ヤンデレ・シャトーを攻略せよ 【Fate/Grand Order】 作:スラッシュ
4周年記念企画も4人目です。
いつもより少々早めに投稿出来ている……気がします。頼むからこのまま行ってくれ。
今年の水着に期待が高まりつつ、去年の心残りを再び追い求めるかと葛藤していると頃だと思います。自分は今年来るかもしれないランサーのアルトリア・オルタの水着を夢想しつつ武蔵ちゃんに嫌われているという事実を再確認しました。
「おい! どうなってんだ!?」
俺はエドモンに抗議していた。何故ならこの時期は毎年、シャトーの頻度が少し下がる筈だからだ。
「そんな事を言われても、それはお前の気のせいだった……それだけだ」
「えー……いや、絶対今日はシャトー無かっただろ」
「何を適当な事を……貴様、まさか誰かがお前の代わりにこの場に立っていたとでも言うつもりか?」
……仕方ない。適当ないちゃもんを言っている自覚はあるし、始まってしまった以上、俺はヤンデレから逃れて生き延びるしかないんだ。
「安心しろ。今回はお前の生活こそが奴らの狙いだ」
「生活?」
まるで普段から俺が生活を狙われていないみたいに言うけど、どう考えても常にヤンデレの狙いはそれだろう。
「悪夢の中で暮らして一生を終えたくなければ、この塔から逃げおおせてみせろ」
「……逃げおおせて……ん?」
いつも通りの塔の中で目を覚まし、早速普段は一度も見た事がない奇妙な物を見つけた。
ガラスの蓋の中に黄色と黒の警告模様で囲まれた丸型のボタン。
「ボタン……? なんだ、自爆スイッチか何か――」
「――マスター、こちらに居ましたか!」
俺がそれに一歩近付くと同時にジェットを噴かせながらやって来たサーヴァントは、オキタ・J・ソウジ。アサシンクラスの水着サーヴァントだ。
黒ビキニに黒マント、腰には刀。その全てにミスマッチな筈のハイテクジェット。
今回はその威力に引っ張られる事なく綺麗に着地した。
「さあ、こんな所にいないで沖田さんと一緒に行きましょう!」
「ど、何処に連れて行く気だ?」
「当然、私の部屋です。
……余計な人もいますが……さぁさぁ、早く早く!」
病弱スキルの無い元気な彼女に引っ張られて、部屋へと押し込まれた。
「ささ、遠慮せずに!」
「ん、なんじゃもう来たのか」
そんな俺を出迎えたのは、バスターコマンドの赤い服を着て寛いでいる織田信長だった。
「ノッブ!? なんで此処――っ!?」
「はーい、沖田さんの前では、沖田さんとお喋りしましょうねー?」
俺の疑問を遮る様に背後から抱き着いてくる。
「ああ、気にするな。ほれ、わしアヴェンジャーじゃろ? その権限で沖田に協力するから部屋でゴロゴロしたいって言ったら承諾してくれて……なぁ、ポテチのおかわりは?」
「台所から勝手に取っていて下さい。そして二度と戻って来ないでください」
迷惑そうな沖田が信長にそう言うとのそのそと歩いていき、ポテチの袋と共に消えていった。
「……さぁさぁ! 余計な者は一切いない、マスターと沖田さんのお部屋ですよ! ちょっと待ってて下さい! マスターにはポテチじゃなくてちょっと高い茶菓子をご用意していますので!」
そう言って俺の傍を離れて――お菓子の箱と一緒に、一瞬で戻ってきた。
「はい! こちらです!」
「あ、ありがとう……」
笑顔で差し出された箱を受け取ろうとしたが、沖田さんはそれをパッと取り返した。なんでだ?
