ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】   作:スラッシュ

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4周年記念企画最後の当選者は EX-sはフルアーマー さんです。

今回はとある剣道女子の話。
え? 知ってた? ……さて、彼女の剣はサーヴァントに通じるのでしょうか?



病照例剣豪三本勝負 【4周年記念企画】

「それじゃあ、俺もう行くわ」

 

 そう言って彼は体育館を出て行った。その顔に疲労は浮かべていない。

 

「……強いな、やっぱり」

 

 全部で5試合、時間にして約30分。彼は素手だったのに結局取れたのは1試合目の一本と2試合目の一本だけ。その後は全く当てられずにストレートで負けちゃった。

 

 去っていく玲の背中を見送りながらタオルで汗を拭いて、スポーツドリンクを喉に流し込んだ。

 

「ふぅ……もっと、強く」

 

 大きな大会で結果を残して少し天狗になっていたのかもしれない。玲に追い付く為にも、もっと頑張らないと……!

 

「でも、正直普通にやっても……だよね」

 

 2年連続で全国大会ベスト8だった先輩も私との練習は受けてくれなくなったし、これ以上の相手なんて何処にいるんだろう?

 

「はぁ……私も帰ろう」

 

 更衣室で制服に着替えて、防具を片付けた私は1人で校門を抜けて……

 

「玲?」

「よっ」

 

「何してんの?」

「ん? いや、母さんから今日は真の迎えに行かなくて良いって連絡が入ったからな。久しぶりにお前と一緒に帰ってやろうかなってな」

 

 全く……あれだけ綺麗に打ち負かしておいて、変に気を使うんだから。

 

「だーかーらー、歩きスマホはやめてよ!」

「お前がいるから大丈夫だろ」

「この……! 私の信頼を悪用するな!」

 

 

「先輩! 今日は練習試合して頂けますか?」

「え、えっと……ごめんなさい」

 

 改めて強くなりたいと思った翌日、今日も断られてた……ガックリしながら教室に帰ってきた私に友達の女子が声を掛けてくる。

 

「切華、また断られたんだ」

「うん。自分で自覚してない訳じゃないんだけど……やっぱり自分より強い後輩なんて嫌だよね」

 

「あー……多分そう言うのじゃないと思うよ?」

「え? じゃあなんで私は断られてるの?」

 

「最近聞いたんだけど、切華の事で変な噂が流れてるの」

「変な噂?」

「うん。切華に男友達がいないのは女好きだからだって」

 

 はぁ!?

 

「な、何その噂!」

「なんか、2週間位前から3年の先輩から聞いたって隣のクラスの子が言ってたんだけど」

 

 2週間、3年の先輩……まさか。

 

「はぁ……まさかあの時の?」

「心当たりがあるの!?」

 

 私に本当にその気があると思ってるのか、友達は驚きと興味の声をあげた。

 

「うん。一年の女子生徒に絡んでた先輩をのしてやったわ」

「あー、なんだそっちかぁ」

 

 噂好きの友達がいるこの子も噂好きだから、私が本当に女好きな事に期待していたんだ。

 

「そっか。なんか先輩が私を怖がってみたいだから気になってたけどそのせいなのね」

 

(怖がってるのはやっぱり実力の差なんじゃ……?)

 

「まあ、そんな嫌がらせなんか気にしなければ直ぐに収まるでしょ」

「そうだね。昨日、切華が男子生徒と一緒に歩いてるの見たって子もいるしねー」

 

「……」

「え? もしかしてそっちは本当!? ねぇ、相手は誰!?」

 

「知らない! ほら、もう授業始まるから!」

 

 その日は友達の質問を躱し続けた私は、昨日の練習より疲れた気がしながら家に帰った。

 

「はぁ……FGOか……」

 

 私はスマホを見つめる。ゲームとかあんまり得意じゃないけど、玲が喧嘩を止めてから友達に誘われて始めていたので私もやってみた。

 これのおかげで少し日本史や世界史の授業にいつも以上に真面目に取り組めているけど……正直、玲とはこれについて話したりしない。

 

