ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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自分の誕生日に因んで執筆を始めた今回の話でしたが、滅茶苦茶遅くなってしまい申し訳ありません。

企画が終わって気が抜けていますが、引き続き執筆配信等も行ってペースを整えたいと思ってます。



※今回はオリジナル清姫が出てきます。苦手な方はご注意下さい。


誕生日ヤンデレ

 ヤンデレ・シャトーは恐ろしい悪夢。

 サーヴァント達に絶えず迫れ、追いかけられる監獄塔。

 

 そんなシャトーには年に1度、もっとも恐ろしい日がある。

 

「……寝ない……絶対寝ないぞ」

 

 俺は腕を組みながらパソコンの前に確固たる決意で座っていた。

 

 時刻は23時57分。

 明日、つまり3分後に迎えるのは俺の誕生日。

 

「――っ絶対に……シャトーに行くわけにはいかない……!」

 

 運よく、本当に運よく前年の同じ日を生き残った俺は迫る睡魔に怯えていた。

 

 目を瞑れば思い出せる。あの恐ろしき日の出来事を――

 

「――って、寝るな!」

 

 危ない危ない。危うく瞼がくっついたままになる所だった。

 

「……はぁ、眠ぃ……けど眠ったら……あの夢が」

 

 何かアニメでも見て時間を起きていよう。

 今日はどんなアニメが放送されているんだっけ……

 

「マスター」

「っ!?」

 

 おっと……慣れない徹夜で幻聴が聞こえてきてしまったか。いかんいかん、ちょっと珈琲でも飲んで気合を――

 

 ――マグカップを取り損ねた。そう思って視線を動かす。

 

「夜更かしは、お体に悪いですよ?」

 

こちらを覗き込む清姫の瞳と、交わってしまった。

 

 

 

「誕生日おめでとう、マスター!」

「おめでとう」

「おめでとう」

 

 嫌になる程楽しそうな声と心が全く込められていなさそうな男女2人の声。

 

「いやー、全然こっち来てくれなかったからお迎えを出さなきゃいけなくなったぜ」

「アンリ・マユ……サリエリにゴルゴーンまで」

 

「まだまだ100回目には程遠いんだが、誕生日は俺達召喚されてるアヴェンジャー組がこの塔でプレゼントをする決まりだから……って事くらいは覚えてるよな?」

 

「またかよ」

「……では、受け取ってもらおう」

「ふん、何故こんな茶番に付き合わねばならぬのか」

 

 悪態を吐くなら是非その人が入ってそうな大きさの箱を持ち帰ってほしいんだけど……

 

「んじゃあ、例年通りこいつの開封は塔に着いてからでお願いするぜ?」

「いや、だから返品で――」

 

 俺の悪態より先にアヴェンジャー共はその姿を消した。

 

 残されたのは俺と、前後左右に激しく震え続けて存在を主張している3つの箱。

 白い箱にそれぞれ違う色のリボンが巻かれている。

 

「開けないと、後でどんな目に合うか……」

 

 溜め息を吐きつつ、右手、左手、そして口でリボンの先端を掴み、同時に開ける事にした。

 ヤンデレ相手に1人ずつなんて事はやっていられないのだ。

 

 歯と両手に力を込めて――

 

「――せぇーのっ!」

 

 リボンを引っ張ると同時に、3つの箱が開き同時に紙吹雪が吹き出した。

 

『マスター、お誕生日おめでとうございます!』

 

「…あー、どうも……」

 

 一応説明しておくと、左の箱から出て来たのは緑がかった水色の長い髪のサーヴァント、清姫だ。

 中央の箱から出て来たのは、その特徴的な2本角の様な装飾を頭の左右両側面に着けたサーヴァント、清姫だ。

 一番右の箱からは、月の様な黄色い瞳が光なくこちらを見つめているサーヴァント、清姫。

 

 はい、つまり清姫が3人。来るぞ。来ないで。

 

 その内の1人、後ろ髪を1つの束に絞ったポニーテールで紅葉柄の清姫が俺のすぐ目の前にやって来た。

 

「お久しぶりですマスター。私はアサシンの清姫です。覚えていらっしゃいますよね?」

 