「と、先ずはご飯でしたね! これを食べてしまったら、沖田さんの手料理が食べれなくなってしまいます!」
ならばと、彼女は俺をリビングへと案内した。
畳の上にはテレビの前に既に布団が2つ密着して置かれており、彼女はもう事に及ぶ気満々だ。
「こちらで寛いで下さいね!」
取り合えず、水色の布団の上に座った。
いつの間にか飲み物を手に取ってる……と思ったら備え付けてあったミニ冷蔵庫から取り出した様だ。そして手渡ししながら自然に俺の隣に座った。
「……」
「……」
こちらを黙って凝視する彼女に視線を合わせずに飲み物を飲む。一瞬、薬を盛られた可能性が頭を過ったが、渡されたのは未開封の空き缶なので飲んだまま否定した。
「美味しい」
「あの、マスター」
「な、何?」
「その、テレビ、点けますね?」
何故か顔を赤くしながらリモコンを握り、テレビを点ける。すると男女2人が見つめ合い、目を閉じてキスをするシーンが流れていた。
『あなた……』
『オキコ……』
「ま、マスター?」
「何?」
「……んー」
目を閉じてこちらに唇を向ける沖田さんを見て、全てを悟ってテレビを消した。
「それは流石に無いと思う」
「な!? 沖田さんのラブラブムード作戦が……!」
「お粗末すぎないその作戦?」
そもそも、家入って飲み物飲んだだけの俺達がドラマのシーンを見た程度で流されてキスする訳がない。
いや、彼女の中では既に夫婦なのかもしれないけど。
「うーん、これからどうすれば? 私、あとは作戦プランVしかないですけど……!」
暴力(バイオレンス)のVだろ、それ。
「や、ヤっちゃいますか? そうです、一度してしまえば人を斬る時みたいに案外ザクッと行けるのでは……!?」
「沖田さん。それはダメだ」
俺は彼女の肩を掴んだ。
「ひゃ、ま、マスター?」
「水着姿の沖田さんは無敵で素敵なんでしょう!? そんな沖田さんが、力任せに男を押し倒していいの!?」
「え、あ、だ、ダメ、ですか……?」
良し。この沖田さんは押しに弱い!
「駄目だ、絶対駄目」
「でも…………これくらい強引じゃないとマスターのお世話なんて出来ませんよね?」
その言葉と同時に彼女は逆に俺の両手を掴むと、自分の首に巻かれていたマフラーで縛った。
「今日の沖田さんはマスターに丸め込まれたりしませんよ! ふふふ、ノッブに賄賂してまで色々準備しましたからね!」
彼女はマフラーの先端を放り投げると俺の座っていた布団の右上端にピタリとくっついた。
力を込めて立ち上がろうとしたが、まるでビクともしない。
「魔力同士をくっつかせる特殊な板をマスターのベットの下に仕込んであります! これで私の魔力で出来たマフラーはずっとそこにくっついたままです」
笑顔でダブルピースをする沖田さん。普通なら可愛いんだが、この状況だと憎らしく見えてくる。
「でも、それを簡単に外す方法があるんです! ……取り合えず、ご飯ですね!」
そう言って彼女は台所へ向かった。何から何まで早い。まさか、迷彩で見えないがずっとジェットで加速してるのか?
「さ、持ってきましたよ!」
沖田さんのお盆の上にはご飯、トマト、チャーシューが乗っていた。
「どうですか、沖田さんが作ったんですよ!」
「う、うん。凄く、美味しそう」
きっと、チャーシューは出来ている物を買って斬ったんだろうなと思いながらも、知らないふりをして彼女を肯定した。
「そうでしょう! あ、漬物も要りますか? 樽であるので遠慮しないで下さい!」
出来てる物斬っただけシリーズ第二弾……!
「ね? こんなにマスターに尽くしてあげれる沖田さんって、やっぱり天才美少女剣士ですよね!?」
「そ、そうだねー……あれ?」
俺の棒読みなセリフが終わると同時に、両手を縛っていたマフラーは突然布団から外れた。
「……こんな感じで、マスターに褒められると私から離れたマフラーは嬉しくなって魔力がざわつくから剥がれちゃうんです! あ、でも、どれだけ褒めても沖田さんはマスターを離しませんからね! ぎゅー!」
そう言って抱き着いてくる。でも、何だかんだで普通のチョロい沖田さんな様でちょっと安心かもしれない。
「でもやっぱり普通の鎖で縛って置かないと、不意に褒められるとマスターが逃げちゃいますね?