「これを切っ掛けに昔みたいに仲良くできたらと思ったのに……私の意気地なし」

 

 そんな私を玲はいつも気に掛けてくれているのに、私はどこか、喧嘩してばかりいた昔の幼馴染の姿を求めている。

 多分、あの時の圧倒的なまでの強さを振るっていた彼が私だけを見る血走った瞳が忘れられないのだろう。

 

「っ!」

 

 ゾクゾクと、背中に程よく恐怖の混じった快感が押し寄せてくる。

 

 容赦なく振るわれる拳。隙を見せれば飛んでくる蹴り。

 そして、私が防ぐと鋭く笑う彼の顔……あの顔が、一番素敵かも……

 

「……私、危ない変態なのかな?」

 

 そんな自分に嫌気が差して、ベッドに寝っころがって目を閉じた。

 アプリ起動していた気がするけど、疲れていた私は暗闇に身を委ねて……眠ってしまった。

 

 

 

「マスター」

「……ん……?」

 

「マスター、起きて下さい」

 

 私の頬を誰かが叩いている……

 

「だれ……?」

「まだ寝ぼけているんですか? 私です私! 沖田さんです!」

 

 沖田? そんな苗字、私のクラスに……あれ、でもこの声って……

 

 漸く声の主に気付いて、思わず飛び起きた。

 

「お、沖田って、FGOの沖田総司!?」

「そうですよ! 最強無敵の沖田さんです!」

 

 私は辺りを見渡した。部屋で寝てしまっていた筈なのに、いつの間にか道場に来ていた。

 壁には鞘に納められた刀が、中央奥には掛け軸が2つ、上に横長い額縁が1つ飾られている。

 

「なんで……あ、いや、これは夢、だよね」

「あれぇ? もしかして、まだ寝ぼけてるんですか?」

 

 夢の住人の沖田さんは知らないって事なのかな?

 でも、こうして会えるなんて思わなかったし、おしゃべりするのも楽しいかもしれない。

 

「それでマスター……ちょっと頼み事があるんですけど」

「頼み事?」

 

「此処なら、何時もみたいに誰にも邪魔されないと思うので、その……沖田さんに……キス、して貰えませんか?」

 

 …………は?

 

「あ、も、勿論ほっぺたで結構ですので! あ、それも嫌でしたら手の甲でも……」

「待って、待って!? 何を言ってるの?」

 

「沖田さん、マスターを見てると胸がキューっとしちゃうんです! 女性同士でこんなの変なんですけど、でも、マスターが相手なら……良いかなって」

「いやです! 私は同姓愛者じゃないっ! 無理です!」

 

 そう言って強く拒絶すると沖田さんは後ろに倒れ、絶望の表情を見せた。血の気も引いて青ざめている。

 

「そ、そんな……マスター、沖田さんの事、好きですよね? だから、私に聖杯を五つも捧げてくれたんですよね?」

 

 な、なるほど? それが原因で私に迫って来ていたんだ。

 

「好きだけど、聖杯を上げたのは別にそう言う意味じゃなくて……」

「それ以上は、言わないで下さい!」

 

 そう言って沖田さんは立ち上がった。その際に、服の間から何か紙が落ちて私の前で止まった。

 

“刀をもって打ち破れ。さもなくば、悪夢はお前を喰らう”

 

「……良く分かんないけど、これで良いのかな!」

 

 私は立ち上がり、壁に掛けられていた刀へと手を伸ばす。

 普段使っている竹刀と比べると少し短いそれは、真剣の重さをもっていた。

 

(いつもより20㎝位短いのに、重い……!)

 

 相手は新選組一番隊隊長の沖田総司だというのに、こんな不慣れな得物で戦わないといけないの?

