ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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色々新しい事をしたいと準備をしていたら遅くなったスラッシュです。
詳しくは活動報告をご覧下さい。

今回の話は4人の話です。いつもの4人ではないですけど……


女4人寄れば……

 

「――これはどういう事?」

 

 私は目の前のサーヴァント、エドモン・ダンテスに質問をした。

 だけれど、彼は表情を少しも変えずにこちらを見るだけ。

 

「どういう事だと問われてもな。お前の要望に沿ったモノを用意しただけだ」

「私は、普段の先輩と同じシャトーを経験したいって言っただけなんですけど?」

 

 3つのモニターの映像を見せられ、困惑する私。

 服装の違いはあれど全ての映像には同じ顔の女性、FGOの主人公であるぐだ子が映っており、画面上部には知らない名前2つと知っている名前が書かれていた。

 

 “鼎”、“切華”、そして最後は……

 

「“桜@イケメン大好き”……これ、私の友達のマスター名と同じなんですけど?」

「お前の知る切大は、偶に他のマスター3人と共に行動する事がある」

「っはあ!? まさか、桜ちゃんや他の女と……!」

 

「誤解するな。奴の連れは男だ」

 

 その言葉に疑いの目を向けた。もし先輩と普段からイチャついているのであれば幾らあの娘でも……!

 

「……落ち着け。俺が此処で嘘を教えて何を得る?」

「…………」

「兎に角、今回はこの者達と脱出してもらう。道を阻むサーヴァントも当然いる。今回は女だがな」

 

「ふん、分かりました。こうなったら桜ちゃんに直接聞きます」

「言っておくが、脱出には4人全員の生存が不可欠だ。誰かが欠ければ悪夢の時間を延長する」

「はいはい……よし、先輩の為にも頑張ろう!」

 

 

 

 モニターの映像で見たぐだ子は、それぞれ着ている服装……魔術礼装が違っていた。

 

「確か、桜ちゃんは黒セーターだった筈……急がなきゃ!」

 

 私がいるのは湖。

 どうやら今のイベントと同じ特異点のキャンプ地にいるらしいけれど、モニターの映像は暗くて桜ちゃん何処にいるのかは分からなかった。

 

「此処から一番近いのは……コテージかな」

 

 流石に今日も遊んでいたので大体の内容は頭に入っている。暗かったって事は夜か、もしくは建物の中にいる筈だ。先輩の事を正しく知る為なら私にホラー映画を怖がっている暇はない。

 

「絶対に問い質してあげますから、それまでは無事でいて下さいね?」

 

 暫く歩いて直ぐにコテージを見つけた。

 安全地帯だと聞いていたけれど、恐怖の特異点としての異常が最初に発生した場所は此処。つまり、サーヴァントが私を襲うなら此処が最初でまず間違いないだろう。

 

 コテージの中に入ってみる。散策していると台所やベッドがあり、それを見ていると思わず先輩の事を思い出してしまった。

 

「先輩と一緒だったら二人っきりで手料理をご馳走して貰って、こっそり薬を仕込んで眠らせてから拘束して、たっぷりお礼をしてあげたのになぁ……残念です」

 

 おかしな所は特にないけれど、サーヴァント達は気配を消したり、霊体化で姿を消す事が出来るのでいつ目の前の現れても不思議じゃない。

 

 私がその立場なら大好きな先輩の後ろにぴったりとくっついて匂いを嗅いだり、トイレに一緒に入ったり……普段からそんな事が出来るなんてサーヴァント、絶対に許さない……!

