ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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BBちゃんが復刻したから書きたくなりましたが、のんびりし過ぎたせいで投稿と同時にキアラ戦する羽目になってます。

後30分! 果たしてクリア出来るのか!? いざとなったら残しておいた令呪を使います。


ヤンデレ・シャトー……???

「こんばんわー! お久しぶりのBBチャンネルのお時間です!」

「…………」

 

 拍手は、一応しておこう。

 

「その曖昧な反応で先輩面をしようと考えているその魂胆! 見え見えですよ?」

「いやー、本当になんで放送再開したのか聞きたい気分」

「本当はBBちゃんが他のマスターの所に行ったりしてないか気が気じゃなかった癖に……このこのぉ!」

 

 棒で人の頬をツンツンするんじゃありません。

 

「さあ、久しぶりにヤンデレ・シャトーの管理権限を手に入れた私に何をして欲しいですか?」

 

「安らかに眠らせて欲しい」

 

「きゃー! BBちゃん、先輩を殺したくありませーん!」

 

 そういう意味じゃねえだろ。いや、どうあっても殺す気だろ。

 

「何を言ってるんですか? 安らかなんてそんなつまらない方法で殺したりする訳ないじゃないですか」

「面白さを求めるんじゃない」

 

「それでは始めます! 先輩は最大限私を楽しませる素敵な悪夢を過ごして下さいね?」

 

 

 

「背中がぁ!?」

 

 飛ばされて背中を強打し、その痛みで忘れかけていたエドモンの優しさを思い出せた。

 誰か彼に休みを与えてくれ。そしたら俺も普通に休めるから。

 

「っぐ……たたた……」

 

 なんとか体を起こしつつ辺りを見渡すと普段通りのヤンデレ・シャトーだった。逆に不安だ。

 

 一応自分も確認するが、特に動物になっていたり体が縮んでいたりはしていない。

 相変わらず手の甲の令呪の上に桜マークが置かれているけど。

 

「BBパニックだっけ? ……これ発動されるとどうしようもないんだよな……」

 

 これが発動した後の記憶はまるでないけど、即ゲームオーバーレベルの何かが起こるのは何となく分かる。

 

 サーヴァントはやってこないのだろうか?

 余りにも低い可能性を祈る暇もなく、シャトーの廊下から足音がやってきた。

 

「あら、私が一番乗りかしら?」

 

 紫色の髪は彼女自身より長く、着ている衣装は純白でウエディングドレスを思わせるが、彼女の内面を表しているのか所々黒の差し色が入っている。

 

 無垢と純粋、理想で作られた女神エウリュアレである。

 

 ヤンデレ・シャトーにおいてその魅了に捕まれば修羅場必須である。

 なにせ魅了された俺はその間一切行動が出来ず、他のサーヴァントに救出されるのを待つだけになるのだから。

 

「今日はステンノも駄妹もいなくて退屈なの。マスター、こんな寂しげな私を置いて行ったりはしないでしょう?」

「……」

 

 黙って頷いた。

 一度魅了されてしまえば何も出来なくなる。大人しく従おう。

 

「……」

 

 しかし、彼女はそんな俺を見て悪戯な笑みを浮かべて首を傾げた。

 

「?」

 

 やがてゆっくりとこちらに歩いてきた彼女の柔らかく小さな手が俺の頬を撫でた。

 

「女神の私の問いに黙って頷くだけ。なら私の人形と同じだと思わない?」

「え、いや、返事を返さなかったの……怒ってます?」

 

「ええ、とても」

 

 エウリュアレは人間に悪戯するのが好きな、とても気紛れな女神だ。

 これは、気紛れで俺を魅了するパターンだ。

 

「ちょ、ちょっと待て!? あ、いや、ごめんなさい! だから魅了だけは勘弁してください!」

「……え、え?」

 

 ……あれ? 魅了されてない? やめてくれたのか?

 

「……と、取り敢えず動けないから手を退けてもらっても?」

「――」

 

 何故かエウリュアレは驚愕しており、退ける所か両手全ての指を握る様に俺の頬に押し込んだ。

 

「答えなさい、私は誰かしら?」

「え、エウリュアレ……だよな?」

 

 もしかしてBBに認識操作されているんじゃないかと思いながらも、質問に答えると彼女は手を離した。

 

「……どうして?