「は、はい勿論覚えて――」

 

 ――正面の彼女を左へと押しやりながら、別の清姫がこちらにやって来た。

 その姿は今まで見た事がなく、恐らくまた勝手に生み出されてしまった別のクラスの清姫なんだろう。

 

「初めまして旦那様。私、フォーリナーの清姫です」

「え? ふぉ、フォーリナークラス……?」

 

 また突拍子もない事を言い出されてしまったが、白い服と赤色の袴の巫女姿である事は確かにクラス的な側面では一致する。

 

「はい。フォーリナーです。嘘は嫌いですので、勿論一切嘘は吐いておりません。異界からやってきた、貴方の許嫁です」

「え、えぇ……?」

「私の霊基に在る神の名を教えてもいいのですが……旦那様が発狂してしまう可能性が無きにしもあらずですので今は控えましょう」

 

「私はムーンキャンサーのKHちゃんでーす!」

 

 1人だけテンションが高いうえに突然俺の頭上に現れ両手で首を真上に向けて来ると言うサプライズ性の高い自己紹介をした清姫は和風の花嫁衣裳、それも黒単色の物を着ており、その頭も同じ色の被りもの“綿帽子”で覆っている。

 

「じょ、情報量が多すぎて付いていけてないんだけど……!」

 

「大丈夫ですか、マスター? 貴方にとって一番馴染みのある私を見て気分を落ち着かせて下さい」

 

「さあ、後は契りを交わすだけで私と貴方だけの世界が完成します」

 

「駄目ですよ? この方の妻は私と決まっていますから」

 

 軽く頭を振って一旦周りを見渡すと、明かりの少ない監獄塔の廊下に扉を1つだけ見つけた。

 

「と、取り合えずあの部屋に入ろう。話はそこでゆっくり聞くから」

 

「仕方ありませんね」

「旦那様がそうおっしゃるなら」

「私の旦那様が、言ってますからね」

 

 今の所は派手に争う様子の無い3人の清姫だが、アサシン清姫は実は今までの清姫未実装組の中で一番ヤバい奴だし、フォーリナーもムーンキャンサーも間違いなく厄ネタだ。

 

 だから此処は何とかして3人の仲をとり持ってやらないと――

 

「――マスター!」

 

 開いた扉の中から、複数のクラッカーが同時に鳴らされ同じ声が同時に響いた。

 

『誕生日、おめでとうございまーす!』

 

 其処に居たのは清姫、水着清姫、アーチャークラスの女将清姫、セイバークラスの新婚清姫。

 

(あ。これは、もう駄目、な奴……)

 

 一度に送られてきた大量の清姫の情報に脳が追い付けず、なんなら理解の門はこれ以上の侵入は認められないと意識ごと閉じてしまった。

 

 平たく言えば――気絶したのだ。俺は。

 

 

 

「……旦那様」

「……」

 

 ぼんやりとしたままの頭は聞こえて来た声にゆっくりと顔を向けた。

 

 其処に居たのは巫女服姿のフォーリナー清姫1人だけ。

 

「すいません、旦那様。二人だけでお話ししたかったので、お困りだった旦那様の脳に少々負荷を……」

「……え?」

 

 そう言われて気付いた。そもそも現実ならあんな事で気を失ったりしないし、夢の中だとしてもこの程度で気絶する程やわな悪夢は見ていない。

 

 もっとも、それに気付いた所で既に彼女のフィールドに連れて行かれてしまった訳だが。

 

「此処でお会いしたのは初めてでしたので、改めて私達の間に結ばれた契約に関して説明させてください」

「結ぶ事は前提なのか?」

「当然です」

 

 普通の清姫と異なり、一切変化の無い微笑みをし続ける彼女からは少し異界的な恐怖を感じるがそれでも好意自体は本物な様で俺の手を掴む両手は優しい。

 

「旦那様を異界に連れて行かない事、地球の領域を侵さない事、これらの条件を守る為に私はマスターのサーヴァントとして仕え、この星を守る英霊としての霊基を確立させました。勿論、何よりも優先して御守りするのは旦那様です。

