ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
今月の20日まで人数制限なしで募集してますので、活動報告を熟読の末どうぞリクエストを送って下さい。
「はぁ……」
「どうかなさいましたか、マスター?」
口から洩れた溜め息を聞いて、本当に心配そうに尋ねて来たのはそもそもの元凶であるシャルロット・コルデー、アサシンのサーヴァント。
白い帽子の様な、布の被り物とシンプルな縦ラインの服は第一霊基の物だ。
「どうしたもこうしたもないって」
俺は重い右手を上げて見せると、金属同士が擦れ合う音が鳴り響いた。
「これが着けられてるんだから、気が滅入って仕方ないだろ」
「ああ、その事でしたか」
何故か笑顔を見せた彼女は手錠に繋がれた俺の手を握ると、頬を赤らめた。
「私、何処にでもいそうな町娘みたいなサーヴァントですから……こんな風に大好きなマスターを独占出来るなんて思わなかったので、つい……」
普段は自己評価の低い彼女だが、恋となれば積極的に行動する健気な側面が歪んで発揮された結果、ヤンデレ・シャトー内で早々に俺を捕まえて手錠で壁と繋げる暴挙に出た。
そして今も浮かべているこの笑顔に気を許した俺はまともな抵抗も出来ずに捕まってしまった訳だ。
「ついで監禁するな」
「うふふ、嫌です。こんな好機を逃したら、それこそアサシンの名が廃ります」
「そのセリフはこれから俺の命を奪う人の台詞だよね? え、もう終わるの?」
「ああ、殺しません! 殺しませんけど……やっぱり、こういうのって暗殺と一緒で躊躇ったらいけないじゃないですか? そういう心持ちの話だったんです!」
いや、躊躇ってくれ。そして是非釈放してくれ。
「あ、そうでした!
そろそろお食事をご用意しなくては!」
「いや、これを放してくれればそれで――」
さっとナイフを向けて来る辺り、やっぱりこの娘は暗殺者だ。
「残念ですがマスター、今の私は幸せ過ぎて自分でも何をしでかすか分からないバーサーカーですので、一語一句にお気をつけ下さい」
「……はい」
俺の返事を聞いてか、ステップで台所へと向かう彼女の後ろ姿を見てからガックリと肩を下ろした。
「これは、他のサーヴァントが来るまで出られないパターンか……ん?」
不意に先までコルデーが座っていた椅子を見た。机の陰に隠れて見えなかったが、そこには謎の球体に羽の生えた存在……天使? が佇んでいた。
「――聞こえてますよマスター」
唐突に背後に立たれ、口の中に何かを押し付けられた。
「っ!? んぐっ!?」
「ふふふ……」
「……あふぅ」
フライドポテトだった。出来立ての様だが、若干冷まされていたのか火傷はしなかった。
「美味しいですか?」
「うん……」
「あんまり変な事考えていると、もっときつく縛っちゃいますよー?」
冗談か本気か、それすらも笑顔で隠したまま机の上にフライドポテトの乗った皿を置いた。
「先に食べてて下さい。直ぐにメインディッシュをお持ちしますね?」
再び台所に戻っていくコルデー。
「……」
そして、恐らく彼女にチクったであろう天使みたいな存在はこちらに向いたまま微動だにしない。
「はぁ……うっま」
八方塞がりだが、肩の力が抜けてしまいそのまま目の前の料理に手を伸ばすのだった。
(やばい、脅されたり一切変わらない笑顔のせいで薬の心配とか一切してない……今更か)
食べる手が止まらなかったけど、多分単純に美味しかったからだと思う。
やがて、彼女の作る料理の匂いがこちらまで届いてきた。
「この匂いは……」
どこかで嗅いだ事のある匂いだ。
家……よりは、ファミレスとかで……
「はい、今日は鳥挽き肉のラザニアですよ! ちゃんと、マスターのお国の白米も炊いてありますよ!」
「あ、ありがとう……」
向上心を持つ彼女の事が、きっとカルデアの厨房係から覚えた料理を振る舞ってくれたのだろう。
「あ、勿論料理に薬なんて盛っていませんよ! 私、そう言うちゃんとしたアサシンじゃないので自前の毒とか、用意できませんでしたし……それに! お料理は絶妙なバランスに成り立つ物だって先生が仰ってましたので、マスターの食べる物に余計な物は入れられません!」
「わ、分かった。分かったよ。
そこまで念を押してくれるんだから、食べるしかないよな……」
皿に切り分けられた四角いラザニアは赤いソースに鶏肉を内包し、白いクリームと生地をその上に重ね、それが幾度にも積み上げられて出来たカロリーの城壁だ。
と言っても別に無理な量を作った訳じゃなく、平均的な人間なら2人で食べられるだけの量を作ってきたコルデーはヤンデレになってもその平凡性を失っていない様に思える。
上に乗っているチーズと振りかけられたオレガノの匂いに誘われるままナイフとフォークで口に運び、一口。
「ん! うんま!」
「美味しいですか?」
トマトソースと鳥挽き肉の相性は最高だ。生地も柔らかくボリュームを出していて申し分ない。
上部や間にとろけて挟まったチーズとホワイトソースも言わずもがな。
無限に食べられる気がする……!