 

「……っ! 臭う!」

 

 窓が開いて煙が鼻に届いた……と形容するにはちょっと香しいけれど、私にとって先輩の匂い以上に良い香りなんてこの世にない。

 

 振り返ってみると、以前先輩のサーヴァントとして私を遮った褐色と言うには不健康な薄白色の肌と青に近い紫の髪の……毒で汚れた女。

 

「……マスター」

「でも、貴女はあの静謐のハサンと同じ姿をした私のサーヴァントですね」

 

 気付けば窓の向こう側は夜になっていた。明らかに目の前のサーヴァントが私にとっての脅威として現れたのを表している。

 しかし、私の部屋の扉は入ってきた彼女に塞がれてしまっている。

 

「……まぁ、別に扉から出る必要は無いですけど、ね!」

 

 袖に仕込んでおいたクラスカードを瞬時に換装して槍を手に取った。

 

「それは!?」

「はぁぁ!」

 

 アサシンのサーヴァントは直接的な戦闘能力は低い。

 不意打ちで放たれた一撃は避けられる事はない。

 

 こうして、体を刺し穿てたのが何よりの証拠だろう。

 

「ど……どうし、って……?」

「はぁ? 私が好きなのは先輩だけなんですよ? 女にくっつかれても喜ぶ様な趣味があるわけないじゃないですか」

 

 静謐のハサンの姿が消えていく。恋敵と同じ奴を始末できたので少し気分がいい。

 

「――え」

「どうして、刺したんだ……? 俺、を――」

 

 ――自分の体から血の気が引いていくのを感じた。

 襲ってくる敵を刺したと確信し歓喜していた手応えが、まるで腕をそのまま雪の中に入れた様な冷たい物へと変わっていく。

 

「う、嘘……!?」

 

 腕が振るえ、私は槍を持っているだけの力が入らなくなって手放した。

 

「ち、違……! 私、は……!」

 

 目の前の現実から逃げるように、後ろに一歩後退る。

 

「先輩を、殺したくなくて……!?」

 

 足の後ろが机に当たり、その上に乗っていた花瓶が落下する。

 

「――」

 

 音を立てて砕けると私の目の前には誰もおらず、槍が落ちているだけだった。

 

「…………っう!」

 

 今の風景が唯の幻だった事に気付くと、安堵と同時に吐き気が込み上げて来た。

 同時にとても不快で、怒りが湧いてくる。だから吐かずに済んだ。

 

「……私が、先輩を他の女と間違えて……殺す……? そんな事、ある訳ないじゃないですかっ!」

 

 私は槍を握りなおした。

 まだ夜は続いている。恐らくこれは、登場人物が幻覚で次第におかしくなっていくタイプのホラー映画だ。

 そして、今こうやって怒りを抑えられていないのは思う壺……けれど、この屈辱を抑え込んではいられない。

 

「あのアサシンの匂いがトリガーで間違いない。なら、これで――!!」

 

 真名解放した槍が巨大化する。愛する者に向ける事で真価を発揮する槍。本当なら夢の中とはいえこんな事をしたくはなかったけれど、床に置かれた先輩の写真を見て私は彼を想った。

 

 想えば思うほど槍は重くなる。そして――

 

「――先輩の写真ごと、不愉快なこの舞台を貫く! 死がふたりを分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)!!」

 

 天井を抉り取る程に巨大な槍を振り下ろした――

 

 

 

 

 

 玲の笑顔を引き出す為に、更なる戦いを望んだ私はまた変な夢の中にいた。

 

 今回は何もヒントになりそうな物もなく、目の前にマンションが建っていたので中に入って部屋を調べる事にした。

 

「気を付けろ……?」

 

 1つの階に4部屋。その中には意味深なメッセージが壁に書かれている所もあった。

 

「奴らは1人……?」

 

 そして4階に辿り着いたと同時に突然霧が漂い始めた。

 

「これは――っ!」

 

 数秒と待たずに一寸先の視認すら困難にする程の濃さを不審に思っていると、何者かの襲撃を受けた。

 

「ん。マスターに防がれるとは思わなかった」

 

 咄嗟に抜いた刀で応戦したが、辺りは霧に包まれている。

 

「しょうがない……アン!」

 

 白の中から飛び出しては消える刃を辛うじて受け流して位置を掴もうと防戦に徹していると、今度は銃弾が飛んできた。

 

「っく、……っ!?」

 

 何とか刀で弾いた――と思った瞬間、私の足に痛みが走った。

 初弾とは別の方向から放たれたもう1発が私の足を掠ってしまったのだ。

 

「退かないと……!」

 

 視界が悪いけれど、記憶の道筋を辿って階段に身を潜める事にした。

 

「……次に接敵されたら、不味いよね」

 

