より、乱暴なその歌い方はもはや自分の為の歌ですらない、竜巻が八つ当たりしている様だった。
そして、その中心にいたアビゲイルちゃんは――壊れてしまった壁の向こうに姿を消した。
「…………ふぅ、すっきりしたわ。
メイド、水……って、今はメイドじゃないのよね」
「え、エリザちゃん……」
「大丈夫よ、マスター。
少し、少しだけ頭に血が上ってしまったけれど……あ」
何かに気付いた彼女は、私をその場で押し倒した。
「え、エリザちゃ――いた!」
「ん――んっじゅ……んん、ぁん、っじゅ……ゴクン」
首元に噛み付き、数秒だけど体全ての血を抜きそうな勢いで吸血した彼女は私の真上で笑みを見せた。
「……やっぱり、ライブの後はこの味よね」
「はっぁ、はぁ……」
「もしかして……もしかしたら、流石の貴方にも伝わってしまったかもしれないけれど、私、エリザベート・バートリーはね。
今、メイドがいなくなって、とっても寂しいの。悲しいの。
道端に、捨てられた小ジカがいたら拾って家に持ち帰ってしまちゃうくらい」
「小ジカにはリードかしら? 小屋でいいのかしら? それとも、家に入れていいのかしら?
食べ物は何をあげようかしら? 日本だとクッキーらしいけれど、やっぱり草がいいのかしら? でも――」
「いっ……!」
私のお腹を、彼女の爪の先端がなぞる。
「――こんなに可愛くて、おっきな子ジカですもの。
サラダだけで痩せこけてしまうのは可哀想よね?」
「……」
「ねぇ、選んで?
貴方は私の専属マネージャーに昇格したい? それとも、ADとして地道に頑張る?
メイドに復帰してもいいし、私の機嫌を取る子ジカも良いと思うわ」
そう言って彼女は近くにあった紙を適当に手に取ると、噛まれて出血している私の首元の跡に爪の先を伸ばして、何かを書き込んでいく。
「――出来たわ」
“契約書”
“(私の大好きなマスター♡)鼎はエリザベート・バートリーの”
“マネージャー”“AD”“メイド”“ペット”
“――になる事を誓い、どんな時でもこの契約を遂行します”
その下には丁寧に彼女のアイドルサインまでされている。
「さあ、1つ選んで」
そう言って私は肩を掴まれ、契約書を前に突き出される。
「待って、エリザちゃん……!」
「駄目よ」
掴まれた肩が痛くて、思わず止める様に頼んだけれど彼女の力は一段と強くなってしまう。
「早く、今すぐ、此処で、選んで」
「わ、私は……!」
「大好きな、とっても大好きなエリザベートの、マネージャー、AD、メイド、ペット……どれになりたいの?」
「……大好きなって……!」
大好きと言う単語を聞いた私は思わず、陽日君の顔が浮かんで、少し呆けてしまった。
「――何、何で、何故っ!」
「い、痛い、痛いよエリザちゃん!」
「そんな顔をしろだなんて誰が言ったの!? 私の子ジカが、そんな顔して良い訳無いじゃない! 私がこんなにも、こんなにも愛を投げかけているのに、貴方は――っ!?」
「――ふぅ、命中です」
「…………ふ、ふふ……子ジカ……そんなはしゃいじゃって……私のライブは、何時だってさいっこうよ……」
「大丈夫、カナエ?」
「…………うん」
カナエと、そのサーヴァントがいた部屋に辿り着いた俺とカーマ。
取り合えずエリザにはジャック同様、俺と共通の趣味趣向を持たせる事で無力化に成功した。
「本来はこうすんなりはいきませんが、マスターが協力的だったから1発でいけました」
「夢の中でも傷や痣があるのは嫌でしょ。気休めだけど、タオルで冷やして絆創膏も貼っておこう」
「あ、ありがとう陽日君」
「……(吊り橋効果で落とされてますね、これ)」
「……こ、この娘は大丈夫なの?」
「カーマは大丈夫だよ……ふぁ……」
「お眠ですかマスター?」
「うん……ちょっと、頑張り過ぎたかも……半端ない、波が……」
「もう飲まれましたね」
「……“カーマ、安心させて、あげて”」
「っ!? 令呪を使ってまでですか……!」
これで、取り合えず……寝よう。
(ですが……これで私も、すんなり目的を達成できますね)
「……寝ちゃったんだ……いつもみたいに」
「ええ、この夢の中でもいつもこうです」
「知ってる。私も、陽日君にそうしろって言われたから」
「じゃあ、何故今回はしなかったんですか?」
「……女の子達には、通用しないから」
(え……? 通用しないとかあるんですか?)
