ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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今年のバレンタインはイベントが終わる前に小話を投稿出来たらいいなー、と思ってます。
以前書いた個別イベントを改変する奴です。頑張ろう。



今回は以下の点にご注意下さい。

※Fate/Requiemの宇津見エリセのキャラ崩壊
※ぐだ男に靡く訳無いだろ! いい加減にしろ! って方はブラウザバックして下さい。


弟子入りヤンデレ

「私をキミの弟子にして下さい」

 

「えぇ……?」

 

 夢の中のマイルームで目が覚めると、中学生の女の子が部屋に入って早々弟子入りを志願してきた。

 

「何か不満でもあるの?」

「いや、別に不満とかは無いんだけど……」

 

 横から胸が見えそうな、白い巫女服の様な恰好の少女は宇津見エリセ。

 確か、スピンオフ小説のFate/Requimの主人公でFGOではランサーとして邪霊等の力でサーヴァントの様に戦っている筈だ。

 

「確かに私はあの盤上世界での一件でキミを認めて、こうやって繋がってしまった縁のままにカルデアの手伝いをしているんだけど……でも、こんなおかしな空間があるなんて、どう考えても変でしょ!」

 

 まさかこの子、ヤンデレ・シャトーに異議を申し立てていらっしゃる……?

 

「サーヴァントに好かれるだけの空間なんて!」

 

「まあ、そうだよなぁ」

 

 全く持っておっしゃる通りだ。

 

「だから、これからキミの弟子になって私がちゃんと監視する!」

「弟子になる意味とは?」

 

「仕方ないじゃない。理由もなくマスターの隣にいると他のサーヴァントから攻撃されるんだから……」

「多分弟子でも関係なく攻撃してくると思うんだけど」

「兎に角、これは安全策! まさか、年下の私に教える事がないなんて言わないでしょ?」

 

「なんでちょっと挑発的なんだ……」

 

 まあ、普段からツンツンしてる感じの子だし此処は幾分か大人の俺が折れてやるとしよう。

 

「それで、他のサーヴァントがいるのか?」

「態々外に出るの?」

「そりゃあ、この塔で出会いたくはないが出会わないとそれはそれで面倒な事になるからなぁ」

 

 マイルームの扉を開いて、早速外の様子を見てみたのだが――

 

「――真っ暗?」

 

 扉が開いた先は黒一色。

 試しに手を伸ばそうとすると――突然後ろに引っ張られた。

 

「ちょっと何考えてるのよ!? どう見ても危ないでしょ!」

「あ、はい」

 

「私が入って来た時はちゃんとカルデアだったのに……」

 

 でも目の前で蠢いている黒一色の光景はカルデアでは無い事は確かだ。

 

「ほら、閉めて閉めて!」

 

 中学生に怒鳴られて動きの止まった俺を掴んで扉から離しつつ、彼女は急いで扉を閉めた。

 

「あれが退散するまで、取り合えず大人しくしておきましょう。他のサーヴァントの仕業なら、少なくてもキミを害したりしないでしょう?」

「そう、だな」

 

 100%安心ではないんだが……それに先の黒い何か、どっかで見た気がしなくもないんだけど。

 

「それで私を何をすれば良いのかしら、師匠?」

「違和感あるなその呼ばれ方……」

 

「ベタだけど掃除とかした方がいいのかしら?」

「別にしなくても良いと思うけど」

 

「じゃあ料理を!」

「別にお腹減ってない」

 

「む……何もさせない気?」

「突然弟子入りしておいて何言ってんだ……」

 

 とはいえ、正直英霊に関してはきっと彼女の方が詳しいだろうし今更俺がウンチクを語った所で意味は無いだろう。

 元の世界の教育事情も良く分からないし。

 

 やっぱり師匠とか無理では?