えーと、確かこの箱に……あ、この鎖、新選組の模様が塗られていますね! これにしましょう!」
な訳なかった。物騒な物が沢山入った葛籠を楽しそうに漁る彼女に、今一度狂気を再確認した。
「――失礼します!」
突然、リビングの扉が勢いよく開かれた。
紫色の装束に身を包みながらも、その下に明らかに存在する魔乳の持ち主。
日本のサーヴァント、源頼光。
不味い。この人は、こんなふざけた塔がなくても病んでるヤバい母親サーヴァント。しかも、俺達2人は布団の上に……!
「まあっ!? そ、そんな……まさか……!」
「頼光さん? 急に来るなんて珍しいですね。どうかしましたか?」
おい、天才美少女剣士さん!? そのナチュラルN煽りは不味いのでは!?
「まさか、私とマスターが男女……い、営み……一夜…………一緒に寝てないとでも思いましたかぁ!?」
……いや、なんで途中で照れたんだ?
「……ああ、良かった」
「良かったってどういう事ですか!? もう一緒に寝ちゃいましたからね!」
「そうですね。新選組の沖田総司さんは、汚らしい虫共とは違って清い関係をマスターと築いていらっしゃいますね」
「いや、全然清くないですよ!? そりゃあもうズッコンバッコン凄いですよ!?」
嘘吐くのに必死で段々IQが下がってる。
「そうですか……では、此処は母として、適切な距離をお伝えしておきましょう」
そう言って頼光さんは素早く弓矢を抜いて、必死に嘘を重ねる沖田さんを放った矢で取り囲んだ。
「では、行きましょうかマスター」
「って!? ちょっと、マスターは沖田さんのですよ!」
「いえ、母の物です」
『あ――おわぁぁぁ! お、沖田さんのマイホームがぁぁぁ!?』
止めとばかりに斧を抜いた頼光さんは外に出て壁を粉砕し、部屋の入り口を完全に塞いでしまった。そして、俺の手をしっかりと繋ぐと何事もなかったかの様に微笑む。
「さあ、母と一緒に帰りましょう」
「は、はい」
その圧としっかり握られた手のせいで、頷く以外の選択肢が無かった。
頼光さんの部屋に着くや否や、彼女は鍵を閉めた。和室の内装に似つかわしくない鋼鉄の扉。その内側にはまるで女性の一人暮らしの如く4つの鍵が取り付けられており、頼光さんがそれを1つ1つ閉めていく度に、もうこの部屋から出られないんじゃないかと言う不安に襲われる。
「サーヴァントの皆さんは物騒ですからね。マスターも、これくらいは戸締りしていかないといけませんよ?」
「は、はぁ……」
「ですが、此処で母と一緒に暮らすのですから、別にそんな事を心配する必要はありませんでしたね?」
俺がいま心配しかしてないとは微塵も考えていない――もしくは、理解した上で聖母の様な微笑むを向けてくる。
「それでマスター……何か忘れていませんか?」
「え?」
「言い忘れていますよ?」
急にそんな事を言われても……なんだ? 何の事だ?
「お家に帰って来たのですから、ただいま、と言ってください」
「あ……た、ただいま……」
「はい、おかえりなさい」
望む言葉が聞こえて嬉しそうに笑って、俺を抱きしめた。
「さあ、母はこれからご飯を作りますから、今の内に勉強をして下さい」
「え゛? 勉強?」
「そうです。心配しなくてもちゃんと教材は用意してありますからね」
頼光さんが案内した部屋の机には確かに俺が現実で使う文房具一式と問題集や参考書が用意されている。いや、待て待て。夢の中でまで勉強って……!?
