ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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大変遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!

2021年も、自分のペースでヤンデレを書いていくつもりですので、引き続きご愛読の方、よろしくお願いします。


ヤンデレアーツ周回

 

「……」

 

 ヤンデレ・シャトーの中……にやって来た筈の俺の前に広がっていたのは草が生い茂る広々とした草原だった。

 

「……え、のどか過ぎませんか?」

 

 俺の知ってるヤンデレ・シャトーじゃない。そう思いつつ辺りを見渡すと、こちらにやって来る人影が見えた。

 

「こちらにいたんですね、マスター!」

 

 紺色の帽子と羽織、その下の白いシャツとスカート。何処か学生の様な印象を与える彼女はキャスタークラスのアルトリア・ペンドラゴンだ。

 

 彼女には周回でお世話になっているマスターも多いだろう。俺もそうだし、そういう事情はこの悪夢で反映される事がある。

 

「これから休憩しようと思っていたんです。マスターもご一緒しませんか?」

「休憩……」

 

 俺は距離を取りたくなって少し後ずさったが――

 

「はい。カルデアに来てから毎日毎日とても忙しいですし……」

 

「いえ、マスターの方が大変なのは重々承知していますよ?」

 

「でも、たまには現場に駆り出され続ける私にお付き合いしても良いと思うですよ。そうは思いませんか?」

 

 

 笑顔で痛い所を突いてくる彼女の言葉に、流石に嫌とは言えず渋々首を縦に振った。

 

「じゃあ、あちらに行きましょう! 陽が当たって気持ちいいんですよ」

 

 指差した場所には何もなく、唯々草原だけが広がっていた。

 笑顔のアルトリアに連れられて少し歩いたがやはり何もない。

 

 そんな事は一切気にしていない様子のアルトリアは、その場に座り込んだ。

 

「さあ、隣にどうぞ」

「あ、ああ……」

 

 正直俺はいつ押し倒されるか気が気ではなかったが、取り合えず座った。

 

「……」

 

 彼女が言っていた様に此処は暖かな日差しを浴びながら、風を肌で感じられる。人工物の無い緑と青の穏やかな景色を見ていると、自然と肩から力が抜けた。

 

「はぁ……」

「こうしてると、心地よくて段々眠くなってくるんですよね……」

 

「そうだなぁ……」

 

 陽日だったらもう既に寝てるんだろうか……いや、あいつは何処でも寝てるか。

 

「最近はずっと忙しかったので、こうやって休息出来るのがとても嬉しいです。ね?」

 

 若干こちらを責めている様な言葉に少し体を震わせた。

 

「あ、本当にマスターを非難している訳じゃないんです! ごめんなさい!」

「いや、本当にいつもありがとう……」

 

 苦し紛れなお礼を言うと、アルトリアは頬を赤らめて笑うと、顔をそっと俺の横に預けて来た。

 

「それじゃあ、マスターの腕枕で寝ても良いですか?」

「まあ、それ位なら……」

 

 草の上に寝っ転がって左手を伸ばすと、彼女は自分の頭を俺の二の腕に乗せた。

 

「ふふふ、毎日頑張った甲斐がありました」

 

 すぐ横に自分の腕でサーヴァントが寝ているのに、いつもの緊張感がまるでないのが不思議で仕方ない。本当に、今の状態は安全なのか?

 

 そう思って彼女を見続けていたが、気が付いた時にはアルトリアはすっかり眠っていた。

 

「……う、動けない……っ!」

 

 抜け出そうと藻掻いていると、キャストリアの右手が俺の礼装を掴んだ。脱出はもう不可能だろう。

 

「っ……あぁぁ、もうどうにでもなれ」

 

 早々に諦め、彼女に倣う様に空に向いて瞳を閉じた。

 どうせその内他のサーヴァントが現れて誘拐されるんだから……

 

 

 

 …………おかしい。

 

 アレから暫く経ったが、キャストリアは寝ているだけ。正確には少しずつ顔や体が近付いている気がするが何も起こらない。

 

 もしかして、俺は既に彼女の術中なんじゃ……

 

「……どうかしましたか?」

「え? あ、いや別に」

 

「もしかして、眠れませんか?」

 

 どこからか自分の杖を出現させたアルトリアは、自分達の周りを囲う様に紫がかった白い花を咲かせた。

 

