ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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お米食べろよ! 
食べ過ぎなスラッシュです。

FGOはぐだぐだイベント開催中ですが、こちらはハロウィンの続きです。

EX-sはフルアーマー さん、第二仮面ライダー さん、陣代高校用務員見習い さん、ジュピター さんの4名の話です。
どうぞ。


ハロウィンの幕間(2/X) 【100万文字突破記念企画】

4.誠・オブ・ザ・デッド (切華)

 

「マスター!」

 

 ヤンデレ・シャトーに入れる様になってから、私は彼女の縮地を盗んだ影響か度々沖田さんに求められ襲われる様になった。

 

「御用改めです! 斬り伏せてでも私の物にしますからね、マスター!」

 

 玲との戦いの為に技を完成させたいし、彼女に好き放題にされたくはなかったので常に応戦し、刀を交えていた。

 

「――無明三段突き!」

「っぐ、な、んの!」

 

 技を盗んだと言っても本家である彼女と比べれば程遠かったけど、戦いが長引けば発動してしまう彼女の病弱スキルと日々上達する力でなんとか彼女を退ける事に成功していた。

 だから今日も私は何か疑問に思う事無く、夢の中で彼女と対峙するんだろうなと思っていたんだけど……

 

「……お、沖田さん?」

 

 今日の彼女は会った時から既に血を流していた。

 

 新選組羽織を着た姿だけど、黒く変色した肌に輝きの無い瞳、そして口だけでなく右腕や横腹からも赤い血が滴っている。

 

「ま、ますた……きて、くれたん、ですね……」

「え、あ……きょ、今日がハロウィンだから、そんな恰好なの?」

 

「はい……そーですよ?

 沖田さん……今日も、勝負しましょう……? こふぅっ……!」

 

 明らかに普段より体調の悪そうなのは心配だけど、沖田さんは手加減して戦える様なサーヴァントじゃない。刀に手を掛けられた以上、私も抜いて応戦する以外の答えは無かった。

 

「いきます、よ!」

 

 普段通り、一気に距離を詰めて攻撃を仕掛けて来る。此処から彼女が隙を見せるまで、防戦を強いられるのがいつも流れ。けれど、いつまでもそんな戦法に頼っている私じゃない。

 

「……! そこ!」

 

 紙一重で躱してからのカウンター。けれど、速度が足りな――

 

「こふっ……う!? 」

 

 ――彼女の左手が、宙を舞った。

 

「え?」

「油断、しちゃ……駄目ですよ?」

 

 その光景に目を奪われるも、構わず攻撃を続ける彼女になんとか反射で対応する。

 

「お、沖田さん!? 流石に、模擬戦にしては度が過ぎてない!? いつもなら、斬られても動けなくなるだけなのに!?」

「戦場で、相手の事を考えるなんて馬鹿のする事ですよ……?」

 

 そう言ったけど、明らかにバランスを失いまともに動けてない彼女の動きは隙だらけで、二度目の斬撃を浴びせるのは簡単だった。

 

「っぐ……!?」

 

 切り裂かれた腹を抑えながら、血塗れのまま倒れる沖田さん。

 

「ね、ねぇ? 今日は此処までにしておかない? 沖田さん明らかに変だよ?」

「そんな事、ありませんよ……沖田さんは、だいじょーぶです……」

 

 フラフラと立ち上がり彼女の心配をするけど意に介さず刀を杖の様に使って立ち上がると流血は既に止まっており、また吐血した。

 

「……沖田さん!」

 

 また倒れてしまいそうな彼女を見ていられず、私は彼女の体を支えた。

 

「無理しないで……っ!」

 

 その瞬間、鋭い痛みが私の腹を刺した。

 痛みが引いていくと同時に私の体から力が抜け、すぐに動けなくなる。

 

「ど、どうし……!?」

 

 何故私を刺したのかと沖田さんを見ると、彼女の胸の中央から刀が飛び出していた。

 

 その後ろには――同じ、沖田さんがいた。

 

「……一本……沖田さん、大しょーり」

「これって、まるで、ゾンビ……!」

 

 その姿から察したけど、どうやら見た目だけではなく本当にゾンビみたいに増えた見たいだ。

 

「あ……邪魔ですよ、私。

 刀が……抜けない……です!」

 

「あ、っぐ……!」

 

 乱暴に刀を引き抜かれ、細かな肉片を飛び散らせながら2人目の沖田さんは私に近付いて来る。

 

「……っはぁ!」

 

 しかし、彼女が触れるより先に力を取り戻して、腹部を一閃した。

 

「……そうだ、ゾンビなら頭を――!?」

 

 思いついた方法を実行するより先に、私は嫌な事実を見てしまった。

 

 倒れていた沖田さんが立ち上がり、その後ろから更に3人も現れていた。

 

「ど、どうして……!?」

「今の沖田さんはぁ」

 

 斬ったばかりの沖田さんの説明を尻目に、迫ってくるゾンビ沖田さん達に応戦する。

 

「水着の私のジェットが事故で聖杯の泥を浴びた結果」

 

「このっ!」

 

「不死の体を手に入れました」

 

 斬れば普段通りヤンデレ・シャトーの効果で動きは止まる。

 動きも遅いし、覇気もない。

 

 けど――何故か数が増えていく!