 その時、もっともマスターの理想に近い存在であったサーヴァント清姫の体をコピーしたのです」

 

 その設定で実装されるなら本来は俺の好みじゃなくてぐだ男の好みの筈だから、マシュの姿だったんだろうな。

 

「そして手に入れたこのお姿で、マスターのご両親の元をお尋ねしました」

「あれ? 俺の両親ってどうやって会ったの?」

 

 勿論、俺の両親=現実の両親ではなく、ぐだ男もとい藤丸家の両親と言う事だろう。だけど、世界が焼却されていたり、漂白化されている筈なのにどうやって両親に会えたのだろう。

 

「勿論、御家で、です」

 

 少し含みのある笑みを浮かべる彼女に若干の恐怖を感じた。

 

「そこで私のご両親と意気投合しまして、私がマスターの許嫁になる事を認めて下さったのです」

「へぇ……」

 

「知りたいですか?」

「何を?」

「お聞きになりますか?」

「だから何を――」

「――私と両親が訪問した、家の名前」

 

 ……それはつまり、もしかしたらぐだ男の家じゃなくて本当に俺の家に来て――

 

 ――いや、ないない……ないよね? ちょっと電話して確かめてもいい?

 

「……言わないでおきましょう」

 

 そう言ってこちらに寄り添い、胸を腕に押し付けてくるフォリ姫。(今思いついた略称)

 巫女服の下は何も履いていないのがその感触と温度で分かるのはエッチ過ぎるのでは……!?

 

「ですが……今日は随分清姫が多かったですね」

「もしかして、怒ってる?」

「はい。ですが心配は無用です。嫉妬せず、怒らないのが旦那様の理想ですので私が怒りに駆られた際は攻撃的な機能が動かなくなる様になっています」

 

 どうやらその言葉は本当らしく、俺を掴んでいた手から握力が無くなっている。今なら少し力を込めれば簡単に抜け出せるだろう。

 

 そう思った俺は実際に手を自分の元に戻した。

 

「あ……」

「え?」

 

 しかし、それと同時に彼女の手から突然鎖が離れた右手首に巻き付き、そのまま手錠へ変化した。

 

「……攻撃的な機能は停止しますが寂しさを感じると、捕縛機能が使用可能になりますので」

 

 なんて面倒で便利な能力なんだ。

 

「その、外したいのであれば私の心を満たして下さい。

 一度付けてしまうと、自分で外すのは無理なんです」

「心を満たせって、まさか……」

「……はい。その、この星の恋人らしい行為で……」

 

 その言葉を聞いて体は固まった。幾ら夢の中の夢とは言えそれをするのは憚れ――

 

「――えいや! 清姫、一夫多妻斬り!」

 

 そんな声と共に頭上からやって来た別の清姫によって、俺達を繋いでいた鎖は薙刀で切断された。

 

「ムーンキャンサーの清姫っ!?」

「なんとか侵入出来ました。マスターの中は私だけのモノですのに……即刻この夢から出て行って下さい」

 

 俺を庇う様にフォリ姫へ向き直るキャン姫。薙刀はいつの間にか消えている。

 

「私、猛烈に怒ってますの。まさか清姫を名乗る者があんな嘘を吐くだなんて」

「嘘?」

「私は嘘なんて吐いていません」

 

「では、今の手錠は何ですか? 外せないのは間違いないでしょうが、貴方ならマスターを傷付けずに破壊する事は容易な事だった筈です」

 

「外せないと言ったのですから、嘘ではありません」

 

「いいえ。マスターの問いには何も包み隠さず話してこそ清姫です。

 握りしめた花を問われればどんな意味があるのかを語り、完成した料理の隠し味を問われれば分かり易く薬の効能を解説するのが清姫というサーヴァント。貴方は清姫として間違いなく不合格。不快ですので消えて下さい(はぁと)」

 

 言葉の最後に笑みを浮かべながらも、水着清姫の薙刀からセイバー清姫の使う包丁に持ち替えたのが怖過ぎる。

 

「……分かりました」

 

「そうですそうです。分かれば――」

 

「――霊基情報修正……感情による機能停止を削除――」

 