「あ、で、でも、もう宿題は終わってるし……」
「駄目です。母が料理を終わらせるまで、しっかり勉学に励んで下さい」
取り敢えず、フリだけでもしておくかと考えた俺は参考書を開いてみた。随分古く達筆な文字で書かれたそれは、恐らく頼光さんのお手製だろう。
「いや、読めないんだけど……」
あの人の事だ。真面目に書いてくれているんだろうけど、全く解読できない。
「じゃあ、こっちの数学は……」
数字ならいけるかと開いてみると、全て漢字。
「πが元に見える達筆さ」
俺は諦めた。だけど、別の事を考える事にした。
「今回は、本当に俺をこの塔の中で生活させる気だな」
沖田さんは普段通りのグダグダさの中に料理を振る舞う甲斐性を見せ、頼光さんも一般的な母親として俺に学生としての本業をまっとうさせようとしている。
なので俺が此処を出る為に必要な行動は……
「アレか」
最初に見たあの怪しさ全開のスイッチ。あれしかない。
これだけ日常生活を強調しているのに、非日常的過ぎるスイッチ。
いや、危険な雰囲気もあったからもしかしたら悪化する可能性もあるけど、今の所あれ以外の可能性を見つけていない。
「沖田さんの登場も、スイッチから俺を遠ざける為だとしたらあり得――」
『――マスター。今、他の女性の名前を言いませんでしたか?』
襖の向こう側から突然聞こえてきた声に、背中が天井まで飛びそうになった。
『ちゃんと勉強して下さいね? 母は、頑張る貴方が大好きです』
そう言って遠ざかって行く声に、俺は安堵の息を漏らした。
「……勉強、するかぁ」
古典の勉強だと割り切って、お手製の教本に手を出す事にした。
暫くして俺は視線に気が付いた。
頼光さんだろう。
短い間に何度も何度も部屋の前を廊下を通って、その度に襖の指一本分の隙間からこちらを覗いている様だ。
……そして、視線の消える感覚は短くなり、感じている時間は段々長くなっていく。襖も、段々抑えが利かなくなっているのか拳1つ分まで開けている。
なんだが、怪しい息遣いすら聞こえている様な気がする。
身の危険を感じた俺は堪らず彼女に声を掛けた。
「あ、あの、頼光さん?」
「……なんでしょうか、マスター?」
「ご飯、もう出来たかなぁって……」
俺の言葉に彼女はハッとした様だ。だけど、口元に垂れた涎を今拭くのはちょっと遅いと思う。
「すいません、もう出来てますから食卓に参りましょう」
既に手遅れな顔をキリッとさせて俺に手を差し出す彼女。家の中でも手を握りたいのかと、ちょっと呆れてしまったが顔には出さない様にした。
手を握ったまま座らされ、温かい料理が机の上にこれでもかと置かれていた。
味噌汁、煮物、魚、ご飯……比べるのも酷なレベルで沖田さんとの圧倒的な料理力の差を見せつけられている。
「さあ、頂きましょう。おかわりもありますから、ゆっくり召し上がって下さいね」
隣に座った頼光さんがご飯を入れてくれるを待ってから、俺は手を合わせた。
「頂きます」
昆布と本だしの旨味が大根と玉ねぎを噛む度に舌を撫でて喉を通る。
続けてご飯を口に入れると味噌の風味と共に味覚を支配する。旨い旨いと茶碗の半分位をかき込んだ所で物足りなさを感じて、魚に箸を伸ばす。
「はい、母が骨をとってあげますね?」
それを見た頼光さんが綺麗に魚の肉と骨を分けて小皿に乗せてくれる。そこまでしなくても……と思わなくもなかったが、俺は礼を言って魚を摘まんでご飯の上に乗せて醤油を数滴乗せる。
「やば、旨……!」
すっかりその味に嵌ってしまった。
魚とご飯だけで最初の一杯を完食したが、不意に煮物の色合いに目を惹かれた。人参、コンニャク、芋にエンドウ豆。
これも、一度手を付けると止められない。
ああ、日本人で良かった。俺は本当にそう思い、頼光さんに感謝しながら食事を続けるのだった。
「――う……ねむ」
完全にやらかした。食べ終わった後に出されたお茶を飲んで不自然な睡魔に苛まれながらそう思った。
油断してしまった。この塔はそう言う場所だと分かっていたのに。
「あらあら、困った子ですね? もうお眠ですか?」