普段からイリヤやクロエと言った少女に囲まれ、それでも寝続ける陽日の姿を思い出して唖然とするカーマ。勿論、おかしいのは陽日の方なのだが。
「貴方、陽日君の事好きなの?」
「いえ、残念ながら愛してます。
だからこうして嫌々貴方の事も助けてあげました」
「そう、なんだ」
「マスターと貴方はどんな関係なんですか?」
「……幼馴染?」
「それ以外は?」
「同じ学校の同級生で……あ、クラスは別なんだけど」
「そうではなくて、貴方はマスターの事が好きなんですか!?」
自分の口から出た台詞に、普段はない甘酸っぱさを感じてしまったカーマは顔を真っ赤にして問い詰めた。
「……うん、好きだよ」
「でも恋人じゃないと?」
「やっぱり、ずっと友達だったからどうやって距離を詰めればいいのか、良く分かんなくて……」
「ふぅーん」
それを聞いたカーマはニヤリと笑った。
「でしたら、貴方に愛を成就する加護を授けましょう」
「え……? 良いの?」
「ええ。何せ私はひねくれた愛の神ですから。
今みたいにマスターを愛し続ける現状に不満がありますので」
そう言って彼女はそっとカナエに触れた。カーマの宝具で、自身の体を愛の矢とする事が可能だからだ。
(――これで、私の勝ちです。貴方から綺麗さっぱり愛の情欲を奪ってしまえば少しづつ、長年の幼馴染の歯車に亀裂が――……? 何をしているのですか私?
属性が逆です、早く体を――なっ!?)
カーマの意思とは逆に、情欲の矢としてカナエの体に触れてしまう。
(カーマ、安心させて、あげて)
「先の令呪のせいで!」
「……んぁ?」
「あ、起きた?」
「……カナエ? まだ夢?」
「ううん、もう学校の時間だよ」
気付かない内にカナエの膝に頭を乗せていた様だ。
二度寝したいけど、ちょっと我慢して時計を見るとそろそろ学校に向かう時間だった。
「……眠りたりないや」
「そんな事言わないで! ほら、学校行こう! 朝ごはんも出来てるから」
「……分かった」
「前来た時よりも、部屋、綺麗だね」
「うん……ふぁぁぁ……偶に、サーヴァントが綺麗してくれるから」
「そうなんだ」
「それより、お母さんとお父さんは?」
「もう出かけたよ。なんか、次に会う時には写真を撮らせてって言ってたけど」
「そっかぁ……」
「もう、何回枕に顔を押し付ける気なの?」
「後5時間……」
「だーめ! ほら、まずは顔を洗おう!」
カナエに背中を押される形で、俺の部屋を後にする。
「……もう、貴方達は来なくていいからね」
「……カナエ?」
「あ、今行く!
って、トイレは1人で入って――あ、中で寝ちゃダメだよ!」
次はTwitterでの第一当選者になります。
例によって、当選者の方々は設定を変えたくなったらいつでも改案を送って下さって構いません。
ウマ娘だけでなくて、裏でこっそりValheimまでやってたりする。
どっちも時間泥棒過ぎて小説の時間が無くなってしまうので、ほどほどに楽しんで行きたいと思います。