 

「朽ちては再生する不死ですので……霊基の一部分を切除されるとそこから更に――」

「マスター」

「マスター……」

「マスター」

「マスター……」

「マスター」

 

『マスター……!』

 

 私はゾンビなんて架空の存在に恐怖する程乙女じゃない。

 けど、この量に囲まれてしまっては戦慄せざるを得ない。

 

「……!」

 

 なんとか今の状況を脱しようと、沖田さんの宝具を真似た突きを繰り出したけど、最初の1人がワザと体を刺し貫かせた上で私の刀を掴んだ。

 

「マスター」

「マスター」

「マスター」

 

 動けない私に殺到する無数の刃。

 咄嗟に刀を手放して回避したけれど、それは同時にこれ以上の反撃が出来ない状況に追い詰められたと言う事だ。

 

「マスター……」

 

 空手の私の腕を一番前のゾンビ沖田さんが掴んだ。

 

「お、沖田さん! 放して!」

 

 そんな懇願は聞いてくれないようで、殺到する別の沖田さんに両腕両足を掴まれあっという間に身動きが取れなくなってしまった。

 

「……嫌ですか? マスターは私に、触れて欲しくないんですか?」

「……こ、こんなのは嫌だよ!」

 

 彼女は指で私の頬を撫でた。

 

「でも……こうやって、マスターを抑えつけておかないと……こうやって私の想いを示さないと……マスターには届かないじゃないですかぁ」

 

 徐々に、吐息が当たる位まで彼女の唇が私に近付いて来る。

 

「で、でも……私には……! れ、玲が……!」

「……」

 

 スッ……と彼女の顔が離れた。

 

「……お、沖田さ――」

「――分かりました。

 なら……こうしてあげますね?」

 

 ――瞬間、私の右腕に感じた事のない激痛が走った。

 

「っ、ああああああ!!」

「ん、んむ、んぁ……」

 

 目も開けられない程に痛かったけれど、自分の右腕が、彼女に食べられた事だけは嫌でも分かった。

 

「……んぁ……美味で、とても柔らかかったですね」

「っはぁ、っはぁ、っはぁ……!?」

 

 漸く開いた右目の先には、先まで私を抑えていたゾンビ沖田さん達の無数の視線があった。

 

「恋するマスター……ええ、とっても素敵ですね」

「沖田さんは、尊重しますよ」

「ですから、マスターも沖田さんの想いを尊重しましょう」

「大丈夫です。此処で死んでしまえば、沖田さんと愛し合った記憶は無くなっちゃいます。とても残念ですが」

 

 その瞳は全て、血に飢えていた。

 

「っ!」

 

 私は即座に近くにあった沖田さんの刀を奪って足元のゾンビを蹴って距離を取った。

 

「い、いやよ……! 私は死なない……! 沖田さんの好きにもさせない!」

 

 残った左手で刀を握り、私は彼女達にそう言い放った。

 

「ええ、ええ……そういう所も、食べ応えがあって嬉しいです、マスター」

 

 舌なめずりをしたゾンビ沖田さんに食い散らかされるなんて、私は真っ平ごめんだ。

 

 

 

 

 

5.X Destination (玲)

 

「えっちゃん!」

「あ、負けヒロインXさん」

 

 そんな些細な彼女の言葉で私はついつい大事な友人であるえっちゃんを亡き者にしようとしてしまいそうになってしまった。

 

(次は背後から斬り付けてやろう)

 

 心の中で反省しつつ、力を抜いて彼女に向けていた愛剣を収めた。

 

「随分変わった格好ですね。ハロウィンですか?」

「おや、おやおや……!?」

 

「な、なんですか?」

 

 これはこれは……

 

「まさか、甘味大好きえっちゃんともあろう者が? 最優の後輩の座を欲しいままにしているえっちゃんが、ハロウィンをお忘れですか?」

「それはどういう――」

 

 心優しい善属性のセイバーである私は、彼女に一枚の紙を見せた。

 