 

「ねぇ、この辺から危険な毒の香りがするんだけどっ!」

「ああ、多分いつも静謐のハサンが潜伏している場所だな」

 

 エリセが指さしたのはベッドの下。ぐだ男と化した俺には毒耐性があるので多分大丈夫だ。

 

「ここ、黒く焼けてる! 火薬か何かを仕込まれて……!」

「それは清姫の炎で焼けただけだと思う」

 

「じゃあこのぬいぐるみ!」

「アナスタシアのプレゼント」

 

「怪しげな薬品群!」

「パラケルスス、キルケーの没収品」

 

「この魔術書は!?」

「それはナーサリーがくれた本」

 

「――っもう! 荒れ放題じゃない!」

「マスターの性だと思ってる」

 

「この現状を受け入れてるの!?」

 

 彼女は英霊を強く尊敬しているし、いわくつきの品には敏感なのでこの品々を見て驚き、もはや呆れている様だ。

 

「こんなにあったら普通は落ち着かないでしょう!?」

「だからって、捨てでもしたら明日にはとんでもない事になるぞ。なんせ此処の英霊達は1回拾い食いするだけでトラブルを起こす奴らが殆どだからな」

 

「改めて考えると恐ろしい場所ね。カルデア……」

 

 そういう訳で掃除は必要ないと彼女を説得したが、彼女はそれでも引き下がらなかった。

 

「だったら、せめて管理を強化しましょう! 一纏め位にはしておかないと!」

 

 そう言って彼女は本に手を伸ばして――

 

「――っきゃ!?」

 

 可愛らしい悲鳴が上がった。本が突然勝手に開いて飛び出したのだ。

 そして瞬く間に、本の形は少女へと変わった。

 

「ふぁ……折角マスターの部屋で気持ちよく寝ていたのに……」

「あの本、ナーサリー本人だったのか……」

 

「そうよ。私はマスターのサーヴァントだから、此処にいても良いでしょう?」

 

 俺に近付き、抱きつく絵本のサーヴァント、ナーサリー・ライム。

 エリセはそれを見て不機嫌そうにしている。

 

「……可愛そうな女の子。こんな夢の中でも素直になれないのね」

「ちょ、ちょっと! いきなり抱き着いて、駄目です! ご禁制です!」

 

 どこかの頼光さんみたいな事を言って止めに入るが、ナーサリーは全く気にする事無く嬉しそうにくっ付いてくる。

 

「なんで駄目なのかしら? 此処は貴方の場所なの?」

「べ、別に私の場所じゃなくても……!」

 

「ナーサリー、こんなにくっつかれると動きづらいんだけど……」

「あら? 今日は何処にもいかないのでしょう? この部屋の入口は、幽霊の洞窟の様に暗いんだもの」

 

 寝てた割にはこの状況をよくご存じで……いや、幽霊の洞窟ってまさか……?

 

「エリセ、もしかしてあの黒いのってエリセの邪霊……?」

 

「うっ……」

 

 バツの悪そうな顔を浮かべている彼女を見つめていると、ナーサリーに両頬を掴まれた。

 

「駄目よマスター。女の子の悪戯は、笑って許してあげないと」

「悪戯じゃなくて!? 私は、マスターが外に出て連れ去られない様にしただけ!」

 

 慌てて言葉を紡ぐエリセとは対照的に、笑顔を浮かべたナーサリーは俺達の目の前で一回転してスカートをフワリと浮かせた。

 

「じゃあ、私が素直にしてあげる!」

 

 ナーサリー・ライムが魔力を高めてまたおかしな世界を展開する――より早く、俺の魔弾が彼女の体に命中した。

 

「あうっ!?」

「っと……毎回毎回、同じ手が通じると思うなよ」

 

 いつも彼女の世界に付き合ってやると思ったら大間違いだ。スタンを食らってその場に座り込むと、恨めしそうな視線をこちらに向けた。

 

「マスターさんのイジワル……」

「先に部屋に入っていた意地悪さんは誰かなぁ?」

 

 ナーサリーの頬を軽く抓んで引っ張ってやる。これくらい、普段から宝具で拉致されまくっている俺ならやり返しても良いだろう。

 

「良く分かんないけど、マスターの言う事を聞かない悪いサーヴァントなら、マスターの弟子でもある私の出番よ」

 

 そしたら今度はエリセがナーサリーの首元を掴んで持ち上げた。

 

「この部屋から退場です!」

 

 開いた扉の外へとナーサリーを放り投げ、もはや隠す事もしなくなった彼女の体から邪霊が溢れ出て、黒い壁を作り直した。

 

「ふぅ、これでもう他にサーヴァントはいないわね」

「だと良いけど……」

 