 ――どうして魅了されていないの!?」

 

 俺の両腕を掴んで強く揺らされた。

 どうやら、エウリュアレの魅了が封じられていらしい。十中八九、あのラスボス系後輩の仕業だろう。

 

「どうやら、魅了が封じられているみたい」

「そんな……」

 

 どうやらエウリュアレ本人は今まで気付いていなかったみたいだ。

 でも、これはどう考えてもBBの仕業だろう。

 

「何か原因があるだろうし、探しに行こう」

「え、ええ……そうね」

 

 戦闘力の無い彼女に魅了がないなら傍に居ても問題ないだろうと頭の片隅で考えつつ、手を伸ばした。

 他にもサーヴァントがいるだろうし、いたとしても同じ様な状態でなのかもしれない。

 

「どこに行くの?」

「取り敢えず、他のサーヴァントを探して情報を――」

 

「――駄目よ! 私が目の前にいるのに、他の女と会うなんて許さないわよ!」

「そ、そんな事言われてもな……」

 

「……相変わらず、自己保身に走り過ぎですよ先輩。

 全くサーヴァント心と言うものを理解していませんね」

 

 そう言って天井から降りて来たのはこの状況の元凶、BBだ。

 

「何をしに来た?」

「勿論、先輩を手に入れに来たに決まっているじゃありませんか」

 

「なら直ぐに撃ち抜いてあげるわ!」

 

 エウリュアレは自身の宝具である弓矢を手に取りBBへと放ったが、簡単に避けられた。

 

戦闘要員(バトルモデル)でもない見た目だけのお人形さんなんて、怖くないですよ?」

「言ってくれるじゃない! なら――っ!?」

 

 BBが指揮棒を振るうとエウリュアレの動きが止まった。

 

「彼女の視覚と聴覚は今BBチャンネルに繋がってまーす!

 つ・ま・り、此処で今から私が先輩を寝取っても彼女は気付けない、と言う事です」

 

 それはどう考えても不味い。だが、彼女の宝具である棒を向けられ俺は動けなくなってしまう。

 

「まぁ、流石それはチート過ぎますので止めておきますが……先輩、ちょっとガッカリさせないで下さい」

「何?」

 

「此処はヤンデレ・シャトーです。先輩の目的は逃げる事。

 こんなシンプルな条件(ミッション)なのに、魅了が使えなくなった原因の究明なんて、ややこしい話はいりません」

 

「じゃあエウリュアレを置いて逃げろって事か?」

 

「サーヴァントの多くは生前の本人(オリジナル)の伝承が元になった宝具やスキルを有していて、それがあるからこそ存在を確立しているんです。

 男性にとっての理想の女神が、マスターを魅了出来ずに見捨てられる……素晴らしいシチュエーションじゃないですか」

 

 俺にその通りに動いて欲しいって訳か。

 

「まあ、私の出番はまだまだ先ですし、これ以上の介入は一切しませんのでご安心下さい。ですが……先輩の身も心もこのBBちゃんの物だという事は、決して忘れないで下さいね?」

 

 言うだけ言って飛んで消えて行きやがった。

 

「……っは! ……マスター、無事かしら?」

 

 エウリュアレもどうやら無事な様だ。

 ……好き勝手言われたけど、その通りにしてやる理由もない。

 

「大丈夫だ」

「本当に? 私が視界を乗っ取られている間に貴方も何かされなかった? どこもおかしくないの?」

「ああ、特に何もなかった」

 

「……そう」

 

 怪しまれているが実際何もされていないのだからこれ以上追及される事もなかった。代わりに、手を繋ぐ様に差し出すとすっと握ってくれた。

 

「ふふふ、女神の私とずっと繋がっていたいなんて貪欲なマスターね」

「そうですねー」

 

 しかし、ずっと握って歩いていると少しだけ彼女の腕から震えが伝わってきた。

 

「……エウリュアレ?」

「マスター……私、正直怖いわ」

 