力の入らない俺を担いで頼光さんは食卓を離れて別の部屋に連れていく。
良い匂いが漂ってくる。恐らく彼女の部屋なんだろう。
「でも、忘れてはいけませんよ? お休みになる時は、母と一緒にです」
そっと布団に下ろされた様だ。もう瞼を開けていられない。
いつの間にか胸元が開いた白い浴衣の様に着替えていた頼光さんは同じ布団に張り込み、毛布を掛けた。
「良い夢を、マスター」
もう駄目だ……このまま、喰われるのか……
眠りについても俺の意識は起きたままだ。彼女の息遣いが聞こえ、胸を押し付けられているのも分かる。
今にも俺のズボンを下げて事を……
……そう思っていたが、彼女が何もしないまま時間が過ぎていく。
(え? 何もしてこない? マジで? 先まで部屋で勉強しているだけの俺を見てだらしなく顔を緩めていたのに? ――うぉ!?)
俺の体が突然誰かに持ち上げられた。そして、恐らく肩に乗せて運ばれている。
(ん? もしかして今なにか寝袋みたいな物に詰められている? )
そして詰められたまま動けない俺を引き摺って運んでいる様だ。
これは明らかに頼光さん以外の誰かに攫われている。
急な落下感を味わい、誰かがそれを受け止める。
「……ミッション、コンプリート」
漸く声が聞こえてきた。聞いた事のある落ち着いた声だ。
これは、アルトリアの誰かか?
「では、戦利品の方を開帳しましょう」
寝袋が開かれ、柔らかい何か……布に包まれた手で頬を撫でられた。
「目が覚めましたか」
そこにいたのは白いバニーの耳を付けた……いや、なんか変だ。
「アルトリア……その恰好は?」
「恰好……このスーツの事です」
普段は白い服と青いタイツの、彼女曰く正装であるバニーではなく、全身を青いラバースーツの様な物で覆っている。腰のホルスターに収められている銃とハイヒールではなくブーツに変わった靴も、機械的に変貌している。
更におまけすると体のラインがよりはっきりと見えて正直エロい。
(ていうかウサ耳なかったら完全にゼロスーツサ…………)
「私は今、カジノのバニーではなく獅子を狩るウサギ、バウンティハンターです。
引き続き、アルトリアと呼んで頂いて結構ですよ?」
姿は違っても水着のルーラークラス、アルトリア・ペンドラゴンには違わないらしい。
「でもなんでそんな格好に?」
「理由はわかりませんが、この姿も決して悪くはありません。
カードゲームとは違うスリル、それに賞金がマスターだと分かっているとどんな障害も越えるのに微塵の苦痛も感じませんね」
そう言って舌なめずりをする彼女を見て、自分が完全に狙いを定められている事を悟る。
思わず後ずさるが、いつの間にか彼女の手には腰に携えていた銃があった。
「すいませんマスター。どうもこのスーツのせいで少々、攻撃的になっている様です」
「……それは実弾なのか?」
「いえマスターの使えるガンドより少々強力なスタンの魔弾が放たれるだけですので、どうか妙な動きはしないで下さい」
俺は両手を挙げて降参のポーズを取った。それを見たアルトリアは器用に銃を回転させてからホルスターに収めて……俺に抱き着いた。
「お恥ずかしい話、私はずっとこうしていたかったんです。あんな恐ろしいマザーモンスターに囚われていたマスターはきっと恐怖に震えているでしょうから」
今の俺の恐怖は間違いなくアルトリアなんだが。
「怖いを思いをしたかどうかは、臭いで分かります。随分汗をかいたようですね?」
確かに、此処まで冷や汗の連続だったからな。
「香ばしいですが、流してしまいましょう」
「ちょっと残念がりながら言うな」
「ちょっとではありません。大変残念がっています。ですが、マスターの衛生面と精神面を顧みるなら入浴は絶対です。
それに、私も着慣れないスーツのせいか少し蒸れてしまっていますので……」
それっぽい言葉で誘惑し、更に先んじて抱擁を強めて脅してくる。
俺は黙って頷いた。
「こちらです。安心してください。ちゃんとお風呂をご用意していますので」
取り合えず水着は着けておこう。礼装を脱がされる前に変えてやった。
「ふふふ、デリケートな部分は隠しておきたいですか?