「“ハロウィン期間中につき、仮装をシャトー入場への絶対条件とする”!?」

「そういう訳ですが、このままでは今日はえっちゃんではなく私が部長の付き人になりそうですねぇ?」

 

 後輩の地位に甘えた彼女の攻撃が私に届く前に、回避した。

 

「っく! この――」

「安心して下さい。えっちゃんはセイバーっぽいですけど、今日は切り捨てないであげますよ」

 

 そう言って私はコートを翻してその場を去った。

 

 そう。今日の私は青色の外衣と髑髏の首飾り(お土産屋さんで購入)、刃が青く光り輝く様に魔改造した鎌を装備したセイバークラスを刈る死神……

 

 ……まぁ? 珍しくえっちゃんが隙を見せましたし? これを機に部長の隣に正ヒロインXとして居座るのも悪くないかもしれないですね。

 

「さあ、楽しい楽しい狩りの時間と行きましょう!」

 

 

 ヤンデレ・シャトーに入って数分。

 俺はまだまだかとサーヴァントの到着を、Xオルタが来ると思って待っていた。

 

「ハロウィンねぇ……」

 

 実際良く分からねぇがお菓子を渡さないと悪戯されるイベントらしいが……

 

「この教室に入って来た奴とデートとは、相変わらず俺の意思は無しか。はぁ……」

 

 この理不尽さにも慣れたもんだ。まあ、気に入らなければ殴ってでも止めるが。

 

「――部長! 只今到着しましたぁ!」

「おう、遅かった……ん?」

 

 入ってきたサーヴァントに返事を返そうとしたが、普段の紺色のセーター服ではなく青白いラインの入ったコートを羽織っている、金髪の同顔別人だった。

 

「ヒロイン、Xの方か?」

 

「その言い方はないじゃないですか! ていうか、えっちゃんは私のオルタ化ですから、本当はえっちゃんをオルタの方って呼ぶのが自然ですよ!」

「んな事言われてもなぁ? いつも一緒にいるのはあっちだし」

 

「っぐ! 私が本家本元のヒロインXですから!」

「そうだったな」

 

「う、ひ、酷い……大半のメインヒロインはサブヒロインに人気度で負けると言いますが、まさかこの私がそんな扱いを受けるだなんて……」

「なんでそんなにショック受けてるんだ?」

 

 俺からすれば何でそんな風になっているのか理解に苦しむ。

 

 ヒロインXは俺の新聞部のメンバーではあるが、いつも不意にいなくなってはセイバーのサーヴァント候補生を襲って俺がそれを鎮圧するのが部長の仕事兼日課になっていた。

 

 つまり、俺からすればこいつは所構わず喧嘩売ってるヤベー奴でしかなく、先から連呼しているヒロインって単語を含んだ要素を俺はヒロインXから見た事が一切ない。

 

「もしかして私、セイバー狩りに精を出し過ぎ……?

 わ、分かりました! 今日は、その……部長のサーヴァントとして! 剣として! この学園でのひと時を共にします! させて頂きます!」

 

 なんか勝手に元気になったな。

 

「よし、私の愛剣よ。折角魔改造しましたが、今日は休息です! セイバークラスの殲滅はまた今度としましょう!」

 

 ヒロインXが握っていた鎌に語り掛けると、刃が消えて小型化し折り畳み傘程度のサイズに変わった。

 

「部長! 此処から出て学園デートを始めましょう!」

「わーったよ。デート、デートねぇ……最近聞いたような……」

 

 ぼやきつつ、俺とヒロインXは教室を出た。

 どうやら学園もハロウィンに染まっている様で、そこら中に派手な飾り付けが見える。

 

「デートつっても、学園内で出店でもやってるのか?」

「いえいえ。どうやら、学園内で様々なアトラクションがあるそうです。

 参加するサーヴァント候補生とマスター候補生の絆を深める為に用意された……所謂好感度稼ぎイベントですよ!」

 

「自分で言うか」

「さあ、ガンガン周回して絆レベル10を目指しましょう!」

 

 しかし、ヒロインXの凶行は此処から始まってしまう。

 

 俺達は最初に体育館に向かう事にした。

 廊下の窓を見ると多くの生徒達が体育館に集まっていて、何かアトラクションがあるのではとヒロインXが騒いだからだ。

 

 ――だが、行ってみるとそこは……衣装の貸し出しを行っている様だった。

 

 どうやら、コスプレ用にエミヤ先生が投影した衣装が用意されていたのだが、メンツが良くなかった。

 

「あら、部長」

「む、部長か」

「玲君! ちょうど良い所に!」

 

 右からセイバー、魔神(セイバー)、セイバー。

 そして3人同時に俺に近付いて来る。

 