 エウリュアレの口からそんな言葉が飛び出して、俺は少し驚いた。

 戦闘能力は高くはないが、普段からステンノと一緒に色んな人を弄ったり、煽ったりしていた彼女の口から怖いなんて言葉が出るなんて。

 

「だって、マスターにとって今の私、必要なのかしら? 魅了の使えないエウリュアレは貴方の役に立つのかしら?」

 

 その言葉に俺は直ぐに頷き返した。

 

「俺は弱いマスターだから、どんなサーヴァントだって必要だし、どんなサーヴァントにだって頼る。だからエウリュアレには一緒に居て欲しい」

 

「…………」

 

 エウリュアレは俺から顔一度逸らした後、ニコリと笑った。

 

「……60点ね。私みたいなか弱い女神を口説くなら、自分を弱いだなんて言ってはダメよ? それに……そんな台詞は――」

 

「――!」

 

 背伸びをしたエウリュアレは俺の頬にキスをした。

 

「……キスの後に言う物よ。そうすれば、どんな中身の無い言葉も甘美に聞こえて来るのよ」

 

 彼女に弄ばれたと気付いた俺は、一度頭をかいてから少しだけ歩幅を広げて歩き続けた。

 

 

 

「私を慰めようとしてくれるなんて、優しいマスターね?」

 

「……」

 

「ああぁ、魅了が使えたらこんな素敵なマスターの欲望を開放して私を思う存分に堪能させてあげられたのに、残念」

 

 めっちゃ煽ってくるエウリュアレの言葉を聞き流しつつヤンデレ・シャトーの暗い廊下を歩いていく。

 彼女の持つ幸運EXのおかげか、他のサーヴァントとはまだ遭遇していない。

 

(まあ、多分BBが何か仕掛けているせいなんだろうけど)

 

「……ん?」

 

 噂をすればか、突然前から誰かの足音が聞こえてきた。

 エウリュアレが弓を構えたが俺はそれを静止した。

 

「どうして止めるのかしら?」

「様子を見よう。BBじゃなさそうだし、もしかしたら困ってるのかも」

「他の女を助けるの?」

 

 エウリュアレの質問に答えるよりも先に、足音の主は俺達が視認できる位置までやってきた。

 

「マスター! 此処に居たか!」

 

 駆け寄ってきたのは白い軍服の様な衣装を着た褐色系セイバーのラクシュミー・バーイー。

 普段は幸薄そうな顔……もとい、真剣な表情をしている事が多いのだが、今は手を振って笑いながらこちらに駆け寄ってきている。

 

「ラクシュミ―?」

「む、私の他に女性が……だが、そんな事は些細な事だ!」

 

 エウリュアレを見て眉を顰めたが、直ぐに笑顔で向き直った。

 

「見ろ、これを!」

「ん? なにこれ?」

 

 なんか、アイスの棒みたいな物をこちらに向けたけど……あたり? え、嘘?

 

「BB、と言っていたか? そんなサーヴァントが私の不幸を取り除くと言って、試しにアイスを食べたら当たったんだ!」

「不幸を?」

 

 やはりBBの仕業の様だがラクシュミーと言えば歩くだけで落とし穴に落ち、バナナで滑り、冷水を被る様な不幸体質が大きな特徴だ。

 

「ふふふ、これで大手を振ってマスターの隣を歩けるな!」

「滑稽ね。私が見えないのかしら?」

 

 エウリュアレは俺に抱き着きつつ、ラクシュミーを嘲笑った。

 

「マイナスが無くなっても漸くゼロよ? 女神の私がいるのだから、マスターが貴女のプラスになる事はないわ」

「不幸さえなければ自分の実力を信じるだけだ。マスターは、私の力で手に入れて見せる!」

 

 剣を抜いたラクシュミーは何時も以上のやる気に満ちており、まるで迷いがない。

 

「……女神エウリュアレ。私はカルデアの仲間として貴女の事を知っている。神話の系統は違えど、女神の力を借りている身だ。出来れば斬りたくない」

「忠告のつもりかしら? 確かに趣味ではないけれど、マスターの為なら狩人の真似くらいしてみせるわよ」

 

 俺を挟んで2人の間に火花が散っている。

 正直、不幸の無くなったラクシュミーが相手ではエウリュアレに勝ち目は無い。俺としても、BBのたくらみが見えない今はどちらかに消滅してほしくはない。

 

「マスター、彼女を止めてくれないか? 貴殿ならどちらに軍配が上がるか既に分かっている筈だ」

「邪魔は無しよマスター。勿論、私への手助けなら幾らでも歓迎するわ」

 

 っく、こっちを見るな! もう面倒だからこっそり逃げようとか思っていたのに!