……でも、私も見てしまったら収まりがつかなくなってしまいそうなので……絶対に、見せないでくださいね?」
耳元で伝統芸能的なフリを囁かれたが、そんな物に流さる俺ではない。
こんな所で貞操を奪われて堪るか。
「では……私も失礼して……」
彼女もスーツを……って!
「待て待て待て待て! せめて水着! 水着でお願いします!」
「お風呂に入るのに水着を着ている方がおかしいですよ?
……でもそうですね。マスターが、私に興奮してのぼせてしまってはいけませんからね」
そう言って彼女は普段の水着に着替え直した。
「さ、まずは私が背中でも――」
――突然、天井が崩れて誰かが降ってきた。
「――見つけましたよ、泥棒兎!」
「ライコウ……ああ、随分お早いお目覚めですね」
アルトリアは脱いだばかりのスーツに戻り、銃を構える。
対する頼光さんは長刀と斧を握って今にも首を刎ねてきそうな程の怒気に溢れていた。
「母から子を奪おうとするその悪徳! 角の代わりに耳が生えた鬼の所業です! 今すぐ私が成敗します!」
「睡眠薬と念の為にこのパラライザーを数発撃ちこんで置いたのですが……やはり、貴女に小細工はあまり効きそうにありませんね」
瞬間、アルトリアは跳躍し、広い風呂の壁や天井を蹴りながら様々な角度から銃弾を撃った。
自分目掛けて殺到する無数の魔弾を、頼光さんは斧で蹴散らす。
「――そこ!」
アルトリアの動きを捉え、鋭い突きを放ったが、アルトリアは回避し再び距離をとった。しかし左手のスーツは少し切り裂かれている。
「なるほど、これは……厄介ですね」
彼女が息を吸って再び駆け出す……その瞬間、俺の体は空を舞った。
「ん、コレは……マスター! さあ、一緒に遊びましょう!」
「え? アーチャー?」
俺は釣り竿を握っているアーチャー・インフェルノさんに抱き抱えられていた。
「「マスター!?」」
戦闘中だった2人もこちらに気付いて駆け寄ってくるが、インフェルノは緑色の葉っぱを取り出して地面に投げた。
「な!? この!」
途端に、生える様にそびえ立つ灯台。
「では、私とマスターはゲームを楽しみますので、失礼します!」
そう言って先と同じ葉っぱをばら撒いて灯台を建て続けながら逃げ出した。
「此処が私の家ですよ、マスター!」
「家……本当に家だ」
何故か、ヤンデレ・シャトーの古い塔の中に赤い屋根の家が建てられていた。
「ローンを返しに返して増築した部屋も2階も地下もある最高のマイハウスです!」
「えぇ……」
可笑しい。インフェルノは女武者の筈だが、ゲーマー……というか完全にゲームと現実の区別がつかない人になってる。
「さあ、入りましょう!」
なんだかその内まともに聞き取れない位早口になったりしそうだ。
入ってみると部屋中カブだらけだ。
「な、なにこれ?」
「す、すいません、ちょっと散らかってましたね」
散らかり過ぎだ。評価が星1に下がるぞ。
「2階にいきましょう! あちらは大丈夫……の筈です!」
そうして2階にやってきたが、此処には逆に何もなかった。
「しょ、少々お待ちください!」
またしても葉っぱを取り出して、まず最初にピンク色のダブルベッドを出現させた。
「えーっと……はい、これとこれです!」
そのベッドの横に2つ、ゲーム機を置いた。
「さあマスター、こちらにどうぞ!」
そう言ってベッドに座って自分の隣をポンポンと叩いた。
「レッツ・あつ森です!」
「マジで言ってるの?」