 こんな分かり易い起爆剤は他には無いだろう。

 

「セイバー死すべし」

 

 そんな台詞と共に小型化した筈の鎌を取り出した彼女は3人に向けて薙ぎ払う様に振るった。

 勿論セイバーの中でも相当の実力を持つ武蔵、沖田オルタ、式の3人が応戦しない筈もなかったが、彼女らのあらゆる行動より先にヒロインXの攻撃が早かった。

 

「っぐ……!?」

「こ、れ……!?」

「っ……!」

 

 ばたりと倒れる3人。

 それが目に入った瞬間、俺は拳に力を込めて鎌を持ったヒロインXの肩を掴もうとして――空振った。

 

「……おいおい、今日はデートじゃなかったのか?」

「この世はセイバーで溢れている。

 部長と一緒に過ごすには、余りにも多くのセイバーが……」

 

 そう言って鎌を一振りすると、そこから3つの青い火の玉の様な物が現れ、彼女の体の中へと消えて行く。

 

「今宵こそ、私の宿命、セイバー狩りを実行します。そして、その霊核全てを吸収して完璧なセイバーとなった暁には……部長のサーヴァントとして、その隣に立ちます」

「おい、ふざけるのも大概にしろよ。また俺がお前を止めねぇと行けなくなるだろうが」

 

「止められませんよ? 例え、部長が相手でもね」

 

 そう言って奴は流星の様に光を放って――その場を去った。

 

「……おいおいおい、あいつ、なんで寄りによってこんな日に……兎に角、とっ捕まえねぇと!」

 

 俺はスマホを取り出しつつ、校舎へと急いだ。

 

 

 

「ぬぬっ!?」

「ぽ、ポテ、ト……!」

「王っぽい人よ、何故……!」

 

 非常に良い気分だった。

 思えば、最近えっちゃんと一緒にいる部長しか見ていなかったが、えっちゃんが大事な親友な事もあって何処か自分の心を押し殺していたのかもしれない。

 

 部長とのデート用にチューンした筈のこの霊基が、邪魔者を排除し力を高められる様になっているのはきっとそう言う事なんだろう。

 

 ……もしかしたら昨日久し振りに死神漫画を読み返してテンション上がったせいかもしれないけど。

 

「まぁ、このまま2つの悲願が達成されるならなんでもいいんですけど、ね!」

 

「ちっくしょー!」

 

 星が1つしかなさそうなセイバーを通り過ぎ際に斬りつつ、次のターゲットを求めてセイバーレーダーを確認した。

 

「……む、結構強めのセイバー反応! しかもこちらに段々と近付いてきてますね」

 

 丁度いいと思い、迎撃しようと廊下を出た。セイバークラスの反応はあっと言う間に近付いて来ていた。

 

「っおら!」

「っ!?」

 

 同時に、放たれた斬撃を――って、木刀!?

 

「ぶ、部長!? どうして!?」

「ちょっとマイフレンドに借りてな!」

 

 セイバークラスの霊核を取り込んだ筈の私に木刀で僅差で押し勝てている力も驚きだけれど、レーダーが部長を指し示しているのが私にとっての大問題だ。

 

「どうしてセイバークラスのサーヴァント反応があるんですか!?」

 

 最愛の筈の部長を前にしても私の中の使命は剣を強く握らせ、セイバーを殺す為に調整されたコートが魔力出力を安定させ上昇させる。

 

「さあな?」

「どうせまたえっちゃんの入り知恵ですね!? とことん私の神経を逆撫でして!」

 

 私は怒りに任せて更に力を込めた。

 けれど、先輩はそれを受けても尚一歩も引かず、打ち込む度に鎌の攻撃に適応しているのか隙がどんどん無くなっていく。

 

「こ、んのぉ!」

 

 それに苛立った私は、無理矢理距離を開けてから候補生の身では発動できない筈の宝具を体中の全魔力を注ぎ込んで無理矢理解放した。

 

「エクスカリバー・リーパー!!」

 

 放れた青色の斬撃は少しずつ角度を変えながら部長へと向かう。

 

 対セイバー宝具であるこの攻撃はセイバーに変貌した部長を捉えて逃さず、その体を切り裂くまで追い続けるまさに必殺の一撃。

 

「っしゃらくせぇ!!」

 

 その威力に勝利を確信するより早く、斬撃は真っ二つに斬られ、それを見てしまった私は宝具の反動と敗北感に身を委ねる様にその場で崩れ落ちた。

 

 

 

「――痛ぁっ!?」

 

 やはりこれで〆るべきだろう。

 此処まで学園を無茶苦茶にしたヒロインXの頭に拳骨を落としてやった。

 

 すると、握られていた鎌から火の玉の形をした霊核が出て行った。どうやら倒れていたセイバーのサーヴァント候補達に持って行く必要は無さそうだ。

 

「……うわぁぁぁぁぁぁん!!」

「うぉ!? うるせぇな!? 何時もの事だろうが!」

 

「だってぇ、だってぇ……! 私だって、こんなバーサーカーみたいな事やりたくないんですよ!