「ご飯もよそぎますねー」
小さく切ったラザニアを白米の上に乗せ、ソースと絡めるともう最高だった。
「あ、飲み物はオレンジジュースをご用意しましたよ」
「ありがとう!」
「……うーん、入れ過ぎてしまいましたね。マスターは毒に耐性があると聞きましたので多めに入れたんですけど……」
コルデーは手に持ったタオルで一生懸命に自分の主の顔を拭いていた。
食べ物よりも飲み物に仕込んだ方がいいと思っただけの、生前同様でたらめと言うべき計画は成功し、まんまとオレンジジュースに口を付けた切大は直ぐに睡魔に誘われた。
結果、食べ終わっていた皿の上に顔が落ちて汚れてしまった。
「ごしごし……ふう、服の汚れは勝手に綺麗になるんですね。魔術って便利です」
マスターを眠らせた彼女の目的はより強固な監禁だ。
自分の力ではマスターを守れない。
いずれやって来るサーヴァント達に取られてしまう。
そうなる前に、彼女はある決心をした。
「……さあ、行きましょうマスター!」
自分とマスターを牢屋に入れて生活する。
その為に彼女はマスターを置いたまま、布団を2つ押し入れから取り出し地下に向かい、牢屋の中に敷いた。
「夫婦になるから隣同士でも……でもやっぱり寝顔を見られるのは恥ずかしいから、少し離した方が……むむむ、悩みますね」
数分ほど悩んだ末に僅かな隙間を開けて隣り合わせる事にした。
続いて上の部屋に戻ってひとしきりマスターの寝顔を眺め、写真に収めた後で風呂敷を広げて中に必要そうな物を置いて行く。
マスターの好きそうなゲーム、本、お菓子、寝間着、衣装、避妊具……思ったより大きく膨らんでしまった風呂敷を担いで再び地下に。
中身を取り出して綺麗に並べれば、居心地の良い牢屋の完成である。
「よーし、これで準備完了です! 早速マスターをお迎えに行きましょう!」
そう言って心底嬉しそうに階段を登るシャルロット・コルデーは部屋で眠り続けているマスターを見た。
「――」
巨大な生物――黒い体表のティラノサウルスにその上半身を咥えられている姿だったが。
「ま、ままままマスター!?」
「ぐるぉぉぉ!!!」
シャルロット目掛けて尻尾を振って攻撃するティラノサウルス。その迫力に驚き反射的にその場で伏せた彼女は無事だったが、部屋の壁は容赦なく抉られてしまう。
「ぐぉおっ!」
更に強烈な叩きつけをお見舞いし綺麗だった部屋をあっという間に廃墟に変えた古代生物は、出口から部屋の外へと出て行った。
「あ、あわわわ……!」
突然の襲撃に、シャルロットは目を回してその場に倒れるしかなかった。
絶妙な顎加減でマスターを食べずに運んだティラノサウルスは、部屋を出たと同時に大きく息を吸い込んだ。
この動作の目的は口内で息を乱し始めたマスターへの気遣いだ。
このままでは呼吸が長くは続かないと悟り、急いで自分の部屋へ向かった。
巨体で廊下を走り去り、辿り着いた部屋でようやくマスターを放して、本来の姿へと戻った。
「…………」
「気を失って……いや、先の薬がまだ効いておるのか?