 花々から心地よい香りが放たれ、リラックスしてきたのか力が抜けてくる。

 

「さあ、眠りましょう。瞳を閉じて、楽にして下さい」

「いや、そもそも俺はそんなに眠くないから……っ!?」

 

 瞼が勝手に閉じ始めた。何度も目を開けるが段々閉じている時間の方が長くなっていく。

 

 だけど、それ以外に何か違和感が……

 

「さぁさぁ、お眠り下さい」

 

「……?」

 

 花以外に何か甘い香りを感じた。

 

「貴方様も大変お疲れのご様子」

 

 目の前にいるアルトリアの口調がおかしくなってくる。

 

「どうか、私にその身をお預け下さい」

「さてはお前、殺生院キアラか!?」

 

 叫ぶ様に彼女の正体を口にすると、キャストリアは白い霧と共に消えてその正体を露わにした。

 

「あらあら、バレてしまいました。流石ですねマスター」

「なんでキャストリアに化けて――」

 

 ――彼女はさっと抱き寄せ、口を塞ぐ様に俺の頭を胸に押し付けた。

 

「理由などもはや些末な事。幾度も戦闘に駆り出された私が此処でマスターと共にこの場で眠りに就くのは当然の流れかと」

 

 そんな訳あるか。そう言おうにも、こうなってしまえば彼女の元から逃げるのは難しい。

 

「ああ、先まで同衾していた彼女の事ならご安心下さい。此処から少し離れた場所で今も幻の中で眠っています。

 ふふふ、まさか此処まで積極的な方がいるとは思いませんでしたね」

 

 頭に2本の角を生やし、水色の布に両足を包んだ人魚姿のキアラは腕の力を弱めて俺の顔を見た。

 瞳は鋭く、人魚などでは決してないその圧は獲物を目の前にしたサメすら凌駕しているだろう。

 

「本日は一口に飲み干したりは致しませんので、怖がらなくても良いのですよ?」

 

 ええ? ほんとでござるかぁ?

 とは死なない為にも口に出さないでおこう。

 

「そうですね。これまでの行いを悔い改める意味も込めて今日はマスターの快眠をお助け致しますね」

「いや、もう眠気ないから。めっちゃ目が覚めちゃったから」

 

「ご安心ください。既に貴方は幻の虜。現の眼を閉じられた世界にて、どうぞ心の臓まで溶けて下さい――」

 

 ――キアラの言葉と共に再び目の前の景色が変わり……

 

 

 

 ……目を覚ますと、見知った天井が見えた。

 

 俺の部屋だ。

 

「……あれ、もう目が覚めたのか?」

 

 時計を見ると時刻は朝の7時。いつも起きている時間だ。

 

「うん? ……まあ、いいか」

 

 登校しないといけないし、のんびりしてはいられない。

 ベッドから起き上がると同時に部屋の扉をノックされた。

 

『切大さん、もう起きてますか?』

 

「起きてるよ、キアラさん」

 

 扉の向こうから、此処に住ませてくれている叔母――親戚のキアラさんの声がした。

 

『朝食が出来てますよ』

「今行きます」

 

 簡単に支度だけして部屋を出た俺は食卓に向かった。

 

「おはようございます。さあ、どうぞ召し上がってください」

「いつもありがとうございます。じゃあ、いただきまーす!」

 

 並べられた和の料理達に箸を伸ばし、それぞれをしっかり噛んで堪能した。

 

 その後、支度を済ませて学校へ行こうと玄関を出ると、ポリス姿のキアラさんがバイクの上にまたがりながら俺にヘルメットを投げて来た。

 

「送ります。遠慮せず私の後ろに乗って下さい」

 

 普段から遠慮している俺をキアラさんは半ば強引に座らさせた。

 

「落ちない様にしっかり抱き締めて……ふふふ」

 

 警官の制服……の筈なのに、水着の様に薄い生地の上から触っても温かい感触にドキドキしてしまう。

 

「さあ、行きましょう」

 

 そんな俺の事を気にも留めず、キアラさんは出発した。

 

 2人乗りのバイク登校……では流石に浮いてしまうので、人気の少ない道を通って学校の近くで降ろしてくれるのが日課だ。

 

「この辺りで良いかしら?」

「ありがとうございます」

 

「真面目ですね。私と切大さんは家族ですから、もっと頼ってくれても良いのですよ」

 