 

「む、その顔はまさかこの場から逃走を?」

「そんな訳、無いわよね?」

 

「まさか……2人が戦わない限りには、逃げないよ」

 

 俺の言葉にラクシュミーは僅かに、エウリュアレは明らかに不機嫌になった。

 

「我儘なマスターね。もしかして、私にキスされたから調子に乗ってるのかしら?」

「っ、何!?」

 

 ラクシュミーは驚きながらエウリュアレに斬りかかったが、エウリュアレはヒラリと躱した。

 

「……どうやら、許す事の出来ない悪神だった様だな」

「あら、貴女こそ乱暴な野犬の割には上品な遠吠えだったわよ?」

 

 一瞬で一触即発である。

 こうなったら俺には止められない。

 そう考えている内に、足は自然と2人から離れて行った。

 

 

 

「マスター、だーいすき!」

 

 そう言って小学生くらいの小さな女の子に抱き着かれてたけれど、俺は決してロリコンではないとだけ言っておこう。

 そもそも両手が氷の縄で縛られているので完全に不可抗力だ。

 

「シトナイ……?」

「えへへ、何時もはね、どんなに温かくなっても心は動かないんだけど……今はとっても素直になっちゃったんだ!」

 

 そう言ってぎゅーっと抱きしめる彼女は年相応で、その言動から未だに召喚できていない魔法少女を思い出す。

 

「ちゅー!」

「んー!?」

 

 あっさりと唇同士が触れ合い、離れた後に目が合って彼女は微笑んだ。

 

「嬉しい……マスターさんと、キスしちゃった。

 もっともっと、していい?」

「だめ――んん!?」

 

 俺の答えなんかお構いなく、彼女はまた唇を重ねた。

 三柱の女神をその体に内包したハイ・サーヴァントであるアルターエゴ、シトナイの体は少し冷たく、それゆえに繋がった口の中でも彼女の温度がはっきりとこちらに伝わってくる。

 

「んっ、ぁん……んんんっ」

 

 僅かな隙間が出来る度に水音が漏れ、白い吐息が溢れ出した。

 目に見えたそれが俺の肺に入っていくのを想像したのか、彼女の呼吸と動きが更に激しくなった。

 

「ん……ふぅ……マスターさんの口の中、凄く温かくって、まるで私の舌がマスターさんの心に触れたみたい」

「はぁ……はぁ、はぁ……」

 

 流石サーヴァントか。こちらは呼吸が長い時間不自由な上に現実だったら豚箱行きだったという衝撃で息を整えるのに十数秒掛かるのに、まるで疲れていない。

 

「ねぇ、ちょっと後で遅いかもしれないけど……私と結婚して!

 キスまでしちゃったし、マスターさん、責任取ってくれるよね?」

 

 あちらからキスしてきたのに、責任をとって嫁を取れと? これが責任転嫁と言うやつか。……絶対違うな。

 

「マスターの手も体も、お口の中も、とっても温かくて……私、もう欲しくなるのが止められないの! だから……いいよね?」

 

 良くない。

 そう答えよう口を動かしたが、それより早く――部屋の扉が吹き飛んだ。

 

「っきゃぁぁぁ!?」

「シトナイ!?」

 

 扉を吹き飛ばしたのは無数の触手だった。

 黒と、黄色と赤が菱形と三角の模様が延々と続くその特殊な見た目で、直ぐにその触手の主を思い出した。

 

「はいはーい! イチャイチャタイムは終了でーす!」

「BB!」

 

 やはりこいつだ。

 満を持して現れたBBは俺が召喚出来ていない筈の水着、もとい邪神スタイルで現れた。

 

「此処から、BBちゃんによるBBちゃんの為のお仕置きタイム――

 『カースド・カッティング・クレーター』! なーんて、可愛いBBちゃんなのでした!」

 