「あ、これヤバい奴だ」

 

 突然俯いたまま機械的な呟きを始めたフォリ姫の言葉を聞いて察してしまった。数年前のPCのバージョン10並みに要らんアップデートが始まってしまった気が……

 

「これで私とマスターだけになりましたね?」

「その気付きも要らない!」

 

 慌ててその場から逃れようと走り出したが当然上から鐘が降って来た。

 

「っおわぁ!?」

「マスター? この花嫁衣裳で鬼ごっこなんてあまりしたくありませんので、お逃げになるのであれば……覚悟して下さいね?」

 

 一切嘘の無い台詞。

 恐らくムーンキャンサーになったせいで俺への気遣いとかが欠如しているんだろう。元々そんな物を清姫が持ち合わせていたかは別として。

 

 足を止めていた俺の上から更に鐘が降ってきた。

 

「っげ!? ちょ、なんでまだ落ちて来て!?」

「止めて欲しいですか? ならこちらに戻ってきて下さーい」

 

 そう言って降りやまない鐘の影に怯えつつ、一目散にキャン姫の元に戻って来た。既にあの小悪魔的な後輩並みに俺の事を振り回している。

 

「もう、勝手にいなくなっては駄目ですよマスター?」

「た、大して離れもさせなかっただろ……」

「お疲れになってしまわれたのですか? 布団をご用意しますね」

 

 自然な流れで何もない所から2人分の布団を用意して、先に座るとポンポンと自分の隣へと誘ってくる。

 

「さあ」

 

 言葉と共に俺の頭上には既に無数の鐘が落下の時を今か今かと待ち構えている。

 

「い、今行きます……」

 

 渋々、というか命の危険しかなかったので彼女の誘いに乗ってやるしかなかった。

 

「ふふふ、さあ寝て下さい。こちらに寝顔を向けて下さい。抱き締めて下さい。囁ていて下さい」

「待った待った! 要求が多い!」

「そんな事言わないで下さいまし。要望ならもっともっとありますから」

 

 就寝1つにどんだけリクエストしてくる気なんだ。

 

「おやすみのキス……は当然最後ですが、夫婦の営みの最中にも私無数の要望が御座います! 体位とか――」

「――はいストップ」

 

 このキャン姫、普段の清姫の持つ慎ましさは何処へやら、完全に自分の好みをこちらに押し付けて来る……!

 

「止めません! 月の力を手に入れて私、悟りました! 私に足りないのは子供らしい愛らしさだったのです! 無理に大人っぽく振る舞ってもマスターが私を子供だと思っているのであれば、私は正直に、我が儘を言います!」

 

 BBちゃんの要素が面倒なまでに清姫の性格を歪めている……!

 

「って、まさかBBちゃんを食べたのか!?」

「食べてません!」

「じゃあアレだな! 宝具やBBちゃんの聖杯とかっ!?」

 

 だからもう1人だけ勝手に花嫁衣裳で着飾っていたんだ。

 

「っう……そ、それは確かに……怪しげな聖杯があったので、マスターからのプレゼントかと思って中身を飲み干してしまったりはしましたけど……」

「やっぱりか!」

「で、ですが! どう変化しても私は清姫です!

 ……それとも、このお姿の私は嫌いですか?」

 

 そりゃあ、黒い花嫁衣裳の清姫が可愛くない訳ないが……

 

「……嫌いではない、つまり好きと言う事ですね!」

「極端! あ、ちょっと待て覆いかぶさるな!」

「えへへ、今の私は我が儘なのでマスターの言葉に聞く耳をお持ちしませーん」

 

 く、こうなったら【瞬間強化】で……って、此処夢の中の夢だから使えないっ!?

 

「く、や、やめろー!」

 

 彼女の両手を掴んで苦し紛れに思いっきり上に持ち上げると――思いの他、すんなりと上がった。

 

「……え、あれ?」

「……??」

 

 何か俺だけじゃなくキャン姫自身まで困惑してるんだけ……まさか。

 

(清姫、ムーンキャンサー……パラメーター全部EX!?)