 足を押さえながら周囲を伺う。

 銃と刃を持った敵が2人。だけど、霧のせいで顔すら見えない。

 

「……せめて、部屋に入れば」

 

 このまま階段に隠れていても見つかってしまえば挟まれてしまうが、入り口が1つだけの部屋に入れば1対1に持ち込める。

 

「……」

 

 耳を澄ましても音は聞こえない。時間が経てばそれだけ状況は悪化する――

 

「――っ!」

 

 ならば迷わず、真っ直ぐ駆け出した。

 音を出さず、痛みを堪え、最小の動きで扉を開けて――

 

「――はい、捕まえた」

「っむぐ!?」

 

 反応する間もなく、抱き締められて顔は柔らかい物に包まれた。

 金髪の女性の大きな胸を押し付けられたのだ。

 

「ふふふ、マスターはこれで私の物ですね?」

「は、離して!」

「嫌でーす」

 

 白いビキニの女海賊アンと私の力の差は歴然で、振り解くのは難しい。

 

「メアリーが来る前に、マスターを頂きまーす」

「この、やめて!」

「先まで凛々しいお顔でしたのに、そんな風に可愛く抵抗されては、もう辛抱できません……じゅるり」

 

 その姿に、以前手合わせした宮本武蔵以上の悪寒を感じた。

 あの時は唇を奪われたりと確かにショックが大きかったけれど、目の前の女海賊は私の大事な物を全部堪能するつもりだ。

 

「駄目! そんなの、絶対いや!」

「まぁまぁ、そんな事言わずに……きっととっても気持ちいいですから」

 

 押し倒され、武器の刀も放り投げられ、一切抵抗出来ない。

 

(嫌だ。玲に、最初は玲なの……! これ以上は……!)

 

「っこの!」

 

 痛みに歯を食いしばり、足で彼女の腹を蹴った。

 けれども、ビクともしない。

 

「痛いですよマスター……でも、そういうプレイがお好きでしたら、私も合わせますよ? 勿論、痛くするのは私ですけど」

 

 そう言ってアンは私の上に乗り、足を抑えながらこちらに手を伸ばす。

 

「っく!?」

 

 両手で彼女の手首を掴まなければ、そのまま私の服は襟から破られていただろう。

 

「ふふふ、抵抗しないで――」

「――アン、やり過ぎじゃない?」

 

 別のサーヴァントが扉からやってきた。

 

(っ!?)

 

「あらあら、ゆっくりし過ぎてしまいました」

「本来僕達は2人で1人だけど、この空間では被害者(マスター)を互いに取り合う怪異役」

 

 メアリーとの会話をしながらも、アンは胸元に銃を出現させている。

 

「この距離はまで近付かれたら、君に勝ち目はないんじゃない?」

「……それはどうでしょう」

 

 メアリーが駆け出した。このままだと、アンは待ちがいなく切り裂かれる。

 

「っぐ!」

「何!?」

 

 その斬撃は、彼女の銃を持たされた私が受け止めた。

 

「油断大敵ですよ、メア――」

 

 ――私の刀を振り下ろす前にマンションが揺れた。

 

「これは――」

「誰かの宝具!?」

 

 チャンスだ――私はメアリーの足を払って銃でメアリーに殴り掛かる。

 

「っ!?」

 

 互いに慣れない獲物だった為かどちらの手からも武器は逃げ出し、空手で宙を舞った刀を握った私は2人のサーヴァントにそれを向けた。

 

「姿が見えているなら、こっちの物!」

 

 一歩でアンを切り伏せ、二歩で距離を詰め、三歩――

 

「異流・無明三段突き!」

 

 2人の海賊が床に倒れると、あの不気味な霧はマンションから消えて行った。

 

 

 

「……」

「……!」

 

 私はもう跡も形もないコテージを抜け出して、静謐のハサンと手を繋ぎながら歩いていた。

 どうやら怪異となったサーヴァントは撃退されると危害を加える事はなくなるらしく、私も姿はともかく恋敵ではない相手に敵意を向け続けていられる程暇ではないので妙な真似をしたら首を刎ねる事を条件に彼女と一緒に歩いている。

 

「……マスターの肌、綺麗ですね」

「そうね。変な触り方しないで」

 

「好きな殿方がいるからでしょうか?」

「勿論」

 

「……羨まし――いです」

「避けるな」

 

 先輩に気がある様な発言をしたから刺そうとしたのに躱された。

 

「安心してください。私はマスター一筋です」

「要らない、必要ない、興味ない」

 

 私の心は先輩だけの物だ。

 先輩が私だけを見てくれればそれで……ん?