 ――BBの宝具が解放されると、部屋全てを彼女の影が広がり覆った。

 

 これは世界を抉る対界宝具。

 彼女の影が周囲を虚数空間へと変貌させ、そこにいる俺と世界を低次元の存在に降ろさせるというトンデモ宝具だ。

 

 言うならば、俺は存在しているだけの虫けらであり彼女は支配者。

 

「――ああもう! 自分で解説するだけでウンザリするチート能力だなおい!?」

「まあ、今回は攻撃が目的でないのでスケールは合わせてあげましょう」

 

 そう言って普段の大きさで近付いてくるBBと触手。彼女と向き合うが、正直解決策があるか怪しい。

 

 魔術で動きを封じても此処から出られなければ意味がない。

 だが、出口らしきものは見当たらない。令呪も封じられている。

 

 間違いなくこれは、詰みだ。

 今の彼女の宿している神性の1つは、SAN値絶対減らすマン説があるので、もしかしたら数秒後には発狂している可能性すらある。

 

「あれ? 待てよ、神性って…………まさか」

 

「はーい、その察しの良さは流石ですね!」

 

 神性持ちのサーヴァントからそれぞれの神的能力を奪っていたのは、この霊基の獲得の為だったのか。

 

「BBちゃんがこれまで愉快なサーヴァントさん達の個性を消していたのは、水着姿のBBちゃんを何時まで経ってもお迎えできない甲斐性無しのマスターさんに、この姿をお披露目する為だったんでーす!」

 

 だからエウリュアレから女神としての象徴である魅了が消え、ラクシュミーに力を貸している女神アラクシュミーの不幸が失くなって、シトナイが人間の様な豊かな感情を見せたのか。

 

「ネタバラシは以上です。

 では此処から先輩の本日の罪状を述べていきまーす!」

 

 相当準備していたらしく、態々それらしい資料を手に取って読み上げ始めた。

 

「まず他の女と手を繋いだ事、そしてキスされた事、慰めた事。

 言葉を交わした事、抱き着かれた事、質問された事。

 部屋に連れ込まれた事、縛られた事、唇を奪われた事。

 ……口内に侵入された事。

 …………微笑まれた事…………呆れられた事――あああああ!!」

 

 突然叫びだし、資料は全てビリビリは破かれる。

 俺の前まで舞い落ちる紙切れは灰と化して、消滅した。

 

「多いです! 多過ぎです! そして、1つ1つがとても重過ぎます! 何1つとして見過ごせません! ギルティ、有罪です!」

 

 裁判長の如く、空中に浮かぶ木の机を木槌で何度も何度も叩いて叫んだ。

 その音が鳴り響く度に、俺の体を吹き飛ばそうとする強風に襲われた。

 

「待て待て待て! 大体がされた事だから、俺はむしろ被害者だろ!?」

「いいえ、そんな常識的な反論は許しません! 自分の体を守れなかった先輩が悪です! もう言い逃れは出来ません!」

 

 BBの言葉と共に、俺の口は何処から現れた彼女のと同じ手によって塞がれた。

 

「っぐんー!?」

「私が神メイクをしている間にこんなに罪深くて愚かな人間になってしまっていたんですね……これはもう、先輩の地獄行き確定なので…………」

 

 ――私が何:を@して)も、"良い$で#すよ%ね?

 

 俺の耳元で、彼女と正体不明の声が混ざって聞こえた。

 

「――っ!?」

 

 途端に、近過ぎる死の気配に体が跳ねた。

 

「ふふふ、良いですよ。漸く、恐怖してくれましたね。

 で・す・が……まだ足りませんね」

 

 逃げたい。

 だけど、体が重くて、立っているだけで疲れそうになる。

 

 自分の存在が、弱くなっているのだろう。

 

「先輩は何に期待しているんですか?」

 

 BBの足元から触手が現れ、その内の2本が俺の体と首に絡みついた。

 

「ヤンデレになって先輩大好きなBBちゃんなら殺したりしないとか?」

 

「あっぐ、んんっ……!!」

 

 ゆっくりと圧迫されて、呻き声すら出なくなる。

 