 

 FateのパラメーターEXとは測定不可能と言う意味だ。それは通常のランク単位と比較しても大き過ぎる場合や、逆に少なすぎる場合もある。

 

「これは……変な霊基になったせいで筋力がEランクより下になったんじゃ……」

「で、電子機器とか、演算処理とは縁がなく……」

 

 BB寄りのムーンキャンサークラスの適性が無さ過ぎて敏捷も筋力も一般人程度になってる。

 

「よし、ならこのまま!」

「きゃっ!?」

 

 俺は清姫を担いだ。12歳の清姫ならおんぶすれば全然余裕だった。

 

「目が覚めるまで走るぞ!」

「ど~ゆ~こ~と~で~す~か~!?」

 

 俺にとっての脅威はキャン姫だけじゃない。

 あそこで今もひと昔のパソコンの様に更新データを読み込んでいるフォリ姫。時間が経てば動き出して俺が被害を被るのは想像に難しくない。

 

「どうやったら目が覚めるんだ!?」

「わ、分かりません! だから、降ろして……もしやこれって、愛の逃避行!?」

 

 そんな事で頬を赤らめないで……って!

 

「――更新完了。清姫の定義を修正しました」

「なんで上から普通に降臨してんの!?」

 

「それは私が□□□だからです」

 

 ……え? □□□?

 

 彼女の発した冒涜的な名称に、俺は思わず戦慄した。

 

「っいけませんマスター! 耳を――」

「私は□□から来ました。□□はとても広い場所で……」

 

 清姫と言うサーヴァントを理解した彼女は、自分の出身や俺の許嫁になった理由まで事細かに、一切の偽りも誤魔化しもなく淡々と。

 

 もっともその名称や単語の数々は、平凡な人間の俺が耐えられる様な物ではない冒涜的な情報の数々だった。耳を塞いでも聞こえ、目を閉じても己の詳細を一切隠す事なく明かして来るムーンキャンサーの様な視界ジャック能力もそれを後押しした。

 

 嫌なアイデアが刺激されて、擦り切れて精神も身体機能も不安定になっていた俺に彼女は最後に包まれていたベール……彼女の正体を、露わにした。

 

 もっとも……それがどんな姿だった、正気度が無くなった俺に語る事など到底出来ない訳だが。

 

 

 

 

 

「――っは!?」

 

「マスター、お目覚めになりましたか?」

「……うん? ああ……まだ続いてるのかこの悪夢」

 

「いえ! 悪夢の元凶はしっかりとこの通りです!」

 

『むぅ~! 出して下さいまし!』

『霊基情報修正……情報の開示を制限……』

 

 横に置いてあった鐘の中から2人の清姫の声が聞こえて来た。

 どうやら夢の外で他の清姫が拘束してくれた様……いや、待て。

 

「……アサシン清姫」

「はい?」

「他の清姫は?」

 

「他の清姫なんていませんよ?」

 

 首を傾げながら言ったその言葉通り、周りには他の清姫が一切いない。

 

「だって、私はあんなに沢山要りませんよね? マスターにもきっと不要な重荷になってしまわれるかと」

「いや、だけど」

 

「それに、私はマスターへの愛そのものなのですから私だけがいればそれでいいでしょう?」

 

 アサシン清姫、確かこいつは単にアサシンと言うだけでなく、ジャック・ザ・リッパーの様な意思の集合体で愛憎の化身だとも言っていた。

 

 つまり、先の夢でなんちゃってムーンキャンサーやフォーリナーの相手をしていた時より危険な状況に置かれてしまっていると言う訳だ。

 

「――っ!?」

 

 俺の右手のすぐ前にクナイの様な刃物が投げられ、部屋床の畳みに刺さった。これは勿論、威嚇だ。

 

「令呪を使いますか?」

「それより先に、俺の手を切るつもりか?」

「必要とあれば、です。勿論、したいとは微塵も思っておりません」

 

 心からの言葉だ。切りたいとは思ってないが、令呪を使って助けを呼べば彼女は間違いなくその前に俺の手を切断するだろう。

 

「マスターは今のままがもっとも美しいです。ですから、私にそれを損なわせないでくださいまし。他の女なんて、忘れてしまいましょう?」

 