全く……身どもが世話を焼かねばならぬな」
目の前に力なく倒れているマスターを呆れる様に、否、愛しむ様に眺めながらバーサーカー、鬼女紅葉は寄り添うのだった。
「……」
「どうした? どこか痛むか?」
「あ、いや……全然大丈夫です」
気が付いたら紅葉さんの膝の上に頭を乗せていた。
「どうやら少し戸惑っているようじゃのう。無理もない。あの女、さながら天使の衣を身に纏った悪鬼。そなたの信頼を逆手に取る裏切り者……!」
「あ、いや多分裏切ってはいないです」
急に怒り出すので慌ててコルデーをフォローするが、そのせいで彼女の顔はこちらを向いた。
「……善意も、過ぎれば破滅を呼ぶ。
そなたは身どもに愛され、身どもを愛するだけで良い」
「ふぁ、ふぁい……」
口の過ぎる子供への仕置きの様にほっぺを抓られた。
その爪で傷つけない様に、親指の第一関節と人差し指の関節で挟んでいる。
「マスターを騙し、薬を盛るなど反逆に他ならぬ。それを血を以て教えてやろう……」
「あ、いやいや……も……こ、紅葉さんがそこまでする必要はないよ」
「身どもを気遣ってくれるのか? そなたは誠に善き男よな」
先まで抓っていた頬を軽く撫でられ、微笑みを見て安堵した。
「……そろそろ、起きてもよいぞ」
「あ、じゃあ失礼して……」
頭を上げて彼女のひざ元から出るが、それと同時に今度は頭を抱き締められた。
「あ、あの……?」
「そなたが欲しい。身どもを本気にさせたのじゃ。責を背負う気概、見せてくれぬか?」
耳元で囁くと同時に、熱の込められた吐息が顔を赤くさせた。途端に体が少し動きを見せた。
「前に言ったじゃろう? 治癒の術なら任せろと。そなたの体は今、身どもの術で力が張っておる」
「いや、盛ったら反逆なんじゃ……?」
「身どもの治癒が反逆とは……鬼の目にも涙、とはこの事か」
悲し気な顔を一瞬だけ見せ、すぐに笑顔に戻った彼女。
その姿に段々と耐え難い色気を感じ始めた。
「身どもは決してそなたを裏切らぬ。
この体は、勿論そなたを極楽へと導く事を約束しよう」
頬と頬がくっ付き、左目に彼女の右の瞳だけが映る程に近付かれてしまう。
彼女の掌に右目を覆われ、映るのは夕日の様な眼だけ。
その奥で情欲の炎が揺れているのが視えたが、果たしてはそれは彼女のモノかそれとも自分の炎か。
文字通り見つめられて視界が狭まれ、段々思考も意識も彼女以外に向かわなくなっていた――
「――えい!」
軽快なその一言と共に、後ろへと引っ張れる俺。
視界が広がり、俺を後ろへ倒した張本人の顔が見えた。
それはやはりシャルロット・コルデー。
しかしその姿は先程とは異なり、頭には赤い花が添えられた黒のハット帽に白の衣装、第三霊基の姿。
「そなたは……邪魔を!」
「はい、邪魔しに来ました」
怒りに燃える鬼女紅葉に笑顔を向け、すぐにこちらに振り返った。
そして手に持った包丁で切り裂いた。
「え――」
「――
彼女が切り裂いたのは彼女自身の体だった。
血が滲み白い服が赤に染まっていくその様は、忘れ掛けていたあの異聞帯での記憶を呼び覚ました。
血の気が引いていく。
思わず手を伸ばしたがそれより早く彼女の霊基は粒子となって消え去っていく。
余りにも衝撃的な光景だった為か、言葉よりも先に俺の体は悪夢の外へと飛んで行き、その日は顔を覆うような寝汗と共に目覚めるのだった。
アトランティスを再び――
今回は企画前ですので短めにしました。
次回からは絶賛募集中の話で短編集を書いて行こうと思います。
まだ全然時間がありますので、興味のある方は是非参加して下さい。