「それとも、他のサーヴァントの助けを待っているんですか? 無駄ですよ?」

「っはぁ……!」

 

 触手が緩んで、俺の頭を無理矢理倒れ伏したシトナイへと向ける。

 

 気を失っている彼女の周りを無数の触手が取り囲み、ドーム状に重なり合って彼女ごと地面に消えた。

 

「はーい、こんな感じで誰が来ても飲み込んじゃいまーす!」

「っ!」

 

「良い感じに鞭が入りましたね? でもでも、BBちゃんはそんな簡単に飴なんてあげたりしません! まずどんなサーヴァントともやっていけちゃうコミ力高めなセンパイのメンタルをぼろ雑巾にしちゃいます」

 

 彼女のその言葉で空間は一瞬で様変わりした。

 

 黒だけの空間は無機質な独房の様な場所に代わり、無数の触手が地面から生えてBBと同じ姿へと変わっていく。

 

 目の前にざっと6人のBBが現れ、無理矢理口角を釣り上げた様な笑みをこちらに向ける。

 

「こ、これは……?」

「BBちゃんは暴力とか大っ嫌いなので、先輩に手をあげたりはしません。

 ですが――」

 

「――がっは!? うぐっ!?」

 

 一番近くに居たBBが俺の頬を殴り、間髪入れずにすぐ後ろのBBが俺の腹を蹴った。

 

「私の触手(コピー)さん達は、センパイを殴りたくて仕方ないみたいです♡」

「な、なんで……っう!?」

 

「何でって、言いましたよね? センパイ(・・・・)のメンタルをぼろ雑巾にするって。

 カルデアのマスターさんの無駄に高いトークスキルと順応性、この塔のマスターさんにも多少なりとも備わっているんですよ。

 ですが、そんな物は私の可愛い先輩(・・)には必要ありません。少し前に会った面倒臭いマスターさんみたいですが、解釈違いです」

 

 無茶苦茶を言っているのだけは分かる。

 だが殴打が続いていてる今、それを指摘する事も出来ない。 

 

「痛いですが? やめてくれって?

 まだです。まだ。減らず口をちゃんと減らさないと」

 

「っぐ! あっ、がぁ!?」

 

 一瞬の間も、隙間もない暴力の連続。

 

 先まで何か喋っていたBBもいつの間にか居なくなっている。

 

「う、っ!」

 

 ダメだ。

 

「が……ぶっ!」

 

 殺される。

 

「っ――っ!?」

 

 気絶も出来ない。疲労で顔は既に上がらない。

 だけど痛みはやまない。

 

 

 

「4時間経過、ですね。

 どうですか先輩? まだBBちゃんの事、話の出来る相手だと思ってますかぁ?」

 

「……」

 

「すっかり壊れちゃいましたか? うーん、でもこれで“カルデアのどんなサーヴァントとも心通わせる人類最後のマスター”では無くなりましたね。

 大丈夫です。BBちゃんの持つ杯を振りかければ――はーい、元通り!」

「……!」

 

 一瞬で体の傷が癒えた。

 しかし、彼女を見ると震えが止まらない。

 

「まあ、記憶までは消しませんけどね?」

 

「びぃ、びっぃ……!」

 

「まあ、あの先輩がこんなに震えちゃうだなんて……! 一体どれだけの苦痛(ストレス)を受けたんですか?」

 

 頬に触れられた瞬間、幾度となく頬を襲った鈍い痛みに襲われた気がした。

 

「や、やめろっ!」

「はい。もう鞭の時間は終了です。

 その間に――ほら、彼女達も」

 

 そう言ってBBは後ろに振り返った。

 俺も一緒にその先を見ると――触手達がラクシュミーとエウリュアレを包んで、地面へと引きずり込んだ。

 

「っ!!」

「これで、もうこの塔のサーヴァントは1騎。人間は先輩1人だけ」

 

「っ! も、もうやめてくれ……!」

 

 俺は力なく頭を下げて、そう願った。

 

「きゃー! あの先輩が私に懇願してます!