 でも、部長は何時も何時もえっちゃんとイチャイチャしてるし、セイバーばっかだし! 終いには負けヒロインXなんて煽られるし!

 私だって、こんな切華さんが好きそうな殺し愛じゃなくて、普通に部長と恋愛したいです! 愛し合いたいです! 既成事実を作りたいです!」

「おい、最後で変な本音出てるぞ」

 

「ハロウィンならイロモノ枠を脱却して普通に行けると思ったら最初からセイバーに囲まれるって何ですか!? やっぱり私の事そういう風にしか見てないんですよね!」

 

「言い掛かりだって……」

 

 俺は肩の力を抜きつつ、俺はポケットに入っていたパンを取り出した。

 

「ほら」

「そんな、えっちゃん用のあんぱんでなんて買収できると思わないで……え?」

 

 何を驚いているんだこいつは……

 

「そんなに珍しいか? このクリームパンが」

 

「…………部長!」

 

 パンを握ったが、俺はまだ放してやらない。

 

「え?」

「ほら、今日はハロウィンだろ? なんか言わねねぇと菓子はやらない」

 

「……と、トリックオア、トリート!」

 

 それを聞いて放してやると、凄い勢いでクリームパンを開けて噛り付いた。

 なんだったら、涙まで流してやがる。

 

「これで、これで……! えっちゃんのポジションは私の物ですね! 今度から、拳骨じゃなくてクリームパンを下さい! じゃないと、この学園中のセイバーを狩り尽くしてやりますからね!?」

「はいはい……全く」

 

 どうやら漸く一段落ついた様だ。学園の修復機能で廊下や教室は元に戻ってるし後は、今の騒動に巻き込まれた連中に頭を下げて回れば……ん?

 

「……」

「よぉXオルタ。お陰でこの馬鹿を止めれたぜ」

「近付かないで下さい」

 

 何故か、怒気の含まれる声でそう言いながら俺から離れるXオルタ。

 

「どうした?」

「怒ってるに決まっているじゃないですか。私の前でそんな風にイチャイチャして……ですが、残念ながら二位で到着した私は部長に近付けません」

 

二位? 何の事だ?

 

「……あんぱんじゃ済みませんからね」

 

 そんな不穏な一言を残しつつ、あいつは去っていた。

 

「何だったんだ、今の」

 

 また面倒臭い事になりそうだと思ったが、それより先にクリームパン欲しさで近くのイアソンを鎌で追い掛け回しているヒロインXを〆るべく、俺は拳を鳴らすのだった。

 

 

 

 

 

6.こっくろえさん (オリジナル)

 

「えーっと、クロエさん? そのお姿は……?」

「ふふふ、良いでしょ?」

 

 そう言って腰を動かして紺色の和服や後ろに付いた尻尾を揺らし、小悪魔的な可愛さをアピールしてくるサーヴァントがいた。

 

「ハロウィンだから、狐さんから拝借したの。良いでしょう?」

 

 両肘を曲げたまま手を上げ、顔の横に狐手を構えてコン、コンとそれらしい仕草がまあワザとらしくて可愛らしい。

 あ、首を傾げたな! その角度が自分の可愛らしさを引き上げる事を知った上でやってるな!

 

「凄く良いです!」

「ふふ、でしょぉ?」

 

 キャス狐衣装のクロエ・フォン・アインツベルンの姿にすっかり盛り上がってしまった。

 そうだ。此処はヤンデレ・シャトー……油断は大敵なんだ。

 

「――じゃーん!」

 

 今度は両手を頭の上でピョコピョコとさせてから本当のケモミミ、じゃなくて狐耳を出現させて属性の渋滞と可愛さのインフレを引き起こしてしまっている。

 

「もうやめて、オイラのライフはゼロよ!」

「アレレェ~? マスターってば、こんな所で止めちゃうのぉ? これから、もっとイイトコ、見せちゃうんだけどなぁ~?」

 

 そう言ってスカートの先を掴んでパタパタさせないで! 1パタする度にハートが心拍数を爆上げしちゃってるから!