 

「やるしか、ない……っ!」

 

 刀を構えた瞬間、右から強烈な斬撃が襲い掛かって来た。

 

「っは――!」

 

 反射的に防いだ自分を褒める暇もない程に、沖田さんの斬撃は早かった。

 防御している私より攻撃をしている彼女の方が動作時間は長い筈なのに、刀を動かすだけでは捌き切れず、刻一刻と体は後退していく。

 

「そこっ!」

 

 そして――私の体は彼女に刺し貫かれた……

 

「……っ、い、痛く、ない……?」

 

 そう呟いた途端、私の体は床に倒れた。

 

「此処はシミュレーション空間ですよ? 例え両断されても体にダメージは入りませんが……」

 

 そう言って沖田さんは私を抱きしめた。

 

「……あ、あれ!? 動けない……!?」

「これでマスターは、暫く私だけの物ですね?」

 

「は、放して!」

「心配しなくても、沖田さんは無理矢理マスターに迫ったりしませんよ。でも、こうやって抱きしめる位は構いませんよね? 勝者の特権です」

 

「っく、この……!」

「あはっ、嫌がってても力の入らない体で抵抗できないマスター、可愛いです! ふーっ」

 

「っん……!」

 

 耳に息を吹きかけられて身をよじる。

 こんなあっさり、好き勝手にされている自分が悔しい。

 

「ねぇ、マスター、沖田さんにもっと気持ちいい悪戯を……っ!」

 

 漸く、動いた手で私は彼女の頬を叩いて、茫然とした彼女の抱擁から何とか抜け出した。

 

「もう一回よ! 今度こそ、私が貴女を斬る!」

「……沖田さん、今のビンタは悲しかったので、ちょっと……本気で行きますね?」

 

 またしても最初に踏み込んだのは彼女。

 宣言通り先より速く強い斬撃に、私は再び防戦一方になる。

 

 まるで舞い落ちる桜の様に止めどない連撃は途切れる瞬間が見えず、攻撃に転する時間がない。

 

 やがて、私は再び貫かれる。

 

「……マスターには、絶対に沖田さんの事を好きになって貰いますからね?」 

 

 それでも私はまた、挑むんだ。

 

 

 

 私が彼女の首を取れたのは、3回目の敗北の後だった。

 途中から負けた私に躊躇の無くなった沖田さんに無理矢理首元にキスマークを付けられたけど、苛烈過ぎる攻撃のお陰でそんな些細な事を気にせず勝負に集中できた。

 

「ふう……やっぱり、強い」

「うう……病弱スキルが無い万全状態だったのに……コフッ!」

 

 泣き言を言いながら、沖田さんはその場から消えてしまった。

 同時に、飾られていた掛け軸の一つに誠の文字が浮かび上がった。

 

 手で握っていた刀を下ろす。

 途中から慣れたけど、やっぱり普段の竹刀と全然違う。

 

「けど、倒したら此処から出られるんじゃ……きゃっ!?」

 

 気を抜いていた私の制服の裾から、野球ボール位の大きさの何かが入り込んだ。

 

「く、くすぐったいっ……、と、鳥っ!?」

 

 首元まで上がって来たそれは濡れたタオルでキスマークを拭って、そのまま服の中で私の体を一周する。

 

「全く、品の無いサーヴァントは直ぐにマスターを汚してしまうでち。

 あちきの前で不摂生は許しまちぇん!」

 

 そう言って私の目の前でバサバサと飛び上がっているのは1匹の雀。

 舌足らずな口調で喋っている彼女を見て、私はこの子の正体を悟った。

 

「紅閻魔ちゃん?」

「そうでち」

 

 雀から赤毛の小さな女の子の姿になった彼女は、沖田さんと同じセイバークラスのサーヴァントだ。私は柄を握り直す。

 

「じゃあ、次の相手は貴女なのね」

「そうでち。でちが……まずはお風呂でち。

 そんなに汗をかいて、体が冷えたら風邪を引いてしまうでちよ?」

 

 彼女は開いた手で奥にあるシャワー室を示したけど……

 