 そう言って俺を強く抱きしめるキアラさん。

 胸が当たるし、甘い香水の香りが移ってしまうが毎日こうしているのでもう慣れた。

 

「ふふふ、いつも顔が赤くなりますね?」

「いや、その……」

 

「あらあら、こんなに大きくして……苦しくはありませんか?」

「もう行きます!」

 

 優しいキアラさんが偶に見せる妖しい雰囲気を感じ取り、俺は慌てて彼女から離れた。

 

「あぁ……まだ早かったかしら?」

 

 最後に何か聞こえた気がしたが、走り去っていた俺にその声は聞こえなかった。

 

「や、ヤバかった……あんなに色気ムンムンなのにスキンシップまで過激だからな……本当にその内一線超えそうで怖ぇ……」

 

 到着する前から疲れてしまったが、何とか校門を潜れた俺は教室に向かった。

 

「……いや、でもなんかおかしいよな?」

 

 キアラさんとのやり取りがグルグルと頭の中を駆け巡っていたが、不意にそれに違和感を覚えた。

 

 最近、誰か……キアラさん以外の誰かに起こされたり、一緒に登校していた様な……学校にだって、確か声をかけてくる友達がいた様な……

 

「……なんか、変だ」

 

 答えの見えない問いを頭に巡らせている内に、教室の前までやって来た。

 

「……あれ?」

 

 扉を開けようと手を伸ばした所で、窓から見える室内がいつもと違う事に気が付いた。

 

 教室に既に誰かいる……のは良いにしても、明らかに机の数がおかしい。教壇の前に1つしかない。

 

「……俺のクラスだよな?」

 

 扉を開けて中に入るが、やはり机は1つしかない。

 そして、既に入っていた人は金の髪に褐色肌、そして黒いドレスの様な衣装で――

 

「――遅いわ!!」

 

 

 

 突然響いた怒鳴り声によって、俺は正しい景色を取り戻した。緑が続く草原に、俺とヴリトラ、少し離れた場所にキアラが立っていた。

 

「遅い、遅いぞマスター! わえは貴様の行動の全てを観て心待ちにしておったと言うのに、何をぼんやりしておる!?」

「え、あ、えっと……? なんで、ヴリトラが?」

 

 もの凄い形相で目の前で騒ぎ立てているサーヴァントは、ランサーのヴリトラ。

 

 インドの神と何度も戦った邪竜で、川の水を塞き止める等の悪行で人々を苦しめていたが、人々が苦難を乗り越えて進化する姿を待ち望む必要悪であり観客でもある。

 

「あらあら、私の幻はこれからでしたのに……」

「つまらんつまらんつまらーん! 非常に不愉快じゃ! やはり複製とはいえ貴様の様な獣の力を借りるのは間違いじゃ!」

 

 ヴリトラは隣にいたキアラに槍を突き刺すと、直ぐにその体は霧散した。

 

「はぁ……マスター、貴様には少々がっかりじゃ。色に対する耐性が無さ過ぎる」

 

 突然駄目出しされ、彼女の背後にあった槍は空中を飛ぶと、俺の四方に突き刺さり檻の様に取り囲んだ。

 

「わえを周回とやらに付き合わせておきながら、危機を乗り越えようとする気概も見せんとは……このままでは、わえの力は貸してやらぬ」

 

 それは困る。

 ダブルキャストリアシステムの適正サーヴァントを失うと、これから先のイベントが……!

 

「き、ひ、ひ……わえの様な蛇にその様な顔を向ける人間は恐らくマスターが初めてじゃろうな? やはりわえの力に毒されて、虜になっていおるのか?」

 

「……いや、でも冷静に考えたら今までのクイックパでも全然――」

 

「――おー、そうかそうか! そろそろ食べ頃じゃったか!」

「すいません」

 

 五本目の槍を取り出されて、直ぐに土下座した。

 

「はー……駄目じゃ。とても食べる気などせん……」

 

 俺としてはそっちの方がありがたいんだけど。

 

「よってわえはマスター、貴様をより強く、より香ばしくする!」

 

 目を見開き言い放ったヴリトラ。それと同時に空は曇りだし、草原は凍てついた。

 

「これって……!」

「わえの力でこの辺り一帯の自然を塞き止めた。同時に、この空間の進みすら、な」

 