 彼女はフォリ姫達が入っているであろう鐘に炎を吐いた。

 

「……改めまして、生誕おめでとうございます。

 さあ、今宵も私の愛をお受け取り下さい」

 

 俺の目の前に両手を置き、顔を近づける彼女の顔には少しの汗が流れており赤い頬を見ればその熱が内側から発せられているのは直ぐに分かった。

 

 短い間隔で響き続けている呼吸は激しく、その勢いのままなら食い殺されてもおかしくはない。

 

 ――しかし、突然部屋の中で青白い光が強く輝いた。

 

「……三度目の正直です」

「あらあら、再召喚ですか」

 

 何もなかった部屋に4人の清姫が召喚された。その全員が宝具を構えており、臨戦状態になった。

 

「これ以上、マスターを独り占めさせません!」

 

「私達は清姫。なら、この中の誰か1人がマスターの妻になればそれで良いでしょう?

 例え、マスターの隣に立っているのが今並んでいる他の清姫だったとしても私達は同じく争うのですから」

 

「ですが、私達清姫に遠慮や妥協等ありません。自分に嘘を吐ける者は誰一人としていません」

 

「真実は一つ。正妻の座も1つ」

 

 因みに、ランサーの清姫はマイルームで自分とバーサーカーの清姫で2倍愛せると発言していたんだが……多分、ヤンデレ・シャトーだと自分と分かち合うのすら困難になっているのだろう。

 

 そして、このままだとこの部屋全てが炎上フィールドになるのは時間の問題だった。

 そうなる前に、アサシン清姫の警戒が薄まった事に気付いた俺は令呪を起動させる事にした。

 

 だけど、この場を納めるには3画使って全員を抑える必要がある。

 普段行使している制止程度の簡単な命令で10分間止めるだけでは埒が明かない。

 

「令呪を持って全清姫に命ずる――」

 

 だから俺は今日と言う日の特権を使う事にした。

 

「――俺の誕生日を、祝え!!」

 

 

 

 

 

 俺の行使した令呪の効果により、清姫達はそれは素晴らしいパーティーを用意してくれた。

 その中には問題児のフォリ姫、キャン姫、アサシン清姫の3人も含まれている。

 

 勿論、令呪の強制力もあるのだろうが彼女達は自分達が俺のサーヴァントである事やその契約を嘘にしないと言う意識の元、祝いの席を設けてくれたのだ。

 

「完成しました!」

「大変美味なおでんです!」

「祝いの場に相応しい空間をご用意しました」

「その……ささやかで、気取らない物ですけど」

「私の愛を、これでもかと込めてお祝いいたします」

「この星の祝い方はインストール済みです、ご安心下さい」

「マスターを骨抜きにして差し上げますね?」

 

 ……各自で。

 

「さぁマスター。どうぞお選び下さい」

「……選べって、何を?」

 

 この塔の中でどうやって用意したかは定かではないが、目の前には5つ、左右に1つずつの計7つの襖が開いていた。

 

「マスターが最初に入ったお部屋でマスターをお祝いします」

「ほう」

「選ばれなかった残りの清姫達が全員一斉に転身してこの塔を燃やし尽くします」

 

 随分手の込んだ自殺ですね。

 

 どう転んでもこの夢を爆発オチにする気か。

 

「…………」

 

「さあ、お選び下さい」

 

 ……じゃあ、俺は――




誕生日に好きなサーヴァントの別クラス(ヤンデレ)が貰えるって概念で特異点作れそうですね。(保管された聖杯を持ち出しながら)

因みに作者はマタ・ハリの幸せな姿がみたいので水着を希望します。後アヴェンジャークラスのブーディカさんに最も信頼を置ける仲間みたいな立ち位置でなでなでされたいです。(複数の聖杯を砕いて1つにしながら)

今回のイベントに関しまして、キャプテンの召喚に成功しました。
基本男性サーヴァントは登場させないんですがネモシリーズに関して、シャトー登場を認めるかは脳内最高裁判所の判決待ちとなっています。(ホームズに阻止されダ・ヴィンチちゃんに説教されながら)

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