 

「もっと近くに来れば、違うアングルから見上げさせてもいいんだけどぉ?」

「あ、それは遠慮します」

「何でよ!」

 

 例えどれだけセクシーでキュートでヤバいポーズを見せられても、俺はこのゲージ・オブ・ハイドログラム(限凸月霊髄液3枚で作ったバリア)からは絶対出ない。

 

 この水銀が絶えず形を変え続ける檻から出れば最後、現実だったら事案確定な程に年下の女の子に事案間違いなしな方法で愛されてしまうだろう。

 

「もう! いい年した社会人なのに何時まで引きこもってるつもりよ!」

「いい年した社会人は、この時間に安眠を求める物なんです!」

 

 数週間前に気付いたけど、どうやらレベル100まで育てた礼装は半端なサーヴァントの攻撃位なら易々と防ぐ程に強力で、更にそれを複数枚重ね合わせると宝具ですら壊れない最固のシェルターになる様だ。

 

 お陰で、無敵貫通を持っていないサーヴァント相手にならこの礼装は文字通り無敵だ。

 

(スマホを持っていれば、狐娘になったクロエを余す事無く写真に収めていたけど……我慢だ我慢!)

 

「……ふーん」

 

 つまらなそうな声でぷいっと顔を反らして拗ねてしまった様だ。可愛い。

 

「はぁ、本当は悩殺してノコノコ出て来た所を頂こうと思ってたんだけど……しょうがないわね」

 

「よし、今の内に距離を――あだっ!?」

 

 後ろに下がろうとしたが、何もない筈の場所で何かにぶつかった。

 

「え!? 壁……!?」

 

 けれど目では見えない。

 

「ふふふ、マスターがその礼装に頼って私達から逃げる様になったのは2週間前よね? 私達が、そんなマスターの防壁を突破しようとしないだなんて、本当に思っていたのかしら?」

 

 ニヤリと笑ってこちらを見るクロエに、思わず身構えるがもう遅いみたいだ。

 

「よ・う・こ・そ。私の中に……なんちゃって」

「え、あ、まさかその服!?」

 

 唯のコスプレ衣装じゃないな!?

 

「そうよ。これはマスターがあまりにもその礼装のガードを多様し続けてたから無敵を突破できない月の人やルビーが協力して作った特別な霊衣よ。

 これのお陰で私は狐さんの力が使えるの」

 

 その言葉と同時に、俺の足元は怪しく輝いた。

 

「こ、これは……?」

「マスターなら飽きるほど見たんでしょう?」

 

 赤く光るこの魔法陣は――星3概念礼装の魂喰い!?

 

「それ、カテゴリーとしては呪術だから、この姿だと簡単に行使できちゃうのよねー。まあ、私の陣地だし」

「陣地って、キャスターの陣地作成まで!?」

 

「あ、安心してね、マスター。私の傍にいれば魔力を吸われないから」

「うっ……!」

 

 不味い。魔力が吸われるこの感覚……痛みは無いけど、だんだんと迫って来る疲労感に体が重くなっていく。

 

 呼吸が乱れて汗が吹き出し、目を開けているのも辛くなる。

 

「はーい、此処にいればもう安心よ?」

「も、もう無理ぃ……!」

 

 気付いたら、体を引きずる様に歩いて小さなクロエに泣きついていた。

 

「ま、これに懲りたらあんな狭っ苦しいシェルターには頼らないでね?

 これでマスターはもう私の物ね?」

 

 疲弊し切っていた俺が返事を返すよりも先に、クロエは札をペタリと手の甲――令呪の上に貼った。

 

「あ」

「よしっと……それじゃあ、マスターさんに一つ伺います」

 

 そう言って彼女はこちらに顔を合わせて微笑んだ。

 

「トリックオアトリート……お菓子をくれないと悪戯、しちゃうぞ?」

「え、お菓子、ないです……」

 

「うん。知ってるわ。だから、今から悪戯してア・ゲ・ル」

 

 今度は両腕を魔力の縄で縛られた。

 

「さあ、この部屋の中にあるベッドの上まで運んであげる」

「あ……」

 

 魔力が減って、体にも力が入らないしクロエが床をモフモフの絨毯に変えたので引きずられても痛くない処か心地よさすら感じでしまう。

 

「もう抵抗もしないのね……もしかして、期待しちゃってるのぉ?