「でも、戦うならどうせ汗をかくでしょう? 必要ないじゃ――」

 

 ――瞬間、私の体は動かなくなっていた。それと同時に紅閻魔ちゃんは、既に刀を鞘に納めている。

 

「駄目でち。しっかり汗を流すでち」

 

 唖然とした私を持ち上げて、さっと脱衣所で服を脱がされる。

 

「あ、ちょっと……!」

「健康的なお乳でちね。でちが、悪い虫が寄ってくるかもしれないでち。乙女たるもの、危機管理はしっかりしてくださいでち」

 

 油断していた私を窘める様にそう言った紅閻魔ちゃんも服を抜いで、風呂場の扉を開けた。

 

「もう立てまちか?」

「う、うん……」

 

「刀を持ってない相手に、攻撃してはいけない。それが此処のルールでち。まずはあちきと、裸の付き合いでち」

 

 温泉ではないけど私の家よりも少し大きめの、大人が3人位なら入りそうな浴槽。扉の傍には洗い場があり、私はそこに座らせられる。

 

「では、洗ってあげるでち」

「い、良いよ。自分で洗うから!」

「雀の早洗い、見せまちよ!」

 

 そう言って雀に変身した彼女はスポンジを加えて私の体を隅々まで洗っていく。

 正確に、必要な場所にはしっかりとした力加減で。

 止めようにも、周りを飛び周る彼女を捕まえるのは難しくて――

 

「――はい、捕まえた!」

「あう!? い、痛いでち!」

「あ、ご、ごめんなさい……」

 

「もう、そこまで嫌でちか?」

「嫌だよ。それに、なんかずっとお腹を洗ってたし」

 

「ご主人の健康管理はあちきの命題でち。体重や身長、体型の把握をしてまちた」

「そんな事しなくていいから!」

「さあ、水を流しまち」

 

 ――それから十数分後、私達は再び刀を持って対峙した。

 

 彼女については良く知っている。少なくとも、戦い方くらいなら。

 

(油断してなければ、恐らく単純な剣術なら沖田総司を倒せた私に勝機はある。

 だけど、彼女にはあの雀に変化する能力と抜刀術がある)

 

 大変なのはそれだ。斬った事ない動物と対峙した事の無い技。

 

「あちきに負けても、世話を焼くだけでちから安心して下さいでち」

 

「負けるつもりは、ないよ!」

 

 先は既に間合いに入られた状態で抜刀を見切れずやられた。だけど、今度はこっちから!

 

「っく――!?」

 

 ――あと少しでも頭を下げるのに戸惑っていれば、首を刈り取らていた。

 だけど、今なら――いない!?

 

「後ろ!」

「っきゃ!?」

 

 雀になって回り込まれていた。

 そう気付いた時には、また私の体は床に倒れてしまった。

 

「っ、この……!」

「雀の動き、マスターは果たして、捉えられまちか?」

 

 紅閻魔ちゃんはゆっくりと近付いて、私をうつ伏せで倒してからマッサージをし始めた。

 

「固くなった体を、解しまちね」

 

 屈辱だけれど、私は体が動くまで彼女にツボと言うツボを押され続けた。

 

 

 

「そこ!」

「チュン!?」

 

 確かに雀の動きなんて普段から見ておらず捉えるのは難しいけれど、戦う前に風呂場で手で掴めた感覚を刀で再現すればいいと分かれば、後は簡単だった。刀に十分慣れたのも勝因だろう。

 

「……うう、不覚でち。

 指圧に力を使い過ぎまちたか……」

 

 負け惜しみを言って消えていく彼女を見送ってから、掛け軸に増えた雀の絵には目もくれず再び刀を握り直す。

 

「……」

 

 ……来た。

 

「マスター、漸く私の出番――」

「っは!」

 

 沖田さんの動きを見て盗んだ瞬歩と突きを、迷うことなく対象に――けれど、それはいとも容易く防がれた。

 

「うーん、情熱的! 良いわよ、お姉さん好みの挨拶ね!」

「っ……!」

 

 後退を――不味い!