 

「――ホテルはあちらです」

「楽しむならやっぱりあそこだよね」

「いや、私はそんなつもりは一切ないの!」

 

 後ろから何か走ってやってきた。

 どうやら、桜ちゃん以外のマスターの様だ。

 

「……あれ? 貴女は?」

「私はエナミ。貴女と同じ様に、この変な夢の中に連れてこられました」

「エナミさん……ん? そんな知り合い、私にいたかな?」

 

 カルデア戦闘服に日本刀を腰に携えているこの人は、確かモニターに“切華”と表示されていた。

 

「貴女は切大先輩を知っていますか?」

「切大? うーん、心当たりはないかなぁ?」

 

 …………嘘は言っていない様だ。

 

「いえ、知らないならいいです。私達は同じ夢の中にいるだけですので、知り合いでなくても不自然ではありません」

「そうなの? あ、私は切華だよ。よろしくね?」

 

「はい」

 

「……マスター、僕達以外と話して楽しそうだね?」

「メアリ―、武器を使っちゃ駄目よ?」

 

 どうやら後ろのサーヴァントを彼女は屈服させた様だ。なら、このまま一緒に行動しても肉壁位にはなってくれるだろう。

 

「一緒に行きませんか? 私達の他にも後2人迷い込んでいるんです。その2人と合流すればこの夢から覚めれると思います」

「うん! なら一緒に行こう!」

 

 さて、後は桜ちゃんともう1人から先輩との関係の有無を聞き出さなくては……

 

「このホテルって……」

「どんなサーヴァントが襲ってくるかわかりません。慎重に行きましょう」

 

 中に入ってみると、ずいぶんと豪華な内装だ。明かりもしっかり点いている。

 

「……誰もいない?」

 

 辺りを見渡したけれど、私達を出迎える様なサーヴァントはいない。

 

「ねぇ、あそこ!」

 

 切華さんが指さした場所を見ると、階段に木片が散らばっているのが見えた。

 

「中で何か起きたみたい」

「ええ。見に行くべきですね」

 

 私は静謐のハサンに目配せをして先行させる。

 

「任せて下さい」

 

 スッと消えていく彼女に先の確認を任せつつ、私達はゆっくり進む事にした。

 

「ねぇ、確かこのホテルって島の向こう側に続いているんでしょ?」

「え? ……ああ、確かにゲームではそうでしたね」

 

「じゃあ、そこに向かうべきなのかな?」

「恐らくそうですね」

 

 此処に来るまでショッピングや民家も見つける事は出来なかったし、もう逆側に向かうしかない。

 

「――マスター」

「うん? もう戻ってきたの?」

 

 途中で消滅してもよかったのに、静謐のハサンが帰ってきた。

 

「このホテルには誰もいませんでした。奥の方に全く同じ構造をした入り口が開いていたので、恐らく皆出て行ったと思います」

「つまり、マスターの誰かが逃げたって事ですね」

 

 流石に、まだ先輩との情報も引き出せてないし、友達が死んだら夢見が悪い。

 私達はホテルを出て追いかける事にした。

 

 

 

「もう来ないでよ……」

 

 私は今、子供達に追いかけられている。

 唯の子供じゃなくて、サーヴァント達に。

 

 ジャックちゃんに閉めた扉を切られ、ナーサリーちゃんによって何度も幻を見せられて……それでも何とかホテルから出て近くの民家に身を隠せたけど、多分すぐに2人はやってくる。

 

「うう……どうしよう」

 

 今回の悪夢の中で眠ろうとすると、不気味な声が聞こえてくるから陽日君に教えてもらった方法は通用しないし……

 