 良いわよ? たっぷり、その体に悪戯してあげちゃう!」

 

(……うーん、封じられるなら先に令呪使えばよかったなぁ……ていうか令呪で魂喰いを止めれば良いのか。次はそうしよう……後、他の礼装もレベル100にすれば無敵貫通にも対応できそうだし、魔術を解除したりも――)

 

「――マスター?」

 

 唐突にクロエの手に剣が現れ、その切っ先がオイラの方を向いていた。

 

「ねぇ、良からぬ事を考えてたり、する?」

「ぜ、全然考えてません……」

「そっか……そうよね?」

 

 反省点を次に活かす事にしつつ、エチエチが過ぎる褐色肌J〇小悪魔から貞操を守るために夜通しで必死の防衛戦を繰り広げるのだった。

 

 

 

 

 

7.グレイ・オー・ランタン (真)

 

「あ、あの? これって外してもらえないの?」

「もう少しだけ待って下さい」

 

 そう言って先を歩く紫とオレンジのドレス衣装のグレイさんに、鎖で縛れたまま暗い廊下を案内される。

 

 今日はハロウィンだからなのか、グレイさんはジャック・オー・ランタンの衣装を着ているらしい。

 

 いつも鳥かごに入れて運んでいる四角い箱のアッドも、カボチャ型のランタンの中に入れられているみたいだ。口をテープで縛られて無言だけど。

 

 俺から声を掛けないと何も喋ってくれないグレイさんに出会って直ぐ鎖でグルグル巻きにされてしまい、何処かへ連れられて数分が経った。

 

 今まではこの夢の中に入ると時計塔の教室だったり、大きな学校の前だったり、闘技場みたいなデュエル場だったけど、こんな古い塔みたいな場所もあるんだ。

 

(いや、それはマスターが特別だと思うがな……)

 

 ――喋れなくなっていたアッドはランタンの中で思案していた。

 グレイは自分の事を大事な友だと思っていて、以前喋れなくなった時には取り乱してすらいた。

 

 それが自分の口を縛った上に、マスターまで縛り上げるのは今彼女が着ている衣装のせいだろう。

 

 ライネスに着せられたドレス。

 

 一応、グレイの要望で大きなカボチャのハットが彼女の顔を多少隠してくれているが、こんな派手な格好をマスターに晒すなんて普通じゃない。

 

 ――まあ、でもグレイさんは師匠の知り合いだし、信頼できる人だよね。

 

 そう思ってもう暫く彼女について行くと、漸く目的地に着いたみたいだ。

 

「……此処です」

「入っていいの?」

「勿論です」

 

 そう言われて扉を開けて中に入った。

 

 中は2つのソファーとテーブルがあって、お菓子が準備されていた。

 

「わぁ!」

「此処が拙がご用意したパーティー会場です。その、余り豪華なモノは用意できませんでしたけど……」

 

 そう言って鎖を外してもらった俺は、頭を振ってお礼を言った。

 

「ううん、ありがとう! 素敵だよ!」

「そ、そうですか……良かった……」

 

 グレイさんはホッとした様子でソファーに座らせてくれた。

 

「ハロウィン……お祭りだと聞いたので、こういった物をご用意させて頂きました」

「ありがとう! でも、グレイさん1人なの?」

 

「っ……! は、はい……あ、でもアッドがいますよ! ちょっと、寝てますけど」

 

 ライネス師匠や彼女の師匠について聞こうかとも思ったけど、なんか嫌そうだから止めておこう。

 

「あ、お茶を淹れて来ますね」

 

 そう言って彼女は消えて行った。

 美味しそうなお菓子が並べられているけど……まあ、グレイさんを待とう!

 

 

 

「全く……誰が寝てるって?」

「……アッド」

 

「グレイ。その服、ジャック・オー・ランタンだっけ? 脱いだ方がいいんじゃねぇか?」

「それは……」

「悪属性が付加されてる事は分かってるだろ? 今のお前は生身じゃなくて霊基だから、そう言うのに影響され易くなってるって自覚があるよな?」

 

「分かってる……! だけど、悪い拙なら……マスターを独り占め出来ます」

「グレイ。それでいいのか? そんな他の誰かの影を使って……それが本当にグレイの愛なのか?」

「っ! アッドは黙って!」

 

「あ、おい待――」

 

 私は、アッドの声が煩わしかったからタンスの中にランタンごと放り込んだ。

 

「マスターを手に入れる……拙の願いは、それだけ……ライネスさんにも、他のサーヴァントにも渡さない……!」

 

 カップに紅茶を注いだ後、ポケットからオブラートを取り出した。この中には、服用すれば3日間体の自由を奪う薬が入っている。

 

「拙が動けなくなったマスターのお世話をすれば……拙だけが、マスターに必要とされる……」

 

 そんな未来を夢見て、拙は薬を――

 

「――グレイさん?」

 

「っ、マスター……?」

「ごめん、なんか物音がしたから」

 

「大丈夫です。

 ちょっと、良い茶葉を探していただけですから。直ぐに持って行きますね」

 

「じゃあ、手伝わせて下さい!」

 

「て、手伝う? だ、大丈夫です! 拙1人に任せて頂いて大丈夫ですから!」

「いや、悪いって! 大丈夫、これでもお母さんから色々教えてもらってるから!」

 

 そう言って小さなマスターはお砂糖の入った容器や温めたミルク、珈琲をお茶しか載せていなかったお盆に乗せていく。

 

「あ、そういえばアッドは?」

「えっ、あ……アッドは……」

 

『おーい、ここだぜマスター』

 

「ん? タンスの中?」

 

 不味い……アッドが今の拙をマスターに説明したら――

 

「――いやぁ、眠りこけてたらいびきが煩いって、グレイに入れられてな!」

「え、アッドっていびきかいたりするの?」

「まあな!」

 

 ……アッド、どうして?