 

「へぇ……! 良く防いだわね。けれど――」

 

 彼女の言葉より早く、もう一つの太刀が私を切り裂いた。

 

「――まだまだね」

 

 奇襲も通じず、単純な実力なら恐らく他の2人を超えるであろう人物。日本人なら誰もが知る、大剣豪。

 

「まずは一本ね。さーて、お姉さんどんな事しちゃおっかなぁ?」

 

 二天一流、宮本武蔵。

 そんな彼女は倒れた私に無遠慮に近づくと、私を顔を持ち上げて――

 

「や、やめて……!」

「ふふふ、奇襲までする容赦の無さ、太刀筋。今ので直ぐ分かった。

 貴女には大事にしたいモノがある。容易に踏み入って欲しくない守りたい何かが。

 それはきっと、これよね?」

 

「だ、ダメ――っんん!」

 

 無理矢理唇を押し付ける乱暴なキス。

 私は必死に抵抗した。だけど避けられず、何も出来ずに入れられそうになる。

 

「ん―!」

「っんはぁ……ふふ、舌は意地でも入れさせないつもりかしら?

 良いわ。それでこそ――」

 

 再び襲ってくる彼女も、力の戻った私は思いっきり蹴った。

 

「あーあ、お楽しみは終わりか……」

「ゆ、許さない……!」

 

「マスターは乙女ね。これは滾るわね!」

 

 私はもう一度、この侍と対峙する。

 

 けれど――

 

「はい、私の勝ち」

 

 武蔵ちゃんの強さは隙の無さ。彼女の二天一流、そしてその瞳は私を唯々追い詰めていく。

 それは、刀を握らない時も同じ。

 

「じゃーん! これ、食堂に落ちてたんだけど可愛いと思わない?」

 

 そう言って彼女は私の首に赤い鈴付きの首輪を無理やり付けた。

 

「外して」

「いーや。で、最後に私の名前を書いて……よし、これでマスターは私の物ね。

 可愛い可愛い、子猫ちゃんよ」

 

「この……!」

 

 自分の好きにしている様で、本当は私の戦意を削ろうとしている。

 

 だけど、それが分かっていて大人しくなんてしない。

 刀で首輪を切り裂いて、もう一度剣を交える。

 

「残念。また私の勝ちよ」

 

 駄目だ。戦い方に掴み処がない。

 

「ねぇ、マスターの好きな人って誰? 私以外の誰に操を立てているの?」

「……」

「あ、無視ですかそうですか……あ、そうだ」

 

 武蔵ちゃんは首輪に名前を書くときに使ったペンをまた取り出すと、今度は私の背中に何かを書いた。

 

「む・さ・し・の……よめ、とっ!」

「っく……この!」

「もっと書いてあげたいけど……時間切れかな?」

 

 今度は蹴る時間も与えずに私から離れた。

 

「さあ、まだやるんでしょ?」

「……この!」

 

 

 

 10回目。

 

 顔にも悪戯描きをされて、キスを迫られて、更には胸まで触られた。

 

 だけど、それらの齎した嫌悪感以上に私を満たす何かが今、芽生えていた。

 

「いいよいいよ、マスター! その顔、私の見たかった顔よ!」

「何の事!」

 

 刀の交わる中で交わされる言葉。

 

「私を喰らおうとする覇気! 私だけを追い続ける獣の顔! それが見たかったのよ!」

 

「っ!?」

 

 その言葉に、私は最近まで自分が戸惑っていた感情を鏡に映された様な感覚だった

 

「なるほど……ね!」

「どう! 私ともっと斬り合いましょう!」

 

「冗談! さっさと、斬られて、よ!」

 

 きっと今の顔が、私が求めていた顔だ。

 

 聞きたい。

 私があの時、玲の顔を素敵だと思った様に、彼にも私の今の表情を素敵だと言ってもらいたい。

 