 安堵の溜め息を吐いてベッドに腰掛けた俺の顔を、何かを期待するような瞳で覗き込んできた。

 

「ねぇ。何か私に言う事があるんじゃないの? 師匠の不始末を、片付けた弟子に対して」

「だから弟子じゃない……いやまあ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 随分と恩着せがましい弟子だなぁ。

 

「じゃあ、これからも私が弟子として護衛する。夜警でサーヴァントとの戦いは慣れてるからね」

 

「ヤンデレ・サーヴァントはまた別の怖さを持ってるんだが……まあ、やる気っぽいしいいか」

 

 どうせ今夜限りだし……そう思って後の安全は彼女に任せて俺はマイルームでお茶でも飲んで過ごす事にした。

 

 

 

 翌日、俺の想定とは大きく異なる状況になっていた。

 

「あの拙はマスターに御用が……」

「ダメです! 師匠は今取り込み中だから絶対に入らないで下さい!」

 

「マスターと魔力補給について話したいんだけど?」

「面会拒絶です!」

 

 代わり代わりにドアをノックしてやってくるサーヴァント達を、玄関先で追い返し続けるエリセ。

 

「やっぱり、キミって本当はサーヴァント達に舐められてるんじゃない?

 こんな何度も何度も遊びにくるなんて」

「いや、そんな事ないと思うけど……」

 

 俺のマスターとしての対応を疑問視されたが、それよりも奇妙な現象を目の当たりにしたショックが大きかった。

 

「……」

「どうかしたの? なにか言いたい事でもあるの?」

 

 エリセが対応したサーヴァント達は、帰っていくのだ。マスターの部屋にエリセがいる事になんの反応も示さず、抵抗も癇癪も起こさずに帰っていくのだ。

 

 この、ヤンデレ・シャトーで。

 

「いや、そんな訳ないだろう!」

 

 何か異常は無いかと彼女の両肩を掴んで隈なく探そうとすると、エリセが反射的に両腕を背中に移動させたので覗き込んだ。

 

「って、やっぱり邪霊が溢れてるっ!?」

「う……なんか、恥ずかしいからあんまり見ないで……!」

 

 恐らく、サーヴァント達と接触した際にヤンデレ・シャトーの影響をその体質で移して溜め込んでるな。

 

「だって、英霊達がそんな軽々しく人間一人に心許すなんて解釈違いと言うか……わ、私だったら別に、師匠の事を好きになんて、ならないかなぁって……」

 

 頑張ってツンデレっぽい事を言って強がっている……が、両腕でしっかりと抱きしめながら許して欲しそうに潤った瞳でこちらを見上げているのでこの子はもう手遅れだ。

 

「その、私が浅はかでした……サーヴァントの誰もが影響されるのに、私だけ大丈夫とか、また前みたいに根拠のない行動で……!」

 

 涙目でそんなに謝られたら、俺の罪悪感が……!

 

「と、取り合えず落ち着け! そ、そんなすぐ泣くキャラじゃないだろ!?」

「ご、ごめん……! 師匠の前だと、ちょっと、止まらなくて……!」

 

 ヤンデレって言うかちょっと面倒臭い感じの女の子と化してたエリセをなんとか慰め、距離を開ける事に成功した。

 

 しかし、その言動は随分と冷たさと棘の消えた乙女の様な物になっている。

 

「手を繋いでいて、いい?」

 

 そう言ってこちらに控えめな動きで手を伸ばしているエリセに、少し考えてから手を差しだしてやると嬉しそうに握りしめて来た。

 

「心臓がドキドキしてるの……伝わっちゃいそうで、恥ずかしいなぁ…………で、でも! 離しちゃ、駄目だから!」

 

「一応確認するけど、俺の弟子なんだよな?」

 

「勿論、マスターは私の師匠よ! だ、だったら私の事、好きだよね?