 

「グレイさん、行こう!」

「は、はい」

 

 マスターに誘われて、台所から出るとテーブルには……ライネスさんと、美遊さんがいた。

 

 珈琲を用意したのはこの2人の為……

 

「で、どうだったかい我が弟子? グレイの様子は?」

「え? 大丈夫でしたよ?」

 

「む、そうか」

 

 この衣装を着せて来たライネスさんは「仕方ないか」なんて表情を浮かべている。

 もしかして……この衣装を利用して私の後を追いかけていた……?

 

(グレイに悪属性を付加して我が弟子を襲わせ、寸前の所で私が助けるつもりだったが……我ながら三文小説以下の計画だったかな? グレイがこの程度でどうにかなるとは、正直大して期待していなかったし)

 

「あの、私まで誘われた理由は……?」

「何、君に我が弟子とどのような関りがあったか、この場で白状してもらおうと思ってな」

 

(実際は対グレイ用に正式な英霊ではない彼女を誘っただけなんだが……無駄だったな)

 

「グレイさん」

 

 そう言って、マスターは私に座る様に促した。

 今はハロウィンだと言われ、先の自身の行いに後ろめたさもあって少し悩んでしまったが、言われた通りに座らせてもらった。

 

「よいっしょっと」

 

 その隣にマスターが座った。腕と腕が触れあいそうな距離で、少し照れてしまう。

 

「ねぇ、グレイさん」

「は、はい」

 

「次は、一緒に準備させてよ! そしたら、きっともっと楽しくなるから、ね?」

 

「……!」

 

 マスターに面と向かって一緒に、と言われて思わず照れてしまった。

 

 けど、それはきっと他の皆さんと楽しむ為にだと思うと、拙の心の中の良くない物が返事を戸惑わせる。

 

「その……」

「?」

 

「拙と、二人っきりでは、駄目ですか?」

 

 そう言うとマスターは黙って、何か思案している様だ。

 やっぱり、拙が何もせずにマスターと一緒だなんて……

 

「……じゃあ、次はそうしよっか!」

 

「え?」

 

『ちょっと待て!』

 

「え、師匠、美遊さん?」

「あー、もう! 我が弟子ながらどうしてそう軽率に……!」

「真さん! まだ、私とデートしてないんですよ!? そもそも、他の女2人っきりになろうだなんて!」

 

「……」

「イッヒヒヒ! 修羅場だねぇ、おいグレイ! 助けなくて良いのか?」

 

 アッドに言われるまでもなく、拙はマスターの体を横から思いっきり掴んで、叫んだ。

 

「――マスターは、拙のマスターです!」

 

「ぐ、グレイ、さん……?」

 

「ふ、ふふふ……グレイ、まさか君に宣戦布告をされるなんてねぇ?」

「その戦争、買わせてもらいます」

 

「イッヒヒヒ! そうそう! らしい我が儘だな!」

 

 私はアッドを手に持って鎌を――

 

「――んっ!?」

「――ふぐ!?」

「――っ!?」

 

 ――構えるより早くほぼ同時に、3人の口にマカロンが咥えられた。

 

「……先にお菓子食べよう!」

 

 その動きに、以前3人まとめて吹き飛ばされたマスターのお母様との繋がりを感じた私達は黙って頷いた。

 

 

 次は、ちゃんと薬を仕込もう。

 




参加して頂いてありがとうございました。
活動報告でも話しましたが、4名の中に修正等ご希望される方がいましたら遠慮なくお申し付け下さい。メッセージやDMで結構です。


それと、本企画の締め切りは20日までですがもうリクエストが残っていません。

……ですので、後の数日は既に企画を送って下さった方々も再び受け付けます。
勿論、まだの方がいましたら優先して執筆させて頂きます。
締め切りの20日まで、企画の概要が書かれた活動報告の方を熟読して、ハーメルンのメッセージかTwitterのDMで送って下さい。


まあ、流石に皆さんレイドや周回で疲れているから送ってこないかなー

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