「マネージャー、出てきなさい」

 

 ――聞こえてきた声に顔を上げた。

 

 声の主のエリザちゃんはアイドルを自称する可愛いサーヴァントだけど、血を求める吸血鬼。

 

 そして私の事をマネージャーと呼んでは血を飲んだり、歌やダンスのレッスンに付き合わされ、毎回彼女の水分補給用のボトルに私の血を垂らす様に頼んでくる。

 不思議な事にその時に歌う彼女の声は綺麗でとても美しいけれど、自信満々に他のサーヴァントの前で歌うと破壊力の伴う暴音になる。

 

 そうだ。彼女は数少ない信用出来るサーヴァント――

 

「――やっぱり出てきた」

「お母さん、嬉しそう」

 

 しかし、そこに彼女の姿はなく、私を追っていたジャックちゃんとナーサリーちゃんが怒りの目を向けていた。

 

「あ……そん、な……」

 

「嫌。どうして怖がるの?」

「ジャック。今の私達の役割は純粋無垢な殺人鬼(サイコパス)。怖がられる事を嫌がっては駄目よ?」

 

「違う。お母さんはわたしたち以外の人が良いって思ってる。そんなの嫌」

「ええそうね。マスターは私達を裏切った酷い人。そんな貴方の役割は被害者(元凶)。だから私達が殺してあげる」

 

「入れて。ねぇ、入れて。お腹に、魂に、心に」

 

 ジャックはナイフを振り上げた。押し入れに隠れていた私にもう逃げ場はない。

 

「やめて……!」

「どうして? もうわたしたちの場所はないの?」

「ジャック。奪っちゃえばいいの。奪っちゃえば、もうあの娘の場所はないわ」

 

 ナーサリーちゃんの言葉に、ジャックちゃんは頷いた。

 

「そうだね」

「やめてぇぇぇぇぇ!!」

 

 振り下ろされた刃に、唯々悲鳴を上げるしかなかった。

 

「――大丈夫よ。マスターは死なない。ジャックも悲しまない。そういうお話は、ちゃんと用意してあるから」

 

 ナイフの痛みが体全体に広がり、私の意識は薄れ――気を失った私は、その場に倒れた。

 

 

 ――頭を抑えて立ち上がり、辺りを見渡す。

 

「……あれ? 私、どうしてこんな所に……」

「目が覚めたかしらマスター」

 

 そんな私の前にナーサリーちゃんがいた。恐怖を感じて慌てて立ち上がろうとして、私は自分の異変に気が付いた。

 

「重い……? あ、あれ!? な、なんで!?」

 

 慣れない重みを感じてお腹を抑えると、不自然に膨らんでいた。

 

「マスター、無理をしてはいけないわ」

「な、何で私のお腹が、こんなに大きくなってるの!?」

 

「駄目よ。ゆっくり、落ち着いて」

 

 ナーサリーちゃんが近付いてくるけれど、私は落ち着いてなんかいられない。

 

(これは太ったとかじゃなくて、私の中に赤ちゃんが……!?)

 

 混乱して血の気も引いていく私の口に、お菓子を入れられた。

 

「心配しないで。私とマスターの子供だもの。きっと良い子に育つわ」

「で、でも、私とナーサリーちゃんじゃ子供なんて……!」

 

「忘れてしまったの? 私達、結婚したのよ? 子供が出来るなんて普通じゃない」

「……そ、そうだった……ね?」

 

「ええ、そうだったのよ」

 

 そうだ。結婚したら子供が出来るのは、普通の事だ……

 

「ええ! 普通なの! さあ、誰かがこちらにやってくるわ。私達でお出迎えしましょう」

「そ、そうだね……」

 

 ナーサリーちゃんの手をとって、うまく動けない私を彼女が優しくエスコートしてくれる。

 

「ふふふ、早く大きくなってね。ジャック」

 

 

 

「……貴方は鼎さんですか?」

「はい。私は鼎ですよ?」

 

「同い年位なのに……その、お子さんですか?」

「ええそうよ。マスターと私の子供なの!」

 