 だって、このカルデアでは師匠って全員弟子の事が大好きな人達って聞いたし……つまり、相思相愛って事!」

 

「いや、カルデアの間違った文化鵜呑みにし過ぎだって……それより、早くその邪霊を落とそう。なんか、もう常時溢れ出て――」

 

 ――この流れで押し倒された。

 中学生に負けてるこの構図、マジで精神的に良くないと思います。

 

「嫌! 私、師匠の事大好きなの! 好きだから溢れてるの! これを止めようなんて、そんな寂しい事言わないで!」

 

 目からハイライトが消え、涙を零しながら訴えてくる。

 

「っく、これは本格的に霊に丸め込まれてるなっ!?」

「いや、いや! 消さないで!」

 

 彼女は何も考えられない様で、がむしゃらに掴んだ俺の手を振って暴れる。

 

「私、私、師匠が好き! だから、このままにして!」

 

「うおっ! あ、令じゅっ! を、持って……!」

 

 令呪を使うとするが、振り回されているのでまともに命令を口にする事も出来ない。

 

 しかも、邪霊は徐々に徐々に彼女の体から床に垂れて、それは勝手に動いて俺の体を拘束しようと這いずり始めた。

 

「ちょ、待て待て! っく、令呪――んぐっ!?」

「大丈夫……私の気持ち、マスターにもきっと伝わるから」

 

 毒耐性の効果の延長なのか、邪霊に意識を乗っ取られたりダメージを負う事はないが物理的に口を塞がれ、エリセは唇を向けて顔を近付けて来る。

 

「じ、じゅあん! ふんがぐぜいぼぎぶはじばん!(事案! 中学生とキスは事案!)」 

「愛してるから、大丈夫……うんきっと大丈夫」

 

 完全に恋愛脳とかした頭フワフワのエリセは俺と唇を重ねた。

 

 その味は……アルコール? 消毒液? とても薬品臭くて――

 

「――はぁ、全くお馬鹿な弟子ね。師匠なんて簡単に引き受けるからこうなるのよ」

 

 間一髪、中学生とのキスは免れていた。

 呆れ顔のキャスター、メディア師匠が下に向けた瓶の中身は全てエリセにかけられており、どうやら俺の口にそれが少し零れた様だ。

 

「う! ぺっ、っぺ!」

「安心なさい。霊にしか効果の無い薬よ。これで彼女の霊を退散させたわ」

 

「あ、ありがとうございます……!」

「全く、小娘に跨られてそんなに嬉しかったのかしら?」

 

 俺は全力で首を横に振って拒否すると、メディアは溜め息一つ吐いて、扉の前に立つとフードを被った。

 

「師匠が弟子を好きなのは当り前よ。態々、嫌いな奴に自分の知識を授けたりなんてしないもの。もし弟子を取るなら、それ相応の覚悟を持って臨みなさい」

「は、はい……」

 

「分かったなら良いわ」

 

 説教され、いたたまれなかった俺は下を向いた。

 

「……それと、もっと師匠を頼りなさい。まあ、そもそもこんな場所に何度も現れたくはないのだけれど」

「そもそも、この塔の中だと師匠が襲って――あづっ!?」

 

 突然掌に火の粉が掛かって、慌てて手を振った。

 

「余計な事を言わない!

 ……それとあの薬は霊を彼女の制御可能な量に強制する物だから、もう暫くすれば塔の影響を失っていたサーヴァント達がやってくるわよ」

 

「え?」

 

「じゃ、精々頑張ってちょうだい。私は今から貴方の為にお菓子を焼いて来るわね」

 

 そう言って部屋の外へと消えて行くメディア師匠。

 

 数秒後に、少し遠くから聞こえて近付いて来る複数の足音。

 

 眠ったまま目を覚まさないエリセ。

 

「は、ははは……やっぱりヤンデレ・シャトーは諸行無常だなぁ……」

 

 令呪が反応しない程度に、覇気のない声で俺は呟いた。

 

 “師匠、助けて下さい”……と。

 





今年はバレンタインのピックアップ、カレンを召喚出来ました。
実はバレンタインイベントで召喚出来た最初のサーヴァントになります。だから切大はえっちゃん、セミラミス、かおるっち、なぎこさんを持っていません。(泣)

しかし、カレンは歴史あるキャラなのでしっかり勉強してから書く予定ですので登場はまだ先になります。

Fate/Requiemは未読ですので、ヤンデレ化したとは言え本来のエリセのキャラと余りにもかけ離れているやもしれません。誤字報告や感想で指摘して頂けると幸いです。

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