 ヴリトラは懐から、目覚まし時計を取り出した。

 それは俺が普段部屋に置いて使っている時計だ。

 

 だが、数年間使って故障していなかった筈の時計の針は止まっていた。

 

「これで夢から目覚める事は無い。わえが止めたこの空間をどうにかしない限りはのう」

 

 彼女はそれだけ言い残して、飛び去ってしまった。

 

「いや、ちょっと待て!?」

 

 なんの説明もされないままいなくなり、説明が欲しいと嘆くがもう遅い。

 

「この空間、確か核を見つけた上でサンタカルナのパンチで壊していたよな……無理じゃね?」

 

 そんな俺の弱音が聞こえたのか、頬を何かが掠った。

 触ってみると、僅かに血が流れている。

 

「……え?」

 

 風だ。風に攫われた凍り付いた草が、刃の様に俺の頬を切り裂いたのだ。

 

「う……! と、兎に角急ぐしかないか!」

 

 

 

「き、ひ、ひ……走っておる走っておる」

 

 ヴリトラは凍てついた大地に玉座を作り座っていた。目の前には魔術の目に映るマスターの姿があった。

 

「生命の危険を感じ、必死に足掻く様こそ人間の最も尊い姿よ。限界を超えて望め、マスター」

 

 そしてヴリトラはその瞳を一度、遠くへ向けた。

 

「わえと同一の存在の多くは己のマスターに嘆いておったようじゃが……力づくで閉鎖空間を破ったり、危険を寝返りで回避され眠り続けられてこの光景が見えんのではなぁ」

 

 今一度刃に怯えて慌てて回避するマスターを見て微笑んだ。

 

 ヤンデレ・シャトーの中であっても自身の一番尊いと思う物を想い人に求めるヴリトラは、はたから見れば大した変化が無いように思える。

 

 だが、聖杯の力が無い事を言い訳に空間の核を自分自身にして己を求めさせ様としているのは彼女が並々ならぬ執着をマスターに持っている事に他ならない。

 

「ん? 動きが止まったな。だが、そこからではまだ遠か――」

 

『――令呪を持って命ずる! 此処から出してくれ!』

 

 赤い魔力の輝きを見たヴリトラ。その瞬間に彼女の体はその場を離れ、マスターの元へと移動した。

 

「……むぅ、塞き止めたとはいえ空間内部にいるわえには令呪の効果があるのか。要改良じゃな」

「ヴ、ヴリトラ……」

 

「何を怯えておる? 人間の貴様が考え付いた手段である以上、それを防げなかったわれの負け。今回は見逃してやろう」

 

 塞き止められた空間は動き出すと共に崩壊を始めた。目覚めの時だ。

 

「次は令呪も塞き止めておこう。それまで、しっかり備えておくのじゃな。

 き、ひ、ひ……!」

 

 

 

 

 

「……? マスター?」

 

 平原で一人寝ていたアルトリア・キャスターが目覚めると、先まで隣にいた筈のマスターはいなくなっていた。

 

「……これは、獣の気配。それに竜……カルデアに新しく来たサーヴァントですか」

 

 最近任務を共にする事の多かったサーヴァント達の顔を思い出し、アルトリアは苦い顔をした。

 

「折角マスターを閉じ込めたのに……あの2人、何度も私の宝具で受けたから解析して何らかの手段で干渉してきましたね」

 

 状況から冷静に状況を理解したアルトリアは、静かに杖を握った。

 

「このまま誰にも侵入されない私の世界に閉じ込めて、静かな時を過ごしてほしかったのですが……水を差す輩が思ったよりも多いんですね。

 マスターはこれからも世界を救う旅路を続けるのに、獣や竜に日常すら奪われるなんて……気の毒ですね」

 

 ずっとそんなサーヴァント達を支援し続ける最近の自分の立場に、彼女は怒りを覚えた。

 

 そして確かに決意した。

 

「……次はちゃんと、誰の手も届かない場所で私の想いを、マスターに届けましょう」

 

 




新年最初のヤンデレ・シャトーはWキャストリアシステムで周回しているマスターを閉じ込めて惑わせて塞き止める3連コンボでした。

いきなり執筆が遅れてしまいましたが、これからも変わらずヤンデレサーヴァントを書いてFGOを楽しんでいこうと思います。




さて、今からアークナイツでも……

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