 そう言ったサーヴァントに少し恐怖を感じてしまう。

 どうやら、私達と違って鼎さんは乗り越えられずに捕まってしまったようだ。

 

 ショックを受けている切華さんと顔を合わせ、私はゆっくり顔を伏せた。

 察してくれ様で彼女はこの話題をやめて次に向かう場所、デパートへと向き直した。

 

「じゃあ、早く行かないと」

「既にハサンに向かわせていますので、急がず向かいましょう」

 

 そう。私には先輩がいる。鼎さんの二の舞なんて絶対になる訳にはいかない。

 桜ちゃんも、捕まっていたりしなければいいけれど。

 

「あ、白嗣ちゃーん!」

「っ、桜ちゃん!?」

 

 突然木々の向こうから呼び掛けてくる彼女に驚いて、そちらを見ると桜ちゃんらしきぐだ子がいた。

 しかし、その衣装は赤と白のミニスカサンタだった。

 

「え!? なんでサンタ!?」

 

 私の代わりに切華さんが驚きの声を上げた。

 

「デパートでアストルフォくんに、良く分からない力でサンタにされちゃったの!」

「いや、されちゃったのじゃなくて……」

 

 これ、桜ちゃんもやられてしまったって事なんじゃ……

 

「ふふふ、でもこれ凄いんだよ! この袋とか、何でも入っちゃうの! ほら!」

 

 そう言って彼女は担いでいた白い袋を地面に置くと中から黒い獣の耳を掴んで、放り投げた。

 

「んー! んんんーー!!」

 

 それは、セイバークラスのアストルフォだった。

 

「え……?」

「わぁ……」

「まぁ」

 

 しかし、両手両足は手錠で拘束され口には布が巻かれている。

 

「良いでしょ? アストルフォくん、私のサンタ衣装みたら凄い発情しちゃって全然言う事聞かないから、お仕置きにこうして散歩に連れて行ってあげてるの!」

 

「んー! んー! んー!」

 

「……桜ちゃんは、そういう人だったね」

 

 私の心配も杞憂だった様だ。ほっとした。

 アストルフォがあんまり唸るものだから鞭まで取り出してるし、やっぱり先輩なんて眼中になさそうだ。

 

「いや、なんで安心してるの!? 明らかに危ない人じゃない!?」

「いえ、桜ちゃんは普段からこんな人ですから……」

 

「あんな可愛い子を苛めるなんて怖いマスターさんね」

 

 一番恐ろしい目に合っているだろう鼎さんがそれを言うのはどうなんだろう。

 

 ……ん? 

 そういえば、先行させた静謐のハサンは兎も角アン&メアリーとナーサリー・ライムは何処に……?

 

「あれ、アストルフォくーん? どこぉ?」

 

 そして、突然昼の明かりに包まれていた景色が夜の闇に閉ざされた。

 

「なんで!? 急に暗くなって!?」

「え、え?」

「白嗣ちゃん!? こ、これは何!?」

 

 皆も慌て始めていた。

 どう考えても、私達を一網打尽にする為の襲撃だろう。

 

「クラスカード……無い?」

 

 おかしい。あのカードを無くす筈がない。

 

「あれ!? 私の刀がない!」

 

 どうやら武器になる物は全て奪われてしまった様だ。

 やがて、どこからともなく声が聞こえてくる。

 

『――毒の瘴気は心を蝕む。

 殺意に任せて、愛する者の血を浴びる』

 

『――霧の影は凶器を隠す。

 血染めの刃と狂った銃弾、その間を逃げ惑う』

 

『――2つの魂は生命を貶める。

 異なる巣に還り、人生すらも奪われる』

 

『――聖夜の夜は血に染まる。

 赤い服は幸せのコートか、それとも悪魔の制服か』

 

 B級映画のキャッチコピーが響いて聞こえる。

 集まった私達を囲うように先までいたサーヴァント達が現れた。

 

「マスター。貴方の恋は貴方の手で終わり、その虚無の手を私が掴みます」

 

 静謐のハサンが切華さんの前で香りを漂わせ。

 

「命まではとらないよ」

「ええ。肌を重ねたいだけですので」

 