「余所見はダメよ!」

「最初から、眼中に、ないよ!」

 

 刀がぶつかると、自然に口角が上がっているのが分かる。

 楽しい。だけど、こんな手応えじゃ駄目だ。

 彼の拳はもっと力強くて、もっと熱かった。

 

「――!」

「――っ!」

 

 気付いたからには、止められない。

 

「――お見事。あーもう、悔しいな。悔しい」

「武蔵ちゃん……」

 

「らしくない溺手まで使ったのに、乙女心は複雑怪奇。私の剣でも斬り解けないか」

「そんなことは……」

「……まあ、剣士心には一日の長があるからね」

 

 ウィンクを最後に、武蔵ちゃんは消え始めた。

 

「バイバイ、マスター。

 あ、そうだ。今度私にもその彼氏君を紹介して――」

「絶対嫌です」

 

「あーもう、そっちも振られちゃいますかー」

 

 額縁にうどんの絵は浮かび上がってきた。

 これで終わりかと刀を下ろした私の前に、今度は書類が降って来た。

 

「何これ? 

 カルデア―ル学園……転入届?」

 

 その書類を手に取った時、私の夢は終わった。

 

 

 

 妙な悪夢を見て、玲とどう接しようかと悩んでいて次の日の夜、再び変な夢の中で気が付いた。

 

「……あれ、此処は?」

 

 見た事も無い大きな校舎がそびえ立っていた。

 

「学校? カルデアール、学園? もしかして、あの夢の続き?」

 

 竹刀を背負って学生鞄を持ったまま、私が敷地内に入っていく。

 

「……ん? あれって、もしかして玲!? お……」

 

 夢の中でも会えるなんて、と思いながら駆け寄ろうとしたけれど、彼の横に誰かいるのが見えた。

 

「……誰あの女?」

 

 金髪、メガネ、マフラー……どこかで見た事がある。きっと英霊なんだろうけど、なんで隣を嬉しそうに歩いている?

 

「……」

 

 英霊相手に遠慮は必要ないと学んだ私は、スッと竹刀を取り出して駆け出した。

 距離を詰めてから、最速の跳躍三回――そして、突きを

 

「――っと、随分鋭い突きだな、切華?」

「っ!?」

 

 ゾクゾクと、待ち焦がれていた快感が背中を走った。その隣に女がいなければもっと刺激的であったと思うと少し口惜しい。

 

「誰ですか、この人?」

「俺の幼馴染だけど……お前、そんな好戦的だったか?」

 

「聞きたいのはこっち。その子は誰? どんな関係なの?」

「私は部長の後輩で、新聞部の部員で、恋人です」

 

 ……中々、面白い冗談を言う子だね?

 

「ま、そんな所だ」

「ねぇ、いつもそんな感じなの? ちゃんと否定しないと駄目だよ?」

 

「いや、否定してもキリがねぇしなぁ」

 

「……」

 

 なら……

 

「私も、新聞部に入る」

「え? いやでも、お前は剣道部じゃ……?」

 

 私は転入届を玲に見せた。

 

「これから転入なんだから、どんな部活を選ぶのも私の自由でしょ?

 そう言う訳で、勘違い後輩ちゃん、これからよろしく」

 

「……よろしくお願いします。負け確ヒロインさん?」

 

 よし、先ずは先輩への敬意を教えてあげよう。

 

 

 

 

「俺の周り、血の気の多い奴多くねぇか?」

 




玲の仲間が増えてきて、まるで主人公みたいだね!(切大を煽るスタイル)


これにて企画は終わりです。
ハロウィン前、どころか夏イベントの前に終わるとは思いませんでしたね。

多分投稿頻度は前に戻ると思いますが、これからも楽しく書いていこうと思います。
皆さんもお体に気を付けて、婦長に監禁されない様に過ごしていきましょう。


自分は既にサンタさんに手術台の上に固定されてアンプルを打ち込まれ続けています。

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