 そうですよね。ちっぽけな先輩が、支配者であるBBちゃんに逆らったら危険ですよね?」

 

「……」

 

「ですよね?」

 

「……そう、です」

 

 手の甲に、僅かに熱が灯った気がした。

 

「痛いのは嫌ですよね?」

 

「いや、です」

 

「でも残念でしたー。BBちゃんはこれからもっと痛い事をします」

「っ!」

 

 その言葉に恐怖と焦りが再び脳を刺激した。

 待て、そう言えば今の手の甲に違和感が……!

 

(令呪が蘇ってる!)

 

 ラクシュミーを吸収して不幸を得たせいか? よし、これならBBに命令を下させる!

 

 もう彼女に会うなんて二度とごめんだ。

 なら――彼女に消える様に命令すればいい。

 

「あ……あれ?

 もしかして、令呪が?」

 

「令呪を持って命ずる!

 BB、俺の前から永遠に消え去れ!」

 

 俺の言葉が、彼女を黄金で包んだ――

 

 

 

 

 

「――あ//はは>は.はは(はは3はは%はははははははfははsはははwはは2は@はははははは4は丁ははははは_はは/ははははははhはkははは#はは"ははははははdははは絵っ!!!

 あああああ! 私の可愛い先輩! 大好きな先輩! 愛しの先輩!

 願いましたね!? 縋っちゃいましたね!? 

 令呪に! いえ! 私があげた黄金の杯に!」

 

 彼女を包んでいた光は止んだ。だけど彼女は消えておらず、それどころか彼女は一度だって見たこと無いほどの喜びの声を上げていた。

 

「先輩の願いは――永遠に先輩の前から消え去る事でしたね!?

 この瞬間、その願いは永遠に叶わなくなりました!」

 

「っな!?」

 

「黄金の杯は全ては善悪問わずどんな願いも叶える願望器! で・す・が――叶える願いは反転します。

 これについては、説明しなくても既にご存じでしたよね?」

 

 ――そう、だった。

 ルルハワで、売り上げ1位の同人誌を作り上げさせられた時、彼女の目的は俺達に聖杯を使わせる事だった――

 

「希望が全部奪われて、死んでしまうかもしれない拷問を受けて、漸く目の前に現れた絶望(希望)に縋りついて――漸く、私の本当の願いを叶えてくれましたね?」

 

 もう、言葉を発する事も出来なかった。

 

「そうです、それです!

 その絶望的な、1つ残らず綺麗に奪われてしまった虫の――いえ、ちゃんと感情のある先輩の顔が見たかったんです」

 

 再び、周りの景色が変わっていく――いや、床が、動いている。

 ずっと目の前にいたBBが溶けて、触手に変わった。

 

『ちっぽけな、私の掌の上だけでしか生きられない。

 そんな素敵な先輩は欲しくて欲しくて――こうして、手に入りました』

 

 床が回転して、俺を見下ろす巨大なBBの顔が、見えてしまった。

 

『これで、完全に夢とも現実とも隔離されたこの私の空間で、私だけが完璧に先輩をお世話してあげます。

 奇跡(エラー)も、うっかり(ミス)も、不運(ラッキー)も――起こりません。起こさせません。そんなモノが入る余地などありません』

 

 抵抗なんてできない俺の周りを、彼女の触手が包んでいく。

 

 そして理解した――俺は彼女のモノになってしまったのだと。

 

 

 

 彼女が許さなければ喋れない。

 彼女が許可しなければ歩けない。

 彼女が許すから呼吸できる。

 彼女が許可したから心臓が鼓動する。

 

 彼女の機嫌が良ければ食事が出来る。

 彼女の機嫌が悪ければ寝たまま点滴を打たれる。

 彼女が楽しいから目を開けられる。

 彼女が悲しいから光が無い。

 

 

 

『愛しの先輩の命は保証します。

 限られた生命の中で、BBちゃんをちゃんと愛してくださいね? そうすれば――最低限、家畜位の自由なら与えてあげますからね?』

 

 




最近重かったので珍しくハッピーエンドを書いてみました。(?)


次は大奥ですね! カーマチャレンジはしますが水着が待ち構えているので深追い出来ません。
最悪、陽日君に貸してもらう事にします。

え? 今日家事やってもらってるから無理? 



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