 アンとメアリーが普通のお腹に戻った鼎さんに迫って。

 

「お母さん……お母さんのナカ」

「マスターの物語(人生)に、私はいたいの」

 

 桜ちゃんに駆け寄るジャックとナーサリー・ライム。

 

「サンタになろうよ? 僕、マスターのサンタ衣装、みたいなぁ」

 

 私に近づいてくるセイバー・アストルフォ。

 

「まぜてきましたね……!」

「白嗣ちゃーん! この子達怖いし、アストルフォくんと代わってよー!」

 

「玲……玲……!」

「この人達、目が血走ってて怖いよぉ!」

 

 皆が狼狽えていた。私も、クラスカードが静謐のハサンの手にある事に戸惑いを隠せない。

 

 気が付けば切華さんはあの匂いを嗅がされて暴れているし、鼎さんは霧で見えなくなり、桜ちゃんと私にもサーヴァントが迫ってくる。

 

「こ、来ないで!」

 

「……」

 

 ――まあ、この程度なら問題になりませんけど。

 

 靴を脱いで虎の子の1枚を取り出した。

 

夢幻召喚(インストール)オリオン(アルテミス)

「へ?」

 

 変身、そして間抜け面して近付いてくる1ミリもサンタ要素のないアストルフォに一撃をくれてやる。

 

「――ありゃぁぁぁ!?」

 

 地面を抉る程の矢の一撃を受けて、間抜けな声で吹き飛んだ。

 

「――ふぅ。あ、桜ちゃんは?」

 

 一瞬忘れていた友人の危機を確認しようと隣を見ると――

 

「――こんなに弱い訳ないでしょう! どれ、どれが本物の玲なの!?」

 

 何故か、刀を取り戻した切華さんが静謐のハサンだけでは飽き足らず他のサーヴァント達すら手当たり次第に刺し貫いていた。

 桜ちゃんと鼎さんが手を合わせて隅の方で震えている。

 

「あ、あわわ……!」

「む、無茶苦茶だよぉ……2人共……!」

 

 心外だ。友達にこんなバーサーカーと一緒くたにされるなんて。

 

 そして、最後の1人だったアストルフォの消滅を機に、私達はヤンデレ・シャトーから脱出した。

 

 

 

「――で、結局先輩のせの字もなかったじゃないですか!」

「だから説明しただろう。お前の先輩は他の3人のマスターと共に行動する事があると。それと同じ体験をお前に与えただけだ」

 

「はぁ……明日から桜ちゃんにどんな顔して会えば……」

 

「それは俺の対処すべき問題ではない」

「いいですか! 次は先輩と一緒! 一緒でお願いします!」

 

 私の言葉を聞いているのか、エドモンの姿はふっと消えて行く。

 

 目が覚めた私はスマホを見る。現在時刻は4時。

 

 桜ちゃんは……流石にまだ起きてはいないだろう。

 しらばっくれれば、彼女も夢だと思って追及してこないかもしれない。

 

「……」

 

 先輩にこんな顔を見せる気にもなれず、学校で会いましょう、とだけ私は送っておいた。

 

 

 

 

 

「ごめん、白嗣ちゃん!」

「え、いきなり何を――」

「――もう私、切大先輩を見たりしないから許して!」

 

「別に、怒ってないけど……」

「ごめんなさい!」

 

「あ、別に苛めた訳じゃないですよ! 

 クラスメイトの皆さん?? なんですか、その「遂にやったな……」みたいな顔は!?」

 

「本当にごめんなさい! だから矢で射貫いたりしないでください!」

 

「だから、誤解を生むような謝罪はやめて下さい! 皆も「そこまでしたか」みたいな顔でスマホを構えるなぁ!」

 




桜とエナミに上下関係が出来た話でした。

夏イベントでホラーもヤンデレも供給されたので筆が止まりました。
これは冷やし中華のノリでクーデレを始めるしかない。(9月)

冗談はさておき告知になりますが、今週の土曜日10時以降に初の執筆配信を行う予定です。時刻、リンクなどは後日、活動報告やTwitterの方で載せておきます。
興味のある方は一瞬だけでも視聴して頂けると嬉しいです。

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