俺がこの誘いに乗るか決めあぐねていると……突然、2階の窓を誰かがぶち破った。
「はいはーい! 沖田さんもやりまーす!」
オキタ・J・ソウジの登場だ。ちなみにJは、ジェットのJだ。
なんて誰でも知っている豆知識を披露しているうちに、沖田さんは星が先端に着いたステッキを振り回して黒ビキニから白と緑のふちの水着に着替えてベッドに座った。その手にはゲーム機を握っている。
「すいません、りんご貰っていいですか? 沖田さん、それだけ足りなくって……」
「ええ、どうぞどうぞ! 好きに持って行って下さい!」
だがある意味助かったな。遊び相手が見つかってインフェルノも沖田さんも俺に気付いてないし今の内に逃げよう。
「マスターもやりましょうよ!」
しかし、俺はマフラーを足に巻き付かれ、危うく転びそうになった。
「あ、もしかして別のゲームが良いですか?」
ゲーム機を片手に沖田はゆっくりこちらに近付いてくる。
「パーティーゲームや対戦もありますよ!」
俺の目的は逃げてあのスイッチを押す事だ。此処は――【緊急回避】!
「無駄ですよ?」
しかし回避の瞬間、マフラーを引っ張られ沖田に片手で抱き抱えられる。
「マスター!? 今助けて――あ、あれ!?」
「ふふふ、ノッブとの取引のお陰で傾向と対策はばっちりです。インフェルノさんはあつ森の様な能力を与えられていますから、2マス以上の穴はジャンプできませんね?」
いつの間にか、床には2m程度の穴が開けられており、インフェルノはそこで足踏みをしている。
「これでマスターは私の物です! 沖田さん大勝利! さあ、先ずは沖田さんの家に行きますね! あ、下のカブも頂いていきますね! 丁度沖田さんのカブ価爆上がりしてますので!」
「え、幾らですか!?」
「654ベルです!」
インフェルノさーん! カブ価の確認してないで助けて!
「今度は誰も入ってこられない様に部屋を改造して貰いましたから、沖田さんの完全勝利確定です!
マスター、け、結婚……じゃなくて、先ずは結婚届! 結婚届を書きましょう! えーっと、その後にプロポーズを……私? それともマスター? あれ?」
1人でテンパるな、天才美少女剣士!
ええい、こうなったら令呪……あ、無い。
「と、兎に角私と……ま、先ずはその……手を握って、一緒に寝る……で、良いですか?」
なら【ガンド】で!
「わ、急に危ないじゃないですか!?」
……担がれたままのこの距離で避けられたら御終いだ。才能とユニヴァース技術の複合スキル、心眼(J)が強すぎる。
無情にも閉まる扉を前に、俺に打つ手はなかったのだった。
「ん? なんじゃっけこのボタン」
部屋の主の沖田に追い出された信長は、自分の生み出したシャトーの中に置かれた、明らかに危険なスイッチを見つけて首を捻った。
「明らかに危険。押してはいけない雰囲気……でも、この塔を建てたのわしじゃし……」
信長はボタンから目を離して――
――押した。なんで一瞬でも迷ってたんだよって位にあっさり押した。
「こんな怪しいボタン押さない訳ないじゃろ! さあ、なんじゃなんじゃ! もしかしてハリーでポッター的な秘密の部屋とか――」
『――自爆装置作動!
脱出せよ!』
「――ま、是非もないよね!」
その後、塔内の全員全てを巻き込む大爆発が起きて、切大が目覚めたのは想像に難しくない。
爆発オチなんて、サイテー!!
次回はハーメルン側の当選者、 是夢 さんです。
記念企画も終盤ですが、気を抜かずに取り組ませて頂きます。